821. 忍ぶ川
《ネタバレ》 ストーリー自体は単調で、とりわけ特筆すべきものはない。 しかし、モノクロ映像がそのストーリーと世界観を巧みに増幅しており、モノクロ映像が十二分に良い影響を与えている。 単なる男女の恋愛ドラマの域にとどまらず、例えば加藤剛の兄弟たちの多くが自殺をしているという設定が、ちょっとした猟奇めいた独特の雰囲気を醸し出している。 そして実家の田舎に暮すサングラスをかけた目の不自由な姉。 この人の存在が、前半からずっと不気味に描かれているが、意外にも嫁いできた栗原小巻に優しかったり、サングラスを外して弟の加藤剛に泣きつくシーンなどで、不気味に見えた姉が、実はとても人間的で普通の優しい人だった、と分かるくだりも素晴らしい。 それと、東京の木場や洲崎、浅草などの風景描写、東北の田舎の風景、こうしたその土地土地の描き方にも、観る者をモノクロ映像の世界に深く誘う効果を発揮している。 私は自宅で鑑賞したが、映画館で観たら、更に深くその世界の雰囲気にどっぷりと浸れたに違いない。 医学や自殺といったテーマとの絡みに、熊井啓監督ならではの個性も感じられ、ありがちな恋愛ドラマと一線を画す出来栄えである。 [ビデオ(邦画)] 7点(2011-03-27 03:48:13) |
822. 人間の條件 第四部 戦雲篇
仲代達矢の演技は相変わらず素晴らしい。 魂がこもっている。 この第4部は、そのほとんどが戦争映画そのものである。 2年兵で上等兵になった仲代達矢が、その立場の変化から、更なる問題にぶち当たる。 これはこれで面白かったが、企業を舞台にした第1部、第2部に比べると、見飽きた日本戦争映画の域を出ておらず、まるで一本の日本戦争映画を観た様で、全6部作という壮大さが感じられなかった。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-03-23 16:48:24) |
823. 人間の條件 第二部 激怒篇
《ネタバレ》 第1部からのつなぎ方が良かっただけに、この第2部はやや不満。 仲代達矢は奮闘するが、組織内で権力が無いがために、不遇な運命をたどる。 それ自体はしっかりと描けていたとは思うが、それを描くためだけに第2部として丸々時間を割く必要があったかどうかは微妙なところ。 第1部では冷徹ながらも、厳しい軍人として一本筋が通っているように見えた安部徹が、この第2部では、ただ残忍なだけの軍人として描かれている辺り、違和感をおぼえた。 ラストで夫婦が砂丘で再会し、抱き合う場面は救われた気持ちにはなるが、召集令状がきていて、将来に暗雲が立ちこめているだけに、どうもスッキリとした気分までにはなれない。 次につながっていく高揚を感じた第1部に比べると、この第2部は全体的に中途半端で、中だるみの感が否めない気がする。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2011-03-22 01:23:41) |
824. 人間の條件 第一部 純愛篇
《ネタバレ》 仲代達矢、三島雅夫、山村聡、小沢栄太郎という濃いメンツを中心に、全6部にわたる壮大な絵巻が斬って降ろされる。 現地民を搾取して利益を上げるという至上命題を持った企業の中で、正義という矛盾を、仲代達矢がどこまで突き通せるかが見ものだった。 自分の正義感は曲げたくない、だけど組織に属している以上は上部の命令には逆らえない時もある。 そうした精神的な苦悩を描いたこの第1部は、序章を飾るにふさわしい内容となっている。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-03-21 21:40:06) |
825. 狂った果実(1956)
《ネタバレ》 何不自由ないボンボン達だが、これといった目的もなく、ただダラダラと夏を過ごす。 若者達の欲望の先には、結局“女”があった。 狂気を孕んだ若者達の中にあって、唯一、純な心を持った津川雅彦。 後のエロオヤジ役を演じまくった津川が、唯一、純な少年を演じたところが皮肉で面白い。 ラストシーンは鮮烈。 常軌を逸したあぶない目つきで、石原裕次郎と北原三枝の乗るヨットを、ぐるぐるとボートで迂回する津川。 その目は極めて危険でうつろだ。 そして、津川はボートで二人をはね殺す。 普通に考えれば、これだけあぶない目つきで、二人をボートで無惨にもはね殺したとなると、津川が一番あぶない人間になるだろうが、実は一番人間的でまともだったのは、津川ではなかったか。 やることなすこと、全てあべこべで倫理観に欠けた若者達の中にあって、その純な心を裏切られ、その怒りを殺意に代えた津川の心情こそが、一番ストレートに理解できる。 “殺す”という、社会的に一番狂気な行動をとってしまった津川が、一番同情されるべきナイーブな心を持った登場人物として描かれている辺り、単なる青春映画では片付けられない、深い内容を感じさせる名作である。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-03-08 23:11:13) |
826. 煙突の見える場所
上原謙、田中絹代、高峰秀子という布陣で、実に豪華キャスト。 内容も普通に楽しめるものだが、日本映画黄金期として考えると、普通の出来かなぁ、というのが正直な感想。 だけど、レベルが高い時代での「普通」であるからして、それでも十分楽しめる作品内容だった。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-03-05 22:41:26) |
827. ピノイ・サンデー
《ネタバレ》 フィリピン・台湾合作映画。 生粋のアジアンテイスト全開! ストーリーは何てことないし、支離滅裂な部分も感じられる。 しかし、アジアの香りが画面いっぱいから感じられるのが良い、いや、それだけで観る価値がある。 中盤のメインとなる、赤いソファーを運ぶ珍道中のエピソードは少し長かったかなぁ。 前半と終盤の人間模様をもっとメインに据えて、ドラマ仕立てにしてくれれば、もっともっと面白いアジアン映画になったかも。 もし逆に、赤いソファーを運ぶくだりをメインに見せたいのなら、最初から最後まで赤いソファーを運ぶことを題材にしたロードムービー色豊かな作品にしてしまうとかもありだったようにも思う。 その辺の完成度とか、構成のゆるい感じが、逆に言えばこのアジア映画の魅力だったりするのかもしれないが。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-03-01 22:55:52) |
828. まってました転校生!
転校生がやってきて、次第にクラスに打ち解け、やがて仲間として認識される。 そんな少年時代の懐かしき様子を、恥ずかしいくらいに真っ直ぐに描いた児童映画。 ちなみに、監督ご本人がシアター内におり、そのすぐ後ろで鑑賞した。 監督のハゲ頭が気になったせいか、特別な感慨をおぼえられず、何だか申し訳ない気持ちにさえなってしまった。 もっと素直に感動すべきなんだろうけど、自分の少年時代と比べてみて、共感できる部分が少なかった。 というか、それ以前に、私にとっては真面目すぎる児童映画だった。 PTAの方か、真面目すぎる方にオススメしたい作品。 [映画館(邦画)] 5点(2011-02-28 01:19:24) |
829. 女が階段を上る時
《ネタバレ》 やっぱり成瀬巳喜男作品の森雅之はカッコよすぎる・・・究極のダンディズムだ! さて、脚本に成瀬巳喜男が参画せず、あとはお馴染みのキャストとスタッフで作られた、微妙な異色作。 そこの辺りの影響は、ほんの少しだが出ていたようにも思う。 全体的に漂う退廃的なムードは、一見、その他の成瀬巳喜男作品と同じようにも感じられるが、人間と人間との交錯の深さがやや浅かった気がしなくもない。 成瀬巳喜男作品と言えば、切っても切れない男女の仲、深いつながりみたいなものを感じさせる作品が多いが、本作は沢山の人間が交錯するものの、それ以上の深みがない。 別につまらないわけではないが、作品に引っぱられ、のめり込む吸引力が少し劣る気がした。 その影響か、最初から最後まで淡々とし過ぎた感は否めない。 一方で、高峰秀子のラストの笑顔。 これはとても印象的だった。 “真冬を耐え忍び、春の芽をじっと育てる銀座の街路樹のように”、きっとまた復活するに違いない笑顔を、彼女は最後に見せてくれた。 当時の銀座の風景描写も印象的だった。 現在の銀座と言えば、一流外国ブランドのビルが建ち並び、路地裏もそれほどの淫靡さを感じさせない。 どんどん綺麗になり、浄化作戦とやらで変わっていく東京の風景。 そんな郷愁も、本作を観て感じずにはいられなかった。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-02-27 17:23:33) |
830. 遠くの空に消えた
よくぞここまで器用に「ヒット作っぽい失敗作」を創ったなぁ、という印象。 行定勲というヒットメーカーが、ヒットしそうな感じで時間たっぷりに創ってみたけど、実際は観客からすると、ただ時間を浪費するだけの薄っぺらい作品になっていた、というオチ。 それ以前に、主要キャストの面々が、個人的にあまり好きでないメンツで固められていたのが致命傷だった。 数少ない本作のプラスポイントは、ほんの少しだがノスタルジックな気分に浸れたのと、Coccoのエンディングソング「甘い香り」が良かったところかな。 器用な監督の失敗作って、こんな感じなのかな、と妙に納得してしまった次第。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2011-02-24 00:59:53) |
831. 女たちは二度遊ぶ
この手のオムニバス映画は好きで、ツタヤとかで発見してしまうと、何も下調べもせずレンタルしてしまう。 当たりハズレも多いのが、この手のオムニバス映画の特徴で、それが何だかスリルだったりするわけで・・・ さて、ラブストーリーというくくりで、5本の短篇映画が収録されている。 その中で印象に残った作品が、相武紗季・柏原崇主演の「どしゃぶりの女」と、長谷川京子・ユースケ・サンタマリア主演の「つまらない女」の二つ。 「どしゃぶりの女」は、主演二人の人物造形が秀逸。 最後まで性格を掴みきれない面白さがある。 「つまらない女」は、ユースケ・サンタマリアの素に近い演技が功を奏した作品。 彼の人間臭さが、良い方向に出た面白い作品。 万人にオススメはしないが、もし私と同じようなオムニバス映画好きがいたら、是非オススメしたい一本! [DVD(邦画)] 7点(2011-02-19 18:18:07) |
832. 女王蜂と大学の竜
石井輝男、吉田輝雄コンビによるお馴染みの新東宝映画。 今回は、アラカンがアカンかった。 元々苦手な俳優だが、どうにも演技としゃべりが好きになれない。 おまけに、三原葉子のグラマーぶりも苦手(笑)。 路線というか、作品自体に関して言えば、石井輝男のエネルギッシュさと新東宝の良い意味でのチープさが出ていて、大いに好きなタイプの作品。 吉田輝雄が暴れん坊的なキャラ設定だったのだが、このキャラ設定も合っているとは思えず。 吉田輝雄と言えば、“異常性愛シリーズ”の数々の作品で魅せてくれた、あの妙ちくりんな真面目演技が、個人的には大好きだ。 石井監督の創り出す、ふざけた作品設定の中にあって、浮きに浮きまくった“あまりに真面目すぎる空気読めない男”的なキャラの吉田輝雄を、私はもっと観てみたい! [CS・衛星(邦画)] 5点(2011-02-18 06:26:19) |
833. 女獄門帖 引き裂かれた尼僧
《ネタバレ》 待ちに待って、ラピュタ阿佐ヶ谷にて鑑賞成功。 いきなりネタバレなのだが、「引き裂かれた尼僧」なんて、結局最後まで出てこねーじゃねぇかバカヤロウ!って感じ(笑)。 だって、実際、誰も引き裂かれてないし。 エロ・グロ・ナンセンスを、とことん突き詰めた内容で、グロいシーンなのに、ゲラゲラと笑えてしまうところなんか、まさに石井輝男テイストを感じた。 ここだけの話、あの少女に一番ゾクっときてしまった、、ヤバイヽ( ´ー`)ノ [映画館(邦画)] 7点(2011-01-30 01:09:34) |
834. アウトレイジ(2010)
北野武監督作品の中では、『座頭市』と並ぶ完成度の高い娯楽作品。 現在の日本人監督の中で、単純に楽しめる作品を撮らせたら、最近の北野武監督に勝る者はいないのではないか、というくらい良くできている。 ストーリーの顛末よし、音楽よし、映像よし。 特に、ヤクザものを撮らせたら、間違いなく現在においてはナンバー1の監督だろう。 北野武が、ただ撮りたいものを撮っていた初期の頃と比べて、“職人監督”と呼ぶべきに相応しい、監督しての巧さを感じさせる。 ただし、それが良いか悪いか。 個人的には、少し残念だと感ずる。 初期の頃に感じた、心に深く突き刺さるものが感じられない。 何か、角がとれて丸くなった印象。 監督としての総合的技量は、年数を経るにつれ、格段にアップしていると感じるが、逆に初期作品の頃に感じられた、鋭利なナイフのような切れ味がなくなっている気がする。 だが、それは北野武の計算なのかもしれない。 何故なら、比較的最近でも、『TAKESHIS’』の様な、自分の撮りたいものを好き勝手に撮っただけの作品も、撮ってはいるから。 商業的な作品と、自分の取りたい好き勝手作品とを、器用に撮り分ける北野武。 それはそれで凄い。 でもできれば、娯楽性が低く世間一般の評判は低くとも、初期の頃の様な作品や、最近で言えば『TAKESHIS’』の様な自分勝手な作品を、もっと撮って欲しい。 [DVD(邦画)] 7点(2011-01-26 01:08:48)(良:2票) |
835. 毒婦お伝と首斬り浅
《ネタバレ》 待望の牧口雄二監督特集がラピュタ阿佐ヶ谷で組まれ、感激もひとしお。 期待してのぞんだ本作だが、序盤は何だか石井輝男ワールドをスケールダウンしたような内容で、ガッカリもした。 しかし終盤の展開が凄い! それまでワイワイガチャガチャやっていたのに、お伝の首斬りシーンになると雰囲気が一変、辺り一面に雪が降り、無音となる。 それまで終始うるさい内容だっただけに、序盤とこのラストシーンの、“喧騒と静寂の対比”に思わず息をのんでしまった。 幕切れもまた素晴らしい。 首を斬られる直前は怖がって暴れていたお伝が、自分の命を救ってくれた男に首を斬られると知った瞬間、覚悟を決めておとなしくなる。 何とも人情深いお話。 ただのうるさい悪ふざけエロ映画かと思いきや、終盤での、この怒濤の盛り返し! 牧口雄二監督が、カルト映画界で一目置かれる所以を、存分に味わうことができた。 [映画館(邦画)] 7点(2011-01-23 00:02:03) |
836. 劔岳 点の記
ムダに豪華俳優陣を使い、そして使いきれてない。 確かに雄大な自然を映した映像は素晴らしいが、映画としては何ら見所がない。 浅野忠信の良さも全く出ていない。 有名どころの俳優を沢山集めて、ただ撮ったという感じ。 撮影大変だったぞ、という主張ばかりが伝わってくるが、それと映画としての良さとは無関係。 そしてムダに尺が長いのが更なるマイナスポイント。 雄大なスケールを持った渾身の駄作。 [地上波(邦画)] 2点(2011-01-22 09:50:25) |
837. 明日ある限り
豊田四郎監督、香川京子主演の組み合わせ。 これが理由で本作を鑑賞した。 豊田四郎監督作品として観ても、それほど突出した作品ではないし、香川京子の魅力が出ているかといえば、そうでもない。 ただ、手堅い演出とストーリーで、それなりに満足できるレベルではある。 真面目すぎるストーリーと、香川京子がやたらに感情的になってばかりいる部分が難点で、決して楽しい気分になれる作品ではない。 しかし、家族としての絆がいかに大切であるかを感じることができるという点において、どこか小津安二郎作品に通ずるものも感じた。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-01-17 01:42:00) |
838. 竜馬暗殺
なんか最初は「気取ったモノクロ映像だなぁ・・・」と、げんなりモードで観ていたが、途中から不思議と、このザラついたモノクロ映像の世界に浸っていた。 そして、終わる頃には、むしろ心地よいとさえ感じていた。 モノクロの映像世界に浸っていたら、いつの間にか「完」の文字・・・という不思議なATG作品だった。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-01-16 01:25:22) |
839. ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~
堕落した男についていく女。 この構図をシンプルに描いている。 浅野忠信と松たか子が初めて組んだ主演作というだけで、もう両者のファンにとってはそれだけで十分なわけだが、両者共に持ち味を発揮しているのが更に良い。 [DVD(邦画)] 6点(2011-01-13 23:14:06) |
840. CURE キュア
なんだろなぁ・・・ 全てが中途半端だった。 怖さも大したことはなく、サスペンスとしてもそれほど緊迫感もなく、人間ドラマにしてもそれほど深くなく・・・ 役所広司の演技は素晴らしいが、萩原聖人がミスキャストかも。 ただ一方で、つまらないかと言ったらそういうわけでもなく、最後まで観る者を吸引する力を持った作品だった。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-12-28 01:05:11) |