401. バカヤロー! 私、怒ってます
《ネタバレ》 第1話は相楽晴子演じる主人公が恋人からダイエットを命じられる話だが、相楽晴子がそんなに太ってるふうには見えないからかちょっと話に無理があるように思うし、伊原剛志演じる恋人にも今から見ればこんな男、どこがいいんだと思わなくもないが、渡辺えり子が監督を手がけているというのがきいていて、それを思うと妙におかしい。でも、もし、主演まで渡辺えり子だったら自虐的すぎて見るに絶えない代物だったかもしれないのでやはりこのキャスティングで良かったのだろう。主人公とその家族が家で食卓を囲んでいるシーンがいかにも脚本を担当した森田芳光監督らしかったのが印象的だった。第2話は中島哲也監督の担当で、この話を目当てに本作を見たのだが、やはり「下妻物語」や「嫌われ松子の一生」のような強烈さはないものの、歌を歌いながら帰宅する主人公にどことなく川尻松子の面影を見ることができるし、早くも中島監督の女優の魅せ方のうまさを感じることもできる。今まで気にも留めなかった主演の安田成美がとても魅力的で印象に残り、朝ドラ主役を途中降板した女優というイメージしかなかったのだが、なんか今までとイメージが少し変わりそう。(四半世紀以上前の映画なのに。)話自体はたいしたことないのだが、本作の中ではこの話がいちばん印象に残った。第3話はタクシー運転手にとっては切実な話で、今見るとこの話がいちばんリアリティーが感じられる話のように思う。タクシーの乗客のひとりとして成田三樹夫が出ていたのはちょっとサプライズだった。最後の話は堤幸彦監督の担当で、英語のできない会社員がシカゴに出向することになり、英語の勉強に悪戦苦闘する姿を描いているが、本作の中ではいちばん中途半端に感じる話であまり面白くない。でも、それも堤監督らしいと思えるのがこの監督のすごいところか。全体としては見る前にはもっと退屈するのではと思っていたが、4話とも時代を感じる部分がさすがに多いものの、そこまで退屈するほどでもなく最後まで見れたのは良かった。でも、当時これがシリーズ化されていたことにいちばん時代を感じる。こういうのがウケル時代だったのねと。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2014-11-02 23:11:49) |
402. 狙撃
《ネタバレ》 加山雄三といえば若大将シリーズであるが、本作ではそれとはまったく違う主人公の孤高のスナイパーを演じている。少し不安もあったが、冒頭の新幹線の標的を狙撃するシーンからストイックでカッコよく、雰囲気もよく出ていて、なかなかはまっていて良かった。それに東宝としても三十路を迎えた加山雄三のイメージを一新させたかったのか若大将シリーズでは絶対に見られないヒロイン(浅丘ルリ子)とのラブシーンがあったりするのも新鮮に感じられる。(シーン自体はヘボかったけど。)それだけでなく登場する銃器や車もカッコよく、それらにあまり詳しくない自分が見てもつい見とれてしまう。後半に登場する主人公を狙う森雅之扮する初老のスナイパーもカッコよく、(セリフが極端に少ないのがまた良い。)クライマックスの海岸での1対1の対決シーンも見ごたえじゅうぶんで、ラストの余韻の残し方も良い。正直、見る前にあまり期待はしていなかった映画だったのだのだが、とても面白く、隠れた傑作を見たような気分で見終わることができたので見て良かったと思う。ただ、少し不満を言わせてもらえれば、主人公とヒロインが出会ってすぐに惹かれあっているように見えること。もう少しこの二人の惹かれあう過程を丁寧に描いたほうが良かったと思う。それに土人の扮装で踊ってるシーンは完全に浮いていて意味不明でハッキリ言って無いほうが良かった。面白い映画だっただけにその二つだけはちょっと残念。 [DVD(邦画)] 7点(2014-10-30 15:03:44) |
403. 刑事コロンボ/死の方程式<TVM>
《ネタバレ》 今回の犯人は化学エンジニアで、冒頭暗室で爆弾を作るシーンはなかなか期待させられるものがあるのだが、ロディ・マクドウォール扮する犯人の性格が子供じみていて犯行後も挙動不審な態度や行動をとるので、倒叙形式でなくても犯人は見ていてすぐに分かるような感じなのがちょっと残念。でも、頭のいい化学エンジニアの犯人の性格が子供じみているという設定は面白かった。「猿の惑星」で彼が演じたコーネリアスの吹き替えといえば山田康雄というイメージがあるのだが、本作では野沢那智が吹き替えを演じている。その吹き替えもテンションが高く、「汚れた超能力」でも犯人の吹き替えを演じていたが、それ以上にハマっていて、それが今回の犯人 ロジャーのキャラクターをより強烈なものにしていて(本人は少々やりすぎたと言ってたみたいだけど。)、話としては正直それほど面白いものではないのだが、このおかげでロジャーはとても個性的で印象に残る犯人になっていて、彼を見ているだけでも楽しい。(原語版だと印象がまた違うのだろうけどどんな感じなんだろう?)このシリーズ多くの作品でコロンボは高所恐怖症というのが強調されているが、ラストで動いているロープウェイの中で犯人を罠にはめていたのがそれだけに印象的だ。すべてを看破されたあとのロジャーの高笑いも余韻を残す終わり方でけっこう好きなエンディングだった。しかし、コロンボとロジャーの対決はだいぶ物足りず、もう少し見どころが欲しかった。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2014-10-25 15:28:24) |
404. あの手この手(1952)
《ネタバレ》 まだ東宝に在籍していた市川崑監督が大映に出向いて手がけた作品で、事実上、市川監督の大映での第1作となる。夫婦が突然家出してきた姪に振り回されるさまを描いているが、森雅之と久我美子ということでのちに川島雄三監督が東宝で手がけた「女であること」を思い出すが、印象としては小津安二郎監督の「淑女は何を忘れたか」に近いコメディタッチの映画で、それには及ばないものの、気軽に楽しむことができた。なんといってもアコちゃんのキャラクターが強烈かつコミカルで、それでいて可愛らしく、とても魅力的で、演じる久我美子はいつもは少しきつめのイメージのある女優なのだが、それをまったく感じさせておらず、こんな娘なら自分が振り回されてもいいかと思えるほどだ。彼女の恐妻家のおじを演じる森雅之もどこか茶目っ気があり、とくに妻を呼ぶときの「奥さん、奥さん」というセリフが可愛らしく、それがまた笑える部分でもあり、こんな芝居も違和感なく演じてしまうところに名優らしさが感じられる。久我美子のヒット作である「また逢う日まで」のパロディーシーンはまだ本家の作品を見ていないながら楽しく、このシーンには市川監督の余裕さも感じられた。ところで、森雅之はのちに出演した市川作品である「こころ」や「おとうと」でも作家の役だったが、父親が有島武郎であることからキャスティングされたのかなと想像してみたりできて面白い。 [DVD(邦画)] 7点(2014-10-23 18:28:03)(良:1票) |
405. 真夏の方程式
《ネタバレ》 「ガリレオ」劇場版第2作。前作「容疑者Xの献身」ほど陰湿ではなく、湯川(福山雅治)も主人公らしい描かれ方をされていて、前作よりは今回のほうが安心して見ていられる。しかし、テレビドラマの劇場版ということを感じさせていなかった前作に比べると、やはり物足りない出来で、今回も前作同様にテレビシリーズとは違う方向に持っていこうとしているのは分かるのだが、前作と違ってテレビドラマの劇場版という感じになってしまっているのは前作が良かっただけに残念だった。ストーリーの軸となっているのがそれぞれに秘密を抱えた家族であるが、この家族全員が身勝手なだけにしか見えず、とても感情移入できる代物ではないし、予告でうたわれていた家族愛もとうてい感じられない。中でもなにも知らない小学生の甥っ子を殺人事件の共犯に仕立ててしまう旅館の主人は最低で、本当に家族を愛しているならたとえ甥でもそんなことはしてはならないと思うし、そんな男の口から家族を愛している云々の言葉を語られても説得力がなく、薄ら寒さを覚える(演じるのが善良な役柄の多い前田吟というのもイメージと違うような気がする。)し、むしろ、この家族よりも小学生にして重い荷物を背負わされてしまった少年の今後が心配になってしまった。冒頭に描かれる殺人が節子による犯行だと思わせておいて成美の犯行だったのはうまいミスリードだと思うが、被害者の女(西田尚美)がどんなにイヤな女に描かれていても演じる西田尚美にはおっとり・のほほんとした親しみやすいイメージがあり、この役を演じるには無理があるように思う。見るからにイヤな奴を演じてはまる女優ならほかにいくらでもいるだろうに。この成美の殺人だけは少しは分かる部分もあっただけにこの配役はちょっと残念だった。と、けなしてばかりだがいいところをあげれば子供が苦手な湯川が小学生の少年と触れ合うという設定は面白いし、ペットボトルロケットを飛ばすシーンはほのぼのとしていて良かった(ここだけは本当に夏休みのファミリー映画のノリ。)し、近年の朝ドラヒロインふたりの共演も楽しい。それに撮影をたけし映画も担当する柳島克己が担当しているためか青い海や空の美しさが際立っていてとても印象に残る。少し甘めだが、これらに免じて6点を。最後にもう一つだけ、ガリレオシリーズの残る長編「聖女の救済」は本作の前に連ドラの中で映像化されたが、それよりも本作のほうが映画よりもテレビ向けだった気がする。もし、映画でなくテレビドラマとして映像化されていたら、物語の印象はもっと違うものになったかもしれない。 [DVD(邦画)] 6点(2014-10-17 01:40:16)(良:1票) |
406. 刑事コロンボ/意識の下の映像<TVM>
《ネタバレ》 ロバート・カルプが「指輪の爪あと」、「アリバイのダイヤル」に続いて三度目の犯人役を演じるエピソード。犯行に気づいた映写技師までも射殺してしまうという非情さもあり、彼が演じた犯人の中ではいちばん残虐性を感じさせる。最初の殺人はサブリミナル効果を用いて被害者を外に出させ、射殺するという手の込んだものだが、ラストにコロンボがそれと同じ方法で犯人を外に出させるという解決シーンは、鮮やかかつ皮肉が利いていて見事なこのシリーズでも印象に残る結末で、辛いキャビアやフィルムに挟んだコインなど細かいところに目をつけるコロンボや、犯人とコロンボの対決も見ごたえじゅうぶんでこのシリーズらしさがよく出た作品になっていて面白かった。今回、コロンボは犯行に使われた口径の銃を探すのだが、口径変換機というのはやや現実離れしている反則技と思うものの、同じく銃の隠し場所がポイントとなる「ホリスター将軍のコレクション」と比べると説得力があり、強引さも感じつつも納得させられる。ただ、ほかの人も書かれているが、細かいことを言えば犯人はあんなところで殺人をやってもし誰かに見られたらどうする気だったのだろうとか、証拠をいつまでも同じ場所に隠しっぱなしというのはちょっと違和感を覚えた。頭がキレるインテリ犯人だっただけにそこはどうしても気になってしまい残念。でも、出来としてはじゅうぶんに満足できる作品だった。 [CS・衛星(吹替)] 7点(2014-10-13 16:56:10) |
407. 刑事コロンボ/ロンドンの傘<TVM>
《ネタバレ》 今回はコロンボが出張先のロンドンで殺人事件に遭遇する海外ロケ編で、いつもとは雰囲気の違う作品になっているが、もうこの頃にはこのシリーズは世界的に人気が出ていたのかな。犯人夫婦の殺人が故意ではなく過失によるものだが、あれだけで死ぬか?とついつっこんでしまったし、ラストの解決シーンもやっぱり強引。今回は舞台のロンドンをコロンボが観光するシーンが長く、犯人夫婦との対決よりもこちらがメインのようにうつってしまっているのもちょっと残念で、約100分のノーカット版を見たのだが、やや冗長に感じ、もう少し短くてもいいのではと思った。でも、コロンボと地元のダーク刑事部長とのやりとりは面白かったし、異国で捜査をするコロンボというのも新鮮だった。(でも、けっこうそこが本作のつっこみどころだったりするわけだけど。)ボンドガールを演じたことのある女優が犯人役に起用されているのもロンドンが舞台ということでそれを意識してるところがあるのかもしれないなあと思わずにはいられなかった。その吹き替えの岸田今日子の声もインパクトがあり、印象に残る。 [CS・衛星(吹替)] 5点(2014-10-09 16:23:43) |
408. ドラゴンボールZ 神と神
《ネタバレ》 前作「最強への道」を見た時にはまさか出るとは思っていなかった新作劇場版。「帰ってきた若大将」が同窓会的ノリの映画だったのと同じように本作もやはりかつて原作やテレビアニメ、劇場版を見ていた世代が懐かしい友人たちに会うための同窓会映画になっていて、殺伐とした雰囲気はなく、ほのぼのとしたコメディタッチの作風で、Zの劇場版というよりは初代に近いような印象なのが本当に懐かしい。敵であるビルスとウイスが完全悪という存在ではなく、最後も悟空が勝てないまま終わるというのはファンからは賛否両論あると思うけど、個人的にはこういうのもいいなあと思う。「最強への道」では出番を丸ごとカットされてしまっていたピラフ一味が登場していて、この三人の登場が本作の中でいちばん懐かしかった気がする。必死にビルスの機嫌を取って穏便に帰ってもらおうと振る舞うベジータのキャラ崩壊はなんとも滑稽で、ふだんとのギャップが笑える。ただ、ドラゴンボールがビンゴの景品になっていたのはおいおいという感じ。来年もう一作劇場版が製作されるらしいけど、平和な話だっただけに本作の続編とかだったらちょっとイヤかも。神龍の声は内海賢二が演じているのも懐かしいのだが、彼が出演した劇場アニメとしては最後の作品で、洋画吹き替えの最後の出演作である「007 慰めの報酬」新録DVDと合わせて昔から彼と縁のあるシリーズ作品が最後だったのは本人にとっては良かったのかもしれない。 [DVD(邦画)] 6点(2014-10-07 11:08:16) |
409. 劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日
《ネタバレ》 NHKで深夜番組として放送されているSF歴史番組の劇場版。テレビ版はながら見する程度なのだが、それでもわりと好きな番組だったりするので、取りあえずこの映画版も見てみた。紛失した茶器をめぐる話で、メインの戦国時代だけでなく1985年や1945年にもタイムスリップするあたりは劇場版ならではのスケールで、いつも一人で取材をしている主人公・沢嶋雄一(要潤)に相棒・細野ヒカリ(夏帆)がいるのもテレビ版と違っていて新鮮。しかし、テレビ版ではエピソード自体の主人公はそれぞれの回に登場する取材対象者で、カメラを向ける沢嶋はあくまで狂言回し的な存在という印象があるだけに、途中から普通のテレビドラマのように沢嶋やヒカリが画面に登場するのはなんか違う。後半にふたたび戦国時代の取材対象者(時任三郎、上島竜兵)たちと行動を共にし始めても普通に沢嶋とヒカリの姿が画面に登場し、登場人物の一部として溶け込んでしまっているのはシリーズの趣旨とはずれてしまっているし、二人が未来的ないでたちなのも相まって相当な違和感を感じる。せめて戦国時代に戻ったらいつものように沢嶋がカメラを回している設定に戻してほしかった。それと、テレビ版ではタイムスリップ先の人々はできるだけ当時の言葉で会話をしているだけに1945年の戦時中のシーンで現地の人が「スパイ」という言葉を使っていたのにもちょっと違和感があった。話としてはそこまでつまらないというわけでもなく、面白いというわけでもなくという感想なのだが、劇場版ということを意識しすぎたのかあまりこのシリーズらしさは出ていなかったように思う。テレビ版には登場しないタイムスクープ社の調査員も登場しているが、局長役の宇津井健はこれが映画での遺作。映画よりもテレビ俳優として知られていたが、映画での遺作もテレビ番組の劇場版というのが彼らしいかなと思う。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2014-10-05 15:30:54) |
410. 今年の恋
《ネタバレ》 今年になって何本か木下恵介監督の映画を見ているが、シリアスな作品が続いたせいか喜劇映画はかなり久しぶりに見る気がするのだが、これがまた面白く、肩の力を抜いて気楽に見られる楽しい作品だった。「永遠の人」に続いての木下作品出演である田村正和が「永遠の人」の息子役とは違うちゃらい学生を演じているが、やはり「永遠の人」の役柄とは別人に見える。(近年の彼は何を演じているのを見ても古畑任三郎にしか見えない。)映画はこの田村正和の兄である吉田輝雄と悪友の姉であり、料亭の娘である岡田茉莉子が主演のラブコメなのだが、印象に残るのはやはりこの二人が車を走りながらの掛け合いのシーンで、その掛け合いが面白く、なんとも爽やかでロマンチックだ。ほかにも思わず爆笑してしまうようなシーンが多く、岡田茉莉子が弟を説教しているところへ両親がいちいち割って入るシーンは両親の配役の妙もありかなり笑えるし、弟たちの担任を演じる三木のり平もいい味を出している。とくに弟たちの素行の悪さについて話しているうちにいつの間にか自分の風邪が大変と言い出してしまうところなどは最高だった。それにベタではあるが、電話を使ったギャグも面白い。東山千栄子演じるばあやがこれまたいい味を出していて、雨の夜中に吉田輝雄と田村正和が寝ている寝室に入ってくるシーンには思わず笑ってしまった。ラストは大晦日の除夜の鐘をつくシーンで終わっているのがいかにも正月映画らしく、今度本作を見るときはできれば大晦日に見てみたいと思う。木下監督は一般的にはシリアスな映画で評価されることの多い監督だと思うのだけど、それだけではなくこういった軽めの喜劇もうまく、喜劇でももっと評価されていい監督だと本当に思う。とくに本作は監督自身が楽しみながら撮っている姿が想像できるような映画だった。 [DVD(邦画)] 8点(2014-10-02 16:35:41) |
411. 死闘の伝説
《ネタバレ》 終戦直前の北海道を舞台に、疎開してきた一家があることをきっかけに現地の住民たちから疎まれたことから起こる双方の対立を描いた木下恵介監督による映画。その対立を激しい暴力描写を伴って描いているのが木下監督の映画としてはかなり異色であり、とくに後半部分の登場人物たちが激しい殺し合いをはじめる展開は一見本当に木下監督の映画なのかと思うほどだが、その暴力描写のみを売りにした娯楽映画などでは決してなく、最初から最後まで重苦しい雰囲気で展開する社会派映画である。戦時中に疎開した者と疎開先の住民との確執は本作で描かれるほど極端でなくても実際にはあったことだと思うし、木下監督もそれに怒りを感じていたのだろう。(現在でも差別による対立はじゅうぶんあり得るし。)そしてそれを描くにはあえてこうするしかなかったのではと思うし、木下監督のいつもとは違った一面を見れたのも新鮮だった。木下監督らしさがまったく出ていないのかというとそうではなく、登場人物たちに戦争批判的なセリフをストレートに語らせるなどメッセージ性もある。ラストはなんとも言えない虚しさがあるが、木下監督はこの事件と戦争を重ね合わせて、人間の愚かさや争いの虚しさというものを描いているように感じられ、確かに異色作ではあるが、木下監督の信念のようなものはちゃんと貫かれていて、作風のブレは感じられない。ただ、主演は岩下志麻で脇に菅原文太が出ていて、とくに岩下志麻はまだ若手の清純派の頃なのだが、先に後年の東映映画を見ているせいかこういう暴力描写の多い映画でこの二人が共演していると木下監督の映画としてはちょっと違和感を感じてしまうのも事実ではある。 [DVD(邦画)] 7点(2014-09-28 00:23:51) |
412. 悪魔が来りて笛を吹く(1979)
《ネタバレ》 金田一ものらしいドロドロしたストーリーなのだが、明るすぎる画面からはおどろおどろしさを感じることができず、また、同時期に「西遊記」で八戒を演じていた西田敏行が演じる金田一は彼の持ち味を生かしたコミカルなキャラクター造型がされていて、どちらかといえば金田一というよりはイメージはのちに「釣りバカ日誌」シリーズで演じる浜ちゃんに近く、これはこれでアリだとは思うが、やはり金田一のイメージでは無い。(「八つ墓村」の渥美清の金田一はもし寅さんが旅先で殺人事件に遭遇したらという想定で見ていくと違和感はそれほど感じないのだが、西田敏行(浜ちゃん)の場合はそれは難しい。)映画としてもこの二つの要因のせいか、雰囲気が出ていないし、「悪魔が来りて笛を吹く」という怖いタイトルに内容が負けてしまっている。それに本作だけでは重要な部分が理解できないような構成は原作を未読でありテレビドラマ版も未見である身にはつらいものがある。金田一を先生と慕うヒロインを演じる斉藤とも子も「女王蜂」の中井貴恵ほどではないがあまり魅力を感じなかった。彼女の足を強調するようなカットが何回か出てくるが、少しあざとい。(単に監督が彼女のファンなだけ?)宮内淳が重要な役柄で出演しているが昔に再放送で見ていた「太陽にほえろ!」のボンが懐かしい。全体的に見てなんか横溝ブームの中で東映が急いで作った感のある映画だったが、同じ監督の「戦国自衛隊」よりはマシだったかな。でも、出来れば市川崑監督と石坂浩二のコンビで見てみたかった気がする。 [DVD(邦画)] 4点(2014-09-18 16:41:57) |
413. 危いことなら銭になる
《ネタバレ》 中平康監督による犯罪コメディ映画。本作に登場する主要人物4人はそれぞれどことなく「ルパン三世」のレギュラーキャラ(宍戸錠=ルパン、長門裕之=次元、草薙幸二郎=五右衛門、浅丘ルリ子=不二子)に似通ったところがあり、作風も漫画チックな喜劇で、まさにアニメをそのまま実写にしたような荒唐無稽さのある映画だが、それがとても楽しい。脚本に加わっている山崎忠昭がのちに「ルパン三世」にも参加しているというので納得したが、にせ札をめぐるストーリーというのも「カリオストロの城」をつい連想してしまった。(「カリオストロの城」の脚本にはこの人は参加していないのだが。)「あいつと私」でも思ったのだが、中平監督は本作でも登場人物たちに早口でセリフを喋らせていて、展開もスピーディーなのだが、このテンポの良さがちょうどいい感じになっていて心地よい。ラストのオチまでもいかにもマンガ的なのが最後まで作風が一貫していて逆に良かった。宍戸錠の主演作を初めて見た気がするのだが、三枚目のコミカルな役どころが意外に合っていて面白いし、ショートヘアの浅丘ルリ子が明るくて可愛らしい。いつもはクールな印象が強くこういうイメージがあまりない女優だけにこれがまた新鮮に見えた。彼女が銃撃戦のあとに死体を見て嘔吐をするというシーンは確かに邦画では珍しい気がするが、これも中平監督のこだわりのひとつなのかもしれない。にせ札を作る贋作の名人を演じた左卜全とその妻を演じる武智豊子もいい味を出していて、とくに二人で西部劇ごっこに興じているシーンはお茶目で微笑ましい。映画としてはけっして傑作というわけではないのだけれども、肩の力を抜いて気楽に見られる娯楽映画で、個人的にはとても気に入った一本だった。 [DVD(邦画)] 7点(2014-09-11 18:06:31) |
414. あいつと私(1961)
《ネタバレ》 裕次郎と芦川いづみのコンビによる石坂洋次郎原作の青春映画で監督は中平康。冒頭から登場人物たちが早口でしゃべり、テンポがよく、コメディタッチで明るく、いかにも日活らしい青春映画という感じで、見ていてけっこう楽しかった。芦川いづみをかなり久しぶりに見たのだが、やはりとてもキュートで可愛らしく、やっぱりいいなあと思うし、本作にはブレイク前の吉永小百合もヒロインの妹役で出演しているのだが、それでもやっぱり芦川いづみのほうが魅力的で個人的には好みだし、本作は彼女の視点ですすんでいくので、実質的な主人公は彼女演じるゆみ子というのも嬉しい。裕次郎も生意気できざったらしい青年役なのだが、なぜか厭味ったらしくなることなく逆に好感が持ててしまうから不思議で、このコンビの青春映画だと本当に安心して見ていられる。二人が大雨の中、木の下でキスをするシーンがとくに印象的で、なかなかの名シーンだ。日米安保反対運動が出てくるあたりは当時の時代の空気感が出ている。恋人に裏切られる友達や、裕次郎演じる黒川の出生の秘密など深刻なエピソードもあるのだが、それらをあまり深く追求しないのでドラマとしては若干の物足りなさを感じる部分もあるのがちょっと残念なのだけど、そこまで気にはならない。裕次郎のうたう主題歌がコミカルでかつインパクトがあり、矢鱈と印象に残るのだが、本作に合っているかは微妙。でも、けっしてこの歌自体は嫌いではない。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2014-09-10 00:11:50) |
415. 刺青一代
《ネタバレ》 鈴木清順監督による任侠映画。話自体はストレートな任侠映画なのだが、クライマックス、主人公(高橋英樹)の弟が殺されたあたりからはそれまでの流れとは明らかに違う鈴木清順の世界が展開され、雷の光で影が映り込む障子や、延々と続くふすまのカラフルさ、どこか舞台劇か歌舞伎を思わせる殺陣と、とにかく清順美学と呼ばれる清順監督のこだわりが炸裂していて、とくに対峙する高橋英樹と河津清三郎を真下からとらえたショットはあまりも斬新で見事としか言いようがなく、このクライマックスだけで単なる任侠映画が前衛的な芸術映画に変貌してしまっているのは本当にすごいし、「東京流れ者」もそうなのだけど、本作も清順監督のほかの監督にはないような独特の映像感覚を堪能できる映画になっていて、もうこれだけでファンならば見る価値はじゅうぶんにある映画だと思う。出演者に目をやれば主演の高橋英樹は同じ時期の日活のスター俳優たちに比べると顔立ちが濃いのでさわやかさを売りにする青春映画よりもこういう任侠映画のヤクザ役のほうが役的にハマっていたと思うし、和泉雅子の役柄も悲壮感を感じさせず、逆に明るさや可愛さが際立ったキャラクターに描かれていて、東映の任侠映画に出てくる女優ではこういうのはあまりないので、新鮮に感じたし、また、こういうところに東映とは違う日活のカラーがよく出ていると思う。親方役の山内明も良かった。しかし本作はやはりさっき書いたようにそれよりもクライマックスの清順美学を堪能するための映画だと思う。 [DVD(邦画)] 7点(2014-09-05 00:51:04)(良:1票) |
416. 血染の代紋
《ネタバレ》 深作欣二監督が「仁義なき戦い」以前に菅原文太と梅宮辰夫を主演に起用して手がけたヤクザ映画。冒頭のナレーション(小松方正)とテロップは「仁義なき戦い」を思わせていて、いよいよ実録ものの前夜という雰囲気。でも印象としてはやっぱりまだ義理人情の世界を描いた任侠映画で、菅原文太も梅宮辰夫も「仁義なき戦い」ほどの凄みはなく、インパクトも感じなかった。でも、映画はなかなか面白く、スラムをつぶしてのコンビナート建設をめぐる二つの組織の利権争いが描かれるが、本作は主人公ふたりをそのスラム出身としているところが新鮮で、これがよく利いていてドラマ性を出すのに成功していると思う。スラムの描写もリアルでうまく、メッセージ性も社会性も時代性もあり、ただのヤクザ映画にしたくないという深作監督の思いも感じられる映画になっている。ラストは東映任侠映画ではお決まりの殴り込みなのだが、このシーンが激しく、敵である渡辺文雄だけでなく、主人公ふたりも死んでしまうという壮絶な結末が深作監督らしい。いちばん最後に出るナレーションとテロップは東映任侠映画にしては異質な感じがして、後味はあまりよくないように思うのだが、こういうのも新鮮で良かった。「仁義なき戦い」シリーズに比べれば物足りないのも事実なのだが、深作監督の権力に対する怒りというものも感じられ、彼の作風はちゃんと出ている。ところで菅原文太の兄貴分役で鶴田浩二が出演しているが、ちょっと本作では浮き気味だし、それにやはり鶴田浩二は東映任侠映画では菅原文太より高倉健の兄貴分を演じているほうがしっくりしている気がする。少し甘めだが7点を。 [DVD(邦画)] 7点(2014-08-30 21:41:01) |
417. 顔役(1965)
《ネタバレ》 石井輝男監督による鶴田浩二と高倉健のダブル主演のヤクザ映画で、脚本に石井監督のほか、深作欣二監督と笠原和夫という「仁義なき戦い」のコンビが参加しているという豪華さを感じさせるパッケージの映画で、これだけでなにか期待させるものがあるのだが、実は本作は当初は深作監督が笠原和夫の脚本で手がける予定だったものだが、脚本でもめて(このときもめた二人が後年、「仁義なき戦い」で一世を風靡するのだから世の中分からない。)深作監督が降板、かわって石井監督が脚本を手直ししててがけたもの。話としては笠原和夫らしい見ごたえのありそうな感じなのだが、石井監督が好き放題やってしまったという感じで、どこかカルトめいていて変な映画という印象があるし、脚本にも不備を感じる。高倉健が劇中で「網走番外地」の主題歌を歌っているのはご愛嬌かもしれないが、これだけで本当に「網走番外地」シリーズの一本を見ているような気にさせられるのはちょっと違和感があるし、クライマックス近くで健さんの恋人である孤児院の職員(三田佳子)が夜中に孤児院でピアノを弾きながらこの歌をうたっているのもシュールで、これがシリアスなクライマックスの緊張感を若干削いでいるような気がする。佐久間良子演じる鶴田浩二の妻が目が見えないという設定がまったく生かされておらず、むしろその設定は空気と化している。最初の脚本ではどうなっていたのかが気になってしまった。ほかにもいろいろツッコミどころが多く、脚本段階での混乱ぶりがうかがい知れる。でも、そういうツッコミどころの多いところも含めて見る前に思ったより楽しめたのは事実。しかし、やはりもっと普通にやってもよかったのではと思ってしまうのもまた事実ではある。高倉健や鶴田浩二、それに天知茂はいつものようにカッコ良かったし、まだお竜さんを演じる前の藤純子もかわいらしい。撃たれた後にパンを食べながら死ぬヤクザは思わず笑ってしまった。印象に残るシーンがないというわけでもなく、鶴田浩二が詰めた指を親分が「こんなものは鳥の餌にもならない」と突き返すシーンはとくに印象に残る。でもやっぱりこの映画、あまりおすすめはしないな。 [DVD(邦画)] 5点(2014-08-21 17:58:45) |
418. 日本暗殺秘録
《ネタバレ》 桜田門外の変から226事件までの日本の暗殺テロ事件の歴史をオムニバス形式で描いた東映のオールスター大作。描かれる9つの事件はそれぞれを題材に個別に映画化していてもじゅうぶんに見ごたえがありそうなボリュームを感じるのだが、それをオールスターのオムニバスでやってしまったところがいかにも東映らしい企画で、東映だからこそできた映画だろう。最初の20数分間にダイジェスト的にひたすら暗殺シーンを描いているが、普通なら単調になってしまうような構成でも勢いがあり、それをほとんど感じさせないのがいい。その中で印象に残るのはやはり高橋長英主演のギロチン社事件のエピソードで、冒頭の土手で友達に自らの思考を話すシーンや、最後のシーン、死刑台に向かうときの独白がどこかこの主人公 古田大次郎の切なさが感じられて良かった。そして本作のメインエピソードである千葉真一主演の血盟団事件。このエピソードだけはたっぷりと時間を割いて描かれており、単なる見世物的でなく、主人公 小沼正の生き様を描いた人間ドラマとしても見ごたえのあるエピソードだ。小沼を演じる千葉真一は「仁義なき戦い 広島死闘篇」の大友役で、狂犬のようなキレた演技が印象に残っているが、それから4年前の作品である本作ではそれとは逆の繊細さもある青年役を演じていて新鮮だし、この小沼も大友と同じくハマリ役だと思う。「広島死闘篇」で北大路欣也が演じた山中を最初は千葉真一が演じることになっていたというのも本作の小沼を演じる千葉真一を見ればよく分かるし、もし演じていたらどんな山中になっていただろうとつい思ってしまった。その小沼の同志である藤井を演じる田宮二郎はこれが大映を解雇されたあとの初出演映画だそうだが、やはり存在感があり、熱演を見せていて素晴らしく、その熱演に本人のやっと映画に帰ってこれたといううれしさも垣間見えた。それからお竜さんとはまったく違う印象を残す藤純子も良かった。最後の226事件のエピソードが途中まで白黒というのもドキュメンタリーチックで効果的だった。主人公を演じる鶴田浩二が年齢的にちょっと無理のある青年将校の役だが、きっちりとハマっていて、存在感があり、ヤクザ映画でのカッコ良さとは別のカッコ良さがある。そして、死刑を待つだけの仲間たちが入った牢を横切るときの演技がなんともいえず、その鶴田浩二に一人ずつ声をかける仲間たちにも切なさを感じずにはいれない。このシーンはまさに名シーンだろう。全体的に見るとちょっとオムニバスとしては不満があるのも事実なのだが、骨太な力作で、見終わったあとはじゅうぶん満足できる映画だったと思う。 [DVD(邦画)] 7点(2014-08-15 23:57:23) |
419. ひとり狼
《ネタバレ》 村上元三がなかなか映画化の許可を出さなかった原作を雷蔵主演で映画化した股旅時代劇。雷蔵の股旅ものはあまり見た記憶がないが、こういうアウトローな役柄を演じていてもピッタリとハマっているし、カッコいい。それに雷蔵念願の企画だけあって、本作の雷蔵がそうとうこの役に入れ込んでいるのが分かり、その演技は素晴らしいの一言で、この前見た「眠狂四郎 女地獄」と同じく雷蔵にとって晩年の主演作だが、本作はその雷蔵晩年の代表作とも言っていいのではないかと思う。映画としても見ごたえじゅうぶんで長門勇演じる渡世人(これがいい味出してる。)の回想形式でストーリーが展開していくという構成がいいし、主人公 伊三蔵の渡世人としての悲しみや孤独がうまく描かれていてドラマ性も高く、作り手の良い映画を作ろうという意気込みがよく感じられる傑作である。前半で渡世人の作法を細かく描いていたのも新鮮だった。(ほかに今まで見た時代劇では市川崑監督の「股旅」くらいしか思い浮かばない。)印象に残るのはやはり伊三蔵が自分の息子と話すシーン、実子を前に父親と名乗ることのできない伊三蔵の辛さには思わず感情移入せざるを得ない。それにラスト、伊三蔵が息子にいう「見ろ!人間の屑のすることを。」というセリフがなんとも切なく、心に残る。 [DVD(邦画)] 8点(2014-08-08 00:04:31)(良:1票) |
420. 原爆の子
《ネタバレ》 人類史上初めて原爆が落とされた街 広島。その広島出身の新藤兼人監督がGHQの日本占領終了直後に放った広島原爆をテーマとした反戦映画。原爆で家族を失い、今は瀬戸内海の小島で教師をしている主人公 石川孝子(乙羽信子)が、あの日原爆に遭って生き残った教え子たちを訪ね歩くというストーリーなのだが、まだあれから七年しか経っていない広島で実際にロケをしていることもあり、いくらか復興しているとはいえ、原爆の傷跡がまだまだ残る広島の街はここにあの日原爆が落ちたということをリアルに物語っていて生々しく、この街の風景を見るだけで考えさせられるし、つらい。孝子が訪問したその日に原爆症で死んでしまう教え子の父や、少女が教会でもはやいつ死んでもおかしくない状態で横たわっているシーンは原爆が投下直後だけでなく、その後何年にも渡って身体を蝕んでいくという恐ろしさが伝わってきて切なく、胸が締めつけられる思いがした。新藤監督は広島出身の作家としてどうしても原爆投下間もない広島の現状をこの映画で描きたかったんだと思うし、新藤監督の原爆や、戦争、そして故郷への思いが伝わってくる。真夏の太陽の下で元気に遊ぶ子供たちも印象に残るのだが、この子たちに未来を託すという新藤監督の強い願い、戦争のない平和な世の中への願いが込められている気がしてならない。それはこれからの未来を生きるすべての人たちへの普遍的なメッセージなのだと思う。そしてそれは戦後69年経ち、新藤監督自身が亡くなった現在でも決して変わることはないだろう。被爆して間もない広島が舞台ということでも歴史的価値のある映画だが、そんな監督の普遍的なメッセージを発信し続ける映画として、これから先もずっと残っていくべき映画なのだと思う。 [DVD(邦画)] 9点(2014-08-01 02:13:03)(良:2票) |