21. 西部戦線異状なし(1930)
《ネタバレ》 戦争の本質をストレートに描いた名作。トーキー始まって数年後の作品だが、教師が生徒に愛国心を説くシーンは無声映画の表現を感じさせ迫真性がある。戦闘シーンも優れたカメラワークで臨場感があり、リアルな迫力に満ちている。 初めて観た時は蝶に差し出した手の動きに作品のメッセージを感じたが、今回改めて観賞すると、行軍する兵士一人一人が振り向く時の不安そうな、あるいは何かを訴えかけるような表情が墓標と重なるラストシーンに心が動いた。見事に青年たちの内面をとらえ、蝶のシーンとともに印象深いものであった。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-02-11 13:53:31)(良:1票) |
22. トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男
第二次世界大戦後の冷戦を背景とした赤狩り“ハリウッド10”の実態を赤裸々に描く。表現の自由を守るため赤狩りに対峙し、激しく闘った闘士・トランボ像は予想外だった。 映画人の思想的な立場が興味深く、記録映像やネット情報で既知の部分もあり、J・ウエインのタカ派ぶり、K・ダグラスの硬骨漢ぶりなどは想像どおり。戦場に行かなかったJ・ウエインに対し、トランボが皮肉交じりに言い返すシーンが痛快だ。公聴会で証言を拒否しても仕事ができるトランボに対し、顔で勝負するE・G・ロビンソンが証言せざるを得なくなる立場もよくわかる。 赤狩りを推進したH・ホッパーの暗躍がいやらしい。ブラックリストに載った人たちの苦悩はいかばかりだったかと思う。その当時、日本でもレッド・パージがあったと職場で聞いたことがある。 B級映画の製作会社キングブラザース幹部の方針を聴いて、かつて海外のドキュメンタリー番組で三流とみなされた映画の監督が語った言葉「俺たちも『市民ケーン』を作ろうと思えば作れるが、そんな映画を作る気はない」に通じる気概を感じた。負け惜しみとも思うが一理ある。 議論好きで理屈っぽい共産主義者の一面が、良くも悪くもリアリティに満ちている。反面、生活のためもあり仕事に没頭して赤狩りに対決するトランボの姿勢が、家族との対話不足に陥り軋轢を生むのは皮肉なこと。家族との葛藤も描かれているがややあっさりの印象。特に夫人の苦悩は並大抵のものでないと思うので若干物足りない。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-01-28 16:56:30) |
23. 宇宙大怪獣ギララ
松竹の珍品怪獣映画。わが“風の神”和崎俊也、軽妙洒脱な柳沢真一、昼メロで名を馳せた園井啓介、“レ・ガールズ”原田糸子のキャストに加え、歌もボニー・ジャックスや倍賞千恵子を動員する豪華さ、というよりバラバラ感いっぱい。おまけに、いずみたくの音楽はテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」予告を想起させる。 ギララの登場シーンは、ゴジラやガメラの初登場場面に比べ緊迫感が不足で見劣りする。造形は割と好きな方だが動きに重量感がないのは惜しい。女性隊員2人の活躍は時代の先取りを感じさせて良かったが・・・ [インターネット(邦画)] 4点(2024-01-14 18:05:15) |
24. いちご白書
1968年に起きたコロンビア大学の学生運動をモチーフに、体制に反抗する若者たちを描いた群像劇。「平和を我らに」の合唱シーンが学生同士の連帯感を感じて心に残る。また、警官隊突入後の阿鼻叫喚は臨場感があって出色。 サイモン役B・デイヴィソンは「ウィラード」などを先に観たせいか線の細い役者という印象だったが、本作は学生運動に苦闘する姿を繊細ながら骨太に演じ、いい意味で印象が変わった。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-12-24 14:09:56) |
25. ミクロの決死圏
人体をめぐるセンスオブワンダー。広大な宇宙の果てと同様、ミクロの先の先は宇宙そのものの世界観がいいね。その視覚化に挑戦し、アドベンチャーを通じて医療とスパイとSFの融合が程よい。タイムリミットのハラハラ感も秀逸。 医療チームの縮小は、今の視点でみれば内視鏡(潜航艇ならぬカプセル型が実現)やカテーテルなど、高度医療のメタファーと言える。 現代の映像技術と比較して古さを指摘してもアンフェアであり、むしろわかりやすさに重点をおいた映像化は高く評価できる。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-12-10 22:23:13)(良:1票) |
26. 遠い空の向こうに
実話を基に、宇宙を目指しロケット製作に熱中する少年たちを描く。何度も失敗を繰り返しながら目標に向かう主人公は、多くの失敗の上で発明・発見を成し遂げた先人の姿に重なる。ロケット打ち上げが成功した後、どこに落下?と思えば山火事発生。ぬれぎぬを着せられた少年たちが方程式で原因を探る展開が面白い。 ライリー先生や母親の理解がいいね。斜陽産業の石炭採掘で地中深く潜る父親と、未来に向け遠い空を目指す息子という対比の妙。青春映画として、家族の映画としての魅力だけでなく、社会性も織り込んでいる。ロケット失敗シーンの数々を観ると、ミサイルとロケットは同じ技術だなと痛感。ロケットと称してミサイル発射、ミサイル発射して侵略、テロと“自衛”の応酬でミサイル発射・・・技術の進歩がこれか?この頃特に考える。 全米科学コンテストは優勝までの経緯があっさり描写で少々物足りない。 廃れゆくものと伸びゆくものの対照で冷徹な現実を映しつつ、家族の愛情を浮き彫りにする。ブラウン博士は偉大な人だが「僕のヒーローじゃない」つまり「ヒーローは父さんだ」と、ホーマーの心の叫びが聞こえてくる。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-11-26 16:18:28) |
27. 暴力脱獄
何度も何度も脱出しようと試みる主人公を演じるP・ニューマンは「大脱走」のマックイーンに刺激を受けたか?「ショーシャンクの空に」の監督はこの映画の影響を受けたのでは?という思いが頭をかすめる。 ベトナム戦争や公民権運動などを背景としたアメリカン・ニューシネマ前夜ともいえる時代の物語。反逆をよしとする風潮の中、権力に屈せずひたすら自由を求める主人公の動機付けが弱い。 主人公の名前がルーク(ルカ)だったり十字架にかけられたキリスト風のポーズをとったり、刑務所を舞台に反体制と結びつけて神を語られてもなんだかなあ、キリスト教を語られてもなんだかなあ、という感じ。暗喩としては安易だな。 この種の映画において、罪人の脱獄と戦争捕虜の脱走が同一視されている文章を時折見かけるが、この二つは似て非なるものだと思うよ。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2023-11-12 11:08:23) |
28. 燃える平原児
歌って踊って恋をするプレスリー映画は理屈抜きで楽しめる。本人は「くだらない映画」と思っていたとのことだが、明るく屈託のない役柄はエルヴィスにお似合いだと思う。対照的に、本作ではJ・ディーンを意識したかのような陰影のあるシリアスな演技を見せるが、これはこれで悪くない。白人と先住民の子という葛藤を抱え、反抗心を見せる複雑な青年像を手堅く演じた。 本作のように先住民を悪役視するだけでない映画がニューシネマ以前にいくつか製作されており、アメリカ映画の奥深さを感じた。最後は尻切れトンボが惜しい。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-10-29 13:21:15) |
29. メジャーリーグ
《ネタバレ》 全体的にひねりがなくあまり笑えない。選手の個性は型どおりでオーナーの思惑は予定調和的。魅力的な選手(俳優)がいなかったのも残念。 ヤンキースとの決戦は大声援で盛り上がるものの、クライマックスのバントには拍子抜け。ひと工夫した脚本だと思うが、それまでの展開からすれば見事に盛り下がり。ビッグビジネス(MLB)としてもショービジネス(映画)としても、“大ホームランを予告してバント”では物足りない。「あわや」と「万事休す」の演出が欲しいところ。 バントよりもっと起伏のある筋書き、例えば「予告通り大飛球を打ってあわやホームラン!というところで外野手が落下点で構えキャッチ・・・と思ったらポロリ落としてエラー・・・ランナーがホームイン」という展開の方が弱小球団インディアンスにふさわしい勝ち方だと思うよ。えっ、大飛球をヘディング?・・・いやいや珍プレー好プレーじゃないんだから。 日本のプロ野球で“ささやき戦術”に元大リーガーが怒ったこともあったが、メジャーでもこの映画のようにやってるのかな? [CS・衛星(字幕)] 3点(2023-10-15 17:28:29) |
30. 樺太1945年夏 氷雪の門
南に「ひめゆりの塔」あれば北に「氷雪の門」あり、か。 1945年8月、日ソ中立条約を無視しソ連軍が樺太を侵攻。ソ連の攻撃を受けた住民たちの逃避行と、最後まで通信を守ろうとした女性電話交換手たちの悲劇を描く。 旧満州では、ソ連軍によって悲惨な境遇を送った日本人たちの話がよく知られている。当時の苦難は宝田明など映画人の証言でも見聞きした。それに比べると樺太での苦難はあまり知られていないように思える。 概ね史実に沿った演出であり、樺太が地理的に戦地から離れているため当初は住民が楽観視していたことがよくわかる。次第に戦火が近づく中で葛藤する交換手を演じる女優陣の演技は当時の緊迫感を漂わせている。交換手たちも早く逃げれば済むことであるが、いざという時に使命感をみせる人はいつの世にもいる。たとえば天災の時など。 海上の戦闘シーンは特撮がしょぼくて残念。ラストの平和へのメッセージはとってつけたような印象で心に響かない。 [映画館(邦画)] 5点(2023-09-24 14:33:46) |
31. 裸の町(1948)
製作当時としては画期的なオールロケ撮影の傑作。臨場感抜群で、ニューヨークの街並みをリアルに捉えたセミ・ドキュメンタリータッチが光る。 警部役B・フィッツジェラルドの安定感、若手刑事役D・テイラーのやや頼りなげな初々しさ。このコンビの捜査ぶりに加え、若手刑事の私生活も描いて映像に血を通わせており、人間味ある映像にまとめた演出はフィルム・ノワールにおける類型を確立した。ウィリアムズバーグ橋での撃ち合いに代表される縦構図等、立体感のあるカメラワークも秀逸。 「裸の町には800万通りの物語がある。これはその中のひとつだ」と語るラストのナレーションが印象深く、大都会・ニューヨークを見る視線が鋭い。 [インターネット(字幕)] 9点(2023-09-03 10:53:42) |
32. パリで一緒に
《ネタバレ》 A・ヘップバーンとW・ホールデン、1954年のオスカー主演賞コンビのコメディとして肩の力を抜いて観賞。原作にJ・デュヴィヴィエが名を連ね、T・カーティスやM・デートリッヒのカメオ出演などスタッフ・キャストが豪華。パロディ精神と遊び心いっぱいで、脚本家の仕事ぶりを見せながらの展開が楽しい。リックの役名からしてもうミエミエだね。おまけに、D・マッカーサーの名セリフ「老兵は死なず・・・」をもじって「老兵のように消える」とは恐れ入った。「完璧な人間はいない」のセリフもお馴染み。少し老けたホールデンが、オードリー相手に脚本の場面を力説してブローニュの森へディゾルブ・・・気楽に観られるものの、どこでパロディが現れるか気が抜けない。 理論派気取りの俳優役カーティスが笑わせる。感情移入や自己陶酔、品のなさとメチャな言葉遣いを批判という、ヌーベルバーグやニューヨーク派に対するハリウッドの対抗意識をちょっぴり味付け。N・リドルの洒落た音楽も結構でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-08-20 20:45:14) |
33. 片目のジャック
M・ブランドの監督・主演作。初見は吹き替えだったが字幕で改めて観るとブランドの演技の特徴が垣間見えた。内容は悪くなかったが、ぼそぼそ喋るセリフ回しに違和感を覚えた。吹き替えでは全然知ることができなかったこと。リアル志向のメソッド演技で注目を浴びた彼の演技かもしれないが観客は置いてけぼり。 日本映画含め、原語で聴いているとセリフの聴き取れないことがなんと多いことよ。そんな時は自国の映画でも字幕をつけたらどうかと思うことさえある。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-07-23 16:33:32) |
34. さらば冬のかもめ
《ネタバレ》 寒々とした光景(雪景色)と対照的な3人の友情を描くロードムービー。軍隊がもたらす人間性の変調に対する視線が暖かい。とはいえ中身は、ごく常識的な市井の人たちに対し自分らにとって都合よければの内向きの暖かさ。J・ニコルソンはホント、ちょい悪オヤジが良く似合う。だから嫌いだよ。 ハンバーガーのチーズとろりや半熟卵の要求はクレーマー養成か?ちょい悪水兵バッドアスに共感なし。居酒屋のマスターのように3人の友情のとばっちりを受ける人たち・・・思いは彼らに向く。 他人に迷惑かけておきながら「オレたちしっかり友情してるぜ」感が滲み出て後味の悪い映画だった。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2023-07-09 14:41:20) |
35. 牛泥棒
《ネタバレ》 冤罪をもたらす群集心理の怖さを描いた西部劇。後味の悪い結末であるが問題意識をはらんだ佳作。 冒頭の、何もなくつまらない街という自虐的な意識が伏線となり、つるし首を数少ない娯楽として楽しむ集団リンチへと繋がる。 付和雷同による私刑は、多くの西部劇でひとつのエピソードとして語られるが、本作ではこの問題に焦点を当てている。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-06-25 16:24:40) |
36. グッドモーニング,ベトナム
《ネタバレ》 まず「グッドモーニング、ベトナム」と朝っぱらから大声で語りかけるトークが不快。かつてNHKの朝ドラで朝から大声でわめくドラマがあったが、あの不快感を思い出した。DJは面白ければよいのか?この種の人物像における唯我独尊的な性格に嫌悪感を覚える。「M★A★S★Hマッシュ」と同じにおいがしたなあ。アメリカンジョークの連発もあまり笑えない。 主人公が破天荒ぶりを発揮するたび、逆にこちらの反骨心が湧いてくるというもの。命を懸けた戦場で機密情報厳守は常識だろう。DJひとりに機密解除を勝手に判断されたら上司はたまったもんじゃない。 さんざん米軍を笑いものにしながら少女には真摯な対応かよ。英語の授業で汚い言葉を教えたはずなのにトリンとの会話では二人とも妙にまとも。そのくせ中指立てはキッチリ覚えてるってか? 最後まで気分は乗らなかったが、60年代音楽が不快感を多少中和してくれたかな。 [CS・衛星(字幕)] 1点(2023-06-11 13:44:37) |
37. ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
第二次世界大戦中、イギリスを率いてドイツ軍と戦った典型的な“有事の宰相” チャーチルの物語。平時に向かないことは終戦後の総選挙で敗れたことが示している。人間的に好かれないことが大きな要因かなと感じる「人間チャーチル」演出は好意的に評価したい。 気になるのはジョージ6世の描き方。「英国王のスピーチ」ではドイツに対し毅然と対決の演説だったが、本作では途中で思いを変えたか初めは融和的な姿勢にみえる。どっちが本当? 地下鉄に初めて乗り、一度庶民から意見を聞いただけで戦争への決断を下すのは安易な演出で都合がよすぎる。また、ナチスとの対峙においてアメリカの存在が重要なはず。ルーズベルトとの電話1本で終わりじゃ物足りない。もっと貴重なエピソードが盛り込まれてもよかったのでは? [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-05-28 20:42:52) |
38. 地球の静止する日
不思議だな。今の時代にあってもこの古典的なSF映画に価値を感じるとは。冷戦も核の恐怖も過去のものでなく現在進行形の問題であり、暴力の克服が人類にとって永遠のテーマだからだと思う。 宇宙からやって来た知的生命体の警告という形を通じて、いつの世も変わらぬ人間の本質を描いている。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-05-14 17:39:55)(良:1票) |
39. 白鯨
優れた映画文学と言いたくなる秀作。実写と特撮の融合が見事で、白鯨の巨大さ・重量感に圧倒される。暗い画面での特撮が迫力アップに効果的。 公開当時はG・ペックをミスキャストと論じる向きもあったと聞くが、半ば狂気ともいえる執念の荒々しいエイハブを、彼は的確に演じたと思う。スターバックの理性とエイハブの執念のせめぎ合いが物語に奥行きを与え、スターバックさえ最後はエイハブに同調するという、人間の持つ魔性が深い。 白鯨とエイハブが互いに引き寄せ合い、最後は一体化する顛末に自然への畏怖が感じられる。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-04-30 19:55:01) |
40. キネマの神様
映画づくりを通して描いた人生賛歌。映画界の内幕話をさりげなく散りばめている。女優のトイレ難は福本清三氏の著書にも書かれており、世間一般でも似たような話を聞いたことがある。 飲んだくれでギャンブル好きの主人公はステレオタイプだが、沢田研二はハチャメチャぶりが足りない印象。逆に寺島しのぶは演技を少し抑えた方がよかった。宮本信子は二人の思いを受け止める夫人役を手堅く演じた。全体的に、家族愛の物語としてはちょっと弱いかな。 コロナという時事も絡めながらいかにも山田洋次らしい演出。スクリーンから抜け出した園子とゴウのシーンはF・キャプラのテイストだね。映画のスタッフが映画を観ながら死ぬ展開は、かつてテレビ「相棒」で同じようなシークエンスがあったことを思い出す。 腹を壊しピーゴロゴロでゲーリー・クーパー・・・懐かしい。かなり前に職場で先輩が話していたネタだね。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2023-04-16 19:31:49) |