1. 近松物語
近松門左衛門に井原西鶴を取り入れ、さらに脚本家の依田義賢の独創を加えて作り上げられた、非常に緊密な脚本。 驚くべきは、その緊密な脚本を芸術にまで押し上げた溝口健二の腕前。 映画に芸術という言葉が当てはまるなら、まさにこの映画がそれでしょう。 溝口映画にしては晦渋さがなく非常に口当たりがよい。 溝口映画初心者にはうってつけの作品といえそうだが、それにもかかわらず、芸術的な完成度はとてつもなく高い。 問題なく10点と言いたいところだが・・・・・これを他の監督が撮ったなら何の問題もなく10点でしょう。 でも、溝口映画としてみたら、非常に天の邪鬼な言い方になるかもしれないが、きれいすぎる。 「祇園の姉妹」や「西鶴一代女」のように、荒削りだろうがなんだろうが破綻もかまわずぐいぐい突き詰めて行くような、溝口独特の気迫と言うか執念がやや薄い。 きれいすぎるというただその一点のために、大溝口に敬意を表して、10点に限りなく近い、辛口の9点。 [映画館(邦画)] 9点(2016-11-20 23:39:18) |
2. 白痴(1951)
黒沢はストーリーテリングのうまいエンターテイメントにその真骨頂があり、ドストエフスキーのような人間存在そのものを描くような作家とは方向性が全く違う。 それだからこそ、ないものねだりで、こういうものを手がけてみたかったんだろうな、と思わせる作品。 特に、溝口や小津という黒沢の先輩格の巨匠が人間存在に迫る作品で高い評価を得ているので、そのまねをしてみたかったのでしょう。 自分にもそういうものが作れるんだということを証明するために。 でも見事に失敗しました。 [映画館(邦画)] 4点(2016-11-20 22:33:53) |
3. 西鶴一代女
これはまたただならぬ映画ですね。 一切の妥協を排してひたすら一人の女の人間性を問い詰めて行く。この執念深さには脱帽としか言いようがない。 日本映画なのにどこか北欧の映画を見ているような、妙に普遍的な感覚を覚える。 ことに人生の重圧に耐えてなお気丈に立ち向かうお春(田中絹代)が、居並ぶ羅漢像の前で過去を振り返り 感極まって気絶する前の、あの突き詰めた表情は、どこか崇高さすら帯びている。 また、夜鷹に落ちぶれたお春が、客の求めに応じて、化け猫のふりをしてお金をもらうところなど実に秀逸。 まさにこれは溝口健二にしか撮れない傑作。 [映画館(邦画)] 10点(2015-11-28 03:10:58) |
4. 東京物語
これはまあ、何と言ったらいいか、言語に絶する、あるいは言語道断(?)とでも言ったらいいのか こんな完璧な映画作っちゃいけませんよ。 レオ・マッケリーの「明日は来らず」にインスパイアーされて作ったということで、 あちらも、見捨てられた老夫婦が自分たちで生る道を模索するさまが悲哀とともにが描かれて素晴らしい作品だが、 これはさらにその域を越えて、諦念とそれを許容する寛容が、世界的なスケールで描かれ、ほとんど普遍の域に達している。 不朽の名作とはこういう映画のことを言うんでしょう。映画史上、永遠に残る傑作です。 [映画館(邦画)] 10点(2015-10-04 23:32:00)(良:1票) |
5. 晩春
いい映画だなー。つい何度でも見てしまうMy BESTの小津映画。 ファザコンの家庭生活に甘んじて、外の世界へ一歩踏み出せない娘と、 娘との生活に慣れすぎていたことに気づき結婚を契機に互いの自立を促す父。 この作品は原節子の小津映画初出演になるが、小津の原によせる愛情が満ち満ちたような作品で、前から、斜めから、お尻から撮るだけでなく、起きている顔、寝ている顔、笑い顔、愛想のいい顔、からかうような顔、澄ました顔、不機嫌な顔、冷たい蔑むような顔、 嫉妬に駆られた顔、穏やかな顔、と実に貪欲に原節子を丸裸にするように撮っている。 原節子もよく小津の要望に応えたというべきで、従来の単なる笑った美人女優から大きく脱皮して、 多面的な要素を含んだ一個の人間としての役柄を好演している。それを周りの役者ががっちり支えているのも素晴らしい。 結婚前の旅行で父が娘に説く場面は、ちょと説教臭くて、この映画の唯一のキズだが、全体的に気持ちよく感情移入のできる映画で、 「東京物語」のように立派すぎないところもまたいい。 [映画館(邦画)] 10点(2015-09-21 23:46:05) |
6. 浪花の恋の物語
《ネタバレ》 近松門左衛門の「冥土の飛脚」を映画用に再構成したもので、実際に起こった事件を近松門左衛門(片岡知恵蔵)がじかに見聞きし、 一つの作品(浄瑠璃)に仕上げる、という形式をとっている。 まだ映画の全盛期だったこともあり、東映の美術セットが実に見事。 主演の中村錦之助が金と力はなかりけりの典型的な色男(やさ男)を巧みに演じている。 有馬稲子もしっとりとした良い女(遊女)を好演。 圧巻は、二人の逃避行(道行)。場面が一転すると、追われる身となった二人がかばうようにしながら、 落ちのびていく様を流麗な舞に乗せて見せていく。このシーンは本当に美しい。 錦之助が文字通り水も滴るような美男ぶりで、有馬稲子は日本人形のような美しさ。 骨太の「飢餓海峡」を撮った内田吐夢監督に、こんな繊細な一面があるのかと、驚いた。 [DVD(吹替)] 9点(2015-09-16 02:47:21) |