1. ラストソング(1994)
《ネタバレ》 神田神保町シアター「忘れられない90年代映画たち」特集で約30年ぶりのスクリーン鑑賞。「青春期に追い続けた夢と希望、友情とその破綻」というベタな題材なんだけど、この度再鑑賞して感じたのは「ちゃんと映画してる」点。本木雅弘も吉岡秀隆、安田成美の演技もいいし、ロックンロール=社会への反抗の象徴としてちゃんと劇中で活用されている点も好感度アップ。吉岡が尾崎豊ばりに熱唱する表題歌。破綻への鎮魂歌としてラストにふさわしく、ちゃんと画竜点睛で終わってるのがよい。最大の貢献者は後に名作「眠れる森('98)」「氷の世界('99)」を書いた脚本:野沢尚の手腕。何度も書くがこんなベタな内容をちゃんと鑑賞できる話にした、いい仕事だよ。にも関わらずこうも忘れさられた作品になってしまったのは、まずTV会社や広告会社がバブル期に企画したものだった為、同じ時期に作られた「バブルを楽しめ(実際は崩壊してて気分はそれどころではない)」的な作品群に埋もれてしまった事、合わせて先にロック+青春譚である長崎俊一「ロックよ、静かに流れよ(’88)」+男闘呼組のインパクトが強すぎて、二番煎じ感があった為なんだろう。しかも2024年現在、未だ配信化もDVD・ブルーレイも無し。次にこのレビューにコメントが追加されるのは何年後になることやら。機会がありますれば。 [映画館(邦画)] 6点(2024-07-15 10:20:06) |
2. 綴方教室
《ネタバレ》 今年が生誕100周年。「高峰秀子・少女スタア時代特集」ラピュタ阿佐ヶ谷で初スクリーン鑑賞。以前彼女の養女、斎藤明美さんのトークショーに行った事がある。そこで認識させられたのが高峰さん自身文筆やインタビューで述べていた「女優嫌い」という性格、斎藤さんの説明によると実際は嫌いどころではなく醜悪・嫌悪の域:出来る事ならやめてしまいたいという類の人生選択肢だった点。年少期からフリーランスとして活動したのもギャラの高いところで働かざるを得なかったから。「彼女が望んだ人生にたどり着いたのは松山監督と結婚し、女優を引退して約25年後。そこまでかかった(斉藤さんのご説明)」輝かしい才能の裏にあった、暗黒の青春時代。 但凄かったのはそんな境遇にも関わらず応援してくれるファン、作品に取りくむ同業者に対して彼女は誠意を持って女優業を全うしていった事。その心意気が「子役出身の名女優」という稀有な存在にさせたのだろう。 戦後の木下恵介/成瀬己喜男監督作は邦画史上の名コンビだけど、戦前でいうならこの作品、山本嘉次郎監督に出会えたのは相当大きかったはず。この年14才(‼)の演技力もさることながら、彼女をより良く魅せる為の工夫、文盲である事の焦燥感をあらわすショットとかラストシーン、新しい職場に向かう彼女の正面を捉えた移動撮影などは当時からすれば外国映画の流れをくんだ、斬新な表現だったのではないか。(またトークショーで印象的だったのは生前の高峰さんが斎藤さんに「この作品に出れたからスターになった」と山本監督に感謝していた事と合わせて、若年期から自分が売れた理由を冷静に分析してたというその才覚)時代を考えれば点数としてはこんなものだけど、彼女のファンには必見の一本。後年の「馬(’41)」と合わせて、どうぞ。 [映画館(邦画)] 7点(2024-04-13 21:26:06) |
3. (秘)色情めす市場
《ネタバレ》 当初予定されたタイトル「受胎告知」のイメージで見るか、 現行の「(秘)色情めす市場」として鑑賞するかで評価が 分かれるのではないか、という感想を持った一本。 モノクロで映し出される大阪・釜ヶ崎の生活感溢れる 情景は「生きる為に性を売る」感が生々しすぎて エロなんて感じる事無く、劇場を出た20代の私。 その時点で田中監督が「受胎告知」というタイトルに こだわりを持ってた事、合わせてこの時期に お子様を亡くされる悲劇中での撮影であった事も知らず。 約10年ぶりのスクリーン鑑賞、上記のポイントを踏まえて 見直すとヒロインは汚れた俗世の中で生きている聖母 みたいなもの。生活の糧として売っていた身体を 愛の奉仕目的で捧げる事で世界に色が付く =真っ赤な夕日が映し出す天王寺や大阪城、通天閣に 連なるイメージの羅列。枯れた今見直すと凄いエネルギー。 何十年経っても変わらないのはヒロイン芹明香の素晴らしさ。 この年19才とは思えない。面白いのは彼女自身は 「(秘)色情めす市場」タイトルの方が好みだった事、 周囲の反応とは逆に「演技には納得して無かった」 とインタビューで述べてる事。 初見に比べて評価が上がったので、 点数甘いかなと思うけど機会が有れば。 ブコウスキーの本・世界観が好きならハマるかも。 [映画館(邦画)] 7点(2024-02-18 08:46:54) |
4. 非行少女
《ネタバレ》 絶望的な展開であっても私は青春映画に「若さ故の闊達さ/明るさ/躍動感」を一瞬でも求めてしまう。なので監督デビュー作「キューポラのある町(’61)」に感じられた瑞々しさが2作目にして稀薄になってしまっている(金沢の街を映し出すショットや小道具の使い方)様に感じられるのでこの点数。レビュー以上。...ここから先はおっさんの愚痴なんですけど、和泉雅子推しの自分としてはこの作品見るたんびにやりきれないんすよ、ったく。 「わずか16歳の和泉が難役に挑み、その演技が高く評価され、一躍スターへとのし上げた一本。」全くその通り。ただ浦山監督のベストでないこの作品が彼女の代表作になってしまった事、そして彼女の演技力を発揮する土壌が60年代後期の日活に無かった、という事が辛すぎる。同業他社で興味をもってくれた人はいた。黒澤明「椿三十郎(’62)」で団令子の演じたお姫様役、当初は和泉雅子にオファーしたものだったが五社協定で参加出来ずに流れたというのは有名な話。彼女が松竹に居たら「男はつらいよ」ヒロインはお手の物だろう。東宝サラリーマン喜劇だって大映(市川崑とか増村保造)の女性映画だってこなせたかもしれない。いや、彼女の映画界入りが5年早かったら川島雄三の薫陶は受けられたかもしれん。(さすがに今村昌平は勘弁だが) 映画界の斜陽化・放蕩経営が続いた日活はロマンポルノ運営に移行(1971年)。その前後に彼女はフリーになったが、在籍していた会社に殉じる様に芸能活動をテレビ・音楽にシフト、映画界から離れてしまった経歴になってしまう。同期吉永小百合/松原智恵子は現在でも現役なのだから、めぐり合わせというのか道っていうのか。 ファンになってから何回か彼女のトークショーに参加した際印象的だったのは、映画鑑賞:趣味と公言してた彼女が15才で入社して約10年、青春を過ごしてきたあの日々を「本当に誇りに思っているし、光栄であった」事を熱っぽく話されていてその点、ファンとしては救われた感があった。逆に彼女が極地冒険家として活動を始めた原点は映画界で達成できなかった満足感を満たす為の代替行為だったのかな、と個人的に感じてしまいましたよ。 あ~あ、文章長くなっちゃった。ここまでお付き合いいただき、有難うございました。(2024年神田神保町シアター「女優魂」企画で鑑賞) [映画館(邦画)] 6点(2024-02-12 08:17:24) |
5. 我が家は楽し(1951)
《ネタバレ》 中村登監督を勝手に「松竹版成瀬己喜男」と想ってる私としては この作品、中村監督版「おかあさん(’52)」。いやこっちが早いんですよね。 昨年2023年の神保町シアター、「中村登生誕110年」特集で鑑賞。 年取ってくるとこういう幸せいっぱいのホームドラマ、弱いのよ。 個人的にこの作品のツボは、配役の妙にある気がしてる。 笠智衆/山田五十鈴/高峰秀子/佐田啓二といった、 どちらかというと心に陰のある役柄を得意としてる彼らが ストーリー上起こり得る不幸に胸を痛める演技が上手いので、 ラストの大団円にて「埴生の宿(ホーム・スウィート・ホーム)」を 泣き笑いで唄うラストが映えてくる。そしてアメリカのホームドラマを 上手く換骨奪胎した(父親笠智衆の物忘れ気質とか) 中村監督の職人ぶりもまたいいのよ、これ。 デビュー作品になった岸恵子、ここでは添え物。 ただ彼女のキャリアを考えたら、松竹/本作品のデビューは 最良のものだったのではないだろうか。 彼女の講演会で話されてて印象的だったのだけど 彼女自身当初は大学入学まで、と考えてた役者人生。 この作品で様々な才能と触れ合い、時間を共にする事で 本物の価値に出会い、本当に啓蒙を受けたんだろうな、 自分を磨く場として映画界に魅力を感じたんだろうなと 個人的には感じてしまった。 点数はこんなもんだけど、鑑賞後の気持ちよさも含めて 本当は+2点にしたい位。機会があれば是非。 ってまだDVD化してないの?がんばれ松竹 [映画館(邦画)] 7点(2024-01-21 17:49:40) |
6. NO 選挙、NO LIFE
《ネタバレ》 彼の仕事ぶりを賞賛するという単純な話ではなく、その裏に秘められたモノ、作品が世に出る意味ってのを汲んであげる事こそが大切、と思わせた一本。「NO選挙,NO LIFE」題は選挙取材をライフワークにしている畠山氏の心意気を表したものであると同時に、国民が政府国家に物申す重要な機会たる『選挙』に対して、あまりにも無関心な社会に対する疑問の表れであり、民主国家においては「選挙が無ければ、国民は生活なんてできない=NO選挙,NO LIFE、(だけど実情は)」というダブルミーニングなんじゃないかな。過去の駐在経験で「お上に文句を言うと犯罪となる世界の片鱗に居た」半人前の私、Nbu2としては、民主主義国家において選挙の有難みはちったぁ認識してる。程度の大小あるとはいえ畠山氏の様な選挙に対する関心を国民はもってしかるべきなのに、彼の情熱が「奇行」として扱われてしまう現状はおかしいし、「彼は民主主義の最後の良心」という知識人の説明も、結局畠山氏に苦労背負わせてるだけじゃん、となる。経済的/体力的に辛いから、という理由だけでなく社会の無関心も彼が限界と感じた理由に入るんだろうな。このドキュメンタリーを高評価にしているのは、絶望よりも希望:畠山氏の人となりや情熱に対して関係者各位が100%全肯定している様をちゃんと映している点にある。ご家族や取材を受ける候補者の反応、そして心が折れかけた時期に「民意が政治を変える」情熱を改めて再認識させられた沖縄の人達。 最後に個人的な要望だが、畠山氏がもし引退となったとしても、彼の情熱心意気が社会にとって当たり前の認識として良識のある人々によって残されてゆく、という幸せな結末をもって終わる事を切に願っている。その日まで身体に気を付けて欲しいなぁ、うん。 長文失礼しました。 [映画館(邦画)] 8点(2024-01-01 07:59:17) |
7. アントニオ猪木をさがして
《ネタバレ》 (敬称略)①ドラマパート不要⓶字幕必要③取材不足。なんだけど③についてレビューしたい。その生涯は、ブラジル移民から、レスラーへ~ライバル馬場との比較~新日本プロレス旗揚げ~政治家転身等、「一寸先はハプニング」の連続。その苦境を彼は「馬鹿になって」笑い飛ばし、尋常じゃないファイティング・スピリットと常人にはなし得ない行動力で立ち向かい、それを死の床までさらけ出した。レスラーとしてだけでなく、人間猪木寛至として燃える闘魂はファンに愛された。神田伯山や有田哲平、安田顕はその生き方を、藤原喜明や藤波辰爾はレスラーとしての理想として未だに逃れられない様を映し出す、それはわかる。ただ見たいのはそこではない。もっとインタビューすべき面々が健在だろう。個人的な想いこみもあるのだけど、アントニオ猪木は全くもって聖人君子ではなかった。常人とは異なる膨大な闘争心と突飛を通り越した迷惑千万な破天荒ぶりによって、彼の行く道には少数の賛同者と倍以上の離脱者を生み出した。対戦相手は極端な話、猪木の格を引き上げる為の素材でしかなかった。理想を追い求めすぎて現実からかけ離れた企画ビジネスは、大借金と信用失墜(猪木自身はともかくパンピーはたまったものではない)しか生み出さなかった。デカい山を一方向から見るのではない、やはり「キラー猪木」な暗黒面を挙げた上で、「それでもだけど」にしないとわざわざ映画化する意味がない。A.当時のマスコミ(東スポ/ゴング/週プロ) B.彼によって潰された他団体のエースレスラー、関係者(ラッシャー木村/ストロング金剛/大木金太郎) C.振り回されっぱなしだった面々:古舘伊知郎、新間寿、坂口征二、大塚直樹、サイモン・ケリー D.倍賞美津子(彼女との結婚によって猪木は「対世間」という点で物凄く影響を受けた、とは前田日明の説明) E.猪木に影響されなかった天才2人:佐山聡と武藤敬司 は必要でしょ。作中印象的的だったのは、猪木拒絶→受け入れを示した新日復活の立役者、棚橋弘至のインタビュー。「制約の多い生き方を余儀なくされてる現代において彼の生き方は何を示唆し、これからの社会にてどの様な啓蒙となりうるのか」テーマはいいのに本当もったいない。過去のアーカイブ見てた方がまし、ってなっちゃぁいけません。 という事でおじさんは88.08.08の対藤波辰爾、60分ドロー戦でも見て無聊の慰めとしよう...長文失礼しました。 [映画館(邦画)] 4点(2023-10-29 14:23:33) |
8. 紀ノ川
《ネタバレ》 神田神保町シアターにおける「生誕110年記念 - 中村登」特集で初劇場鑑賞。紀ノ川の流れと共に生きた(時代に)殉じた母/抗った娘/添ってゆく孫娘の三代記。なんだけどテーマたる「不変と流転」を表現するのに字幕や多い台詞でいちいち情景を語らせたり、大仰な音楽を流す事で示唆してる:「こうすりゃ観客は理解・感動するでしょ」みたいな大袈裟文藝大作、苦手なんですよね。個人的には中村監督は女性の信念/情念を描き出す事に長けた「松竹版成瀬己喜男」と勝手に思ってたので、彼の作歴中一番の知名度を誇る作品ではあるものの、身の丈合わない感を感じちゃったんですよ。但今回レビューを記載させていただくのは主演司葉子の名演ぶりに対して。昔彼女のトークショーを聞く僥倖にあずかったのですが、によると『・男性主体の企画が多い東宝映画内での自身の立ち位置・10年間女優業を続けマンネリ感・お母さまを亡くされた といった事が重なり、演技者としての自信を無くされた時期にあたっていた。それが成瀬作品「ひき逃げ(’66)」出演後、改めて演技への自信が芽生えた時にいただいたのがこの作品』『夫を早くに亡くし、未亡人として戦後を乗り越えた司さんの母親を表現したのがあの役柄』そりゃぁ名演になるわな、という説得力です。でこの後が成瀬の名作「乱れ雲(’67)」。レビュアー皆様が「作品に恵まれたならば名女優になれた」というのも納得ですよ。(司さんご自身も「小津安二郎/成瀬己喜男の若すぎた逝去は自分にとって大きすぎる位の影響があった」とひたすら残念がってたのが印象的でした) そんな訳で機会があれば。 [映画館(邦画)] 6点(2023-08-20 08:44:33)(良:1票) |
9. 真空地帯
《ネタバレ》 「組織保身の為には個々の人間性や感情は無視される」「目的達成のための効果的かつ合理性に基づいたものではない、ただ末端に至るまで感情を引き上げる為の前時代的な押し付けで運営されている行動規範」「責任の所在が不明瞭なままの組織戦略」軍隊生活の非人間性を訴えたこの古典のテーマが、2023年の今に至るまで問題提起されてるのは、どういった了見なんでしょうかね...。少し録音が聞き取りづらいところがあったので(独立プロ作品なので大手よりはリマスターの機会少ないのかな)その点がマイナス。 [映画館(邦画)] 7点(2023-08-13 10:48:30) |
10. 地球防衛軍
《ネタバレ》 結局、ミステリアンが地球侵攻失敗した理由って 日本をターゲットにしたからなのではないか。 土地だってもっと広い場所もあるだろうに。 白川由美さんの入浴シーンでドキドキしちゃったのかな。 日本の盆踊りに惹かれちゃったのかな。 この頃から日本、インパウンド的に魅力あったんだろな。 それはともかく...地球滅亡の危機たるもの、 H・G・ウェルズ「宇宙戦争」なり、「インディペンデンス・デイ」 的な侵略側の絶対的力を誇示する等の大緊張が あってしかるべきなのだけど、モゲラの鉄橋橋踏み外し・ マーカライトファープ光線への頭ぶつけ、では幻想譚としても なんか膝カックンな展開が繰り広げられる点が、歯がゆい。 その反面地球移住への条件として「種の保存」を要求し 地球人女性を捕えて基地に連れてゆくってのは妙に 生々しさを感じて、気恥ずかしい。 ただ今回スクリーンで鑑賞して良かったのは、 「現実に有り得るのではないか」と感じさせる 小松崎茂デザインの各種兵器。そして 私が「東宝・伊福部昭3大マーチ」と勝手に名付けてる (あとはゴジラのテーマ/怪獣大戦争マーチ) 地球防衛軍のテーマを大音量で聴けた事。 得した気分に、なりました。 [映画館(邦画)] 6点(2023-08-04 20:03:37) |
11. 遊び
《ネタバレ》 「2023年:大映4K映画祭」関連企画で初めて劇場鑑賞。 私が増村監督を知ったのはテレビドラマ:山口百恵主演「赤い衝撃(’76〜)」、 堀ちえみ&風間杜夫主演「スチュワーデス物語(’84〜)」(脚本)位から。 少年期の私からすれば「なんちゅう暑苦しく、クドイ作品なんだ」と感じてたけど、 彼の経歴を辿ってみればTV界における彼の業績は「才能の出涸らし」でしか なかった事がわかる今日この頃。そりゃ「盲獣(’69)」みたいな世界観、 より大衆性を求められるテレビでは絶対に出来るわけないもんね。 青春映画「くちづけ(’57)」で監督デビューした彼にとって 最後の大映作品となったこの一本が青春譚になったのは 大映在籍時にやりたい事全てやりつくしただろう彼が、 生涯のテーマ「感情を露わにする、近代的人間像 を日本映画に打ち立てる」への原点回帰として 取り上げたのではないかな、と個人的には感じてる。 アメリカンニューシネマから影響を受けたと思われる 若者二人の逃避行を描くこの作品、突然挿入される わかりづらいフラッシュバック(過去の回想)とか 大門正明の台詞廻し等、鬱陶しい展開の上 「若さ故のあやまち」から来る悲劇感ありあり。 でもなんかその若さがその悲劇を打破してくれる、 という希望も感じさせる雰囲気に包まれてる作品で 自分にとって好印象なのでこの点数。 それを強調しているのがこの年16才(!)の関根恵子 のヌード/濡れ場シーンとボロ舟を押しながら川へ流れゆくラスト。 日本青春映画の佳作としておすすめ。機会があれば。 [映画館(邦画)] 7点(2023-06-20 19:56:33) |
12. 腰抜け二刀流
《ネタバレ》 神田・神保町シアターにおける「生誕110年・森繁久彌特集」にて初鑑賞。NHKのアナウンサーから始まった経歴は今でいう「マルチタレント」の先駆けであり、「当時の世間では一段下に観られていた喜劇役者が本格的な演劇役者に成り上がる」系譜の道筋を作り上げた人物として、最後は国民栄誉賞まで受け取ったのだから凄い才能であった、と思うのであります。そんな彼にもはじめの一歩はあった訳で、それが30代で初主演となったこの作品。ある大名の御家騒動に巻き込まれた鉄火肌の飲み屋女中とそのパートナーになる、剣豪:宮本武蔵と勘違いされた偽物香具師、この二人が巻き起こす時代劇ミュージカル。題名からわかる通りノーマン・マクラウド「腰抜け二丁拳銃(’48)」の引き直し版でありジェーン・ラッセル:轟、ボブ・ホープ:森繫なんですよ、これ。ただ作品そのものは換骨奪胎どころか脱線転覆...いや脱線ほどではないけどグダグダな展開が進み上映時間の短さもあってあっという間に終劇。この映画の見どころはやはり舞台(喜劇)役者として脂の乗り切った彼のコメディ・ミュージカル演技。映画への経験値が無い分未熟な感は否めないけど、戦後芸能史に多大な影響を与えた、「スピード感ある軽妙洒脱さ混じった演技」の一端が見られるところは最初の主演作から感じられるのではないだろうか。あと同年にデビューした香川京子の出演もさることながら、清川虹子の登場にはちょっとビックリ。 [映画館(邦画)] 5点(2023-05-17 21:16:41) |
13. 陽のあたる坂道(1958)
《ネタバレ》 日本「青春」映画のエバーグリーンですよね、この作品。今回神田神保町シアターにおける「デビュー70周年/芦川いづみ」特集で初めて劇場にて鑑賞。実は私、今回の特集に当って芦川いづみの別作品(今回は「あした晴れるか(’60)」「乳母車(’56)」)を鑑賞してたのですが、この作品上映時は明らかに観客層が違う。つまり芦川いづみだけではない、石原裕次郎/北原三枝/川地民夫ファンにとっても思い入れのある一本ってことなんでしょう。戦後日本青春映画のビッグバンは日活+石原裕次郎の登場=「狂った果実(’56)」と考えてる自分ですが、不良性を強調し過ぎた演技、くどすぎてあんまり好きじゃない。但この作品においては「(マーロン・)ブランドじゃなくて(ジェームス・)ディーン的」な心に陰のある若者、というスタンス/演技が私だけではない、当時の老若男女に受け入れられ俳優石原裕次郎が大スター、ブームとなる後押しとなった1本としてご年配の映画ファンから愛されているんだなぁ、と感じたわけっすよ。あともう一点思ったのは、若手のフォローに回っているベテランの役者があっての日活青春映画であったという事。主演4人の魅力以上に彼らを支える小杉勇/千田是也/森川信/小沢昭一の演技が上手なので3時間半の長い映画も意外と退屈せずに鑑賞出来た。その中でもMVPは轟夕起子。1967年、49歳という若さでこの世を去ってしまう彼女にとっても、この作品は記憶に残る名演技としてもっともっと評価されてもいいはず。そういった事を念頭にいれつつ、50年代末~60年代中旬の日本芸能社会を牽引していた日活青春映画(大門軍団とか七曲署のボスだけではない石原裕次郎の魅力)を堪能していただきたいということで、機会があれば。あとスクリーンで見る北原三枝+芦川いづみ、良かったなぁ...。結局そっちかい。 [映画館(邦画)] 7点(2023-04-02 19:14:16) |
14. みんな~やってるか!
《ネタバレ》 長い事映画ファンしてると、「今でこそ『名作』とされてるけど上映当時は?だった」映画をスクリーンで鑑賞する恩恵というものはあるもので、例えばタランティーノ「レザボア・ドッグス(’93)」とかとデ・パルマ「カリートの道(’93)」なんかはロードショー時に観てる。「ヒッチャー(’85)」もそう。これ『映画ファンの自慢』。反対にどうしてこんな映画をスクリーンで見てしまったんだろう、という「悪魔の毒々モンスター(’84)」「メガフォース(’82)」「死亡の塔(’80)」なんかは「おれこんな映画ミチャッタ!どMだぜ!」という『シオシオ鑑賞眼』もある。(「スペースバンパイア(’85)」は大スクリーンの鑑賞:いろんな意味で満足したので『自慢』)『My鑑賞眼、失墜』もあるだろう。観客の期待値と実際の鑑賞に乖離が有りすぎて駄目だコリャなヤツ。 それは皆様の方がご存じのはず。...でレビューに戻る。 実はこの映画もちゃんとロードショー時にスクリーンで見てる。なんてチャレンジャーなんだろ、俺。そりゃぁ20代で鑑賞した際はくだらなさすぎてあっけにとられましたよ。友達から感想を求められた際、「まだ見てないからわからないんだよね~」でごまかしたし。黒歴史みたいなもんだ。ただ最近再鑑賞し馬鹿馬鹿しいほどのくだらなさはともかく、この作品は人間北野武の述懐:「エラそーな事言っても結局人間なんて性欲/食欲/金欲、煩悩の塊じゃねーか、ケセラセラ」いつの間にかトップに上りつめた、自分自身への嘲笑なんじゃないかな、この作品。この後彼はバイク事故で生死の境を彷徨った挙句「一時はうつ病であった」旨の発言をしていた事もあって、そんな思いを私感じたわけですよ。なので『失墜』から『シオシオ』へこの作品は格上げ。ま作品そのものは時間の無駄的くだらなさ満杯なので、この点数なんだけど。あと感心したのは才能の無駄遣いじゃなくて、才能を「洗練された」無駄遣いで起用してた(小林昭二/岡田真澄/ちゃんばらトリオ)点。 [映画館(邦画)] 2点(2023-02-12 09:49:46)(良:1票) |
15. あゝ声なき友
《ネタバレ》 「もっと上手くできたんじゃないのかなぁ」というのが率直な感想。戦没兵の遺書を遺族へ届ける為、日本各地を旅する男を渥美清が演じたロードムービー。役者渥美清が映画化を熱望し、個人プロダクションを立ち上げてまで作品化した意図は明白。復興に沸く社会の光が届かない、戦争の影や闇に未だ苦しみもがいている人達に焦点を当てるなんて題材は戦後四半世紀が経ち、少しずつ記憶が薄れつつあるこの時期だったからこその上映だったんだろうな。がこの作品、評論家からは酷評・興行的にも失敗。渥美清にとってはこの映画の失敗によって、役者スケジュールを「年2回の寅さんと松竹大作へのゲスト出演」にシフトし、観客の求める「寅さん(もしくはそれに近いキャラクター)」に専念する事を決定づけた1本になっちゃったと自分は思ってる。70年代は戦争体験者が社会構成上まだ多かったであろう時期、「戦争がもたらす悲劇」を描くのはリアル過ぎると不快を覚える観客もいたろうし、といって現実から離れた絵空事みたいに描けば作品を世に出す意味は薄れる。個人的には最近の調査で「太平洋戦争下における兵士の死亡原因の6割は飢餓・もしくはそれに伴う戦病死である」旨を知っている分だけ、その背景にはもっと奥深い、闇の深淵が広がってる題材と思うのだけどすべてを映すのには限界があり、その点が自分の感じる「もっと上手くできなかったのか」につながる。(同じ1972年に深作欣二が東宝で「軍旗はためく下に」を先に上映してるのも大きい)NHK等のドキュメンタリーでも「届かなかった兵隊の遺書」テーマは扱う様になってはいるがそれでも90〜2000年代。やはり早すぎた企画だったんだろう。この映画のポイントは「渥美清の役歴上、もっとも陰のある役柄」。世評では「拝啓天皇陛下様(’63)」などが挙げられるが個人的にはこっち。この題材こそ現在リメイクしてあげるべき、なんだろうな。機会が有れば。 [映画館(邦画)] 7点(2023-01-28 12:25:06)(良:1票) |
16. 銀河英雄伝説 新たなる戦いの序曲<オーヴァチュア>
《ネタバレ》 OVA第二部(バーミリオンの戦い/銀河帝国の統一)が終わったこのタイミングで何故この作品を制作上映したか考えると多分、今の「鬼滅の刃」的セールスマーケテイング=映画のヒットを狙いOVAの販売促進につなげる+柳ドジョウで映画第2・第3弾も、と目論んだけど思ったよりもヒットしなかった+バブルが弾けて予算も無い、でスクリーン上映機会がこれ以降なかったのは残念でもあり、また当然かなと思ってました。(OVAは物語最後まで完走した点は良かった)だから2022年末にリバイバル上映、ってのはビックリ。この機会もたぶん「(リメイク)銀河英雄伝説 Die Neue These」の販促も兼ねて、何だろうけどおじさんとしては約30年ぶりのスクリーン鑑賞と大音量のクラシックだけで満足。(点数はともかく)あと個人的な感想なんだけど、国家と政治/戦争と平和/民主主義を考えるとっかかりとして、中学生以上の若人にこの作品体験を通過してもらいたい。というわけで順番は小説→OVA:Die Neue These→OVA:石黒版→漫画(道原かつみ版でも藤崎竜版でもOK)かな。てなわけで、小説版の後で興味があれば。 [映画館(邦画)] 5点(2023-01-15 19:35:06) |
17. あいつばかりが何故もてる
《ネタバレ》 「渥美清の魅力は寅さんだけにあらず」常々から言いまくってる私としては、今年1月から始まってる神田・神保町シアター「俳優・渥美清:「寅さん」だけじゃない映画人生」この企画が全くもって我が意を得たりでジャストフィットなラインナップなんですよ。喜劇役者であった彼だからもちろん人情劇・喜劇は良い。ただ私としましてはそういった枷に組み込まれる前、人間の「業」みたいな、暗い面を演じていた渥美清に物凄い魅力を感じ「寅さん休んで、極悪非道の大悪人とか性犯罪者とか詐欺師みたいな役柄、やってくんないかな」と思ってました(ファンの皆様、本当にすみません)。その位渥美清、という役者には人間が持つ心情の振幅を演じ分けられる技量というのかポテンシャルがあったんだ、とも一回力説いたします。(と同時に最後まで寅さんに徹し、彼の演技の「闇」を見せる機会はついぞなかった事も賞賛に値します) 初めての主演作品となったこの作品に関していえば、テレビ界(この当時テレビは生放送が主流だった)に慣れてるからか、演技が急ぎすぎというのか「間」の取り方が後年の名人芸までは至っておらずそこがマイナス点。但し「人情味溢れる」スリ役という彼の役柄は喜劇的なペースにはあるものの、目の奥に見える漆黒というのか闇というのか、という雰囲気が早くも見受けられそこはポイント。それ以上にもっと大事なのはその後邦画界を支える「国民的兄妹(今回神保町シアターのパンフより)」倍賞千恵子との初?顔合わせ。個人的には三木のり平・田中春夫・森川信・清川虹子のフォローもうれしいが、やっぱり寅とさくらだよね、この場合。 [映画館(邦画)] 5点(2023-01-15 14:57:42) |
18. 空の大怪獣ラドン
《ネタバレ》 2023年初・映画館鑑賞はこの作品。 スクリーンで特撮映画を見るのは、いいもんだ。 「ゴジラ(’54)」が(核)戦争体験、「モスラ(’62)」が神話/御伽話 という点を観客に想像させる作品としたら、この映画で自分が 感じたのは身近にある恐怖=人間社会に被害を及ぼす 害獣(それこそ熊とか虎とかワニとか)の存在。 なので個人的にはメガヌロン発生~ラドン出現に至る、 前半パートの方が出色、と思ってる。 とはいえ後半、ラドンが北九州を衝撃波で蹂躙してゆく 一連のシーンはゴジラ(’54)からわずか2年しか 経ってないのに、カラー映像も含めて特撮技術の 進歩・当時の映画業界の隆盛ぶりが垣間見え、 これはこれで一見の価値はある。 上映時間の短さが不満なのと 前年の「モスラ/4Kリマスター」に感動しすぎて インパクトという点では今回レビューとして この点数なんだけど、ちゃんと入場料金分の モトは取れた。機会があれば是非。 [映画館(邦画)] 7点(2023-01-02 14:01:40)(良:1票) |
19. 蜘蛛巣城
《ネタバレ》 オーソン・ウェルズ版('48)やロマン・ポランスキー版('71)、 ジャスティン・カーゼル版('15)も見てる(ジョエル・コーエン版は未見) 自分としてはキリスト教の教義がわからない分、単純に 「野心と欲望に満ちた男の破滅」を日本的(能や狂言みたい表情演技) なテイストで味付けしている、「マクベス」の映像化として一番面白かった。 好きなのは2点。まず女性の使い方が黒澤明作品史上一番うまい。 女性の美貌というより情念に重きを置いてるのが彼らしいっちゃ彼らしい。 山田五十鈴と浪花千栄子なら当然か。 あとは黒澤明の演出するアクション場面・演出力はこの当時 世界映画史上の才能をもっていた事がわかる、という点。 森林の中を駆け抜ける馬のダイナミズムや有名な弓矢の ラストシーン。それを担っていた三船敏郎の素晴らしさもあるけど 弓矢が一本壁に刺さる、からのあの矢衾(やぶすま)は単純に凄い。 あえて難点をいうと、やっぱり音質。 今回「午前10時の映画祭」での4Kリマスター版で鑑賞。 映像は素晴らしいし、30年前に場末の映画館で感じた時の 「台詞がさっぱりわからない」頃から比べれば凄い改善なのだが、 これは出来たら字幕つけて欲しい。自分の鑑賞時は無かったけど 他のところはどうなのかな。老年に至る映画ファンの為にも、 いろんな意味でのバリアフリーを! [映画館(邦画)] 8点(2022-12-11 08:54:43) |
20. 牛久
《ネタバレ》 我々は本当に「良識のある国際人」と言えるのだろうか? 入国管理センター職員達の行為は、日本人の心情を写す鏡の 様なものではないか。「異文化・異人種」に対する怯えを 振り払う為の行動としての威圧。日本人社会からの村八分。 彼らは我々、自分達自身でもある。 そして管理センターの行動規範は「難民=不法入国 してきた犯罪者」という前時代的なもの。臭い物には蓋 で、何十年とほったらかしにしてきた政府政策のツケが、 この混迷した世界には対応出来てない事を証明してるわけだ。 どうすりゃいいの、この状況? ドキュメンタリーとしては製作者の意見の押し付けが目立ち、 作品としては率直にいって自分は好きではない。レビュワー皆様 の捉え方によっては1点とか2点もあり得る作品だろう。 だけどこの作品に関しては私Nbu2レビューの 絞めパテーン、「~機会が有れば鑑賞下さい」とは書けない。 好き嫌い良し悪しはともかく、このドキュメンタリーは、 現代に生きる我々にとっての「踏み絵」たる作品だから、ちゃんと見るべき。 【追記】今回映画上映後にトーマス・アッシュ監督の挨拶があったのですが、 無知こそが最大の問題であり「この事実が何とか伝わって欲しい」、 「映画を鑑賞した人々が考えるきっかけになって欲しい」点を私は強く感じました。 [映画館(字幕)] 8点(2022-09-11 06:29:57)(良:1票) |