2061. ミリオンダラー・ベイビー
筋立て自体は特段目新しいものではなく、むしろ古典的な部類に属するが、それを作品として忘れがたいものにしているのは、卓越した演出のセンスと、主演3人の陰影をたたえた濃密な演技、そして絶妙な音楽と照明。内容の各論を逐一突っ込む以前に、「映画」として非常に心地よいし、だからそこを評価したい。 [映画館(字幕)] 8点(2016-08-27 01:29:46) |
2062. U2/魂の叫び
U2というバンドは、もともと「オリジナルしかやらずに」キャリアを重ね、「ヨシュア・トゥリー」で天下を獲るにまで至ってしまっていた。しかし、キース・リチャーズとの会話の中で、「何か、得意のナンバーはないのか?」と訊かれ、カバーをやったことのない彼らは愕然としたのである。そこで彼らは、ルーツ・ミュージックの探求に向けて怒濤の如く進んだのであるが、そんな無理は長続きすることなく、あっさり撤収。90年代への突入とともに、開き直った全面的なモダン・ロック大展開へと向けていくのである。つまり、この作品は、そんな彼らのごくわずかな先達探求の期間を切り取った、いろいろな意味で貴重な作品なのである。●映像面では、4人のメンバーそれぞれを視野に収めたカメラワークが素晴らしい。そして、表情もステージアクションもきちんと撮り切っている。ライブ映像にありがちなブレやしつこいカット割りもなく、音楽ドキュメンタリーとはこうあるべきという撮り方。●それにしても、しみじみ思うのは、エッジ、アダム・クレイトン、ラリー・ミューレン・Jrの偉大さである。あんなボーノみたいな変人と、よくまあ何十年も、解散も分裂も活動停止もすることなくバンドを継続できるものだ。この取り合わせこそが奇跡であり、だからこそその4人を収めたこの作品も意義深い。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2016-08-25 01:45:25) |
2063. ミッション・トゥ・マーズ
《ネタバレ》 行って助けるだけだったら面白くも何ともないストーリーだと思いながら見ていたのですが、あそこまでやっておいてシニーズが地球に「帰らない」というところが無茶すぎて良い。あれで多少救われた感じです。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2016-08-25 01:26:30) |
2064. 彼女が消えた浜辺
《ネタバレ》 海辺での仲間内旅行から1人が消えました、というたった一つの謎だけでここまで引っ張れる構築力に驚きます。しかもそれが、ちょっとした情報量や共有度の差が徐々に積み重なって、解決するつもりがかえって底なし沼にはまっている、とでもいうような緩やかな迷走を、必然性をもって紡いでいるのです。こういう丁寧な脚本だったら、俳優陣も演じていてやり甲斐があるんだろうな。ただし、最後の確認のシーンは不要で、あそこは謎は謎のまま余韻をもって置いてほしいところでした。それと、キャスティングにおいて、年齢層が合ってなさそうな夫婦が2組ほどいるのが気になりました(入れ替えるとちょうどよさそうな気がしたのですが)。 [DVD(字幕)] 7点(2016-08-24 02:13:21) |
2065. シェーン
《ネタバレ》 これって、ウエスタンの皮をかぶったファミリー・ドラマだったのですね。最初は格好良いヒーロー大活躍かと思って見ていたので、いろんなところで間延びしすぎとか会話しつこすぎなどと感じていたのですが、あくまでも地元側の地に足についた視点に徹しているので、見た後の印象は逆に良いです。敵ボスが人間離れした悪人ではないというのも、現実感を醸し出しており、かつ、ラストの主人公の哀しみを裏付けています。 [映画館(字幕)] 7点(2016-08-21 18:27:47) |
2066. 耳に残るは君の歌声
最初の少女の頃のシーンの暗めの迫力はなかなかだったが、成長して、話が進むにつれて、どんどん中身がしょぼくなってしまった。最後のアメリカの部分など、映像的にもそれまでとまったく違っていて浮いているし、全部いらなかったと思う。しかし、そんな中でも、ケイト・ブランシェットのロシア訛り英語台詞は凄まじい。「アビエイター」でのボストン訛りも凄かったが、この人はどういう練習をしているんだろうか。 [DVD(字幕)] 5点(2016-08-20 11:31:31) |
2067. 最前線物語
それぞれの場所が、なぜそこがピックアップされたのかがはっきりしないので、結果、全体としての主題がぼやけてしまっている。ところどころ、このシーンは気合が入っているなあと思う箇所もありはするのだが、結局は平坦なままで、登場人物の変化や位置づけも不明確なまま。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2016-08-18 01:11:19) |
2068. さよならゲーム
《ネタバレ》 そりの合わない2人がスポーツを通じて共鳴し合っていく、というパターンはそれこそいくらでもあるわけで、その中でこの作品は何がしたいのか分かりませんでした。あえていえばサランドンの役柄で独自性を出そうとしたのかもしれませんが、せっかく人目を浴びないマイナーリーグを素材としていながら、かえってそこを「居心地良く」してしまうという逆の作用を果たしてしまっています(なので、ヌークがメジャーに上がるところにドラマとしての意味がありません)。 [DVD(字幕)] 4点(2016-08-17 00:49:27) |
2069. パイレーツ・ロック
《ネタバレ》 リチャード・カーティスらしい、明快爽快一直線の作品。敵方らしい設定も出てきながら、何かするたびにあっさり蹴散らして、深刻な危機には陥らない、というのもこの人ならでは。終盤ではあろうことか「タイタニック」のパロディまで展開してしまって、ニヤニヤが止まらない。まあ、135分は長すぎだと思うし、このエピソードはカットした方が良かったんじゃないかという箇所もあちこちに・・・。●一番違和感があったのは、66年のイギリスといいながらビートルズがまったく登場しなかったことなんですけど、何か理由があったんでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-08-16 00:46:09) |
2070. 男はつらいよ 奮闘篇
《ネタバレ》 単に美人に惚れてその後で振られるという王道パターンとは少し異なる、密かに奥の深い作品。この作品での寅さんのスタートは明確に「保護者愛」なんだけど(沼津駅の別れのシーンは名シーンだ)、相手が本当に自分の懐に飛び込んできて、いろいろとその世話を焼いているうちに、いわば行動の側が内心を形作るような感じで、いつの間にか結婚生活計画まで立てるようになってしまう。この自然な推移が味わい深い。あと、田中邦衛が最初から最後まで「爽やかないい人」というのも、意外と貴重だったりして。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2016-08-15 01:32:47) |
2071. 紙屋悦子の青春
《ネタバレ》 設定からして、観念的・感傷的・情緒的に流れるだけの内容になることを危惧していたのだが、意外に良い出来なので驚いた。流れを逸脱せず、かといってストレートに中心だけを目指すこともなく、一つ一つ丁寧に積み上げられる会話の数々。それを辛抱強く息を潜めて追い続けるカメラ。各役者の、感情を安易に露出させない忍耐の演技。それだけで十分です。それから、この作品の中心テーマは反戦ではないです(要素の一部ではあるとしても)。肝は現代の老夫婦にあって、いろんなことを乗り越えてきた二人だからこそ、あんな何でもない会話を、息の合った状態で繰り広げられる。私はそこが一番の見所だと思いました。あと、残念だったのは、衣装や小道具がえらく新品っぽくて、日常的に使い込まれた生活感が表されていなかったこと。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2016-08-13 01:29:38) |
2072. ペン偽らず 暴力の街
1948年、埼玉県本庄町で、暴力団と町議会と警察の癒着(というか一体化)を市民とマスコミの運動で追放した「本庄事件」を、そのわずか2年後に映画化したもの。俳優陣は映画会社の枠を超えて大集結しており、そのことからも、この作品化に向けた情熱と原動力を感じ取ることができる。こういう純粋な初期衝動に満ちた作品は、もちろん評価せざるをえません。山本薩夫監督らしく(クレジットは「演出」ですが)、描写の上での虚飾を排し、不自然な展開の上下動を入れることもせず、地道に日常的シーンを積み重ねているのですが、その作り方がまさに作中の市民や記者の行動と一致していると同時に、今日の我々にとっても、日々の不断の努力を怠ってはならないという警報たりうる効果を導いています。 [DVD(邦画)] 7点(2016-08-12 00:23:40) |
2073. 近頃なぜかチャールストン
設定からしてもっと面白くなると期待したんだけどなあ・・・老人たちが、ただ単に各自適当に行動しているだけで、それを支える頭の良さなり年季や経験とか、そうでなければ運の良さや都合の良さとか、そういうものが感じられないのです。よって、いくら不条理な展開が繰り広げられても、それって単に制作側が敷いたレールの上を走っているだけでは?という感が拭えないのです。こういう作品では、ありえない設定を「もしかしたらどこかにあるかも?」と思わせるほどの細かい作り込みが必要なんですけどね。 [DVD(邦画)] 4点(2016-08-12 00:14:04) |
2074. 16ブロック
《ネタバレ》 極力シンプルにまとめた基本的な作りは良いと思うんですよ。見ている間は一気に見られましたし。ただ、もっと面白くできたのではないかという点が何点か・・・。●一番もったいないのは、情報戦の側面をあちこちで捨てていること。エディがするりと逃亡して、これはジャック・エディ・警察の3点勝負か?と期待させておきながら、携帯を通じてあっさり自分がエディと離れていることが敵にばれている。バスの乗客の人数水増しも、エディの乗客紛れ作戦も、そんな美味しいネタをまいておきながら、何も起こさずにさっさと潰している。この辺はもっと引っ張ってほしかったのですが。●16ブロックという狭い範囲の限定も、その中で居所を探す技術と、そこからさらに逃げる知恵がぎりぎり対決するのかと思っていたら、基本はただの追いかけっこでした。途中の地下室の対決も、最後の対決の妙味を削いでしまっているので、いらなかったんじゃない? [CS・衛星(字幕)] 5点(2016-08-08 02:04:59)(良:1票) |
2075. リトルマン・テイト
何が表現したいのかよく分からない作品。天才が英才教育のスーパーコースと通常人同様の日常生活の狭間で悩む、なんていうのは手垢のついたような古典的なテーマだし、そもそも二者択一で考えるべき問題でもない。それと、母親にジョディ・フォスター、博士にダイアン・ウィーストというキャスティングはいかにもミスマッチで、違和感ありまくりだった。むしろ、ジョディは博士役に回って、母親はエレン・バーキンかホリー・ハンターあたりにやらせるべきだったと思うが(ゴールディ・ホーンでも可)。 [DVD(字幕)] 5点(2016-08-08 01:36:42)(良:1票) |
2076. 夏の庭 The Friends
《ネタバレ》 とにかく、肝心の子役3人の台詞や演技のつけ方がどうしようもない、というかほとんど放置状態で・・・こんな形に残してしまって、子役たちがこれを芝居だと思ったまま大人になったらどうするのだろうか?制作者はそこまで考えていないのか?●3人組の1人が砥石を家から持ってきて包丁を研ぐ。こういうターニング・ポイントの大事なシーンで、その子の手元を撮らない。研ぎ上がった包丁の姿も、それがスイカに入る瞬間もすっ飛ばす。こういうことをされると、制作の適当ぶりと志の低さが分かりやすく見えてしまって、醒めるのです。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2016-08-05 00:34:06) |
2077. カビリアの夜
《ネタバレ》 前半は、話自体が好き勝手な方向に動いていて、焦点がよく分からなかったのですが・・・催眠ショーのシーン以降は、ほとんど必然のラストへ向けて、騎虎の勢いでした。ラストシーンも的確に決まっていました。 [DVD(字幕)] 5点(2016-08-04 01:34:36) |
2078. ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀
《ネタバレ》 どうみてもほのぼの系ファンタジック・コメディの設定なのに、途中からいきなりホラーになっちゃったり、アクションになっちゃったりで、設定が生かされていません。アヒルがあまりにも人間そのものっぽくて、ギャップがもたらす部分が全然出てきてないのもマイナス。というか、そもそも全然可愛くない。●そんなわけで、中身の方は何かグダグダなんだけど、この作品の真髄は、最後の4分間のステージシーンにあります。タイトル・トラックはロック・ナンバーとして単純に格好良いし、リー・トンプソンはきちんとステージ・アクションができているし、バックメンバーも、ショルキーがいたり、ドラムはスタンディングだったり(シーラEか!)と、ビジュアル面にも配慮されている。この1曲のためにそれまでの壮大な前フリがあるビデオクリップだった、と理解すれば、納得できないこともない(無理矢理)。 [DVD(字幕)] 5点(2016-08-04 01:18:41) |
2079. 必殺! THE HISSATSU
《ネタバレ》 前半、いろんなキャラを置いて回っていく展開はいい感じだったのですが、結局何もまとめないまま、処理しきれないまま終わってしまいました。特に、最後の決戦のくだりが、進めば進むほどグダグダになっていったのは、何とも痛い。それに、仕事人はやっぱり、名もなき依頼者の恨みを晴らすんでないとね。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2016-08-02 21:24:58) |
2080. ハンコック
《ネタバレ》 みんなから嫌われているヒーローという設定なのであれば、もっとチープでダサダサなスタートになっていなくてはならないはずなのに、最初からそこそこ格好良くて成果も上げたりしているので、前提がすでに破綻しています。ヒーローもののくせに、性能や動きの細部が詰められておらず、映像面が適当感満載なのも問題です。まあ、ウィル・スミスとかシャーリーズ・セロンとかの重すぎるキャストを持ってきた時点で失敗でしたね。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2016-08-01 02:00:53) |