461. 江ノ島プリズム
《ネタバレ》 「デロリアンは何処だ?」「(ドラえもん風に)タイムウォッチ~」などの台詞には、クスッとさせられました。 前半部分はコメディタッチで、明るいハッピーエンドを予想させる流れだったにも拘らず、後半からシリアス濃度が高くなり、自己犠牲を伴った切ないハッピーエンドに辿り着く……という流れだったのも、良かったですね。 作風が途中で百八十度変わる訳でもなく、ちゃんと冒頭から人死にを扱ったりしていて(この映画は完全にコメディという訳ではありませんよ)と伏線を張っておいた形だったので、作品の空気が徐々に変わっていく様も、自然と受け入れられた感じ。 個人的には、主人公の性格がワガママ過ぎるというか「相手が嫌がっていても、自分が決めた事はやり通す」ってタイプだったのが、ちょっと抵抗あったんですけど…… それよりも気になったのは、携帯電話の扱い。 途中(何で携帯を使わないの?)と思わされる場面が多くて、映画のストーリーに没頭出来なかったのですよね。 もしかして、この世界には携帯電話は存在しないのか……とも思ったのですが、そういう訳でもなさそう。 ならば、時代設定を1980年辺りにするか、あるいは劇中にて「誰かがタイムトラベルを行った副作用で、携帯電話が発明されない世界になっている」という設定を付け足した方が、自然に受け入れられた気がします。 後者の場合は、タイムパラドックスについて説明する際に「時間改変によって、元の世界に存在していた何かが失われてしまう可能性もある」「この世界も、既に変わってしまい、何かが失われた後なのかも知れない」「たとえば、手のひらサイズで持ち運べる電話とか」などと言わせるだけでも、かなり印象が違っていたんじゃないでしょうか。 あと、中盤辺りから完全にヒロインと化す「タイムプリズナー」の今日子ちゃんは可愛かったのですが、ちょっと扱いが大き過ぎたようにも思え、本筋から外れてしまった感があり、残念。 思い切って彼女が主役級の映画にするか、もっと主人公との絡みを減らして、脇役に留めておいた方が良かった気がしますね。 ラストにて、他の人物が主人公を忘れてしまったとしても、今日子ちゃんだけは憶えているというのは救われるものがあり、嬉しかったのですが…… 本当に「ただ憶えているだけ」であり、その後に主人公と再会するのかどうか不明というのも、流石に中途半端なんじゃないかと。 主人公が最後に振り返り、もはや他人となった幼馴染の二人を見つめる演出なども、味わい深くて魅力的だとは思うのですが(本当にそれで良かったのか?)という疑問も残ってしまい、どうもスッキリしないんですよね。 元々親友の命を救うのが目的だったとはいえ、相手にとっては命よりも大切かも知れない思い出を、主人公の独断で失わせているってのが、納得出来なかったです。 ……とはいえ、そんな疑問、ちょっとした後悔まで味わえるという辺りが、結果的に、本作の青春映画としての完成度を高めていた気もしますね。 納得いかない事もあるし、正しい選択じゃなかったかも知れない。 それでも、学校での花火や、皆で記念写真を撮った瞬間など、楽しい事も確かにあった……と、しみじみ後から思い出せる形になっている点に関しては、好みの映画でありました。 [DVD(邦画)] 5点(2016-08-06 19:51:47) |
462. 故郷(1972)
《ネタバレ》 渥美清の演じる魚屋が「船長」と「労働者」の違いについて語る件が印象深いですね。 労働者よりも仕事がキツく、給料も安いと言われてしまうような、石船の船長という仕事。 それでもなお「叶うならば、ずっと船長のままでいたい」と願い続けていた主人公の姿に、切ない気持ちにさせられました。 途中、上述の魚屋が風邪を引いてしまい、ゴホゴホと咳込んでいる姿を目にした際には「もしや、彼が入院なり病死なりしてしまう展開じゃなかろうな……」と身構えてしまいましたが、そんな事も無く、最後まで明るく人懐っこい姿で映画に彩を添えてくれて、一安心。 主人公である夫は「船長」その妻は「機関長」という呼称も、何やら子供時代の遊びのような、不思議な楽しさがあり、彼らが石船の仕事に愛着を持っている理由も、分かるような気がしましたね。 冒頭の、船で大量の石を運び、それを海中に流し込むという一連の作業も、何だかアトラクションめいた趣きがあり、視覚的にも満足。 家族で力を合わせる姿を見ていると、それが単なる「仕事」の一言では片付けられない、互いの絆を強める為の儀式であるようにも思えてきました。 結局、この映画の一家は「都会の造船所で働く為」「大好きな船を捨てて、大好きな島からも去らなければいけない」という、辛い決断を下す事になります。 それでも、必要以上に陰鬱にはならず、どこか明るい空気すら漂っているのは「家族が生きていく為」という目的意識が、しっかりと描かれているからなのでしょうね。 ちょっと「田舎」や「船仕事」を美化し過ぎているというか、ともすれば「都会」や「工場作業」に否定的な印象を与えてしまう作りなのは気になるところですが、本作の場合は、そういった視点で描くのが正解だったのだろうな、と思えました。 [DVD(邦画)] 6点(2016-08-04 16:05:28) |
463. 近松物語
《ネタバレ》 溝口健二監督作を幾つか観賞し終え「この人の映画って、登場人物が不幸になる話ばかりだなぁ……」という偏見を抱いていた自分を、痛快なまでに打ち倒してくれた一品ですね。 あらすじとしては、不義密通の濡れ衣を着せられた男女が、望まぬ逃避行を強いられる話になるのだと思います。 しかし、その過程で本当に愛情が芽生えてしまい、周囲の迷惑すらも顧みずに互いを求め合うようになるという、純粋極まる恋物語へと、鮮やかに変貌を遂げてくれるのです。 最後には「処刑場に連行される二人」という、悲壮感漂う場面になるのですが、そこには「逃亡の苦しみから解放された幸せ」「これで二人が引き裂かれる事は二度と無いという確信」といった感情も描かれており、不思議と後味は爽やか。 背中合わせに縛られた男女が、固く手を繋ぎ合い、満足気に笑みを浮かべる姿は、忘れ難い印象を与えてくれました。 なお、元ネタとなった「大経師昔暦」においては、主役の男女二人は死んでいません。 処刑の寸前、助けが入ってハッピーエンドを迎える事になっています。 それを「ほんまに、これから死なはんのやろか?」という呟き一つで、生存の可能性を示すだけで済ませてしまうのは、如何にも溝口監督らしく思えましたね。 「悲惨美」「芸術的な悲劇」を好む感性がそうさせた可能性もありますが、自分としては「殺されるのを承知の上で、愛を貫き通した二人の覚悟」こそが大事なのであり、この後に二人が死ぬか生きるかなんてのは、些細な事なんだ……というメッセージなのだと解釈した次第。 勿論、個人的好みとしては、二人はあのまま殺されてしまうのではなく、原作同様に危機一髪で助かったのだと思いたいところですね。 共に死ねる喜びではなく、共に生きる喜びを分かち合って、幸せな夫婦となって欲しいものです。 [DVD(邦画)] 7点(2016-08-04 10:47:22) |
464. 狂った果実(1956)
《ネタバレ》 「要するに退屈なのよ、現代ってのは」という台詞が、六十年前の映画にて発せられている事に驚きです。 2016年を迎えても、未だに「退屈な現代」が続いているように思える今日この頃。 ですが、退屈を感じる事が出来ない社会というのも、それはそれで落ち着かない気がするので、恐らくそれは歓迎すべき事象なのでしょうね。 本作の登場人物も、腹が減れば食事し、トランプで賭け事を楽しみ、海に出掛けてボート遊びに興じてと、一見すると裕福な、満たされた生活を送っているように思えます。 それでも若者特有の倦怠感、人生の諦観からは逃れられないみたいで、何だ哀しくなってきますね。 作中にて「時代遅れの年寄り」を皆で貶すシーンがあるけれど、この時代の若者達も、今では老人となり、現代の若者から白い目で見られているのだろうなと思えば、実に興味深い。 これが初主演作となる石原裕次郎に関しては、後の「嵐を呼ぶ男」などと比較してみても、まだ演技は拙い印象ですね。 他の出演陣にしても、年配の演技巧者が少ないせいか、全体的に棒読みに聞こえてしまう台詞、わざとらしい動きに思えてしまう場面が多かったりもして、そこは残念。 ただ、時代を越えて眩しさを与えてくれる「モノクロ映画の中の光」も確かに存在していて、それをおぼろげながらも感じ取る事が出来たのは、嬉しかったです。 先駆性の高い作品ゆえか、細部が粗削りで、現代の作品ほど洗練されていないのが気になったりもしたけれど、それもまた新鮮な感覚。 「ご縁と命があったら、また会いましょう」なんて台詞を、劇中の人物が、さらっと口にする辺りも御洒落ですし、裕次郎演じる夏久が、ヒロインの恵梨に頬を叩かれた後、無言で抱き締めてキスをする件も良かったですね。 後者に関しては、今となっては見慣れた演出なのですが「もしかして、この映画が元祖なのかな?」と思えるくらいのクオリティを感じられました。 衝撃的なラストシーンに関しても、大いに評価したいところなのですが、主人公の弟が冷徹に狂うまでの描写が、やや不足気味かも。 もう少し濃密に、兄に対する猜疑心や劣等感、ヒロインの恵梨に対する愛情や執着などを描いてくれていたら、もっと感動出来たように思えます。 そんな長所と短所が入り乱れる本作にて、最も印象深いのは、裕次郎が甘い歌声を披露する場面。 演技の巧拙などを超越した「大スターの片鱗」を窺わせてくれる、忘れ難い瞬間でした。 [DVD(邦画)] 6点(2016-08-04 06:22:58) |
465. 祇園の姉妹(1936)
《ネタバレ》 冒頭、タイトルが「妹姉の園祇」と表記されるのを目にして、これが戦前の映画である事を実感。 溝口監督作というと「雨月物語」が印象深いのですが、あちらと異なり、本作は「現代の観点からすると、ずっと昔の話」「しかし、制作当時からすると、紛れもない今の話」という時代設定なのが、何だか不思議な感じでしたね。 実に八十年前の映画でありながら「主人公の芸妓が、男どもを翻弄する姿の痛快さ」「ラストシーンにて、芸妓の存在そのものを嘆く姿の哀れさ」は胸に迫るものがあり、そこを考えると、やはり凄い作品なのだと思います。 涙を「不景気なもの」と表現するユーモア感覚なんかも、非常に新鮮に感じられて、良かったです。 ただ、歴史に残る名作に対して、こんな事を告白するのは心苦しいのですが、正直ちょっとインパクトが弱いというか、全体的に「平坦」な、盛り上がりに欠ける映画のようにも思えてしまい、残念でしたね。 上述のラストに関しても、ドン底の姉妹がここからどうやって立ち直っていくのだろうかと期待したのに、容赦なく「終」の字が飛び出すものだから、呆気に取られる思い。 この映画の悲劇的な結末を「芸術的である」「素晴らしい」と絶賛する人の気持ちも、分かるような気はします。 それでも、やはり自分としては、ハッピーエンドの方が好きみたいですね。 本作に関しても、たとえ逆境のまま終わるにせよ、主人公姉妹が我が身を憐れんで泣いて幕を閉じるのではなく、もっと力強く前を向いて生きる姿を示して欲しかったな、と思わされました。 [DVD(邦画)] 5点(2016-08-03 11:35:47) |
466. 鬼畜
《ネタバレ》 これまた、何とも判断の難しい一品ですね。 まず、ストーリーは文句無しで面白い。 演出も冴えているし、主演の緒形拳も、難しい役どころを見事に演じ切っていると思います。 ただ、子役の台詞が……ちょっと棒読み過ぎて、辛かったです。 他人様が「棒読みだ」と指摘するような役者さんでも「これはこれで味があって良いじゃないか」と感じる事が多いはずなのですが、今回ばかりは白旗を上げてしまいましたね。 特にキツかったのが、岩下志麻演じる継母に折檻される場面で「痛い、痛い、痛い。放せ。やだよう」と言う息子の声が、どう考えても打たれている時の声じゃないんです。 それでも効果音で身体を叩く音が聞こえてくるし、岩下志麻の方は鬼気迫る熱演をしているしで、そのすれ違い様が実にシュールでした。 ただ、そんな子役達も、黙って大人を見つめる時の目力は凄いものがあって、それには素直に感心。 また、上述の棒読み演技が効果的に作用している面もあり、ラストシーンの「違うよ、父ちゃんじゃないよ」に関しては、感情が籠っていない声だからこそ良かったのだと思いますね。 この場面、脚本の流れを考えれば「息子の利一が嘘をついて父親を庇っている」はずなのです。 (父子で新幹線に乗っている時、父親の懐具合を思いやった息子が、車掌に嘘をついてみせるのが伏線) けれども、その感情の窺えない、どこか突き放したような声色がゆえに「息子を捨てたりした人間は、父親なんかじゃない」という意味合いも含んでいるように聞こえてくるのですよね。 意図的な演出だったのかどうかは分かりませんが、結果としては、映画に深みを与える形になったんじゃないかと。 娘が東京タワーに捨てられるシークエンスにも、印象深い場面が幾つもありました。 父親が娘に対し「父ちゃんの名前、知っているか?」「お家はどこだ?」と確かめて、娘が幼く無知であり、我が身に警察の手が及ばない事を確信してから捨ててみせる流れなんて、観ていて恐ろしくなります。 何かを勘付いたのか、娘が中々父親から離れようとしない辺りの演技も良かったですし、父親が娘を置いてエレベーターに乗り込んだ際、閉じゆくドアの隙間越しに、一瞬だけ父娘の目が合うシーンの衝撃も、これまた凄まじい。 希望的観測ですが、あの娘さんに関しては、途中で出会った優しい着物の婦人に拾われて、幸せに暮らす事が出来たのだと思いたいですね。 利一が、楽しそうに笑い合う他の家族を見つめて「何故自分達はそうじゃないのだろう?」とばかりに、寂しげにしている姿も切なかったし、前半と後半にて「子供の口に無理矢理ものを押し込む親の姿」を二度描き、最初は同情的だったはずの父親さえも、継母と同じ鬼畜に堕ちてしまったのを、間接的に表す辺りも上手い。 全体的に息が詰まるような、苦しい映画だったのですが、そんな中、田中邦衛に大竹しのぶなど、子供達を保護する警官役が本当に善良そうで、優しそうで、観客にも癒しを与えてくれた辺りは、嬉しかったですね。 こういったバランス感覚の巧みさが、本作のエンタメ性を、大いに高めているのだと思います。 この映画を観終わった後、自然と脳裏に浮かんでくる「一番の鬼畜は、誰だったのか?」という問い掛け。 自分としては、父親でもなく、継母でもなく、三人の子供を残して姿を消した、小川真由美演じる菊代が一番酷かったと、迷いなく答えられますね。 彼女の顛末は語られず仕舞いですが、せめて遠く離れた場所で、子供達の幸せを祈っていたのだと思いたいところです。 [DVD(邦画)] 7点(2016-08-03 06:44:49)(良:4票) |
467. 帰らざる日々
《ネタバレ》 アリスのベストアルバムで何度も耳にした「帰らざる日々」が、主題歌として流れるだけでも嬉しくなってしまうのですが、映画自体も中々好みの味わいでしたね。 高校生活が、退屈で仕方ない主人公。 そんな彼の片想いの対象である、年上の美人ウェイトレス。 中学の頃の同級生で、初体験の相手となる少女。 何故か自分を気に入って、妙に懐いてくる不良の男子生徒。 ……といった具合に、登場人物達が、現代の青春映画、小説、漫画などにも転用出来そうな普遍性を備えている事に、まず驚かされました。 主演の永島敏行に関しては、正直、ちょっと棒読みなんじゃないかとも思えたりして、そこは残念。 けれど、気だるげで白けたような態度、それとは対照的に情熱を秘めた眼差しなど、その独特の魅力も、確かに感じ取る事が出来たと思います。 彼をはじめ、高校生を演じるには全体的に老け過ぎな俳優陣にも思えたのですが、これに関しては、青春映画のお約束なのだから、ツッコむ方が野暮というものでしょうか。 序盤にて、級長が不良生徒に殴り掛かる展開に「何で?」と戸惑った事を筆頭として、当初は面白みを感じられなかったりした本作。 ですが、主人公達が首吊り死体を見つけ、残された金を盗み取るシーン辺りから、少しずつ良くなっていった……という印象ですね。 ちょっと主人公に都合の良い展開が多いような気もしますが、これくらいなら、何とか許容範囲内。 終盤、すっかり親友となった不良生徒の隆三が、主人公を庇い、事故で脚を潰してしまうシーンなどは、かなり衝撃的でしたね。 上述の窃盗に、飲酒などを含め「悪い事をしたら罰が当たる」という道徳的なテーマも窺わせる一方で、彼が友を庇う「善行」の結果として、不幸に見舞われてしまったのだという事が、何ともやるせなかったです。 二人が仲良くなったキッカケが、マラソンであった事。 競輪選手になる夢を隆三が語っていた事なども、上手く布石として活用している形なのですよね。 友情と希望の象徴であったはずの親友の「脚」が失われると同時に、過去を回想するパートが終わるという構成も、鮮やか過ぎて、意地悪に思えてしまうくらいに上手い。 あまりにも残酷な、青春の終わり。 そして現代で再び見舞われる「交通事故」「死別」という悲劇によって、二人の友情にも終わりが告げられる……と思いきや、それを主人公が否定する結末にしてくれた事は、嬉しかったですね。 過ぎ去りし日々、帰らざる日々の中で、二人で一緒に走った、あの道を、今度は一人で走り抜いてみせる。 それは友情が失われていないという証、今後も決して青春の日々を忘れる事などは無いという証明にも繋がっており、実に切ない余韻を与えてくれました。 [DVD(邦画)] 6点(2016-08-01 13:29:34) |
468. 顔(1999)
《ネタバレ》 喪服のままで強姦されて、純潔を散らす事となった主人公の正子。 そんな彼女が相手の男に対し「これ、あげる」と香典を渡すシーンが印象的でしたね。 流石に気味が悪かったのか、突き返そうとする男を罵倒するように「取っとけ!」と啖呵を切る姿なんかも、妙に格好良くて、惚れ惚れする思い。 美しい妹を殺してしまったがゆえに、逃亡犯としての旅に出る事となった正子だけど、本当の意味で「生まれ変わった」「旅する決意をした」のは、この瞬間であったように感じられました。 その妹との確執に関しても、短い尺の中で巧く描いており「お姉ちゃんの存在が恥ずかしかった」と言わせた辺りなんかは、大いに感心。 他人ならば何ともないのに、家族だからこそ「その存在が恥ずかしい」という感情が湧き出てくる訳で、それを的確に表現している台詞ですよね。 全体的に、暗い作風とも明るい作風とも言い難いものがあって、暗いというにはあっけらかんとしているし、明るいというには陰鬱過ぎるという、不思議なバランス。 この独特の空気感を心地良く感じる人もいそうですが、自分としては、ちょっと苦手だったりもしました。 妹殺害のシーンなども「直接殺した光景は描かないで、まず主人公が風呂場で自殺未遂を起こす姿を描く」→「その後に旅支度を始める主人公の足元で、妹が死体となって倒れているのを、サラッと映し出す」という演出になっており、上手いなぁと感心する気持ちと、ちょっと回りくどいよなと思う気持ちが半々になったりして、どうも素直に褒められない、肌に合わない部分が目に付いてしまったのです。 作中で最も悲劇的に描かれていた「流産」に関しても、主人公が信じる「輪廻転生」に共感が持てなかったりしたもので「あぁ、彼女なりに妹を愛していたんだなぁ……」と冷静に考える程度で終わってしまい、感動にまでは至らず、残念でした。 その代わりのように、主人公が成長するロードムービーとしての魅力は感じ取る事が出来て、そちらに関しての満足度は高め。 旅の中で、周りの人達と交流し、自転車の乗り方を習い、泳ぎ方を習い、それが結果的に「土壇場で逮捕の手を逃れる手段」に繋がるストーリーが、実に皮肉で面白いんですよね。 主人公のモデルになった、ホステス殺人事件の犯人と思しき女性と、喫茶店で会話を交わしていたと判明する瞬間なども、観ていて驚かされ、印象的な場面でした。 また、本作においては、実際の事件と違って「整形」という要素を用いなかった辺りも、良い判断だったかと。 何せ主演の女優さんが演技巧者なものだから、最初は生気を失った顔だった主人公が、段々と生き生きして魅力的になり、まるで別人のような「顔」に変わっていく様を、説得力満点に演じてくれているのですよね。 全体のストーリーラインをなぞれば、非常に胡散臭い話であるはずなのに、不思議なくらい真実味を帯びて感じられたのは、やはり彼女の存在が大きかったからなのだろうな、と思えます。 お世話になった女性の律子さんに電話を掛け 「ごめんなさい」「ありがとう」 という想いを伝える件なんかも、凄く良かったですね。 「死ぬぐらいやったら、逃げて」「お腹が減ったら、ご飯食べて」 という励ましの言葉を、手首に傷のある律子さんが口にするのだから、何とも切なくて、情感溢れる名場面。 恐らく、本作の主人公は「逮捕されてしまえば罪悪感に耐え切れず、留置場や刑務所で自殺してしまう」と分かっているからこそ、懸命に逃げ続けているのだと思われます。 そんな事情を加味したとしても、現実逃避、罪から逃れるという行いは、間違いなく悪い事なのでしょう。 それでも、たとえ悪だとしても死よりはマシだ、前を向いて走って、逃げ続けて生きるべきなんだ、というメッセージが窺える、味わい深い映画でありました。 [DVD(邦画)] 6点(2016-08-01 09:04:31)(良:1票) |
469. 戦後猟奇犯罪史
《ネタバレ》 若き日の泉ピン子の喋りが、とにかく過激で気風が良くて、圧倒される思い。 バラバラ事件の加害者を指して「学校の先生だったみたいだけど、工作の先生だったんじゃないか」暴行を受けて殺された七歳の女の子を指して「被害者は私と同い年だったから、犯人が私のところに来てくれれば玉蹴りをしてやったのに」などと言い出すのだから、恐れ入ります。 当時人気だったバラエティ番組が元ネタの映画であるそうですが、その悪趣味さに辟易すると同時に、どことなく(これを毎週観たくなる気持ちも分かる)と思えたりもしましたね。 文句を言いつつもTVを点けちゃう、嫌な話でも聞きたくなってしまうという、人間の好奇心を巧みに突いた番組だったのではないか、と推測する次第です。 肝心の映画本編なのですが、三つの事件を扱わっているにも拘わらず、その全てにおいて濡れ場が用意されているのだから、サービス豊かというか何というか、ちょっぴり呆れる思い。 最初の「西本明事件」では、犯人逮捕のキッカケが十歳の女の子の通報であった件など、オチもコメディタッチとなっており、この映画らしい題材であったのですが、残りの二つは、少々異質。 「風見のぼる事件」に関しては、当時まだモデルとなった犯人が有罪確定していなかった為か、尺も短く、中途半端な作りなのですよね。 不倫相手に刃物で襲われた末の正当防衛のようになっていたり、作中で犯人がファンに土下座するシーンを交えたりと、妙に同情的に描いているものだから、何だか観ていて醒めるものがありました。 そして「久保清一事件」は、作中の半分以上を占める長尺となっており、明らかにバランスが悪い。 ただ、それゆえに力が込められているのも事実で、これ一本だけでも映画として成立しそうなクオリティがありましたね。 とにかく犯人を演じた川谷拓三の存在感が凄くて、本当に(うへぇ、気持ち悪い……)と思わされるのだから、お見事です。 女性を絞殺した時の事を思い出して自慰に耽る姿なんて、良く引き受けたなと感心しちゃいましたし、逮捕後、面会に訪れた社会評論家に入れ知恵されて、自分の行いは横暴な国家権力との闘いだと言い出す件なんて、本当に憎たらしい。 「権力と闘うんだったら、どうして総理大臣を殺さなかった!」 「罪の無い娘さんを、何故殺した!」 「お前は単なる助平な強姦殺人犯じゃねぇか!」 と激昂する刑事の言葉も、至極もっともでしたね。 その後に犯人は、暴力を交えた尋問を受けたり、民衆に石を投げられて血まみれになったりもするのだけど、全く同情出来ませんでした。 かくして、すっかりシリアスな実録犯罪映画と化したところで、唐突に画面は「泉ピン子ショウ」へと切り替わり「強姦した奴はチン斬りの刑にしよう」と客席の笑いを取って終幕となる訳ですが、このギャップの激しさに関しては、評価の分かれそうなところ。 自分としては、なんだかんだで最後まで楽しめたりもしたのですが(眉をひそめる人も多そうだなぁ……)と、完全に他人事感覚で思えた映画でありました。 [DVD(邦画)] 6点(2016-07-31 13:14:45) |
470. コンゴ
《ネタバレ》 こういった冒険物は好きなジャンルなので、楽しく観賞する事が出来ました。 なんといってもマスコット……いやさヒロインとさえ呼べそうなエイミーの存在が魅力的でしたね。 手話をするゴリラというだけでなく、特殊な機械の音声によって、人間の言葉を話せるようになっているという設定が、可愛さに拍車を掛けています。 飼い主の男性に甘えて、抱っこされたり、くすぐったりされるのが好きな性格。 そして、彼に人間の女性が近付いたら、すぐにヤキモチを妬いちゃうような辺りも、何とも愛らしい。 人間の言葉を憶えてしまったがゆえに、同じゴリラからは忌避されてしまった際に浮かべる表情なども、切なさを感じられて良かったです。 欠点としては、そんなエイミーとの別れのシーンが、やや唐突に思えてしまった事。 そして、敵となる「番人」達が小柄なゆえか、恐怖感や緊迫感が伝わってこなかった事が挙げられそう。 また、本作は「エイミーを故郷のコンゴに帰してあげる」のを目的とした男性の他にも「現地で遭難した元恋人の男性を救出する事」を目的とした女性主人公も存在しているのですが、そちらには感情移入出来なかった点も残念。 何せ彼女の上司が、絵に描いたように嫌な奴であり、実の息子の安否よりも「レーザー兵器の材料となる特殊なダイヤモンド」の入手を優先する性格だったりするもんだから、作中で彼女のモチベーションが上がらないのと同じように、観ているこちらとしても、応援する気持ちが薄れちゃうんですよね。 本来の目的である「元恋人の救出」に関しても、冒頭の映像で死んだ事が示唆されており、案の定、終盤にて死体を発見する展開なので「あぁ、やっぱり……」としか思えない。 それらの要素は「最後の最後で、上司の命令を無視する爽快感を与える為」「実は死んでいたという落胆を与えない為」なのでしょうけど、やはりスッキリしないものが残りました。 飛行機からパラシュートを付けてダイブしたり、急流の河をボートで下ったり、キャンプしてテントで眠ったり、登山したりと「冒険旅行」のツボを押さえた作りであった事は、素直に嬉しかったですね。 月夜にボートを漕ぐシーンなんかも、幻想的な美しさを味わえて、お気に入り。 命の危機が感じられない作りである事に関しても、裏を返せば「安心して、驚いたり緊張したりせずに楽しめる」という長所に成り得るんじゃないか、とも思えてくる。 そんな憎めない一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-07-31 07:57:44)(良:1票) |
471. 愛と誠(2012)
《ネタバレ》 実際にコミックスを手にした事は無いという自分ですら「タイトル」「あらすじ」「主要人物」「名台詞」「ラストシーン」くらいなら聞きかじりで知っているという、有名漫画の実写化。 まさかまさかのミュージカル構成には驚いて、主人公の誠が唄いながら喧嘩を始めた時には「これは傑作か!?」と、大いに興奮させられましたね。 けれど、もう一人の主人公である愛が唄う「あの素晴しい愛をもう一度」の時点で(もういいよ……)と、食傷気味になってしまい、後はひたすら満腹状態。 我ながら飽きるのが早過ぎるよなぁ……とは思うのですが、そのくらい「濃い」味付け、演出だったのですよね。 「君の為なら死ねる」などの名言が飛び出した時には「おっ」と身を乗り出しましたし、格闘シーンが同じ三池監督の「クローズZERO」を彷彿とさせる辺りは嬉しかったのですが、それも一過性の感覚。 「ガムコは可愛いけど、大筋に絡んでこないなぁ」 「由紀の生い立ちの件だけが陰鬱過ぎて、バランス悪い」 等々、見方を変えれば長所と言えそうな部分まで短所に思えてしまったりして、どうにも相性が悪かったみたいです。 それでも、終盤の台詞「気が変わっちまったよ、おふくろ」からの、一気にシリアスな結末へと向かう流れには、流石と思わせるものがありましたね。 やっぱり、決めるべきところは決めてくれるんだなと、監督の力量を改めて感じさせてもらいました。 [DVD(邦画)] 5点(2016-07-27 10:54:10) |
472. 気球クラブ、その後
《ネタバレ》 青春の「その後」といっても、続きではなく終りの話であった訳ですね。 気球クラブ「うわの空」にて、情熱を抱いて気球を飛ばしているのはクラブの創設者である村上しかいない。 その他のメンバーは、主人公の二郎を含めて「本当は、気球なんかどうだって良い」と考えているような奴ばかり。 序盤は、この設定に対し(それって、村上以外のメンバーは楽しいの?)と疑問を抱いてしまい、今一つ映画に入り込めずにいたのですが「花見」という喩えが出てきた場面で、ようやく納得する事が出来ました。 頭上に美しい桜が咲いていても、集まった連中は殆ど見ていない。 ただ酒を飲んで、騒ぐ口実が欲しいだけ。 気球を飛ばす事に「夢」を見出している村上の存在は、酒の肴であり、宴の名目であり、単なるシンボル以外の何物でもなかったのだなと、微かな寂しさと共に理解させられました。 「気球クラブの部屋に一人でいる時に、誰かが入って来て、こう言うの」 「なんだ、まだ誰も来てないのって……私がいるじゃん」 という台詞なんかは、凄く印象深かったです。 クラブのメンバーが求めるのは「個人」ではなく「集団」であった事が窺えるのですが、それよりも何よりも、単純に発言者の女性が可哀想で仕方ない。 そういう場合は、せめて「他の皆は来ていないの?」と言ってあげたいものですね。 村上の死を契機に、気球クラブのメンバーは再び集まって、昔のように気球の中で、最後の宴会を開く事になる。 そこで「もう二度と会わないから」と、互いの携帯番号やメールアドレスを抹消する訳ですが、それが非常に爽やかに、明るく描かれているのも驚き。 けれど、その明るさは決して前向きなものではなくて、どこか後ろ向きであるように感じられるのです。 この映画の主人公が、夢追い人の村上ではなく、傍観者の二郎である点も含め、伝えたかったテーマとしては「夢を抱き、追い続ける事の素晴らしさ」ではなく「夢を抱かない人間の虚しさ、夢を諦めてしまった人間の切なさ」であるのかな、と思わされました。 その後の「ボクは社会人の振りをして生きるのがうまくなった」という独白。 忙しない日常の中で、空飛ぶ気球を見つめて、淡い笑みを浮かべる登場人物達の姿。 ここで終わっていれば「爽やかな青春映画」と評する事も出来たのですが、そうさせてくれない辺りが、園子温監督。 時間軸を巻き戻して「村上と、彼の恋人である美津子が、気球クラブを作った頃の話」を描き、映画に深みと苦みを与えてくれているのですよね。 このエピローグによって「誰が電話しても繋がらなかった美津子が、二郎の恋人からの電話は受けた理由」が明かされる形となっており、それには感心させられたのですが、最後の最後で「村上が風船に託した手紙の中身」を明らかにしなかった事は、大いに不満。 こういった謎を残す形の方が、余韻が生まれて良くなる場合もあるのは分かりますが、完璧に謎のまま終わらせた訳ではなく「主人公の二郎は手紙を読んだのに、観客に内容は明かさないまま」というのが、何とも意地悪に思えたのですよね。 それなら手紙を拾っても開封しないまま、秘密は秘密のままで、再び空に浮かべてあげる形にして欲しかったなぁ、と。 仕方ないので、以下は自分なりの推理。 気球で二人きり、空を飛びながら村上に求婚された際「地上で、これ(指輪)を渡して欲しい」と応えた美津子の台詞からは「もっと地に足を付けて、立派な社会人となってから求婚して欲しい」というメッセージが窺えます。 そんな美津子の提案を、村上は受け入れられず、地上で指輪を渡す事は出来ないままで、二人は別れてしまいました。 そして「僕の気持ちは変わらない」という村上の台詞。 別れた後でさえも村上が「手紙の中身」を明かせなかった理由。 二郎が手紙を読んだ際の、全く驚きが窺えない表情。 他の誰にも内容を明かさず、再び手紙を空に浮かべるという選択。 以上の判断材料からするに、そこに書かれていたのは「既に皆が知っている事」「今更明かす必要も無い事」であったと考えられます。 つまり、手紙の内容とは「いつか空の上でプロポーズさせて下さい」だったのではないか、と推測する次第です。 [DVD(邦画)] 7点(2016-07-27 07:30:09) |
473. 夢の中へ
《ネタバレ》 観賞中「酔っている」感覚を味わったのは、手持ちカメラの画面ブレだけが原因ではなく、この映画そのものに酩酊感が漂っているからなのでしょうね。 性病に掛かった主人公が「おしっこ痛ぇ~っ!」と絶叫する絵面なんて、何だか全く現実感が無かったりして、作中世界のどれか一つが現実なのではなく、全ての世界が夢であるように思えてきます。 こういった映画であれば、同じ酔うにしても心地良い酔いを提供してくれたら楽しめるのですが、本作には「悪酔い」に近いものを感じてしまったりして、残念。 主張が独り善がりであるとか、ストーリーが難解だとか、それ以前の問題として、自分はどうも手ブレ映像が苦手だったりするので、それで参ってしまったみたいです。 とはいえ、園子温監督作品で何度か扱われている「現実と虚構の境目が曖昧になる感覚」「走るという行為の快感」などの要素が、本作でも見受けられる辺りは、不思議な安心感があり、嬉しかったですね。 オリジナリティが無いと主人公が責められる件も併せ「排尿に伴う苦しみ」=「監督自身の創作の苦しみ」と受け取る事も出来そうですが、それよりはもっとシンプルで、普遍的な 「生きていれば綺麗事だけじゃ済まない」 「他者との触れ合いが、厄介な痛みに繋がる事もある」 「それでも、走って、叫んで、唄って、生きなければいけない」 というメッセージが込められた映画なのではないか、と解釈したいところです。 正直に告白すると「楽しめた」「面白かった」とは、とても言えない内容な本作。 けれど、力強く前向きなメッセージは、確かに感じ取る事が出来た為、不思議と嫌いになれない一本でした。 [DVD(邦画)] 4点(2016-07-25 11:34:55)(良:1票) |
474. Strange Circus 奇妙なサーカス
《ネタバレ》 これはもう、凄い映画というか、怖い映画というか、どちらの表現が適切なのだろうと迷ってしまう一品ですね。 何せ劇中にて、十二歳の女の子を演じる子役が「私は父とのセックスを気持ち良く思えるようになった」なんて台詞を口にするのだから、実にインモラル。 幼児虐待、近親相姦、四肢切断と、何とも非道徳的な内容であるのですが、それでも猥雑さや下品さは然程感じさせず、何処となく上品で詩的に纏めているようにすら思えるのだから、全く以て不思議。 この辺りのバランス取りというか、独特な雰囲気作りの上手さは、やはり詩人であり音楽家でもある園子温監督の、芸術的な感性の成せる業、といった感じがします。 小説家の女性が登場した辺りから、現実(過去)と虚構(小説)の境目が曖昧となり、観ているコチラとしても夢心地になるのですが、そんな中でも「娘」の正体が明らかになるシーンでは、ハッと目が覚めるような衝撃がありましたね。 (実は娘ではなく、女装させられた息子が父親に犯されていたのか?)と思っていたのですが、それを否定するかのように「娘」が胸元を開き、乳房を抉り取った傷跡を見せる件なんて、そこまでやるかと呆れてしまいます。 その「人体改造」が「父と母の四肢を切断して達磨にする」という結末に繋がっている訳なのですが、クライマックスでは脚本の妙に感心する冷静さなんて吹き飛んでしまい、観ている間は、とにかくもうドキドキしっぱなしでしたね。 ちょっと「種明かし」のシーンが長過ぎるように思えたのですが、これに関しては短所というよりも、長所と呼べそうな感じ。 もっと断片的な情報だけを残し、観賞後にアレコレと推理させるような作りにする方が簡単だったろうに、そこでキッチリと「答え合わせ」を済ませる監督さんの誠実さが伝わってきました。 「壁を赤く塗られた校舎」「チェロケースから覗き見た光景」などの、視覚的な演出も鮮やかでしたし、シニカルな笑いかと思われた「ランドセルを背負って小学校に登校する母の姿」が、歪んだ現実の代物だったと判明する二段仕掛けの構成も、お見事。 その他、転落事故で入院した娘が意識を取り戻した際に、真っ先に確かめたのが「(性的虐待されていると)誰かに話したのか?」だったりする親父さんの最低っぷりなんかも徹底していて、ここまで「醜い人間」を描けるって凄いなぁ、と感心しちゃいます。 結局ラストにて、主人公は「どっちが夢なのか」判別がつかないまま、奇妙なサーカスの見世物として、首を斬られて終わる。 全ては、死刑台の上の女性が、斬首の間際に見た幻だったのかも知れないとも思わされ、不思議な爽やかさを伴った、悪夢のような余韻を残してくれました。 [DVD(邦画)] 8点(2016-07-24 07:12:48)(良:1票) |
475. 地上最大の脱出作戦
《ネタバレ》 「平和な戦争映画」という、何ともユーモラスな一品。 冒頭のシーンでは生真面目に殺し合いしている姿が描かれているだけに、どんどん「普通の戦争」から離れていってしまう姿が、愉快痛快。 「お祭りの方が戦争なんかよりも大事」という主張が窺えて、それを不真面目だと怒る人もいるかも知れませんが、自分としては大いに賛成したいところです。 上層部の目を誤魔化す為に、互いに死傷者ゼロの「戦争ごっこ」を演じてみせる馬鹿々々しさも、実に滑稽で面白い。 戦争というテーマを扱う事により、作中でどんなに不謹慎な行いがあったとしても「実際に殺し合いするよりはマシじゃないか」という痛烈な皮肉に繋げてみせる辺りが上手かったですね。 純粋にコメディ映画として観た場合、現代の目線からは演出が冗長に感じられたりもするのですが「戦時に若く、美人で、色っぽいとは何事だ」などの台詞回しのセンスは、充分に面白い。 軍人達が懸命に「殺し合いの振り」をする横で、洗濯物を干してみせるオバちゃんの姿なんかも、思わず頬が緩むものがありました。 最後には、生真面目であったキャッシュ大尉までもが「お祭り」を戦争行為よりも優先してみせるようになったというオチも、予定調和な安心感があって、実に良かったです。 物語としての主人公は、ジェームズ・コバーン演じるクリスチャン少尉よりも、むしろ彼の方であったように思えました。 [DVD(字幕)] 6点(2016-07-22 17:57:53)(良:1票) |
476. くちびるに歌を
《ネタバレ》 合唱のシーンは、素晴らしいの一言。 ただ唄うだけではなくて、スポーツと同じように身体を鍛える必要もあると示す練習シーンを、事前に積み重ねておいた辺りも上手かったですね。 皆の努力の成果である歌声に、純粋に感動する事が出来ました。 その他にも、色々と「泣かせる」要素の多い映画であり、それに対して感心すると同時に「ちょっと、詰め込み過ぎたんじゃないか?」と思えたりもして、そこは残念。 特に気になったのが「柏木先生がピアノを弾けなくなった理由」で、どうも納得出来ない。 「私のピアノは誰も幸せにしない」って、誰かを幸せにする為じゃないとピアノを弾きたくないの? と思えてしまったのですよね。 終盤、その台詞が伏線となり「出産が無事に済む」=「音楽は誰かを幸せにする力がある」という形で昇華される訳ですが、ちょっとその辺りの流れも唐突。 世間話の中で「実は先生は心臓が弱い」という情報が明らかになってから、僅か三分程度で容態が急変する展開ですからね。 これには流石に「無理矢理過ぎるよ……」と気持ちが醒めてしまいました。 「マイバラード」を他の学校の合唱部まで唄い出すというのも、場所やら何やらを考えると、少し不自然かと。 個人的には、音楽というものは存在自体が美しくて素晴らしいのだから「音楽は素晴らしい」だけで完結させずに「……何故なら、人の命を救うから」という実利的な面を付け足すような真似は、必要無かったんじゃないかな、と思う次第です。 終盤の合唱シーンは、ただそれだけでも感動させる力があったと思うので、もっと歌本来の力を信じて、シンプルな演出にしてもらいたかったところ。 主人公を複数用意し、群像劇として描いているのは、とても良かったですね。 合唱というテーマとの相性の良さを感じさせてくれました。 特に印象深いのが、自閉症の兄を持つ少年の存在。 彼が「天使の歌声」の持ち主である事が判明する場面では「才能を発見する喜び」を味わえましたし、内気な彼が少しずつクラスメイトと仲良くなっていく姿も、実に微笑ましかったです。 「兄が自閉症だったお蔭で、僕は生まれてくる事が出来た」という独白も、強烈なインパクトを備えており、色々と考えさせられるものがありました。 欲を言えば「アンタもおって良かった」という優しい言葉を、彼にも聞かせてあげて欲しかったですね。 ストーリーを彩る長崎弁は、耳に心地良く、のどかな島の風景と併せて、何だか懐かしい気分に浸らせてくれます。 細かな部分が気になったりもしたけれど、それを差し引いても「良い映画だった」と、しみじみ思える一品でした。 [DVD(邦画)] 7点(2016-07-21 06:40:21)(良:2票) |
477. ぼんち
《ネタバレ》 「しきたり」「世間体」という言葉が出てくる度に、ちょっとした違和感というか、浮世離れした感覚を味わえましたね。 主な舞台となるのは戦前の日本なのですが、どこかもっと遠い国、遠い昔の出来事であるようにも感じられました。 何せ「妾を持つ事」ではなく「妾を養わない事」が世間からの非難の対象となるというのだから、現代の一般庶民からすると、眩暈がするようなお話。 お妾さんを何人も囲って、何人も孕ませて、主人公は良い身分だなぁ……と皮肉げに感じる一方、男性の本能としては羨ましく思えたりもして、何だか複雑でした。 終盤、戦争によって主人公は没落していく訳ですが、その尺が二十分程度しかなく、ちょっとバランスが悪いようにも感じられましたね。 もう少し苦労した事を示す描写が多かった方が、ラストの「まだまだ一旗あげてみせる」と気骨を失っていない主人公の姿を、素直に応援する事が出来たかも。 監督と主演俳優の名前を挙げるまでもなく、作り手の力量が確かなのは疑う余地が無いのですが、正直、少し物足りなさを感じる内容だったりもして、残念。 オチとして衝撃的に描かれている「男に囲われているだけと思われた女たちが、実は男よりもずっと強かだった」というメッセージに対しても(そんなの、もう分かり切った事だしなぁ……)と思えてしまい、今一つ盛り上がれない。 撮影技術が云々ではなく、こういった感性というか、価値観の違いによって、昔の作品である事を実感させられてしまった形ですね。 軽妙な関西弁での会話を聞いているだけで楽しくて、退屈するという事は全く無かったのですが、もう一押し何か欲しかったなと、勿体無く感じてしまう映画でした。 [DVD(邦画)] 5点(2016-07-20 19:46:12) |
478. 百万円と苦虫女
《ネタバレ》 作中人物に「えっ? 何で?」と思わされる事が多く、残念ながら肌に合わない映画だったみたいです。 まず、主人公の弟が「僕は逃げない」「だから受験はしません」と言い出す理由が分からない。 怪我させた相手に許してもらうまで諦めないというなら、別に中学が変わっても会いに行けば良い話だし、結局は事件を起こして問題児となったから受験を諦めたという、後ろ向きな結論に思えてしまいます。 主人公の彼氏が「彼女にお金を使わせていた理由」を言えなかった事も不自然で、男の見栄がそうさせていたというなら、どう考えても食事を奢ってもらったり借金したりする方が、情けなくて恥ずかしいのではないかなと。 極め付けがラストの主人公の行動で、結局また引っ越すって、どうしても理解出来ない。 「色んな人から逃げていた」と反省したはずなのに「今度こそ次の街で、自分の足で立って歩こうと思います」って、それ典型的な「明日から頑張る」な先送り思考じゃないかと、盛大にツッコんでしまいました。 これまで「自分探し」という行いからも逃げていた主人公が、今度こそ自分探しの旅を始めるという事なのかな……とも思ったのですが「今回は引っ越すけど、次の街では定住してみせる」なんて考えているようなので、そんな解釈すらも不可能。 泣いてスッキリしたら、またまた仕事を辞めて旅立ち「引っ越さずに、この場所で頑張ってみる」「彼氏を信じて待つ」という事さえも出来なかった姿からは、どうにも成長を感じ取る事が出来ません。 そもそも物語の合間に挟まれる「弟がイジメられる光景」が、実に胸糞悪くて、そちらの方が主人公の悩みなんかよりも余程深刻に感じられる辺り、物語の軸がブレているようにも思えました。 監督さんとしては、あの「男女が再会出来ずに、すれ違ってしまう切ないラストシーン」を描きたかったがゆえに、多少の不自然さには目を瞑ってでも、こういうストーリー展開にしたのかなぁ……と推測する次第ですが、真相や如何に。 そんな本作の良かった点としては「かき氷を作るのが上手い」「桃を採るのが上手い」と褒められるシーンにて、こちらも嬉しくなるような、独特の爽やかさがあった事が挙げられますね。 こういった形で「働く喜び」のようなものを描いている映画は、とても貴重だと思います。 同僚の女性に「良いんですか? 誤解されたままじゃないですか」と、長台詞で「不器用な彼氏の真意」を種明かしさせた件に関しても、今になって考えてみると、良かったように思えますね。 当初は(ちょっと分かり易過ぎるよなぁ……)とゲンナリしていたのですが、曖昧なまま「もしかしたら、愛情ゆえにお金を使わせていたのか?」と含みを持たせるだけで終わるよりは、ずっと誠実だったかと。 主人公に「来る訳ないか」と言わせた点も含め、両者の恋愛模様に対し、はっきりと答えを出してみせた姿勢には、好感が持てました。 [DVD(邦画)] 3点(2016-07-20 06:37:06)(良:2票) |
479. ひとり狼
《ネタバレ》 市川雷蔵、良いですねぇ。 正直に告白すると、これまで観賞してきた彼の主演作にはあまり「当たり」が無かったりもしたのですが、これは間違いなく「面白かった」と言える一品。 主演俳優のカリスマ性の高さに、映画全体のクオリティが追い付いているように感じられました。 オープニング曲で映画のあらすじを語ってみせるかのような手法からして、何だか愛嬌があって憎めないのですが、本作の一番面白いところは「理想的な博徒とは、こういうものだよ」と、懇切丁寧に描いてみせた点にあるのでしょうね。 賭場で儲けても、勝ち逃げはしないで、最後はキッチリ負けてみせて相手方の面目を立たせる。 出された食事は、魚の骨に至るまで全て頂き、おかわりなどは望まない。 たとえ殺し合っている最中でも、出入りが片付いたと聞かされれば「無駄働きはしない」とばかりに、刀を収めてみせる。 一つ一つを抜き出せば、それほど衝撃的な事柄でも無かったりするのですが、映画全体に亘って、この「博徒の作法」とも言うべき美意識が徹底して描かれている為、そういうものなんだろうなと、思わず納得させられてしまうのです。 数少ない不満点は、主人公の伊三蔵が「卒塔婆が云々」と、声に出して呟いてしまう演出くらいですね。 これには流石に(気障だなぁ……)と、少々距離を感じてしまいました。 その他、ヒロイン格であるはずの由乃の言動が、ちょっと酷いんじゃないかなとも思いますが、まぁ武家の娘なら仕方ないかと、ギリギリで納得出来る範囲内。 そんな由乃から、手切れ金のように小判を渡され、一人で逃げるようにと伝えられる場面。 そこで、雨の中に小判を投げ捨て、啖呵を切って走り去る主人公の姿なんかも、妙に恰好良かったりして、痺れちゃいましたね。 たとえ本心では無かったとしても、ここで自棄になって「堕胎」を仄めかしてしまったからこそ、最後まで伊三蔵は我が子から「おじちゃん」呼ばわりされるまま、親子として向き合う事は出来なかったのだな……と思えば、何とも切ない。 「父上は亡くなられた」「立派なお侍だった」と語る我が子を見つめる際の、寂し気な笑顔のような表情も、実に味わい深いものがありました。 そして、それらの因縁が積み重なった末に発せられる「これが人間の屑のするこった」「しっかりと見ているんだぞ」からの立ち回りは、本当に息を飲む凄さ。 同時期の俳優、勝新太郎などに比べると、市川雷蔵の殺陣の動きは、少々見劣りする印象もあったりしたのですが、それを逆手に取るように「傷付いた身体で、みっともなく足掻きながら敵と戦う主人公の、泥臭い格好良さ」を描いているのですよね。 その姿は、傷一つ負わない無敵の剣客なんかよりも、ずっと気高く美しいものであるように感じられました。 終局にて発せられる「縁と命があったら、また会おうぜ」という別れの台詞も、完璧なまでの格好良さ。 市川雷蔵ここにあり! と歓声をあげたくなるような、見事な映画でありました。 [DVD(邦画)] 8点(2016-07-20 01:21:28) |
480. お!バカんす家族
《ネタバレ》 「ホリデーロード4000キロ」から続く、Vacationシリーズの五作目である本作品。 (二作目は「ヨーロピアン・バケーション」 三作目は「クリスマス・バケーション」 四作目が「ベガス・バケーション」) けれど、自分のように上記作品群を未見の人間であっても、充分に楽しめる内容となっています。 何せ作中にて「前回の旅っていうのを知らないけど……」「構わないさ。今回は、別の良い旅になる」という会話が挟まれているくらいですからね。 作り手としても、意図的に「シリーズ未見の人でも大丈夫」というメッセージを送っているものかと思われます。 豪華な出演陣に、シニカルな笑い。 グランドキャニオンをはじめとする道中の景色など、様々な魅力に溢れた映画なのですが、やはり主人公であるオズワルド一家の存在感が大きかったですね。 ラスティは、一見すると頼りなくてドジなダメ親父。 けれど、父譲りの「絶対に諦めない」という長所と、何よりも家族を想う優しさを備えた人物なのだから、自然と応援したい気持ちになってきます。 そして、少々生活に疲れ気味ながらも、充分に美人で魅力的な奥さん。 ナイーブな性格の兄と、やんちゃな弟である息子二人も可愛らしくて、観賞後には、この家族が大好きになっていました。 中には少々下品なギャグもあったりするのですが 「不快な映像は、極力見せない」 というバランス感覚が巧みであり、作品全体に何処となく御洒落なセンスすら漂っているのだから、本当に嬉しい限り。 個人的に好きなのは、幼い息子から 「小児性愛者って何?」 「トイレの壁に穴が開いていたけど、あれ何?」 などと質問された際に、ラスティが丁寧に教えてあげようとして、妻に止められるという一連のやり取りですね。 劇中で死亡したかと思われたリバーガイドさんが、実は生きている事がエンドロールで判明する流れなども「観客に後味の悪さを与えない」という配慮が窺えて、とても良かったです。 自分一人の時なら列に横入りされても我慢してみせたラスティが、家族と一緒の時に横入りされたら本気で怒ってみせるという脚本なんかも、実に好み。 この手の映画ではお約束とも言える「最初はバラバラだった家族が、見事に一致団結した」事を示すシーンにて、挿入曲を効果的に用いている辺りも上手かったですね。 その他、シリーズ前作まで主役を務めていたクラーク・グリズワルドが登場するファンサービスに、妻の大学時代の知られざる過去なんかも、映画に深みと彩を与えてくれています。 「愛する妻に、新婚当初の笑顔を取り戻してもらう事」 「喧嘩の絶えない息子達に、仲良くなってもらう事」 という旅行の目的が、ラストにて完璧に近い形で果たされた辺りも、観ていて気持ち良い。 肝心の遊園地では、乗り物の故障に見舞われたりもしたけれど、そんなトラブルなんて些細な笑い話。 旅行に出かける前よりも、ずっと強い絆で結ばれた一家の姿を見ているだけで、何やらこちらまで「大切な旅行の思い出」を共有出来たような、素敵な気分に浸らせてくれる。 素晴らしい映画でありました。 [DVD(吹替)] 9点(2016-07-18 22:23:32)(良:3票) |