1. オーバー・フェンス
《ネタバレ》 チャラい感じの恋愛映画と思って敬遠していたが、とてもよい映画だった。 とにかく、函館という街がいい。坂道、人けのない漁港、海の向こう側に見える寂れた工場群、、実に映画映えする風景だ。 登場人物たちもいい。特に近年のオダギリジョーは、本当にいい演技をみせてくれる。軽口の叩き方とか、すごく好きだ。蒼井優はちょっとオーバーだったけど、静かな映画のいいアクセントになっていたように思う。あの鳥の求愛ダンス、うちに秘めた弱さと寂しさを隠すための "虚勢" のようにも見えたが? どうでもいいような若者たちとの合コンの場面に、いい台詞があった。 「20代のうちにたくさん笑ってろ。40代にもなればもう笑えなくなるから」 白岩のこの台詞、心にガツーンときた。もちろん、俺も今まさに彼と同じ年代ということもある。確かに、最近は笑うことも少なくなった。でも、ただそれだけじゃない。この映画のメッセージは、フェンスの中とか外とか、そんなことは関係ない、ということがわかったからだ。 これは職業訓練校という極めて閉鎖的な舞台であり、正しい人生を一歩だけ外れた者たちの物語、と思って少しだけ上から目線で観ていた。 ・・全然、違った。これはぼんやりと目的もなく生きている人全てに対するお説教であり、その背中を押してくれる応援歌だ。 大きな成功ではなくて、自分にとっての起死回生のでっかいホームラン、何とか打ってみたい、、そんな気にさせてくれる映画だった。 [DVD(邦画)] 8点(2020-11-09 18:14:45)(良:1票) |
2. 幼な子われらに生まれ
《ネタバレ》 浅野忠信と言えば、「私の男」「岸辺の旅」「淵に立つ」といった、不気味な役どころが最近はすっかり定着していましたが、今回は一転してマイホームパパという (笑) でも久しぶりに、普通の人を演じる浅野忠信を堪能できました。 本作の映像、それは古びた8ミリカメラで撮影したようなくすんだ色合いで、その空気はどこか懐かしい感じがしました。音楽をじゃんじゃん鳴らすこともなく、静かで抑制のきいた演出も私好みでした。 物語を通して、根っからの悪人は登場しません。唯一、クドカンは小悪党のようでしたが、最終的には意外と愛すべき魅力的なキャラになっていて、人物の描き方にはとても好感が持てました。彼は最後、既にプレゼントの「ぬいぐるみ」を買っておりました。それはつまり、娘さんが来ないことを承知の上で待合せ場所に来た、ということ。本当に娘と会うつもりであったなら、二人で一緒に買いに行こうとするはずですから。彼も、元父親として最低限の義理を果たそうとする真人間であった、ということです。 話変わって、本作は信と妻の元夫、信と元妻の夫、この関係に注目したい。信の結婚が一度失敗したことにより、奇しくもつながった人間関係です。でも彼らの間には、一度は同じ家族の父親であった連帯感が芽生えたのか、デパートの屋上や病室の場面では不思議な「絆」が感じられて、少なからず心が熱くなりました。 "家族を守る使命" という襷 (タスキ) を、ある親が転んで落としそうになった。その親はもう疲れていて、起き上がって走ることはできない。でも誰かがその襷を受け取って走り、やがて本当の親になり、いつしかその家族の絆はもう少し大きく広がった。これはそういったお話。 はっきり言って、彼らと彼らを支えた妻たちの姿を前にして、離婚とか生みの親とか育ての親とか、どうでもよくなりました。"われら" とは、決して血のつながりだけではないはず。だから新しい命に、「生まれてくる君よ、大家族へようこそ」と声を大にして言いたい・・!! [映画館(邦画)] 8点(2017-08-28 22:32:35)(良:1票) |
3. お父さんと伊藤さん
お父さんと伊藤さん、そして語呂悪く題名から除外された娘さん。(山中彩34歳) 同居しながらも、心のうちを見せず、心のうちに踏み込まず、ほどよい距離感・緊張感が持続する心地よい120分。部外者であるはずの伊藤さんによる機転・気配り・先回りによって、何とか成立していた父娘の関係性。きっと、彼は人生を2周目なんだろう。だから、何でも知ってるんだろう。もちろん、2周目の余裕からもう仕事にこだわるようなことなどしないし、欲もない。うん、そういうことにしておこう。(ファンタジーだし) お父さん74歳、伊藤さん54歳、山中彩34歳。 どうりで、父娘の間にピッタリおさまる伊藤さん。でもこう並べると、(彼に) 14歳の隠し子がいそうな予感の今日この頃。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-01-15 19:24:05)(良:1票) |
4. おじいちゃん、死んじゃったって。
《ネタバレ》 おじいちゃんは死んだ。だからもちろん、台詞はない。それなのに、まるで「桐島、部活やめるってよ」の桐島のごとく、いないながらも (いるけど) 抜群の存在感で、一族たちを混乱に陥れてゆきます。 日本映画は、冠婚葬祭の「葬」にまつわる映画をやらせたら、まずハズレがない。期待した通り、古臭い慣習に振り回され、てんやわんやの一族たちのお姿にニヤニヤと笑いの絶えない105分でありました。不意打ちのように、時折、ほろっとさせるところもよかったと思えます。 家族の「死」は確かに不幸です。しかし、散り散りになった一家を否が応でも結集させる、という大きな役割を果たしており、だから死という不幸の中にも一見の「幸」あり、と私は思ってます。 全体を通して一言苦言を言わせていただくなら、吉子ちゃん (岸井ゆきの) 。大切な人の死に対する感度は、人それぞれだ。だから、「悲しくないの?」とか、感情の決めつけと押しつけはやめた方がいい。あなたが、まさにその時セックスをしていた、という居心地の悪さから、悲しいフリだけでもして罪悪感から免れようとしていたようにも、私には見えましたけど。 また、本作は岩松さんと光石さんの絡みが面白かったです。大いに笑わせていただきました。二人にとって、「口げんか」はコミュニケーションの手段であり、コノヤローバカヤローには間違いなく愛がこもっていた。この兄弟、決して仲は悪くない。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-12-12 22:57:38) |
5. おとなのけんか
《ネタバレ》 結局、映画にとっても4人にとっても、こどものけんかは口実なんでしょう。全員、議題(こどものけんか)よりは、初めから自分たちのメンツや虚栄心が重要であることが丸出し。こんなおとなたち、本当見ていて恥ずかしいわ、、と思ったら監督の思惑通り。なぜならこれは、人の振り見て我が振り直せの映画なのだから。個人的には、議題には全く無関心だったアランが、マイケルの秘蔵"ウィスキー"には突然関心を示す、といったところは最も笑えました。(酒をみた時のC.ヴァルツの表情だけでプラス1点笑) その後はおとなたちが酒に飲まれる怒涛の展開。おそらく酒で痛い目にあったことがある人は、ひきつった顔をして笑っていることでしょう。やがて映画は、着地点を見失った"大きなこどものけんか"へ。ラストはけんかの真っ最中に、場面が突然公園に変わるちょっとスッキリしない終わり方。仲直りしたこどもたちが部屋に入ってきて、「けんかはやめようよ」と言ったら拍手でしたが。 [DVD(字幕)] 7点(2017-09-10 11:38:22) |
6. 思い出のマーニー
《ネタバレ》 湖畔にひっそりと建つ屋敷、窓にぼうっと浮かび上がるように佇む白い少女の姿、決して近寄ってはならない禁断の場所。これらが物語にもたらすオカルト的な空気はジブリ映画としてはとても目新しい。私の記憶では杏奈はジブリ映画史上のヒロインでは最も地味で平凡な少女だと思う。だが、そんな少女杏奈の一夏の成長と再生の物語は、置かれた境遇に泣いて、学校や家で自分の居場所を見つけられずに苦しんでいる、多くの少女たちに向けた応援歌のようにも思えた。私は、近年のジブリ作品は大人向けな内容に傾倒ぎみで、子供たちのような若い世代の視聴者を置いてきぼりにしているように感じていた。子供たちが観ても大人が観ても面白い映画をスタジオジブリには期待したいので、米林監督のような感性の若々しい後進たちにバトンを譲ったのは正解であったと思う。本作は、近年の作品には見当たらなかった新鮮な空気に満ち溢れており、ジブリ新時代の始まりを感じた。 [映画館(邦画)] 7点(2014-08-11 23:00:51) |
7. 女と男の観覧車
《ネタバレ》 はい、だいたいこういうお話ってわかっていました。だってアレン監督ですから(笑) 今回、最大の見どころは美しい大観覧車です。そして、懐かしいコニー・アイランドのビーチ。その最高にロマンチックなロケーションで、どうでもいいような、男と女のラブゲーム。お互いの尻を追いかけては、回り続ける女たち男たち。そのお姿はちっともロマンチックじゃありません。ホント、笑っちゃう。でもなぜだろう? 喜劇的でありながら、恋する者たちはみな美しくて。 (もちろんヴィットリオ・ストラーロによる映像美の力もあるだろう) それにしてもK・ウィンスレットよ、肉食系熟女の役が板についてきましたね。そしてアレン監督、一向に衰えませんね。何はともあれ、また次回も恋愛至上主義、期待してお待ちしております。 [映画館(字幕)] 6点(2018-10-27 23:52:50) |
8. オリエント急行殺人事件(2017)
《ネタバレ》 A・クリスティの原作は既読、過去の映画版は未鑑賞です。今回、結末を知りながら鑑賞したのは、多くの方たちと同様、稀にみる豪華出演者たちに惹かれたからです。その映画はまるで、豪華キャストによるお芝居(舞台劇)をスクリーンで観ているようでした。でも"列車内"からロケーションがほとんど動かない上に、乗客たちは素性を知られないよう"芝居"をしているので、設定上そうなって当然か(笑) とりわけ印象的だったクライマックスの場面、これは原作にはなかったように記憶しています。暗いトンネルの中から、光射す方を望む12人。見据えるその先に立つポワロは、罪人たちを暗い淵から更生に導く救世主のようにも見えます。これはまさに映画ならではの演出だったように思う。でもさ、せっかくその映画じゃない?暗い顔した人物たちばかりじゃなくて、オリエント急行の車窓から覗く美しい風景、豪華料理のフルコース、もっと観たかったなあ。(登場人物が多すぎるから仕方ないんでしょうけど) [映画館(字幕)] 6点(2017-12-23 00:02:38) |
9. 女が眠る時
《ネタバレ》 ウェイン・ワン監督の「SMOKE」が大好きで、公開前からかなり期待をしておりました。しかし、このガッカリ感はなんだろう、まさかのサスペンス映画でございました、、。 映画は、西島秀俊さんが走って、走って、走りまくります。サスペンス映画らしからぬ、身体的な「動き」があって、狙いがよくわからない感じです。 時折、得体の知れないリリーさんが登場しては、楽しい雑学集を語ります。特に「バカ殿様」のエピソードが面白い。何もせんでも女をホイホイ与えられていたから、昔の殿様たちは頭が退化していて、みんなバカ面してよだれをたらしていた。 (だったかな?) それはつまり、お前はそうなるな、って遠回しに言ってるんでしょうけど。男だったら走り回って、自ら女をつかまえろ。そして、ようやく「While The Woman are Sleeping」 女が眠っている時こそ、男は爪を研ぎすませ、てこと。でも、彼のように行き過ぎるあまり、気づいたら盗撮やストーカーじゃあ、シャレにもならんぞ (笑) 総括。 役者はよい。 官能的な雰囲気もよい。 フランソワ・オゾン監督の「スイミング・プール」を意識しまくりです。 そして、、邦題がダサい。 (これ、直訳じゃなくてもよかったんじゃ・・汗) [映画館(邦画)] 5点(2016-03-05 02:27:41) |