1. 砂上の法廷
犯人探しを楽しめる法廷ミステリー。ただし残念なことに犯人を推定できる伏線は張られておらず、推理物というわけではない。基本はワイドショーネタのような下世話な小咄なのだが、丁寧な演出と抑えた音楽、そして「羅生門」のような凝った語り口で品格が感じられる。キアヌは大根で弁護士役はちょっと荷が重い。まあ、それほど切れ者というわけでもない役所なこともあり、ヌルい感じがいい案配とも言える。周りは上手い役者で固められており、特に被告の若者は渋い演技を見せる。短い尺のせいもあってぐいぐい引き込まれて一気に観終わってしまった。あの愛らしかったレニー・ゼルウィガーが、しばらく見ないうちにしぼんでキャリー・フィッシャーみたいになったことにびっくり! [インターネット(字幕)] 7点(2020-11-20 13:44:49) |
2. サスペリアPART2
ダリオ・アルジェントは頓珍漢だ。イタ公らしく美的なセンスには見るべきものがあるが、話を論理的に語る能力はなくコメディセンスも変。見てるとこっちのアタマもおかしくなってくるような意識の混濁感がある。映画鑑賞は非日常感を味わうのが目的なのでそれこそが本作の最大の魅力だろう。しかしラストまで観ると細部はともかく大筋は意外にしっかり構築された物語だったりして却って驚かされたりする。伏線の貼り方も頓珍漢ならではの大胆さが小気味いい。但しゴブリンの音楽はあまりにチューブラーベルズのチープなまねっこにすぎてちょい情けない。………にしても怪奇大作戦「青い血の女」に影響されたような(まさかね)あの人形、なんで頭にあんなでかいゼンマイが入ってるのよ! [DVD(字幕)] 6点(2016-08-21 17:01:27) |
3. サンシャイン 2057
《ネタバレ》 物語性不足もはなはだしい。おおまかなストーリーは東宝作品「妖星ゴラス」のアバンタイトル=隼号突入のエピソードみたいなもの。到底2時間持たせるような内容ではない。前任のイカロス1号が謎の救出信号云々〜の月並みなエピソードが挟まれているが、ストーリーを盛り上げることに一切貢献していない。それどころかホラー調になってSF作品としての焦点をぼやかしてしまっている。ミッション変更の瀬戸際に立った乗組員たちが「多数決ではなく、科学者としての正しい選択をしよう」という耳を貸すべき台詞が出てくるが、その後の選択の根拠というのが全く科学者らしからぬ「爆弾2個ならミッション成功率2倍!」などという丸八真綿のCM(ご存じない方はyoutubeで見てみてね)並のトンデモさでタメにする脚本ここに極まれりの感があった。真田広之は何を考えているのかさっぱりわからない。特攻賛美のようなヒロイックな演出も鼻につく。名作「スラムドッグ・ミリオネア」の奇跡的脚本をみごとにまとめ上げたスマートな監督とは思えない凡作だ。 [ブルーレイ(邦画)] 2点(2016-08-12 11:55:39) |
4. 叫びとささやき
これはきついよベルイマンさん。暗さ・重苦しさが度を超している。人間への深い洞察もあなたの苦痛も分かるが映画は娯楽でしょ。心の闇を掘り下げる作品は好きでも苦痛を共有したいわけじゃない。映画内人物の苦悩を考察することの何分の一でいいから、これを観る観客の気持ちも考えて欲しかった! [DVD(字幕)] 3点(2016-02-29 09:58:16) |
5. ザ・タワー 超高層ビル大火災
驚くほど普通のパニックもの。なんの捻りも無い。はじめからその点は覚悟して観たのだが、かなり下げたつもりのハードルを若干下回った印象。理由は以下のとおり。●主役ともいうべきタワーマンションに魅力が無く破壊の美学が今ひとつ感じられない。この建物を象徴する大ホールなり、壮麗な意匠なりが欲しいところ。また、建物全体の構造が説明されないので厨房やレストランや居室やコントロールルームや階段室のつながりがわからず、まとまった構造物として感じられない。●火災中の建物内は無煙ロースターのような状態に終始し、人が煙にまかれる描写が無い。画作りが難しいのはわかるがリアル火事の噴煙の量を思うとこれはいかにも絵空事に見える。肝心の高さの恐怖もおざなりで上手く描けていない。●話の盛り上げ方に「ならでは」の工夫が無く「タワーリング・インフェルノ」から一歩も進化していないのはちょっと寂しい。マンション分譲中の広告宣伝をバーホーベンのテレビ画面的な手法で要所要所に挟み込むとかすれば、いい気になることへの警鐘というテーマも深まるし、破壊のカタルシスもぐっと揚がると思うのだが。……結局CG全盛の昨今の例に漏れず、本作も一見派手という画面に頼ってばかりいて観客の心理誘導の面については無策であると言わざるを得ない。 [ブルーレイ(字幕)] 3点(2014-01-19 08:10:08) |
6. 猿の惑星:創世記(ジェネシス)
《ネタバレ》 説明調の台詞、同じく説明調の音楽、良い奴と悪い奴しかいない人間観、どうでもよい恋愛譚、惨事が起こっているのに痛みのない事故描写、橋の上での攻防で終わりのスケール感のなさ、なにより「短時間で知能が高まるということは如何なることか」をまともに考察した気配のない杜撰なシナリオ、等々がっくりくることばかり。観客はサルじゃないんだぞ! [映画館(字幕)] 2点(2011-11-21 09:10:14)(笑:2票) (良:3票) |
7. 座頭市地獄旅
《ネタバレ》 市のライバル成田三樹夫氏がえらくカッコイイ!プライドのありかが将棋と剣の勝負のみに集中しきっている浪人。剣豪が日銭を稼ぐのに自分を打たせる大道芸なんかしているのがいい。そのことが彼のニヒルな人間性をさらっと表現していて上手い。物語り的にも市との脳内将棋バトルが要所要所に挟まれていて、二人の関係の深まり具合を示す良いアクセントになっている。仲良く遊んでいたのに結局対決することになる動機が判然としないが、成田氏の佇まいと行動を見るとくだくだした理屈は不要と感じてしまう。そういう狂犬のような人同士なのだな、と。三度目の対局で、徐々に将棋を指すテンポが上がっていき、一気に斬り合いになだれ込むくだりのカタルシスが気持ちいい!このクライマックスは同年発表の博打映画の傑作「シンシナティ・キッド」とそっくりなテンポと目のアップだが影響をうけているのだろうか。それにしても三隅監督は行間で語るのが本当に上手い。 [映画館(邦画)] 8点(2011-11-04 09:16:23) |
8. 侍(1965)
テーマも深く、物語としてもたいそう面白い。複雑な人間関係を上手く整理して、じっくり時間をかけて小出しに見せていってくれるので中だるみがない。史実に沿った話でもあり、要所に書記の視点を挟む構成も説明調の台詞もナレーションも、ドキュメント風味の味付けに貢献していて実に心地良い。特に複数の証言者の回想を劇中の実時間と無理なくからめていく手腕には感心した。主要登場人物のすべてが、ストーリーの中で重要な役割を与えられていて一切無駄がないのも素晴らしい。さすがは「幻の湖」を世に出した脚本家だ。わずかに残念なのは、脇を固める役者陣の説得力に比して、肝心の三船氏の演技がいまいち地に着いていないように見える点。舞台劇調の台詞回しをうまく消化仕切れていないように感じるのだ。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2010-05-06 13:26:50) |
9. サンダーバード(1967)
テレビシリーズからフレームアップしたのは画面の派手さばかりでドラマ的にはむしろ後退というなんとも残念な出来。確かにサンダーバードの見所のほとんどがメカ描写にあるのは間違いないので映画化の際に製作者がそこを拡大すべきポイントと考えても無理はないのかもしれない。だとしてもこの物語のつまらなさは尋常ではない。ドラマの本質は葛藤にあると思うがしつこく描かれるアランの葛藤が本筋であるゼロエックスのエピソードとまったく絡み合っていないのだ。バリー・グレイ氏作曲の名曲「ゼロXのテーマ」やラストのブラバン生演奏など音楽的に素晴らしい演出が見られるのが救い。ちなみに2作目の「サンダーバード6号」では単純な構造ながらテレビ版並には観客の心理誘導に成功している。本作の失敗から学んだ成果なのだろう。 [映画館(吹替)] 5点(2009-12-14 13:22:34) |