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かたゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1922
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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1.  コンパートメントNo.6 《ネタバレ》 
1990年代のロシア。フィンランドからの留学生である中年女性ラウラは、世界最北端の駅ムルマンスクへの旅行を計画する。目的は、その地にある有名なペトログリフを見に行くこと。それは1万年前、この地に暮らしていた人類が岩肌に描いたという壁画だった。考古学者であるラウラはそんな人類最古と言ってもいい貴重な壁画を見ることが長年の夢だったのだ。ところが出発直前になって、一緒に行く予定だった同性の恋人からキャンセルを告げられる。それでも見に行きたい――。ラウラは一人、寝台列車に乗り込こむとそんな世界最北端の駅を目指して数日間の旅に出るのだった。だが、予約した寝台列車6号室で同室となったのは、粗野で下品な言動を繰り返し、夜になると常に強いウォッカを煽るような炭鉱労働者リョーハだった。最悪だと思いながらも長年の夢を叶えるために彼とともに出発するラウラ。当初こそ衝突を繰り返していた彼女だったが、旅を進めるうちに次第に彼の隠れた優しさに気づいてゆき……。何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのですが、この淡々とした物語展開といまいち魅力を感じない主人公2人に特に感情移入することもなく、最初はけっこう退屈でした。でも、中盤辺りから次第にこの不器用な2人の隠された魅力に気づいて、途中からはけっこう微笑ましく観ることが出来ました。普通、こーゆー一期一会の出会いを描いたロードムービーって、どちらかが魅力的な若い人だったりあるいはのっぴきならない過去を引き摺っていたりするものだけど、この2人にそんなものはありません。普通に何処にでもいるような、くたびれた冴えないおっさんとおばさん。この2人の等身大にも程があるほどの等身大の魅力が良いですね~~。倦怠期を迎えている恋人と別れが近いことを自覚しながら何度も電話する主人公や、そんな彼女を最初はバカにしながらも他の男と仲良くしているとこを見てやきもち焼いて機嫌悪くなっちゃう男とか、ホント面倒臭い(笑)。でも、そんな近所の飲み屋でよく見かけるような男女のやり取りが妙に心地良いんですよね~。終盤、今は閉鎖されているペトログリフに向かうシーンは、こいつらアホやと思いつつも普通に応援している自分がいました。んで、最後に主人公が男から受け取る似顔絵と裏側のメッセージ。前半のエピソードを見事に回収してて、こんなにバッチリ決まっているオチは久しぶりかも。ただ、前半がかなり退屈だったのと全体的に画がいまいちキレイじゃなかったのが自分としてはそこまでって感じだったかな。ま、そこまで心に残るものはないけど愛すべき小品であったと思います。
[DVD(字幕)] 6点(2024-09-11 12:32:20)
2.  ヒトラーのための虐殺会議〈TVM〉 《ネタバレ》 
ここは、ドイツの大自然に囲まれた閑静な保養地バンゼー湖畔。1942年1月20日、この地に建てられた大邸宅にその日、アイヒマンをはじめとするナチス高官や親衛隊、政府の官僚らが集まってある会議が行われた。議題は、「ユダヤ人問題の最終解決」。ナチスがヨーロッパ各地で拘束したユダヤ人はいまや莫大な数にのぼり、もはや収容所に収まる規模ではなくなっていた。ヒトラーの命により集められた15名のナチス高官たちは、将来的なユダヤ民族抹殺のための第一段階として「移送、財産没収、強制労働」と、その先にある「最終的解決」の具体的な方法を話し合う。多少の反対意見や小さな議論が起こることもあったが、特に大きな混乱もなく、会議はただ淡々と90分ほどで終わった。これにより、約600万人のユダヤ人たちのその後の運命が決定してしまうのだった――。本作は第二次大戦中、ドイツの静かな湖畔で行われた「バンゼー会議」の全貌を実際に残された議事録に基づいて映画化したものである。本当にそれ以上でもそれ以下でもない。面白くもなんともない会議の様子がただ淡々と進められてゆくだけ。喧々諤々の議論もなければ、怒号が飛び交う訳でもない。一滴の血も流れることもなければ、銃弾が発射されることもない。ユダヤ人の悲痛な叫びが聞こえてくることもないし、ましてやその死が描かれることもない。なのに、この全編に漲る圧倒的なまでの緊張感は凄かった。これから数百万のユダヤ人――もちろん女子供も含めてが無残にも殺されてゆくことを分かっていながら、彼らは古い友人と挨拶を交わし冗談を言い合い、気に喰わない相手の席順をわざと下座にずらしたり、ワインや軽食を嗜みながら、ただ淡々とその具体的な方法を議決してゆく。人間はどうしてここまで冷酷になれるのだろう。「親を殺された子供は生きていけない。だから子供を殺すことはむしろ慈悲だ」「これから冬になれば食料がなくなり彼らはいずれ餓死してしまうだろう。だから今のうちに特別処理してしまうことが人道的にも良い」などと平気で言ってのける彼らに、嫌悪感を通り越してもはや虚無感すら抱いてしまう。会議の終盤、偶然開発されたガスを転用すれば、より多くのユダヤ人を効率的に処分できることをまるで斬新なアイデアであるかのように称賛しあう彼ら。人間の愚かさを極めて冷徹に見つめた、この監督の視線の鋭さには敬服せざるを得ない。2024年現在、昨年から始まったイスラエルによるガザ侵攻は今も続いている。子供を含めた犠牲者数はもはや3万人に迫ろうとしている。ホロコーストを生き延びた彼らの子孫は、ユダヤ民族の地を守るためと称してこれから先も軍事作戦を続けていくと宣言してはばからない。イスラエル政府の高官や軍幹部も同じような会議を開き、そして淡々と議決して、この結果を導き出しているのだろう。ますます混迷の度を深めてゆく現代社会に於いて、本作は真に観るべき映画の一つと言っていい。
[DVD(字幕)] 8点(2024-02-07 09:31:52)
3.  アクトレス ~女たちの舞台~ 《ネタバレ》 
人気と実力を兼ね備えたベテラン女優マリア・エンダースは、私生活の方も任せっぱなしの女性マネージャーとともに充実した毎日を送っていた。そんなある日、彼女はとある舞台の出演依頼を受ける。それは彼女の映画デビュー作である『マローヤのヘビ』のリメイク。若く美しい少女がお堅い中年女性をその美貌で翻弄し破滅させるという役柄で自分は一躍有名となったのだ。だが、その役は当然かつての美少女ではなく、なんと破滅させられるお堅い中年女性の方だった――。時の流れの残酷さをひしひしと感じ当初は断ろうとしたマリアだったが、恩師である映画監督の急死を機に前向きに検討することに。そんな彼女を献身的に支えてくれるマネージャーから知らされた、かつて自分が演じた美少女役に抜擢されたという若手女優ジョアン。ネットで調べてみた彼女はまさに自分が演じた役にぴったりのスキャンダラスな若く美しい女の子だった。彼女の存在に心を搔き乱されたマリアは、出演依頼を承諾することを決意するのだが……。確かに題材は良かったと思うんですよ、これ。かつてその悪魔的な美貌で一人の中年女性を破滅させるという役で一世を風靡した女優が、今度は逆に破滅させられる役を演じるというのはなかなかに興味をそそられるお話。しかも演じるのはジュリエット・ビノシュとクロエ・グレース・モレッツという、これ以上ないくらいのまさに嵌まり役な2人。そこにクリステン・スチュワートが絡んで三角関係のような心理劇となるなんて、どう考えても面白くなりそうな脚本なのに、これが一向にそうならない。何故なんでしょう?それはやはり監督の演出が終始、見事なまでに的外れだからじゃないですかね。観客が観たいのはそこじゃないだろ!!と突っ込みたくなるほど、どうでもいいシーンの雨あられ。主人公の女優と女性マネージャーが山にピクニックに行くシーンなどやたら長いうえにはっきり言ってつまらない。恐らく監督は、この2人の友情以上恋愛未満なシスターフッド的関係をこそ描きたかったのだろうけど、いかんせん深みが足らないせいで観ていて退屈でしかなかったです。また、肝心のクロエちゃんが出てくるのが映画も中盤を過ぎてからって明らかに遅すぎ!ようやくクロエちゃんが出てきたと思ったら、ここまで破天荒キャラで引っ張っておきながら実物は驚くほど優等生な女の子。ユーチューブの映像で散々お騒がせセレブキャラみたいに煽っておいて、これはアカンでしょ。物語の焦点となるはずの最後の舞台劇もまるで取ってつけたようで肩透かし感が半端なかったです。この3人の嘘とプライドが複雑に交錯する心理劇をこそ掘り下げて描くべきだった。華のある人気女優たちの豪華共演に+1点!!
[DVD(字幕)] 4点(2023-11-06 02:51:42)
4.  インフル病みのペトロフ家 《ネタバレ》 
ソ連崩壊後のロシアを舞台に、インフルエンザに犯されたある一人の男の妄想とも現実ともつかない世界をシュールに描いた不条理劇。最初から最後までなんかよー分かりまへんでしたわ、これ。一つ一つのエピソードはけっこう強烈で印象に残るんですけど、全体的なストーリーが正直言って意味不明。でも、画面の隅々にまで文字通り妙な熱気が感じられて、最後まで普通に観ていられたのは事実なんですけどね。なので嵌まる人には嵌まるんじゃないでしょうか。
[DVD(字幕)] 5点(2023-09-28 23:45:56)
5.  ストーリー・オブ・マイ・ワイフ 《ネタバレ》 
1920年代、マルタ島。大型貨物船の船長を務めるヤコブは、世界の海を航海するベテラン船乗りだ。一度海に出れば長く陸には戻らず、常に危険と隣り合わせの彼は、最近何か物足りないものを感じていた。それはきっと心から守りたいと思える存在がいないからだ――。そう気づいたヤコブは、久しぶりの休暇で訪れた街のカフェで友人とある賭けに出る。「誰であろうと、次にこの店に入って来た女性と結婚する」。じっと入り口を見守っていたヤコブは、その人が入って来るのを見た瞬間、自らの運命を確信するのだった。すぐさま声を掛け、結婚を申し込むヤコブ。意外にもそのリジーと名乗る女性は、何のためらいもなく彼の提案を受け入れ、一週間後には本当に結婚してしまう。そうして始まった2人の新婚生活、もちろんお互いのそれまでの人生も人柄も分からない。それでもヤコブとリジーは情熱と欲望のおもむくまま、お互いに満ち足りた生活を謳歌するようになる。だが、そんな2人の充実した毎日に謎めいたリジーの男友達が現れたことから……。これはそんな「私の妻の物語」であり、船乗りヤコブと七つの教訓の物語。監督は前作で男と女のままならなさを、センスあふれる映像と精神と身体性の相克という独自の視点で描いたイルディコー・エニェディ。この監督の知的で考え抜かれた脚本と何処を切り取っても絵になる美しい映像、そして品のいい音楽は相変わらず健在。3時間弱という長尺ながら、最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。なによりヒロインとなるレア・セドゥの存在感と言ったら!!決してそこまで美人と言う訳ではないけれど、男を惑わす妖艶な魅力が半端じゃない。物憂い表情で常にこちらを見下すような態度を取る彼女は、この時代の雰囲気も相俟って、何処か谷崎潤一郎『痴人の愛』のナオミを髣髴とさせるファム・ファタルぶり。ちょうどいい肉付きの身体などなんとも官能的で、彼女に身も心も溺れてしまう主人公の気持ちは同じ男として痛いほど分かる(笑)。愛と嫉妬が渦巻く2人の心理劇も常に主導権が入れ替わる濃密なもので、一度でも夫婦となった人ならどれも身につまされるものばかり(と言っても僕は一度も結婚したことないんですけどね笑)。この2人以外のエピソードの見せ方も巧く、夫を惑わすいけ好かないブルジョア息子や街のしがないチンピラから裏社会で徐々にのし上がってゆく悪友の存在など誰も彼もちゃんと印象深い。中盤の豪華客船での火事のシーンなんてそんじょそこらのパニック映画よりハラハラしちゃいました。愛してぶつかりあって傷ついて、身も心もボロボロになりながらもそれでもまた愛して――。そうして迎える2人の結末。ラストシーンはなんとも切なく、自分はしばらくその心地良い余韻に浸っておりました。8点!
[DVD(字幕)] 8点(2023-05-13 08:09:41)
6.  アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド 《ネタバレ》 
古代の象形文字を専門とする言語学者、アルマ・フェルザー。ベルリンの博物館で寝る間も惜しんで働いていた彼女はある日、上司からとある提案を受ける。それは研究資金を調達するため、ある民間企業が実施する極秘プロジェクトにモニターとして参加してほしいというものだった。気乗りはしないものの資金調達のため、その企業が主催するディナーパーティーに参加したアルマ。すると彼女の前に、非の打ちどころのない完璧な容姿を持つ男性トムが現れる。初対面にも関わらず、トムはアルマに酒を勧めると、甘い言葉を囁きながら積極的に口説き始めるのだった。彼の正体は、最新の高性能AIを搭載した恋愛型アンドロイド。そう、トムは全ての女性の理想の男性像を基に造られた、〝完璧な彼氏〟だったのだ――。3週間という約束で、トムとともに共同生活を始めたアルマ。最初は余りにも人間離れした言動を繰り返す彼に戸惑いを隠せない彼女だったが、仕事で重大なミスが発覚ししかも離婚した元夫の再婚という事実も重なって大きなストレスを抱え込んだアルマは、次第にトムに心を許してゆく……。昔からホントよくあるお話で、演出だって極めてオーソドックスなのに、何だろう、普通に面白かったです、これ。とにかく品が良くておしゃれ!ヒマさえあれば女性に甘い言葉を囁いて口説き始めるアンドロイドという、人によっちゃ見るに耐えなくなりそうなこのキャラクターが実にいい味出してる。バラの浮かんだ泡だらけのお風呂にワインをくゆらせながら浸かるオールバックのハンサムさん……、普通にしたら寒さマックスになりそうなこのシーンがちゃんと成立しているんだから凄い(笑)。最初は反発していた主人公が次第に彼に心惹かれてゆく描写も丁寧でちゃんと説得力が感じられるのも大変グッド。悪酔いして自暴自棄になった主人公がトムに「もう何でもいいから私を抱いてよ!」と詰め寄ったのに、彼が「ムードもタイミングも今じゃない、おやすみ」と部屋を出てゆくシーン。「もっと自分を大事にしなよ」ってことですか。さすが高性能AI、女心をよくわかってらっしゃる(笑)。ここらへん、女性監督ならではの視点が冴えてますね。最後、モニター期間を終えて施設へと帰ってゆくトムをアルマが窓から見送るシーンなんてなんとも切なく、もはや彼がアンドロイドであることも忘れて「アルマ、今すぐ家を出て彼を追っかけろよ!」と心の中で叫んじゃったし。愛に傷ついた中年女性の心の機微を繊細に描いたラブストーリー。自分もこーゆー「完璧な彼女」が欲しいと思っちゃいました。誰か作ってーー。
[DVD(字幕)] 7点(2023-04-05 08:31:28)(良:1票)
7.  西部戦線異状なし(2022) 《ネタバレ》 
凄惨を極めた第一次大戦下のヨーロッパを舞台に、愛国心から志願した若き一兵士の目を通して戦争の真実を見つめた反戦ドラマ。過去に何度も映画化されたドイツの作家レマルクの古典的反戦小説『西部戦線異状なし』を再び映像化したという本作、今年のアカデミー作品賞はじめ数々の部門でノミネートを果たしたということで今回鑑賞。いやはや、予想していたこととは言え、凄まじい内容でした。汚泥と硝煙に塗れた塹壕戦はこちらにまで血の臭いが漂ってきそうなほどリアルで、観ているだけで胃のあたりが重くなります。さっきまで和気藹々と話していた同僚の兵士が上官の命令とともに出撃し、呆気なく命を落とすシーンは戦争の不条理を否が応でも分からせてくれますね。そんなこと気にもしない国の上層部は、きれいな広い部屋で豪華な食事にありついている……。戦争の実態をこれ以上ないくらい皮肉たっぷりに描いている。そして最後。あと15分で停戦が成立するというのに、将軍の意地とプライドのために再び出撃させられる一兵士たち。まさに無駄死にとしか言いようのない絶望感漂うラストは、戦争の虚しさをこれでもかというほど訴えかけてきます。自分や自分の大事な人がもしこの場に居たらと思うと堪えられない……。今も同じようなことがウクライナで起こっているのだろう。ますます混迷の度を深めてゆく現代社会に於いて、真に観るべき映画の一つと言っていい。
[インターネット(字幕)] 8点(2023-02-13 07:05:32)
8.  アイダよ、何処へ? 《ネタバレ》 
1995年、冷戦終結により勃発した民族紛争が泥沼化していたボスニア・ヘルツェゴビナ。ムスリム勢力の町スレブレニツァはセルビア側の激しい攻撃の末、とうとう陥落してしまう。2万5千人におよぶ町の住民たちはたちまち難民化、安全を求めて国連平和維持軍が駐留していた基地へと一斉に雪崩れ込んでくる。当初は住民たちを受け入れていた国連側も余りの数の多さに途中で受け入れを拒否。結果、基地の周りには行き場を失くした町の住民たちが大勢なす術もなく立ち尽くすことに――。国連の通訳として働く元高校教師アイダは、そんな難民の中に自分の家族も含まれていることを知るのだった。夫と2人の息子だけでも基地に入れてほしいと上官に懇願するアイダ。だが、更なる混乱を恐れた上官は彼女の要望を拒否する。到底納得できないアイダは、何とかして家族を安全な基地内に引き入れようと画策するのだが、さまざまな手続きの壁に阻まれどうにもうまくいかない。そんな折、セルビア側の司令官ムラディッチ将軍から住民を安全な場所に移動させるので速やかに引き渡せとの要請が国連側に届く。何か信用できないものを感じたアイダは、家族とともに逃げようとするのだが……。デビュー以来、一貫してボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争を題材とした映画を撮り続けるヤスミラ・ジュバニッチ監督の最新作は、そんな過酷な運命に翻弄される一人の女性を通して戦争の不条理を冷徹に見つめたヒューマン・ドラマでした。この監督の作品は今回初めて観ましたが、全体を覆うひりひりするような緊張感がとにかく真に迫っておりました。この時代、この地で実際に撮られたドキュメンタリー映画なんじゃないかと思えるくらい。そんな中、ただ家族を救いたいがために奔走する主人公。国連にたまたま通訳として現地採用されたというだけで、軍人でも実力者でもない単なる一市民のエイダに出来ることなんてたかが知れている。それでも愛する子供たちをなんとしても救おうと駆けずり回る彼女には胸が締め付けられる思いでした。でも、そんな過酷な現実は彼女だけのものではなく、ここに押し寄せた2万5千人の全ての人々にそれぞれの事情がある。そう思うとやはりやり切れない思いにさせられます。みんな普通に生活していただけなのに。そして最後に辿り着く悲惨な現実――。戦争の愚かさをこれ以上ないくらい痛感させられてしまいます。過去を乗り越え、気丈に振る舞っていたエイダがそれでも最後に辿り着いた場で泣き崩れてしまった姿に自分も思わず涙してしまいました。最後に表示される、「スレブレニツァの女性たちと殺害された8372名の息子・父・夫・兄弟・いとこ・隣人に捧ぐ」というテロップが重い。ただただ最後、彼女が育てた教え子たちがいつまでも平和に過ごせることを祈るばかり。人間の愚かさと悲哀を鋭く捉えたなかなかの秀作と言っていい。
[DVD(字幕)] 8点(2023-02-10 08:33:06)
9.  消えない罪 《ネタバレ》 
彼女の名は、ルース・スレイター。過去、保安官を射殺した罪で捕まり、20年も服役して今日出所してきたばかりの哀しい女性だ。当然仕事もなければ貯金もゼロ、両親はすでに亡くなり友人ももはや音信不通、頼るあてもない。そんなルースの唯一の心の拠り所は、彼女が捕まったときに離れ離れとなってしまった幼い妹の存在だった。当時5歳だった妹との生活は、これまで辛いことばかりだったルースの人生の中で一番光り輝いていた瞬間だった。だが、これまで獄中から何度も手紙を書いたが返信は一切なし、面会すら叶わず、知っていることは風の便りに何処かの裕福な家庭に養子に貰われたという情報だけ。生きていれば今頃25歳になっているはず。小さな水産加工会社に採用され働き始めた彼女は、独力で妹の行方を捜し始める。でも、警官殺しの過去は簡単には彼女を許してくれない。世間からの厳しい目に晒され、次第に孤立してゆくルース。さらには事件の遺族から嫌がらせの電話まで受けるように。どんどんと追い詰められてゆくルースだったが、相談を聞いた優しい弁護士から妹の居場所を突き止めたとの知らせが届き……。許されざる罪を犯してしまった孤独な女性の更生の日々を淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。世間から孤立し、次第に行き場を失くしてゆくそんな元犯罪者を演じるのは実力派女優サンドラ・ブロック。観ればみるほど気が滅入るような陰鬱なお話なのですが、監督の丁寧な演出のおかげで最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。刑務所から出所してきたばかりの彼女の日常をひたすら追うのではなく、彼女と偶然知り合うことになった弁護士一家、彼女と生き別れ今は義理の家族と幸せに暮らしている妹、そして彼女に父親を殺された被害者遺族、それぞれのドラマに焦点をあてる演出は相当巧み。互いに信じる価値観や信念があり、それが相容れないためにどんどんとぶつかり合ってゆく様は、誰もの気持ちが分かるぶん切なさが半端ないです。ただ唯一の肉親に会いたい主人公、今やかけがえのない家族の一員である娘を守りたい義理の親たち、主人公に父親を殺され人生をめちゃくちゃにされた兄弟……。「きっとこれは誰も幸せにならない暗い結末を迎えるんだろうな」と正直、げんなりしながら観ていたのだけど、でも、最後のシーンで自分は救われたような気持ちになりました。確かに現状は何も変わっちゃいない、何なら事態はますます複雑で不幸になるかもしれない。それでも主人公は最後、生きる希望を取り戻した。不幸で理不尽な現実に微かな希望の光を当てる、慈しみに満ちた秀作。
[インターネット(字幕)] 8点(2023-01-30 08:05:12)
10.  ガンパウダー・ミルクシェイク 《ネタバレ》 
彼女の名は、サム。幼い頃から弱肉強食の裏社会で生きてきた凄腕の殺し屋だ。強大な力を有する犯罪組織「ファーム(会社)」に所属し、日々くだされる過酷な任務を神経をすり減らしながらこなしている。同じく暗殺者だった母親は15年前にへまを犯して組織を逃げ出し、以来行方不明のままだ。そんなある日、サムに極秘の任務がくだる。それはファームの金を盗んで逃亡した会計士を殺し、盗まれた金を全額回収してくるというものだった――。すぐさまターゲットが泊まるホテルへと向かうサム。だが、その会計士は9歳になる娘を人質に取られ、脅されて仕方なく金を盗んだだけだった。早く金を持っていかなければ娘の命すら危うい。それでもファームは、子供なんて知ったことか、今すぐ金を持ってくるんだの一点張り。「そんな!子供を見殺しになんて出来ない!」。自身の悲しい過去から、サムは子供を救い組織を裏切ることを決意する。9歳の少女とともにそんな彼女が逃げ込んだのは、表向きは図書館でありながら裏では殺し屋たちに武器を密売する危険な女たちの砦だった……。男たちが仕切る強大な犯罪組織を相手に孤軍奮闘する女殺し屋たちの活躍をノンストップで描いたバイオレンス・アクション。リアリティなどはなから度外視、荒唐無稽な漫画みたいなお話なのですが、全編に漂う独特の雰囲気、徹底的に無駄を削ぎ落した分かりやすい脚本、キレッキレのアクションの連続に僕は最後までテンション上がりっぱなしでした!とにかく主人公サムをはじめとする女たちがカッコ良すぎ!全員キャラ立ちしまくった図書館の3人の女殺し屋はもちろんのこと、サムとバディを組む9歳の女の子エミリーがかわいすぎました。腕が麻痺してしまったサムのために彼女がハンドルを操作するカーチェイス・シーンは、監督のセンスが炸裂しまくりで思わず拍手。実は生きていた母親と図書館の女たちが組織の男どもを相手に武器を振り回すシーンで、ジャニス・ジョプリンを流すなんて反則過ぎますわ~。全編にセンスの良いユーモアを散りばめてるのも大変グッド。クライマックス、サムが図書館の色んな本に隠された武器を捜しながら戦うシーンは、バカバカしすぎてサイコーでした(この図書館どーなっとんねん!笑)。何気に、女たちの自立と連携を意味するシスターフッド的視点をテーマとしているのも現代的で良いですね。うん、面白かった!8点!
[DVD(字幕)] 8点(2022-09-02 07:30:46)
11.  約束の宇宙(そら) 《ネタバレ》 
完璧な宇宙飛行士なんて存在しない、完璧な母親が存在しないように――。子供の頃からの夢を叶え憧れの宇宙飛行士となった、シングルマザーのサラ。物理学者の夫とは離婚してしまったものの関係は良好、7歳になったばかりの娘ステラと満たされた日々を過ごしている。そんなある日、彼女は「プロキシマ」という火星着陸を目指す一大ミッションのクルーへと選抜されるのだった。宇宙飛行士としての最高の栄誉に喜びを隠せないサラ。だが、そのためにはステラと長い間離れて暮らさなければならない。当然、前人未到のそんな挑戦が確実に成功する保証もなく、下手をすればもう二度と娘に会うことが出来なくなるかもしれない。そんな様々な葛藤を抱えながらも過酷な訓練に励むサラだったが……。幼い娘を持つ女性宇宙飛行士が憧れの宇宙を目指して努力を重ねる日々を淡々と描いたヒューマン・ドラマ。そんな男ばかりが幅を利かす職場で、あくまで一人の人間として日々訓練に励む主人公には、ベテラン女優エヴァ・グリーン。最後まで静かに淡々と進むお話なのですが、彼女のナチュラルな演技が素晴らしくなかなか惹き込まれて観ることが出来ました。自らの娘への愛情と宇宙に行く夢という相反する感情に思い悩みながら、それでも黙々と訓練に励む彼女には思わずエールを送りたくなりますね。男社会の無言の圧力に押しつぶされそうになる女性たちというフェミニズムな視点もさりげなくて良い。エンドロールで表示される歴代女性宇宙飛行士たちの写真は、社会的な制約を前にそれでも夢を諦めなかった女性たちへの賛辞が感じられ、心地良い余韻を残してくれます。ただ、最後の展開は賛否が分かれるところ。宇宙へ向かうためにずっと無菌室で過ごしていた彼女が、娘とロケットを見る約束を果たすため施設を抜け出すというのはプロとして失格なのでは?ここまでずっとストイックに頑張って来た彼女の芯がぶれてしまったような感じがして僕はちょっと冷めてしまいました。ここは最後までプロに徹してほしかったし、そんな行動に出てしまった彼女に何らかのペナルティがあっても良かったのでは。と、最後がちょっと残念でしたが、それでも静謐な雰囲気が美しい佳品に仕上がっていたと思います。
[DVD(字幕)] 6点(2022-07-01 07:22:09)
12.  密航者 《ネタバレ》 
ここは、火星へと向かうために宇宙を航行する最新鋭の宇宙船。目的は、地球から持ってきた植物の種子を繁殖させ、不毛の地である火星を人が住めるような環境へと変えること。経験豊富な女性船長をはじめとする3人の乗組員は、2年後の火星到着を目指し順調に航行を進めていた。そんな矢先、彼らは予想だにしない事態に直面する。なんと空気濾過設備内に見知らぬ男が忍び込んで意識を失っていたのだ。しかも男のせいで設備に致命的な損傷が起こり、船内の酸素が火星到着まで持たないことが判明するのだった――。船内に積んでいた藻を繁殖させることでなんとか当面の酸素は確保したものの、計算してみると2年後の火星到着まではぎりぎり3人分しかない。意識を取り戻した当の〝密航者〟は、なぜ自分がこの宇宙船内に紛れ込んでいたのか記憶がないという。疑心暗鬼から次第に不穏な空気が漂い始める船内。ミッション遂行のため、仕方なく彼を「排除」しようと目論む船長だったが…。火星へと向かっていた宇宙船内で発見された密航者を巡り、そんな極限の選択を迫られる乗組員たちの葛藤を描いたSFドラマ。若手女優アナ・ケンドリックと実力派女優トニ・コレット共演ということで今回鑑賞してみました。率直に言って、さっぱり面白くなかったです、これ。SFなのにとにかく単調!!この黒人の密航者をどうするのかというただそれだけのお話が最後までダラダラ続き、僕はずっと眠気と戦いながらの鑑賞となってしまいました。とにかく無駄なシーンやエピソードがてんこ盛り。普通に削っていけば一時間程度で終わるんじゃないかという薄っぺらいお話を無理やり2時間近くまで引き延ばしたような印象です。致命的なのは、この密航者がどうして宇宙船に忍び込んでいたのか最後まで一切明かさなかったところ。そこが物語として重要な鍵とちゃいますのん!密航者「どうしてこんなとこで寝てたのかさっぱり分からない」、乗務員「あ、そうですか。それは仕方ないですね」ってそんなアホな(笑)。また、宇宙空間を舞台にしているのにほとんど無重力の描写がないのも、恐らく予算の都合なんでしょうけど何とも不自然でした。最後のオチも後味が悪いだけで深みも何もあったもんじゃありません。久しぶりにこんなつまんない映画と出会ってしまいました。映像はちょこっとキレイだったので、ギリ4点!!
[インターネット(字幕)] 4点(2021-11-15 06:40:52)
13.  ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を 《ネタバレ》 
定年を迎えた初老の鉄道員がある日、電車の車体に引っ掛かっていたあるものを拾う。それはなんと、青いブラジャー。持ち主である素敵な女性はきっと今頃、困っているに違いない。なんとか返してやろうと思い立った彼は、小さな町の中で持ち主探しを開始する。欲求不満気味のマダムや茶目っ気たっぷりの素敵なお嬢さん、色んな人たちに聞いて回ってみるものの、いつまで経ってもその女性は見つからない。果たして彼はその青いブラジャーをちゃんと持ち主に返してあげることは出来るのか?小さな町の中で繰り広げられる、平凡なおじさんのそんなささやか冒険を全編セリフなしで描いたほのぼの系コメディ。まあやりたいことは分かるんですけど、僕はイマイチ嵌まらなかったですね、これ。90分あるこの映画で全編セリフなしにしちゃったのはやはり失敗だったんじゃないでしょうか。アニメとかなら観ていられるんでしょうけど、実写でましておっさんが主人公でこの手法はちょっとキツい。最初はこの『アメリ』っぽい独特の世界観に浸っていたんですけど、僕は途中から飽きてきて何度か寝落ちしそうになりましたわ。それに、こういうちょっぴりお下品な内容のコメディって、主人公が如何に気持ち悪くなるぎりぎり手前のラインで踏みとどまれるかがポイントとなると思うんですけど、本作の主人公はそのラインをぎりぎり越えちゃってるような。だって拾ったブラジャー片手に女性宅をひたすら廻るおじさんってやぱ気持ち悪いって(笑)。全体に漂うほのぼのした雰囲気とキレイな映像に+1点!
[DVD(字幕)] 5点(2021-07-05 22:36:31)
14.  屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ 《ネタバレ》 
1970年代、ドイツに実在した猟奇殺人鬼フリッツ・ホンカ。分かっているだけで4人の娼婦を毒牙にかけ、その死体をバラバラにして屋根裏に隠していたという彼の驚きの私生活を映画化したもの。監督は、前作『女は二度決断する』でその演出力の高さを見せつけたファティ・アキン。という訳でけっこう期待して今回鑑賞してみました。なんですけど、前作の緻密に考え抜かれた構成力は何処へやら。正直、さっぱり面白くありませんでした、これ。ストーリーなんてあってなきが如し、ただひたすら小汚いおっさんが酒飲んで暴れてエッチして殺してバラバラにして……の繰り返し。そもそもこの主人公のあまりにも残念なルックスと粗暴すぎる性格が生理的に受け付けませんでした。犠牲者となる娼婦の方もほとんど五十を超えた小汚いおばさんばかりで、しかも全員何日も風呂に入ってなさそうなぐらいばっちい人だらけ。着ている服も何か月も洗濯してなさそうで、こちらにまで臭いが漂ってきそうなほどだし。もう全員まとめて洗濯機に放り込んでじっくり漂白したいぐらいでしたわ(笑)。これだけでも画的にきついのに、さらには主人公のおっさんのオ〇ニーシーンやらおばさんのフェラーリ、さらにはジジイにおしっこ掛けられたりするシーンまで出てきて、もううんざりしちゃいました。え、これって観客を不快にさせるために撮られた映画なの??恐らく社会の最底辺に生きる人々の悲哀をシニカルに描きたかったんでしょうけど、さすがにこれでは嫌悪感の方が先に立っちゃって僕は見てられませんでした。監督の前作が素晴らしかっただけに、なんとも残念!
[DVD(字幕)] 3点(2021-04-10 22:42:08)
15.  リリーのすべて 《ネタバレ》 
世界で初めて性転換手術を受け、男性から女性となったリリー・エルベの生涯を描いたヒューマン・ドラマ。そんな世界初の〝女性〟を演じるのは実力派として着実に実績を残してきたエディ・レッドメイン、彼を献身的に支える妻役には人気女優アリシア・ヴィキャンデル。監督は、昔から僕とはどうにも相性の良くないトム・フーパー。確かに役者陣の繊細な演技や抑制の効いた丁寧な演出、そして20世紀初頭のヨーロッパを忠実に再現した画の美しさ等々、全体的な印象としてはなかなか好感が持てるもののやはり自分とは今回も合わなかったですね。うーん、なんだろう。この人の映画って基本善人しか出てこないんですよね。まだまだ性的マイノリティに根強い偏見が残るこの時代にここまでカミングアウトしたら、きっと物凄く苛烈な差別と偏見の嵐に遭うと思うんですけど、そんなものはほとんど描かれない。せいぜい通りすがりのナンパ男に絡まれボコられるくらい。〝彼女〟のかつての初恋の相手である画商も女だと思って口説いてきた友達も実質的に裏切られた形の妻もみんな彼の告白を聞いてすぐ親身になって応援してくれるって、正直、ホンマかいなって思うんですけど!よく言えば、あくまで人生の肯定的な面に目を向けてるんでしょうけど、それって結局キレイごとなんじゃないかってひねくれ者の自分なんかは思っちゃいますわ。終始品の良い雰囲気やキレイに纏まられた脚本など映画としての出来の良さは素直に認めますけど、自分の好みとはやはり真逆の監督なんだと再認識した次第です、はい。
[DVD(字幕)] 6点(2021-03-27 00:35:17)
16.  世界の涯ての鼓動 《ネタバレ》 
続発する爆弾テロを阻止するため、中東のテロリストの巣窟へと潜入する英国諜報部員の男。生命の起源を追って深海への命がけの調査に身を投じる海洋生物学者の女。ひと時のバカンスで訪れたリゾート地で偶然出会った彼らは、のしかかってくる重圧から逃れるかのように惹かれ合い、そのまま一線を越えてしまうのだった。お互い行きずりの愛だと割り切っていたはずだった。だが、数日間共に濃密な時間を過ごした彼らは、やがて運命的なものを感じ始める――。のちの再会を誓い合い、その地を後にする二人。だが運命は何処までも二人に残酷だった。男はテロリストたちに捕まり長い監禁生活を余儀なくされ、何も知らない女はそんな彼からの連絡を待ちながらも暗い海の底へと身を投じてゆく。果たして、二人は世界の涯てで無事に巡り会うことが出来るのか?ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督の最新作は、そんな過酷な運命に翻弄される男女の愛を切実に綴ったラブストーリーでした。雄大な大自然を背景に描かれる、この詩的で深甚なる世界観はなかなか見応えありました。いつまで経っても変わらない人間の愚かさと、神秘的な生物の起源をシンクロさせるところもセンスの良さを感じさせます。そんな世界の涯てに追い詰められた男女の愛を濃密に描いたラブシーンも官能的で大変良かったです。特に、アリシア・ヴィキャンデルちゃんの美しさは特筆に値しますね。ただ、良くも悪くも最後まで淡々と進むため、途中で幾分か退屈に感じたのも確か。もう少しドラマティックな展開があっても良かったような気がしなくもないけど、それは好みの問題なんだろうね。僕は少し物足りなく感じてしまいました。
[DVD(字幕)] 6点(2021-02-10 04:00:12)
17.  ハイ・ライフ 《ネタバレ》 
新たなるフロンティアを求めて、太陽系から遠く離れた外宇宙へと片道飛行を続ける元死刑囚たちを描いたハードSFドラマ。正直、クソつまんなかったんですけど、これ。まず、冒頭のチープな宇宙描写に思わず苦笑い。だって宇宙船の船外で作業をする乗組員が、がっつり宇宙服を着てるのに無重力感がゼロなんですもん。んで、船内に戻ってきた彼が宇宙服を脱ぐと申し訳程度に手袋が宙に浮くんですけど、それも明らかにテグスで引っ張ってる感ありまくり。え、これはエド・ウッドが制作した知られざる作品とかですか(笑)。んで内容の方も変に芸術を気取った独り善がりな代物で、ちっとも面白くもなければ深みもない。無駄にエログロ描写が多いのにも辟易です。あの謎のオ〇ニーマシンに跨るおばさん描写は、演じるジュリエット・ビノシュ含め誰得なの?最後はよー分からんまま、主人公親子がブラック・ホールに突っ込んで終わり……。あまりのテキトーぶりに僕は思わず怒り狂いそうになっちゃいました。そばかす美少女ミア・ゴスちゃんのおっぱいに+1点!
[DVD(字幕)] 2点(2020-10-19 08:01:01)
18.  モーガン夫人の秘密 《ネタバレ》 
1945年、まだ戦争の傷跡が色濃く残るドイツ、ハンブルク。戦後処理のためにこの地へとやって来たイギリス人将校モーガン大佐の妻レイチェルは、現地で接収した民間人の館で暮らすことに。館の持ち主は、戦前ナチスに協力した疑いが持たれている建築家のルパート。かつてナチスの空爆により、幼い息子を亡くしてしまった過去を持つレイチェルは、当然、ルパートを追い出すよう夫に頼むのだった。だが、彼もまた妻を連合軍の空爆で亡くし、しかも幼い娘も抱えているということで、モーガン大佐は彼らと一緒に住むことを決断する。広い屋敷の中でお互いの居住区を決め、極力互いに干渉しあわない生活を心掛けるレイチェルとルパート。子供を亡くした女と妻を亡くした男――。最初は反発しあっていた二人だったが、互いに大切な人を亡くしたことを知った時、彼らはいつしか惹かれ合い、そして越えてはならない一線を越えてしまう……。終戦直後の混乱したドイツを舞台に、許されざる恋に身を焦がす男女を描いた大人のラブ・ストーリー。そんな二人の男性の間で揺れ動く人妻を演じるのは、人気女優キーラ・ナイトレイ。まあ一言で言ってしまうと、いわゆる不倫映画なのですが、正直イマイチな出来でしたね、これ。こういう不倫映画にとってもっとも重要な要素って、「ここでもし私が一線を越えてしまうと後々大変なことになる。でも私、自分の気持ちに正直でいたい……」という、多くの男女が思わず感情移入してしまうであろう背徳感にあると僕は思うのです。対して本作、肝心のこの人妻と男やもめのドイツ人が一線を越えてしまう描写が圧倒的に弱い!だってこれじゃ、夫に寸止めされたこの妻が火照った身体の疼きをどうにも我慢できなくなって思わずしちゃいましたくらいしか理由になってませんもの。せっかくお互い大切な人を亡くした男女というお膳立てが揃っていて、しかも映画の半分近くを費やしていながらのこの体たらく。この監督って実は恋愛経験に乏しい人なんじゃないかしら?そして最後はご都合主義全開、結局誰も傷つかないような甘っちょろいラストに僕は思わず苦笑しちゃいましたわ。うーん、なんとも残念な不倫映画でございました。
[DVD(字幕)] 4点(2020-10-19 07:23:29)
19.  ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ) 《ネタバレ》 
少女に捨てられた無力な雑種犬が、街のストリートで様々な経験を積むうちに次第に仲間を増やしてゆき、最終的には巨大な犬軍団を率いて少女の元へと帰ってゆくというお話。ともすればファンタジーに流れそうな内容を徹底的にリアリズムな視点で描くというのは、まあ新しいと言えば新しいですけど、ちょっとお話としては薄っぺらすぎますね、これ。主人公が犬なのか少女なのかが明確でないため、いったい誰に感情移入していいのか最後まで分からず、なんとも居心地が悪い。ただ淡々と出来事が羅列されてゆくだけなので最後までいまいち盛り上がらないまま終わっちゃいました。もうちょっと脚本を練って欲しかったです。本作の最大の見所は、CGを一切使わずホンモノの犬を使って全編撮影しているところ。それも中盤までは「おー、すげぇ!これは撮るのに手間ひまかかってますなぁ」と思わせるものの、さすがに後半は無理があります。てか、凶悪な犬軍団が襲来し街が大混乱に陥ってしまうという割には、その犬軍団がけっこうショボい。せいぜい100匹ぐらいにしか僕は見えなかったんですけど!まあCGを使わない撮影ではこれくらいの数の犬が限界なのだろうけど、さすがにこの程度の犬っころ軍団に機動隊が太刀打ちできず、ひたすら人が殺されまくるというのは説得力がなさ過ぎますわ~~。身も蓋もないことを言っちゃいますけど、これなら普通にCG使った方が良かったんちゃいますのん(笑)。とにかく新しいことに挑戦しようというそのチャレンジ精神と、主役の女の子が僕のロリ心をビシバシ突いてくるなかなかの美少女だったので、+1点!
[DVD(字幕)] 5点(2020-09-20 22:32:49)
20.  ちいさな独裁者 《ネタバレ》 
1945年4月、敗色濃厚なドイツのとある地方都市。部隊から脱走してきた一兵士ヘロルトは、打ち捨てられた軍用車からとあるもの発見する。それは、「ナチス将校の軍服」――。周りに誰も居ないことを確認し、密かに袖を通すヘロルト。僅かに丈が合わないものの、身なりを小綺麗に整えると、もはや何処からどう見てもナチスの将校にしか見えなかった。持ち前の口の巧さから、彼は行く先々で〝部下〟を見つけては自らの支配下に置いてゆくのだった。偶然も重なり、正体がバレるぎりぎりのところで踏みとどまったヘロルトはやがて、ナチスの脱走兵収容所へと辿り着く。そこで更なる部下を得た彼は、権力の味に酔いしれ、次第に狂気の独裁者へと変貌してゆく……。大戦末期のドイツを舞台に、そんな軍服と口先だけを頼りにのし上がっていった脱走兵を描いたヒューマン・ドラマ。ナチスの部隊から逃げ出した主人公が、ナチスのお偉いさんを口八丁手八丁で丸め込み、どんどんと偉くなってゆくという、いわば戦争版わらしべ長者みたいな寓話的なお話なのですが、これが実話だというのですから驚きです。何処まで脚色されているのか分かりませんが、これがなかなかよく出来ている。最初こそ、この主人公に感情移入して観続けていたら、徐々におかしなことになりはじめ、やがて自らが助かるために90人もの捕虜を無残にも処刑するという残虐行為に手を染めるところに至ってはもはやドン引きです。でも、そこまでの過程にものすごく説得力があるんです。人間、権力の味をしめるとここまで変貌してしまうのか。対するナチスの高官たちも官僚的な権力闘争に明け暮れ、もはや何が正しいのかすら分からなくなってる始末。カリスマ的な独裁者と非人間的な官僚機構、多くのユダヤ人を死に追いやったであろうそのシステムの最もシンプルなものがここにはある。監督のシニカルな目が光る、この恐るべきブラック・ユーモアには思わず戦慄させらてしまいます。惜しいのは、後半の主人公たちの乱痴気騒ぎが幾分かくどいこと。ここらへんをもう少し削れば、より完成度の高い作品に仕上がっていたんじゃないでしょうか。とはいえ、なかなか見応えのある戦争ドラマの秀作であったと思います。エンドロールで流れる、主人公たちが現代の欧州で大暴れする映像なんて、現代にまで連なる愚かな現実を象徴している。ますます混迷を深めるこの現代において、真に観るべき映画の一つと言っていい。
[DVD(字幕)] 7点(2020-09-14 03:11:46)(良:1票)
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