1. ゴッド・アンド・モンスター
《ネタバレ》 「〝フランケンシュタイン〟は死を扱ったコメディだ」とホエールは言います。 だから、映画を見たら笑ってほしかったのだそうだ。 〝ヒトの死〟は尊厳あるものとされているので、ホエールのバックグラウンドを知らなければ単に掟破りなやりすぎマンということになる。 が、〝ヒトの死〟を戯画化しなければやっていけないような経験が彼にはあって、それはもう、そんな経験をしてしまったら冗談でも言わなければ発狂してしまうよ、というような凄惨なものだった。ヒトは精神的に追い詰められると、冗談で回避しようとする生き物なのかな。 金網に引っかかったまま腐っていく戦友から、〝フランケンシュタイン〟が生まれた。 凄まじいなあ。 全体的に「収束の美学」みたいなものを感じました。「拡大」の時期がとうに過ぎ、人生の終わりのほうで、風呂敷を畳んで、大事な荷物を捨てて、去る時期が来たことを知ったとき。どのように去っていくか。どのように去りたいか。 ホエールは脳卒中による幻覚に悩まされるようにならなければ、もっと別の去り方をしたかもしれない。 コントロールできない幻覚の内容は、彼にとって耐えられないものばかりだったので、どんなに辛かったかと思う。思い出したくない過去のシーンを、いつなんどき見せられるかわからない状態は、拷問であろう。 庭師とホエールの関係がいったいなんであったのか、ラストの映画中映画シーンで示される。感動的…といえるかもしれない。 しつこくエンドロールを見ていたら、ホエール作の絵画(の本物)をジョエル・コーエンに借りたと書いてありました。…なんでそんなもの持っているんだ。アトリエにあった絵画の何点かはホエールが書いた本物ということです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-02-18 13:56:50) |
2. ゴッホ
《ネタバレ》 登場人物がおのおの勝手にしゃべってセリフがかぶったりするあたり、アルトマンらしさを感じます。 ゴッホとその時代の空気を描いものとして、画的なリアリティという点では今後これを超えるものは出ないと思われます(音的にセリフが英語ってとこがね)。ティム・ロスだってこの時はほぼ無名だから、スターを1人も起用していないという点でも非常にリアリティにこだわっている。 兄弟の結束に不可欠なものはまず「貧乏」ですが、もうひとついえば「もともとはリッパな家柄だった」というものがあるみたいです。ゴッホ兄弟もそうでしょう。 ゴッホ家のリベンジ、というものが相当あったと私は思う。 さて、「妻子より兄弟が大事」という場合に妻は微妙な立場ですが、よく知られているように、ゴッホの絵を売りまくって、有名になるために貢献したのはテオの妻です。 あるドキュメンタリーでは、テオの妻は生前からヴィンセントに親切で同情的で、そのため彼の死後本来なら紙クズ同然の絵を処分せず、なんとか認めさせたいと奔走したのだといいます(ヴィンセント・ヨハンナ間の手紙などが残っているらしい)。 確かに、そうでないと、いくら金に困っていたとしても、なぜ誰も欲しがらない絵を売り込んだのかという説明がつきません。 この作品では、兄弟愛を際立たせるため、ヨハンナは現実的な女として描かれており、特にヴィンセントに同情しているようには見えませんが、そのへんかなりズル(というか失礼)なんじゃないでしょうか。 現実には、テオが死んでこの映画が終わったあと、第2幕が上がり、彼女の活躍が始まるのです。テオの妻がいなければ、現在知られる画家ゴッホは存在しなかったのであり、面倒を見たテオも、死後の活動を引き継いだヨハンナも、ゴッホ家複合体「画家ゴッホ」の一部です。 旺盛な食欲と同様に、絵を売りまくるヨハンナの姿を予測しながら見終わるのもオツなものです。 売れない芸術家は他人の稼いだ金を当てにして、「せびる」を当然のこととして活動していたのだなあ、ということがよくわかる作品(でも他人の金で女まで買うなよな…)。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-10-03 22:01:28) |
3. 氷の接吻
《ネタバレ》 なにかとても不思議な作品。 自信満々なのにいまいちウケないお笑い芸人のよう、というのがぴったりだ。 どこがどうダメなのかといっても、全体的にうっすらと、にせもの感が漂っているのはなぜかしら。 強いていうなら要素の詰め込みすぎ…。 アシュレイ・ジャッドは髪と目の色が黒っぽいというだけで悪女役をふられることがたびたびあるけどこれも災難だ。役がつけばいいというもんじゃないし本人にはそういう素質が無さそうなのになあ。 ジョアンナと諜報員が最後にどうなるかよりも、蒸発したという妻子は本当はどうなっているのかのほうが興味があったのですが。それに駅での写真に幻の娘がチラッと映っていたのはどういう意味なんでしょうか。あれは幻覚だと本人が言ってましたけども写真にも幻覚が見えるようになってしまったということですか。 子供を連れて7年間も姿を消すなんてこと普通はできませんからユアンの妻子は死んでいるのでしょう。彼がジョアンナの指にはめた指輪は奥さんのじゃないんだろうか? そのへんの事情を全部うやむやにしっぱなしのところがなおさらダメ感をつのらせるし、過去のトラウマや流産でメソメソ泣いているジョアンナの悪女ぶりもぬるい。「悪女」を撮るなら「蜘蛛女」のレナ・オリンで勉強してからにしてください。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2008-12-21 19:45:27) |
4. この森で、天使はバスを降りた
《ネタバレ》 守れなかったお腹の子の代わりに、ジョニー・B(と呼ぶイーライ)を助けるために死んでしまうパーシー。つまり彼女の人生は、かいつまんでいうと、9歳から義父に性的虐待を受け、実母はかばってくれないどころか口止めされ、16歳で妊娠したが出産を嫌う義父の暴力で流産させられ、病院から連れ出されてまたしても義父にレイプされ、思い余って殺して5年服役したが上記の事情により死亡。という悲惨きわまりない人生。それでも町の人に希望を残したからいいじゃないか。イーライも帰ってきたし、ハナも明るくなったし?…いちおうパーシーだって人間なんですけど。ジョーだって子供を持たなくてもかまわないと言ってくれたし、パーシーだって人生の収支計算からいくと、これから多少なりとも明るい人生があってもいいじゃない。パーシーに対するこれでもかのサディスティックな取り扱いに「ミリオンダラー・ベイビー」と似たような視点を感じます。 最後に登場するのは子持ちのクレア。「子供がつくれないから結婚できない」とパーシーに言わせたり、子持ちのクレアを当選させたり、なんか「女は子供を産んでナンボ」という念仏にも似た響きが聞こえます。空耳? [DVD(字幕)] 6点(2006-09-09 12:31:55)(良:1票) |
5. ゴッドファーザー PART Ⅲ
《ネタバレ》 なんて意外性に乏しい脚本だろう。 「Ⅰ」「Ⅱ」とは全くの別物だ。 出だしからして「子供は最も大切な宝」とか言われれば、「あ、じゃあ子供が死ぬんだな」と思わざるを得ないし、メアリーがヴィンセントに出会う最初のシーンからして、「あ、メアリーがこいつに首ったけになるのね」とバレバレだし、コニーが全面的にマイケルを支えていることには、あんまり意外性がないし、ケイが再婚していたのは多少の意外性もあるが、彼女がマイケルに対してあいかわらずの冷たい態度をとっていることも単なるお約束だし。なおかつアンソニーが歌手を目指して後を継がないことは意外といえば意外だが、役者さんじたいが魅力ゼロなので「こんなやつどうでもいいしなあ」としか思えない。そこにアンディ・ガルシアが登場すれば、「あ、こいつを息子のかわりに鍛えるわけね」と誰でも思うわけだし。それにしては鍛える場面が足りないし。これで、「実はヴィンセントはソニーの息子ではなくフレドの隠し子だった」とかなら、「おお、それでこそ『ゴッドファーザー』じゃ」というものだが。 とにかく、こちらの予想どおりにチンタラと進むわけだ。これは「ゴッドファーザー」でいいのか?なんか違う映画だったかしら? 唯一血が沸いたのは、ザザが突然ヘリから銃撃する場面の最初の2秒くらいだけだが、「ここで主要な人物が死ぬわけがないしな」と安心して見ていられるというていたらく。 なんだろうこのゆるーい感じ。「ゴッドファーザー」は見るものの予測を裏切られる快感に酔う映画だったのに。 そんでトドメはいかにも「撃ってください」といわんばかりにメアリーが追いすがり、「あ、やっぱりね」となんの感慨もなく絶叫中のアル・パチーノの口の中を眺めているだけ。 なんだかなあ。タリア・シャイアに対しては冷静に撮っていたコッポラも、自分の娘となると、デレデレの親バカになってしまったようだ。とにかくソフィアを魅力的に撮ることしか頭にない。確かに豊満(すぎる)ボディだし、髪の毛もきれいだけど(うっとうしいからいいかげん結わいとけよ)、極短の登場シーンしかなかったブリジット・フォンダのほうがよほど洗練されて光っていた。要するにソフィア・コッポラってイモっぽいのね。 だいたい自分の娘を主役級に据えるそのずうずうしさはどうなの。今回は「ソフィア・コッポラプロモーションビデオ」と思って諦めましょう。 [DVD(吹替)] 5点(2006-06-26 23:25:08) |
6. コピーキャット
ホリーハンターについてのみ述べたい。背が低い、顔も普通、年もいってる、とくべつセクシーでもない。なのに彼女は自信まんまん。「彼女を見ればわかること」なんて、自信のあまりいつもノースリーブのワンピースとか露出しまくりだ。「デブラウィンガーを探して」のインタビューでも、自信まんまんで、他の大女優以上のタカビーぶり。その自信はなに?超能力が使えるとか?そしてこの作品の彼女はなんといってもあの無意味なポニーテール。いい年してポニーテール。結ぶ位置も絶妙のダサさ。そして趣味の悪い服。「私は美人」「私はすごい」って自分で思ったらアリになるのか感全開のホリーハンターだ。しかし同性の目はどんどん冷ややかーになるのであった。 [ビデオ(字幕)] 6点(2006-01-02 21:28:20) |
7. 御法度
《ネタバレ》 すばらしい。監督が体張っているだけのことはある。とにかく男ばっかり。松田龍平の妖しい美少年。彼は完全に集団の中で女の役割である。神田うのの花魁も、数秒だけ。つまり本物の女はこの作品の中で手の届かない霧のむこうに居て、まるでTVの中だけに存在するようなものなのだ。崔洋一の近藤にたけしの土方、ものすごい配役。二人が差し向かいに座るとまわりに異様な空気が。何かへんなものが生まれそうでとてもこわい。特に崔洋一の怪しさよ。セリフが少ないせいか。ところで、浅野忠信についてですが、一重まぶたに細目の三白眼で鼻筋が通っている、という場合は「おしょうゆ顔の美男」なわけですが、これと同じ顔に及川光博がいます。しかし二人はぜんぜん似ていない。浅野はブラピのように「美男の汚な作り」にはげんでいるわけですが、小奇麗にしたとしてもやっぱり似ていない。同じパーツを所持しながらなぜ?それは「唇の端がキュッと上がっているかどうか」の違いによるのでした。女の人もこれからは男性の顔について堂々とえげつなく批評しようではありませんか。えっそんなの私だけ?大島監督の時代物をもっと見たかったのに残念です。 [ビデオ(字幕)] 9点(2005-12-15 21:31:40) |
8. 恋する惑星
《ネタバレ》 これはなんていうか、「映画」というのとはちょと違うような。 「BGM」的に流しておいて、香港の若者の生活やファッションを楽しむ? 「起承転結」を期待してしまう日本人の常としては、眉間にシワをよせて真剣に取り組む対象ではないみたい。たりらりらん、と進むこのユルさよ。ロフトって香港にもあるんだ。 [ビデオ(字幕)] 6点(2005-12-11 00:45:56) |
9. 氷の微笑
《ネタバレ》 うん、シャロンがきれいでよいです。あんまり胸ないけど、その自信満々ぶりが「日本人の女には逆立ちしても真似できねー」と思わせる。こういうキャラって、ちょっとでも「でもあたしって胸いまいち無いし」とかって思ってるところがバレたら台無しだから、演じるの難しいと思うよ。でもシャロンはやってくれた。拍手。アクターズスタジオのインタビューで、「あのヒロインは、誰よりも深く傷ついて、ああなってしまった女性なの」と言っていた。うんうん、そうだと思うよ、とうなずく。ともあれ、女優さんはこうでなくっちゃ、の映画です。 [地上波(字幕)] 8点(2005-11-17 21:08:13) |
10. ゴールデンボーイ(1998)
《ネタバレ》 欧米の人がナチスを恐れる心情は、反キリストに対すると同じく、日本人にはわかりにくいものなのであろう。この作品は「オデッサファイル」とセットで見るとよいですね。老ナチが行進中に変身するところ、恐ろしいですね。でもこの恐ろしさも、本場の人の半分以下であろう。だもんだから、「キングの原作だからホラーなんでしょ」と思って最後まで見たりする。異文化の映画を見るときには、しつこく同じ題材が描かれていることの意味に留意しなければならない。日本人が怖いものと、他の国の人が怖いものとはイコールではない。 [ビデオ(字幕)] 8点(2005-11-16 23:57:24) |