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1.  本心 《ネタバレ》 
原作既読。近未来の社会、主人公の朔也はVRを用いて他人のやりたいことを代行するリアル・アバター。そして亡くなった母親が、尊厳死のような「自由死」を希望していたことを知り、その真意を確かめるために母親のヴァーチャル・フィギュア(VF)を作り、母親の友人で高校時代の同級生にも似た女性・三好と同居をはじめる・・・。と、ここまででも物語要素が渋滞気味なのに、これに格差社会、差別と暴力、ネット社会、闇バイト問題、そしてIT長者の若者のエピソードも盛り込まれるって、どう考えても1本の映画にすることには無理がある。原作ではさらに、父親をめぐるあれこれやら、外国人との共生の話まで絡んでくる。ここからもわかるように、この原作は人物を掘り下げるよりは、現代の多面的にならざるをえない人間性と、そんな人間たちが社会のなかで絡まりぶつかり合うなかに見え隠れするアイデンティティ(=本心)をめぐる話であると思う(これは「分人主義」を掲げる原作者・平野啓一郎さんの長年のモチーフだ)。  という前提をもって考えれば、この無茶苦茶な設定と物語を、朔也という若者が「自分」を見出していく物語を軸として、それなりに整理されていたことには驚いた。朔也・三好・母親との関係性のなかで見えてくる、それぞれの「別の顔」をめぐる物語を中心に置きつつ、スパイスとして平野さんが得意とする社会問題を入れ込んでくるので、そこまで軸がぶれることはない。ただ、原作でも微妙だった「イフィー」のエピソードはやっぱり面白くない。せめて朔也・三好・イフィーの3人の生き方の違いをもう少しコントラストをもって描ければよかったと思うけど、そこもあんまり突っ込まないまま、ただ三角関係の話に持って行ってしまって、終盤でトーンダウンしてしまったのは残念。それを持ち直したのは、ラストの母親との会話。田中裕子さんが本当に素晴らしかった。あと、朔也が悪質な客に苦しめられてからのコインランドリーまでのシーンは異様に細かく描き込まれ、淡々とスピーディに進んでいく物語のなかで、ここだけ石井裕也監督っぽい個性が出ててちょっと苦笑い。  まとまってるかといえば微妙ですけど、演技派の若手俳優の競演も楽しく、あの無茶な原作をよくこれだけ見られる一本の映画に仕上げたものです。
[映画館(邦画)] 6点(2024-11-21 18:35:20)★《新規》★
2.  ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ 《ネタバレ》 
クリスマス休暇に帰省できず寮で過ごすことになった学生、教師、寮職員の3人が織りなす人間模様。アレクサンダー・ペイン監督作品らしいシンプルな舞台設定と最小限の登場人物。堅物のハナム先生の管理を逃れたい学生アンガスの不運を笑いつつも、だんだん一人一人が背負った背景が見えてくると、ひとつひとつの台詞や表情がものすごく雄弁で多義的になる構成と脚本は見事です。ミニマムな設定のなかでも、それぞれが抱えている事情が微妙に重なり合い、反発とともに共感が生まれていくプロセスが自然。オスカー受賞したダバイン・ジョイ・ランドルフはもちろん、教師ポール・ジアマッティとアンガス役のドミニク・セッサのアンサンブルが本当に素敵でした。  「家族」との晩餐や友人とのパーティで楽しむのが当然という、アメリカのクリスマス休暇の雰囲気を知っていると、この登場人物たちの孤独感はとても真に迫ってくる(そういえば、自分も留学していたときに、学生がいなくなった大学町に「取り残されて」、なんともいえない孤独感を抱いたのを思い出す)。好意で誘われた同僚のパーティに出席したことで、息子をベトナム戦争で失ったメアリーが取り乱す姿はとってもリアル(そんな状況でもそこで会った女の子と遊びたいアンガスの姿もまたリアル)。クリスマスという行事がもたらすプレッシャーがいかほどのものか。今作は、そんなシチュエーション自体がもたらす絶妙な悲哀をコメディとしてうまく昇華させたと思います。冒頭のユニバーサルのサインを含め、1970年代の映画を再現したような仕掛けも楽しい一方で、ストーリーのなかには差別や格差、そしてメンタルヘルスをめぐる問題など現代的なテーマも盛り込んでいます。  ただ、物語の内容にしては尺が長いような気が。とくに序盤にアンガスと一緒に居残りになる4人の学生たちのエピソードなど「本題」に入るまでの助走が長いのが気になりました。本作のコメディ・パートという役割なのかもしれませんが、韓国人とモルモンという二人の「マイノリティ学生」の描き方などは、アメリカ国外の観客から見ると、ちょっと嫌な感じもありました。そのちょっとした毒気も含めてのアレクサンダー・ペイン作品、なのかもしれませんが。  あと、これは作品の評価とは関係ないですが、やっぱりクリスマス休暇〜新年を扱った映画を6月に公開するというのもいかがなものか。米国で10月公開、A・ペイン監督で評判も上々とあれば、せめて年始くらいの公開だってできたはず。この季節感のなさは、残念ながら映画の余韻を1割程度は削いでしまったと思います。
[映画館(字幕)] 7点(2024-06-27 20:16:16)
3.  ほの蒼き瞳 《ネタバレ》 
19世紀のウェストポイント士官学校の雰囲気、荒涼とした冬のハドソン川、そしてエドガー・アラン・ポーが描いたようなゴシック・ホラーの趣きなど、雰囲気は十二分に楽しめます。作り込まれた世界はNetflixじゃなくて劇場だったらさらによかったかなという印象(ただ、この題材で劇場まで足を運ぶかと言われると微妙なところは辛い)。ただ、なかなか前に進まずテンポが遅い序盤、突然大展開して一気に解決まで持って行ってしまう中盤以降、そしてやけにあっさり解決したなと思ったら最後に待っていた(でもなんとなく予想していた)「意外な結末」まで、ストーリー展開が「惜しい〜」という感じ。真相にはやっぱりちょっと無理を感じる(都合がいい偶然が重なってる点もやや興ざめ)し、クリスチャン・ベール演じる元警官ランドーと士官候補生時代の変人エドガー・アラン・ポーのどっちが物語の語り手だったのかが判然としない感じも残念。どこかで視点の転換が起きているはずなのですが、そのあたりの工夫が乏しかった。とはいえ、ランドーとポーのバディ感はなかなかよかったし、厳寒のNY田舎の風景、士官学校の閉鎖的な雰囲気、鍵を握った医者一家のおどろおどろしさなど、「そういうの」を期待して見ていたので、十分に2時間楽しめました。こうゆう100点満点の大傑作じゃないけど、駄作とも言えず、ちゃんと見所もあってそれなりに楽しませてくれる映画(ふと深夜にテレビ放送してるのを見始めてつい最後までみちゃうタイプ。)、結構好きです。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-01-30 08:33:55)
4.  ボーン・レガシー 《ネタバレ》 
そういえば見てなかったジェイソン・ボーンシリーズの番外編。新しい主役のジェレミー・レナーはがんばっていたと思う。本来は落第組であったはずがトップエージェントの訓練を受ける羽目になったという、マット・デイモンとは違った主人公像を説得力込みで演じていたと思う。ただ、よかったのはそれくらいか。難点は、ストーリーの把握の難しさ。とくに序盤の展開はさっぱりわからず、自分が悪いのかと思ったけど、途中で演出がまずいのだということに気づいた。結局は、物語は、研究所の銃乱射シーンあたりから急展開して、終わってみれば序盤がわかってなくてもノープロブレムな内容だったのも余計腹立たしい。主人公はエドワード・ノートンなど豪華キャストのCIA組と対決することがないのも(続編を作ってそれを描くつもりだったのかもしれないが・・・)、スパイもののカタルシスのなんたるかをわかっていない。別に直接対決する必要はないが、主人公が一矢報いるような工夫は必要だった。そして、みなさんが強調するラストの敵のしょぼさ。本作制作陣の「アジア人暗殺者」への想像力の貧困は救いがたい。タイに本拠地を置く暗殺者を描くといっても、この製作陣はタイ映画にどれだけ高度なアクション映画があるかを知らないまま、自分たちの思い込みだけで作ったんだろう。その傲慢さが、この映画を心底つまらないものにしてしまった。この傲慢さは、ラストにMobyの『Extreme Ways』を流してしまう浅はかさにも共通する。あのイントロは、ジェイソン・ボーンのものだ。背景だけ共有しつつも全くの別モノの本作のラストにあれを流してしまうことで、どれだけ多くのものが失われたか、わかってるんだろうか。豪華キャストは誰も手を抜いていない。それぞれの役をしっかりこなしていたと思うが、残念な製作陣の作り込みの浅さが、せっかくの新しいフランチャイズのチャンスをふいにしてしまった。
[インターネット(字幕)] 3点(2021-05-27 23:21:24)(良:2票)
5.  ボヘミアン・ラプソディ 《ネタバレ》 
ライブエイドのシーンは、本当によかった。それまでの物語の伏線がすべてこのシーンへと結びつき、一気に涙腺も崩壊した。とくに、エイズ患者と思われる青年との1対1のコール&レスポンスのシーンは、ライブエイドにフレディが立つことの意味を示す、わかっちゃいるけど泣いてしまう「ザ・伏線」だったと思う。クイーンの4人の関係も、そっくりなブライアン・メイは味わいがあってよかった。ただ、この作品が避けて通れない、フレディのセクシュアリティの描写は残念な限りだった。この物語の筋は基本的にホモフォビック(同性愛者嫌悪)に見える。フレディが自身のセクシュアリティを自覚し、メアリーともクイーンのメンバーとも離れていく描写のなかでは、ゲイコミュニティの描き方は悪意を感じるほどステレオタイプた。彼らは享楽的・短絡的で、酒とドラッグとセックスにまみれた自堕落な存在としてしか描かれない。それが仮に事実に即していたとしても、なぜあの時代のゲイたちがああいうライフスタイルを送らざるをえなかったのかをきちんと描けないのなら、そしてエイズパニックによって彼らがどんな偏見の目にさらされたかを描けないのであれば、この題材を取り上げるべきではなかったのではないか。このプロットでは、結局「彼ら」からフレディを取り戻すのは、元妻のメアリーであり、クイーンのメンバーたちである。その後に、エイズ患者の青年やジム・ハットンとの交流を加えて、それなりの「配慮」は見せるけれど、やはりこのプロットはあまりに偏っている。ブライアン・シンガー降板の背景に、このプロットがあったのではないかという気までしてくる(もっとも、その後にブライアン・シンガーの少年に対するセクハラ疑惑が表沙汰になったのは壮大な皮肉だけれど・・・)。そう考えると、やっぱりこの映画は、フレディ・マーキュリーという稀代のスーパースターの内面には入り込むことなく、彼が残した音楽を表層的にちりばめた、よくできた「再現ドラマ」にしか過ぎないのかもしれないし、ある意味、それが大ヒットの理由のような気がしてきて、ライブエイドに条件反射的に泣いた後、とても乾いた気持ちになりました。
[ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 5点(2019-02-17 21:24:04)
6.  ボーダーライン(2015) 《ネタバレ》 
メキシコ国境地帯の麻薬モノは、TVドラマやドキュメンタリーでも良作揃いだけれど、映画でも『トラフィック』以来の良作が登場! 『トラフィック』でも印象的な役回りだったベニチオ・デル・トロがここでは謎めいた捜査官として、前作とは違った強烈な印象を残す。ひたすら振りまわされる主人公エミリー=ブラントもいい。そして、意外と好演なのが、主人公ケイトの相棒ジェシー。ケイト以上に物事の真相もつかめないまま振りまわされる姿はユーモラスですらあり、緊張感が張り詰める本作のなかで、ちょうどいい緩和剤となっていて、単調になりがちな場面にメリハリを与えている。デル=トロの正体は、設定から考えれば当然ありえるもので、そこまで意外ではなかったので、サスペンス的な楽しみはそこまでではないけれど、丁寧に描き混まれる捜索・捜査・掃討シーンはどれも印象的で、監督ドゥニ=ヴィルヌーヴの才気をとにかく感じる。今後要チェックの監督がまた1人増えた。
[映画館(字幕なし「原語」)] 7点(2016-04-22 18:09:42)(良:1票)
7.  ホワイトハウス・ダウン 《ネタバレ》 
ここ数作、興行的にイマイチだったせいか、エメリッヒ作品にしてはいろいろ控えめ。爆破CGも、ホワイトハウス全体をぶっ放すのではなく、ホワイトハウスの庭の倉庫が爆発とかそういう感じで、2013年の映画としては明らかに見劣りする。ただ、それが功を奏したのか、ワシントン観光した帰りの飛行機で見たというタイミングがよかったのか、それなりに楽しめた。首太すぎてスーツが似合わず途中から白シャツで本領発揮するチャニング・テイタムとアクションに不器用な大統領ジェイミー・フォックスのコンビは、バディものアクションの楽しさを久々に味合わせてくれた。あと、この手の映画だと子役が子ども特有の論理で動いて足をひっぱって、全体のテンポを損ねる場合も多いのだが、この映画では娘役が意外な活躍を見せてなかなか爽快。もちろん、エメリッヒだから、ツッコミどころは多い。そもそも正式な合衆国大統領があの下院議長になった時点で、ソイヤー大統領には核ミサイルボタンを解除することはできないはず(任期を終えた元大統領が核ミサイル解除が可能になってしまう)。まあ、そういう細かいこと云う前に、敵の目的が本末転倒すぎで、中途半端に政治ミステリーの要素を入れてしまったのが、そもそもの失敗かもしれない。まあ、そこは目をつむって、過度に期待せずに見れば意外と面白いかも、という程度の作品。
[DVD(字幕なし「原語」)] 6点(2013-12-08 03:55:42)
8.  ボーン・アルティメイタム
3部作も通して描かれる「謎」の真相は、実際にはたいしたことはない。まあ、少なくとも「非アメリカ人」の観客からすれば、「へー、それで?」っていうような内容。でも、この映画の真髄も、やっぱりそんなところではなくて、「プロフェッショナリズム」に徹して描かれるアクション・シーン。今回の見せ場も、CIAのハイテク追跡網を、あくまでローテクを駆使して見事にかわしつづけるボーンの姿にあるのでしょう。その集大成がラストシーン! 思わず拍手喝采したくなる、見事なエンディングでした。グリーングラス監督に変更してからの手ぶれ映像の多用には賛否両論あると思いますが、大作化していく続編にありがちな妙な色気を出さずに、3部作を通して地味ながらも見事なクオリティを保ちつづけたことは、賞賛に値すると思います。
[DVD(字幕)] 7点(2010-09-04 18:00:10)(良:1票)
9.  ボーン・スプレマシー
2作目ともなると、記憶喪失ネタだけでは、どうやっても前作ほどのサスペンスを期待することは無理。さて、どう新しい「見せ場」を持ってくるか、と期待半分・不安半分で鑑賞。前作同様、あくまで伝統的な地味なアクション(殺し屋との肉弾戦、カーチェイスなど)をしっかりと見せるという心意気はプラス。続編だからといって、妙に新しいことをしようとしたり、無駄にスケールアップせずに、前作のいい部分をいい感じに受け継いだ佳作です。ただし、手ぶれや早いカット割りの映像は個人的にはマイナス。なにやらごちゃごちゃしているうちに、敵が倒れたり、車が飛んだりというのは、ちょっといただけない。優れた「アクション」映画である以上、ボーンの計算尽くされた「動き」をちゃんと見たかった。その部分の見せ方が雑な印象だったのがつくづく残念です。
[地上波(吹替)] 6点(2009-11-04 21:56:39)
10.  ボーン・アイデンティティー
ド派手な演出や大げさな音楽を廃したおかげで、主人公のプロフェッショナリズムを感じさせる無駄のない動きを堪能できます。久々に「丁寧で良質のアクション映画」を見たという感じです。ストーリーは、主人公ボーンの自分探しが主軸なんですが、冒頭からCIA側の動きも見せてしまったおかげで、こちらのサスペンス色が薄かったのがちょっと残念。それから、ヒロインのマリーも、お約束とはいえ中途半端な印象。途中の2人の押し問答がストーリー的にあまり必要なかったように思えました。それでも、CG全盛のこのご時世に、こういうプロ魂を感じるアクション映画がちゃんとシリーズ化されて高く評価されているのは、なかなかうれしいものです。未見の続編も楽しみ!
[地上波(吹替)] 7点(2009-06-23 14:27:24)
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