121. プール(2009)
《ネタバレ》 主題は「母親探し」である。あるいは母性ともいうべきか。さよは母親に日本に置き去りにされ、ずっと母性を求めてきた。ビーにも母親は居らず、面会に行った人は別人であった。それぞれの母性を取り戻そうとするストーリー。そう解釈するのが素直だが、実際この映画で母性を取り戻すことは無い。「ごめんなさい。私が悪かった」といって抱きしめるわけではなく、母親はあっけらかんと「その時そうしたかったんだからしょうがないじゃない」と言い放つ。さよがそれに納得していないのは明らかである。ではどのようにこの物語を解するか。思うに、それがプールの役割である。タイトルにまでなっておきながらその本来の用途では一切使われない奇妙なそれは、実は母性の象徴ではないだろうか。実際にさよが上手くコミュニケーションをとり、心を通じ合わせているのはプールサイドでの会話が多い。さよはプールサイド、母親の側で成長した。今まで喪失していた時間を取り戻すかのように。そしてさよが十分に成長し、「親離れ」した時に、旅も終わり、帰途に着くことになるのである。故に舞台を日本ではないどこかにする必要があった。このように考えたが、もたいまさこの存在はまだ謎。二回目に考えよう。この映画はほのぼのとしているようでどこか作為的、人為的で、そこが決定的にかもめ食堂などとは違う。そしてそういう意味でなかなか面白かった。 [DVD(邦画)] 7点(2010-09-25 13:55:40)(良:1票) |
122. サマーウォーズ
あらゆる意味において新鮮味が無い。仕切っているのはおばあちゃんだけど、家父長的な家庭像に、典型的なSNS的バーチャル空間、ベタな恋愛に際立った能力(今回は数学)を持つ主人公。何も考えずに観れば面白いが、この映画からは何の意味も見出せない。ストーリーは若干消化不良。特に花札で対決って‥‥。ここだけは新鮮だったけど、アニメ的にどうなんだろう? 今の子供達は花札が分かるのだろうか。なんて余計な心配をしてしまいました。アニメーションはすごくきれいで、好感が持てました。ただそれだけの映画です。 [DVD(邦画)] 5点(2010-09-13 17:19:42) |
123. 雨月物語
映像について少し勉強した後に見ると、カメラワークや陰影など、確かに巧みだなぁと思わされました。船上のシーンとかね。ただ他は正直あまり印象に残っていません。台詞が聞き取りづらかったからなのか、それともいまいちのめり込めなかったからなのか。 [DVD(邦画)] 7点(2010-09-12 10:59:34) |
124. 39 刑法第三十九条
《ネタバレ》 作品全体に漂う陰鬱さはこの映画の最たる特徴で、それが一応功を奏していると言えるが、少々くどい。それが他のレビューに散見されるような「声が聞き取りづらい」とか「単調」という感想につながる。また、画面の揺れや極端なシャロウフォーカス、スローモーション、暗転などの演出はわざとらしく、安っぽい。二時間ドラマのような印象はそのせいである。「家族ゲーム」の光は感じられない。辛うじてカフカの母親が用意する異常な分量の料理にその片鱗が見られる程度である。「家族ゲーム」も然り、食べ物で気持ち悪さや不快感を催させるのにかけては一級といえよう。肝心の内容は、一応うまくまとまっている。柴田の回想するシーンから気付いてしまったが、なかなか面白い。ただ押し入った際に妻が既に死んでいた、という結論はどうか。妻を殺したのが彼ではないことはすぐ分かるであろうし、妻が生きていたら殺していないのだろうか。話の結論からして妻は殺さないであろうが、そうすると詐病について明らかな齟齬をきたす。脚本での一番の難点。ところでキャストの堤の欄はネタバレではないだろうか。ちょっと危うい。 [DVD(邦画)] 6点(2010-09-11 01:35:29)(良:1票) |
125. ナイト・オン・ザ・プラネット
地球を巡りながら夜明けを迎えるとは、なんて気の利いた構成だろう。何気ない日常を切り取っているようにみえて、ジム・ジャームッシュの構図は実に技巧的である。LA編でのウィノナが颯爽と車を飛ばす後ろで旅客機が轟然と横切る。そして空港のシーンへ移る素晴らしい演出。ニューヨーク編ほどユーモアに満ち溢れた空間はないし、パリ編は人種的な問題がちらりと覗きながらもあくまで人間を描いている。ローマ編はベニーニの一人芝居に近い、圧倒的な芸(といって良いと思う)を見せつけられる。ロータリーをいったりきたりしてなかなか客を乗せなかったり、「一方通行は最高♪」とか言いつつ逆走するシーンは大のお気に入りである。一転してヘルシンキ編では底なしの悲しみが場を覆う。ミカとアキというネーミングはくすっとするが、ラストのアキの表情は笑えないほど絶望的である。しかしそれでも地球には朝がくる。タクシーの車内という偶然に満ちた空間を通じて、人々の機微を鮮やかに映し、夜は明けていく。ラストシーンの「おはよう」は全ての人に向けられた挨拶である。 [DVD(字幕)] 9点(2010-09-08 00:47:41) |
126. 楢山節考(1958)
《ネタバレ》 歌舞伎調。前口上がなんとも洒落ています。正に昔話の世界を再現したようです。全編セットかつ、照明も独特です。特に「掟は必ず守ってもらいやしょう」の演出は目を離せない。他にも舞台が二つに割れる場面など、普通の映画では観られない演出が多かったです。喜んで、というとおかしいかもしれませんが、自ら進んで楢山へ行こうとする母と、それを辛く感じる息子の対比がなんとも惨い。結局のところ、息子は涙を流しながらも村の因習に逆らえずに母親を置き去りにするしかないのです。そして自らも楢山へ行くことを覚悟しながら生きて行かざるを得ないのです。これほど残酷な物語が他にあるでしょうか。 [DVD(邦画)] 9点(2010-09-06 20:28:34) |
127. 青春デンデケデケデケ
二時間もかけるストーリーではないと思います。起承転結が特に無いのでだれます。そして全く笑えない安っぽい演出が辛かった。演奏シーンも臨場感がちょっと‥。まだ終わらないのかなーと思ってしまう映画でした。 [DVD(邦画)] 3点(2010-09-05 17:23:32) |
128. きょうのできごと a day on the planet
視聴者に媚びず、説明的な描写を極力抑えている。安易に共感や感動、スリルを求めずに、映画「的」な展開やストーリーを省いたからこそこの映画は映画たり得ている。時間軸を動かす手法はうまくいっていたし、モラトリアム人間達の刹那的な哀愁が垣間見られ、成功している。構図や撮り方、カットも行定監督なりの視点が感じられた。短い出演ながら、池脇千鶴が光る。 [DVD(邦画)] 7点(2010-09-04 08:14:47) |
129. けんかえれじい
鈴木清順を初めて観ました。このオリジナリティはすごい。エンターテイメントですね。ものすごいカット割。ユーモラスです。 [DVD(邦画)] 6点(2010-08-27 13:33:58) |
130. おと・な・り
隣の音という設定がおもしろい。二人が出会う過程をほのぼのと楽しむストーリーですが、きちんと伏線が張られていて、上手い脚本だと思います。会社の組織がいまいち良く把握できませんでしたが、きっと市川さん演じる女性は元カノなんでしょうね。コーヒー豆をひく音や、フランス語の練習をする音、とても心地よかったです。ゆったりした午後のコーヒーのような映画。 [DVD(邦画)] 7点(2010-08-19 15:27:44)(良:1票) |
131. ばかのハコ船
《ネタバレ》 「おれにもそれ飲ませてよ。そのー白いやつ。なんだっけ」と言いながら牛乳を飲み、ゴフッとなる場面は笑ってしまった。そして空気抜けは圧巻。あそこまで浮気がバレた場面を巧みに表現している映画はそうそうあるまい。ラストはやりすぎな観もあるけど、傑作。 [DVD(邦画)] 9点(2010-08-19 03:13:22) |
132. 借りぐらしのアリエッティ
借りぐらしという世界観はとても興味深い。しかしそれが広がることなくひたすら平板な描写に終始し、起伏の無いまま話が終わってしまう。借りぐらしという世界をもっと描かなければ、その魅力も伝わらないし、ストーリーに説得力も無くなってしまう。そこがゲド戦記やハウルの失敗だったのではないか。逆にそこが千と千尋やもののけ姫(おまけをしてポニョ)の成功だったのではないか。映像の美しさは折り紙付きなのだから、「世界を描く」という、根幹に立ち戻ってほしいと思った。全体としては素直な出来で、特にひかからずにさらっと観ることができた。 蛇足だが、「67億人が~」とか時事的な台詞を入れたのって初めてな気がする。妙に説教くさいし、ものすごく違和感があった。 [映画館(邦画)] 5点(2010-08-17 23:27:35) |
133. 俺たちに明日はないッス
《ネタバレ》 性的描写に不快感を持つかどうかは別にして、この映画が十代男子の性的衝動を描いたものだとする批評、そしてその点に特化した批判は正しくない。もしその批判があたるなら、峰は「しよ」と言われた時にすぐさまセックスしていたはずだし、比留間も海の事件の後にすぐさままた脅迫してセックスしようとするはずだ。ついでにいえば安パイも相手が積極的な割に何もしようとしないのはおかしい。その代わりに描かれているのは、峰の「そういうことは好きな相手としろよ」という台詞に象徴される至極真っ当な、純な恋愛。比留間の失恋(より正確に言えば、失恋であったことに気付く)。ついでにいえば安パイの「僕の身体が目当てだったんだね」というユーモラスだが真っ直ぐな恋愛である。男子生徒の性的欲望は確かに描かれているが、本当に表現されているのは、それを通して彼らが恋愛というものを何となく学び、成長していく姿である。その端緒が性欲だからといって何が悪いことがあるだろう。性欲だろうが直感だろうが、恋愛には変わりがない。「恋愛ってよくわかんないね」「女はもっとわかんねーよ」という台詞がそれを暗示している。 [DVD(字幕)] 6点(2010-08-08 14:12:31) |
134. 切腹
東浩紀が引用するコジェーブのスノビズムの定義そのままに、実質的な価値よりも形式的な価値を重んじる態度は切腹に他ならない。その不条理さを苛酷なまでの映像によって表現したのがこの作品だろう。絶妙な時代設定によって、形式的価値が失われつつある状況が良く分かる。映像美や脚本の妙などは全て他のレビュアーが的確に評しているので、私はこの映画の持つ意味の一面を指摘しておくにとどめる。 [ビデオ(邦画)] 10点(2010-08-01 02:01:13) |
135. 打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?(1993)<TVM>
正直演技は全員下手だが、最後に報われた気分になる。 [レーザーディスク(字幕)] 8点(2010-07-28 00:31:04) |
136. ソナチネ(1993)
不思議ですね。映像のつながりが急に断絶的になる部分が所々にありましたが、わざとなのでしょうか。無常観。 [DVD(字幕)] 7点(2010-07-26 23:23:16) |
137. 山の音
《ネタバレ》 原節子。この人の貼り付いたような笑顔はいつも僕を戦慄させます。説明的描写が少ないところが素晴らしい。菊子がなかなか子供ができないことを実は悩んでいたことや、遺書を書こうとしていることなど、直接的ではなくさりげなく語られます。 また、映像の面でも小津作品よりも開放的というか、ロケ撮影が多いです。木漏れ日の当たる細い道を二人が歩くシーンは何度も出てくるし、ラストシーンもロケです。セット撮影であっても外とのつながりを重視しているように見えます。少なくともいきなり屋内、というシーンはあまり無いような気がします。一つの成瀬映画の特徴と言ってよいでしょう。そして屋内の移動の描写が多いです。小津は一室一室のカットが多いのに対し、成瀬は部屋から部屋への移動や庭を挟んでの移動、小道から家へ入る移動、廊下から部屋への移動、事務室のドアから部屋への移動、というように空間の移動が殊更意識されているように見えます。「家」そのものを描写しようとしているかのようです。 堕胎はまるで自殺だぞ! という台詞が強烈でした。堕胎の前に心中の話題を出し、伏線を張っておいてのこの台詞は素晴らしい。明るい笑顔ばかりを見せていた菊子が、その心中の話を義母に聞かされたところで初めて思い詰めた顔をするのも効果的です。 目線だけで人物の移動を表現する手法も多用されており、所々に成瀬節のようなものを感じました。日本間のタテの線の美しさも感じられ、非常に質が高い映画です。 [DVD(字幕)] 7点(2010-07-24 22:51:51) |
138. 歩いても 歩いても
大傑作。あえて時代性を感じさせないような設定に、丁寧に作り込まれた脚本。そこには登場人物の自由さと、昨日もここで暮らしていて、明日も同じように過ごすのだなぁと思わせる本物さ。キャスティングの妙なのでしょうか、普段あまり評価していなかったような俳優さんもとてもピッタリに見えます。鳥肌が立つシーンもあり、ほんわかするシーンもあり、邦画の最高峰です。現代の東京物語。 [DVD(字幕)] 10点(2010-07-14 01:22:16) |
139. Kids Return キッズ・リターン
タイトル通り。子供達が戻ってきます。安藤政信が初々しくていい。 [DVD(字幕)] 8点(2010-06-30 21:53:09) |
140. 告白(2010)
この映像感覚はすごいなぁ。逆再生はやりすぎで、最後も邪魔に感じてしまったのだけど、スローモーションやあえてカットを飛ばすところなど、すごく斬新で、ポップで、観やすいのだけど雰囲気を壊していなくて素晴らしかった。ストーリーに関しては特に言うこともないというか、今思い返してみるとよくある話、といっては語弊があるけれど、よくあるキャラ、要素を合わせた感じでした。とはいえ松たかこ始め、演じてる方々は力が入っており、迫力があります。うーん。すごい。一気に観させられる。 [DVD(字幕)] 8点(2010-06-17 01:05:42) |