341. 桜田門外ノ変
《ネタバレ》 桜田門外の変を描いた時代劇だが、事件に至る経緯がメインではなくて、大老暗殺に参加した藩士たちのその後がメインになっているのが若干の肩透かしを感じる。冒頭で桜田門外の変を描き、そこに至る経緯はそのあとの回想シーンで描かれているが、この構成が本作をちょっと分かりにくいものにしていると思うし、藩士たちの逃亡劇にドラマがあるというわけでもないので歴史をなぞるだけに終始し、純粋に物語として面白味がほとんどなく、まさしく歴史の授業で見せられる映画という感じ。いちばんの見せ場である序盤の変のシーンはけっこう力が入っているが、そこに至るまでが描かれていてこそカタルシスを感じられるのにそれは後回しなので見せ場として非常に物足りなく感じ、もっとそこを描くべきだったと思う。大作感は佐藤純彌監督の前作「男たちの大和」に続いて巨大なセットを使った撮影に見られる。キャストの中では藩士の一人を演じる生瀬勝久はコミカルな役どころの多いイメージがあるが、(今BSで再放送されている「トリック」を見ていることもあって矢部のイメージが強くなってる。)それとはまったく違うシリアスな役柄を違和感なく演じているのが印象に残る。ほか、主人公を匿う本田博太郎や温水洋一がいい味を出していた。それだけに、映画に物語としての面白味があればなあと思ってしまう。 [DVD(邦画)] 5点(2015-12-30 12:12:39) |
342. 恋山彦
《ネタバレ》 マキノ雅弘監督による大川橋蔵主演の時代劇。仇討を描いたマキノ監督らしい娯楽映画でそこそこ面白いし、橋蔵が二役を演じているが、一方がもう一方を助けるために命を捨てるという展開もベタはベタだが、良かった。主人公を匿う絵師の男を演じる伊藤雄之助はやっぱり出てくるだけで印象に残る。マキノ監督の映画ではどちらかと言えば平均的な作品でやや物足りない部分もあったが、久々に見た東映時代劇で最初から最後まで安心して見ることができた。 [DVD(邦画)] 6点(2015-12-26 08:17:28) |
343. ルパン三世 バイバイ・リバティー・危機一発!<TVM>
《ネタバレ》 「ルパン三世」テレビスペシャルの第1作。後の作品のように特定のレギュラーキャラを主役に据えた作品ではなく、それぞれの見せ場がそこそこあるような作風は1作目ならではか。でも、出来としては既に微妙な感じでどこか散漫な印象。ゲストキャラの小生意気な少年がいい味を出している。この少年と母親の再会がドラマとして描かれているが、その母親が色仕掛けを使う敵組織の幹部というのはいただけなかった。そのため、親子の再会シーンは何か急にお涙ちょうだいな雰囲気になってしまったのは見ている側としてはすごく冷めてしまい、もっとこの母親を違う設定で描いていればもうちょっとは良かった気がする。それと五右衛門は既に女に利用されるだけされるというヘタレキャラで、テレビシリーズの頃から徐々にそうなっていったとは思うけど、本当にこのテレビスペシャルではこんなんばっかな気がする。少年の声を田中真弓が演じているが、彼女はクリカンが初めてテレビスペシャルでルパンの声を担当した作品にも出ていたことを思い出した。 [DVD(邦画)] 5点(2015-12-19 11:18:22) |
344. ごろつき(1968)
《ネタバレ》 高倉健とまだ東映に入って間もない頃の菅原文太が共演するマキノ雅弘監督の任侠映画。任侠映画には違いないのだが、前半は任侠映画というよりはキックボクシングを題材にした青春スポーツ映画のようになっていて、いつもの東映任侠映画とは毛色が違うが、それがかなり新鮮だったし、こういうのもいいなと思う。菅原文太はこの頃まだ東映では売出し中の頃なので、チョイ役なんだろうなと見る前は思っていたが、高倉健と一緒に田舎から上京する友人役で、完全にもう一人の主人公という立ち位置で描かれていて、これが本作最大のみどころではないだろうか。中でも、高倉健が流しの歌手として菅原文太のギターで「網走番外地」と「昭和残侠伝」の主題歌を歌うシーンは珍しく、今となっては貴重すぎる映像で、もちろん、マキノ監督の東映任侠映画ファンに対するサービス心のようなものも感じられる。ヒロインとなるボクシングジムのトレーナー(大木実)の妹を演じる吉村実子、決して美人というわけではない、どちらかと言えばバタ臭い感じのする女優だが、ボクシングジムという男臭いところにいる女性としては美人女優よりもこういう感じの女優が演じているほうがしっくりくるかもしれない。脇役たちが光っているのもマキノ監督らしいところだが、とくに主人公ふたりを何かと気に掛ける男を演じた石山健二郎が良い。当時のキックボクシングのスター選手だった沢村忠も出演しているなどしているのは当時のキックボクシングの人気をうかがい知れる。任侠映画なので仕方がないが、個人的にはヤクザを絡めずにボクシングの話だけで終わっていても良かった気はする。でも、久しぶりに見たマキノ監督の映画で、見ていて単純に楽しめたし、今年何本か見た高倉健と菅原文太の共演作の中ではいちばん気に入った映画だった。 [DVD(邦画)] 8点(2015-12-10 00:45:25)(良:1票) |
345. 神戸国際ギャング
《ネタバレ》 高倉健の東映専属時代最後の主演映画で、菅原文太とも最後の共演作となるアクション映画。なのだけどなんかバタバタしすぎていて落ち着かない印象で、高倉健の演じる役柄も彼のイメージとかけ離れていて違和感を覚える。(どっちかというと文太が演じてしっくりくるような役柄。フリーになるのを前にイメチェンを図ったのか。)それに文太との共演も同年の石井輝男監督「大脱獄」のほうが良かったように思うし、クライマックスの二人の対決もあっけない印象でイマイチ。登場後、すぐに殺されてしまう丹波哲郎や、この後、健さん映画の常連俳優となる大滝秀治が変な日本語を喋る中国人を演じているのもなにかもったいない感じしかしなかった。 [DVD(邦画)] 5点(2015-12-04 22:04:51) |
346. 戦後最大の賭場
《ネタバレ》 鶴田浩二と高倉健の共演する山下耕作監督による任侠映画の一本。ついこの間、山下監督の「博奕打ち外伝」を見たばかりで、一週間ほど間を開けて見たのだが、タイトルに「戦後」とあるように製作当時の近現代(昭和37年)が舞台で、この頃の東映任侠映画といえば明治時代あたりが舞台というイメージが強いので少し異質に感じてしまうのだが、面白かった。山下監督の演出はやはり重厚感があり、話としてはよくある任侠映画のパターンのように思うのだが、それをドラマとして飽きさせずに見せていく手腕はやはり見事だ。東映の悪役俳優の一人である山本麟一が主人公に子供のためにこの世界から足を洗えと説得される仲間を演じているのが珍しく、とくに彼が岩佐(安部徹)のところへ殴り込みに行くシーンで堅気の親子とすれ違うシーンは何とも言えない哀愁が漂い、本当は妻や子供と平穏に暮らしたいと思っているであろう彼の悲しみがたまらなく印象に残る。裏切られ、虫けらのように殺されてしまう高倉健の最後の言葉が兄弟分である鶴田浩二を思っての言葉なのがグッとくる。ついに殴り込みをかけることになった鶴田浩二に離縁を切り出された妊娠中の妻(小山明子=大島渚監督の映画以外で見るのはけっこう新鮮。)が言う「女は嫁いだらその家が死に場所なんです。」というセリフがいつまでも耳に残る。岩佐と菊池(金子信雄)を倒してエンドではなく、主人公もまた無残に殺されてしまうという結末はやりきれないものがあり、切なさが残る。そのシーンの鏡を使った演出も良かった。ところで、金子信雄は「博奕打ち外伝」ではコミカルな医者を演じていたが、やはりヤクザ映画ではこういう憎たらしい悪役のほうがハマっている。 [DVD(邦画)] 7点(2015-11-30 00:02:43) |
347. 博奕打ち外伝
《ネタバレ》 山下耕作監督による鶴田浩二主演の任侠映画。今月一周忌を迎えた高倉健や菅原文太も出演するなど豪華なキャストで、ストーリーも対立する二つの組のドラマを対等に描き、明確な悪役の存在はなく、ドラマに重きを置いた内容で、ただの勧善懲悪にはなっていない。「博奕打ち 総長賭博」もそうだったが、誤解やしがらみによる争いが本作でも描かれていて、あの映画には及ばないものの見ごたえのある映画でなかなか面白かった。ストーリーのカギとなるのが若山富三郎率いる組の代貨し(松方弘樹)で、彼の親分を思っての勝手な行動がやがて悲劇を生むという展開なのだが、終盤近くの若山富三郎と松方弘樹のやりとりは、そこまでして親分である若山富三郎を思う松方弘樹の気持ちが伝わってきて本作の中ではとくに印象に残る。鶴田浩二と若山富三郎のどちらにも恩義があり、なんとか争いごとを避けたい高倉健の苦悩はもう少し掘り下げていても良かった気がしてしまうが、まあ仕方ないといえば仕方ないか。(でも、この役を高倉健が演じていることによって安心感はある。)誤解から鶴田浩二の弟たち(菅原文太、伊吹吾郎)が殺されてしまう展開も悲劇的なのだが、最後まで自分の弟を守ろうとする文太には思わず感動させられた。とはいえ健さんと文太、一緒のシーンが一回もなかったのは残念だし、既にこの時期藤純子も引退してるせいか、出演しておらず、浜木綿子(冒頭で鶴田浩二が彼女に向かって「見ない顔だな」というシーンがあるが、東映任侠映画では本当に見ない顔。)が芸者役で出演しているが、この役を藤純子で見たかった気もする。東映任侠映画としては最末期の作品(本作から約半年後に「仁義なき戦い」が公開され実録路線へ。)で、モヤモヤが残り、あまり後味がいいとは言えない本作のラストは物語の終焉だけでなく、10年近く続いた東映任侠映画そのものの終焉を感じさせている気がして、よけいに物悲しく、そして印象的だった。 [DVD(邦画)] 7点(2015-11-21 17:06:37)(良:1票) |
348. 花と竜(1962)
舛田利雄監督による裕次郎主演のアクション映画だが、基本的に現代劇という印象がある日活アクション映画では珍しく明治時代が舞台の任侠映画っぽい雰囲気の作品になっている。ストーリー自体はそこそこ面白いと思うし、浅丘ルリ子扮するヒロインの技もインパクトがあって強烈で、裕次郎演じる玉井金五郎のタフさにも驚かされるのだが、いかんせん初めて見る着流し姿の裕次郎には違和感がつきまとい、見慣れた東映の鶴田浩二や高倉健の着流し姿と比べてしまうとその似合わなさが際立って見えてしまい、この役に裕次郎というのはちょっとミスキャストに感じ、もっとほかにいなかったのだろうかと考えてしまった。もちろん裕次郎主演ということがウリな映画ということは分かってはいるけれど。 [DVD(邦画)] 6点(2015-11-14 16:57:36) |
349. いつでも夢を(1963)
橋幸夫の代名詞的な代表曲をモチーフにした日活の青春映画で、いかにもそれらしいカラッとした明るさがあり、安心して見ていられるプログラムピクチャーの一本。橋幸夫本人もメインで出演していて「いつでも夢を」のディエットの相手である吉永小百合(どうでもいいが、「あまちゃん」を見た後だとこの曲のディエットの相手と言えば宮本信子を思い浮かべてしまう。)と浜田光夫の日活青春映画黄金コンビに橋幸夫が加わっているというキャスティングだが、違和感は特になく、スッと入っている感じなのが良かったし、演じるトラックの運転手のチャキチャキした江戸っ子なキャラクターもよくハマっていて、強引にねじ込んだ感は0。タイトルの出演者クレジットで橋幸夫が吉永小百合と浜田光夫を差し置いてトップ表記なのも彼が当時いかに人気があったかを物語っている。(出番の少ない松原智恵子が吉永小百合よりも先に名前が出るのは確かに謎だ。)映画の印象としてはやはり平凡だが、リアル三丁目の夕日といった雰囲気があり、あの映画を見るよりは実際に当時作られた映画を見ているほうが有意義な気もする。(あのシリーズ、決して嫌いというわけじゃないけど。)橋幸夫演じるトラックの運転手の母親が田舎から出てくるくだりは、母親を演じているのが飯田蝶子のためか、小津安二郎監督の戦前の名作「一人息子」を思い出した。ひょっとしたら意識してやっているのかもしれない。 [DVD(邦画)] 5点(2015-11-08 14:29:30) |
350. 探偵物語(1983)
《ネタバレ》 松田優作が探偵役で出演していてタイトルが「探偵物語」というとつい「工藤ちゃーん!」のほうを思い浮かべてしまうが、薬師丸ひろ子主演の角川のアイドル映画である。(ああ、紛らわしい。)主演の薬師丸ひろ子の可愛さは本作でも出ているが、先日までBSで再放送されていた朝ドラ「あまちゃん」をすべて見終わった直後のせいか、それと比べると演技がすごくぎこちなく見え、今まで気にしたことがなかったが、こんなものだったのかと思ってしまった。確かにこの頃の薬師丸ひろ子は可愛くてわりと好きだが、女優としてはやはり今のほうがいいかも。(でも、いちばんの代表作は「Wの悲劇」)松田優作は工藤とはまったく違う探偵を演じているが、やはりタイトルのせいか、どこか違和感があったし、この役に松田優作というのはもったいない気がする。ストーリーにヤクザが絡んでくるところなどは、赤川次郎原作ということもあってか「セーラー服と機関銃」を思い出した。そのストーリーも対して面白味があるわけではないので、映画としては可もなく不可もなくといったところ。ラストの空港のシーンは原田知世の「早春物語」の逆パターンだが、エンドロールの間、ずっと立っている松田優作を映し続ける長回し演出もあってか、こちらのほうが印象に残る。それに映画の主題歌といえばエンドロールで流れるイメージだが、本作ではラストシーンの直前に流れ、エンドロールではインストが流れるというのが意表を突いていた。ところで本作を見たのは「あまちゃん」で薬師丸ひろ子と松田龍平が共演しているのを見たからなのだが、本作では若手として松田優作と共演していた薬師丸ひろ子が「あまちゃん」ではベテラン女優としてその息子である松田龍平と共演していることは時の流れを感じるとともにちょっと感慨深くもある。(見た順番、逆だけど。)ロングショットで分かりにくくはあるが、ワンシーンだけ蟹江敬三が出演しているのも「あまちゃん」にハマって見ていた者としては嬉しい。ひょっとして自分、立派な「あまロス」か? [DVD(邦画)] 5点(2015-10-31 13:17:13) |
351. 本日休診
《ネタバレ》 冒頭からテンポが早く、コメディタッチなのだが、反面、シリアスな社会派作品でもあり、戦後の貧しさや傷跡といったものが痛切に描かれている。医者である三雲先生は本日休診の札をかけて休もうとしているが、そういう貧しい人たちを放ってはおけず診察に応じる。この三雲先生のキャラクターがなんとも飄々としていて魅力があり、演じる柳永二郎といえば「座頭市物語」などで悪役のイメージがあるだけにこのギャップはすごいが、こういう善人役もうまく演じられるのはやはり名優の証拠で、主演で見るのはもちろん初めてだが、本作は彼の代表作といっていいのではないだろうか。出演者クレジットのトップは柳永二郎ではなく鶴田浩二なのだが、指を詰めるのが痛いからと麻酔を打ちに来る若いヤクザ役というのが後年の東映任侠映画での彼を知っているとものすごく笑える。でも、まだ若すぎて貫ろくは足らない。本作で戦争の傷跡をいちばん感じさせるのが三國連太郎演じる気のふれた男で、コミカルに描写されてはいるが、重く、戦争の愚かさについて考えさせられるし、この男の敬礼の下、雁をみんなで見守るラストシーンも、戦後の復興に向けた力強いメッセージのようなものを感じられ、とても印象に残る。しかし、渋谷実監督の演出はコメディとシリアスのバランスもよく、この監督の映画を見るのは初めてだったが、雰囲気としては川島雄三監督の映画に近いものがあり、もっと渋谷監督の映画は見てみたいと思った。それにしてもこの映画、作られた時代の空気というものがよく出ているのも良い。それはこの時代だから出せるものであって、後の時代では決して出せるものではない。そういうのを見るのも昔の日本映画を見る醍醐味である。 [DVD(邦画)] 7点(2015-10-24 14:34:42) |
352. サイドカーに犬
《ネタバレ》 あまり期待はしていなかったし、淡々とした印象もあるのだが、だんだん引き込まれた。話自体は大人の視点から見ればけっこうなドロドロ系なのにあくまで小学4年生の少女・薫とヨーコさん(竹内結子)との交流に主題が置かれているためあまりそうは感じないし、純粋に小学生のひと夏の思い出を描いた作品としてよく出来た清涼感のある映画になっていて、ヨーコさんと自転車を一緒に練習したり、コーラを買ったり、一緒に旅行に行ったりといったエピソードや、そんなヨーコさんとの交流を通して少しずつ変わっていく少女が丁寧に描かれている。それがあるから、突然訪れるヨーコさんとの別れや、ラストの父に対する頭突きが切ない。ヨーコさんがとても魅力的で、演じる竹内結子もすごくハマっていた(とくにファンである女優というわけではなく、見た役柄で思い出すのは未だに15、6年前の朝ドラのヒロイン役だったのだが、それが少し変わるかも。)し、もちろん、主人公の少女を演じた松本花奈の演技の自然さも良い。同じく両親が離婚することになった小学生を描いた映画としては相米慎二監督の「お引越し」があり、見ながらつい思い出したが、あの映画とはまた違った良さがある。そして出番は少ないが、樹木希林のコミカルで強烈な演技はやっぱり面白く、シリアスな演技もいいが、やっぱりこの人にはこういう役がいちばん合っている気がする。 [DVD(邦画)] 7点(2015-10-17 23:21:36)(良:1票) |
353. パシフィック・リム
《ネタバレ》 次々と現れる怪獣に対して人類が巨大ロボットを駆使して立ち向かうSFアクション。どうかなと思いながら見たが、元々特撮映画や怪獣映画が好きなのですごく楽しんで見ることが出来た。巨大ロボットと怪獣の戦いを大真面目に描いているのが最大の魅力で、しかも見せ方や描写にもこだわりが感じられる本格的なものになっていて、戦闘シーンの迫力(怪獣とロボットの戦闘シーンは思わず目を輝かせて見ていた。)はもちろんのこと、それだけではなく、個性的な登場人物たちの魅力もあって最初から最後まで退屈しないのがいい。それにギレルモ・デルトロ監督の日本のSFアニメや特撮作品への愛情も感じられる。巨大ロボットを操縦する二人のパイロットが互いの脳の記憶と感覚を共有し、文字通り一体になって戦うという設定が斬新だし、科学者が敵の目的を知るために怪獣の脳と一体になる展開もいい。幼い頃に怪獣に両親を殺されたことがトラウマになっているヒロインというのは「ガメラ3」の前田愛を思い出すが、本作のほうが心理描写はしっかりしていた気がする。日本語吹き替え版で見たのだが、主人公の吹き替えが杉田智和だったり、菊池凜子演じるヒロインの声は林原めぐみ、ほかにも古谷徹と池田秀一が共演していたりして、こういう映画の吹き替えにエヴァやガンダム、ウルトラマンの声優を起用しているのも確信犯的なキャスティングで多少マニアックな気もするが、このアニメっぽい声優陣が本作の雰囲気にはよく合っている。それに遊び心がある吹き替え版で古谷徹が声を演じる科学者が怪獣の脳にドリフトするときに「いきます」と言ったり、主人公が巨大ロボットの技を怪獣に繰り出すときに「ロケットパンチ」と叫んでいたりする小ネタが楽しくつい笑ってしまった。字幕で見ようかとも思ったが、これは吹き替えで見て正解だったと思う。少し不満な部分もあるのだが、久しぶりに理屈抜きで面白いと思える怪獣映画の傑作を見た気がして、それだけでも大満足な映画だった。 [DVD(吹替)] 8点(2015-10-08 00:20:16) |
354. トラック野郎 爆走一番星
《ネタバレ》 シリーズ第2作。やっていることは1作目とそれほど変わらないが、やっぱり桃さんとジョナサンの二人がとても熱く、この二人を見ているだけでこちらも熱くなれる。冒頭から下ネタ全開のB級映画ではあるが、決してそれだけでは片づけられないのがこのシリーズの魅力なのだと思う。今回で言えば警官時代のジョナサンに恨みを持つ田中邦衛扮するトラック野郎(ボルサリーノ2という役名が凄い。)が桃さんやジョナサンと敵対するが、クライマックスではしっかり桃さんに協力するところなどは、たとえライバルであっても仲間であるということをストレートに感じさせてくれているのがいいし、桃さんやジョナサンだけでなく、出てくるトラック野郎たちがみんな熱くてカッコイイ。惚れたマドンナ(あべ静江)が太宰治が好きと知るや、全集を買って読みふける桃さんがとてもチャーミングで笑えるし、最初太宰を食べ物と勘違いしてしまう桃さんもお茶目で、またそこがいかにも桃さんらしいところでもある。このシリーズ見るのはまだ2本目で、クライマックスは1作目同様に恋人のところに向かうマドンナを桃さんがトラックに乗せて激走!という展開を予想していたが、マドンナではなく、出稼ぎの男(織本順吉)を子供たちの待つ自宅へ送り届けるためにトラックに乗せていて、毎回このパターンなのだろうけど、いつもマドンナを乗せるとは限らないのだなと思った。本作にも出てくる「生まれてすいません」という言葉は「嫌われ松子の一生」でも印象的に使われていた言葉であるが、見ていてつい思い出してまた見たくなってしまった。マドンナがつぶやく「サヨナラだけが人生か」という言葉も、久しぶりに川島雄三監督の映画が見たくなるような言葉だ。それにひょっとしたら鈴木則文監督は川島監督に影響を受けている部分もあるのかもしれない。いずれにしてもこの「生まれてすいません」や「サヨナラだけが人生だ」という言葉、すごく深みがあって大好きな言葉だ。 [DVD(邦画)] 7点(2015-10-03 11:14:33)(良:1票) |
355. かぐや姫の物語
《ネタバレ》 高畑勲監督の本当に久しぶりとなる新作。「竹取物語」は以前にも市川崑監督が沢口靖子主演で映画化しているが、こちらはあの映画のようなSF色はなく、ファンタジックな印象の強い映画になっている。それに、娯楽性よりも芸術性の高さを感じさせる作風はこれまでのジブリ作品ではあまり見られなかったような気がして、こんなジブリ作品もいいなと思った。高畑監督の前作「ホーホケキョ、となりの山田くん」でも水彩画のような画風が印象的だったのだが、本作でもその水彩画のような画風で作られていて、その優しいタッチが本作の雰囲気にとてもマッチしていて美しかった。ストーリーは原作の「竹取物語」から大きく逸脱することなく、忠実に進んでいくが、それが何か懐かしい。かぐや姫の視点から描いたことにより、深みが出て、そのことで、きちんと見ごたえのある映画になっているのがいい。山では優しかった翁が都に出てきたとたんに欲が出て、見栄を張るというふうに変貌を遂げたり(本人はかぐや姫の幸福のためと言っているが、あまりそんなふうには見えない。)するのは見ていてリアルだし、かぐや姫に求婚する男たちも今見るとどこか支配欲に満ちているというふうに見えるのは自分の見方が変わったせいだろうか。本作ではかぐや姫が地球に来た理由が描かれていて、これを見るとこのかぐや姫がとても純粋無垢な女性であることが分かるし、そんな彼女が帝に求婚されたときに思わず「月に帰りたい」と願ったのもその純粋さをこれ以上奪われたくないという思いからだろう。汚らわしいものもあるが、それと同時に素晴らしいものもこの世界にはあるということを知っているかぐや姫は帰りたくないと言って涙を流す。かぐや姫の心理描写がうまく、ついかぐや姫に感情移入して見てしまうし、昔読んだ絵本などを後年に思い返してみるとクライマックスの展開が少し唐突に感じる部分ではあったのだが、これならじゅうぶん納得がいく展開だ。迎えに来た者たちにそのことを訴えるかぐや姫(途中で羽衣を着せられるのが無情。)や、自分たちも連れて行ってくれと懇願する翁と媼の姿が切なく、今までさんざ知ってる話のラストシーンにも関わらず、思わず泣きそうになってしまった。高畑監督が東映時代から企画していて、ようやく実現した映画だと聞くが、それに見合う出来の傑作になっていて、間違いなく高畑監督の代表作の一本になる映画だと思う。それからもう少し、いつもファンタジックな映画を作る宮崎駿監督が「風立ちぬ」でリアル路線の映画を作ったのに対して、ジブリでは「火垂るの墓」などリアル路線の映画の多い高畑監督がファンタジー路線で映画を作っているのは面白いなと思った。 [地上波(邦画)] 8点(2015-09-23 17:15:19)(良:1票) |
356. のぼうの城
あまり期待せずに見たのだが、素直に楽しめた。なんといってもみなさんが既におっしゃるように野村萬斎演じるのぼう様がハマリ役で、このキャスティングだからこそこののぼう様という人物がとても魅力的に見え、このキャスティングありきの映画のようにも思えるが、本作はそれによって成功している。少数が大群相手に戦うというストーリーが「七人の侍」を思わせているが、冒頭の音楽や劇中の田植えのシーンが「七人の侍」を意識しているのがニヤリとさせられる。それに全体的にコメディタッチで楽しく見られ、それでいて合戦シーンはしっかり迫力のあるアクションに仕上げてあり、そのバランスも絶妙だった。犬童一心監督と樋口真嗣監督の共同監督作品だが、ドラマ部分は犬童監督が、合戦シーンや水攻めシーンといったスペクタクルシーンは樋口監督が担当といった感じがいい。晴れ晴れするようなラストも爽快だった。キャスト陣に石田三成を演じる上地雄輔などバラエティー番組でよく見かける人がチラホラいるが、それも気にならずに見れたのは良かった。しかし、甲斐姫を演じる榮倉奈々だけは背が高すぎるせいか、見ていて少し違和感を感じ、これだけがちょっと気になった。 [DVD(邦画)] 7点(2015-09-22 11:00:20) |
357. 藁の楯
ハリウッドのアクション映画のような筋立ての邦画で、設定にかなり無理を感じるし、演じている俳優陣はシリアスな演技を見せているのに、映画は最初からコメディーっぽいリアリティの無さを感じさせていて漫画が原作なのかと思ってしまう(原作は漫画家が書いた小説。)し、人間ドラマとしても魅せたかったのだろうけど、それもかなりの中途半端さを感じていっそ人間ドラマは排除してしまったほうが良かったのではと思う。でも、疲れていたせいか何も考えずにポカーンと見るにはちょうど良く、思ったよりは楽しめた。藤原竜也は「バトルロワイアルⅡ」や「デスノート」で犯罪者役は見ているのでまたかという気がしないでもないが、この清丸という役は最後まで本当にクズで、このサイコパスに同情を誘うような設定がまったくされていないのは好感が持てるし、演じる藤原竜也の演技もうまくハマっている。清丸の最後のセリフもいかにもサイコパスらしいセリフで、この清丸という男の異常さをストレートに表していて思わず戦慄が走り、とても印象に残る。孫を清丸に殺されたことで彼を殺した者に10億円を支払うという広告を出す老人を演じる山崎努は「マルサの女」の権藤の老後を見ているような雰囲気がどことなくあり、役名が「マルサの女」の芦田伸介の役名である蜷川ということもあり、意識したキャスティングなのかなとつい思った。クライマックスの警視庁前に蜷川が現れるシーンを見て久しぶりにまた「マルサの女」が見たくなった。 [DVD(邦画)] 5点(2015-09-17 23:54:22) |
358. GODZILLA ゴジラ(2014)
《ネタバレ》 16年ぶりにリブートされたハリウッドの新作ゴジラ。98年版と比べるとゴジラのデザインがオリジナルに近くなり、登場する渡辺謙演じる博士の名前が「芹沢猪四郎」というのも第1作へのリスペクトが感じられるものとなっていて、98年版より本作のほうがそういう面では見ていて好感が持てる。しかし、登場する怪獣の設定はゴジラというより「ガメラ 大怪獣空中決戦」のリメイク的な感じで、もう少しオリジナリティのある設定で良かった気がする。それに、人間ドラマを前面に出しているが、それが怪獣の見せ場よりも比重が大きく、さんざん焦らされていたゴジラがようやく登場し、これからムートーとの対決という怪獣対決モノとして盛り上がるシーンをテレビのモニターごしにしか映さなかったり、クライマックスのゴジラとムートーの対決シーンも画面が暗すぎてよく分からなかったりして怪獣対決ものとして見た場合にその醍醐味がなく物足りなさを感じた。(もしも、怪獣大好きっ子だった小学生の頃に本作を見ていたら退屈極まりない映画という印象だけが残ったかも。)人間ドラマのほうに見ごたえがあれば良かったのだが、月並みな家族のドラマが展開されるだけで、そこに深みもなければ面白味もない。それよりも父を広島原爆で失っている芹沢博士のドラマを前面に出したほうが面白くなった気がするのだが、そこは深く掘り下げずに終わってしまったのはちょっと残念に思う。(アメリカ映画だからかもしれないが。)ムートーを倒したゴジラが海に帰っていくラストシーンはどことなく70年代の本家ゴジラシリーズのエンディングのようだった。続編が作られるということでちょっと先行きに不安感がある。少し甘めに5点。 [DVD(字幕)] 5点(2015-09-12 17:33:24) |
359. 最後の特攻隊
《ネタバレ》 神風特攻隊を題材にした佐藤純弥監督による東映のオールスター大作戦争映画。1970年というカラー映画であってもおかしくない時代にあえて白黒で撮影されているところにこだわりを感じる。群像ドラマとしてもしっかりと作り込まれていて、見ごたえがあり、とくに中盤以降は渡辺篤史演じる吉川のエピソードを中心に構成されていて、この吉川の話はかなり丁寧に作り込まれている。実家に帰ってきた吉川を母親が涙ながらに叱責し、追い返すシーンや、その直後に自殺しようとする吉川を宗方(鶴田浩二)ともう一人の仲間が止め、必死に説得するシーンが良いし、特攻作戦で死ぬのを恐れていた吉川が空襲で燃えはじめた戦闘機に自ら乗り込み、自爆して最期を遂げるという彼の結末には思わず泣いてしまった。吉川を演じる渡辺篤史もいい演技を見せていて、彼の代表作とも言える役柄だと思う。そのほか、山本麟一と梅宮辰夫の兄弟のエピソードも印象深かった。得てして大味になりがちなこの手の映画であるが、本作はこの二つのエピソードのおかげで印象に残る佳作になっているし、また70年代後半以降に大作映画を多く手掛けることになる佐藤監督の演出にも光るものがあり、今まで見た彼の監督作の中でもいちばん面白い映画だった気がする。ただ一つ、終盤の終戦になったというシーンがえらく唐突に感じたのはちょっと残念。このあたりにもう少し配慮があれば良かったかなと。 [DVD(邦画)] 8点(2015-09-05 17:23:23)(良:1票) |
360. あヽ同期の桜
学徒兵として戦場に散った若者たちの遺稿集を原作とする東映の戦争映画。青春の只中に学徒出陣で軍隊にかり出された若者たちの姿がドキュメンタリータッチに近い演出で描かれているが、いかに軍隊というところが厳しく、そして人間としての尊厳などまるでないところかというのがよく分かる映画になっていて、面白いとかは別にしても見て良かったと思える映画だった。任侠映画全盛期の東映で作られたこともあって出演者の大半は任侠映画で見たことのある人が占めているが、映画自体が任侠映画のような雰囲気にはならず、出演者の演技にもとくに違和感はなく見れたのも良かった。とくに実際に特攻隊にかかわっていた鶴田浩二はこういう軍人役を見るといつもハマっているように思う。ただ、不満を言えば見る前に中島貞夫監督の意に沿わない編集がされた作品というのを知ったが、そのせいか個々の登場人物の人間ドラマとしてはけっこう散漫な印象を受ける部分が多いように感じるのは少し残念だった。 [DVD(邦画)] 6点(2015-08-29 10:18:15) |