1. ヴァキューミング
《ネタバレ》 うまくやれば傑作になれたのに、何かが足りなくて、救えない失敗作になってしまった、といった感じの映画。DJ志望の気弱な男の子と、可愛いけれど怒りっぽくてビミョーに太りすぎのガールフレンドのエピソードはなかなか渋い。特にガールフレンドに逃げられた後の男の子の取り乱し方が痛ましい。古新聞を溜め込んで頓死する無表情な老女も悪くない。ティモシー・スポールのセールスマンも暑苦しさ抜群、異常性全開、汗臭さ満開で、映画の屋台骨を支える力は十分ある。それなのに、全体として「これは失敗作だな」と思わせるのはなぜか? わけの分からない人物が多数出てきて、行き当たりばったり、力の限りぶつかり合っている。これは悪くない仕掛けだけれど、この全体を見下ろして意味づける視点が映画の中で生み出されない。欠陥はこれだと思う。そんな視点なんか現代にはないのだ、というのも1つの立場だが、この映画はその立場を取っていないはず。ありきたりの不条理(『マルコヴィッチの穴』みたいな)に逃げないのはよいことだ。でもそれなら、例えばティモシー・スポールが海に掃除機を売りつけながら死んでゆく最後の場面は、どうにも中途半端だ。意味なんか無いのだと居直るには意味ありげだし、意味があると言い切るには話が見えない。秩序ある日常生活も、一皮めくれば異様な人々で溢れている、という基本の方向は間違ってないけれど、そんな人々が吸い込まれてゆくもう一つ奥の秩序が見えない。その秩序をかすかにでも感じさせてくれれば(つまり、海に掃除機売るとどうなるの?ってことだ)、凄い傑作になっていたかもしれない。 [ビデオ(字幕)] 4点(2005-07-24 10:36:18) |
2. ストレイト・ストーリー
《ネタバレ》 ものすごい頑固ジジイ兄弟の話。兄弟なのに、ちょっとしたことで仲違いしたまま十年以上っていうのは意固地そのもの。ちっこいトラクターで何百マイルも旅するってのも、相当の変わりもんだ。よたよたした爺さんだから、愛すべきっていう感じがするけれど、壮年の頃は扱いにくいヤツだったと思う。この爺さん兄弟は、二人とも、荒くれた個人主義者で、世間のヤツらにおかまいなく生きて行く独立独歩の偏屈者だ。それがこの映画のキモだと思う。最後の場面で、よぼよぼの兄貴が掘っ建て小屋から出てきて、仲違いしてた弟と、無言でベンチに腰掛ける。ああうれしいんだな、というのが伝わって来る。こうやって、いろいろなモノと最後に和解して死ぬんだな人は、っていう感慨が浮かんでくる。 9点(2004-06-26 01:28:57) |
3. リトル・ダンサー
イギリスの労働者階級の生活感覚が興味深かった。みんな話し合ったり弁解したりしない。特にお父さんは、口下手というかぶっきらぼうというか、コトバではなくカラダで生きてる、という印象が強烈。でも、小さな息子に愛情を注いでいるのは生き方の端々に現れている。この映画は、ヒトの感情が説明抜きでガツンと観客にぶつかってくるような、ナマな感じを与える。筋書きは普通のサクセスストーリーだけれど、単純素朴で粗野な生活世界の描写に独特の価値がある。 8点(2004-06-26 00:23:03)(良:1票) |
4. アバウト・ア・ボーイ
ロバータ・フラックの“Killing me softly please”が大ヒットしたのをリアルタイムで知ってるから、マーカス君の苦悩には苦笑するしかなかった。ま、そりゃ、今時あれを歌うはめになっちゃあ辛いだろう。登場人物の苦悩が、おおむね苦笑レベルで済んでいるのがストーリーとして上手い。自殺も未遂で終わる。他人から見れば些細なことが当人にとっては苦しみのタネで、それに共感しないで生きてゆくのはホンモノじゃあない、と言いたいもよう。空っぽの人生を送っている架空のヒトには重たいテーマかもしれないけれど、リアルワールドの普通の人には、メルヘンタッチの佳作。 7点(2004-06-18 13:37:55) |
5. K-19
壊れた原子炉を修理する地味なハナシ。ろくな防護服もなく炉心近くで修理したのが自己犠牲的で偉いって言われても、もともとずさんな装備で無意味な作戦をしてんだから共感できない。自分は死んで仲間を救った、というのも所詮は内輪の美談だしねえ。というわけで、どうしてこの筋書きでウケると製作者が期待したのかが謎なんだが。 3点(2004-06-15 12:06:47) |