21. 斬る(1962)
話は何がいいたいのかよく分からん、っていうかつまらんのですが、映像が放つ緊張感にはつい息を呑みます。剣を構え合う動きのない場面でもその迫力には釘付けにされました。肌の白さや空の青が冴える映像美も印象的で、スローモーションの演出も非常に効果的。こうなってくると話のツマラナサがいよいよ心残り。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2016-01-10 20:05:34) |
22. 剣
《ネタバレ》 剣道部団体優勝のため機械のようなストイックさと禁欲主義を貫く国分の人となりと、「そんな国分でもただの男」と認めたがろうとする賀川の嫉妬を描くお話。「国分だってスカートの中に手くらい入れるよ。だって人間だもの」というのが賀川の願いであり、国分という偶像を切り崩す手段。技術は完璧でも人格まで完璧な人間がいるはずがない、という考えで賀川は安心したかったわけですね。しかし国分さんは本当に完璧主義の完全無欠な男でした、というのが本作のオチ。飛べなくなった鳩を哀れんで絞め殺そうとするなど、自分なりの哲学が完成していた国分さんには、色香の誘惑など通じなかった。通じなかったどころか最後には自分の監督不行届のために自決を選ぶ。綺麗なものが綺麗なままでいられないなら死んだほうがマシ。もはや賀川なんぞには敵うはずもないほど、国分の精神は高みに達していた、というわけですね。ちょっと死というもの美化しすぎかなという気もしますが、エンディングには、国分を理解してやれなかった部員たちの悔しさが静寂な部室にあふれ出し、悲痛な余韻が染み渡ります。主人公の提示が遅れてるため物語前半がやや退屈に感じるのが難点。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2016-01-10 19:35:41) |
23. 天使にラブ・ソングを2
「シスターでなければ」という要素が前作より希薄で、物語にパワーが欠けます。一応「聖歌隊」というワードが出たり、前作のシスターたちが出てはいますが、果たして態度の悪い生徒たちを改心させるのに本当にウーピーでなければいけなかったのか、かつて聖歌を大衆曲にアレンジしローマ法王までひきつけたあのウーピーが指導するからこそ生まれる面白味はあったのか、というね。「シスターでなければ」というより「ウーピーでなければ」ですかね。結局音楽で生徒たちの心が開くのなら、音楽に情熱のある人なら主役は誰でもよかったんじゃないの、という気がします。生徒たちを手なずけるのも意外とあっさりで、歯ごたえに欠けるところも。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2015-10-02 00:35:32) |
24. 天使にラブ・ソングを・・・
《ネタバレ》 やはりこういう楽しく痛快な作品ほど、緻密で繊細な計算の上に成り立っているもの、ですわね。幼少ウーピーが使途の名前を答える問いにビートルズのメンバーを挙げるというプロローグで、「シスター」「音楽」「型破りな性格」という作品のキーアイテムをすらっとナチュラルに提示。でもってシスターという素材を、人の命を奪う悪人も相手がシスターとなっては手を出せないというオカシサなどに活かすツボのおさえ方。シスターという題材だからこそ生まれる面白さ、みたいなのが随所にちりばめられてて、そして単に散りばめるだけでなく、その面白さの前にどういう流れだったらより面白くなるか、ということもよく考えられてます。警察内部に内通者がいる辺りの流れは会話だけで説明されていたりしますが、愉快なコメディパートと、ウーピーの働きで破綻寸前の教会が持ち直していくサクセスストーリーにパワーがありますので特に不満にはなりませんでした。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-10-02 00:24:49)(良:1票) |
25. 情婦
オチも確かに素晴らしい。けど、そのオチへ視聴者をスムーズに届けさせた、ウィルフリッド卿の魅力がまたいいんですな。何がいいって、そのギャップ作り。法廷弁護士という尊敬されるべき職に就いていながら、当初は看護師の指示を無視し、なんとかして葉巻を吸おうとするダメっぷり。ライターを貸してくれた人を即いい人認定。なんてダメ人間。と思いきや、裁判が始まると露呈してくるその確かな辣腕っぷり。名立たる法廷弁護士としての実力を発揮します。やるじゃんウィルフリッド卿。そしてそして、佳境に入るとなんと正義感に溢れる好漢だったことが判明。なんて気持ちのいい男なんだウィルフリッド卿。法を司る人種でありながら、法の枠外で人を裁くラストもまたステキ。 [DVD(字幕)] 9点(2015-06-21 22:58:55) |
26. ローマの休日
《ネタバレ》 すごい。すごいすごい。なんだこのシナリオ。これは、ロマンス映画だとか、ラブストーリーだとか、そういう「ジャンル」に収まるような器の作品ではないです。あまりにストーリーが計算しつくされていて、変な笑いが出てしまいました。まず冒頭、公務で公人たちに事務的な挨拶を交わす間、ドレスの中では足で足をボリボリかくプリンセス。この瞬間からアン王女のキャラクターがバッチリ見えてきてすっかり魅せられました。画で語る、とはまさにこのこと。でもって公務漬けの日々と礼儀・作法・行儀を要求される束縛にウンザリの王女。そんな彼女が憧れるは「俗世」。羽を伸ばせる唯一の世界と信じて疑わない場所。えいやっと抜け出し、出合ったのは新聞記者ブラドリー。金癖の悪いブラドリーは当初、王女を金のなる木としかみておらず、スクープ激写による金儲けを画策。アン王女の素顔を引き出すため一日ローマ巡りを。しかし一日が終わりを迎える頃には二人は恋に落ちる。そして終盤、身分の違いにより分かれなければならなかった二人。しかし、公人としての覚悟を決め一肌脱げたアン王女と、金より愛を選んだブラドリー。そこにはもう、公務を投げ出す自分勝手な王女の姿もなければ、金にだらしのない記者の姿もない。何もかもが計算されたヒューマン・ストーリー。それがローマの休日。って自分でジャンル分けしちゃってますな。ダルトン・トランボに興味がわきました。近いうち、彼の手がけた作品を漁ることになりそう。 [DVD(字幕)] 10点(2015-06-21 22:31:59)(良:1票) |
27. CUBE
高い、狭い、暗いの中だったら「狭い」が頭ひとつ抜けてニガテな私。その上映画観るときは感情移入してしまうタイプ。なので、この作品を観ているときは、「早く出してあげて」というより、「早く出してくれ」と気分ノリノリでした。謎の空間に閉じ込められた男女たち。扉を開けて先に進めど進めど延々と続く同じような空間。景色が変わり映えしないから頭をリフレッシュさせるタイミングがなく、一層ストレスが募ります。事態が進展している実感が沸かないから分かりやすい成果が欲しくなるんですよね。そしていつしかピースが集まって、謎の空間の脱出方法が炙り出されていきます。閉塞的な内容なのに気づけば話には疾走感が。スプラッタ的な要素はさほどなく、どっちかというと極限状態に追い詰められた人間どもの狂気が作品に緊張感を与えていて、「もし自分があの場にいたら」という妄想が余計はかどっちゃいます。 [DVD(字幕)] 8点(2015-06-21 21:50:40) |
28. アナと雪の女王
《ネタバレ》 盛大にブームに乗り遅れて観賞。 まあ確かに、シナリオに関してはかなり欠陥だらけです。例えば、アナがエルサの魔法に関しての記憶を消された設定が全く活かされていません。幼少時代にアナを傷つけてしまった事故によりエルサはアナを避けるようになりましたが、結局アナは、エルサがアナを避けていたのは妹を想う優しさゆえであったことを知らないままなんですね。感動やカタルシスの材料になっていません。 また、真実の愛が「姉妹愛」であったオチもいまいちピンときません。「真の愛はクリストフとの純愛だと思うでしょ?」というミスリードから「実はエルサとの姉妹愛でした」というトリッキーな流れにはつい制作陣のドヤ顔が浮かぶのですが、ぶっちゃけあの流れだったらクリストフとくっ付けてよくね?って思います。そのあとゆっくり、エルサとの対峙に挑んでもよかったんじゃないのっていう。 他にも、エルサが魔法をコントロールできるようになったことに特に解説がされてないのもすっきりしませんし、トロールとクリストフが以前からアナを知っていた設定も活きてません。 というわけでシナリオはまさしくアナだらけなのですが、しかし、それを補って余りあるのが、画と演技と音楽。氷の輝きがキラキラとした映像美は幻想的だし、その映像をステージとした楽曲、歌声の数々も大変胸に響きます。そして吹き替え声優陣の演技力。特に神田沙也加の演技は力強くもナチュラルで、おてんばなお姫様であるアナのキャラクターに一層の魅力を吹き込んでいます。 ぶっちゃけいうと、歴代興収TOP3に食い込んだ実績にはかなり納得仕切れてないんですが、それでも、ミュージカル映画の楽しさを花開かせた作品として十分に充実した102分でございました。 つららを望遠鏡にするといった細やかなアイデアが豊富なのも魅力。 [DVD(吹替)] 7点(2015-06-02 20:56:45)(良:1票) |
29. 市民ケーン
《ネタバレ》 撮影技法を開拓したなんかすげえ映画、とは聞いてたんですが、わたくし映画的教養はさっぱりなので、その視点から。まあ、丁寧に綴られた「因果応報」の話ですよねこれは。チャーリー・ケーンは、正しい愛し方愛され方を知らない人間。無償の愛で人と接することが出来ません。それどころか他人の気持ちや幸せを顧みず、己の幸せのみを追求します。その手段も「物」で満たすという虚しいもの。巨万の富を築き、無意味な収集癖に走ります。そんな振舞いを続けていたために、周囲からは「自分に還元するための行為しかし得ない人間」と見限られることに。「おれはこれだけ物を与えてやった、良い環境を作ってやった、その代わりにおれを愛せ」この考えこそが彼の行動原理だと判断されるのです。結果、彼自身が彼を孤独に追いこむことに。しかし、彼が愛を知らない人物となったことにも、ちゃんと原因が存在するわけです。彼の場合、複雑な環境で育った幼少時代がそれでした。父親からは暴力を受け、その父親から守るためとはいえ母親からは手放され、彼は愛情を最も必要とする時期に孤独を突きつけられます。だから愛を知らない孤独な男となってしまいました。そう、彼の孤独は、彼の幼少時の孤独が生んだもの。ケーン自身に責任はいっさいなく、その人格は全て環境の不可抗力によって作り上げられました。人々を翻弄し続けていたようで、実は己の過去の呪縛によって生き方を翻弄され続けていた”孤独の被害者”ケーンの人生を描いた物語、そう映りました。ケーンの親父も、きっと暴力を振るう人格に至った原因があったのだろう、と考えると、この作品はまさに因果のスパイラルを突いた映画、という見方も。さて、面白かったか否かと訊かれると、正直微妙なラインではあるんですが、最後の薔薇のつぼみの複線回収は、なんか気圧される謎の爽快感がありましたので、7点でどうでしょう。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-31 12:24:34) |
30. ブラックホーク・ダウン
《ネタバレ》 誰が誰だかわからんけど、そんなことはどうでもいいと思えるほどの、この緊迫感。スマートに作戦を遂行するはずが、じわじわと追い詰められ、いつしか部隊が劣勢へと堕ちていく絶望感がたまらないんですね。助けをよこしても犠牲者は増える一方。生存者の有無さえ不明の状況に二人が救援に駆けつけ、その二人は死亡、ただ一人の生存者は捕虜になるという過酷な戦況です。やることなすこと全てが裏目に。多勢に無勢。絶望の淵に立たされる兵士たちの顚末から目が離せません。 そしてなにより、ハリウッド的な派手な演出を抑えたことで返って臨場感抜群に仕上がった、銃撃戦の緊張感。画面を支配する銃撃音と土煙、そして兵士たちのなりふり構わぬ絶叫こそが何よりの演出となっております。戦場の激しさと混乱が肌身に伝わる珠玉の演出です。 さらにさらに、民族音楽やHR/HMといった各種BGMがスパイスとなって映画にさらなる彩りを与えています。コメディリリーフのようなキャラを投入していたこともスパイスとして有効的でした。息詰まる空気に一時の清涼を与えるガス抜き役として機能しています。 ただ一方、「妻と子によろしく」「おれたちは仲間の為に戦うんだ」など、セリフがところどころ臭すぎですね。ドラマ的に安易に着色されてます。この辺りが、「戦争の実態を如実に描いた作品と思えたか」と訊かれた時、YESと自信持って答えられない一因ですね。 [DVD(字幕)] 8点(2015-05-24 17:46:31)(良:1票) |
31. 大怪獣ガメラ
核でガメラを目覚めさせて一応反核のメッセージは入れときましたよ、的なオープニング。と思いきや、ガメラを迎撃する際には軽いノリで「核撃っちゃおう」と提案しちゃう安易さ。それに唐突で無意味なロマンスや、行き当たりばったりなZ計画のあれこれなど、おいおいとうなだれそうになるポイントが多数あるシナリオです。しかしまあ、セリフというセリフから、頭の悪さというか、推敲の足りなさがボロボロこぼれまくっているので、いちいちとやかくツッコむのもバカらしくなるというものでございましょう。むしろ「笑ってあげられるおバカなシナリオ」としてこれはこれでアリだな、と。それよりも、この意外に良質な特撮の仕上がり。合成技術は、ヒトの子供とガメラを対比させることでガメラのスケール感を具体的に表現できていますし、ガメラのスーツは、皮膚のシワや甲羅のトゲトゲしさの質感が伝わってきます。なにより街で暴れ大海を突き進む巨体の迫力はなかなか侮れないものです。 [DVD(邦画)] 6点(2015-05-18 21:32:56) |
32. プレデターズ(2010)
《ネタバレ》 最初におっさん2人を葬った時点でかなり冷めちゃいました。私は特にプレデターシリーズのファンというわけはありませんが、『プレデター』をオマージュするのであれば、イカついこわもてフェイスのおっさんどもがエイリアンと生存競争を繰り広げる泥臭い死闘を描かなければならんと考えます。おっさんどもの汗臭く泥臭く血眼で「生」を勝ち取ろうとする雄姿、それこそが『プレデター』の醍醐味であり、熱狂と緊張感の養分となっていたと感じてたからです。しかし本作は、ジャパニーズマフィア、家族思いのロシア兵、死刑囚と無駄に個性を肉付けされたキャラを大事したいがために、貴重なおっさんどもを序盤の盛り上がりでさっそく捨て駒にしています。途中でフィッシュバーンを補充しますが、これもあっさり退場。そのあとは「個性的なキャラが死んでいくのはやり切れないでしょ?」とでも言われてるような死亡シーンが一定間隔でポンポン描かれていきます。これがまあさして盛り上がらないこと。やっぱりプレデターにはおっさんが必要だ。 [DVD(吹替)] 5点(2015-05-17 10:35:44) |
33. 秋刀魚の味(1962)
《ネタバレ》 ハハハ。本当にまっ正面からなんですねえ。想定線の上に堂々と居座る無遠慮なカメラアングル。最初は違和感で仕方なかったんですが、思えばそれが引き金だったんでしょう。気がつけばもう小津ワールドの世界観にドップリ。まるでこちらに向かって話しかけられているような臨場感。「そうなんですかあ」と言われると、こっちがうっかり「そうなんですよ」と返してしまいそう。 さて、ストーリーは、娘を嫁がせる父親の心模様がテーマになっており、前半と後半で内容が別れています。 前半は特に事件も起こらず話も進みませんが、様々な「父」と「娘」が映し出されます。今まさに結婚生活を送っている義娘、未だ娘を嫁がせずにいることを引きずっている恩師、娘に先立たれた過去を持つも今ではすっかり立ち直っている海兵時代の部下。それぞれの形で今日を生きる父娘たち。その「それぞれ」を象徴するように、その時々に食べ物が出てくるのも印象的です。義娘の結婚生活はぶどう味、恩師の心境は鱧の味、と言わんが如く。 そして、後半は、そんな様々な父の一人である主人公がついに娘を嫁がせようと思い立ちます。娘がいてくれた方が便利だけど、娘の幸せを想えばこそ。娘をと嫁がせずにいることを悔いている恩師と、娘を亡くしていながらも笑顔で過ごしている元部下の存在が、その決心に踏み込ませたのでしょう。しかし、嫁がせたあとに待っていたのは、娘がいなくなった家。ラスト2分、もぬけの殻となった部屋や階段が次々と映し出され、主人公は、今にも泣き出しそうな表情を。薄暗い部屋で一人さびしく茶をすする後姿からは、娘の幸せの代償を背負う父親の哀愁が染み渡ります。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-17 08:57:32) |
34. 恋空
泣きました。鼻毛抜きながら観てたんで。 [DVD(邦画)] 3点(2015-05-16 05:46:48) |
35. 用心棒
《ネタバレ》 何言ってるかよく聞き取れないのは相変わらずなんだけども、そんなことより大変なのは、その飛びぬけた映像センス。卯之助の初顔出し。明らかにそれまでに出ていた登場人物とは風格が違います。そう感じるのは、見てくれのせいでもなく、性格のせいでもなく、ローから捉える異質なカメラアングルのせい。アングルだけでなく、空っ風を吹かせることで、さらに画栄えし、卯之助の特異性も匂わせています。そして、アングルと空っ風の演出は、ラストの対峙シーンでも発揮。これがもう圧巻の一言。閑散とした町の中、対峙する三船敏郎と丑寅一派。ジリジリと距離をつめる両者をそれぞれ正面からのショットで捉えます。そして、距離をつめる彼らの動きの「静」と、土煙と音を立てて吹き荒れる突風の「動」とが対比となって、息を呑むような緊張感を生み出しています。この映像の引きの強さがたまらない。加東大介のコメディリリーフは全然ありと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-14 21:29:18) |
36. 椿三十郎(1962)
《ネタバレ》 序盤辺りの「しゃべりすぎ」なシナリオに関してはどうかなあと思います。城代の状態も、菊井の企ても、今陥っている状況も、次にクリアすべき課題も、全てセリフによって補われていくから、具体的なビジョンが見えにくいんですね。三十郎が「俺は城代の顔も菊井の顔も知らねえが」みたいなことを言ってましたが、さすがに視聴者にすらも知らせないというのは、少々困りました。会話だけで話を整理していかなければならないのは、たとえ話がシンプルでも少々骨が折れます。しかしそれでも、「魅力的でそそられる主人公を映そう!」という試みは、全編通して見事にはまっておりました。頼れるんだか頼れないんだか、信用できるんだかできないんだかよく分からないミステリアスな雰囲気と言動。しかし、機転を利かせてピンチを回避する頭の回転と、多勢を相手にできる剣の腕前を兼ね備えたやっぱり頼れる男。その名も椿三十郎。ま、偽名ですけどね。「金魚のうんこみたいに繋がって来られちゃ始末が悪い」とユーモアセンスも完備。そんな椿三十郎の魅力に引っ張られてか、話の面白さも話が進むに連れみるみる調子を上げてきます。敵に椿を流させるプロットから悪漢御用の流れはまさに痛快の一言。ライバル・室戸半兵衛の気圧されるような眼力もこの作品に欠かせない魅力のひとつです。というわけで、やっぱりこれは面白い映画だったのでした。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-13 22:31:29) |
37. 東京物語
《ネタバレ》 あのラストは、京子と紀子の会話から含めて印象的なのです。京子は、とみの死後に見せたしげたちの言動に嫌気をさします。実母が亡くなった直後というのに、あれやこれやと無遠慮に形見を欲しがったり、さっさと帰路についたりして、なんと薄情なのだと、なんと無頓着なのだと嘆くのです。しかし、紀子は、そのしげたちの言動に対しフォローを入れます。「大人って、だんだん親から離れていくものじゃないかしら」。大切なはずの人を亡くしてもすぐに割り切るしげたちの言動を、紀子は肯定して、京子をなだめるのです。この、紀子が年下の京子をなだめる姿は、一見、大人の強かさが現れているようにも映ります。しかし、親の死の無頓着を否定しなかった紀子自身も、未だ亡き夫の死を引きずって生きているわけです。夫の死に無頓着になりつつある自分に、罪悪感を抱いていました。京子にはあんなことを言ったのに、自分の場合は「大人って、だんだん夫の死から離れていくものじゃないかしら」と割り切れないずるい自分。親の死の無頓着を肯定しても、夫の死の無頓着は否定したい紀子。そんな彼女に、亡き夫の「親」である周吉が、その無頓着を肯定するのです。新しい男(ひと)を見つけてもええよ、と。そして、亡き妻の形見を、血縁でもない紀子に無頓着に授けます。そうして、夫の死の呪縛から開放された紀子の涙。これが、感謝と安堵に満ち溢れていて、感動的なのです。 [DVD(邦画)] 9点(2015-05-11 01:02:19)(良:3票) |
38. 小野寺の弟・小野寺の姉
《ネタバレ》 いまいち全体的にピリっとしませんでしたねえ。掛け合いの小ネタは面白いんですが、片桐はいり演じる姉が今ひとつインパクトに欠けてるんですよね。これは演技の問題ではなく(もちろん見た目の問題でもなく)、シナリオとかキャラ設定の問題と考えます。冒頭のモノローグで弟が「これまで姉を殺したくなったことがあった」と語るから、さてその姉とやらはどれほど傍若無人で唯我独尊な人物なのだろうとハードルがあがったのですが、これが思ってたよりおとなしい人物で。確かに多少は弟を使って自分勝手もするものの、「殺したい」という衝撃的なワードから期待させられたほどのキャラクター性には及んでいないんですね。弟を旦那と偽ったり、強制的にカナ後禁止ゲームを始めたりする程度だと、まだ「お茶目」の領域と感じます。それゆえ、いざ女性らしさが垣間見えたとき、「ギャップの魅力」に脂が乗り切らないのもなんだか惜しい。脱ぎ散らかさられた靴を揃えたり、弟の料理下手が対比になって家庭的な一面が浮き彫りになったりしても、「普通にいい人じゃん」程度に思えてしまいます。一応恋愛ドラマなので、姉の女性的、家庭的な一面を見せ方が重要と思えるだけに、もうちょっとメリハリが欲しかったですかね。 [DVD(邦画)] 5点(2015-05-07 00:25:18) |
39. 女子ーズ
《ネタバレ》 いいですねえ。笑いました。怪人との戦闘の真っ最中に女子トークを展開するシュールさを免罪符にして、特撮はチープなCGや演出で許してもらおうとするセコさ・・・いやこれは強かさというべきでしょう。そのチープさも狙ってやってるんだか、予算上マジで作ってアレだったんだかちょっとよく分からんけども、その分からなさも含めて、あの持ち前のシュールな空気感に絶妙にマッチしてたと思います。映写機の佐藤二郎・オン・ステージっぷりもまた見事。「素」が溢れ出るような怒涛の演技は、女子ーズたちの魅力とは完全に独立した可笑しさがありました。まさしく独壇場です。尺持っていき過ぎです。主役の女子ーズたちですが、忘れがたきはやはりイエローこと高畑の演技ですね。皆さんそれぞれの魅力がありましたが、イエローのボソっと言うようなツッコミの自然さ・鮮やかさは頭ひとつ抜けてました。素晴らしかったですね。ちなみに、レッドが仕事を優先して初めて戦闘をサボったとき全員から責められてましたが、少なくともブルーとネイビーは人のこと言っちゃいけませんよね。お前らだってまつげと野暮用を理由に休んでたじゃねえか。けどまあ、そういうところも含めて、ふふっと笑える良作でございました。「チャン・グンソクに似てる時点でイケメンじゃない」は名言。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-06 15:20:43)(良:1票) |
40. ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1
長いのに小粒というアンビバレンツな作品。「ヴォルデモートとの最終決戦」という一本のドラマの前半を2時間強の尺を使ってぶっとく描かれるのかと思いきや、じっさいは小さなトラブルが発生してそれを解決して…という流れの繰り返し。一応全体には「ヴォルデモート討伐」という明確な目的が根底を貫いているはずなのだけど、終始寄り道ばかりしているような調子。この締りのなさが、大作っぽい雰囲気と凡作っぽい雰囲気を兼ね備えてしまっている原因でしょう。なじみのキャラが死んでしまったりもするけど、殺されるシーンが描かれることはなく、なんと「○○は死んだ」とセリフのみでの処理。こういうところもなんとも締りがないですね。ただアイテムを探して冒険するRPG的なシナリオは言うほど退屈しませんでした。ヴォルデモートを討伐するのに必要な条件やアイテムが判明したときの爽快感は、ストーリーの流れを変える役割も果たしており、技法的にもかなり適った展開であったと考えます。 [DVD(字幕)] 5点(2015-01-31 14:12:58)(良:1票) |