1. 48時間
《ネタバレ》 此度再見してみて、エディ・マーフィ演じるレジーの登場が結構遅かった事に驚きました。 全編出ずっぱりのような印象があったのですが、それだけ彼のキャラクター性が際立っていたという事なのでしょうね。 彼のデビュー作であると同時に、出世作となったのも納得。 相棒であり、本作のメイン主人公となるニック・ノルティ演じるジャックも、これまた良い味を出しているんですよね。 陽気な黒人に対する無骨な白人という組み合わせであり、如何にもな強面なのですが、恋人である女性には押しが弱く、情けない姿を見せたりするのが憎めない。 バディムービーのお約束として、本作にも「いがみ合っていた二人が仲良くなった事を示す場面」が存在する訳ですが、その際のカタルシスも大きかったです。 「あの」気難しくて頑固な警官のジャックがレジーを庇ってくれた、という形だからこそ心に響いてくる訳であり、その辺りは上手い。 一方(そこまで心を開くほどの交流があったかな?)と思わせる面もあったりして、そこは残念。 当時は未だ「白人と黒人によるバディムービー」というジャンルが確立されていなかったがゆえの未成熟さというか、ぎこちなさのような物があるんですよね。 敵方にもインディアンというマイノリティを配し、主人公コンビと対にしているのですが、その事を劇中で活かせていない感じなのも、ちょっと勿体無い。 最後に大金をせしめるエンドに関しては、ジャックも模範的な警官ではなく、清濁併せ呑むタイプとして描かれていただけに「まぁ、良いか」と納得出来る範囲内。 レジーが終始「ずっと刑務所にいたんだから、女を抱きたい」と訴えるも、お預けを食らい続け、最後の最後で本懐を遂げられた形なのも、後味の良さに繋がっていたと思います。 期待通りの楽しさを提供してくれた、良い映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2017-10-04 03:37:22)(良:1票) |
2. ソルト
《ネタバレ》 「主人公の身辺に、もう一人ロシア側のスパイがいる」という事は、途中で察しが付くように作られていますね。 自分は彼女の夫を疑っていた為、あっさりと死亡したのに驚き「何かと主人公を庇ってくれていた同僚がスパイ」というオチには、素直に騙される事が出来ました。 予想が外れて悔しい思いもありますが、映画を楽しめたという意味では、こちらの方が正解だったと自分を慰めたいところです。 それと、この手の「続編を意識したような終わり」って、どうも印象は良くないのですが、本作は何となく毛色が違うようにも思えました。 続編を作るつもりなら「主人公の夫」「スパイとして育てた師」「同僚」と、続編に活かせそうな重要人物を三人も殺しているのが不自然というか、如何にも勿体無いのですよね。 インタビュー動画などによると、どうやら監督さんも続編には気が乗らないみたいで、これはあくまでも「主人公にとっての始まりの物語」として完結させたようです。 自分としては、上記の「重要人物でも必要なら殺す」という思い切りの良さが、続編の可能性を薄めた代わりに、本作の完成度を高めていると感じられましたね。 しかしまぁ、アンジェリーナ・ジョリーという女優さんは本当に身体を張る人なんだなぁ……と、今更ながらに驚嘆です。 映画本編を観た限りでも「これってスタントマンじゃないよね?」と思えるアクションでしたが、特典映像をチェックしたら、やっぱり本人だったみたいで、大いに納得。 高層マンションの窓を伝い歩くシーンの迫力も凄かったですが「手錠をはめられたままで相手を絞殺してみせる姿」が、アクロバティックで恰好良くて、特にお気に入り。 どちらかといえば、男性がアクションをこなす映画の方が好みだったりもするのですが、彼女くらいの根性を見せられると、もう「参りました」と脱帽する他ありませんね。 脚本の細部が気になったりもしたけれど、素直に面白いと思えた映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2017-02-08 04:01:06)(良:1票) |
3. ラブ・アクチュアリー
《ネタバレ》 「ラブ・アクチュアリーを観た日」という曲を聴いた勢いで、元ネタである本作も鑑賞。 所謂「グランド・ホテル」形式の群像劇であり、エピソードの殆どを「恋愛」で纏めている点と「クリスマス」という特別な日にスポットを当てた点が、当時としては斬新だったのでしょうね。 この映画から数年後に「バレンタイン」や「大晦日」にスポットを当てたラブコメ群像劇が作られていますし、影響力の強さが窺えます。 登場人物が多く、同時進行するエピソードも多くて、難易度の高い作品なのですが、それをギリギリで混乱させず、破綻させずに仕上げてる手腕も見事。 特に「場面転換の際に音楽を用いて、各話の繋ぎを自然にしてる事」には感心させられましたね。 主人公の一人が歌手である点も含め、全体的に音楽の使い方が上手かったと思います。 個人的に一番好きなのは、義理の親子であるダニエルとサムが、少しずつ距離を縮めていくエピソード。 そして、ラブストーリーとして一番好きなのは「小説家と家政婦の恋」になりそうですね。 後者に関しては「言葉が通じない彼女とも、キスによって互いの想いを確認する」「片言のポルトガル語で告白したら、相手も片言の英語で答えてくれて、互いに相手の為に言葉を習ってたと分かる」って場面が凄く良かったし、映画全体の構成を考えても、この二組の話が主軸になってた気がします。 それと、オールスターキャストも魅力的でしたが、やはり一番印象深いのは、ローワン・アトキンソン。 カメオ出演のような形で「店員役」として登場し、それで出番終了とばかり思っていたのに、終盤まさかの再登場でしたからね。 しかも、デパートでは傍迷惑だった「緩慢な動作」が、空港では恋する少年を助ける形になってたりするんだから、これには脱帽。 つまり「誰かにとっては迷惑な人物が、他の誰かにとっては有益な人物と成り得る」って事を描いている訳で、群像劇ならではの魅力があるんです。 正直、各キャラの繋がりが「たまたま知り合いだった」「血縁だった」程度な事にはガッカリしちゃったけど…… 彼の存在だけでも、本作を群像劇にしたのは正解だったと言えるんじゃないでしょうか。 その他、欠点としては ・歌手からマネージャーへの想いが、友情なのか同性愛なのか分かり難い。 ・サムがダニエルの事を初めて「パパ」と呼んだ場面が、アッサリし過ぎていて戸惑う。 ・クラウディア・シファー演じるキャロルが出てくる場面は意味深なのに「本当に偶々、ダニエル憧れのクラウディア・シファーに似てるだけ」ってオチなのが残念。 等々が挙げられそうですが…… これらに関しては「脚本が説明不足」というより「演出が拙くて、場面の意味が伝わり難い」って印象を受けましたね。 やはり、リチャード・カーティスは「監督」というよりも「脚本家」気質の人なんだと思います。 後は「アメリカに行けば俺はモテまくるはず!」って一念で渡米した若者が、本当にモテモテになっちゃうオチだったのは吃驚したとか、精神を病んだ弟がいるサラだけは意中のカールと結ばれず可哀想とか……気になったのは、そのくらいかな? サラという例外もありましたけど、彼女は彼女で「恋愛」よりも「姉弟愛」を選んだと言えそうな感じですし、色んな形の「愛」を肯定し、優しく包み込んでるような雰囲気が心地良かったです。 「ハッピーエンドな恋愛映画」の代表として、曲のタイトルに選ばれるのも納得なくらいの、良い映画でした。 ……ちなみに、2017年の続編ドラマ(米国版)では、サラがカール以外の男性と結婚する展開になってたりもするんですよね。 本作を鑑賞後にモヤモヤが残ってしまった人は、そちらも是非チェックして欲しいです。 [DVD(吹替)] 7点(2021-12-25 21:12:45)(良:3票) |
4. ツーリスト
《ネタバレ》 こういった旅行気分を味わえる映画って好きですね。 列車に、船に、豪華なホテルと、観ているだけで楽しくなっちゃいます。 男性ならアンジェリーナ・ジョリーと、女性ならジョニー・デップとのロマンスを疑似体験出来るようにも作られており「恋」と「旅」とを求めて観賞するなら、まず満足出来る一品かと。 その一方で、サスペンスとしての魅力は薄めであり、あんまりハラハラドキドキはしなかったのですが、本作の場合、このくらい緩めの緊迫感が丁度良かったように思えますね。 なまじ血が飛び出したり、身の毛もよだつような恐ろしいシーンがあったりしたら、せっかくの「程好いバランス」が崩れてしまっていた気がします。 主人公カップルが出会った際に、ジョニー・デップ側が「ごめんなさい」と謝っており、それが後の伏線になっていたりする辺りも上手い。 所謂「主人公こそが犯人だった」オチな訳ですが、犯人といっても悪党から金を盗んだ義賊に近い立場である為、受け入れ易い形になっているのですよね。 また、アンジェリーナ・ジョリー側も「実は警官だった」という事が中盤にて明らかになる為「一方的に彼女を騙して、酷い男だ」という印象には繋がらず、自然な仕上がりになっていたと思います。 目立った難点としては、数学教師という設定が活かされていない事。 そして、金庫を開けて正体をバラすシーンにて、周りに警官が一人も残っていなかったのが、都合良過ぎるように思えた事でしょうか。 前者に関しては、金庫の暗証番号を数学の知識を駆使して解き明かす(つまりは、ヒロインと警察に最初から暗証番号を知っていた訳ではないと思わせる為に演技する)展開にしても良かったんじゃないか……なんて思いましたね。 この手の騙し騙されモノとしては珍しく、後味爽やかなハッピーエンドであった点については、凄く好み。 緩くて温めなロマンス旅行映画として、しっかり楽しめた一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2017-04-19 18:55:08)(良:1票) |
5. ベガスの恋に勝つルール
《ネタバレ》 色んな意味で「夢を叶えてくれる映画」って感じですね。 ベガスで一攫千金、お金持ちになりたい。 美女(美男子)と一緒に暮らしてみたい。 そんな庶民の願望を疑似体験させてくれる、心地良い映画だったと思います。 スロットで大当たりする場面もテンポ良く、気持ち良く描いているし、自宅でのパーティーや社員旅行などのイベントの件も、とても楽し気で良かったです。 二人が同棲する事になる部屋も「ここに住んでみたい」と思わせるような魅力があって、好きなんですよね~ ヒロインは嫌がっていたけど、バーカウンターやピンボールの台があるなんて素敵じゃないかと思えるし「ドアを開けると、そこからベッドが飛び出す」ギミックなんかも好み。 「相手に浮気させようと互いにアレコレ画策する」「便座の上げ下げを巡って争う」「夫婦カウンセリングに向かう二人」などの夫婦喧嘩パートも、軽快なBGMに乗せて楽しく描かれており、良かったと思います。 テーマがテーマだけに、ここで攻防が陰湿になり過ぎて観ていて引いてしまう可能性や、主役二人が「嫌な奴」に思えてしまう可能性もありましたからね。 そこを暗くなり過ぎず、明るく能天気なテンションで描き切ってみせた事には、大いに拍手を送りたいところ。 「自分でサイコロを振る勇気すら無かったけど、とうとう起業を決意した主人公」「仕事に依存していたけど、仕事が好きという訳じゃなかったと気が付くヒロイン」などの真面目な部分を、ライトなノリを失わないまま、さりげなく描いているのも良かったですね。 お約束だけど「今回の騒動を通して、二人は大金よりも価値のあるものを手に入れる事が出来た」と感じさせるものがあって、凄く後味爽やか。 主人公の男友達と、ヒロインの女友達も魅力的であり、喧嘩してばかりだった二人が、最終的にはカップルみたいに仲良くなっちゃう結末も、ハッピーエンド感を高めてくれたように思えます。 その他にも「夫婦どちらも『レイダース』が好きだったと分かる」「結婚指輪を填めた薬指を、中指を立てるようにして旦那に見せ付ける妻」など、印象的なシーンが幾つもあって、本当に観ていて楽しい。 夕暮れを迎えた海辺での「結婚してくれませんか、もう一度」という二度目のプロポーズも素敵で(あぁ、良いなぁ……良い映画だなぁ)なんて、しみじみ感じちゃいました。 あまり評判は良くない(ゴールデンラズベリー賞にノミネートされてる)のを覚悟の上で観賞したのですが、意外や意外、本当に面白くて、楽しくて、吃驚させられましたね。 やはり世間の評判なんかに左右されず、自分の感性で判断しなきゃ駄目だな……と、そんな当たり前の事を再確認させてくれた、非常に価値ある一本でした。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2018-07-12 08:54:37)(良:2票) |
6. 世界最速のインディアン
《ネタバレ》 印象深いのは、レース前に主人公が薬を二錠受け取って「俺が一錠、こいつに一錠」と愛車の燃料タンクに薬を放り込む場面。 ちょっとした冗談のつもりなのかも知れませんが、それ以上に、主人公がバイクを独立した人格、本当の意味での相棒として扱っている事が窺えました。 バイク乗りは孤独なんて言葉もありますが、この映画の主人公に限っては、そうではない。 様々な人に優しくされ、その結果として夢を叶える事が出来た姿は、たった一人で夢を実現させた姿よりも、眩しく感じられるものがあったと思います。 老いだの若さだのといった線引きを超越して、観る者に純粋な感動を与えてくれる名作ですね。 [DVD(字幕)] 10点(2016-04-03 06:28:07)(良:3票) |
7. 県庁の星
《ネタバレ》 これは面白い。 失礼ながら期待値は低かっただけに、嬉しい不意打ちを食らわせてもらった気分です。 劇中においても、こういった気持ち良い「不意打ち」が幾つかあって、特に印象深いのは主人公が婚約者に振られてしまう場面。 ここは観客の自分としても、主人公の気持ちとシンクロして「出世コースから外れたので振られてしまった」とばかり思っていたのですよね。 けれど、実際はそうじゃない。 「私の事を見てくれなかった」のが破局の理由であり、思い返せば、確かに伏線(=主人公は仕事について考えてばかりで、彼女のウェディングドレスを選ぶ際にも上の空)が張られていたのですよね。 これが「理不尽な裏切り」ではない「心地良い意外性」となっており、自分としても、この場面をキッカケとして(これは思っていたような映画とは違うぞ……)と襟を正して観賞する事が出来たように思えます。 潰れそうなスーパーを主人公が再生させる話といえば「スーパーの女」という先例が存在しており、あまり目新しさは望めないだろうと覚悟していたのですが、そんな予想も覆される事になりましたね。 あちらの作品は、ちょっと意地悪に解釈すれば「絶対的に正しい主人公が、間違っているスーパーを改革する話」という、やや一方的な内容であったのに対し、本作では公務員の主人公と店で働くヒロイン、それぞれに「正しい部分」「間違っている部分」が存在しており、対立を経て互いに認め合い、欠点を補完し合っていくという内容なのです。 それが非常に好ましいというか、自分の感性に合っていたように思えますね。 他にも「水で手を洗おうとしたら、蛇口が汚くて躊躇する主人公」という些細な描写で、その性格を端的に示してみせる辺りも好みでしたし「プライドの高さゆえ僅かなお辞儀しか出来なかった主人公が、研修期間を終えて店を立ち去る際には深々と頭を下げる」というベタな演出を挟んでくれる辺りも心地良い。 最後の最後で、店を守る決め手が「カンニング」という辺りには幻滅しかけましたが、そこで、またまたサプライズ。 それまで役立たずとして描かれていた店長が、意地を見せて店を守る形となっているのも嬉しかったです。 現実的な題材であるにも拘らず、そこかしこにリアリティの乏しい部分が見受けられる事。 主人公とヒロインが恋愛関係になる必然性は無かったように思える事。 そして、店のパートと行政パートが、あまり密接に絡んでいない辺りなど、色々と粗も目立ってしまうのですが、それでも全体としては長所の方が多かったかと。 研修を通して主人公が学んだのは「素直に謝る事」「素直に教わる事」「何かを成し遂げるには、仲間が必要だという事」と語る件も良かったですね。 完全無欠のハッピーエンドとはいかず、女性知事の狡賢さ、強かさを見せ付けるシニカルなテイストも備えており、それで後味が悪くなるかと思いきや、主人公は全て承知の上であり、前向きな姿勢と共に終わってくれたのも素晴らしい。 「そう簡単には通らないはずだ」「でも、諦めない」という、一時的な努力だけで済まさない、努力を継続する決意の恰好良さが伝わってきました。 その第一歩が、県庁におけるエスプレッソの有料化という、非常に小さなものであった辺りも、ユニークな落としどころだと思います。 面白い、楽しめたというのは勿論ですが、それ以上に「気持ちの良い映画」でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2016-12-29 08:20:51)(良:2票) |
8. ブッチャー・ボーイ
《ネタバレ》 冒頭、大人になった主人公が子供時代の過ちを振り返る形式で映画は進んでいく訳ですが「僕とジョーの友情に首を突っ込んだ夫人が悪い」って、全然反省していない辺りが凄い。 この主人公、殺人の被害者となった夫人以外にも、他所者を「田舎っぺ」「ブタより醜い」と見下していたりして、とかく感情移入を拒む存在なのですよね。 そんな彼に呆れかえっていたはずなのに、観ている内に段々と感情移入させてしまうのだから、作り手の上手さを感じます。 父母を失うだけでなく「血の兄弟」「唯一で最高の友ジョー」と語り、大切にしていた親友からも絶交されてしまう主人公。 そんな彼は八つ当たりのように凶行に至る訳ですが、それが完全な狂気によるものとは思えず、一応主人公なりに理屈は通っているなと納得させられてしまうのだから、これはもう恐ろしい映画です。 少年愛嗜好があると思しき神父に、性的悪戯を受けそうになるシーンでは、逆襲してみせた彼にスカッとさせられたし「ジョーにウソを言わせた」事が何よりも許せないと怒るシーンでは、ついつい彼に肩入れしてしまう。 そんな具合に、巧みに感情移入させた上で主人公に「人殺し」をさせてしまう訳だから、観ているこちらまで罪悪感を抱いてしまうのですよね。 「エイリアンの侵略」「原爆による世界の終わり」「父母の美しい思い出を否定する現実」など、彼が殺人を犯したキッカケを大量に用意してみせて、その凶行に説得力を持たせているのも上手い。 上手いんだけど……それによって「殺人犯になるまでを疑似体験出来る映画」という形になっている訳だから、後味の悪さは折り紙付きです。 上述の通り、主人公には反省の色が全く窺えません。 ラストにおいても「もう悪党ではないで賞」を取ったから釈放された、としか感じていないのです。 「トラブルは、もう結構」という独白からするに、今後彼が犯罪に手を染める可能性は低いと思われます。 それでも、彼は許されるのだろうか、自分が殺した夫人に対して「悪い事をした」「可哀想だ」と考えたりする事は無いのだろうか、と非常に悲しい気持ちに襲われましたね。 聖母マリアが彼に渡した花、スノードロップの花言葉は「希望」そして「慰め」。 果たして彼に「希望」を与えるべきなのか、彼を「慰め」るのが正しい事なのか、と観る者に考えさせてくれる。 様々な意味で、問題作と呼ぶに相応しい一品でありました。 [ビデオ(字幕)] 6点(2016-12-15 22:48:18)(良:1票) |
9. ユーロトリップ
《ネタバレ》 旅映画としても、青春映画としても楽しい一品ですね。 国から国へと移動する際の演出も凝ってて飽きないし、観光地としての欧州の魅力を感じられる内容だったと思います。 ただし、この場合の「欧州の魅力」というのは、非常に漫画的というか…… あくまでも「アメリカの若者が思い描くような欧州」って事なので、注意が必要ですね。 さながら「忍者や芸者が一杯いる日本」のような、色々と強調された欧州の国々が描かれており、ちょっと不謹慎かも知れないけど、つい笑っちゃいます。 この辺りのバランス感覚が絶妙で、たとえば「5セントもあればホテルが買えちゃう国」なんかが登場するもんだから、観ている側としても「完全なフィクション、映画という名のファンタジー」として、割り切って楽しめちゃうんですよね。 巷に溢れる「頓珍漢な日本を描いた映画」の数々も、外国の方が観たらこんな感じなのかも……って思えたりして、不思議な可笑しさがありました。 旅先で遭遇したフーリガンすらも「なんだかんだで良い人達」だったりして、最後まで明るく陽気に仕上げてある点も良い。 「アメリカでは違法」「旅先では合法」というドラッグ入りケーキや、幻覚を見る酒に挑戦する姿が描かれているのも、程好いドキドキ感がありましたね。 「俺達は違う大学に進むんだから、四人でツルめるチャンスはコレが最後かも知れない」 という台詞が象徴するように「仲間と一緒の旅」が強調されており、途中で失敗してもあまり落ち込まずに「皆でいれば何とかなるさ」とばかりに、前向きな姿勢のまま旅を続けていくのも、凄く好みでした。 そんな本作の欠点は何かと考えてみると…… 割と根本的な部分に関する事なんだけど「主人公のスコットに対する違和感」ってのが大きいでしょうか。 いくら泥酔してたとはいえ、結果的に「男に迫られたら怒って罵倒するけど、美女と知った途端に態度を変えて会いに行こうとする」って姿が描かれてる訳で、どうも彼の恋路を応援する気になれないんです。 その後になって「見た目じゃなくて、中身が好き」的な事を言われても、全然説得力が無かったし…… ここは変に良い子ぶって「彼女の中身が好きなんだ」なんてフォローを入れたりせず「男だと思ってたけど、本当は美女だった。美女だから好きになった」って流れにした方が、スッキリした気持ちで観れた気がします。 でもまぁ、そんなスコットも、お調子者な悪友のクーパーも、基本的には「良い奴」じゃないかと感じさせる作風でしたし…… 彼らに恋人が出来るハッピーエンドには、こちらまで嬉しくなっちゃいましたね。 観終わった後は、主人公達と「旅の思い出」を共有したような気持ちになれる。 彼らと、仲間になれたような気持ちになる。 良い映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2021-12-02 08:01:14)(良:1票) |
10. エヴェレスト 神々の山嶺
《ネタバレ》 原作小説が大好きなので、期待を込めて観賞。 絶対に二時間で纏めるのは無理だろうと思っていただけに、ちゃんと物語を完結させている事に感心半分(やっぱりダイジェスト感は否めないなぁ……)と落胆半分、といった感じでしたね。 結構な尺が必要となるであろう「マロリーのカメラ争奪戦」の件を思い切って省略したのは正解だと思うし「鬼スラへの挑戦」「岸との別離」「グランドジョラスからの生還」と、羽生丈二というキャラクターを語る上では外せない場面を映像化してくれた事は、素直に嬉しかったです。 それでも、どうしても「あれも見たかった」「これも見たかった」というモヤモヤが残ってしまうのだから、全く以て困り物。 折角モノローグを多用して小説の文章そのまま再現する演出をやっているのだから「きしよう」や「地球を踏んだ」などの言葉も、心の声として聞かせて欲しかったなと、ついつい思ってしまいました。 主演の岡田准一と阿部寛は熱演されており、特に後者の存在感はお見事でしたね。 凍死した羽生の「死体」をここまで迫力込めて演じられる人は、ちょっと他にはいないかもと感じるくらい。 ライバルである長谷の扱いが軽い事も含め、どうしても原作に比べると羽生に関する描写は薄くなってしまっていたのですが、それでも「これは間違いなく羽生丈二だ」と思えたのは、役者さんの力が大きかった気がします。 中でも、遭難しかけた深町を羽生が助けるシーンは凄く良くて、ここが本作の白眉であるように感じました。 ちょっと原作に比べるとエキセントリック過ぎるというか「羽生の魂を継ぐ者」として、野性味溢れて描写されていた深町であっただけに「もういい、もうやめてくれ……」と弱々しく呟き、自分を見捨てるよう訴えかける姿が、一際胸に迫るものがあったのですよね。 その後に「最初から羽生は最も困難なルートを登るつもりだった」と明かされる展開についても、良かったと思います。 正直、原作と異なる部分に関しては不満も多かったりしたのですが、ここの流れは原作よりも好み。 最後も深町の生還というハッピーエンドで〆てくれる為、後味も悪くなかったですね。 久々に本棚から「神々の山嶺」を取り出して、蜂蜜を溶かした紅茶片手に、ゆっくりと読み耽りたくなりました。 [DVD(邦画)] 5点(2017-04-11 18:14:38)(良:1票) |
11. ロマンティックじゃない?
《ネタバレ》 作中にて幾つかのラブコメ映画の名前が挙げられている訳ですが、その殆どを観賞済みな身としては、とても面白かったです。 主演のレベル・ウィルソンは太っているけど、美人でチャーミングな存在だし「ラブコメとしての見栄え」という点を考えても、充分に満足出来るキャスティング。 それに対し、彼氏役のアダム・ディヴァインも「美男子ではないけど、愛嬌があって優しい男」を好演しており、凄くバランスが良かったと思います。 「単純な美男美女ではないけど、魅力的な主人公カップルの映画」という形であり、作中で「美男美女が織りなす、王道なラブコメ映画」をパロっている事と併せて考えても、非常に相性の良い組み合わせだったんじゃないかと。 仕事中にラブコメ映画ばかり観てる同僚のホイットニーに、アパートの隣人なゲイ男性など、脇役がキュートなキャラクター揃いだった点も嬉しい。 この「キュートな脇役」達の中に、後に本命彼氏となるジョシュが自然と紛れ込んでいる形なので、お約束のはずの「親友と結ばれるエンド」に関しても、適度な意外性を味わえたんですよね。 「親友のジョシュを愛するべき」→「いいえ、やっぱり本当に愛すべきなのは他人ではなく自分」という、自己啓発的なエンドかと思わせておいて「でも、やっぱりジョシュが好き!」という三段仕掛けオチになっていたのも、上手い構成だったと思います。 ただ、終わり方に関しては「脱け出したと思ったラブコメ映画の世界から、実は抜け出せていない」というオチにも思えてしまい……そこが、ちょっと気になりましたね。 「汚い言葉を使おうとするとピー音が入る」という伏線があった為、ヒロインが汚い言葉を使えるようになったのは、現実世界に戻った証だとも思えるのですが、最後の歌って踊る展開は完全に「ラブコメ映画の世界」そのままなんです。 推測するに、ヒロインが迷い込んだ世界は「PG13指定の、健全なラブコメ映画」で、元いた世界は「大人向けの、普通のラブコメ映画の世界」だったと、そういう事なのでしょうか? 自分としては「結局ラブコメの世界から抜け出せていない」というバッドエンドではなく「実は元々ラブコメ映画の世界にいて、それに気付いていないだけだった」という、ハッピーエンドなのだと思いたいところです。 それと、本作は「王道なラブコメ映画」をパロってるというか、茶化して馬鹿にしているようなテイストもあるんだけど、そんな「王道なラブコメ映画」らしい場面を、ちゃんとロマンティックに、魅力的に撮っているというのがポイント高いんですよね。 ゲイの隣人にスクーターに乗っけられ、出勤する場面なんかは凄くオシャレだったし、音楽の使い方なんかも洗練されてる。 花びらに書かれた電話番号を繋げてみせる場面には感心しちゃったし、夜のアイス屋に忍び込んで二人で盗み食いする場面なんかも良い。 「君の目には愛が映らない」というジョシュの台詞には切なくなったし、窓の外の広告に見惚れてばかりいると思われた彼が、本当はずっとヒロインを見つめていたんだと分かるシーンも、実にロマンティック。 つまり「ラブコメをパロった映画」としての面白さと共に「王道なラブコメ」の魅力も同時に味わえる形になっている訳で、これは非常にお得感がありましたね。 皮肉な目線を備えつつも、ちゃんと「ラブコメを愛する気持ち」があるからこそ作れた映画なんじゃないかな……と、そう思えました。 [インターネット(吹替)] 7点(2019-09-18 03:49:12)(良:1票) |
12. 七人のおたく cult seven
《ネタバレ》 これは七人のおたくを描いた映画……というより「内村光良のアクション映画」ってイメージが強かったりしますね。 そのくらい終盤の格闘シーンが衝撃的だったし、実に痛快。 ウッチャン演じる近藤に対し、それまで散々「弱いぞコイツ」って印象を与えておいて、それがいざ本気で戦ったら強かったっていう、そのカタルシスが半端無いんです。 本作はメインとなる七人全員、ちゃんとキャラが立っているし、群像劇と呼べる構成なんですが…… それでもなお「ウッチャンが全部オイシイとこ持っていってる」って、そんな風に感じちゃいます。 監督や脚本家が苦心して整えたであろうバランスを、一人の演者さんのパワーが引っ繰り返してみせた形であり、ここまで来るともう、その「バランスの悪さ」が気持ち良いし、天晴と拍手を送りたいですね。 そんな訳で「ウッチャンのアクションが楽しめるだけで満足」「それ以外の場面は、正直微妙」って評価になっちゃいそうな作品なのですが…… 一応「おたく達が仲良くなって、夢を叶える青春映画」としての魅力もあるし、全体のストーリーや雰囲気も、決して嫌いじゃなかったです。 とにかく作りが粗くて、脚本のツッコミ所も多いんだけど、何となく庇いたくなるような愛嬌があるんですよね。 例えば、山口智子演じる湯川リサは、設定上はレジャーおたくって事になってるけど、明らかに「普通の人」であり、この時点で「七人のおたく」って看板に偽り有りじゃないかって話になるんですけど…… 劇中にて、主人公の星が「キミも同じ目になろう」とリサに計画書を渡す場面があるし、今回の冒険を通して「彼女も、おたくの仲間入りを果たした」って事なんだろうなと、好意的に捉えたくなっちゃうんです。 他にも、ダンさんの秘密基地で模型作りする場面とか、皆で竹筒の皿を使って食事する場面とかも、妙に好きなんですよね。 「仲間で集まって、ワイワイ遊ぶ楽しさ」が、しっかり描かれてたと思います。 飛行機の玩具で始まり、玩具のような飛行機で終わる構成も綺麗だったし、空から見た島の景色が、ダンさんと作った模型そっくりだった事にも感動。 最後に「皆、同じ目になった……」と満足気に呟く星に対し、他のメンバーが「そんな目はしてない」とツッコんで終わるのも、仲良しな雰囲気が伝わってきて好きですね。 自分にとっての映画もそうなんですが、おたく趣味の持ち主って「それが面白いから」というより「それが好きだから」ハマってしまい、おたくになったってパターンが多いでしょうし…… 本作も「おたく映画」らしく「面白い」って言葉よりも「好き」って言葉が似合うような、そんな一本に仕上がってると思います。 [DVD(邦画)] 7点(2022-10-21 17:23:40)(良:1票) |
13. 名探偵コナン 時計じかけの摩天楼
《ネタバレ》 冒頭にて、十分近くも掛けて「このシリーズのお約束である『眠りの小五郎』の場面」「あらすじ」「コナンが装備しているメカの説明」まで披露してくれるという、実に親切設計な一品。 予備知識が無くとも楽しめるように……という、作り手側の配慮が感じられました。 「ボク、子供だから分かんないよ。何かヒント教えて」という甘え声での台詞など、コナン(=新一)が自らのハンディキャップを逆手に取って、犯人から情報を引き出す件も面白かったです。 蘭とのロマンスも含め、ちゃんと「子供になってしまった高校生探偵」だからこそ出来るストーリー展開にしているのですよね。 作中には「新幹線大爆破」や「ジャガーノート」など、過去の名作映画から拝借したネタも多いのですが、こういったコナンならではの魅力も忘れずに盛り込んである為、観客としても抵抗無く楽しめる感じです。 モリアーティ教授をモデルにした怪し過ぎる建築家が、そのまま犯人だったのには笑っちゃいましたけど、作劇として「犯人は誰か?」より「どうやって爆発を食い止めるか?」に重きを置いた結果なのだろうなと、納得出来る範囲内。 記念すべき映画第一作だから、犯人にはビッグネームが元ネタの人物を配したいという考えもあったのかなぁ、と推測する次第です。 電車ではなく、線路の方に爆弾が仕掛けられていると見抜く件や、爆弾解体のシーンにてモノクロ画面にし、赤と青の配線のどちらを切ったのか分かり難くする演出なんかも良かったですね。 特に後者に関しては、初見の際にかなり感心させられたのを憶えています。 難点としては、立て続けに事件が起きる構造上、テレビの数話分を繋げてみせた「総集編」めいた色合いが濃い事が挙げられるでしょうか。 それと「赤い糸が無い」「コナンのままじゃ駄目」という独白で終わる形なのも、ギャグ描写とはいえ、少し後味が悪かったです。 この作品の特性上「たとえ見た目が変わっても中身が同じだから蘭とも愛し合える」あるいは「歩美ちゃん達と一緒に過ごすコナンとしての人生も悪くない」なんて結論にはならず「何時かは新一に戻りたい」という願いをコナンが抱き続けるのは当然なのでしょうが、ハッピーエンドの後にそれをやられちゃうと、やっぱり寂しい。 後は……コナンの仲間である少年探偵団の活躍が無かったとか、気になるのは精々そのくらいですね。 娯楽作品として、バランス良く纏まっている映画だと思います。 [DVD(邦画)] 6点(2017-05-28 16:45:12)(良:2票) |
14. ミリオンダラー・アーム
《ネタバレ》 ストーリーの概要を知った段階で「これは好みの映画のはず!」と予測していたのですが、それが当たっていて嬉しかったですね。 人物間の絆が育まれるまでの過程にて、さほど劇的なイベントは起こらない点。 そして、目標が「プロで活躍してみせる事」ではなく「プロになる事」に設定されている点など、実話ネタゆえの物足りなさのようなものは感じましたが、それ以上に胸をときめかされるものが多かったです。 涙腺を刺激された場面も幾つかあって、特に印象深いのは、父と子の別れの件。 母国インドを離れ、アメリカで野球に挑戦すると息子に告げられた父親が「お前なら、きっとやれる」と、強く抱き締めて送り出してあげる。 当初は息子の野球挑戦に反対していた、頑固者の親父さんとして描かれていただけに、この展開には「えっ、認めてくれるの!?」という意外性も内包されていて、凄く良かったと思います。 それは裏を返せば「何故、急に息子の事を認めて応援してくれたのか、描写が不足している」とも言えるのですが、少なくとも自分は全然気になりませんでした。 それまでは父親の言いなりになって生きてきた、内気な息子であった事が示唆されていただけに、はっきりと目を見て意思表示してくれた姿が、親父さんとしては嬉しかったのだろうな、と推測します。 上述のシーンが凄く良かったもので、そこが本作のクライマックスかなと思っていたら、それを裏切ってくれた辺りも素敵。 ラストのプロテストの場面。 「君達が成功する事は、インドの子供達に夢を与える事に繋がる」という通訳の言葉には、本当に感動させられましたね。 それによって勇気を与えられ、見事にプロ選手になってみせた二人。 そしてエンディングでは、彼らを真似して野球に興じるインドの子供達が描かれるとあっては、もう脱帽。大満足です。 良い映画だったと、確信を持って言える一品でした。 [DVD(吹替)] 8点(2016-06-19 10:05:43)(良:1票) |
15. オープン・ウォーター2
《ネタバレ》 しっかりと作られた娯楽映画ですね。 前作に比べると、死の恐怖や絶望感などは薄れているかも知れませんが、その代わり展開に起伏があるし、無事に船に上がる事が出来たシーンではカタルシスを味わえるしで、自分としては、本作の方が好み。 最後ちょっとボカす感じになっているのが気になりますが、一応ヒロインも元彼氏のダンも生還し、ハッピーエンドに近い形なのも良かったと思います。 難点を挙げるとすれば、登場人物の言動にツッコミ所が多く(おいおい、何でそんな事を……)と戸惑う場面が存在する事ですね。 特に、携帯電話を投げ捨てる件なんかは衝撃的で(いやいや、流石に無理あるだろ)と思っちゃいました。 極限状況で頭が回らなかったんでしょうけど、あそこは、もう少し何とかして欲しかったかも。 逆に、良い意味で印象深いのは、梯子を下ろさぬまま海に飛び込む場面。 思わせぶりにスローモーションになっていて「あぁ、やっちゃった……」感が、ひしひしと伝わって来るんです。 あそこで飛び込みさえしなければ、何事も無く楽しい船旅で終わっていたはずだし、何ともやり切れない。 イルカの浮袋や、風に靡く旗、水着を結んで作ったロープなど、様々なアイテムを駆使して、色んな脱出法を次から次に試してくれるのも面白かったですね。 中には(おぉ、その手があったか……)と驚くものもあり、そのアイディアの豊富さには、素直に感心。 自分としては(船体に隙間があるんだから、そこにナイフを突き刺し、誰かが支えて足場にすれば良いのでは?)と思っていたもので、解決策がそれに近い形だったのも嬉しかったです。 もう一つ、本作の巧い点は「赤ん坊が船内に取り残されている」という状況設定にしている事。 「馬鹿な事をしてしまった若者達が、何とか助かろうと足掻く話」で終わらせず「我が子を救おうとする母親の話」という側面も備えている為、自然とヒロインを応援出来るんですよね。 過去の水難事故や、トラウマの克服などもドラマ性を高める効果があるし、何よりもそれによって「ヒロインだけが救命胴衣を装備している」という状況を作り出し、グループの中でもヒロインの判別を容易にして、感情移入させやすくしている辺りも、お見事でした。 仲間割れにより死傷者も出してしまったけど、最終的には、やはり「大切な友達同士」であったと感じさせる終盤の展開も、良かったですね。 「このまま死ぬのを待つなんて嫌。岸を目指して泳いでみる」と言い出し、ヒロインとハグをして別れたローレンの件なんかは、中々感動的。 欲を言えば、ラストで現れた漁船の中に、彼女の姿もあって欲しかったものです。 [DVD(吹替)] 6点(2017-08-16 07:08:46)(良:1票) |
16. 人類SOS!
《ネタバレ》 「病院で目覚めたら、世界が破滅していた」 「自分以外の人々が盲目になっている世界」 という要素を抜き出すだけでも、後世に与えた影響の大きさが窺い知れる一本。 勿論、原作小説ありきの発想なのですが「人がいなくなり、乗り捨てられた車だけが残る街を彷徨う主人公」という視覚的なイメージなどは、映画という媒体だからこそ生み出せた代物だと思います。 こういった「元ネタ映画」というものは、それだけでも功績があるというか、高得点を付けたくなるものなのですが……正直、映画として面白かったかといえば微妙でしたね。 1960年代の映画という事もあってか、現代の目線だと「飛行機が墜落する場面」「トリフィドの毒を受けて顔が緑色になる場面」の特撮も稚拙だし、演出も全体的に緩慢なんです。 例えば、最初にトリフィドが動き出し、人を襲う場面なんかも、時間を掛け過ぎるせいで(もう植物が動くのは分かったよ……)(どうせこの人が襲われるんだろう? 早くしてくれ)って感じに、焦れてしまう。 主人公達が車に乗って、迫りくるトリフィドから逃げようとする場面もキツかったですね。 車輪が窪みに嵌って空回りし、ピンチのはずなのに、登場人物が妙に落ち着いているせいで、全然緊迫感が無い。 当時の観客なら、そんな演出の数々も自然と受け入れられたのかも知れませんが、自分としては戸惑いが大きかったです。 その一方で 「目の見えなくなった男が(恐らくは利用する為に)目が見える女の子を誘拐しようとする」 「元から目が見えなかった女性が、新たに盲目となった人に歩き方を教えてみせる」 といった感じに「もしも、世界中の人々が盲目になったら……」という思考実験の答えを示すようなシーンも数々盛り込まれており、こちらは中々興味深く、面白かったです。 (植物が相手なら燃やして倒すんだろうな……)という観客の期待に応えるように、クライマックスでは主人公が火炎放射器を持ち出し、トリフィドの大群を燃やしてみせる辺りも嬉しい。 トリフィドの弱点が「(地球に幾らでもある)海水」という意外性も、良かったと思います。 ……ただ、最後のナレーションにて「トリフィドの弱点が分かったお蔭で、人類は救われた」というオチが付くのは、ちょっと無理がある気がしましたね。 作中で文明が崩壊したのは「トリフィド」ではなく「失明」が原因なのだから、トリフィドの撃退法が判明したとしても、そこまで大きな意味は無いはずなんです。 どうしても「人類が救われるハッピーエンド」に仕上げたかったなら「トリフィドの撃退法」なんかより「失明を治す方法」を明らかにすべきだったんじゃないでしょうか。 そもそも本作は「病院で目覚め、女の子と一緒に文明崩壊後の世界を彷徨う主人公」以外にも「灯台で暮らしている夫婦」という別個の軸が用意されており、しかもそれら二つが交わる事無く映画が完結を迎えるという、トンデモない構成になっているのですよね。 これは明らかにマズいと思うし、自分のように(何時この二組が合流するんだろう?)と考えていた観客には、物凄い肩透かし感を与える形になっています。 聞くところによると「灯台関連のシーンは、試写会での不評を受けて無理矢理ハッピーエンドにする為に付け足したもの」らしいのですが、真相や如何に。 自分としては、追加された灯台絡みの話は全部カットして「主人公達が火炎放射器でトリフィドの猛攻を凌ぎ、何とか逃げ出すのに成功して、明日に希望を見出そうとする話」で纏めてくれた方が、好みだったように思えますね。 そうしていたら、胸を張って「古き良き映画」「これぞ隠れた傑作」と褒める事が出来た気がします。 [DVD(字幕)] 5点(2017-10-02 13:33:20)(良:1票) |
17. 未来は今
《ネタバレ》 例の「丸いアレ」に関しては、最後まで謎のままなのかなと予想していたのですが、中盤にてアッサリと正体が判明。 しかも名前も機能もそのまんま「フラフープ」とは、意表を突かれましたね。 (これって、もしかして実話物だったりするの?)と思っていた矢先に終盤は「突然の時間停止」→「天使との対話」なんてトンデモ展開が飛び出すものだから、もう吃驚。 呆れる気持ち半分、笑ってしまう気持ち半分、といったところですが、こういった悪ふざけ演出は、決して嫌いではないです。 ……でも、出来ればもう少し伏線を張っておいて欲しかったなぁ、と思わされたのも事実。 ここを、もう少し丁寧に描いてくれていたら、もっと楽しめたかも知れません。 コーエン兄弟の作品にしてはブラックユーモアが薄めで、とても観やすい作りとなっているのも特徴ですね。 自分としては嬉しかったのですが、それによって個性を感じられなくなったという、痛し痒しな面もありそう。 善良だった主人公が出世によって心を歪ませてしまい、そこから改心して元に戻った後にヒロインと結ばれるハッピーエンドに関しては、非常に道徳的な作りだったと思います。 上述の「悪ふざけ」な演出と、この「道徳的」なストーリーラインのチグハグな感じを受け入れられるかどうかで、評価が変わってきそうな一本です。 とはいえ、あんまり難しく考えないで、子供向けのファンタジー映画のような感覚で観賞するのが、一番楽しめる方法なのかも知れませんね。 勤続四十八年になる主人公の同僚や、エベレーターボーイなど、脇役達も個性的で、魅力的。 ティム・ロビンスとポール・ニューマンの共演という一点に限っても、観る価値はある一本だと思います [DVD(吹替)] 5点(2016-06-07 06:02:24)(良:1票) |
18. 7つの贈り物
《ネタバレ》 所謂「いい話」であり、感動的に仕上げられた品だと思います。 ただ、映画として「面白かった」「楽しかった」とは言い難い内容でしたね。 理由としては、冒頭で「主人公は自殺する」と分かってしまう事。 そして、かなり早い段階(映画が始まって十五分ほど)で「いずれ死ぬ主人公は、自分が贈り物をする相手は誰にすべきかを審査している」という真相まで種明かししている事が挙げられそう。 「贈り物」=「臓器移植」である事も、審査対象となる人物の顔触れで分かるようになっているし、根本的に「謎解き」要素が据えられていないのですよね。 だから観客としては「この先どうなるんだ?」「彼は一体何が目的なんだ?」という興味を抱き続ける事が出来ない。 である以上、この映画のメインは「主人公による審査」となる訳ですが、それがどうにも単調で、正直退屈なんです。 なんせ悪人は序盤の医者くらいで、後は悉く「善人」「合格」なのだから、余りにも予定調和な展開。 死期が迫っているヒロインと恋仲になり「余命僅かな難病物」のテンプレをなぞる形になる辺りも、更に既視感を強めていた気がします。 唯一、それを崩すアクセントとして「臓器移植ではない、住居提供」のシークエンスがあるのですが、それも「家庭内暴力を受けている女性と、その子供達を救う」というお約束展開なせいか、まるで目新しさを感じないから困り物。 勿論、王道だからこその魅力は盛り込まれていましたし、自分としても、この中盤の「家を譲る」件が一番感動したのですけどね。 ただ、その結果「感動のピークは過ぎたのに、主人公とヒロインとのやり取りを一時間近くも見せられる」という事になってしまい、折角の感動も冷めてしまった形。 盲目の青年とウェイトレスの微笑ましい会話や(このままでは、彼女に愛情を抱かれてしまう)と察した主人公が、あえてヒロインを冷たく突き放す件など、好きな場面も幾つかあるのですけどね。 もう少し全体のバランスが違っていたら「いい話」ではなく「良い映画」と表現出来ていた気がします。 [DVD(吹替)] 5点(2017-09-13 19:22:47)(良:1票) |
19. マイノリティ・リポート
《ネタバレ》 さながらオーケストラの指揮者のように、空中に浮かんだ情報の数々を整理する主人公の姿が印象的。 他にも「エレベーター式で上下にビルを移動する車」「次々に新しいニュース映像が表示される為、紙一枚分の薄さで事足りる新聞」など、近未来的なギミックが次々に飛び出すもんだから、それらを眺めているだけでも退屈しないし、面白かったですね。 裏路地のトンネルや、シリアルの箱にまで忙しなく映像が表示されるという「情報過多社会」を描いており、ディストピア的な雰囲気を醸し出す一方で「風船売り」の存在だけは今と変わらぬ等身大のまま描いてるってバランスなのも、実に興味深い。 この辺りは、たとえ世相がどれほど変質しようとも「夢を売る商売」だけは変わらずにいて欲しいという、作り手側の願いが込められているんじゃないかな、って思えました。 独特の粗い画面処理も魅力的だし、それらの「視覚的な面白さ」は満点に近いものがあったのですが…… ストーリーの方はといえば(何で?)と思える部分が多かったりして、残念でしたね。 まず、主人公の息子ショーンを誘拐した犯人が最後まで分からず仕舞いって事には、ひたすら唖然呆然。 こう言ってはなんですが、全体的にかなり無理のある展開を重ねている訳なんだし、ここも適当に「知り合いの誰かが犯人だった」って事にして、決着を付けても良かったんじゃないかって思えました。 あるいは、単なる事故死だったのをラマー局長が誘拐殺人に偽装して、主人公のジョンを「殺人の被害者代表」「犯罪予防局の象徴」として担ぎ上げたとか、何でも良いので、観客に「答え」を提示して欲しかったですね。 ジョンの眼球が便利アイテム過ぎて「とにかくID認証システムさえ突破すれば、セキュリティを無効化して自由に侵入出来る」って形になっているのも、流石に不自然。 「システムに頼り切って警戒を怠っている人間」の迂闊さを描いているのかも知れませんが、作中で二度も同じ手を使っているとなると(いや、ジョンは指名手配されてるし、その後に捕まってるんだから出入り禁止にしておけよ)とツッコんじゃいます。 ラストにて、主人公と妻が復縁するハッピーエンドになるのは歓迎なんだけど、さながら失った息子の代価のように「妻が妊娠した」というオチを付け足しているのも、ちょっと即物的過ぎて、興醒めしちゃいました。 勿論(ここは上手い脚本だな……)と感じる部分もあって「どれだけ息を止めていられるか」「片目でも見える奴がキング」などの台詞が伏線になっている辺りは、素直に感心させられましたね。 「殺人は予知されるもの」という先入観ゆえに、銃を突きつけられても平然としていた男が、警報を耳にした途端に怯えを示す展開なんかも、この設定ならではの妙味があって、面白い。 元部下に追われる展開になるんだけど、その際に「二分待ってから警報を鳴らすよ」「お願い、チーフ。抵抗しないで」などの台詞を挟み、主人公に信望があった事を示している辺りなんかも、妙に好きです。 それによって主人公が「良い奴」なんだって事が伝わってくるし(部下達が同情的だからこそ、追撃を何度も振り切る事が出来たんだ)って思えて説得力があるしで、二重の意味で効果的だったんじゃないかと。 それと、予知通りにリオ・クロウを殺すのかと思われた中で、ギリギリで踏み止まり「君には黙秘権がある」と。怒りと悲しみを押し殺して逮捕しようとする場面が凄く良かっただけに、その後「実はリオは犯人ではない」という陰謀色の強い展開になるのは、失敗だったんじゃないかって思えちゃいましたね。 これなら「ショーンを誘拐して殺した犯人は、リオ・クロウである」「主人公は彼を殺さずに逮捕し、プリコグの殺人予知システムは絶対ではないと証明してみせた」って形で終わる方が、ずっと綺麗に纏まっていた気がします。 ちなみに、本作には直接の続編となるテレビドラマ版「マイノリティ・リポート」(2015年)なる代物が存在しているのですが、そちらでもショーン誘拐事件の真相は明かされず仕舞いで、しかもドラマ自体も物凄く中途半端に終わってしまう為、あまりオススメ出来ないのが残念ですね。 ビジュアル面、ガジェット面の面白さは「傑作」と呼ぶに相応しいのでしょうが…… 映画として総合的に判断すると「中々良い映画」くらいの評価に落ち付きそうな、そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2019-02-15 12:35:11)(良:2票) |
20. アメリカン・パイ3:ウェディング大作戦
《ネタバレ》 ラブコメというのは基本、主人公とヒロインが結ばれて「めでたし、めでたし」で終わるものだから、そんなラブコメのその後、二人が結ばれた後の結婚式まで描いた本作は、とても貴重だと思います。 前二作を鑑賞済みの身としては、ジムとミッシェルに思い入れたっぷりなもので、そんな二人が結婚するというだけでも、感慨深いものがありましたね。 アメリカン・パイシリーズでは「前作まで付き合っていたカップルが、別れてしまっている」というパターンも珍しくないだけに、シリーズ中で一番好きなカップルの二人が結婚してくれた事が、もう小躍りしたくなるくらいに嬉しい。 結果的に「1で二人が出会い、初体験」「2でカップル成立」「3で結婚式」という流れになった訳で、ここまで丁寧に結ばれる過程が描かれたカップルって、映画史においても稀な例となるんじゃないでしょうか。 本作においてはシリーズ恒例の「パーティー描写」が「独身さよならパーティー」となっている訳だけど、ここの件も凄く面白い。 特に、ゲストのストリッパー達がメイドと婦警のコスプレをしていた辺り(米国だろうと日本だろうと、男の好みなんて大して変わらないんだな……)って思えて、興味深いものがありましたね。 そんな二人が花嫁の両親に見つかってしまい「本物のメイドさん」「本物の婦警さん」と言って誤魔化そうとする流れも秀逸であり、コント的な魅力があって楽しかったです。 出演者達に関しては、これまで脇役だったスティフラーが主役格となっているのが嬉しい一方、オズをはじめとした面々が多数欠席しているのが寂しいんですが…… まぁ、それに関してはカメラに写っていなかっただけで、本当は彼らも結婚式に招待され、二人を祝福していたんだと思いたいですね(「結婚式に行けなかった」と8で明言されているオズも、ビデオメッセージか何かは送ったはず) ジムの父親も、相変わらず魅力たっぷりであり「困った時は何時も父が助けてくれた」というジムの言葉を聞いて、嬉しそうにする時の表情なんか、もう最高。 (本当に息子想いの、良い父親だよなぁ……)って思えて、微笑ましくて仕方無かったです。 「チョコ」の件は流石に引いちゃったとか、ダンス対決を見せられた際は(えっ、これってそういう映画だったの?)と戸惑ったとか、欠点と呼べそうな部分も色々あるんだけど…… シリーズに共通する「登場人物に対する、作り手の優しさ」「下品なギャグだけでなく、真面目な感動もあるバランス」が、しっかり踏襲されていたので、決定的な違和感にまでは至りませんでしたね。 「真面目な感動」に関しては、ジムが仲間達に感謝を述べる場面が顕著であり「トラブルが起きても何とかなったのは、何時も皆が助けてくれたからだ」「ありがとう」という言葉には、本当にグッと来ちゃいました。 実際に、前二作にて「何とかなった」のを見守ってきたからこその感動があり、シリーズ物の強みを存分に活かした台詞だったと思います。 二度ある事は三度あるとばかりに、最後はスティフラーのママが登場して〆るのも最高。 結果的には、この後に五本も続編が作られている訳ですが、作り手としても一旦はコレで完結という事を意識した内容だったんじゃないか……って気がしましたね。 そういう意味では「三部作」の最後を飾る品として、見事な出来栄えだったんじゃないかと。 「シリーズに興味はあるけど、流石に八本も観るのは大変」って人も、とりあえず3までは観て欲しいなと思える、そんな節目の一本でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2020-05-16 08:42:12)(良:1票) |