2301. トリプルクロス
《ネタバレ》 第二次世界大戦で最も功績をあげた二重スパイであるエディー・チャップマンの伝記の映画化です。実はこの作品が製作されたときはチャップマンのスパイ活動の詳細はまだ国家機密で、映画でもそこを補う意味で大幅に脚色されており、当時存命だったチャップマン本人も内容に非常に不満だったそうです。戦前ダイナマイトを使う強盗として暗躍したチャップマンは、英仏海峡に浮かぶ島ジャージー島で警察に逮捕されます。第二次世界大戦が始まりジャージー島はドイツに占領され、島内の刑務所で服役していたチャップマンは占領しているドイツ軍にスパイを志願します。訓練の後英国に潜入したチャップマンはすぐに英国情報部に寝返って二重スパイになり、ドイツ軍は最後まで彼が二重スパイであることに気づかないでチャップマンの送る偽情報に踊らされることになるのでした。最近出版されたチャップマンの伝記を読みますと、なんと監督のテレンス・ヤングは犯罪者時代のチャップマンと親交があったそうです。その本によるとヤング自身も戦前は結構ワルで、彼が監督した007のボンドのキャラはヤングのワル時代をモデルにしているそうです。このテレンス・ヤングという人、監督としては本当にヘボで007シリーズ以外は駄作ばっかしですが、その中でも本作は一番ひどいのではと思います。チャップマンはクリストファー・プラマーが演じていますが、彼がなぜ二重スパイになったかという描写が皆無で、いたずらにジェームス・ボンドになぞらえているだけです。また、ドイツ側の情報将校役をユル・ブリンナーがあのスキンヘッドで演じていますが、ほんとこれは似合わなかった、ミス・キャストです。私が鑑賞したのは相当前にリリースされたビデオ版ですが、テレビ放映版を使ったのかなんと30分も短いバージョンでした。チャップマンの話は本当に「事実は小説よりも奇なり」を地で行く驚愕の実話なので、スピルバーグあたりに是非リメイクして欲しいものです。 [ビデオ(字幕)] 3点(2009-09-05 13:28:31) |
2302. 太陽の帝国(1987)
《ネタバレ》 この映画は、スピルバーグ作品の中では知名度の低さ1・2位を争うのですが、思うにこの時期のスピルバーグは暗中模索、自分の方向性を探って悩んでいたのではないでしょうか。収容所という題材は後年「シンドラーのリスト」につながっていくのですが、殺伐とした良く言えばドライに人間の本質を描く術をこの映画で体得したようです。それはやはりジョン・マルコビッチの深い演技に助けられたところが大です。正直脚本は上映時間の長さを意識させられるもたもたした出来で、少年クリスチャン・ベールにも感情移入できなかったですが。父親との関係が希薄というパターンは、ほんとスピルバーグ作品の「癖」ですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2009-09-04 21:26:20) |
2303. ナイト・オン・ザ・プラネット
オムニバス好きな自分ですが、この作品が今まで観たなかでのベスト・オムニバスです。冒頭L.Aで夜が始まり、最後のヘルシンキで朝が来るという一夜の出来事なのですが、地球上ではこれだけのドラマが生まれたのですね。私には何も起こらなかったヘルシンキの話が意外と琴線に触れました。そしてジーナ・ローランズ、さすがいい味です。 [DVD(字幕)] 9点(2009-09-03 21:43:03) |
2304. ダウン・バイ・ロー
《ネタバレ》 こんなに渋くてカッコ良いオープニングは初めてです。全編に漂うゆるーい雰囲気がいいですね。舞台がニュー・オリンズなのも一役買っているのでしょう。強面のトム・ウェイツとジョン・ルーリーの二人にロベルト・ベニーニを投げ込んでこんなに絶妙なハーモニーを生み出せるとは。ラスト・シーンは、「第三の男」を彷彿させる忘れなれない名シーンでした。 [DVD(字幕)] 8点(2009-09-03 21:40:58) |
2305. 恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ
《ネタバレ》 出だしは正統ミステリー調で始まります。冒頭リチャード・バートンが何者かにぼこぼこにされ瀕死の重傷を負います。そしてなぜかロンドンの警察に所属しているリノ・バンチュラ刑事(フランス警察が交換研修で送り込んだという説明ですが、リノ・バンチュラを起用するための苦肉の設定)が担当で捜査を始めます。バートンが精神科医にかかっていたことを知り医師リー・レミックから話を聞きますが、そこからバートンの妄想なのか現実に起こったことなのか判断つきかねる過去の事件が浮かび上がってきます。B級テイストの映画とは思えない豪華なこの配役、特に謎の男バートンの怖さを巧みに語る脚本の秀逸さ、なのにこの映画が日本で劇場未公開だったとは驚きです。大聖堂の破壊などスペクタル・シーンも、今の眼で見ればちゃちぃのですが、しっかり押さえています。バートンのサイコキネシスで旅客機が高層ビルに突っ込むシーンは、思わず9.11テロを連想してしまいました。掘り出し物です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2009-09-03 20:37:35) |
2306. 撃滅戦車隊3,000粁
《ネタバレ》 007初期作品を撮ったテレンス・ヤングが監督した戦争映画です。時代は第二次世界大戦で、英国陸軍に入隊し戦車部隊に配属された英国人と米国人のふたりの友情と死がテーマとなっています。1950年製作の映画ですが、この映画には軍隊批判といった視点がなく、まるで戦時中に作られた戦意高揚映画の様な錯覚するほどです。本編がモノクロのうえ記録映像が多用されているのも一因でしょう。前半は訓練シーンが多いのですが、これはなかなか良く撮れています。戦車隊なのにひたすら三週間も行進の練習をさせられるのがおかしいです。見どころは実物のM4シャーマン戦車が走り回るところがふんだんに観られることで、考証も行き届いています。そして1シーンですがドイツのタイガー戦車の実物が登場するのもファンにはうれしいところです。米国人は第二次世界大戦で英国人とともに血を流した、ということがこの作品のテーマなのですが、米国人である主人公のひとりがどうして英国陸軍に入隊できるのかが不思議なところです。 [DVD(字幕)] 4点(2009-09-02 22:45:04) |
2307. ミクロの決死圏
《ネタバレ》 ビジュアル的には時代を感じさせるものがありますが、特筆すべきは作りこまれたセットや装置です。潜水艇は今の眼から見ても洗練されたデザインであることには驚かされますし、秘密基地(?)内の機器類や縮小化の過程などディティールへのこだわりは素晴らしいものです。人体にいられる時間が60分なので映画内の時間経過とほぼシンクロさせて、人物の背景描写や設定説明をばっさり省略しているのは、ある意味いさぎよいかなと思います。ラクエル・ウェルチの胸をみんなでよってたかって揉みまくるシーンは、ほんと名シーンでした。 [DVD(字幕)] 7点(2009-08-31 10:41:37)(笑:1票) (良:1票) |
2308. モダン・ミリー
《ネタバレ》 主演のジュリー・アンドリュースは、この作品の様なおバカミュージカルコメディにはちょっと合わないような気がします。ミス・キャストかな。また主演の彼女を影薄くしているのが伝説のミュージカル女優キャロル・チャニングの怪演で、オスカーにノミネートされゴールデン・グローブ賞受賞というのは納得です。ジェームス・フォックスの“タピオカ♪、タピオカ♪”はとってもシュールな感じのするナンバーで、耳にこびりつきました。 [DVD(字幕)] 5点(2009-08-30 18:40:12) |
2309. スリザー
《ネタバレ》 この映画、80年代・90年代に作られたホラー映画のオマージュがいろいろ詰まっているそうですが、その手のホラー・ゾンビものをほとんど観ていない自分にはピンときませんでした。しかし、ラスト近くにスリザーの親玉と化したマイケル・ルーカーが部屋いっぱいに膨れ上がった姿を見て、「あっ、デビルマンのパクリ!」とさすがに思いました。結構お金をかけて丁寧に撮ったB級映画だと思いますが、これコメディなのですかねえ?能天気な音楽が流れるラストシーンが結構好きです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2009-08-29 22:50:04) |
2310. トロピック・サンダー/史上最低の作戦
金かかってますね~。内容は語るほどのものではないのですが、ちょっとやりすぎという面が強すぎです。序盤のグロい描写はちょっとひどすぎ。一番参ったのは、ベン・スティーラーのわざとらしい演技ですかね。監督としては知的で力量があり、音楽の使い方にも素晴らしいセンスを持っているのは確かで、そろそろ出演するのを止めて監督に専念したらと言いたい。とは言え、トム・クルーズの熱演に敬意を表してプラス2点です。 [DVD(字幕)] 7点(2009-08-29 20:16:08) |
2311. 恐竜100万年
《ネタバレ》 「子供たちは恐竜に、お父さんはラクエル・ウェルチに」、これは番組案内文ですが思わず爆笑です。この作品、あのハマープロの製作なのですね。確かにラクエル・ウェルチの肢体にはこの歳でも眼が釘づけでしたが、どうしてどうして、その他大勢のハマー・ガールズもなかなかでしたよ。黒い髪の山の部族が闘争的な気質で、海辺に住む部族は金髪で山の部族より文化が進んでいるという設定は、どこか北欧人種優位の人種感が感じられていやらしいところですが。そうそう恐竜でしたね、これはあまり活躍していませんでした。冒頭いきなり実物トカゲさんが登場でちょっと引きましたが、あいつは大写しで見せられると結構気持ちが悪いものですね。洞窟に住む猿人みたいなのが出てきて仲間を殺して食っちゃたりするところや、翼竜どうしが戦って勝った方が負けた方のヒナを捕食したり、結構ハードな自然の掟の描写もありました。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2009-08-25 19:35:58)(良:1票) |
2312. マッキントッシュの男
《ネタバレ》 あたり・はずれがあるジョン・ヒューストン作品の中では凡作です。原作は未読ですが、ウォルター・ヒルの脚本がサスペンスを盛り上げるのに失敗していて、ストーリーからするともっと面白い話になるはずなのにと感じてしまいます。そもそもポール・ニューマン演じるリアデンが、冒頭ダイヤを強奪する作戦の意味がよくわかりません。ヒューストンは本来脚本家ですが、監督作で脚本を手掛けてない映画はハズレである傾向が強いようです。ラスト、ニューマンとドミニク・サンダがそれぞれとる意外な行動が、男と女の本性が出ていて面白かったですが。 [ビデオ(字幕)] 5点(2009-08-25 00:48:12) |
2313. レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う
《ネタバレ》 「モーゼに会う」は「ゴー・アメリカ」とセットで観るのが正しい鑑賞法です。本作ではついに旧約聖書のパロディにカウリスマキは挑戦し、哲学的な高みに到達してしまいました(単なるおバカが極まっただけかも)。シュールな味わいはグレード・アップしていますが、「自由の女神の鼻」だけは何度観ても意味がわかりません。ラストに向けてテンションが落ちてゆく感じがして、「ゴー・アメリカ」より落ちる評価です。 [DVD(字幕)] 6点(2009-08-23 22:49:55) |
2314. レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
《ネタバレ》 とんがりリーゼントとブーツ、あのレニングラードカウボーイを画面に出すだけで反則技です。そしてあの独特の間、なんでおかしいのか自分なりに分析してみましたが、カウリスマキ以外には使えない技術であるという結論でした。レニングラードカウボーイの演奏レパートリーが、どんどん広がっていくのが楽しいです。 [DVD(字幕)] 8点(2009-08-23 22:48:34) |
2315. キル・ビル Vol.2
《ネタバレ》 前作よりも、断然こっちの方が好きです。ブライドが子供と出会うシーンは、思わずほろりとしてしまいまいた。タランティーノの映画で泣かされるとは予想外です。キル・ビルシリーズは出てくる女性が皆やたら強くて凶暴ですが、デヴィッド・キャラダインとマイケル・マドセンのキャラが対照的に描かれているのが面白い。マイケル・マドセンの落ちぶれ方と、なんか惨めな死にざまは良かったです。 [DVD(字幕)] 8点(2009-08-23 10:26:45) |
2316. ダーリング
《ネタバレ》 思ったより難解な作品でした。主人公のジュリー・クリスティーは幼いころから「ダーリング」と呼ばれてかわいがられ若くして結婚しますが、TVの街頭インタビュー出演をきっかけに妻子あるTVプロデューサーダーク・ボガードと同棲を始めます。やがて彼女はチャンスをつかみキャンペーンキャラクターとして活躍し始めますが、スポンサー企業の御曹司ローレンス・ハーヴェイともできちゃってそれから華麗な男遍歴が始まります。このクリスティーの役柄が、自己中な性格のうえ上昇志向が強くてあまり魅力的でないのが難点。なんせ最後はイタリアの旧王家の王子様と結婚しちゃって、「王女様」とまで呼ばれる御身分になるのですから。そんな彼女の恋愛模様をシニカルにある意味冷めた眼で描いているのですが、ローレンス・ハーヴェイ以下の登場人物がみんな現実離れした言動をするので、なんか昔のATG映画を見ているような雰囲気でした。ラストはロンドンの街角でいきなりおばさんが「サンタ・ルチア」を歌いだしてエンド・クレジットなのですが、いまだに「?」で訳がわかりません。ところで、この映画のダーク・ボガードはいいですよ。「ベニスに死す」や「愛の嵐」といった癖のある役が多い人ですが、繊細で知的な普通の男を鮮やかに演じています。 [DVD(字幕)] 5点(2009-08-18 01:20:22) |
2317. スカーフェイス
《ネタバレ》 デ・パルマの作品としては最高傑作ではないでしょうか。この映画、不思議とデ・パルマ印の華麗な映像カットがないのですが、作品としてのパワーが群を抜いています。アル・パチーノの演技は言うまでもないのですが、このトニー・モンタナに絡む周辺人物たちがギラギラした悪党ばかりで、特にロバート・ロジアは「仁義なき戦い」の金子信雄を彷彿させるキャラで面白かったです。ジョルジオ・モロダーのやる気のなさそうな音楽が不思議とこの映画にはマッチしているんです。妹へのゆがんだ愛情が爆発するところからは、まるでギリシャ悲劇を観ているようなインパクトでラストの大銃撃戦まで一気に突っ走るところは、本当に「映画の神様が降りてきた」ような迫力でした。 [DVD(字幕)] 9点(2009-08-15 01:58:33)(良:1票) |
2318. プラネット・テラー in グラインドハウス
「スプラッターはやりすぎるとギャグになる」という定理をロドリゲスが実証してくれました。タランティーノの「デスプルーフ」と違ってあまりヘタウマ感がないのは、もともとのロドリゲスのヘタさがイメージとしてあるからでしょう。そう言えば、あの「マチューテ」がロドリゲスの監督でいよいよ実写化されるそうで、デ・ニーロも出演するそうです。これは期待しちゃいますね。 [DVD(字幕)] 6点(2009-08-14 12:45:50) |
2319. ナック
《ネタバレ》 オープニングはとってもシュールです。白いセーターにスカートの美女たち(数十人はいますが、全員同じ服装)がモテ男の部屋に呼ばれるため階段に行列している光景は強烈なインパクトを与えるシーンで、リチャード・レスターはこれが撮りたくてこの映画を作ったのではと思えるほどです。「ザ・ナック」とは「女の子をひっかけるコツ」という意味で、女の子に縁がない教師の主人公が何とかして「ザ・ナック」を習得しようとするスラプスティックコメディですが、色んな映画で見慣れたスラプスティック演出手法が展開されます。製作年度を考えれば、当然この作品がそれらの元祖なわけで、当時としては相当斬新でアートな映像だったのでしょう。この作品は良く「モッズの青春を描いた映画」と紹介されますが、登場人物で“モッズ”と呼べそうなのはモテ男トーレンぐらいです。モッズと60年代のロンドンを描いた映画としては、個人的にはマイケル・サーンの「ジョアンナ」の方がレベルは高いと思っています。まあ勢いで獲っちゃったのでしょうが、カンヌでパルムドール受賞するほどの出来かなと思います。 [DVD(字幕)] 5点(2009-08-13 14:08:56) |
2320. ミュンヘン
《ネタバレ》 スピルバーグらしい残酷描写を堪能させていただきました。“こんなもの見せなくてもよからうに”というようなシーンが幾つもあり、それは通常不要で映画の質を落とすものなのですが、かえってスピルバーグタッチとして受け入れられるのが面白い。この映画は決してイスラエルの作戦を容認しているようには思えません。暗殺のターゲットとなる「黒い十月」のメンバーたちがみんな中年のおっさんで、見た目は普通の中産階級の様に描いているのは、「プライベート・ライアン」でドイツ兵を坊主頭の野蛮人として登場させていることと対比して興味深かったです。 [DVD(字幕)] 8点(2009-08-08 00:34:27) |