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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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401.  ハンター(2011) 《ネタバレ》 
絶滅種タスマニア・タイガーを仕留めろと命じられたあるハンターの物語と聞かされた時には「え?そんなものが映画になるの?」と不安に感じたのですが、それは無用な心配であり、意外にも本作は真っ当な映画として成立しています。父親のいない家庭があって、その家庭は好戦的な他の住民とのトラブルを抱えていて、そこにやってきた流れ者が用心棒兼父親として家を守るという筋書きは、まさに王道のウェスタン。観ていて「なるほど、これがやりたかったのか」と納得がいきました。ハンターと一家の交流は丁寧に描写されているし、対する他の住民達の悪辣ぶりもなかなかのもので、このドラマにはかなり引き込まれました。同時に、両者の対立構造は一面的ではなく、開発と環境保護という大きなテーマを観客に投げかけている点でも見応えがあります。さらには失踪した父親の謎の絡め方も良く、非常に端正なシナリオだと感じました。また、これを支える演技も素晴らしく、ウィレム・デフォーは生涯最大の当たり役ではないかという程ハンター役にハマっています。彼の相手となる子ども達の演技も非常にナチュラルで、子役特有のわざとらしさやイヤらしさをまったく感じさせられませんでした。。。 と、前半パートは良い感じに進行していたのですが、後半になると映画は突如として方向転換をします。前半の問題が何らの解決もしないまま一家は退場させられ、同時に憎まれ役だった住民達も映画から姿を消してしまいます。代わって、会社から送り込まれた他のハンターとの戦いや、タスマニア・タイガーとの出会いが描かれるのですが、前半のドラマを断ち切る形で後半パートが開始されるので、この構成には大きな違和感を覚えました。ラストに主人公がとった行動も分かったような分からんような微妙なものだったし、後半パートはまるで楽しめませんでした。前半のドラマを貫徹すればウェスタンの傑作になっていた可能性もあっただけに、謎の方向転換が悔やまれます。
[DVD(吹替)] 6点(2012-09-15 14:33:51)
402.  デビル(2010) 《ネタバレ》 
本作は、シャマランが書き溜めてきたアイデアを若手クリエイターが映像化する「ザ・ナイト・クロニクルズ」の第一弾。これまでシャマランは自分のオリジナル脚本を他人に委ねることがなかっただけに、本作の出来がどうなるのかは気になっていたのですが、幸いなことにこの試みは成功しています。。。 内容は「お天道様は見ていますよ」といういつものシャマラン映画なのですが、若手クリエイターの力によって、これまでとは一味も二味も違う作品に仕上がっています。従来シャマランが不得意としてきた悪人の描写が充実し、サスペンスホラーとしての奥行きがしっかり出来ているのです。シャマランは悪人よりも善人の描写に力を入れる監督なのですが、一方、本作の監督を担当したジョン・エリック・ドゥードルは善人にほとんど関心を示していません(ラストでは善人に救いがもたらされるのですが、その救いをほとんど描かずにさっさと映画を切り上げてしまうという有様)。それに代わって「正常に見えていた人間が、実は悪人だった」という点の描写に力を入れたため、サスペンス映画としてちゃんと面白くなっています。。。 本作の構成は独特で、オカルトと犯罪ミステリーという相反するはずの二つの要素が食い合うことなくうまく共存しています。犯人は悪魔であることがはっきりしているのに(そもそも、タイトルが『デビル』だし)、その前提でもなお犯人探しのミステリーを成立させてしまった脚本力・演出力には脱帽なのです。抜群の発想力・構成力を持っているものの、監督としての引き出しの少ないシャマランと、勢いのある演出はできるものの、ともすれば緻密さに欠ける若手クリエイターが、お互いの短所を補完しあうことで作品を完璧なものとしたようです。本作は興行的にも成功した様子なので、「ザ・ナイト・クロニクルズ」の第2弾にも期待です。
[DVD(吹替)] 7点(2012-09-14 15:09:50)
403.  アニマル・キングダム 《ネタバレ》 
何やら野蛮で騒々しそうなタイトルからは『デビルズ・リジェクト』な一家が暴れ回る犯罪アクションを想像したのですが、実際の内容は静かな実録ドラマでした(本作は、1988年に発生した警官射殺事件をベースとしている)。ギラついたバイオレンス描写はほとんどなく、代わりにあるのはジリジリとした圧迫感。監督は本作がデビュー作ということで、間延びしすぎた描写や、逆に説明不足の場面も散見されるのですが、それでも締めるべき部分はガッチリ作り込まれているし、悪い余韻を残すラストもテーマと合致しており、本国で絶賛されたことにも納得がいきます。。。 アニマル・キングダムを仕切っているママと長男、とにかくこの二人の造型が素晴らしすぎます。全身にタトゥの入りまくった次男、完全にDQN顔の三男と比較すると、長男のルックスはかなり地味。犯罪者というよりも普通の中年男性なのですが、その狂いっぷりは次男・三男を怯えさせるレベル。彼は精神疾患を患っているために世界が歪んで見えているようで、極端な被害妄想を抱いたり、異常な攻撃性を示したりします。『グッドフェローズ』のジョー・ペシもそうでしたが、あからさまな狂人よりも、基本的には一般人と変わりないのだが、いくつかの点で異常性が見受けられるキ○ガイの方が遥かに恐ろしく感じます。一方、アニマル・キングダムを内助の功で支えるママは、キ○ガイに見えて実は頭脳プレーを得意とするという、長男とは正反対のキャラクター。息子達への溺愛ぶりには『デビルズ・リジェクト』のママにも通じる狂気が感じられるのですが、いざ一家が危機に陥れば、巧みな戦術や人脈を駆使した裏工作で生存の道を模索します。その思考は至って冷静。一時は警察側についていた孫のジョシュが一家の側に寝返った時点で、ジョシュは長男ポープに復讐する腹だということを彼女は見抜いています。ポープは愛する息子であり、母としての心情ではその生存を望むのですが、その一方で凶暴性に歯止めの利かなくなったポープは一家存続のために切らざるを得ない存在。そこで彼女は、三男の救出を最優先として長男ポープの殺害を容認し、情よりも利を取るという決断を下すのです。一家の愛憎が入り乱れるこのラストは非常に素晴らしく感じました。
[DVD(吹替)] 8点(2012-09-09 14:18:06)(良:1票)
404.  顔のないスパイ 《ネタバレ》 
『ウォンテッド』や『3時10分、決断の時』の脚本家、マイケル・ブラントの監督デビュー作。これまで優れた脚本を書いてきたブラントが、自分の手で監督したいと思った渾身の作品だけあって、本作の脚本はかなり魅力的です。ポールの正体を早々に暴いて観客の視線をポールに集中させておいて、第2のトリックを密かに仕込んでおくという周到な構成には恐れ入りました。また、男性映画の傑作『3時10分、決断の時』の脚本家だけあって、男の友情物語としても非常に優れた物語です。残念なのは、監督としての腕前がまだまだ不十分で、脚本の魅力を十分に引き出せていないこと。プロの監督に委ねていれば目の覚めるような傑作になる可能性もあっただけに、結果としてB級アクションに終わってしまった点は惜しいと感じました。
[DVD(字幕)] 6点(2012-09-09 14:15:08)
405.  セットアップ 《ネタバレ》 
どうやら監督は『ヒート』や『ザ・タウン』レベルの犯罪ドラマを目指していたようなのですが、その試みは完全に失敗に終わっています。裏切りにより敵同士となった元親友というドラマティックな構図をとってはいるものの、役者のパワー不足によってこのドラマは本来持つべき熱を持っていません。主人公が裏切り者を追い掛けるうちに3つの犯罪組織が入り乱れるという厄介な事態へとエスカレートしていくものの、これについても監督が意図したような面白さには至っておらず、すべてが不完全燃焼。また、この手の映画を見慣れている人であれば、マフィア同士を撃ち合わせているうちに主人公が脱出を図るという展開を予想しますが、本当にその通りになってしまうという捻りのない脚本には落胆させられました。さらには、高尚な作品に仕上げるべく見せ場は最小限にとどめられており、ドラマはつまらない、アクションは少ないと、いいとこなしの映画に。全米では劇場公開が見送られDVDスルーとなったようなのですが、そんな扱いにも納得の一本でした。
[DVD(吹替)] 3点(2012-09-09 13:58:52)
406.  恋の罪 《ネタバレ》 
公開時には3人の女性の物語と宣伝されていましたが、実質的な主人公は神楽坂恵演じるいずみ。夫から女性扱いされず人生の目的を見失っていたいずみが、生の実感を求めて新たな行動を起こしたことから地獄を垣間見る前半部分はなかなか楽しめたのですが、完全にイっちゃった後半は何がなんだかでした。自分の女房を主演にしてここまで激しいことをさせるのだから、この監督は特殊な感性をお持ちなのだと思います。凡人の私では付いていけない部分が多々あって、2時間半という長尺はちょいと厳しく感じました。。。 と、全体としてはイマイチだったのですが、才気あふれる監督による作品だけあって、部分的には魅力的なものもありました。特に興味深く感じたのは美津子といずみの関係性。いずみと初めて対面した時、美津子は「この世界に足を踏み入れるな」と言っていずみを突き放すのですが、いずみから旦那の名前を聞かされると、それまでの態度を翻して彼女はいずみを受け入れました。このやりとりの意味がわかるのはクライマックス近く。いずみの旦那も愛欲の世界にどっぷりと浸かっており、美津子はいずみに”戻る場所”がないことを悟ったからこそ、彼女は地獄の案内人役を引き受けたのです。登場人物達の運命を分けたのは、この”戻る場所”の存在でした。美津子は母親から憎まれており、彼女にとって家は戻る場所ではありませんでした。美津子の母親は、表面的には「血筋が悪い」と言って美津子を疎んでいるのですが、実のところは愛する夫を娘である美津子に奪われたために、殺したいほど娘を憎んでいます。大方斐紗子による怪演も手伝って、老いてなお燃え上がる女の情念には圧倒されました。一方、”戻る場所”の存在によって何とか踏みとどまったのが、水野美紀演じる和子。ラストは曖昧なようですが、よくよく考えれば監督の言いたいことははっきりとしています。一心不乱に走っているうちに家から遠く離れてしまった和子が、「どこにいるのか?」と聞かれて「わからん」と答えるラスト。「わからん」とはその場所に違和感を覚えていることを表しており、この後彼女は愛する夫と娘の待つ家庭に戻ることが推測されます。。。 この映画はドロドロでグロテスクなのですが、込められたメッセージは意外とポジティブ。愛とは厄介なものだが、愛する人との関係性を間違えていなければ、意外と何とかなるもんだと言っているようです。
[DVD(邦画)] 6点(2012-09-08 19:00:23)(良:2票)
407.  ヒア アフター
イーストウッドの映画は冗長である、そんなことを思い出させられた一作でした。『クィーン』『フロスト×ニクソン』でアカデミー賞にノミネートされた経験を持つピーター・モーガンによる脚本は悪くないのですが、なんせ演出が冗長で眠くなります。『ミスティック・リバー』から『グラン・トリノ』までの6作がいかに奇跡的な完成度だったかを思い知らされました。
[DVD(吹替)] 5点(2012-09-05 23:31:34)
408.  ジョン・カーター
3D版ブルーレイにて鑑賞。2億5千万ドルというタダ事ではない製作費がかけられているだけのことはあって、映像の迫力は圧巻でした。家庭での鑑賞ながら3D効果も十分に味わうことができ、イベント映画としての体裁はきっちりと整っています。ただし、ファンタジー映画としての出来はかなり悲惨なものです。世界観に魅力がないので火星文明に対する興味を掻き立てられず、”ヘリウム”だの”ゾダンガ”だのという用語の飛び交うセリフがバカバカしく聞こえてしまいます。そもそもの問題として、登場するマシーンやクリーチャーのデザインがあまりにアニメ寄りでカッコ悪すぎます。この手の映画で”カッコ悪い”は致命傷ですよ。おまけに、火星におけるジョン・カーターの戦力描写も一定のものとなっていません。数百人の敵を一人で相手にしたり、巨大な岩を振り回したりというとんでもない力技を披露したかと思えば、数人の火星人によって簡単に拘束されたりもする。主人公の力量が不明確では、観客は戦いに手に汗握ることはできません。 本作の映画化企画はなんと1931年から存在しており、それ以来、映画化を試みては挫折するという展開を何度も繰り返してきたハリウッド念願の作品。それがこの程度の出来では寂しすぎます。前述した巨額の製作費に加えて、宣伝広告費や上映用フィルムのプリント代を考慮すると、本作の赤字は2億ドルにものぼるとか。当初は三部作を予定されていたようですが、続編が作られることはまずなさそうです。
[ブルーレイ(吹替)] 3点(2012-09-03 01:25:47)(良:1票)
409.  プロメテウス 《ネタバレ》 
IMAX3Dにて鑑賞。初挑戦ながらリドリー・スコットは見事に3D技術を使いこなしており、3D料金を払う価値のある映像に仕上がっています。この辺りの柔軟性、技術に対する積極性は、さすが巨匠といったところです。。。 本編もまた、良くも悪くもリドリー・スコットの映画でした。とにかく映像美は完璧で、VFXの使い方も完璧。『アベンジャーズ』でコテコテのCGを観た直後だっただけに(あれはあれで楽しいのですが)、ロケーションとVFXが違和感なく融合し、あたかもそこに存在するかのような映像のリアリティには驚かされました。『ブレードランナー』以来30年ぶりのSF映画ですが、この監督のセンスはまったく衰えていません。その一方で、脚本はかなり適当。『エイリアン』の登場人物が7人だったのに対して本作の登場人物は17人に増やされているのですが、不要な人間が何人もいます。特に要らないのが科学者グループで、専門性を発揮することもなくただワァワァ騒いでいるだけ。肝心の研究・調査は同行したロボットがたった一人で進めているという有様であり、これならば科学者グループを丸ごと切ってしまい、代わりにプロメテウス号の操縦クルーを主人公にしてしまった方が映画全体のまとまりが良かったように思います。創造主に会えば寿命を延ばしてもらえると思ったウェイランド社長や、せっかく育てた人類文明を滅ぼそうと考えたエンジニアの行動原理は理解不能であり、これらについてはより突っ込んだ説明が必要だったように思います。製作スケジュールに余裕がなかったためか、スコットは映像表現に全精力を注いで物語は二の次・三の次としているようです。ジェームズ・キャメロンのような完璧主義者とは違い、ある程度のところで割り切ってしまう適当さがスコットらしいと言えます。。。 人類の起源とエイリアンを結び付けようとするそもそものアプローチが、個人的には好きではありません。「出会ってはならない二つの種族が出会ってしまったことによる悲劇」というオリジナルシリーズのアプローチの方がしっくりきます。
[映画館(字幕)] 7点(2012-08-26 01:28:24)(良:2票)
410.  アベンジャーズ(2012)
IMAX3Dにて鑑賞。この映画の3D効果は非常に素晴らしく、IMAX料金に3D料金も加算されて二人で4,400円というえらい入場料を取られたものの、それだけの価値のある体験はできたと思います。。。 単独主演作のなかったキャラクター達にまず見せ場を持たせ、続いて主役格のヒーロー達に各々ド派手な再登場シーンを与える。この序盤の構成だけでワクワクさせられました。オタクの神様ジョス・ウェドンは多くのキャラが入り乱れるこの物語を愛をもって丁寧にまとめ上げており、その仕事は驚異的と言えます。また、各キャラに対して均一に見せ場を与えるというサジ加減も絶妙。雷神ソーやハルクと比べると、凡人をムキムキにしただけのキャプテン・アメリカなんてのは圧倒的に見劣りするヒーローなのですが、そんなキャップにもかっこいい見せ場がちゃんと与えられているのです。ドラゴンボールで言えば、サイヤ人達が入り乱れる中でヤムチャや天津飯にも活躍の場が与えられているという状態であり、それを思えば、この映画の脚本がいかに優れているかがわかります。。。 と、キャラクターものとしては素晴らしい作品ではあるのですが、キャラクターの交通整理に終始して映画全体としてはイマイチだったように思います。原作がそうだから仕方ないとは言え、ヒーロー達の仲間割れが延々と続く中盤の展開はめんどくさかったし、クライマックスの大バトルはパラマウントが昨年製作した『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』を下敷きにしていることがモロバレとなっています。世紀の超大作を謳う割にはサプライズが少なく、やや拍子抜けさせられました。。。 この映画が不幸だったのは、日本公開が全世界同時公開から3か月も遅れてしまったこと。もちろん世界最遅公開。このタイムラグで自分の中では熱が冷めてしまい、お祭り騒ぎに参加するという心境で鑑賞することができませんでした。もし熱狂の中で観ていれば、前述した欠点も「見過ごすべき小さな問題」として捉えられていたかもしれないと思うと、この手のイベント映画には鮮度が重要であるということを再認識させられました。2015年の公開が予定されている『アベンジャーズ2』ではそこんとこよろしくお願いしますよ、配給会社のみなさん。
[映画館(字幕)] 7点(2012-08-25 02:18:50)(良:1票)
411.  ペイド・バック 《ネタバレ》 
 イスラエル映画のリメイクということなのですが、オリジナルはDVD化すらされておらず日本国内で鑑賞することはできないようです。モサドが民族の敵を抹殺に向かうという『ミュンヘン』と似たような話であり、硬派な雰囲気も『ミュンヘン』譲り。かつて、『恋におちたシェークスピア』でスピルバーグとオスカーを競ったジョン・マッデンが監督を担当しているのですが、本作ではオスカー監督らしい卓越した手腕を披露しています。また、『X-MEN/ファースト・ジェネレーション』でX-MENを007にしてみせたマシュー・ヴォーンが脚本に参加した成果か、スパイ映画としてのディティールも整っています。一方で、ユダヤ人の被害者ナショナリズムや、元ナチスは殺されて当然の人間のクズというステレオタイプな描写は相変わらずで、こちらにはやや辟易とさせられるのですが、それでも映画としては面白く作られていて、最後まで楽しむことができました。。。 本作の最大の見どころは、若年スパイチームと老練の元ナチスとの心理戦。スパイチームは序盤こそ首尾よく作戦を遂行し、ターゲットである元ナチスの拘束に成功するものの、あるトラブルがきっかけで準備されていたシナリオが破綻すると、経験不足ゆえの柔軟性のなさと若さゆえの弱さを一気に露呈します。そして、彼らに監禁された元ナチスは、この隙を突いてきます。スパイチームは20代の若者3人、対する元ナチスは初老の男性が1人で、しかも手足を縛られ目隠しをされているという圧倒的に不利な状態。しかし彼は悪魔のような冷静さと鋭い洞察力によってスパイチームを精神的に疲弊させ、優劣を逆転させてしまうのです。とにかくこのやりとりにスリルがあって、派手なアクションがなくともスパイ映画は成立するということを本作は見事に証明しています。。。 全米公開時には高く評価された本作も、その地味な作風が祟ってか日本ではDVDスルー。おまけにジャンルを勘違いさせるような邦題を付けられるという不遇な扱いを受けていますが、見逃すには惜しい良作です。
[DVD(吹替)] 8点(2012-08-18 21:22:11)
412.  電人ザボーガー 《ネタバレ》 
私が産まれる以前の作品なので、オリジナルは未見です。ウルトラマンでも仮面ライダーでもないほぼ忘れ去られていたヒーローを復活させるという企画に関心を持ったので鑑賞しました。。。 ザボーガー登場からテーマ曲までの演出は完璧。バカバカしくもカッコいいヒーローものの醍醐味をわずか数分で再現しており、鳥肌が立つほど興奮させられました。しかし、そこからはグダグダ。終始くだらないギャグでお茶を濁していて、ただの一度も映画が引き締まることがないのです。映画中盤においては、それまでΣ団を倒すことこそが正義だと信じてきた大門に迷いが生じ、そのために愛するミスボーグとザボーガーの両方を失うという劇的な展開を迎えるのですが、その場面すら真剣に描かれていないという有様。失意からもぬけの殻となっていた中年大門が、わが子との出会いによって再びガッツを取り戻すという後半部分に至っては完全にコントとなっており、この映画は演出のやり方を根本的に間違えています。。。 この映画、必要な駒は揃っています。70年代風の雑なデザインを引き継ぎながらも、適度な修正を加えてピカピカな姿で蘇ったザボーガーは充分にカッコいいし、CGと実写を組み合わせた変形シーンは驚くほどスムーズです。若き日の大門を演じた古原靖久はコメディもアクションもできて、おまけにダサイ決め台詞も様になっているという奇跡の逸材だったし、山崎真実と佐津川愛美は女優としてかなり恥ずかしい役柄ながらこれを全力で演じていて好感が持てます。大量のイベントを捻じ込みながらも終始スムーズにまとめられた脚本の質も高く、スタッフ・キャストは素晴らしい仕事を披露しています。だからこそ、根本的に方向性を間違えた演出が残念で仕方ないのです。。。 そんなことを考えながら映画を観ていたのですが、エンドクレジットで流されるオリジナル版の映像を観てビックリしました。オリジナルは本作以上にバカバカしいのです。70年代の子供向け番組なので大した作品ではないだろうとは思っていたのですが、ラストで目撃した光景はそんな予想をも遥かに下回るトンデモないものでした。リアルタイムで観ていた世代は、子供心にも「これは変だ」と感じていたはず。ならば本作のわざと外した演出もあながち間違っているとは言えず、これはオリジナルを観ていないと映画の評価はできないなと思いました。よって無難に6点。
[DVD(邦画)] 6点(2012-08-16 10:19:42)(良:3票)
413.  ヒミズ 《ネタバレ》 
古谷実による原作は未読。古谷氏といえば『行け!稲中卓球部』の作者として知られていますが、常に楽しいこと、面白いことを要求されるギャグ漫画家は精神を病むことが多いらしく、例に漏れず古谷氏の書く物語も相当病んでいます。『稲中』の次に発表した『僕といっしょ』などはギャグ漫画の体裁をとりながらも家庭崩壊や自殺などのテーマを扱っており、本作『ヒミズ』はそれらをより直球で表現した作品なのだろうと思います。。。 本作に登場するのは不登校児、ホームレス、精神異常者、スリ、ヤクザと普通ではない人たちばかり。世の中に確かに存在してはいるが、私たち"普通の人々"が見ないようにしている人たちです。これらの人々が繰り広げるドラマには何やら圧倒的なパワーがあって、脂の乗り切った園子温監督の手腕を存分に味わうことができました。その一方で、観ている間はこの映画が何を言いたいのかを掴みきれず、物語との共感の接点を見出すことができなかったこともまた事実。監督が東日本大震災のイメージを持ち出した理由もわからず、奇人たちのドラマをただ傍観するのみでした。。。 しかし、ラストシーンでようやく監督の意図が理解できました。犯した罪を償うために警察へ向かう住田に対して、茶沢が叫ぶ「夢を持て!」というセリフ。これは序盤に登場した教師のセリフのリピートなのですが、序盤では空虚に感じたこのセリフが、一転してラストでははっきりとした意味を持ちます。大きな苦痛と苦悩を経て、それでも前へ進もうと決意した者の口から発せられる「夢を持て!」というセリフの、いかに重いことか。これこそが、東日本大震災を経た日本に対して監督が贈ったメッセージだったようです。平時においては毒にも薬にもならないこの励ましが、今の日本には本当に必要とされているのです。。。 演技のレベルは総じて高く、ヴェネチアでの高評価も納得です。ただし、10代の男女がここまでの熱演を披露したことは痛々しくもあります。園子温は役者を徹底的に追い込み、真っ白になったところで役柄を注入するという演出方法をとっているのですが、10代の男女がこの方法でコッテリと絞られたんだと思うと、かなり気の毒な気持ちにさせられます。
[DVD(邦画)] 7点(2012-08-14 20:32:30)(良:1票)
414.  エンジェル ウォーズ
既存コンテンツをピカピカに作り直すことで成功してきたザック・スナイダーが、はじめて挑んだオリジナルストーリー。今回は自ら脚本も執筆しており、並々ならぬ意気込みで製作された本作なのですが、完成した映画はかなり独特。面白いと判断するか、そうではないと判断するかはまさに紙一重であり、実際、劇場公開時には興行的にも批評的にもかなり苦戦しました。とはいえ新しい試みに対して拒否反応は付き物であり、かつて『フィフス・エレメント』や『V・フォー・ヴェンデッタ』がそうであったように、時とともに評価は安定していくタイプの映画だろうと思います。。。 かく言う私も、最初の見せ場である鎧武者との対決にはポカンとしてしまいました。アクションとは物語の中に存在してこそ盛り上がるものであり、文脈から切り離された所で派手なアクションを見せられても感情がうまく乗っからないのです。しかし、映画を見進めていくことで徐々にこの映画の鑑賞方法が分かり、それからは素晴らしいアクションの連続を楽しむことができました。本作の製作にあたって、監督は『ムーラン・ルージュ』からの影響についてしばしば言及しています。つまり、これはアクション映画というよりもミュージカル映画に近く、本作におけるアクションはミュージカル映画における歌と同様の位置づけにあるようです。それまで普通に喋っていた人が、感情の高ぶりとともに突然歌い出すというミュージカル映画でお馴染みのアレを、本作ではアクションに置き換えているのです。。。 ザック・スナイダーにとっては物語すらその圧倒的なイマジネーションの枷となっていたようで、ミュージカルの手法を採り入れることでその制約から解き放たれた本作の見せ場は圧倒的な迫力と面白さに溢れています。これは駄作と切って捨てるには惜しい完成度であり、今後本作を受け入れる人が増えればいいなと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2012-08-14 20:28:07)(良:1票)
415.  マシンガン・プリーチャー
『マシンガン・プリーチャー』…直訳すると機関銃牧師。この直球勝負のタイトルに加え、『300』で古代筋肉バカを熱演したジェラルド・バトラー主演と来れば「どんなクソ映画が飛び出すんだ」とワクワクしてしまいますが、内容は実に中途半端でガッカリしました。。。 女房にストリッパーをやらせて一家を養わせ、自分はバイクと麻薬に夢中というホワイトトラッシュの鑑のような男が本作の主人公。この男がキリスト教の力でエクストリーム改心するのですが、改心した途端に建設業で一発当てます。ほんの数年で一財産築いた彼は「この幸せをみなさんにもお裾分けしなきゃ」とボランティア精神に目覚め、内線が続くスーダンの子供達を救おうと奮闘します。しばしば虐殺が起こり、銃弾も飛び交う危険な地でありながら、彼にはまったく弾が当たらない!従軍経験のないただのガンマニアでありながら、地元民兵との戦闘では常に勝利を収める!神に守られているとしか思えない彼は、いつしか子供達の守護神となるのでした。。。 一応は実話という触れ込みの本作ですが、ワンマン経営者特有の「どうも話を盛ってるっぽい感」がプンプンしてきます。当の監督自身もこのインチキ臭い話に乗り切れていない様子で、そのことが映画の出来を中途半端なものにしています。監督を担当したマーク・フォースターは医師の父と建築家の母を持ち、身内にはドイツ赤軍メンバーもいるという、いわゆる進歩的な一家に生まれた文化人です。この来歴から察するにこの人は宗教というものを信じておらず、そのため物語の要となる「信仰」という部分を完全に茶化して撮っています。主人公が教会で熱弁を振るう様などは完全にカルト宗教の扱いでした。おまけに、ヨーロッパ人である監督は、どこにでもズカズカと入り込んで「俺が俺が」と出しゃばるアメリカ人を冷ややかに見ており、主人公の活躍をかっこよく撮ろうという意思がまったく感じられません。そのため本作はドラマの面でもアクションの面でも成功しておらず、かといってバカに徹しているわけでもなく、妙に気合の入ったジェラルド・バトラーの雄姿のみが空回りするという結果に終わっています。
[DVD(吹替)] 4点(2012-08-13 01:22:05)(良:1票)
416.  デビルズ・ダブル -ある影武者の物語- 《ネタバレ》 
イラク戦争後に暴露されたフセイン一族の悪行三昧は戦勝国によるネガティブ・キャンペーンである可能性を否定できないし、おまけにこの原作を書いたのは亡命中のラティフ本人なので内容の客観性にも疑義があり、実話という触れ込みの本作についても話半分のつもりで鑑賞したのですが、それでも映画としては面白く仕上がっています。後述の通り脚本にはアラがあるのですが、安定した演出によってドラマとしてもサスペンスとしてもアクションとしてもそれなりにまとめられているのです。本作の演出を担当したのはリー・タマホリ。『007/ダイ・アナザー・デイ』を大ヒットさせたものの、続く『トリプルX/ネクストレベル』と『NEXT』が連続して失敗し、おまけに女装姿で売春(買春ではない)しているところを囮捜査官に逮捕されるという前代未聞のスキャンダルによってハリウッドから干された人物なのですが、ヨーロッパ資本を得ての5年ぶりの監督復帰作にして、相変わらず水準以上の腕前を披露しています。主演のドミニク・クーパーの演技も素晴らしく、観客が一目で判別できる程の高いレベルでウダイとラティフを演じ分けています。なぜ彼が、いかなる演技賞をも受賞できなかったのかと不思議になる程です。。。 問題があるのは脚本で、無難にまとめられてはいるものの、焦点を当てるべき対象を間違えたために意図した物語にはなりえていません。脚本家が夢中になったのはウダイによる悪行の数々なのですが、この物語の主人公はウダイではなくラティフです。掘り下げるべきはラティフの苦悩だったはずなのに、これが意外と適当に流されています。例えば、家族に危害が及ぶからと影武者役を渋々引き受けていたラティフが、家族を見捨ててでも国外へ逃げようと決意した心変わりの背景の描き込みが不足しているのですが、このために後半の展開に感情移入できないという事態が発生しています。一度は国外へ逃亡したラティフが復讐のためにイラクへ戻るという展開にしても、ラティフの心情の描き込みが不足しているために作り手が意図した程のカタルシスを観客に与えるに至っていません。
[DVD(字幕)] 6点(2012-08-12 03:52:22)
417.  トータル・リコール(2012)
濃厚コッテリだった『トータル・リコール』が薄味のラーメン屋みたいな味に。バーホーベン版を神格化するつもりはありませんが、それでもこのリメイクは失敗だったと思います。CGがほとんど使い物にならない時代に製作されたバーホーベン版には驚くような見せ場がいくつもあったのに、一方で技術的な制約のなくなった時代に作られたはずの本作にはインパクトのある場面がひとつもありません。コロニーは『ブレードランナー』、UFCは『マイノリティ・リポート』の世界そのままだし、劇中に登場するテクノロジーは『アイ、ロボット』で見たようなものばかり。レン・ワイズマンは『アンダーワールド』でも『クロウ/飛翔伝説』のパクリをやってアレックス・プロヤスから苦言を呈されていましたが、本作においてはより露骨な形でこの人のオリジナリティのなさが現れています。さらに罪深いのは、これだけ他作品のパクリをやらかしながら、肝心のバーホーベン版からの影響は皆無に等しいということ。小ネタで義理立てはしているものの芸術面でのリスペクトはまったくなく、そこまで『トータル・リコール』に関心がないのであれば、別の映画を作るべきだったと思います。。。 以上のようなSF映画としての欠点に加え、本作はアクション映画としても面白みに欠けています。見せ場の連続なのに手に汗握らないという娯楽映画の末期症状に陥っており、2時間の連続活劇としてうまく機能していないのです。こちらについても、泥臭くとも訳の分からん勢いだけはあったバーホーベン版とは正反対の仕上がりであり、スタジオは監督の人選を間違えたように思います。。。 役者についてですが、芸達者なコリン・ファレルは無難に主人公を演じており、このグダグダの映画をうまく乗り切っています。ジェシカ・ビールは個性に欠け、いてもいなくても大差のない存在感。ただ一人ネジの飛びまくった熱演を披露しているのがケイト・ベッキンセールで、かつてシャロン・ストーンとマイケル・アイアンサイドが演じた役柄を一人で引き受けたという気負いから過剰な演技に走っているのですが、これが笑ってしまうほどおかしくなことになっていてラジー賞ノミネートは確実ではないかと思います。これを撮っているのはこの人の旦那なんだなぁと思うと何ともカックンな気持ちになり、他人の家のホームビデオを見せられているような居心地の悪さを感じました。
[映画館(字幕)] 4点(2012-08-11 01:30:09)(良:1票)
418.  戦火の馬
 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』以降四半世紀に渡り、いかにして悪趣味描写を娯楽作に持ち込むかという難題に勝手に挑戦し続けてきたスピルバーグですが、本作ではついに悪趣味を卒業し、かつての健全な娯楽映画に回帰した内容としています。同時に製作した『タンタンの冒険』も同様の趣旨でしたが、そちらは初のアニメ作品ということもあってやや失敗した感がありました。しかしスペクタクルの巨匠スピルバーグ、実写では外しません。90年代以降のスピルバーグ監督作品としては間違いなくNo.1の面白さであり、この人は映画を撮るのが世界一うまい人であることを再認識させられました。。。 主人公は馬。ディズニー映画のように人間の言葉を喋ることも、誰かがその気持ちを代弁することもなく、本当にただの馬を主人公とした映画なのですが、この馬のキャラがきちんと立っていることに驚かされます。擬人化の名人スピルバーグが久しぶりにその腕前を披露したわけですが、演技部門でオスカーにノミネートされてもよかったんじゃないかと思うほど馬が素晴らしすぎます。そんな馬を囲む人々も基本的には良い人ばかりで、良いドラマを観たなぁという気持ちを存分に味わわせてくれます。。。 最近仲良くしているピーター・ジャクソン(第一次大戦オタク)に影響されてか、本作の舞台は第一次世界大戦。これが実に独特な戦争で、初期には職業軍人による伝統的な騎馬戦が主流だったものの、後期には大量破壊兵器と大人数の素人兵士がその主役となり、開戦時と終戦時とではまるで違った様相を示すこととなった戦争でした。大量破壊兵器の登場とともに、かつての戦場には確かに存在していた「戦いの美学」というものが失われ、戦争はただの殺し合いとなったわけですが、本作はそんな時代背景をきっちりと内容に反映させています。当初は軍馬として大事に扱われていたジョーイが、後には交換可能な運搬手段としてこき使われることとなるのですが、戦場における人道のあり方と主人公の扱いを丁寧にリンクさせている脚本には感心しました。。。 不満点を挙げるならば、ヨーロッパ人が当然の如く英語を喋る点と、ドイツ帝国が一方的に悪者にされている点でしょうか。ユダヤ人弾圧のあった第二次大戦ならともかく、三国同盟と三国協商のどちらに正義があったのかについて議論の割れている第一次大戦においてこの扱いは無神経であると感じました。
[ブルーレイ(字幕)] 9点(2012-08-10 17:43:31)(良:1票)
419.  メランコリア
『メランコリア』とはズバリ鬱病のこと。重度の鬱病を患う天才監督による鬱病をテーマにした映画ということで、大変興味深い仕上がりとなっています。。。 この映画はかなりシンプルな構成となっており、ラース・フォン・トリアー監督作品としてはわかりやすい部類に入るのではないでしょうか。第1部で描かれるのは、結婚式という人生の一大イベントの中で奇行を繰り返す鬱病患者の姿。第2部で描かれるのは、人類滅亡という狂気の日を迎え、完全に理性を失ってしまう一般人の姿。第1部における主人公ジャスティンの姿にはかなりイライラさせられるのですが、第2部との対比によって鬱病患者の置かれた状況がよく理解できるという面白い構成となっています。。。 鬱病患者にとっては狂気の世界こそが日常であり、普通の人たちの輪の中に入れられ、普通に振る舞うことを強要されるということは激しい混乱を生むようです。愛する花婿と二人っきりの冒頭では幸せいっぱいだったジャスティンですが、大勢の客人の前に引きずり出されるとその笑顔は曇ってしまいます。家族が良かれと思って設けた宴なのですが、状況は彼女の許容範囲を完全に超えてしまっていたのです。結果、制御不能となったジャスティンは奇行を重ねるのですが、それは彼女に無理を強いた周囲に責任があったはず。にも関わらずすべての人から責められたのはジャスティンであり、愛する花婿も、生き甲斐だった仕事も失ってしまいます。。。 第2部は、「今日で世界が終わります」と告げられた一般人の物語。常識人だったジョンは妻と息子への義務を放棄して服毒自殺を図り、残された妻クレアは息子を連れて右往左往するのみ。人類滅亡という状況は秩序の中で生きる一般人の許容範囲を超えてしまっており、混乱した彼らはひたすらに奇行を繰り返すのみなのです。結婚式という場に引きずり出されたジャスティン同様に。鬱病患者は好んで奇行に走るのではなく、彼らにとって受け入れがたい環境に置かれたことによる避けられない反動として奇行が表れてしまうということを、監督は訴えているようです。。。 一般に、精神病患者を社会に戻すことが”治療”と言われていますが、我々とはまったく違う世界に生きる彼らを無理矢理に我々の世界に引き込むことが本当に正しいのか?この映画はかつてない構図でそのことを訴えてきます。この監督の圧倒的な構成力には相変わらず恐れ入りました。
[DVD(吹替)] 7点(2012-08-10 14:42:17)(良:3票)
420.  宇宙人ポール
『ホット・ファズ』のチームが手掛けただけあって、相変わらず丁寧な娯楽作に仕上がっています。スピルバーグ愛全開ではあってもオマージュやパロディは「わかる人がわかればいい」という程度に抑えられていて、80年代SF映画に関心のない人でも楽しめる間口の広い内容としている点には好感が持てました。娯楽作としてのバランスの取り方は絶妙で、速すぎず遅すぎず観客の生理に合わせた映画となっています。登場人物は多彩なのですが、振り返ると主人公2人以外のキャラはドン底とも言える人生を歩んできた暗い人たちばかり。ポールは60年間監禁生活を送り、脱出時には解体手術を受ける寸前のところだったし、かつてポールを助けた少女はキ◯ガイ呼ばわりされて60年間を孤独に過ごし、ヒロインとなる女性は30歳を遠に過ぎているのに家の外のことをほとんど知らず、イカれた父親から性的虐待を受け続けていることが暗に仄めかされています。こういうビターな設定を加えたおかげで映画は独特の味わいを得ているし、同時に「宇宙人騒動に参加する人間がマトモな社会人であるはずがない」という説得力ある設定にもつながっています。職を失い、妻子を捨ててまでUFO騒動にのめり込む男の姿を描いた『未知との遭遇』に違和感を覚えた私としては、本作のこの設定には大いに納得できました。。。 とまぁ全体的には満足できたのですが、不満な点が二つほどあります。一点目は、脚本が教科書的すぎて、伏線が見え見えになってしまっていること。作り手が意図したサプライズが観客にとってのサプライズになっていない場面がいくつかありました。二点目は、クライマックスに登場する宇宙船が手抜きだったこと。例えば『ギャラクシー・クエスト』は、クライマックスに本家『スター・トレック』をも超えるスピード感ある見せ場を準備して「SFは最高だ!」という思いを観客にも抱かせることに成功しました。このチームの前作『ホット・ファズ』も、クライマックスにバカバカしくも壮絶な銃撃戦を準備して観客を興奮させました。本作のラストにも、本家『未知との遭遇』と同等かそれ以上のスペクタクルが必要だったと思います。スピルバーグ映画を観た時と同じ感動を観客に味わわせてこそ、真のリスペクトであるはずです。
[DVD(吹替)] 7点(2012-08-07 01:10:51)(良:1票)
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