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1.  七人の侍 《ネタバレ》 
【感動】①農民の境遇に同情した侍が、金、出世に無縁の野武士との私闘に命を張る。ヒューマニズムとヒロイズム。②言葉では百姓を罵倒していた人足が、心底では窮状に同情しており、勘兵衛が断ったとき、飯を突き出して説得する。③心離れた侍に菊千代が百姓の実態を訴える。「百姓は嘘つきで業突張りだ、そんな百姓に誰がした」④菊千代が火中から救出した赤子を抱いて「この赤子は俺だ」と叫ぶ。 ・勝四郎が食事を削り、娘に米の飯を与える。娘はそれを最貧困の老婆に渡す。それを知った侍が食事を削り、子供たちに与える。⑤決戦前夜、勝四郎と村娘との恋の激情。⑥勘兵衛を師と仰ぐ勝四郎の成長ぶり。⑦「勝ったのは百姓達だ」と心憎い言葉を残す勘兵衛。大地に生きる者が勝利者、戦に生きる者の心は虚しい。【悲劇】①百姓利吉の妻は野武士に差し出されていた。野武士の砦を襲ったとき、利吉の姿を見た妻は火中に飛び込む。そのとき利吉を助けようとした温厚な侍平八が射殺される。②戦術上離れ屋は見放される。長老は自らそこに残って死を選ぶ。③菊千代と良いコンビを組んでいた弱い百姓代表与平が戦死。④人格の高い久蔵が戦死。仇を討ちに行った菊千代は敵と差し違える。久蔵と菊千代とは表面上正反対の存在だが、心ではつながっていた。【野武士】40人もいるのに屑揃いで無能、同じ戦法を繰り返す。鉄砲も弓も甲冑も馬もあり、村は四方から襲撃可能なのに。いきなり斥候が殺され、奇襲を許す。村の木柵は焼き払えば良い。近くの家も火矢で焼けば、防ぐのは困難。槍襖などは鉄砲と矢で蹴散らせば良い。隠れている小屋も焼く。何軒かの家も火矢で焼いておいて談合を持ちかけ、ゆさぶりをかけるのが定石。一旦引いて、数か月後に奇襲するのが最上手段か。侍が去るのを待つべし。復讐するなら村ごと焼き払えば良い。【その他】①婆さんに人殺しさせるのは良くない。止めてあげないと。②長老の死が理解不能。③百姓を無力な存在に描いているが、秀吉の刀狩令が出たことでも分る通り、当時は百姓も武装していた。④青年がほとんどいないのも疑問。⑤せっかく甲冑や槍、奪った鉄砲があるのに活用しない。弓矢が当っただけで死ぬ。⑥馬から降りた野武士が弱すぎる。悲鳴を上げて女の鍬に追い立てられる。剣豪が一人ぐらいいても良い。⑦菊千代を除いて侍達の体格が貧弱。⑧ラスボス不在が残念。
[DVD(邦画)] 10点(2011-01-27 23:45:09)
2.  シュガー・ラッシュ 《ネタバレ》 
登場人物がゲーム・キャラクターと、完全に子供向けの設定で、期待はできないと思いつつ鑑賞した。が、予想に反して、後半から張られた伏線が次々と回収され、ぐんぐんと惹き込まれた。鑑賞後感も爽快で、秀作である。 悪役ラルフは物を破壊する役目に対する嫌悪感と、善役フェリックス達から仲間外れにされている疎外感にと悩み、自分を失う。そして心機一転、ヒーローのメダルの獲得を目指す。メダルは何とか獲得できたが、紛失してしまう。それを拾った少女ヴァネロペは、カーレースに出て優勝するという夢があり、メダルをコインの代替えにして出場権を得る。優勝すればメダルが貰えるので、二人は一致団結して優勝を勝ち取ろうとする。この二人の友情を描くのが物語の本流だ。これを阻む者としてキャンディ大王がいる。大王によればヴァネロペは欠陥品で、彼女がレースに出ればゲーム機が壊れていると見なされ、廃棄処分になってしまい、そうなればヴァネロペは生き残れない。だがそれは表向きの説明で、裏には驚異の姦計が隠されていた。本当の理由は、実は大王の正体はゲームを乗っ取ったよそ者で、全員の過去を変えていたのだ。ゲームの本来の主人公はヴァネロぺだった。ここから物語は俄然沸騰してくる。もう一つ物語の面白さに貢献しているのは、真の脅威、サイ・バグの存在だ。これが増殖すると本当にゲーム機が壊れてしまう。この設定によって真剣味が増し、感情移入する。。たかがゲームじゃないかと高を括っていられなくなるのだ。 フェリックス達もラルフが居なくなったことで、ゲームが成立しなくなり、ラルフの存在意義の大きさに始めて気づく。ラルフを探しに行ったフェリックスの活躍とラルフとの友情も見逃せない。その上、サイ・バグを生涯の仇として狙う、悲劇のカルホーン女軍曹を登場させ、観客を釘づけにする。加えてフェリックスとカルホーンの恋愛要素も加わるのだから鉄壁だ。全く無駄がない。主要人物四人が縦糸と横糸のように濃密に絡み合い、多彩な物語を紡ぎ出し、脇キャラも存在意義を失わない。アニメのお手本のような脚本で、感心しきりである。難を言えば、キャンディ大王に最後まで改悛の情が見られないこと。
[DVD(字幕)] 9点(2014-02-02 20:53:28)(良:1票)
3.  死刑台のエレベーター(1958) 《ネタバレ》 
サスペンス映画の傑作。2つのサスペンスが同時に進行し、意表外なことから思わぬ展開となり、複数の犯罪が一気に白日の下にさらされるラストは見事である。中年の愛と若者の愛も描けている。硬質なモノクロ映像、心理描写に卓越したカメラワーク、主演女優の艶麗な美しさ、クールで洗練された音楽、頗るゴージャスだ。完全犯罪を目論んだが僅かの偶然から破綻していく過程を見せる映画のように見えるが、そうではないだろう。主題は「倦怠(アンニュイ)からの開放」。登場人物のほぼ全員が倦怠を感じている。倦怠とは、退屈な生活、本来の自分でない自分に対する嫌悪感といったところ。社長夫人は、夫との愛のない生活に疲れ果てている。ジュリアン(大尉)は戦争で死線をさまよったが、戦争で儲けている男の下で働いている。花屋の娘は、退屈な仕事と貧しさに甘んじながら一人暮らし。青年はやりたいことが見つからず、仕事もせず、バイク窃盗で指名手配され自暴自棄になっている。その他、秘書、警備員、各飲食店の従業員、酔っ払いの大尉の友人、警察の受付まで、誰一人明るい顔をしていない。人生に倦む現代人の無表情がそこにある。倦怠を暗喩するのが雨模様の夜の都会であり、その中を夜を徹して恋人を探して徘徊する社長夫人の姿は、自由を渇望してもがく現代人の姿そのものだ。恋人通しがお互いに惹かれ合うのは、倦怠から脱出したいという共通の素懐があったからだろう。彼らは犯罪を起こす前から 倦怠という名のエレベーターの狭い空間に、息も絶え絶えに閉じ込められていた。だからこそ中年の恋人達は自分たちの邪魔になる男の殺害するという決死の決断をし、若い恋人達は自分たちの犯罪が明るみになりかけたとき、躊躇なく自殺を決行したのだ。殺人を犯したことでエレベーターは死刑台へとつながる。展開上、若者の恋人達は、中年の恋人達をかき乱しているだけの存在にみえるが、実は両者は対等だ。アンニュイを感じている人ほど、この作品に惹かれるのではないか。残念な点もある。鉤爪付きロープが地上に落下しているが、もし雨などのせいで勝手に滑り落ちたとしても、ベランダに落ちるはず。ロープは回収するつもりだったが、警備員が部屋に入ってきて、あとで回収するしかなかったという筋にすべき。殺される観光客はおちゃらけすぎ。最後の抱擁写真だが、あれは一枚で良い。風景写真の中にたった一枚あった方が印象が強い。
[DVD(字幕)] 9点(2012-10-06 04:20:24)(良:1票)
4.  白い馬(1952) 《ネタバレ》 
鮮烈な印象が残る映像詩。寓話性、象徴性に富み、映像と物語が高度に昇華された好短編。白い馬の気高き精神、他者に屈しない自尊心、野生の剛健さ、躍動する生命力が遺憾なく表現されている。最後の行動は、自由を奪われるくらいなら死を選ぶというような単純な考えではない。少年と馬を衝き動かしたのは、常人では考えもつかぬ、より高みへ進もう、未知の新天地を目指そう、新しい冒険の旅にでようとする開拓精神の表れだと思う。沖に漂う少年と馬は若さと自由のメタファーであり、逃避や自殺などでは決してない。最後は光となって消えた「かもめのジョナサン」と比較されるべきものだ。 ◆最後の語り「強くたくましい白い馬は友である少年を素晴らしい土地へと運んでいった。人と馬が仲良く暮らせる国へ」は余計だ。何故少年と馬は沖へ沖へと進んでいったのか、いつか戻ってくるのかなどを想像させて、深い余韻を残すのが常套手法。短編であればなおさらだ。 ◆惜しいのは少年パート。少年の内面が見えてこない懸念がある。少年が自尊心の高い白い馬に認められて、強い絆を築く過程がややもすると平坦。少年が何度も捕まえようとしては失敗し、時には怪我をし、時には馬飼達から守ってやるなどの辛労、精神力を見せる場面がもっとほしい。心の成長を見せてほしい。短編で尺が足りず、仕方ないのだが、非常に残念である。少年の弟(妹にみえる)が、三年後に「赤い風船」の主役を演じるとは驚きだ。子供の成長は早いもの。「赤い風船」と同じ主題であることにも驚いた。このごつごつとした現実とは別に、どこかに理想郷が存在すると夢想しているのだろう。そのロマンチシズムに乾杯。監督さん、あなたは詩人だ。
[DVD(字幕)] 9点(2012-09-13 19:28:41)
5.  地獄の黙示録 特別完全版 《ネタバレ》 
【ウィラード】諜報部隊の暗殺要員。故郷では歓迎されず、妻と離婚、戦場に戻るが、戦争の偽善と欺瞞を知っており、精神を病んでいる。カーツ暗殺を命じられるが、戦争の実態とカーツを知るに従い彼に同情し、心の平衡を保てなくなってゆく。カーツの分身でもある。 【カーツ】エリート軍人で、実績も申し分ない人物。戦地で恐怖と狂気を体験し、魂を病む。ベトコンが躊躇なく子供の腕を切断するのを見て、恐怖の克服の仕方を学ぶ。倫理や道義心など捨ててしまうことだ。それに気づいたとき彼の心は自由となり、軍隊を離れ、王国の支配者となる。そこでは彼は神のように振る舞い、処刑された死体がごろごろ転がっている。生と死の境が曖昧だ。一方で苦悩が消失したわけではない。そこでウィラードに自分を殺させ、自分の物語を息子に伝えてくれることを願い、それを演出する。彼にとって自分の死も取るに足らない。魅力的ですらある。 【感想】戦争はどうして止まないか?それは戦争に美しさがあるからではないか。その命題を誠実に追求して完成させた作品。◆ウィラードが前線に到着してからわずか10分足らずで戦争の凄まじさ、悲惨さ、凶器を表現出来ている。監督の力量に脱帽。キルゴアはカーツの対極にある人物。狂気に苛まれているのは同じだが、戦争を楽しんでいる。まだ心の均衡が保たれている。奥地に進むに従い、狂気と混乱が増す。指揮官が居ない前線、もはや誰と戦っているのさえ不明な混沌。正義も大義も無意味だ。兵士たちは戦争に踏みにじられている。農園を守るフランス人は、自らの正当性を主張するが、すでに敗北は決定している。ウィラードの部下も精神を病み、次々と脱落してゆく。カーツの王国は原始的社会。神話が生きている世界だ。カーツ暗殺は、牛を捌く儀式と並行して描かれる。すなわちカールの死も神に捧げる儀式。カーツが死んで神話が完成した。それが「Apocalypse Now(現代の黙示録)」◆戦争の美しさとは何か?神と一如となる体験かもしれない。人間にその原初的な誘惑があるからこそ、戦争は潜在的に魅力的で、無くなることはないのだ。反戦のための映画ではなく、戦争が存在する根源的理由を抉り出した問題作。戦争の美しさは、導入部のナパーム弾と音楽でエレガントに表現できている。監督の狂気だろう。だが心の平衡を保つためには、時に狂気に触れてみるものいいかもしれない。
[ビデオ(字幕)] 9点(2011-02-14 14:09:56)(良:2票)
6.  市民ケーン 《ネタバレ》 
全編特撮映画と考えた方が良い。例えば後妻が去った後で大暴れするシーン。ローアングルで怪獣映画と見まがう迫力。大映しのガラス球を掴む腕。廊下越しのロングで心の空虚さを表現した後、虚ろに歩くケーン(K)。やがてその姿が鏡に多重に映り、複雑な彼の人生を縮図にして見せる。後になって分るが、それは彼が人生を悟った瞬間であった。感嘆しきりである。◆判りづらいのは、金持ちになった母親が銀行を後見人として息子を手放すところ。日本には無い習慣ですね。理由として父親の暴力が示唆され、愛を知らない子供が誕生。◆重みを加えているのは、Kの複雑で矛盾を抱えた性格。金持ちに満足せず、常に何かと闘う。新聞に興味を持つのは社会と闘えるから。唯一の友人とも闘う。若くエネルギッシュで理想と野心に燃えるが、自己矛盾に気づかない。彼が悪と叩く対象は、彼が最大の個人株主の会社。産業界からはコミュニストと呼ばれ、労働者からはファシストと呼ばれる。貧しい人たちの味方を標榜しても、労働者が団結すれば叩き、新聞を選挙に利用する。後妻の酷評を自ら書く。最初の結婚は政治的野心のため。闘争は彼の自己確認の方法で、常に忙しく、家族との対話も少ない。後妻に歌えと命令するは世論との闘い。少年期の愛情の飢えが生んだ歪んだ自己愛。◆ザナドウ城は自己防衛、現実逃避の象徴。政治的に挫折し、大恐慌で新聞経営にも行き詰る。残されたのは自分の殻に閉じこもる事。美術品を買いあさるのは心の隙を埋める行為。最後の心の砦であった後妻に去られたとき、Kは初めて自分の人生について反省する。自己愛と虚栄心でただやみくもに突っ走り、欲しいものを手に入れたいと闘ってきたが、欲しいものは愛であり、結局何一つ手に入らなかった。世界有数の富豪で買えるものなら何でも手に入るというのに。多くの人を幸せにできると自負していたのに、自分一人さえも幸せになれなかった。Kの目に留まったのは雪の見えるガラス球。雪は幸せな子供時代を想起させた。愛情に恵まれていた時代。遊んだ橇には「薔薇の蕾」の文字が。人生は薔薇色に輝いており、やがて花開く未来が約束されていた。薔薇の蕾は彼自身だ。いくらお金を積んでも人生をやり直すことはできない。焼かれる橇は葬式の象徴。◆息子の事故死の様子が描かれていない。彼を最も苦しめた事件なのに。記者の黒子演出に違和感。「ローズバド」と言ったとき看護婦いない。
[DVD(字幕)] 9点(2011-01-19 04:09:59)(良:2票)
7.  下妻物語 《ネタバレ》 
とても勢いのある作品。前半は漫画チック、後半は劇画調。発色のよいフィルムを使って、ポップ調に統一している。B級コメディ路線狙いが見事に成功。お馬鹿映画に見えるが、内容は深い。「星の王子様」と同じテーマ。桃子は、不幸な家庭環境が影響し、現実を拒絶している。牛の糞のある田舎町を受け入れず、18世紀のロココの時代に生きる空想ばかりを抱く。生きがいは、ロリータファッション。服が心の鎧となっている。現実を生きていないため、常に孤独で、友達もいない。感情も停止させているので、孤独さえも感じない。重症である。そこへレディースのイチゴ登場。彼女は過保護すぎた家庭環境のせいでいじめに遭い、それから抜け出すためにレディースに入った。一皮剥けたのである。イチゴは自分をぶつけてくる。好きな服には感心し、先輩のために刺繍を入れたいと願い、バイトもするし、将来の設計もあり、失恋もする。現実に生きて、悩み、もがいているのだ。二人に共通なのは孤独。桃子は離れようとするが、特殊能力が友情のきっかけに。パチンコである。ここはご都合主義だが、もう一つの特殊能力、刺繍に目覚めてから桃子は変わる。イチゴのために刺繍をしたいと願うのだ。初めて自分から他人との関わりを願ったのだ。それはイチゴの「他人のために何かしたい」という無垢な心が伝わったから。そして服の会社から刺繍の依頼。初めて社会との接点ができたのだ。他者から必要とされることで、不安を覚えならがも自我に目覚めてゆく。不安は刺繍するときに出る汗で表現されています。そんな桃子に感応して、自己中心的だった社長も仕事より友情を選べといってくれます。途中で事故に遭うが、このとき桃子は生まれて初めて「生きたい」と心から願った。イチゴを助けるために。神に願いは届き、再び立って歩き出す。再生した桃子だ。あとは怒涛の展開。心の鎧であった服は泥にまみれる。生きるとは泥にまみれること。啖呵は初めての感情の発露。関西弁が出たのは、不幸な子供時代を受け入れたということ。ウソがすらすら出たのは、現実で生きるための直感と知恵が備わり始めたということ。現実逃避の少女が、友情をきっかけに現実を受け入れ、真の自分らしさとは何かを探し始めるというテーマに貫かれています。スカッとする映画です。最初に事故のシーンを出して驚かすのもうまい。女優二人の体当たりの演技も光ります。
[DVD(邦画)] 9点(2009-04-19 07:50:27)(良:4票)
8.  仕立て屋の恋 《ネタバレ》 
恋に殉じた孤独な中年男の悲恋物語。男は孤独を友としている。世間との接触は最低限にかぎり、仕立屋の仕事を事務的にこなす毎日だ。人づきあいの下手さ故に隣人からは嫌われ、子供達からはからかわれるが意に介さない。趣味はボウリングで、慰みとして二十日鼠を飼っている。ある日転機が訪れた。隣の集合住宅に美女が引っ越して来たのだ。忽ち恋に落ちた男は、女の部屋を覗き見するのが習慣となる。甘美な音楽をかけながら女に見惚れるのが、彼にとっての壺中の天地だった。男はそれだけで満足していた。女に恋人がいるのを知っていたし、何より安寧な心を乱されたくなかった。しかし、殺人事件を契機として、女が積極的に接触してくるようになる。男は戸惑った。偶像であったものが、ギリシア神話で彫像から人間に変身したピグマリオンのガラティアのように肉化した現実の女性として出現したのだから。女の目的はただ一つ。女の恋人が殺人犯で、男がその真相をどこまで知っているかを探るためだ。男は女の意企を十分承知しているが、彼女への愛を堰き止めることはできない。希望は無いと知りつつも、万が一に賭けて、彼女に駈け落ちを持ちかける。失望した男が部屋に戻って知ったのは、彼女の裏切りだった。女は刑事に男を殺人犯として告発していた。このときの男の台詞が泣かせる。「きみを少しも恨んじゃいないよ、ただ死ぬほど切ないだけだ」自死に近い形で男は亡くなるが、その手には女の香水の染みた手巾が握られていた。純情ここに極まれりである。男の一方的な恋だが、それは命をかけて守るほどの価値があるものだった。女の存在は、それほど幸福をもたらしてくれるものだったのだ。次の点で演出が光る。殺人事件を絡めて緊迫感を出した点。鳩を毒殺した老婆の逸話を持ち出して、女の本性を暗示した点。その一方で女が男に惹かれてゆくようにも思わせる演出。氷上で転倒した男の姿と、転落死した姿を重ねた点。女と香りを結びつけた演出。心理描写が多く閉塞的になりがちなのをボクシングなどの運動を持ち出して開放感を出した点。最大の美点は男の愛を濃密に描いた点だ。女を拒絶したり、寝台の残り香を嗅いだり、待ち合わせの女を盗み見たり、墜落中に女の姿を映しだしたりと多種多彩だ。レコード、香水、二十日鼠、隆とした服装などの小道具の使いかたも巧い。残念なのは、男に性犯罪歴があること。これでは純愛が台無しである。
[映画館(吹替)] 8点(2015-01-12 21:09:58)
9.  少女の髪どめ 《ネタバレ》 
会社の食糧買い出しの代金で自分のチョコも払う、拾った硬貨はネコババ、仲睦まじいカップルを見ると羨ましい。転落事故で、運ばれる老いた労務者ナジャフをみても同情せず、自殺でもしたかとジョークを飛ばす。世間知らずで、浅慮にして喧嘩早く、どこにでもいそうな青年が主人公。ナジャフの代わりに息子ラーマトが建築現場で働くことになるが、諸事情により、青年は自分の食事関係の楽な仕事をラーマに奪われてしまう。逆恨みした青年はラートマを殴打したり、子供じみたいやがらせをする。そんなある日、ラーマトの秘密を知る。ラーマトは女だったのだ。それからは手の平返しで、滑稽なほどラーマトに夢中になる。美少女でもないのに不思議だが、恋は盲目だ。ラーマトに関心を持つと自然と彼女の置かれた、違法アフガニスタン労働者問題にも関心が向くようになる。建築現場に難民調査が入って、アフガニスタン人は全員解雇になった。親子の身を案じた青年は様子を見に行くが、そこでアフガニスタンの労働者の実態を目撃することになる。冷たい冬の川に腰まで浸かりながら重い岩を運ぶ女性達、その中にいとしのラーマトの姿もあった。青年は居ても立ってもおられず、全貯金をナジャフに渡そうとするが、頼んだ人に持ち去られてしまう。その人も急迫した事情があったのだ。仕方なく大切なIDカードを売って金を作り、ナジャフに渡すが、翌朝アフガニスタンに戻ると告げられる。ショックの余り、お茶も断り、走りに走る青年の姿が痛々しい。これで永遠の別れとなるだろう。思いを断ち切るため、少女の髪どめを捨てる。翌朝そっと見守るつもりだったが、少女が籠の荷物をこぼすと、思わず走り寄ってしまう。ぬかるみで、少女の靴が脱げると履かせてやる。無言の二人。けれど少女の表情から青年の思いが伝わっていることが読み取れる。 ラーマトの本名がバランで、これが映画の原題で、ペルシャ語で雨の意味。乾燥地イランでは、雨は春を訪れを告げる天の恵み。少女の靴跡に雨が降り注ぐラストは寓意に満ちている。「離れた友の恋の炎で燃ゆるこの心」の詩も良かった。 青年の無垢で純朴な愛が、雨が乾いた大地を潤すように、心に潤いをもたらす、そんな秀作だ。映像で感情を表現するのに長けている。ただ文化の違いのせいか、馴染めないところもあった。少女が川で転んだり、籠をこぼしたりの演出はちとわざとらしい。
[DVD(字幕)] 8点(2013-06-14 21:53:53)
10.  ジャッカルの日 《ネタバレ》 
金で仕事を引き受けるプロのスナイパーの実態など誰も知らない。それを仕事の応諾から準備段階、狙撃までを細部にわたり見せたのが手柄。一方で、フランス当局が権力とマンパワーを総動員して、ジャッカルの正体を燻し出してゆく様子が並行して描かれる。どちらに肩入れするでもなく、対等に交互に描く演出が斬新で、それが今見ても新鮮な理由だろう。追い詰める捜査当局、出し抜くジャッカル、共に見事で、真のプロフェッショナルといえる。観客はその両方を観るわけで、成功か、失敗か、最後まで固唾を飲んで見守ることになる。鑑賞中、ジャッカルよりも捜査陣の手腕の方に感心したほど。それほど公正に描いていた。仕事が大統領暗殺という飛び切りの大仕事であるところが、観客を釘付けにする。外交問題にまで発展しかねないのでジャッカルの母国とされるイギリス当局も必死だ。忘れられがちなのは暗殺依頼者の右翼組織OAS。アルジェリアで独立運動が興隆すると、アルジェリア領有の継続を主張するOAS等の勢力は、引退していたドゴールを担ぎ出し、これが第五共和政の成立につながった。しかしドゴールはインドシナ戦争の経験から民族自決は必至と考え、独立を承認した。怒ったOASは大統領車を機関銃で乱射するが失敗、これが冒頭に出てくるプティ=クラマール事件だ。こうして実在組織や事件を巧みに取り入れ、現実味、真実味を出すことに成功している。計画は完全でも計画通りにいくとは限らない。少しのミスや予定外の事態が持ち上がるが、その見せ方が上手い。少しずつ破綻を見せ、警察はそれを手がかりとし、ジャッカルは巧みに修正してゆく。書類偽造師からの脅迫、捕まった組織構成員からジャッカルの名前が漏れる、交通事故、熟年未亡人の元に捜査が入る、殺人犯として公開捜査、女スパイが拘束される。ジャッカルが常にクールで淡々と行動するので目立たないが、結構な事が起こっているのだ。恋愛要素はないが、哀れさを誘う挿話がある。熟年未亡人はジャッカルに情けをかけたが故に殺されてしまう。若年未亡人は夫の写真と手紙を燃やし、スパイとなって敵方に体をゆだねる。共に美しいヌードを交え、印象を残す。残念なのは最後ジャッカルが警備員に自分の行く住所を話してしまったこと。あれは嘘でいい。警備員の話をヒントに警部がしらみつぶしにビルを調べる展開なら良かった。あと、最後は「飛びすぎ」と思う。良作。 
[DVD(字幕)] 8点(2012-12-24 03:21:08)
11.  ジェイコブス・ラダー(1990) 《ネタバレ》 
人が死んで、迷える魂が徐々に浄化され、天国へ昇天するまでの過程を描いた宗教・反戦映画。聖書の知識があると理解しやすい。 「Jacob's Ladder」ヤコブの梯子は、旧約聖書でヤコブが見たという天使が上り下りする梯子で、天国への階段。恋人ジェジー=アラブ王の后で、不道徳な悪女ジェゼベル。妻サラ=聖典の民の始祖アブラハムの正妻サラ。長男イーライ=預言者エリア。次男ジェド=カナンを征服したヨシュア?三男ゲイブ=大天使ガブリエル。整体師ルイス=聖王ルイ9世が病人を接吻で癒したとされるのに由来?◆高学歴で人の好いジェイコブは、妻サラとの間に三人の子供をもうけ、高級アパートで幸せに暮らしていた。そこへ悪魔が忍び込む。三男が事故で死亡。心の空白を埋めるように性的魅力に富むジェジーと不倫。離婚してジェシーと安アパートで同棲。郵便配達の仕事に転職。ベトナム戦争に出征し、知らぬ間に軍の秘密の薬物の被験者にされる。薬物の副作用で狂った同僚ルイスに銃剣で刺される。◆ジェイコブの迷える魂は、悪魔や化け物の姿を目撃し、駅で閉鎖されたり、同僚が車で爆殺されたり、悪夢を見るなど様々な不条理な体験をする。これらは死への恐怖と不安、人生への後悔や悲しみ、他者への怒りや憎しみや憐みなどの感情が爆発的に見せるもので、全て生への執着を意味する。天使が手助けして魂を鎮め、天国に導くわけだが、天使はルイスやゲイブの姿となって登場する。生きている間には知り得なかった軍の薬物実験の真相も明らかとなる。高熱や氷風呂は、彼の地獄のイメージが喚起された結果だろう。魂が浄化していくに従って、美しい思い出がよみがえってくる。それは妻や子供たちとの平凡な生活だ。平凡だと思っていた生活が、最も美しい瞬間だったと悟るジェイコブ。最後はゲイブに導かれて天国の階段を上る。◆ルイスの言葉「死を恐れながら生き長らえると悪魔に命を狙われる。でも冷静なら悪魔は天使になり人を地上から開放する」これが主題となっている。心の持ち方で悪魔は天使に変わる。キリスト教的な死を正面から扱った映画だが、反戦思想を持ち込んだところが現代的で奥深さがでた。最大の悪魔は戦争というメッセージが根底にある。最愛の者を失った喪失感から心に悪魔が入り込む隙ができてしまうのは本当に悲しいこと。しかし、そこから立ち直るのが第二の人生だということを学んだ気がします。 
[DVD(字幕)] 8点(2012-09-12 16:46:01)(良:1票)
12.  シーラ号の謎 《ネタバレ》 
映画プロデューサーのクリントンは妻を轢き殺した犯人を見つけるために容疑者6人を集め、ゲームを始めた。集まったのは全員が落ち目の映画人で、ゲームの賞品の映画への参加に飛びついた。6人は、それぞれ「前科者」「ホモ」「密告者」「万引き」などと書かれたカードを受け取り、毎日停泊する港に隠された証拠を探し、誰がどのカードを持っているか当てるというもの。ゲームが最後まで進めば犯人が自ずと知れると思えた。だが二日目にしてクリントンが殺害される。犯人を推理する中で脚本家トムの妻リーがシーラを轢き逃げし、逆上してクリントンも殺したと告白。その後自殺を遂げる。事件が解決したかに見えたが、真相は別にあった。メインの犯罪だけでなく、6人の秘密もあり、クリントンのゲームの真意の真相もあり、飽きさせない。アクシデンによる犯行の変更、SHIELAの文字遊び、証拠となる煙草や凶器のアイスピック等にも無理が無い。複数の要素に逆転があり、非常に良く練られた脚本と思う。 ◆最後の謎解きがみんなの前で行わないのが惜しい。みんなが真相に驚くところにカタルシスがあるのだ。船室のインターコムで二人の会話が聞こえていたというオチは見事。 ◆結局真犯人であるトムを警察に突き出すのではなく、リーから受け継ぐ予定の遺産500万ドルで映画を製作するという”ハリウッド的解決”は面白い。真相を暴いたフィリップもクリントンを殺そうと潜水中を狙って船のエンジンをかけたのだから、説得力がある。全員が落ち目の映画人という伏線が効いている。トムは元恋人のアリスと結ばれることを願っていたが、アリスは本気ではなく不倫を楽しみたかっただけだった。クリントンがみんなを集めた真意は、妻の真犯人をつかまえることではなく、6人の秘密を暴いていじめるゲームだった。これもハリウッド的な自虐だろう。 ◆腑に落ちない点もある。休暇で地中海クルージングは分るが、大の大人が六日もかけたゲーム遊びに熱中するかということ。しかも大層なお金と手間暇がかかっている。お金持ちのやることは分らないね。それとリーがクリントンを殺した(ように見えた)シーン。逆上したとしても、あの場面である必然はなかった。フィリップが船室を点滅させてトムをおびき寄せるのはやや不自然。
[DVD(字幕)] 8点(2011-02-12 07:44:39)
13.  シャレード(1963) 《ネタバレ》 
サスペンス、ロマンス、コメディが上手にミックスされた上質の映画。傑作の部類でしょう。レジー役のオードリーの魅力があればこその映画でもあります。レジーが賢く独立心の強い女性であれば成立しない物語です。すぐに騙されるかわいい女でなければいけませんね。夫が殺されて、彼女自身その殺人犯に狙われているという状況で、簡単に恋に落ちる役ですから、並大抵の女優ではつとまらないでしょう。子供の水鉄砲のシーンは、ジョシュアの服を着たままシャワーシーンとリンクしています。子供が切手好きであることを最初から描いていて、何度か切手が映りますね。いい伏線になっていると思います。(あの変な切手は普通気づくと思うのですがね…)ところで25万ドルですが、最初は夫が家財道具を一切合切売っぱらって得たお金となっていたのに、いつの間にか戦争で盗んだ金となっています。電気がきてないのに電話は通じたり、お金がないのにいい服たくさんもってますね。最後のどんでん返しはやりすぎでしょう。ジョシュアが米国財務省の役人(事務方)だとして、どうして自ら単独で警察のような探索をして、命をかけてまで、お金を探し出そうとするのか?最後までレジーには「お金を政府に返すな」と言っていましたし。二転三転するダイルの正体は見事でした。バーソロミューがあやしいと気づいても、死んだはずのダイルだとは誰も気づかなかったはずです。劇場での「落ち」も見事でした。拳銃を使っていたら作品にそぐわなくなりますから。夜の劇場に簡単に入れたりするのはおいておきましょう。そこらあたりが、”古き良き時代”の”古き良き映画”たるゆえんです。目くじら立てずに観ましょう。
[DVD(吹替)] 8点(2009-04-04 07:38:56)
14.  17歳のカルテ 《ネタバレ》 
自殺未遂をして精神病院に入院した少女が回復して社会復帰を果たす物語。硝子の心を持つ少女スザンナは、昔気質の両親になじめず、家に居づらい。複数の男性と体を重ねるが愛情はない。高校卒業後して無為に過ごすが、幻覚を見、時間感覚があやふやとなり、猛烈な不安に駆られて自殺を図る。精神病院に入院させられるが、自覚症状はない。監視、薬、規則で患者を管理しようとする病院に反発を覚え、医者に食ってかかり、看護婦に悪口を吐く。そんな中、他の患者達と連帯感が生まれ、友情も芽生える。特に主導者的存在のリサに惹かれていく。彼女は、本音で語り、医者を無能呼ばわりし、薬も飲まず、夜中に診察室に忍び込んで診療録を見るなど、自由奔放に振る舞っていた。ある日、リサの誘いで病院を脱出し、退院したデイジーの共同住宅に泊る。リサはデイジーが近親相姦していることを見抜き、容赦なくなじる。翌朝デイジーが自殺する。リサに疑問を持ったスザンナは病院に戻る。自分と向き合い、今まで治療努力をしてこなかったことを後悔し、前向きに取り組むようになる。リサが戻り、スザンナの日記の同僚批評を非難するが、スザンナはリサの心が空っぽであることを見抜いており、「あなたは既に死んでいる」と痛烈な言葉を浴びせる。退院する前にリサを見舞うと、リサは「私は死んでいない」と答え、二人は歩み寄る。スザンナが無気力に陥り、自立できなかったのは、自分と向き合わなかったからだ。自分の人生がうまくいかないのを、家族や友人や社会や時代の所為にして目をそむけてきた。病院で友達が出来たことで心に余裕が生まれたのが上昇の契機とある。リサを尊敬していたが、彼女の心が空虚であることを知り、彼女の行動のほとんどは虚勢であり、オズの魔法使いの正体と同じだと悟る。リサの中に自分の姿を見て、反面教師としたのだ。閉じこもっていては駄目で、世間を折り合いをつけて生きていくために、成長し、強くならねばならない。映画化が困難な精神病を題材にした点は評価できる。原作者の体験談なので真実味があるが、全ての人に当てはまるわけではない。前半、時間軸を交差させたり、リサと対決した地下の場面を冒頭部に持って来たりと、技巧を凝らしている。映画では自殺未遂は高卒後のことだが、原作では17歳。なので邦題の「17歳のカルテ」は正しい。スザンナとリサを演じる女優が十代に見えないのが難。
[DVD(字幕)] 7点(2015-02-07 20:45:08)
15.  春夏秋冬そして春 《ネタバレ》 
水中から樹が生える不思議な山の湖に浮かぶ寺院舞台に、人生を四季になぞらえて描いた仏教説話。小坊主がいたずらで、魚と蛙と蛇に石を括りつけて苛める。老僧は懲罰として小坊主の体に重石を巻き、いじめた動物を助けに行き、一匹でも死んでいたら、お前は心の中に石を抱えて生涯を生きると予言する。魚と蛇が死んでいた。少年僧となった小坊主は、少女との愛欲に溺れて寺を出奔、その十数年後に妻を殺して舞い戻る。老僧は、男が自死しようとするのを諌め、般若心経を彫らせることで精神の安らぎを与える。男が刑事に連行されるのを見送った老僧は焼身往生を遂げる。男は服役を終えて帰門し、老僧の衣鉢を継ぐ。ある日、覆面の女が赤子を捨てて去ろうとするが、事故で死ぬ。女の菩提を弔う為、男は苦労して仏像を山上に安置する。男が土台石を引きずる姿は、かつて男に苛められた小動物の姿そっくりだった。赤子は成長し、動物をいじめ始める。過ちと償いが繰り返えされ、かくて人生は流転する。人は、いたずら、執着、愛欲等で過ちを犯すが、どのような棘の道、艱難辛苦であろうとも、最後には安らぎを得るという有難い教え。予定調和な仏教説話の範疇を出ておらず、あくの強いこの監督の作品としては物足りない。奇跡を示現するような作品がふさわしい。水は神聖と浄化の象徴で、水上の寺院は超俗と孤絶を表わす。壁のない扉は見えない戒律。蛙が生き残ったのは偶然だが、神の視点では偶然も必然。男が仏像を持ち去ったのは絶ち切れぬ仏教への愛執。鶏を持ち出したのは、閉塞の象徴の鶏を自由にすること。老僧の超能力めいた力は、金剛密教の修行の成果。焼身往生するのは、入滅の時期を悟り、最後の功徳を積むため。男が氷った舟から掘り出したのは聖者の遺骨こと舎利で、それを氷仏像の白毫に入れ、最後は溶けて自然に還る。女が布で顔を隠すのは、最初から子を捨てる目論みだったのと、女は特定の誰かではなく、あなたかもしれないという示唆。「閉」の字で目鼻を覆い、般若心経を彫るのは、文字に聖なる力が宿ると信じているから。猫の尻尾で経を書くのは、他に太い筆が無いことと、何事にも自然に臨機応変に対応する老僧の才覚の表現。老僧が蛇に変身するのは、蛇が神秘の象徴だから。残念な点。老僧が自由に舟を操れるなら、舟を戻すのに紐付鶏を利用する必要はない。仏像を据えた山上に雪が無かった。裸での冬季登山は難しかったのか。
[DVD(字幕)] 7点(2014-10-31 19:22:03)
16.  シャッター アイランド 《ネタバレ》 
精神疾患を扱った映画なので、精神状態をいかに映像で表現するかが肝要となる。 懊悩する心の内面、消えぬ幻影、拭えぬ悔恨、くり返される悪夢などを彩度を高めたゴジック調の重厚な映像やCG効果で表現しており見応えがあった。灰色の海、激しい雷雨、打ち重なる死体に舞う雪、舞い散る黒い灰と部屋を舐める炎、砂の様に崩れ散る妻の体、撒き散らかした書類、死ねないナチスの将校、切り立つ断崖、海上に浮かぶ灯台、どれも異様な雰囲気を醸し出すことに成功している。オチが分ってみると、精神病患者の妄想にしてはあまりにも複雑すぎるのが気になる。「4の法則と67番目は誰?」のメモを床のタイルの下に隠し、仮名は実在人物のアナグラムを使い、“本物の”レイチェルは専門知識に富んでいると、度が過ぎる。整理する。アンドリューは軍人としてダッハウ強制収容所解放に参加するが、独兵を銃殺した、いわゆる「ダッハウの虐殺」には参加していない。戦後、連邦保安官となり、結婚して子供三人をもうけるが、仕事に忙殺され、家族と過ごす時間がとれなかった。妻のドロレスは精神を病み、アパートに放火する。一家は湖畔の家に引っ越したが、アンドリューはやはり多忙で、酒に溺れる。妻の精神は破綻し、遂に我が子三人を殺害する。帰宅してそれを知った夫は妻を憐れみ射殺する。 アンドリューは精神病院に入院するが、あまりに悲惨な記憶のため脳の防御機能が働き、記憶のすり替えが起る。自分を保安官テディと思い込み、妻殺しの記憶はダッハウの虐殺に、妻の死因は他人の放火のせいに、娘を助けられなかった後悔は収容所で見た少女にすり替わる。医師らによる大掛かりなロールプレイ療法の結果、彼は正常な記憶を取り戻すが、「モンスターとして生きるか、善人として死ぬか」を自問し、善人としての死、すなわちロボトミー手術を受けることを選ぶ。その決断は、彼が人間性を取り戻した証しであり感動的だが、感動は薄い。何故なら子殺しという凄惨な事件に至るまでの彼と妻との状況が少ししか描かれてないからだ。妻がどうして精神崩壊にまで追い詰められたのかを解明しないかぎり、事件を真に理解したことにならない。さもなければ単なる猟奇事件となり、共感できず、共感なければ感動もないからだ。オチや謎解きでは感動は生まない。子供の死体を何度も見せられるのには辟易した。
[DVD(字幕)] 7点(2014-04-22 21:53:39)(良:1票)
17.  シャーロック・ホームズ/シャドウ ゲーム 《ネタバレ》 
笑いあり、アクションあり、スローモーション推理ありの新感覚ホームズ第二弾。製作者や役者がノリノリで作っている様子が窺えるとても勢いのある作品。19世紀の時代セットは素晴らしく、どこからCGかわからないほど上手に作り込んである。アクション映画の制作費に100億円以上かけれる環境が羨ましい。推理も”それなりに”というか、”かなり”あって、伏線が丁寧に回収されてゆく爽快さがある。推理ものとしても合格点。ただ展開のテンポが良いというか、早すぎて未消化のまま進んでゆく懸念がある。従いてゆくのがやっとで、娯楽映画特有の「心地好い緊張感の持続」は得られない。今回の相手は、最大の宿敵モリアーティで、世界大戦の阻止という犯罪史上最大級の目的がある。ホームズの恋人アドラーが殺されたり、革命家の男が妻子を人質に取られているので自殺を強要させられたりと、基本的にシリアス路線なのに、ホームズは終始おちゃらけているし、モリアーティも小物のワトソン夫婦を狙うなど意味不明な行動が多い。真面目一筋のハドソン夫人が料理用の蓋付皿に鼠を容れて持って来たりと、どうも目線が定まらない。ホームズの女装やマイクロフトの裸など、原作に対するリスペクトが無いのも気になるところ。ご都合主義で、ラインバッハの滝の上に和平会議の会場となる建物を造ってしまっているが、場所が危険すぎてありえない。推理で面白かったのは、植物の本と枯れた植物から、暗号を読み解くところ。驚いたのは、酸素吸入器の伏線。あんな小さいもので滝から脱出できるとは。迷彩服は安直すぎて不可。単にワトソンを驚かすためだけにしか使われていない。笑ったのは、両手両足を踏ん張って天井に潜んでいたコサックの暗殺者。隠れる必要などなく、普通に客を装って、占いの女を刺殺すればよいのに。最も疑問だったのは、和平会議での暗殺場面。政府高官を暗殺するのに、わざわざ政府高官の一人を気絶させ、あらかじめその顔に整形した人物が政府高官に成りすますような手の込んだことをする必要はないだろう。政府高官であれば誰を殺してもよいのだから。ただこれらの難点は、勢いがあるので、鑑賞中は気にならない。それだけ魅力に富んだ作品ということ。
[DVD(字幕)] 7点(2013-05-21 16:24:07)(良:1票)
18.  上海特急 《ネタバレ》 
お金持ちの男達の間を渡り歩いて、金を貢がせ、世間で”上海リリー”という悪名を頂戴している女が、昔の恋人である軍医と再会し、ヨリを戻す話。ディートリッヒは鉄面皮のように表情を変えず、その退廃的で人間離れした容貌には最後までなじめなかった。異国趣味、戦争、サスペンス要素を加えたメロドラマといった内容だが、脚本はかなりいい加減だ。サスペンスが第一で、恋愛は不可要素と考えていたのだが、あてがはずれた。従って、かなり退屈に感じられた。物語というか演出に問題ありでえ、ダイナミックな起伏が少なく、緊張が高まるところがないのだ。終始ゆるみっぱなしといった印象。リリーの感情も軍医の感情も伝わらない。この映画で泣く人はいないだろう。冒頭に出てくる「神」と描かれた巨大銅鑼からして意味不明。中国語もでたらめ。一等席の乗客のほとんどは噂話をする程度の役割でしかない。傍ら、線路にたむろし、列車の通行の邪魔になる牛や鶏の描写が妙にリアルで印象に残る。反乱軍のチャンは武力で列車を乗っ取り、政府軍に捕まった部下と交換できる有力者を探すが、結果軍医が人質となる。リリーは軍医を無事救い出そうとチャンと直談判する。このチャンが間抜けでいらいらさせられる。やることなすこと”ぬるい”のだ。挙句の果て、リリーの女友達にあっけなく刺殺される。その動機は不明だ。賞金目当てか、政治がらみか、リリーを助けるためか?女友達がいつ、どうやってチャンの部屋に忍び込めたのかも描かれていないので不満が募る。無事救い出された軍医はリリーの行動を知らず、リリーも何も語らずで、ここからはすれ違いメロドラマ。結論は見えているので、感情は動かない。ディートリッヒ演じるリリーを、時代を先取りする”強い女”と見れば、違った感興がわいてくるかもしれない。
[DVD(字幕)] 7点(2012-12-11 17:48:53)
19.  シャーロック・ホームズ(2009) 《ネタバレ》 
登場人物中、最も頭脳明晰なのはドワーフ(小男)だろう。電波受信装置、遠隔操作装置、防御システムなど、新発明ふんだんの青酸ガス発生兵器を完成させている。シャクナゲ毒の擬死薬や銅と反応するしびれ薬、石を繋ぎ止めておけるが雨で流れる蜜の接着剤、無味無臭で発火性の強い粉末、青酸ガスの解毒剤(本当にあったら大発明)なども作っている。まさに天才。対してホームズは、拳銃の消音装置は失敗。首吊実験は自力で降りれない。せいぜい或音階で蝿が回転飛行する習性のを発見した程度。その蝿を捕まえるのに6時間もかけている。小男なら腐臭を利用するだろう。大人と子供で比較にならない。こんなに利用価値の高い男を殺してしまうブラック・ウッド卿は愚者です。◆19世紀のロンドンを再現したセットやCGは見る価値がある。ハイスピード撮影された連続爆破場面が最大のスペクタクルだった。アイリーンの立ち位置が秀抜。ホームズの元恋人で盗人、男勝りでやたらナイフや拳銃を取り出す、敵であり、味方であり、ある人物に恐喝されている。演出を次第でもっと活きた。裸で手錠はかんべん。ホームズはやんちゃで、ワトソンと別れたくない甘えん坊。二人は共依存。探偵ものだが、謎解きや推理要素は希薄。例えば絞首刑で死なないトリックは、フックと隠しベルトとかの小学生レベル。服を調べれば判ることで、関係者全員を買収しないかぎり無理。アクション重視の娯楽映画だ。そのアクションだが、屠殺場の機械でアイリーンが屠殺されそうになり悪戦苦闘するが、電源を切ることを思いつかない。大男と対決する造船所の場面が最も大仰で華やかなのに、タワー・ブリッジでの最終対決はスケール・ダウン。前半あれだけ強調されていた、ホームズの相手の行動を予測して打ち負かす戦闘能力が中盤後半失われるなど、ちぐはぐだ。さりとてテンポが早く映像もスタイリッシュなので退屈はしない。【気になった点】①メアリーの事を知っていた女手相見はホームズの仕込み?②ブラックウッド卿が父トマス卿から指輪を抜き取った理由。家督継承の意味?③ホームズが医者に化けてワトソンを治療する意味。医療技術あるの?変装がメアリーに見破られてる!④自分の血を垂らしてまで、悪魔の儀式を再現する理由。⑤ホームズがワトソンに贈った婚約指輪のダイヤは、アイリーンから奪ったブレスレット?⑥警察所の遺体を自宅アパートに運んで調べる?論外。
[DVD(字幕)] 7点(2012-09-22 17:01:33)
20.  春琴抄(1976) 《ネタバレ》 
春琴は大店の娘だが、盲目故に甘やかされて育てられたせいか、自尊心、気位が高く、誰に対しても高圧的な態度を崩さない。好きな琴の修練には熱中し、師匠の跡取りと目される腕前だ。その身の回りをしているのが奉公人の佐助だが、その献身ぶりは度を過ぎている。春琴を思慕するあまり自ら芸の道に入り、春琴を師匠と仰ぐ次第となった。佐助は春琴を思慕しており、彼女の身の回りの世話をすることに限りない歓びを感じているのと同時に、彼女にわがままに命令されたり、いじわるされたり、痛い目にあわされたりすることに快感を覚えているようだ。それで春琴はますます増長し、佐助への指図、言動は苛烈を極めていく。サディズムとマゾヒズムの共依存関係が成立しているのだ。或る日事件が勃発、春琴が何者かに顔に熱湯をかけられるという災禍にみまわれる。醜くなった顔を見られたくないという春琴に対して、佐助は自ら針で目を付いて盲目になるという選択をする。ここが愛のクライマックス、純愛、献身、自己犠牲の極致というべきか。これにより、二人の更なる共依存関係が完成。二つの魂はひとつとなった。しかし、この異常な行動を驚嘆すべき愛の行動として肯うのには躊躇される。というのは、佐助が視力を失えば、春琴の世話を以前のようにはできなくなり、必然と第三者の介入が必要になるからだ。「健常者と盲人」という優劣の関係を「主人の娘と奉公人」「師匠と弟子」という関係を結ぶ事で逆転させていたのだが、このバランスが崩れる。もう一つ気に掛るのは、春琴が佐助の子供を産んでいるという事実。二人は否定するが、赤子の父親が佐助なのは疑いようがない。奉公人風情と性的関係を持ったことが春琴の自尊心をずたずたにした。だから佐助と示し合わせて赤子の父親については口をつぐみ、赤子を余所へやることに決めたのだ。だから二人の関係は純愛ではない。やがて二人の関係に綻びが広がってゆくのは目に見えている。奇異な形態の恋愛だが、明治というまだ封建制度が残る時代なら、成立する余地はあると思う。
[DVD(邦画)] 7点(2012-09-11 23:27:21)
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