41. 17歳の肖像
《ネタバレ》 1950年代イギリス。思春期真っ只中の優等生ジェニーは毎日が退屈で仕方が無い。俗物の父親、女子高の厳格な先生、まだまだお子ちゃまなボーイフレンド。彼女の夢はフランスに行き、シャンソンを聴き、芸術や愛を語ること。デイヴィッドと出会い、恋に落ち、夢のような毎日が始まるはずだったが…。 自分の思春期を思い出すと、性別は違えど色々と重なる部分があり、ストーリーの序盤においては主人公に共感できた。親や学校との軋轢は誰しも通る道だろう。また、キャリー・マリガンの演技力も確かで(見た目も若いし)、はまり役と感じた。しかし、デイヴィッドが出てきて以降の彼女の行動にはちょっとびっくりしてしまった。いくら毎日が楽しいからって普通泥棒とは結婚しないだろうよ!もっと優等生キャラかと思ってたら、意外とぶっ飛んでてこっちがついて行けなかった。確かにデイヴィッドとの出会いを経て洗練されていく彼女を観ているのは楽しかったんだけれども、ちょっと脚本に難があるかもなあ。もう少し愛が深まっていくその過程を説明してほしかった。 また、最終的な結論が結局学校の元に戻ることだったというのも、肩透かしを食らった感がある。ジェニーには是非「第三の道」を進んでもらいたかった。スタッブス先生の自宅を訪問して「意外といいじゃん!」って、ジェニーの人を見る目が無さ過ぎだろう。厳しいけど芸術には造詣の深そうな先生だと観客の僕が先に気づいているのではおかしい。周りが見えていない思春期を良く表せているとも言えるけど…。まあ、でもベースは実話だからしゃあないか。総合すると演技は○で脚本は△という印象でした。 [映画館(字幕)] 6点(2010-07-25 17:26:01) |
42. インセプション
一度観ただけでは細部まで理解することができない複雑な映画だが、それを補って余りある中毒性を持った映画だった。予告編で流される今までに観たことのない映像とドラマチックな音楽。それの実物を確認するだけでも、映画館に足を運ぶ意味がある。期待を裏切らない新感覚の映像体験だった。 ネタバレしないためにはどこまで書いてよいのか線引きが難しいが、「主人公のコブと5人の仲間が、ある男にあるイメージを植え付けるための夢を見せようとする」ことがこの映画の骨子になる。より正確に言うと、「彼の夢に入り込み(イコール皆で同じ夢を見るということだが)、その世界でそれぞれがそれぞれの与えられた役割を演じて、その男がその内容を啓示として受け取るように画策する」ことだ。この時点で、説明はかなり複雑なことになっているのだが、この映画の中では夢を共有すること自体は意外と簡単で、専用の機械をお互いに接続して一緒に寝ればいいだけだ。そして、この映画の面白い点は筋ではないので、これ以上の説明は差し控えたい。 この映画の魅力は「独特の」映像世界にあると思う。近年「アバター」など3Dの映画が多く公開されているが、2Dでも十分に堪能できた。その世界は派手なのではなくて、まさに「夢の世界」で、無重力だったりアジアだったり銀世界だったり土砂降りだったりする。背景がコスプレのごとく変化する映画と言っても差し支えないだろう。たとえば「007シリーズ」は色んな場所でアクションが展開するのが面白いのだが、これを観ていたら思わずそれを連想した。でも、できればIMAXで観たかった! 予想通り、評価が分かれているようだが、僕は好みなので、是非問題点が改良された続編をお願いしたい。筋を観るべき映画ではないと言いつつも、設定が複雑なので色々と説明不足な部分もあるような気がするし。確かに監督の肩に力が入りすぎた感じもするし。たとえ失敗作と言われようとも、僕は「少なくとも前に倒れている!」と擁護したい。来週もう一度観る予定だ。 【追記】映画館で字幕版を再鑑賞。上のレビューでは「説明不足な部分がある」と書いてましたが、よく観てみると作品中できちんと説明されている部分も多いですね。ただし、情報量が多すぎて、字幕で追うのはちょっと限界があるかも。次は吹替えでも鑑賞したい。とにかく何回も観たい作品。この映像は何度観ても興奮する。1点プラスで9点! [映画館(字幕)] 9点(2010-07-18 22:46:19)(良:1票) |
43. レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで
《ネタバレ》 「アメリカン・ビューティー」の監督らしく、決して気持ちのいい展開は期待できないが、リアルで嫌らしい分、深い印象を残す作品だった。フランクもエイプリルも幸福を必死に求めようとするが、その思いが強いだけ足元を掬われ、前に進むことができない。どちらかが悪いわけではない。相性が悪いのである。更に言えば、表面的な相性が良いだけに更に悪い結果を招いているとも言える。 エイプリルは女優を夢み、フランクは自由な生活を夢見る。二人の思いはフランス行きの夢となって、まさに結実しようとする。しかし、その夢はエイプリルの妊娠で脆くも崩れてしまう。彼らは決して憎みあっていない。しかも似たもの同士だ。だから更に悲しいのだ。まるで運動会で二人三脚がどうしてもうまくいかない様を見ているようだ。片方が走ったときには、もう片方が付いていけない。片方が止まっても、もう片方は走り続ける。お互いに相手のことも考えているのに、目指すゴールが異なるのだ。 どちらかと言うとシリアスで暗い話であり、好みではないが、同時に非常に優れた作品であると感じた。この監督のものはもっと観たい。 [DVD(字幕)] 7点(2010-07-12 21:34:30) |
44. その土曜日、7時58分
兄弟の共犯関係を描いたシリアスドラマと言う設定が、最近観た「夢と犯罪」に酷似していた。どちらも面白かったが、こちらの方が犯した罪がよりエグく、兄貴の狂いっぷりも相当なので好みだった。ユアン・マクレガーが兄貴役の「夢と犯罪」はわりと等身大の話。それに対して、こっちはフィリップ・シーモア・ホフマンの粘着質で屈折したブッ飛び方が全開で、ストーリーも壮絶な展開を見せる。こっちのほうが実際にはありそうもないけど、映画としては面白かった。脇を固めるアルバート・フィニーやイーサン・ホークもさすがの演技。でも一番凄いのは80歳を越えてこれを撮るルメット御大か。 あと、最後に付け加えるとこの邦題はちょっとしっくり来ないと思う。僕が代わりに考えた邦題はこちら。「兄と弟の犯罪」。うーん、これもイマイチ。何か、ないですか? [DVD(字幕)] 7点(2010-06-05 17:34:53) |
45. グリーン・ゾーン
正直に言って、ポール・グリーングラス-マット・デイモンのタッグにはもっと期待していたので、期待以下といえば以下ですが、並みのアクション・サスペンスは遥かに超える出来と思います。物事が主人公にとってうまく進みすぎる嫌いはありますが、まさにノンストップで息もつかせない展開でした。アクション部分のラストも、展開がゆっくりであれば想定できる範囲なのですが、その時はまさかそういう方向に行くとは思わず、びっくりしてしまいました。 ちなみに撮り方に賛否両論あるようですが、私は手ぶれには強いほうなので、その点は特に減点対象とはしていません。また、アメリカ嫌いではないので、イラク戦争の大義云々を持ち出す気もありません。純粋に一個の戦争モノとしての評価です。 [映画館(字幕)] 7点(2010-05-31 22:00:25) |
46. ウォッチメン
ユニークかつおどろおどろしい設定に惹かれて、劇場公開時から気になっていたのだが、このたびようやくDVDで鑑賞した。面白かったので、鑑賞後に原作の日本語訳も買って読んだが、その微に入り細を穿った構成や背景ゆえに、まずは原作を読んでから映画を観るべきだったかもしれないと思った。もう一度、映画も観てみようと思う。 さて、映画は、さすがは映像で売るザック・スナイダーだけあって、ビジュアル面がものすごい。ドクター・マンハッタンの圧倒的な存在感やラスト付近の描写は凄まじい。ダイジェスト版としても良くできているが、いかんせん初めて本作を見る人は、正直何が何やらというところだろう。少なくとも一定レベルの現代アメリカ史は押さえておきたい。個人的には面白かったので7点をつけるが、少なくとも日本では万人ウケしそうにはない。観る人を選ぶ作品だと言えよう。 エンディングの「Desolation Row」がその歌詞と相俟って痛快。しばらくこの曲ばかり聞いていた。 <再鑑賞後>評価は変えないが、やはり原作を読んでから見たほうがよいと思う。やはり映画だけだと細部の理解が難しい。結末の表現方法が原作と映画で異なるが、映画のほうが意外にすっきりとまとまっていて良いかもしれない。 [DVD(字幕)] 7点(2010-05-16 21:43:20) |
47. ウディ・アレンの夢と犯罪
《ネタバレ》 一緒に観た人には不評でしたけど、意外と悪くないと言うかむしろ良いと思いました。でも、とてつもなく暗い話なので、そこは覚悟できる人と観ることをお勧めします。 主演の二人がうまいので、安定感のある作品に仕上がっています。クラシカルなサスペンスを好むいつものアレンの作品から頭が抜ける感じはないのですが、きっちりと仕上げた感はあります。 実際、これを自分に依頼されたらどうか?と考えると結構身につまされます。僕ならやるでしょうし、その後平然としていられる自信もありますから、物語として成り立たないでしょうが。。。いずれにしてもかなり深刻な話なので、女性と観る場合は暗い話が大丈夫か確認してもしすぎることは無いと思います(笑) [映画館(字幕)] 6点(2010-04-18 22:57:05) |
48. ベルヴィル・ランデブー
《ネタバレ》 嫌いかと聞かれると嫌いじゃない。確かにキャラは軒並み可愛くないし、可愛くないならなぜアニメにするの?と聞かれてもよく分からない。でも、この作品のことは嫌いじゃない。犬の夢、電車にほえる犬、気味の悪い三人の婆、そして何よりもすさまじいデフォルメ。嫌いじゃない。積極的に大好きとは胸を張れないが、嫌いじゃない。いや、好きなのかも。最終的には。 [DVD(字幕)] 6点(2010-04-18 22:51:20)(良:1票) |
49. 日の名残り
《ネタバレ》 英国人作家カズオ・イシグロの1989年のブッカー賞受賞作品を映画化した作品。 カズオ・イシグロの小説は独特のノスタルジーや丁寧で抑制された文体が魅力的(邦訳されたものしか読んだことはないですが)ですが、この映画はその魅力をとても忠実に写し出している作品だと思います。 英国貴族の執事を主人公に据えるという原作の着想が素晴らしい上に、その登場人物たちの言葉にならない様々な思いが音もなくぶつかり合う様を主演のアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンをはじめとした俳優陣が見事に演じています。主人のためには自分の思いを殺すことが最も大事だと信じて疑わない主人公ですが、その考え方を否定しつつもそのストイックなダンディズムに一定の理解を示し、敬意を表するかのようなカメラの視点が心地よいです。この映画は何度も観ていますが、去り行く時代への懐旧の情や仕事に生きたがゆえに実ることのなかった昔の恋を思い、果たして自分が過去にとった行動は正しかったのかと自問自答しながら旅に出る主人公の姿を観る度に、いつもなんとも言えない気持ちになります。 また、いくつもの屋敷で撮影を行ったと言うだけあって、当時の屋敷の雰囲気もリアリティがあります。風景の美しさも見所の一つでしょう。 お涙頂戴に堕しない、心で泣く映画です。 [DVD(字幕)] 8点(2010-01-10 00:19:51)(良:2票) |
50. アバター(2009)
《ネタバレ》 初めて3Dの映画を鑑賞。メガネのかけ心地はイマイチだったが、圧倒的な映像美は溜息が出るほど素晴らしかった。絶対に映画館(それも充実した設備の)で観るべき作品だ。 ストーリーは、相互理解を売り物にする戦後の西部劇のようで、特に新鮮味はないのだが、異形のクリーチャーやマシン達が躍動する世界はとても魅力的だった。現在のファイナルファンタジーのムービーを極限までリアルに近づけたという印象で、まさにその世界に取り込まれてしまうような不思議な感覚を覚えた。映像が美しすぎて、端っこにある字幕を読むのを忘れてしまうこともたびたびあった。ありふれたストーリーだが、生身のジェイクとナヴィのネイティリが邂逅する終盤のシーンはなかなか感動的でもある。 エンドクレジットに並ぶ膨大な人名を見て、製作者の苦労を思った。これだけのものを作れれば、その苦労は見事に結実したと言えるだろう。 [映画館(字幕)] 7点(2009-12-25 01:22:27) |
51. バリー・リンドン
史劇もキューブリックも苦手と言う全くこの映画に適性の無い僕だが、観てみると意外とおもしろかった。3時間と言う長い尺にもかかわらず、過不足なくバリーの人生を描いており、特に長さを感じることも無かった。原作がサッカレーだそうだが、いかにも彼らしい皮肉たっぷりなナレーションも良い。 また、何と言ってもこの映画の見所は、衣装や音楽、背景に一分の隙もない点だ。完璧主義者の異名をとるキューブリックだが、今までは何でそう呼ばれるのか良く分かっていなかった。でもこの作品においては、何から何までビシッとはまっていて凄い人だったんだと実感した。 一癖ある映画監督の中でもひときわ異彩を放つキューブリックだが、ある意味で、これが一番一般に分かりやすい作品だと思った。でもやっぱり話の筋にあまりにも救いが無くて愛せないんだよなあ。キューブリックファンじゃないけど、この作品は好きです。 [DVD(字幕)] 8点(2009-11-18 23:42:23) |
52. この自由な世界で
《ネタバレ》 ケン・ローチ監督の作品はかなりリベラルよりの視点のものが多く、あまり肌に合わないなと感じることが多いのだが、この映画については、割と偏った感じがしなくて観やすかった。ただ環境と時代に流されていく女主人公の強さや弱さはリアリティがあったし、子供や親との関わり方もよく世相を反映していると感じた。ちょっと甘いラストには不満も残るが、観てよかったと思える作品だった。 [DVD(字幕)] 7点(2009-10-23 19:11:43) |
53. ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!
映画でこんなに笑ったのは久しぶりというくらい笑わせてもらった。きびきびとした展開で、張った伏線はきちんと回収していくスマートな映画でありながら、無駄な下ネタやグロシーンもてんこ盛りなのだ。「デスペラード」級に過剰な終盤のアクションもツボだったし、かなり度を越えてブラックなストーリーも心地よい。 演技に関しても主役二人はほぼ完璧だったと思う。凸凹コンビに友情が芽生える設定はアクション映画ではよくある筋立てだが、コメディ映画であるこの映画が僕が観た中で一番しっくりきていたような気がする。ある意味で90年代ハリウッドアクションの総決算みたいな映画だ。作ったのはイギリスなのに。いや、あるいはイギリスだからこそ撮れたのかもしれない。 [DVD(字幕)] 9点(2009-08-09 23:43:24) |
54. イースタン・プロミス
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」に続く、クローネンバーグ監督とヴィゴ・モーテンセンのコンビによる佳作。 イメージカラーを選ぶとすれば深紅。陰翳の濃い構図と重厚な雰囲気の中、ロシア・マフィアの物語がねっとりと語られる。アカデミー賞にノミネートされたヴィゴ・モーテンセンの演技はいつまでも観ていたいほど素晴らしく、スローテンポな進行や独特の「間」も苦にならなかった。マフィア映画には適度なエロティシズムがないと面白くないのだが、同性愛の微妙な香りをうまく活用した本作はそのポイントも外していない。 現代版「ゴッドファーザー」というと褒めすぎだが、100分の作品とは思えない深い味わいが印象的だった。映画館で観るべきだった。 [DVD(字幕)] 8点(2009-07-12 21:49:40) |
55. 悲しみが乾くまで
この作品でビア監督の映画を観るのは3作目になるが、どんどん次の作品が観たくなる監督だ。アップやブレを多用した独特の撮影方法が、登場人物の心の揺れを遺憾なく表現しているし、脚本に無駄が無く、どの作品も2時間程度にうまく纏めているのが良い。 この映画もベニチオ・デル・トロとハル・ベリーという2人のオスカー俳優の演技力を活用し、地味ではあるが、心を打つ作品に仕上がっている。洗面所やリビングでの家族間のプライベートな会話の使い方がうまいのは女性ならではだと思うが、男性の心の動きにも不自然さが無いのは優れた監督である証拠だと思う。ビア監督の映画はどれも大切な人を失った喪失感とその癒しの過程がテーマになっているが、「癒し」ばかりに焦点を当てた甘い作り方にならないところも、私が共感できるポイントだ。「癒し」と「甘え」の間のギリギリの狭間を衝く手腕はたいしたものだ。 この視点を大切にしながら、次はサスペンスやスリラーにも挑戦してくれないだろうか。素晴らしい映画ができそうな気がする。 [DVD(字幕)] 8点(2009-07-05 15:17:29) |
56. 麦の穂をゆらす風
《ネタバレ》 ケン・ローチ作品は、一方的なリベラル視点の映画だろうということで、面白くなさそうで敬遠していたのだが、食わず嫌いも良くないだろうと思って鑑賞してみた。結論からすると、なかなか興味深い歴史モノだったが、鑑賞前の予想と大差は無かった。 1920年代のイギリスによるアイルランド支配が続いていた時代の話だが、当然ながら、視点は徹底的にアイルランド側だ。鬼のようなイギリス兵が傍若無人にアイルランド人を弾圧している。中国映画に出てくる日本軍兵士を想像してもらえば分かりやすいだろう。そんな中、主人公のデミアンは、医者としての将来を嘱望されながらも、兄のテディと共に独立運動に身を投じてイギリス軍を狙ったテロ活動を行う。彼らの活動は一定の成果を上げ、イギリスはアイルランドを自治領とすることを決め、兵士たちを引き揚げた。 しかし、ここからが難しい。デミアンたち主戦派は、あくまでも完全な独立をもぎ取るために活動を継続しようとする。しかし、兄のテディは自治領として成立したアイルランド自由国軍に入り、ここでかつての同士だった兄弟は袂を分かつことになってしまった。兄弟が急進主義者と漸進主義者として対立することになり、ここから物語は俄然面白くなるものと期待させられた。が、ここでも製作者側がデミアンに肩入れしてしまっているため、物語に厚みが出ない。もちろん、テディが悪人として描かれることは無いし、両派が議論する場面もあるのだが、基本的に「大義はデミアン側にあり!」という姿勢で描くから、どうも気持ちが盛り上がらないまま終わってしまった。 カメラワークやアイルランドの美しい風景はとても印象的だったので6点をつける。 [DVD(字幕)] 6点(2009-06-28 17:54:27) |
57. スラムドッグ$ミリオネア
《ネタバレ》 期待値が上がりまくった中で観たので、ちょっとした肩透かし感は否めないが、こういう映画があってもよいのではと肯定的な判断はできた。人によってはもっと酷評しそうな気もするが。 まず、良かったところを褒めるとすれば、圧倒的な躍動感!特に子供時代の警官との追いかけっこは、巧みなカメラワークによってスラムの活力が伝わってきて興奮した。色彩も鮮やかで、インドの魅力がもろに伝わってきた。「シティ・オブ・ゴッド」はリオのスラムを描いた傑作だが、それを髣髴とさせるシーンだった。子役の自然さ、元気さ、かわいさも特筆に価する。人生のどん底や頂点がこれでもかと詰め込まれているにもかかわらず、少しも食傷しないのは、監督の才能によるところが大きいのだろう。 一方で少し残念だったのは、心の動きの捉え方が甘いところ。兄のサリムがラストで自殺的行為に出るのは、あまりにも唐突で違和感を拭えなかった。ボスを殺して自分が組織をのっとるくらいの行動に出るのかと思いきや、意外とセンチメンタルな行動に及ぶのは説明不足だろう。ストーリー上、何らかの布石を打っておいて欲しかった。また、ジャマールのラティカに対する強烈な想いも理解はできるが、もう少し子供時代のジャマールとラティカのエピソードを描いておいたほうが、もっと分かりやすいだろう。2人の親密さが愛に変わっていくことを示すシーンが欲しかった。 映画中にちょっとした暴力シーンや残虐シーンはあるが、女性が観ても許容できる範囲だろう。明日への活力が湧いてくるポジティブなエネルギーを与えてくれる映画であることは間違いない。日曜日の夜に観たのは正解だった。 [映画館(字幕)] 7点(2009-04-21 22:06:59)(良:1票) |
58. バンク・ジョブ
《ネタバレ》 実話かどうかという点にはあまり重きをおかずに映画を観るのだが、この作品に関しては、そこが特に重要な気がした。痛快なクライム・エンタテイメントとしても一応の出来ではあるのだが、これが実話だとすると更に興味深い。 無線傍受のシーンやその後の展開はスリリングなのだが、どこか間が抜けていて、Mi-5や警察の対応に疑問を覚えるシーンも多い。特にMi-5の対応が非常に紳士的なのには驚いた。あれだけテリーと接触しておいて、尾行もせずに素直に交渉に応じるのはどうかと思った。ラストも彼らを連れ去って、内々のうちに殺してしまったほうが安心な気がするのだが。ある意味でのどかな時代だったんだろう。 [DVD(字幕)] 7点(2009-04-15 20:45:56) |
59. エリザベス:ゴールデン・エイジ
もっと濃密なドラマを期待したが、それほどでもなかった。アルマダ海戦のくだりはCGの出来がひどく、特にやる価値はないと思う。もっと人々の心の動きに焦点を当てて欲しかった。 [DVD(字幕)] 4点(2009-02-14 14:21:23) |
60. 007/慰めの報酬
《ネタバレ》 前日に「カジノ・ロワイヤル」を再鑑賞し、万全の状態で臨んだ。相変わらずの凝ったオープニングで、期待も膨らむ。前作はトランプをモチーフにしていて、カラフルで華やかだったから、個人的には前作の方が好み。でも、今作の砂をモチーフにした造形もすごく良かった。 初めから怒涛のアクションシーンが炸裂するつくりも、前作と共通している点でしょう。今回は壮絶なカーチェイスで幕を開け、そこからイタリアのシエナで追いかけっこ。前作はボンドの特性を披露する見事なアクションシーンだったのに対し、今作はそこまで意識はされておらず、残念だった。ボーンシリーズ以降、メジャーになったカットバック多用型の(個人的には好みだが、何が起こっているかわかりにくいという意見もある)アクションシーンだった。 ただし、その後の展開はアクションのつぎはぎのような印象が否めず、大満足とはいかなかった。ストーリーも一本調子で変化に欠ける。ボスキャラのマチュー・アマルリックも少し貧弱で線が細い。総合的な印象としては、前作の方が良かったが、映画館で観れば、十分楽しめるレベルだと思う。 今作がシリーズの中で果たす役割としては、①敵の「組織」はかなり大規模であることが明らかになったと言うことと②ボンドが過去の思いをふっきり、スパイとして一応の完成形に到達したということだろう。次作では、ボンドの温かさと冷たさをどう出していくかが難しくなったと思う。スパイに成りきったボンドが、あまり人情味を出してもおかしいし、かと言って目的のためには手段を選ばず、誰彼かまわず利用する冷酷なマシーンと化していても、支持は得られないだろう。次作のボンドの人物造形に課されるハードルがぐんと増した気がする。 意外だったのは、前作よりもアクションシーンの比重が増していたこと。監督の人選などから、もっとドラマ性を高める方向に持っていくのかと思っていたが、良い意味でも悪い意味でも裏切られた。 [映画館(字幕)] 7点(2009-01-25 18:18:17) |