1. 蛇の道(2024)
《ネタバレ》 (1998年のオリジナル版の感想から続く)オリジナルの感想を踏襲するなら本作を料理、当然「フランス料理」に喩える流れですが、フレンチもイタリアンもざっくり「洋食」にしか括れない庶民ゆえ頓珍漢ご容赦ください。 セルフリメイクである本作。舞台をフランスに変え、新島の性別職業を変更しています。オリジナルを「フグの塩丸焼き」とするなら、本作は「フグのポワレ」といったところでしょうか(ポワレってどんな料理でしたっけ?)。これはこれで悪いとは言いませんが、オリジナルという「正解例」を知っている以上「物足りなさ」は否めません。胸糞は「アク」なので不要ですが、不条理は「苦み」「エグ味」であると同時に「旨味」でもあります。観客に配慮するあまり黒沢映画の味まで失っては本末転倒な気がしました。そう本リメイクのキーワードは「配慮」です。その最たるポイントが舞台をフランスに移したことでしょう。登場人物がまるで「無味無臭」でした。設定(背景)を知っているから「そのつもりで観る」だけで、彼らの言動で感情は揺さぶられません。これは被害者も加害者も同じ。役者の技量の問題というより、もっと根本的な部分で「コミュニケーションの壁」を感じました。 映画レビューサイトでドラマの話をして恐縮ですが、今期『ホットスポット』というTVドラマがあります。バカリズム脚本。市川実日子と東京03角田の掛け合いをみると「日本人にしか伝わらないだろうな」と痛感するのです。例えば100%言っている「言ってません」。表情、口調、仕草、間。各種情報が瞬時に真相を伝えます。これを「機微」と呼ぶのでしょう。演技力は勿論のこと、カメラワークや演出が素晴らしいのは大前提ですが、心情を受け取る側にも技量が求められます。といっても日本人なら普通に身に着けているスキル。こう書くと「差別」云々言われそうですが、そんなつもりは毛頭ありません。単純に「慣れ」や「経験」の話。ひよこの雌雄鑑定が素人には無理ですよと同じ。外国人でも長年日本で暮らしていれば機微を感じ取れるでしょうし、日本人でも子どもでは無理です。舞台をフランスに移した理由も多分これかと。外国人俳優を起用することで「わざわざ感情を伝わり難くした」。胸糞ぶりは最高峰クラスの物語。直撃すると心がやられます。設定や表現同様、人物に配慮を加え「観易くした」と感じます。それはエンターテイメントとして正しい姿勢でしょう。ただし匙加減は間違えました。カレーから重要なスパイスを抜いたような。あれ全然フランス料理の喩えじゃないですね。 さらに補足するなら「夫婦」の視点を付加したこともセルフリメイクの意義と感じます。オリジナルは「父親」の話。「母親」は欠片も出てきません。その「不手際」を補い「夫婦」の話に落とし込んだのは流石だと思います。新島最後の台詞が「監督が一番言わせたかったこと」では。採点は6点。オリジナルは7点なので1点しか違いませんが、胸糞マイナスの8点満点中の7点に対し、本作は10点満で6点です。点数以上に満足度には差があります。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-01-23 18:14:36) |
2. お坊様と鉄砲
《ネタバレ》 実はほんのりサスペンス風味あり。ネタバレしていますのでご注意ください。 白状すると最後僧侶が鉄砲で無茶苦茶すると思ってました。選挙担当の役人を撃ち殺すか、さもなくば決闘を申し込むか。そのための鉄砲2丁。AK47で地獄絵図ですよ。逆に仏教ぽい。そんな物騒な映画でないのはポスターを観れば分かりそうなものですが、直前まで『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』と本作どちらを劇場鑑賞するか迷っていたため変な先入観があったかもしれません。こんな戯言黙っていれば済む話ですが、そんな殊勝な人間が長文レビューを投稿するはずもなく。いらん前置き失礼しました。 で感想ですが、シンプルにとても良かったです。ブータン初めての選挙。それは勝ち取ったのではなく与えられた民主主義。選挙担当の役人に対して選挙運動が原因で家庭不和に悩んでいる母親が放った「私たちが民主主義を望んだわけじゃない」という言葉に痺れました。民主化、近代化、貨幣価値。善って何?物事の値打ちは誰が決める?問い掛けは実に単純です。でも「当たり前」に染まっている身では気づけない。気づけるはずもない。私にとって有益な学びがある映画でした。かといって説教臭さは一切ありません。ウイットに富む軽やかな社会風刺が実に小気味よく、ハートフルなのに意外とサスペンスなドラマに合っていました。派手な展開こそありませんが(もしかすると序盤は退屈するかも)、しっかりお出汁の効いた旨味たっぷりの物語だったと思います。後味もスッキリで良いオチ。誰も不幸になっていません。流石幸せの国ブータンですね。観られる映画館は限られると思いますが、日本人にこそ是非お勧めしたい映画です。 [映画館(字幕)] 8点(2024-12-22 10:00:28) |
3. コールド・スキン
《ネタバレ》 「むかーし昔ある島に気象観測員の男がやってきました」から始まる『まんが日本昔ばなし』のようなお話。いや舞台が外国だから『まんが世界昔ばなし』でしょうか。昭和のお子さんならご存じかと。さしずめタイトルは『冷肌女房』。 冗談はさて置き、設定だけみると「孤島で異形のクリーチャーと戦うサバイバルアドベンチャー」です。実際物語序盤はそのような展開でした。風向きが変わったのは一人の女クリーチャーが登場してから。彼女は灯台守オズナ―に飼われていました。例えばゾンビ映画でもゾンビを飼い慣らすパターンはあります。しかし彼女の待遇は別格。服を着せられ性交渉あり。オズナは否定するでしょうが彼女に「情」を寄せているように見えます。え?どういう関係?私たちは一体何を見せられているのでしょう。 本作は孤島が舞台。住人は赴任してきた主人公(フレンドと呼ばれますが実質名無し)と先住していた灯台守オズナ―の2人のみ。いわゆる「無人島漂流もの」の体裁です。ただ一般的な無人島漂流ものと違うのは、彼らが孤独に苛まれていないこと。主人公がこの島に来たのは人間社会から逃がれるため。有り体に言うなら「社会不適合者」でした。オズナも同じ。彼らにとっての「社会」とは何かを考えると、自ずとクリーチャーの正体(何の比喩か)が見えてきました。冷たい肌。襲い来る集団。生命を脅かす敵である一方、本当は心を交わしたい相手でもある。「クリーチャー=人間」「集団=社会」と見立てて差し支えないでしょう。 さてクリーチャーは本当に存在するのでしょうか。いやそれより重要なのは、主人公は何者か?かもしれません。終盤灯台守グルナーの正体は、前任の気象観測員であることが判明します。さらに灯台守が死に主人公が新たな灯台守に。新たに赴任してきた後任の気象観測員に対し主人公はグルナーとして振る舞いました。見た目も先代グルナーと同じ髭面に。おそらくこの現象=「グルナーの代替わり」がこの島では繰り返されてきたのです。劇中「グルナーの泉」が出てきますが、島自体が「グルナーの島」だったのでしょう。これをどう読み解きましょうか。 灯台守が入れ替わる点に着目するなら「輪廻転生」「生まれ変わり」と解釈したいところ。クリーチャーはその為の試練でしょうか。隣人を愛せなければ生まれ変わりは不可とか。島は魂の待機場。しかし「生まれ変わり成功例」が何か分かりません。先代の灯台守は生まれ変わりに失敗した気がしますが、クリーチャーとの共存を選んだ主人公が成功したようにも見えません。後釜が来たのでこれから生まれ変わるのかな?クリーチャーを一人でも殺めていたら駄目とかだったら無理ゲー過ぎます。 グルナーという名前を襲名する点を重視するなら「アイデンティティ獲得までの葛藤を描いた物語」と捉える事も出来そうです。この場合島は深層心理の世界です。自我確立に他者との関わり合いは必須。集団の中で個を揺るがぬものとします。先代は素っ裸(=社会性なし)ですが、主人公は服を着ていたので自我確立成功か。多少難はありそうですが。 いずれにせよサバイバルアドベンチャーと捉えるより、人生訓を多分に含んだファンタジーと受け止める方が自然な気がします。ちとグロいですけど。 私は冒頭『まんが世界昔ばなし』を引き合いにしましたが一般的には『世にも奇妙な物語』の方が馴染み深いかもしれません。リメイクするなら、主人公は山田裕貴、灯台守に杉本哲太、女クリーチャーは古川琴音で如何でしょう。30分程度の尺でまとめたら案外良さそうな気が。なおドラマ『ペンディングトレイン』のキャストで固めたのは偶然です。 [インターネット(吹替)] 6点(2024-09-20 18:59:33) |
4. DOGMAN ドッグマン(2023)
《ネタバレ》 最も相応しいタイトルは『DOG MOTHER』と思われます。もちろん読み方のイントネーションは『ゴッドファーザー』と同じ。タイトルロゴに付随する「操り棒」は「犬のエサ入れ」に替えてください。挿入曲からもかの名作をオマージュしているのは確定でしょう。かといってパロディなどでは断じて無く、荒唐無稽な寓話的体裁を取りつつも、ヒューマンドラマとしての凄みを有していました。圧巻だったのは主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。観る者を虜にする圧倒的な人間力を見せつけました。犬たちの演技も驚異的!もしかしてCGですか?もし本物のアニマルアクターならば、とびきり上等のドッグフードを与えてください。冗談抜きで並みの俳優では太刀打ちできない名演だったと思います。本作は優秀主演男優賞なりモスト・ヴァリュアブル・ドッグなり、何か映画賞は取っているのでしょうか。もし取っていないのだとしたら何かの手違いに違いありません。事務局は至急確認をお願いします。前述したとおり『ゴッドファーザー』を彷彿とさせる作品ですが唯一無二の素晴らしいオリジナリティを有していました。観終えてから監督名を知り、はたと膝を打った次第です。同じ設定、同じ脚本でも河崎実監督だったら真逆の評価になったことでしょう。当たり前か。 [インターネット(吹替)] 9点(2024-08-25 20:55:51) |
5. メランコリア
《ネタバレ》 「ネタバレのイントロダクションなど不要!」と言いたいところですが、『100日後に死ぬワニ』方式の演出と捉えれば納得できます。何気ない日常も「まもなく地球が消滅する」枕詞が付けば別物に変わる。実際ジャスティンの態度は一般的なマリッジブルーの症状と何ら変わりなく、彼女が抱えていた「憂鬱」の正体を知らないままでは、詫びも寂びもあったものではありません。真実を見通せる能力を持つ彼女いわく、地球は宇宙で唯一生物が存在する惑星とのこと。我が身可愛さで嘆くような次元の話ではなく宇宙規模の大事件。「イチからゼロ」に変わる運命の瞬間が迫っているのだとしたら憂鬱度も一層増すというものです。とはいえ地球が消滅しようと自分だけが死のうと、自意識レベルの結末は同じ。たぶんジャスティンは「大して変わらない」と思い、クレアは「全く違う」と認識している気がします。人間らしいのはクレアの方。一方ジャスティンは「悟りの境地」とも言えますが、真実を誰とも共感し合えない孤独の先に行き着いた心境でもあり、どこか哀れに思えます。彼女が最後に考えたキャッチコピーが「無」というのも、さもありなん。 終末世界を描く映画の中では刺激度はかなり低めだったと思います。暴動や略奪、集団自殺なんて物騒な描写はありません。これは民衆に破滅が予告されていなかったせいです。もちろん天文学者がこの結末を予想できないはずがなく、各国政府が事実を隠蔽していたと推測されます。しかしこれは「嘘も方便」の類。こんな時に「知る権利」が発動していたら地獄絵図は不可避でした。唐突に、抗う術がないから救われる。それが「死」の本質という気がします。ここから尊厳死の意義について考えるのは飛躍し過ぎでしょうか。木の枝で組んだ魔法陣は気休めの象徴。大した覚悟も無く迎える最期というのも悪くないのでは。 私が今まで観てきたラース・フォン・トリアー監督作品の中では、最も「観易い」映画でした。鬱度はさほど高くありません。ただこの監督の場合、これが誉め言葉にはならないのがユニークなところ。貶しているつもりはありません。でも些か冗長だったとは思います。大監督が制約無く創った芸術作品とでも申しましょうか。歓迎すべきなのでしょうが、多少制限があった方が客観的に「良いもの」が出来たりして。「名作は2時間超が当たり前」の風潮ですが、2時間以内に収めてくれていたら8点でした。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-11-28 19:29:49) |
6. HOSTILE ホスティル
《ネタバレ》 「伝染病により人類はほぼ死に絶えた」「人を襲うクリーチャーがいる」終末世界の設定は映画情報サイト等で開示されています。しかしながら劇中で世界が滅んだ背景の説明はありません。「伝染病」なんて言葉は出てきませんし、クリーチャーの正体についても言及なし。ただ、最後に主人公がとった行動から次の仮説(ストーリー)を導くことは出来そうです。「主人公の夫が巻き込まれたバイオテロは後に人類を滅亡に追いやる伝染病の発火点であった。さらにこの伝染病は人を別の生物(クリーチャー)に変化させてしまう恐ろしい性質を持っていた」さらに「伝染病はゾンビでお馴染み血液感染ではなく飛沫感染であることが疑われ」ゆえに「変わり果ててしまった夫と偶然再会した主人公は、濃厚接触により自身の感染は免れないと観念し愛する者と共に死ぬ道を選んだ」結末を額面通りに受け取るならこんな感じかと。ただクリーチャーが偶然夫であったというのは奇跡が過ぎますし、どうやって夫と認識できたのかも謎です。印象的な痣があるとか、仕草や癖で見分けたというなら話は別ですが。という訳で結末を素直に(ロマンチックに)受け止めるのは無理があると感じました。そこで別解釈の「真相」を2つ提案します。①クリーチャーを夫と見立て自殺した説。主人公は足を骨折しました。仮に助かっても今までのように物資調達の仕事は無理でしょう。さらに救助を依頼してもすぐには行けないという返事。必要とされず足手纏いになるくらいなら死を選ぼう。どうせ死ぬなら愛する人と共に。クリーチャーが夫かどうかは問題ではなく、そう思い込む事に意味があったと考えます。②そもそも世界は滅んでいない説。子を流産し、夫をテロで失った主人公の精神は崩壊しました。滅んだのは文明ではなく主人公の心の方。回想シーンが多いこと、週末世界の状況が不明瞭なこと、登場人物が異様に少ないこと等もこの説を裏付けます。主人公は再びドラッグに溺れた。要するに今際の際に見た悪夢という解釈です。流石に飛躍し過ぎだと思いますが、こんな突拍子もない仮説を出したくなるくらい世界の作り込みが甘いと感じました。設定が命の映像研の浅草氏なら怒り狂うレベル。「解釈に幅がある」や「余白が多い」と「作り込みが甘い」は似て非なるものと考えます。終末サバイバルアクションと切ない系ラブストーリーの融合。アイデアは面白いですが、壮大な世界観や構想に見合った脚本とは言い難く、多分に監督の思いが先走ってしまった印象を受けました。 最後に本作のビジュアルイメージ(ポスター、DVDパッケージ等)について。2種類確認できました。ひとつは主人公が仰向けになりながら銃を構えるもの。キャッチコピーは「世界大絶賛のサバイバルアクションムービー」もうひとつは主人公がクリーチャーと抱き合うもの。キャッチコピーは「これは異形との恐ろしくも悲しい愛の物語」どうですか。痺れませんか。二つ目なんて酷いネタバレです。本来ならクレーム殺到案件のはずですが、こういうセールス法を選んだ気持ちも分からないでもありません。「サバイバルアクション」として売り込むには長所が見当たらないということ。それなら意外なオチを開示して興味を引く方が賢いと。いずれにしてもセールスポイントが一貫していない時点で、販売元の作品に対する「信頼度」の低さがうかがえます。本当に世界大絶賛ならば、こんな事にはならないはずですが。 [インターネット(吹替)] 5点(2023-10-26 19:14:30) |
7. TUBE チューブ 死の脱出(2020)
《ネタバレ》 ネタバレしています。ご注意ください。 状況設定こそ『CUBE』と酷似しているものの、広げた風呂敷を一切畳まなかった『CUBE』に対して(でも、そこがイイ!)、本作は一応畳んではいます。ただ、珍しい畳み方なので戸惑ってしまうという。チューブは「卵管」、生体組織空間は「子宮」、スーツ腹部の口は「へそ」、周期的に起こる燃焼は「生理」と解釈できます。もしかして追ってくる怪物は「つわり」ですか。この決死の脱出が「出産」の暗示であるのは間違いなさそうです。問題はこの事象に「普遍性」があるのかということ。私自身若干混乱しているので整理してみます。 普遍性がある場合・・・これを「誰もが経験する」事象とするならば「死後の世界は存在する」「生まれ変わりはある」が確定します。さらに「神様」や「天使」の正体も。だいぶ「理想と違う」グロテスクな容姿ですけども。この世界の成り立ち、既存論理の根底が覆ります。 普遍性は無い場合・・・宇宙人による人体実験の可能性が浮上します。彼らは人間という生き物を熟知しており、かつ記憶へ介入可能なレベルのテクノロジーを有していました。主人公を依怙贔屓していた節があるので、観察や実験というより、ペットの飼育・遊びの範疇かもしれません。ラストは主人公の願望の世界でしょうか。 冒頭のラジオ音声と車内での2人の会話。この伏線を額面通りに受け取るか、ミスリードと捉えるかで判断は分かれそうです。世界観が壮大なのは「普遍性がある」ですが、死後あんなひどい目に遭うのは勘弁願いたい。それに殺人鬼や遺体は如何にも「宇宙人の雑な飼育」という感じです。よって私は「普遍性はない」を選びたいと思います。それでも彼らが「神様ではない」事にはなりませんが。 冒頭15分くらいは、これで90分間持たせられるのかと心配になりました。閉鎖空間が舞台のソリッドシチュエーションスリラーは基本出オチです。代わり映えしない画に飽きが来ること必至。そこで重要なのが会話です。『CUBE』のように参加者が多数いる場合もあれば、『リミット』(棺桶に閉じ込められる話)では携帯電話が使われました。視覚刺激に変化がなくとも「おしゃべり」があれば退屈しません。そういう意味で、当初は『CUBE』より『127時間』(腕が岩に挟まれる話)に近い感覚でした。中盤以降は状況が変化したり、脱出の糸口が示されたりしたので目が覚めました。 細部の作りこみに不満があります。例えば遺体は何故スーツを着ていなかったのでしょう。強酸で溶かされた?アームライトは溶けていないのに?想像するにスーツ着用だと遺体のインパクトが目減りするから脱がしたのではないかと。演出とは要するに嘘。上手に嘘を付いて欲しいのです。上半身スーツ着用であったなら「ああ、下半身は強酸に浸かって溶けたんだな」と勝手に納得するのですから。最後のギロチンにしても流石にあのタイミングでは即死でしょう。アイデアは素晴らしいと思いますが、完成度は今一つだったように感じます。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-09-20 18:54:45) |
8. 世界の果てまでヒャッハー!
《ネタバレ》 事件が起こりました。真相は不明です。映像記録が手に入ったので確認してみましょう。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の手法ですが、コメディゆえ『ハング・オーバー』を想起させます。どちらもお下劣ですし。POVならではの臨場感は担保しつつ、手ぶれで視認性を損なうミスを犯さなかったのは流石です。 「おバカ」「非常識」「やりすぎ」「人種差別」「エロ」「嘘」「犯罪」「下ネタ」「謎の感動」。笑いの構成要素はグローバルスタンダード。万人受けする濃い味がゆえに、侘び寂び出汁文化の日本人には合わないかもしれません。私は何でも美味しく頂けるタチ(貧乏舌)なので、素直にくだらねーと大笑いさせてもらいましたが、テクニカルにツボを突かれるというより、条件反射で笑わされている感覚でした。こういう強引なのも嫌いじゃない私です。 てっきりアメリカ映画かと思いましたが、フランス映画と知り驚きました。フランスコメディってこんな感じでしたっけ。もう少し洒落た笑いの印象でしたが。もっとも邦画喜劇だって山田洋次から河崎実までいろいろですものね。レッテル貼りはいけません。笑えれば何だってOKであります。 [インターネット(吹替)] 7点(2023-08-23 20:15:44) |
9. ゲーム・オブ・デス(2017)
《ネタバレ》 ※はじめに注意!こちらは2010年制作の同名映画ではありません。スプラッタージュマンジがこちらです。再度ご確認くださいませ。 『N人殺すまで終わりません』な殺人ボードゲーム。代数はたぶんランダムで今回は24でした。つまり24人を殺さない限りプレイヤーは生き残れないルール。無理ゲーかつ糞ゲーここに極まれり。ゲームクリアはほぼ望めません。ゲームバランス(設定)が滅茶苦茶なのです。一番の害悪は時間制限が極めて短いこと。おそらくインターバルは15分から20分程度。もし時間の猶予があれば、血の契約を破棄する方法を探すことも出来ますし、対処療法的に殺す相手を吟味することも可能でしょう。しかしこの短時間ではどうしようもありません。諦めて死ぬか無差別殺人くらいしか選択肢がありません。まあ対策を取られたらゲーム制作者(悪魔又は死神)が困るんでしょうけど。結果、ただ悪趣味なだけのスプラッターが一丁出来上がりと。希望が皆無なので、サバイバルとしてもスペンスとしてもぱっとしません。ただしスプラッター祭りと割り切れば不満はありません。血飛沫は特盛ですが、不思議と汚らしい感じはありませんし(あまりに浮世離れした設定だからかな?)プレイヤー最後の演説は、達観した者の凄みがありました。なお特徴的なテレビゲーム演出は惨殺シーンの省略(制作費削減と刺激低減の両方)の意味合いがあったように感じますが、どうせ馬鹿映画なのですから小細工なしで殺しまくった方が潔くて良かった気がします。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-04-05 22:18:08) |
10. ガンパウダー・ミルクシェイク
《ネタバレ》 極めて個人的な感想ですが、本作は『スカジャン』の映画でした。スカジャン。それはどんな紳士淑女でもヤンキーorチンピラに変身させる魔法のアイテム。ファッションとして着こなせるのは余程の上級者か、浜ちゃん所さんくらいのものです。しかも本作で主人公が着用したのはサテンのオレンジ色で、バックプリントにかわいい虎ちゃんのイラスト入り。完璧な仕様です。劇中で主人公がぼやくように客観的にダサいのは間違いありません。しかるに主人公が着ると化学変化が起きました。好き好んで着ているのではなく「着させられている」という背徳感が謎のエモさを醸し出していたように感じます。考え過ぎですか。そうですか。いずれにしても、バタフライナイフで自身の指を切るか、鉄パイプを振り回すくらいしか能がない(失礼)チンピラが、ハイスパートアクションを披露するのですから、見た目とのギャップに魅了されるのも仕方ない話かと(凄腕の殺し屋だってことを忘れさせる)。子どもドライバーとのコンビカーアクションもお見事で私の趣向にドンピシャとハマりました。図書館司書の皆さんも個性豊かで実にチャーミング。そして格好いい。パッケージに注文をつける要素はありません。ただ難点があるとすれば後半メインとなった格闘戦に必然性が感じられなかったこと。閉鎖空間では銃に圧倒的なアドバンテージが無いのかもしれませんが、銃器所持の敵に対して同じく銃器で対抗しない方針に首を傾げました。実際は銃撃戦に終始するより肉弾戦の方が見栄えがするのでエンタメ的にはオーライですが「必然性」を担保して欲しかったと思います。それこそスカジャン着用にはきちんと必然性がありましたし。『キック・アス』とか『キングスマン』が好きな人なら基本的に好きなタイプの映画だとは思います。 [インターネット(吹替)] 7点(2023-03-19 08:24:46) |
11. PLAN 75
《ネタバレ》 『病気や生活苦で自ら命を絶つ高齢者が後を絶たない今、政府は高齢者の皆様に安らかな最期を迎える機会をご用意しました。支度金も差し上げます。どうぞ自由にご利用ください。これは75歳以上の国民の皆様のみに与えられた特権であり、あくまで個人の自由意志による選択です。』こう説明されたら納得してしまいそう。一見、選択肢が増えることにデメリットはありませんから。疲弊しきった国民がこのような提案を受け入れない保証などありません。私は与太話でもSFでもなく、未来予想図の一つとして十分なリアリティがあったと考えます。だからこそ恐ろしく、とても不快でした。もしPLAN75が制度化されたら最後です。生殖、労働、納税。国民なら国の役にたってしかるべし。そうでないなら退場を。これを世論と呼ぶのか同調圧力と呼ぶのか分かりませんが、『社会正義』の前に個は無力です。その価値観にいずれ染まる。献血感覚で自死を選ぶ社会になっても何ら不思議ではありません。消費税の例を引き合いに出すまでもなく、PLAN75はいずれPLAN40、いやPLAN0になるはずです。 淘汰されるのは弱者。人の世もまた弱肉強食という自然の理に逆らうことはできません。でも私はボケっとしていても生きていける、いろんな形の幸せを選べるこの国が好きでした。その前提条件は国が豊かであること。その礎を築いたのがまさにPLAN75世代なのですから、義理も人情もあったものではありません。しかし『貧すれば鈍す』とも『衣食足りて礼節を知る』とも言います。余裕が無ければ理想を語るなど無理な話。やはり国が豊かであることは何にも代え難い宝であります。人が人らしく生きるために必要な痛みなら引き受ける覚悟はあります。でも痛すぎて死ぬのは勘弁願いたい。この国から宝が失われつつあるのは間違いなく、本作をフィクションとして割り切れぬ現状に寒気がします。 [インターネット(邦画)] 7点(2023-02-28 19:20:49)(良:1票) |
12. よこがお
《ネタバレ》 正面の顔に対してのよこがお。別の側面の意。本物語においては、正面が「少女連れ去り事件」であり、よこがおが「市子の復讐」と考えます。まず正面の顔、本筋の連れ去り事件の方から整理しましょう。連れ去り事件を市子の立場で捉えた場合、殆ど何もやれる事が無い事に気づきます。後悔は尽きないでしょうが、だからと言って事件を未然に防ぐことは出来なかったでしょう。事後対応についても最善とは言えないまでも悪手でもありません。彼女は常識範囲の損得勘定と倫理観をもって対応をしていたと思います。ただキーパーソンだった基子の心情を読み違えただけ。でもそれに気づけというのも酷な話。市子にとっては失ったものが多い辛い結末でしたが、事件の発端をつくった道義的責任を考えればある程度の罰は受けざるを得ず、その程度が過大だとしても甘んずるより他ないと考えます。正面の顔=連れ去り事件〜報道被害はショッキングでしたが、(主人公にとって)不可抗力な要素が大半を占めていたように思います。 一方「よこがお」=「市子の復讐」はどうでしょうか。彼女が能動的に行動しているため検証しがいがあります。市子が試みた復讐は、基子の彼氏寝取り作戦でした。メンタル的にもフィジカル的にもアラカン女性が選択できる報復手段とは思えませんが、何故か成立してしまう奇跡。豪快に空振りしたかと思いきやスッポ抜けたバットが基子に直撃するという部分まで含めてミラクルでしょう。でも残念ながら狙ったダメージではないのでカタルシスはありません。復讐の第2ステージは偶然の産物でした。まさに鴨ネギ。実に簡単に復讐相手に致命傷を与えられる大チャンス到来です。偶然であるが故に必然性を感じさせます。しかし彼女は復讐を思いとどまりました。冷静になれば当然の判断ですが、追い詰められた人間は間違うのが常。彼女はよく自制したと感心します。そんな彼女に、福本伸行先生の漫画『賭博覇王伝ゼロギャン鬼』の喜十郎さんの名言を捧げたい。『最悪さえ避ければ人は結構幸せだ』。少女連れ去り事件も、市子の自殺未遂(自殺願望)も、復讐劇さえも、全て最悪の結末だけは免れています。これは幸運なこと。やり直しが効くのですから。復讐の誘惑から逃れた市子に明るい未来が訪れますように。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2022-06-15 20:12:44) |
13. マーターズ(2007)
《ネタバレ》 殺戮シーンと拷問描写、人体破壊のグロさや胸糞具合は業界トップレベルですが、これら蛮行に『理由』を与え物語の体裁を整えたが故に、衝撃度合は弱まった印象を受けます。『理解できないもの』が最恐だと思うので。というより、そもそもホラージャンルの映画でもない気がします。『悪趣味』とか『アングラ』でしょうか。それにしても、最後の主人公の言葉が気になります。もちろん私たちに知る由もありませんが、仮にあの世を垣間見てきたのだとしてもそれは口にせず、奴らに一矢を報いるために考えた『絶望させる一言』であって欲しいです。 [インターネット(字幕)] 5点(2021-07-23 18:58:14) |
14. 淵に立つ
《ネタバレ》 この家族に起きた悲劇について「どこかで引き返せたか?」を考えたとき、思い当たるポイントは無数にあります。何時でも最悪を回避できたと思う反面、決して逃れられぬ結末であったとも感じます。それは「姿勢」に所以する問題だからです。「何を(誰を)守りたかったのか?」の問いに対する答え。妻は「隣人」であり、夫は「自分」であったと考えます。そこに「家族」の視点は感じられず、犠牲者が出たのは道理でありました。 さて、ここで注目したいのは、夫の人間性です。過去に犯した罪の告白により、その劣悪な人間性が明るみとなりました。実質的にこの時、家族は崩壊したと考えますが、なぜ夫は秘密を墓場まで持っていかなかったのでしょう。苦難を共有することで夫婦の絆を感じていたから赦してもらえる気がした?いや、彼は自身に対して“嘘を付き過ぎた”のだと思います。「自分は悪くない」そう自身に言い聞かせてきた結果、夫の中で嘘は真実に変わったのだと思います。罪の重さを強く感じていたが故の刷り込みならば、彼は極悪人でもありません。誰の身の上にも起こり得ること。罪に対して適正な罰を受けるのは、加害者の為でもあることがよく分かります。 夫はもとより、妻も不貞という罪を犯しました。すなわち夫婦にとって八坂は“罪”又は“罪悪感”の象徴と見て取れます。罪悪感は自身に内在するものですから、何処か外で見つけようとするのは無理な話。罪が昇華されない以上、最後は罪悪感と共に心中するしかなかったと考えます。 最後に古舘寛治氏について。正直、役者としての魅力が今まで分からなかったのですが、本作で初めてその本領をみた気がします。存在感を出さないことの凄みとでもいいますか。観客が自身を登場人物に置き換えようとしたとき、これほど都合のよい器もありません。ほんと、お見逸れしました。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-04-10 11:25:08)(良:1票) |
15. フリー・ファイヤー
《ネタバレ》 “総弾丸数〇万発!”みたいな派手な銃撃戦を想像しておりましたら、これが真逆でした。足を撃たれて機動力激減、出血多量で意識朦朧。みんな物陰に身を潜め、地べたを這いつくばって威嚇射撃。エンタメな“ガンアクション”とは程遠いグダグダな銃撃戦でした。ある意味リアルっちゃあリアルな殺し合いは、画的にはとても地味で、当然面白くはありません。しかし、かといってツマラナイというワケでもなく。個人的には、グダグダ感にむしろ魅力を感じてしまいました。結末も見事にグダグダで。ダンディ坂野の笑いを芸として肯定できるタイプの御仁なら、あるいは楽しめるかもしれません。教訓は『ビジネスに私情持ち込み厳禁』『命あっての物種』です。大事なことですね。勉強になります。 [インターネット(字幕)] 5点(2021-02-25 23:52:31) |
16. ゴーストランドの惨劇
《ネタバレ》 細部に至るまで綿密に計算されたテクニカルな構成に感心しますが、とくに言及したいポイントは2つあります。一つ目は俳優交代について。主人公姉妹は、ローティーンと成人、都合2つの年代が描かれます。N〇Kの朝ドラでもない限り成長期を跨いで一人の役者に任すのは無理筋ですから、俳優交代は絶対条件。とはいえ経年違和感のない交代俳優を探すのも大変です。観客の脳内補完必須でしょう。ところが本作では、役者交代に何の違和感もありませんでした。ほとんど完璧なバトンタッチでは。よく似た子役をキャスティングした点もさることながら、顔がボコボコだったり厚化粧だったり人相判別を困難にした事が功を奏したと考えます。なるほど、単純ですが上手いやり口です。これは称賛ポイントでしょう。二つ目は、終盤の展開について。殺人鬼系ホラーで見慣れた典型的な流れで、ご都合主義も目につきました。趣向を凝らしたこれまでの展開と比して無策に思えます。しかしこれも観客を惑わす計略のひとつ。なぜなら本作の肝は『主人公はホラー小説家志望』という基本設定にあるからです。物語の裏地にぴたりと張り付き、観客の判断を惑わせます。目を凝らして観るほどに『ここが不自然な気がする』と疑問符がつく仕立て。題材(展開)はプレーンなほど好都合というワケ。虚実の境目の見極めは、観客に委ねられました。極端な話、主人公はまだ捕らわれているかもしれませんし、イチから全部小説との見立ても可能でしょう。解釈に幅があり、物語に奥行が感じられるのは、優れたミステリーホラーの証と考えます。なお、壮絶・胸糞なストーリーにも関わらず『観易い』のも本作の特徴です。前述した丁寧なお仕事をベースに、各種配慮が行き届いていました。『鬼畜監禁もの』とは思えぬマイルドな暴力表現で、後味も悪くありません。デートムービーにさえ使えるレベル。この大衆性・汎用性の高さはセールスポイントでしょうが、多方面に気を配った結果、ホラー映画としてのパンチ力(狂気)を欠いた気がしないでもありません。(以下余談)と書き終えて、他の方のレビューを拝見したところ、私の感覚に大きなズレがある事が判明しました。やっぱりデートムービーは無理みたいです。ご注意を。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-02-15 22:47:02)(良:1票) |
17. スーサイド・ショップ
《ネタバレ》 自殺が蔓延する暗い社会。自殺幇助アイテムショップが舞台。主人公は、店を営むファミリーです。キャラクターの目にはクマ。笑顔厳禁、希望なんてもっての外。アニメでは珍しく、かなりブラックな設定です。ミュージカルを多用した演出や展開も極めてシュールながら、着地点は意外なほど常識的でした。やっぱり前向きに生きようよ。愛(あるいは性欲、または食欲も可)があれば大丈夫。この結末に異議などあろうはずもありませんが、肩透かしされた感は否めません。そんなに簡単に切り替えられるほど、人生は軽くないんじゃないの?と。表でクレープ売って、裏で青酸カリでも密売してくれた方が、よほど腑に落ちた気がします。ただし、グラマラスを越えてデブの域にあったお姉ちゃんがイイ女扱いされていたのは、良かったと思います。価値観もイロイロ。だから、生きていられるのだから。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-11-25 19:28:35) |
18. スノーピアサー
《ネタバレ》 『US(アス)』と同様で社会風刺がメイン。設定が荒唐無稽なところまで一緒です。もっとも『US』にはミステリーとして『空白』がありました。おかげで、想像力を駆使することで自分なりに納得できる『辻褄合わせ』が出来た気がします。一方、本作の場合世界観が創り込まれている分、言い訳が効きません。いくら比喩による社会風刺が目的だとしても、リアリティ皆無ゆえツッコミは免れない仕様。にも拘わらず『設定については何も言うまい』という気にさせられるのです。これは巨匠監督のネームバリューによる恩恵ではありません。私は監督名を確認せず鑑賞しましたから。あえて言うなら『馬鹿負け』したのだと思います。度肝を抜かれたのは『水槽列車』のシーン。ああ、そこまでやるのかと。レジャーに特化した専用車両も勿論ですが、設定の肝である『燃料問題』は説明する素振りすらありません(アントニオ猪木氏の永久機関でも使っているのかな?)。明らかな嘘でも突き通す意志。不都合な事実に目を瞑る勇気。一般的なコミュニケーションなら褒められた姿勢ではありませんが、コト『SF映画』においては極めて有効な手法でありました。呆れた観客から批判する意欲を削いでしまえば無敵です。『リアリティ』や『整合性』といった足枷の無い、オイシイところだけ拝借した『自由空間』の出来上がり。『CUBE』は“説明を一切しない”という荒業で同じ状況を作り出しましたが、本作では“嘘を突き通す”ことで『自由に物語を創る権利』を獲得したと考えます。良識人の私からすると(どの口が言うかな)、モヤモヤを感じずにはいられませんが、面白いことは事実。これだけ熱量豊富な(極寒の設定なのにね!)映画を見せられては、監督の力量を認めないワケにはいきません。ところで、監督はどなたでしたっけ(ちなみにこの感想は皮肉でも何でもありません。そんな文才は持ち合わせていません)。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-07-15 18:53:55) |
19. 黒猫・白猫
《ネタバレ》 『黒猫・白猫』とは、『失敗と成功』『不運と幸運』『死と生』等に同じ。禍福は糾える縄の如し。だから2匹の猫はいつも一緒。選り好みなんて出来ないし、そもそも雁字搦めだし。それでも全部ひっくるめて『人生を楽しもうじゃないか!』それが本作のメッセージです。情報過多で、のべつ幕無し冗談だらけ。ややもするとごちゃごちゃした印象を受ける物語ですが、張り巡らされた伏線の多さや、(悪ふざけが過ぎるものの)含蓄ある表現に溢れており、反芻すればするほど、その完成度の高さに唸らされます。散々無茶苦茶やっておきながら『ハッピーエンド』の一言で片づけてしまう力業にも痺れました。ケツで釘を抜く歌手の美声と恍惚の表情もたまりませんが、やっぱり一番好きなシーンは『クソまみれの体をガチョウで拭く』ところ。じゃあ、冒頭からずーっと走り回っていた大群はトイレットペーパーだったのかと。動物愛護団体から猛抗議されそうな不謹慎ぶりや出鱈目さが、本作の真骨頂であります。正直言いますと、初回鑑賞時は終始呆気に取られてしまったのですが、2回目の鑑賞はニヤニヤが止まらない始末。中毒性がヤバいです。単純に『コメディ』では片づけられない奥深い映画と考えますが、もっともらしく分析するのも違う気がします。『よく分からんけどスゲー楽しかった』が個人的に一番しっくりくる感想。文章力、語彙力が無くてホント申し訳ないですが、これは『傑作』で間違いありません。死にかけ(失礼)爺さん2人が途方もなく魅力的。どんな人生を歩んだら、あんな『素敵な顔』になれるのだろう。 [DVD(字幕)] 9点(2020-06-25 21:52:57)(良:1票) |
20. セブン・シスターズ
《ネタバレ》 この設定、普通なら主人公は双子でしょう。それを7つ子でやろうとした”チャレンジ精神“にまずは拍手を贈りたいです。よくぞ『常識』や『リアリティ』の壁を乗り越えたものだと感心します。勿論、無茶した分ツッコミに対する耐性はゼロ。物語的には”あり得ない“のオンパレードです。人口分配法のオチにしたって初めから分かっていたこと。しかしです!エンターテイメントで一番大切なのはリアリティにあらず。そうワクワク感。魅力的な嘘の力でお話に引き込めれば何の問題ありません。7人の主人公がガチに、アッサリ、死にまくる展開に痺れました。“主人公は死なない”お約束が通用しない恐ろしい世界。でも本来はそれが当たり前なのに。普段は考えないようにしているだけの話です。エンタメで楽しんでいたはずなのに、不意にシビアな現実を突きつけられて震えると。なかなかやってくれますなあ。7人がそれぞれ個性豊かな人格を有しているのが素晴らしいです。パブリックな人格や人生を共有していても、命の重さが7分の1に目減りなどしません。主人公が死ぬ度に、私もまた命を奪われました(これは本作と同じく主人公が死にまくるトムクルーズ主演の某作や、クローン祭りのバイオ4とは全く別物の感覚であります)。リアリティを排除したエンタメだからこそ響くリアリティ。これぞ正しい娯楽作品の在り方に違いありません。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-02-05 18:28:40)(良:1票) |