421. カウボーイ&エイリアン
《ネタバレ》 楽しかったんですが、考えてみればアホな設定の映画です。エイリアンが地球にやって来た目的が地球の征服とかじゃなく、金を採掘(西部劇らしいんですけど)に来たという微妙なセコさ、人間を一杯捕獲しても、そのまま放置してるだけで見張りも無く簡単に救出成功!最後の見せ場である人間対エイリアンの大決闘もなかなか笑えます。空から攻撃すれば何の問題も無いものを、取り合えず人間に向って無防備に突撃しては山賊のピストルと、インディアンの弓矢の餌食となる。これら数々のツッコミ所はあるんですが、面白かったので良しとしましょう。主演ダニエル・クレイグがカッコいい。面構えもいい。戦いが終わり、ヒーローは平和が戻った村を見届け、馬にまたがり静かに旅立っていく。お約束なんですが、やはりこうじゃなきゃいけませんね。 [映画館(字幕)] 5点(2011-10-26 16:12:50) |
422. カントリー・ストロング
僕はカントリーは聞きませんが、カントリーの映画は好きなんです。最近ではジェフ・ブリッジスの「クレイジー・ハート」が記憶に新しい。 スマートでオシャレな都会派ロマンスとかと違う、栄光の日々からの転落や挫折、苦労を抱え、アメリカの片田舎を行く公演の旅。そんな作中のカントリー歌手の生き様のようなカントリーの飾り気の無い歌詞がいい。 酒に溺れた、再起を期すかつてスターだった女性シンガー(「クレイジー・ハート」のジェフ・ブリッジスと重なりますね)とその夫に、一人の下積みの男性シンガーと、一人の若い女性シンガーの4人が絡み合う人間模様。淡々とツアーの日々を流す中盤はちょっと長く感じますが、グウィネスが素晴らしい。ラストのステージも見事。スターのオーラを感じたし歌も上手かった。しかしこの結末はどうなんだろう?あのステージで大団円で良かったのではないかな。 何度か作中に登場したロレッタ・リンという名前。この名前を初めて聞いたのは、シシー・スペイセクが素晴らしい演技と歌を披露した「歌えロレッタ愛のために」だった。ロレッタ・リンという人は本当に大スターなんだなと改めて感じたのでした。 [DVD(字幕)] 6点(2011-10-25 22:39:10)(良:1票) |
423. 猿の惑星:創世記(ジェネシス)
旧シリーズを全て見ている者にとっては「シーザー」という名前から感慨深いものがありますね。シリーズ第1作では、東西冷戦の時代背景を見事にとらえた人類への警鐘、メッセージを見る者に伝えるラストでした。 第1作から時は流れ、やはり本作も今を生きる人類への警鐘というシリアスさとエンターテイメント性を見事に両立させながら、旧シリーズとリンクしていくストーリーが非常によく考えられた作品となっています。躍動感あふれる猿をとらえるカメラワークも見事です。 対策がお粗末で人間側が弱すぎだったものの、橋の形状やサンフランシスコ名物の霧が巧く活かされた最後の橋の決戦も見応えがありました。 [映画館(字幕)] 8点(2011-10-20 18:20:28) |
424. 親愛なるきみへ
僕のお気に入りのハルストレム監督の新作。しかし、考えてみたらこの監督のバリバリの恋愛映画って珍しいな、という思いもありました。 ラブストーリーを作品の軸に据えながらも、主人公の陸軍特殊部隊に所属する青年と自閉症を抱える父の親子愛のドラマが印象に残る作品でした。この父子が登場する最初のシーン。薄暗い部屋でコインを眺める父をガラス越しに複雑な表情で見つめる息子。微妙な距離感を感じるシーンです。その事情は少しずつ語られますが、このコインがこの父子の絆の象徴だったんですね。 本作には色々な手紙が登場しますが、息子が父への最後の手紙を読むシーンが感動的でした。ここで戦場で意識が薄れいく息子の冒頭の姿が思い出されます。(と同時に邦題はコレでよかったのかな?という思いも・・・)僕の好きなハルストレム監督作品は「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」「サイダーハウス・ルール」「ギルバート・グレイプ」といった作品です。いずれも色々な事情を抱える少年や青年の成長を描いた作品。やはり本作も軸であるはずのラブストーリーよりも主人公の若者と父のドラマが印象に残りました。 しかし、すっかり売れっ子になったアマンダ、本作でも彼女の爽やかな魅力がよく出ています。「マンマ・ミーア」でも感じましたが海辺や潮風が似合うし、歌も上手ですね。そして9.11に人生を翻弄された人の姿がここにもありました。 [映画館(字幕)] 7点(2011-10-03 21:37:43) |
425. カンパニー・メン
《ネタバレ》 リーマンショック後のアメリカ。巨大企業の不採算部門の統廃合により生じる余剰人員。37歳、ポルシェに大きなお屋敷、幸せな家庭。典型的勝ち組男を中心に、50代後半の工場の工員からの叩き上げの男、創業時からの功労者の人情副社長、三者三様のエリート・カンパニーメンのリストラ後の人間模様。 脇を固めるケビン・コスナーもいい味を出していて、シブい豪華キャストが流石のいい仕事をしています。トミーリー演じる人情副社長vs社長のドラマや、50後半男の「俺一人破滅したところで誰も気付かない!」この男の悲哀に満ちた叫びに、業績や成果第一のアメリカ流の会社のあり方への強いメッセージを感じました。 しかしテーマやストーリーの割には作品全体としてはそれ程重さは無い。家族や身内の描写がよく、最後は少し年収は下がったけどそれでもいい仕事を得てハッピーエンドとなりますが、人と人のつながりを感じるいい再就職のラストでした。 それにしてもトミーリーさん、BOSS片手に「この惑星の住人は・・・」と、いつ言い出してもおかしくないお姿が一杯ありましたね。 [映画館(字幕)] 6点(2011-09-28 00:03:44) |
426. 陰謀の代償
パチーノ好きとしては、パチーノさえ堪能できればそれだけでもある意味満足なのですが・・・。パチーノ演じる事件の鍵を握るスタンフォード警察委員長(名前は凄いんですけど)が活きておらず、パチーノをはじめ脇を固める豪華な顔触れもそれぞれに人物描写が薄い。(ただ、主演の新人警官の男の苦悩ぶり、レイ・リオッタの見せる存在感、ジュリエット・ビノシュの荒んだ雰囲気など、個々の演技はいいのですが) 舞台は2002年のNY。NYの治安回復を掲げたジュリアーニ市政と実働部隊のNY警察の人間模様、9.11後のNY、人種や貧困と犯罪の問題・・・色んなことに触れてますが、作品の舞台の状況を説明した程度にしか感じられませんでした。 メインとなる過去の事件について誰が何を知っていて、誰が何の目的で今それを告発しようとしているのか?というサスペンス・ミステリに期待しましたが・・・。結末は一応どんでん返しという事なんだと思いますが、事件に対する思いが伝わってこない人物が多く腑に落ちない思いしか残りませんでした。 [映画館(字幕)] 3点(2011-09-23 20:17:18) |
427. 幸せの始まりは
これまでにも自身で脚本を手掛け良質の人間ドラマを撮ってきたジェームズ・L・ブルックスの久々の新作。期待していたんですがねえ・・・。この三角関係、登場人物が出揃った時点で勝負はついている物語ですが、ラブコメというジャンルにおいてそれはよくある事なので問題は無い。その見えている結論に向けて共感できる筋書き、展開があればそれでいいと思うし、ヒロインは見ていて素直に応援できるようなキャラであればいいのですが、本作は残念ながらそういうものが感じられませんでした。ブルックスはそうした展開の組み立てや、登場人物の心の機微を描き出していくのが巧い人なんですが、本作は脚本にもそんな彼らしさが感じられませんでした。 [DVD(吹替)] 4点(2011-09-11 17:11:14) |
428. 黄色い星の子供たち
《ネタバレ》 史実に基づくこの題材のヨーロッパ映画だけに見る前から覚悟はしていましたが、重い映画でした。しかし、いい映画でした。見てよかったと思います。 妥協せず歴史を伝えようという意思が感じられる厳しい演出だったと思います。それは本来は市民を守るべき存在である筈のフランス警察の描写ついても。少しずつ顔や服が汚れていき、やつれていく。列車に乗せられ、二度と戻ってこなかった人々を演じた全ての俳優、子どもたちが素晴らしい演技でした。そして以前から綺麗な女優さんだと思っていましたが、メラニー・ロラン、いい女優さんだと思いました。 フランス国内では全ての人が知っているのであろう、ナチス占領下の仏国内で1942年に行われた1万人以上に上るユダヤ人の一斉検挙。そのほとんどが生還できなかったという。僕は本作を通してこの史実を知り、記憶に刻み込まれることになった。これも映画の持つ大きなチカラなんだと思う。 [映画館(字幕)] 9点(2011-09-08 18:28:17)(良:1票) |
429. シャンハイ(2010)
《ネタバレ》 日米中の豪華競演の中でも僕はコン・リーがお目当てでしたが、この人の年齢と共に増す妖艶さは一体何なのでしょか・・・?と言うほど本作でもお綺麗で、胸元に脚に・・・と衣装も素敵でした。 メインとなる太平洋戦争開戦前夜の上海で繰り広げられる、日本人、アメリカ人、中国人が絡み合うロマンスとミステリ&サスペンスは様々な関係が描かれるもどの関係も結局深みが感じられず、特に意外な真相のようなものも無かった。特にジョン・キューザック演じるポール、コン・リー演じるアンナ、謙さん演じるタナカのそれぞれと絡み合う、ある意味本作のキーともなるべきスミコの扱いが薄く、立ち位置が不明瞭すぎた。終盤に再会するタナカとの関係もそれまでが説明不足なので謎のまま終わってしまいました。 しかし当時の上海の下町や、華やかな西洋の租界を舞台に抗日組織、日本軍、西洋の諜報機関が入り混じり暗躍する太平洋戦争開戦前夜の混沌とした上海の雰囲気や、豪華キャストの熱き好演は見応えのある作品です。 [映画館(字幕)] 5点(2011-09-01 17:40:56) |
430. サンザシの樹の下で
楽しみにしていたチャン・イーモウの新作。ようやく僕が住む街でも公開されたのですが、お客さんは5人程度。ちょっと寂しかったですが・・・。いい映画でした。 ”しあわせ3部作”の頃のチャン・イーモウが帰ってきてくれたような作品でした。中国の農村を舞台にした、今時あまり見かけなくなった、時には見ていて恥ずかしくなるほどのこれでもかっ!というほどの純愛映画です。 ヒロインの女優さんは新人さんのようですが、かつてチャン監督が発掘したチャン・ツィイーのようなハッとする美貌というわけでもなく、どちらかと言うと今時の女優さんにしては地味な印象なのですが、独特の存在感、透明感を感じます。 チャン監督は感情を吐露する一言をあまり彼女に台詞で言わせないんですね。その代わりにこれでもかと言うほど彼女の表情を捉え続けます。恥じらい、嬉しさ、困惑、悲しみ・・・こうした人間の感情を演じる彼女の見せる様々な表情が印象に残りました。チャン監督、彼女に相当惚れ込んだのではないでしょうか。 本作はチャン監督がこれまでの作品でも描いてきた文化大革命の時代に再び取り組んだ作品でもあります。これまでにもチャン監督が見せてきた批判精神が随所に見られますが、この実話の舞台となった「サンザシの樹」も今はダムの底に沈んでしまったという。多くの人々に犠牲を強いたかつての中国の過ちだけでなく、最後にそっとその事実を字幕で告げるのですが、ここには経済発展のためなら待ったナシという現代中国のあり方に対するチャン監督の思いが垣間見えた気がしました。 [映画館(字幕)] 8点(2011-08-22 21:00:32) |
431. 海洋天堂
《ネタバレ》 久々に涙腺が崩壊する映画を見ました。もう成人しているが、心の病気で一人で生きていくには困難がある息子を置いて間もなく息子の前から去らなければならない父の我が子に捧げる愛情のドラマです。 話の内容は非常に重いです。しかし、父と息子の触れ合い、ジェット・リーの感動的な演技、そしてこの親子の支えになる人々の善意やあたたかさ、控え目に挿入される久石譲の音楽が話の重さを和らげてくれます。もう一人、楽しみにしていた台湾のスター、グイ・ルンメイの扱い方が勿体無かったことだけが残念でした。 冒頭、絶望的なシーンからこの映画は始まります。ジェット・リー演じる父の抱える事情は前半に明らかになるのですが、その絶望を乗り越え、家の鍵の開け方、卵の割り方、シャツの脱ぎ方、バスの乗り方・・・。息子の自立のため教えていく父の姿を音楽も演出も大袈裟になりすぎず、一つ一つを淡々と見せていくのですが、その一つ一つが父の我が子への愛情にあふれている素晴らしいものでした。 最後に父は「父さんはウミガメだぞ!」とお手製のウミガメの甲羅をまとい、息子と共に泳ぐ。やがて父は息子のもとを去るが、父の教えを立派に実践する息子の姿があり、息子はこれからも生きていく。そしてラストシーン、息子は水族館を気持ち良さげに泳ぐウミガメに寄り添い泳いでいる。絶望的なシーンから始まりましたが、ラストシーンは希望のある、そして実に美しいものとなっていました。平凡にして偉大なる、そして強く、心優しいジェット・リー演じる父の姿は忘れられないし、この父を演じるのはジェット・リーでなければならないと思える映画でした。 [映画館(字幕)] 9点(2011-08-01 21:57:26)(良:1票) |
432. 太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-
《ネタバレ》 公開時、ちょっと気になっていた映画でしたが、ようやく二番館にて鑑賞。玉砕の島サイパンを日本とアメリカ、軍隊と民間人、様々な視点から描いた戦場の人間ドラマです。 山中に逃れていた民間人に多大な犠牲がでた事を機に、大場大尉に「一人でも多くの敵を倒す」ことから「一人でも多くの命を助ける」という新たな使命感のようなものが生まれるくだりが印象深い。ならば直ちに投降すればその後の犠牲は防げた。しかし当時の日本人にとってそれはそんな簡単な問題ではない。それは投降せよという上官の命令を欲した大場の苦しい胸中からも分かります。 生きて捕虜にならず死ぬまで徹底抗戦という日本軍人としての使命感と、一人でも多くの命を救いたいという、相反する思いの間で苦悩する大場大尉と、民間人の思いと米軍の思いが均等に描かれるので大場大尉の物語としては時間不足の感はあるし、生き残った兵隊と民間人のジャングルの潜伏生活はもっと悲惨なものではなかったかという思いもあります。 本作の大場大尉からは軍人としての凄みは感じないし、当時の日本軍にあった特攻や玉砕や自決といった人命軽視の行動に走る事も無い。もっと戦闘シーンを増やせばもっと凄みがある軍人大場大尉になったのかも知れません。それよりも立場や価値観が異なる大場大尉、民間人、米軍それぞれの一人でも多くの命を救いたいという行動が描かれる。度々登場した、大場大尉、民間人、米軍のそれぞれが関わって命を救われた赤ちゃんの姿からは命の重みが確かに伝わってきます。 [映画館(邦画)] 6点(2011-07-29 19:22:01) |
433. パーマネント野ばら
原作未読、原作の知識無しでの鑑賞でしたが楽しめました。菅野美穂、小池栄子、池脇千鶴、3人ともそれぞれの良さが出ていていいキャスティグでした。パーマ屋のちょっとお下品、でも愛すべき人間臭さがあるおばちゃん達も良かったです。爆笑を誘う映画ではないですが、可笑しい。ドラマの中の可笑しさの匙加減も良く、日本のどこにでもありそうな海辺の田舎町の人間模様と日々の中にある泣き笑いを、程よいユーモアを交えながら地味に上手く描かれている作品です。 [DVD(邦画)] 6点(2011-07-23 01:01:26) |
434. エクスペンダブルズ
《ネタバレ》 最近はこの手の映画をあまり見なくなったのですが、この超豪華な顔触れにそそられやっとこさ鑑賞しました。クライマックスの戦闘シーンは編集に難があり誰と誰が誰に向かって何してるのか非常に分かり辛いし、ストーリーも含めいい加減な映画です。それでも肉食系アクションオヤジのドリームチームの健在ぶりを観させてもらっただけで十分と思える映画です。僕が一時アメプロにハマるきっかけになったスーパースター、ストーンコールド・スティーブ・オースチンの暴れっぷりも嬉しかったです。 しかし、一番感動したのは序盤のスタローン、シュワ、ブルースの揃い踏みだ。シュワがスタローンに向かって「こいつはジャングル好きだからな」そしたらスタローンは「奴の狙いは大統領のイスだ」と返す。笑った。「今度メシでも食いに行くか」「いつだ?」「1000年後だ」「急だな」笑った。 本当にこの人達は死なないんじゃないか?と思わされる。実際に任務で死なない消耗品の面々。映画の中で体を張ってきた彼らの「俺達はまだまだ消耗なんてしてないゼ!」という心意気が伝わってくるようだ。彼らより若い自分が「疲れたなぁ・・・」とか愚痴っている場合ではない。消耗品たちよ、ありがとう。 [DVD(字幕)] 5点(2011-07-01 20:37:24)(良:1票) |
435. ジュリエットからの手紙
《ネタバレ》 爽やかで情熱的で、作品を包むゆったりとした時間と穏やかな空気に心が癒される映画です。2人の主役の女優、アマンダ・セイフリードもとても魅力的なのですが、ヴァネッサ・レッドグレーヴがアマンダを凌駕するほど魅力的でチャーミングに映りました。50年の時を越えてロレンツォと再会できるという高揚感、生きている喜びが伝わってくる、表情で見せる彼女の演技が素晴らしかったです。「ジュリエットの秘書」の心温まるエピソードの挿入もいいし、彼女らを乗せた車が行く美しい風景の見せ方も素晴らしく、そこに流れる音楽の使い方も実に効果的です。登場人物が出揃い、ロレンツォを探す旅に出た時点で結末を予想するのは難しくないストーリーですが、50年の時を経て成就した2人の恋と出会ったばかりの2人の恋の行方を見せてくれる、ユーモアと幸福感に包まれたハッピーエンディングに鑑賞後の爽快感も格別の作品でした。 [映画館(字幕)] 8点(2011-05-25 23:08:06)(良:3票) |
436. SOMEWHERE
《ネタバレ》 俳優として成功し、金と名声を得てフェラーリを乗り回し、高級ホテルのスイートで豪華ではあるが享楽に溺れ堕落した日々を送る主人公の男が別居中の妻の元で暮らす娘をしばらくの間預かることになる。娘と共に生活するうちにもっと大切な何かに気付くという、ハリウッドの成功者を冷静な目で見つめた作品。 前半は享楽に溺れるこの男の派手な日々を見せる。中盤以降は娘と共に生活する静かな日々を、退屈なほどに実に淡々と綴っていく。そこには大したストーリーすら存在しませんがこの男が娘との日々で得たものが伝わってきます。娘をキャンプに送り届け、一人ぽっちになる。自分がいかに孤独であったかを思い知り、別れた妻に電話をかける。スイートを引き払い、何も無い荒野でフェラーリを乗り捨てて一人歩き出す所で実にあっけなくエンディングとなりますが、これは今までの自分を脱ぎ捨て、新たな人生を歩き出そうとしていたと思いたいラストでした。 娘役はエル・ファニング。日本で言うとまだ小学生ですが、とてもそうは見えない大人びた表情も、父と遊ぶときの無邪気な表情も、淋しさを父にぶつける表情もとても良かったです。監督はソフィア・コッポラ。父は言うまでも無く巨匠フランシス。ハリウッドの成功者を父に持つという点でエルが演じた娘と共通するのが興味深い。本作の父の描き方はさておき、自身が子どもの頃に感じた思いが投影された作品なのでしょうか。 [映画館(字幕)] 7点(2011-04-05 21:01:20)(良:1票) |
437. ザ・ファイター
《ネタバレ》 これは実在する元チャンピオンのボクサーを主人公としたボクシング映画ではあるのですが、同時に兄弟愛、家族愛のドラマとしても心に残る映画でした。 無口で真面目な主人公のミッキーに対し、ジャンキーの兄貴と試合のプロモートに口を出し、息子のボクシングに介入しまくる母が、前半はミッキーにとって邪魔な存在にしか見えない。その見事にアクが強い演技を披露したクリスチャン・ベールとメリッサ・レオの2人の助演賞コンビはやはり良かったです。特に途中からはボクサーの弟のサクセスストーリーよりも、このイカれた兄貴がどうなっていくのか、そちらの方が気になってしまうほどベールの本作における存在感が際立っていました。 一方ノミネート止まりでしたが、ミッキーの恋人を演じたエイミー・アダムスも良かった。本作のような気が強く逞しさが前面に出るこんな役の彼女は初めて見ましたが、今後もっと色んな役の彼女を見てみたいです。 兄と母だけでなく、いっぱいいたミッキーのお姉ちゃん達も弟の恋人にアバズレだ何だとイチャモンを付けまくる。しかし、それでもこの家族は互いを応援し合ってるんですね。ミッキーのことを応援するのは勿論なんですが、兄貴がムショから戻ってきた時にジムで家族総出で手作りのお帰り!のボードとケーキであたたかく歓迎する。存在感は薄かったですがお父さんもちゃんとその場に一緒にいる。その直後に兄貴は悪友の溜り場に別れを告げる。ミッキーも魅力的なベガスからの誘いを蹴って小さな町ローウェルに残り家族と共にチャンプを目指す決心をする。ミッキーのボクサー人生を通して描かれる兄弟、家族の絆の物語が心に残る作品でした。 [映画館(字幕)] 7点(2011-03-29 19:22:40) |
438. 恋とニュースのつくり方
《ネタバレ》 邦題にある恋の方は描く時間があまり取れないからとりあえずハッピーエンドという感じでしたが、ニュースの作り方の方は脇を固める助演陣がしっかりとしていてとても楽しかったです。 「プラダを着た悪魔」なんかを思い出す設定ですが、職場に一筋縄ではいかない上司や年長者がいて苦労もあるけれど、めげずに明るく頑張る女の子が恋に仕事に頑張る陽気な奮闘記。 その一筋縄ではいかない気難しい年長者がハリソン・フォードとダイアン・キートンの2人が演じる朝の情報番組のキャスター。この2人の人物設定がいいし演じる2人も巧い。気分屋で嫌味な部分もありますが、それだけに終わらないものをそれぞれに見せてくれます。とても楽しそうに演じていたダイアンと仏頂面のハリソン、2人の微妙にして絶妙の間の掛け合いがとても楽しかったです。 [映画館(字幕)] 6点(2011-03-04 22:36:55)(良:1票) |
439. 英国王のスピーチ
バーティとライオネル(敢えてこう呼ぼう)が2人っきりで部屋の中にいる。2人の関係に常に一定の距離感と緊張感を持たせつつも、台詞の中に込められたユーモアのセンスが素晴らしく、1シリング硬貨やプラモデルといった小道具の使い方も巧く、実に味わいのある笑いを生み出します。この緊張感と可笑しさのバランスが絶妙でした。この2人を演じるコリン・ファースの感動的な名演技は言うまでもなく、ジェフリー・ラッシュもまた賞賛されるべき素晴らしい演技でした。 初めて2人が出会った時の距離感のある関係から、その距離感を少しずつ詰めていく過程が、感動の味付けや音楽や演出は抑え気味ながらもユーモアを交えながら丁寧に積み重ねられていき、最後は実にいい感動があります。演じる2人の繊細かつ可笑しさのある演技も充分に堪能できます。 この2人のそれぞれの家族の関係とその温かみのある描き方にも家族の素晴らしさを十分に感じさせてくれるし、王である夫を支える妻を演じたヘレナ・ボナム=カーターも見事な好演でした。本作のように地味ながらもいい映画が本年度アカデミー賞の重要な4部門(作品・監督・脚本・主演男優賞)を受賞したことをとても嬉しく思います。 [映画館(字幕)] 9点(2011-03-01 20:48:20)(良:2票) |
440. ヒア アフター
作中、霊能力者の男は何人かの死者と交信した。交信を求める人はその大切な人の死を受け入れられずに引きずっている人々だが、対話に応じた死者は皆、こちら側に残っている者に前向きに生きることを願っている。特に霊能力者の男を介し、死んだ双子の兄が弟に語りかける場面は感動的でした。「俺を引きずるな。もう助けてやらないぞ。俺の帽子を脱げ」、と。そして弟は最後はずっと被ったままだった兄の帽子を脱いでいた。本作に登場する3人ともそれぞれの事情で死と向き合いながらも、最後は迷いながらも前を向いて歩き出している。ファンタジー的題材でありながらもファンタジー的描写は抑えられ、死後の世界や死者の意識は感じるもののその姿はハッキリとは見せず、あくまでも描かれるのはそれぞれに死を意識し迷い苦しみながらも再び前を向いて現実的に今を生きていこうとする人々だ。イーストウッド的だとも思う。生きているうちには大切な人を亡くすこともあるだろうし、死を意識する事もあるだろうが、結局はそれを乗り越え前を向いて生きていかなければならないんだ。ラストの3人の姿はそんなことを感じさせてくれました。 [映画館(字幕)] 8点(2011-02-21 23:22:17) |