621. ココダケノハナシ ~短篇.jpルーキーズ第3弾~
オムニバス映画だが、元々はWEBで配信された作品らしい。 軽い作りはいかにもWEB配信作品という感じだが、かえってそれが短編オムニバスのテンポの良さに一躍かっている。 全部で6話あり、一本あたり10分程度の尺。 その中で一番気に入ったのが、第5話の『キッスがしたい』だ。 話自体もピュアで良いが、キスをする二人に熱く意見をはさむ女性の演技が素晴らしかった。 実に熱のこもった演技で、それなりの作品でこの演技を見せていたら、助演女優賞とか獲れるんじゃないか、と思わせる素晴らしい演技だった。 [DVD(邦画)] 6点(2011-09-18 23:09:28) |
622. ハッシュ!
《ネタバレ》 同性愛ものという時点で既に自分にとってNGだし、高橋和也の演技も気色悪いのだが、それでもなお且つ楽しめたのだから不思議だ。 なんというか、世の中のはみ出し者同士が、傷を舐め合うような内容で、どちらかというと弱者を描いている。 そこに傲慢さは感じられず、何だか謙虚で繊細な映画だなぁ、と感じ入った。 人間的な優しさを感じさせる映画である。 [DVD(邦画)] 7点(2011-09-11 01:53:17) |
623. 告白(2010)
《ネタバレ》 冒頭でいきなり、殺された幼児の母親である松たか子が、殺人事件の顛末を「告白」し、それから関連人物が次々に事件にまつわる枝葉を「告白」していくという、異色の構成。 何人もの「告白」がなされ、次第に明かされていく殺人事件の真相。 映像的に暗めのトーンで展開される、このシリアスな物語は、終盤に向かって息つく暇もなく展開していく。 この展開の仕方が見事で、全く飽きさせない。 物語の構成と暗い色合いの映像とがマッチして、独特の雰囲気を醸し出しているのも良い。 ただどうだろう、とびぬけて傑作かと聞かれたら、そうでもないと答えてしまうだろう。 生悪説を前提に、中学生という「少年」が残虐な行為をするという決めつけが少し極端な気がする。 確かに、人の心の痛みを十分には知らない少年が、相手の痛みを理解できず、残虐な行為をするパターンというのはよくある話だけれど、松たか子が担任していたクラスの少年たちは、全員が皆同じように残虐であり、同じような行動パターンをとる。 それが何だか、作り物的な風合いを感じてしまう。 そして無能な他の教師たちの描き方も極端。 熱血教師に恨みでもあるのかと思ってしまう。 総じて面白く、同年に製作された「悪人」と賞を競り合っただけのことはあった。 だが、「悪人」にしてもそうだが、胸がすくような、心が打ちのめされるような突き抜けた何かが感じられないのだ。 中島哲也監督は、現在において、間違いなくトップクラスの監督だと思うが、期待が大きいだけに、この程度の作品でまとまって欲しくない。 もっともの凄い作品を、今後に期待したい。 [DVD(邦画)] 7点(2011-09-05 19:14:04) |
624. 悪人
《ネタバレ》 ストーリーで見せるというより、随所に込められたメッセージ性が強く感じられる作品。 人間は大切な人がいる場合、その人のことを妄信的に愛する。 相手が世間的にみて悪人であったとしても、愛する人にとっては関係ない。 親子間でも言えることで、娘を愛する父親にとっては、娘がどんなアバズレだとしても、可愛くて仕方ないし、大事で仕方ない。 誰が良い人で、誰が悪人か。 それを繰り返し根気強く、この映画は観る者にメッセージとして問いかけてくる。 悪人であるか否かの基準として、社会的規範に反する、例えば本作の様な殺人を犯した人間が悪人だとする見方がある。 その一方で、その社会的に悪人と見做された人間には、その家族がいて、その人間を愛する人がいる。 社会的に悪人であったとしても、その人たちにとっては大切な人であり、ただの弱い一人の人間である。 こうした社会性と個々人との相反する感じ方の相違について、実に考えさせられる映画であって、それぞれの人物に共感でき、つまり誰が正しいのか分からない混沌とした気持ちにさせられる。 もし自分の愛娘を殺されたりもしたら、その娘がたとえどんな人格だとしても、私は殺した人間を絶対許さないし、場合によっては犯人を捜し出し、殺してしまうかもしれない。 もしそうやって犯人を殺してしまったら、私も犯人同様に悪人と見做される。 だけど、本当に悪人なのだろうか? 社会的な規律を維持する上で、殺人を犯したら悪人とされるのであって、深い人間関係や感情の問題を考慮した時、誰が悪人で誰が普通の人なのか、その基準は極めて曖昧だ。 簡単なハッピーエンドにはせず、バッドテイストな形で終わらせたからには、一部の人には共感を得られないかもしれないが、私にとっては大いに気持ちを揺さぶられ、メッセージ性の極めて強い秀逸な映画であった。 [DVD(邦画)] 7点(2011-09-03 13:26:35)(良:1票) |
625. カミュなんて知らない
《ネタバレ》 ロバート・アルトマン作品をなぞった様な構成で、オープニングはロングショットでロングカット、そして群像劇という内容。 そして、ルキノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す』をパクり、いや、オマージュを捧げた部分もある。 他にも、セリフ上でジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、フリッツ・ラング、ジャン=ピエール・メルヴィル、溝口健二なども出てきたりで、映画好きにはたまらない引用の数々がある。 それはそれで楽しいのだが、内容が薄っぺらいというイメージがどうも拭い去れない。 群像劇の欠点とも言える、散漫な印象が全体に現れてしまっている。 群像劇は、そういった散漫になりがちな映画全体を、登場人物たちを巧みに関連付けていくことにより、面白さを演出するものだと私は個人的に考えているが、どうも本作にはその演出も感じられない。 だが、最後の“劇中劇”のミステリアスさには、舌を巻いた。 圧巻のラスト。 殺人のシーンを劇中劇で見せている。 しかし、殺人のシーンが劇中劇で進むにつれ、次第に“劇中劇”と“劇中”の境目が曖昧になってくる。 観ているこちらも、本当に劇中で殺人が起きているのではないか、とハラハラドキドキさせられる 。 この演出は非常に面白い。 またこの手法も、私が無知なだけで、どこそこの引用かもしれないのがこわいが。 [DVD(邦画)] 6点(2011-09-02 03:58:47) |
626. Peace ピース
《ネタバレ》 『選挙』で選挙活動に密着して、その裏社会をカメラにおさめた。 更に『精神』では、精神患者にモザイクをかけずに取材し、精神疾患の闇に迫った想田和弘監督。 その想田和弘監督が、今までの2作品で撮ってきた“観察映画”というスタイルの、“番外編”という形で本作を発表した。 この“番外編”という位置付けが観る前からひっかかった。 観た後では、“番外編”というのが、一種の「逃げ」のようにも感じた。 『選挙』での、あのハイテンションと面白さ、『精神』での、あのスキャンダラスで危険な香り、それらと同等のレベルでのパワーが、本作には残念ながら感じられなかった。 思うに、『選挙』と『精神』という2本の“観察映画”が面白かったのは、そのタブーな世界に、果敢に接近戦を挑んだ監督の勇気と気迫が根底に感じられたからである。 “番外編”だから・・・と言われてしまえばそれまでだが、本作には表の世界しか出てこない。 身体が不自由な人、末期がんのご老人。 それらの人を、ストレートにカメラにおさめただけでは、パワーが物足りない。 もちろん『選挙』の面白さ、『精神』のヤバさには遠く及ばない。 というわけで、想田和弘監督には、次回は是非“番外編”とかうたわずに、“観察映画”第3弾として、『選挙』『精神』に匹敵するパワーを持ったドキュメンタリーを撮ってほしい。 [映画館(邦画)] 6点(2011-08-28 01:36:17) |
627. さんかく
《ネタバレ》 小野恵令奈のロリコン的エロさに尽きる一本。 この少女をめぐり、周りの大人たちが翻弄される。 男女それぞれの恥ずかしい部分や、恋愛における男女の行動パターンを見事に捉えていて、それが随所に描かれている。 まるで、男女にまつわる「イタイエピソード」を紡いだ様な流れ。 おそらく、普通に恋愛を経験した大人、特に男が観たら、自分のイタイ思い出とリンクして、恥ずかしさや思い出がこみあげてくるに違いない。 とにかく、小野恵令奈の小悪魔的なエロさを満喫できるだけでも、観た価値はあった。 露出度の高い小野恵令奈の服装、甘ったれたしゃべり方も、この上なく魅惑的で危険に満ちている。 個人的には、路上で小野恵令奈がサラリーマン風の男に痴漢されるシーンなどの、ちょっとした演出もまた効果的で印象に残った。 [DVD(邦画)] 7点(2011-08-27 02:09:55)(良:1票) |
628. バッシング
《ネタバレ》 作品名の通り“バッシング”されまくる一人の女性を主軸に、その女性が原因でその家族までもがバッシングの対象とされ、悲劇が起こるまでの顛末を描いた、極めてシリアスな家族人間ドラマ。 私の最も好きな「東京フィルメックス」でグランプリを受賞した作品。 この映画祭でグランプリを獲った作品には今のところハズレが無い。 殺伐とした浜辺を眼前にそびえ立つ古びた団地。 そして荒涼とした工業地帯。 地味で地道な仕事に勤しむ人々。 それらの舞台設定が抜群に良く、このシリアスな題材に感情移入できるだけの、良い意味での映像的な「負のパワー」に満ち溢れている。 主人公を演じる女性は、とても自分勝手で、コンビニでわがままをタメ口で言ったり、決して美人とは言えない容姿など、冒頭から嫌悪感を振りまいている。 これは序盤から中盤で、この主人公の女性に同情的な感情移入をさせまいとする、計算づくの演出だったに違いない。 その序盤の彼女への印象が、終盤では見事に覆っていく。 いわばコンプレックスを抱えながら、貧しい環境で育ってきた一人の女性が、閉塞的な荒涼とした町の中で、いかに自分の居場所を失っていったか。 それは想像に難くない。 そんな彼女が、海外ボランティアを通して、自分の存在価値たるものを感じたかったと考えるに達するのは至極当然な流れである。 何不自由なく育った人には、他人事にしか思えないだろう内容だが、どこそこかにコンプレックスや居場所の無い孤独感を経験したことのある人なら、本作を鑑賞して、共感をおぼえるに違いない。 さすが「東京フィルメックス」のグランプリ作品だけあって、心の深い部分をえぐられたような衝撃を感じた。 これからも「東京フィルメックス」には注目していきたいし、過去の受賞作もできる限り観ていきたいと思う次第である。 [DVD(邦画)] 7点(2011-08-22 23:34:09) |
629. 運ちゃん物語
《ネタバレ》 1956年製作だが、それより一時代前の古臭さを感じる作品。 だがそれは良い意味での古臭さであって、まるで1930年代の清水宏監督作品を観ているかのような、ほのぼのとした人情劇である。 なんというか現代の様な、複雑でドロドロとした人間関係などは、そこには存在せず、劇中の人物たちは皆、純朴であり人間味豊かである。 コメディタッチな部分もある作品だが、決してどんちゃん騒ぎの悪ノリ的なコメディ劇ではなく、登場人物ひとりひとりの人間性が情感豊かに描かれており、好感が持てる。 この作品が作られた時代以降、日本映画は様々な意味で進展を遂げる。 しかし、こんなに素朴でいて素敵な日本映画を観てしまうと、日本映画の進展と共に失われてしまった大事な「何か」に気づかされる。 その何かとは、人間同士の素朴な心の交流である。 本作は、お気楽で楽しいだけの映画ではなく、時代を超えた日本人としての純朴さ、優しさみたいなものも教えてくれる素敵な日本映画である。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-08-22 19:45:20) |
630. NANA
中島美嘉の等身大の演技に、歌手としての中島美嘉にはない親近感をおぼえた。 宮崎あおいは、ほんとに巧い。 こういう若いのをいいことに、自分勝手で彼氏を振り回す女のコを演じても、見事にハマっているから凄い。 映画の一部として音楽が効果的に使われているという意味で、既に傑作だと思う。 音響も良く、迫力があって歯切れのいいサウンドが、物語を盛り立てる。 二人のナナが同居するマンションも個性があって非常に魅力的だ。 宮崎あおいの衣装、中島美嘉のメイク、二人の個性の不協和音が功を奏し、良い対比となっている。 男同士の友情とは異なる、女性の友人同士ならではの、少しレズっ気を感じるアブナイ距離感がまた、男の私からすると興味深く面白い。 原作が下敷きとしてあるだけに、ストーリーとしての完成度も高く破綻もない。 特別にスピード感があるわけでもないのに、最後まで飽きさせない内容と、その演出も見事。 おそらく、2000年以降の、青春もの日本映画としては屈指の作品。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-08-21 22:37:44) |
631. 東海道四谷怪談
かの有名な四谷怪談。 「うらめしや~」 「この恨み、晴らさずでおくべきか~」 などの名文句が聞けただけで満足。 内容は、新東宝色全開で、終始ハイテンションで疲れる。 もちろん、観ていて楽しい気分になる内容でもないし、暑さをしのげるほどの怖さも無い。 だけど、これを私が観ようと思った理由は、小さい頃のトラウマを克服したかったから。 小さい頃と言えば、その作品のクオリティとか関係なく、この手の映画が怖くて仕方なかったものだ。 中でも、この作品は有名で、子供の頃の恐怖の記憶として残っていた。 それを大人になって大人買い、、、ではなく、大人観る(?)してみた。 こうして私は幼少期の恐怖日本映画のトラウマを克服し、やっと立派な大人になれました! [CS・衛星(邦画)] 4点(2011-08-21 14:30:41) |
632. チルソクの夏
《ネタバレ》 素晴らしい! 青春映画の傑作!! 青春時代の恋は、人生で最も純粋でいて輝かしい思い出である。 その恋は、不器用で経験も少ないから、その分、辛いことも起きる。 相手に気持ちをどう伝えればいいのか? その勇気と決断は? 伝えた後の付き合い方は? 勉強やスポーツ、本作においては特に国境と文化の壁。 様々な障壁が立ちはだかる中で、必至に相手のことを想う。 それはとても切なく辛いものではあるが、同時に、人生でもう二度と経験できない甘い記憶が胸に刻み込まれる。 好きな異性とのちょっとした会話、手紙のやりとり、相手の体温、そういった青春時代にしか体験することのできない貴重な瞬間が、この作品には見事なまでに焼き付けられている。 現在がセピア色、青春時代がカラー。 この色の使い分けも効果的。 最も輝いていた時代が青春時代であることを映像的にうまく表現している。 思わず観ていて涙してしまった。 映画ではめったに涙が出ないのだが、これには見事に落涙させられた。 心の奥底に眠った青春時代の甘くて切ない思い出を、この見事な青春映画によって、掘り起こされたからに相違ない。 500本に1本くらいしか涙を流す機会が無いので、久しぶりに心を洗われた思いがする。 それと、主演の水谷妃里が何とも言えず魅力的。 どこか物憂げな瞳と端正な顔立ちが印象的で、主演としてこの作品を彩るに相応しい女優さんだった。 日韓友好、女性同士の友情、家族の絆、その他さまざまなテーマもよく描かれており、後世に名を残すであろう、青春映画の紛れもない傑作である。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-08-21 11:59:05)(良:1票) |
633. 儀式
“ATG×大島渚”という組み合わせによる個性が、爆発しまくった作品。 この頃の大島渚監督の映画に共通する「密閉感」「風変り」「モノクロの寒々しい映像」などの特徴が、本作にも十分感じられる。 そういう個性を感じられたの良かったのだが、理屈抜きにつまらない! なんというか、尺が長い上に、表現している内容が同じことの繰り返しというか。 血筋による因果、悪しき風習など、テーマは面白いが、全体的に平坦な内容で、正直なところ、後半は飽き飽きしてしまった。 それにしても、大島渚監督の作品における、戸浦六宏、小松方正、渡辺文雄の3人は、本作でも「大島3兄弟」として異彩を放っていた。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2011-08-15 23:12:05) |
634. g@me.(2003)
《ネタバレ》 とにかくドンデン返しの連続。 最後まで飽きさせないとも言えるし、やりすぎとも言える。 でも、ここまでひっくり返しまくれば、結局は元に戻る。 つまり、二人は離れ離れになる。 その締め方が巧い。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-08-14 02:35:56) |
635. リリイ・シュシュのすべて
岩井俊二監督の作品は、好きなものもあるが、どうも肌に合わないものがほとんどらしい。 そんな中で、この作品を鑑賞した理由は、“リリイ・シュシュ”という音楽ユニットと、ちょっとした因果があったからである。 リリイ・シュシュは、小林武史がプロデュースしたグループ。 知人がそれに少し関与していて、世に売り出す前に存在を知っていたグループだった。 ちなみに、プロモーションCDも持っていた。 商業的な趣きがプンプンと臭う映画であり、儲けるためにつくった映画を楽しむというのは、やはり私には全くもって無理な話で、しかも、リリイ・シュシュの音楽に共感できなかった私としては、なおのこと辛い。 ただ、岩井俊二の役者の卵を発掘する能力は認めざるを得ない。 蒼井優と市原隼人を発掘したが、現在の活躍をみるにつけ、強くそう思う。 さて、本作で“エーテル”という単語が連発されるが、『20世紀ノスタルジア』を思い起こしてしまうのは私だけだろうか? 広末涼子と一緒に出ていたあの野郎の、「エーテル体♪エーテル体♪」という気色の悪いフレーズが頭をよぎってしまった。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2011-08-13 05:04:36) |
636. Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン
《ネタバレ》 北朝鮮を支持する団体の幹部であった父と、日本で在日として生まれ育った娘。 二人の間には、思想という点で、どうしても埋められない溝があった。 それは、どんなに父娘が愛し合っていても、埋められない溝だ。 日本で北朝鮮の思想活動を人生を賭けて行ってきた父親だが、老齢になり活力も失われつつあった。 そんな父親に、娘が「韓国籍」を取ってもいいか、と質問するシーン。 娘に幸せになってもらいたいという思いが頭をもたげ、韓国籍になることを許す言葉をひねり出す。 北朝鮮の思想を生涯信じ続けてきた男としての父親と、愛する娘の幸せを願う父親とが交錯し、葛藤するシーンだ。 父親は誰だって、娘に幸せになってもらいたいと心の底から願っている。 だけど、どうしても譲歩できない部分がある。 そんな葛藤から意を決してひねり出した言葉が、娘に韓国籍になることを許す言葉だった。 娘を持つ父親なら、感情移入できる部分に違いない。 それと、本作は北朝鮮の風景や人間たちを映像に残しているという部分でも、非常に貴重な作品である。 ピョンヤンの映像を撮った監督の勇気に敬服する。 個々の人間がそれぞれに持つ思想や価値観。 それを上回るものは、親の子供に対する愛情であった。 あらゆる試練や苦難を乗り越えてきた一人の男の、死に瀕するまでの過程を描いたドキュメンタリーで、人間の生き様、人間の業というものを深く考えさせられる作品であった。 [DVD(邦画)] 7点(2011-08-01 01:29:22) |
637. からみ合い
《ネタバレ》 さすが小林正樹監督作品、重厚な味わいで内容も面白い。 美術や音楽も独自性に富んでおり、ストーリーとは別に、映画として、画として楽しめるのがまた良い。 小林正樹監督作品の『化石』と似たような設定で、大企業の経営者が不治の病に侵され、今までの人生を反芻し、余生をどうにか全うしようと苦悶する姿が主軸となっている。 その社長の死に臨み、その遺産を狙う人々。 さまざまな欲望と策略、そして嘘が複雑に“からみ合い”、醜悪な人間たちの内面を見せつけられた。 法律の知識を武器に暗躍する企業顧問弁護士、愛人のごとく体を武器にして遺産相続人に名乗りを挙げる社長秘書、必至に自分の立場を守ろうとする若き妻、そしてその妻の元愛人・・・と実に複雑巧みに人間がからみ合う。 ドロドロとした人間ドラマで、もう一度観たいとは思えない内容ながら、これまたハズレのない小林正樹作品に、どっぷり黒々酔いしれることのできた2時間弱だった。 [ビデオ(邦画)] 7点(2011-07-28 23:00:15) |
638. 愛のむきだし
《ネタバレ》 あらゆるエログロ要素が詰め込まれた、エログロ百科事典の様な作品。 言わば、エログロ世界の宝石箱。 200分を超える長編だが、その分見応えも十分。 長くは感じたが、話が進むほどに、少しずつ登場人物たちに感情移入していく感覚をおぼえた。 この感覚が案外、新鮮。 この点において、200分を超える長尺も意味があると感じられた。 映像はシャープかつ綺麗。 展開も奇抜で、園子温監督の特性がよく出ている。 『奇妙なサーカス』や『紀子の食卓』などの、この監督の他の作品と同じ色合いを感じた。 個人的には、女装した男に惚れるという、少しメルヘンな内容が好きになれなかった。 突飛な女子高生のアクションシーンもどこか浮いた印象はぬぐえない。 しかーし、やっぱりこの監督は、無意味なエロスが最大の魅力。 「エロければそれで良い」 そう割り切って観れば楽しめるだろう。 幼少期に、父親に性的虐待を受けた女のコ。 それがトラウマとなって、男嫌いになる。 園子温監督は、こういう設定がたまらなく好きらしい。 まさに監督そのものが変態だ。 変態監督だからこそ描くことのできる、めくるめく変態ワールド。 変質に偏執した世界観。 そして、この性的虐待を行う父親役を演じた板尾創路が見事にハマり役。 女子高生となった娘に乗っかる、暴力をふるう・・・極楽の山本でも良かったかもしれないが。 終盤にかけてのたたみかけは気合い十分。 キチガイになってしまった主人公の青年。 その青年を呼び覚まそうと涙する女子高生。 光り輝く素晴らしい最終章だった。 [DVD(邦画)] 6点(2011-07-18 22:42:17) |
639. 接吻 (2006)
社会的に不適合者だと常に感じ、いつも孤独を感じている。 そのような人間が自分をどう見つめているか。 それは、自分のことを不適合者だと思っていない人には知る由もないことであり、そこには大きな溝がある。 不適合者が抱える心の闇。 不適合者同士しか理解し合えないこと。 しかし、不適合者同士とは言え、他人である以上すべてを理解できるとは限らない。 そこにはおのずと限界もある。 「この人なら私を理解してくれる。この人のことなら理解できる」 そう思っても、ちょっとした考え方のズレが、決定的な絶望感と孤独感を創り上げてしまう。 愛し合っている男女の関係にも同様のことが言え得るのではないか? お互いのことを完全に理解し合っていると信じている男女が居たとしても、ちょっとした価値観のずれが深い絶望感をもたらす。 深い絆で結ばれた人間同士でさえも、ひょんなことから深い溝が生まれる。 人間の関係性の難しさ、そして完全に理解し合うということの不可能性を本作を観て、痛烈に感じさせられた。 最後になったが、小池栄子は女優としてのプロ根性を発揮し、迫真の演技で実に素晴らしかった。 ついでに巨乳も相変わらず素晴らしい。 [DVD(邦画)] 7点(2011-07-17 02:40:07) |
640. ふゆの獣
《ネタバレ》 全国公開初日、本日映画館で観て来た。 舞台挨拶があったが、監督と出演者たちが皆、初々しく、新鮮な気持ちになれる舞台挨拶だった。 私が一番好きな映画祭「東京フィルメックス」で、去年グランプリを勝ち取った作品。 観る前からハズレは無いと、確信に近い気持ちで映画館に入った。 デジタルビデオで2時間長回し、それを監督が編集し、しかも出演者達は全てをアドリブで演じたという、非常に野心的な作品。 昨今の、有名なテレビタレントが出ているだけのメジャーな邦画とは、明らかに一線を画す作品。 序盤、決して観やすいとは言い難い手ぶれカメラの映像と、聞き取りにくい台詞に一抹の不安を感じた。 しかし、物語が進むにつれ、どんどん作品の中に引き込まれていく感覚をおぼえた。 この感覚が、傑作を予感させた。 そして更に話が進むにつれ、東京フィルメックスでグランプリを獲得した無名監督の実力を、まざまざと見せ付けられることと相成った。 どうしようもない男と女の恋愛観のズレを描いた内容なのだが、それをストレートにリアルに表現している。 無名俳優たちの渾身の演技にも圧倒される。 そして監督の編集も素晴らしい。 「全てを包み込む女性特有の大らかさ」 「若い女性に特有の恋愛観」 「モテナイ男とモテル男の描き分け」 などなどが実に的確、見事。 そしてリアル。 どんなに冷たい男でも、それに一度惚れた女性は、並大抵のことではその男を嫌いにはならない、いや、嫌いになれない。 そんな女性を翻弄し弄ぶ男と、そんな男に敵意を持つモテナイ男。 恋愛における男女の違いや、性格の違いなどを鋭く的確に描いた監督の手腕に、手放しで拍手を送りたい。 [映画館(邦画)] 8点(2011-07-03 02:08:13) |