501. 白痴(1999)
坂口安吾の原作をパラレルワールドもののSFのごとく大胆に(しかし物語はあくまで忠実に!)映像化した手塚真の野心が、すべてに成功しているとは言い難いけれど、見る者をその熱気で引っ張っていく。若い監督が小手先の才気を弄するばかりの作品に自閉するなか、彼の壮大な「ひとりよがり」は、一種爽快ですらある。ぼくは断固支持するぞ! とにかく、オープニングのぶっ飛び方にどうぞ驚いてくだされ。好き・嫌いは別にして、こんな映画、今までなかったから。 7点(2003-07-14 18:04:12) |
502. ローカル・ヒーロー/夢に生きた男
そう、まさに見る者をしみじみと幸福感に包んでくれる至福の1本ですよね。主人公の俗物青年が小さな村の人々のなかで暮らすうちに、いつしか「人生にとって最も大切なもの」に気づいていく…と言う展開自体はありがちなれど、不思議なユーモアと詩情が入り交じった語り口に、クスクス、ホロリ。ビル・フォーサイスという監督は、本物の才人じゃないかな。ちなみに、マイケル・J・フォックスの『ドク・ハリウッド』はこの映画の影響ありありですよ(出来は…だけど) 10点(2003-07-14 17:53:12)(良:1票) |
503. インド夜想曲
それまでハードボイルドもどきの犯罪映画なんかでお茶を濁していたアラン・コルノ-監督が、別人のごとき冴えを発揮。とある人物を探して彷徨を続ける男(だが、探しているのは一体誰なのか。あるいは、彼自身?)を追うキャメラのけだるいというか、アンニュイなタッチが絶妙でありました。ジャン=ユーグ・アングラードも、ドンピシャのはまり役。個人的には、彼の代表作じゃないかと。 8点(2003-07-14 17:44:55) |
504. 学校の怪談4
あまりの低評価ぶりに、いささかカッとなっての満点献上。ホラーだとか、子供騙しだとか、そういった以前に切なく、そして心優しい珠玉作品じゃないですか! 何十年も前に死んだ子供たちは永遠に子供のままで、ひとり生き残った男の子が老人となって再会する。そこに生と死の間にあるどうしようもない”断絶”を漂わせて、でもそれを乗り越えるのが「死者を忘れないこと。記憶のなかで彼らは生き続ける」ということだ、と教える本作に、ぼくは感涙しきりだった。シリーズ中でも、最も地味な印象は否めないけど、ここ最近の日本映画じゃ最も美しい1本だと、ぼくは本気で信じております。松之助師匠、絶品! 10点(2003-07-14 15:09:01)(良:3票) |
505. 愛すれど心さびしく
カーソン・マッカラーズというアメリカ南部出身の女性作家による長篇小説『心は孤独な狩人』を映画化したもの。聾唖の男が小さな町にやって来て、周囲の人々は彼の優しさや温かさに心を癒されていく。が、聾唖の男は唯一の友人が死んだことでことで自殺。その時、彼に救われた人々は、ようやく誰も彼の孤独を理解してあげようとしなかったことに気づく…。という、救いのないストーリーではあるんだけど、映画は全編ナイーブな叙情と感傷に包まれていて、全編涙なくしては見られない。原作に比べて甘過ぎるという感じは否めないけれど、こんなにも繊細で美しい語り口の映画も、そうはないでしょう。主演のアラン・アーキンが素晴らしく、本作でデビューしたソンドラ・ロックも、ボーイッシュで傷つき易い美少女を好演しています。 10点(2003-06-30 18:28:29)(良:1票) |
506. アデルの恋の物語
これより完成度の高いトリュフォ-作品もあるだろうし、もっと「面白い」ものもあるかもしれない。けれど、ぼくにとってこれが最高のトリュフォ-映画。イザベル・アジャーニの鬼気迫るヒロインぶりを、突き放すんじゃなく、そっといたわるような眼差しで包み込む演出のデリカシー。しかしそれでもどんどんと堕ちていくアデル・ユゴーの愛の凄まじさに圧倒されてしまう。ここまでくると、その盲目的な狂気の愛は、一種崇高ですらある。それを「ストーカー」みたいな一語で斬られちゃ、困りますよ! 10点(2003-06-30 14:59:43)(良:1票) |
507. 穴(1960)
こういう作品を見せられると、映画って実はなんの進歩もないばかりか、退歩してんじゃないか…と思わざるを得ない。いかにもジョゼ・ジョバンニらしい男の意気と意地に貫かれた”やくざもの”のドラマを、ベッケル監督が、まるでブレッソンの『抵抗』への対抗意識でもあるかのごとくストイックかつシンプルな大胆さで、圧倒的な「脱獄もの」に仕立てあげている。囚人たちが壁をガンガンと大きな音を建てて掘るシークェンスなんぞ、こっちが「聞こえるんじゃないの…」と心臓が縮みあがった。ラストの裏切り者に対する圧倒的な軽蔑の眼差しも、あんな眼で見られるような男にだけはなるまい、と妙に感じいったり。完全無欠な傑作であります。 10点(2003-06-30 14:49:18) |
508. 悪の花園
西部劇というより、冒険ロマンてな感じ。スケールの大きな画づくりだし、物語なんだけど、今見ると(たぶん当時としても)展開ノロノロしすぎで退屈なんじゃないかな。もっとも、↓の方もおっしゃってますが役者たち、特にリチャード・ウィドマークの魅力全開で、かっちょいいキザな台詞の数々も実に決まってます。バーバード・ハーマンの、ヒッチコック作品の時には絶対ありえないような正調ハリウッド大作風音楽も面白いし。 7点(2003-06-30 14:17:17) |
509. アクシデンタル・スパイ
アメリカ映画界での成功後、「しかし俺はあくまで”ジャッキ-映画”を撮る!」とばかりに情熱を注ぎ込んだジャッキー・チェン近来の快作。『ラッシュアワー』も悪くないけど、やっぱりジャッキーには、自作自演で彼らしいスペクタクルの創造に励んでいただきたい。幾つになっても…。 8点(2003-06-30 14:02:21) |
510. E.T.
今回あらためて見直して、ETに意思が通じると分かった主人公の少年が、身の回りの日用品やなんかを「これは何々で、これはこんな風に使うもので…」と夢中になって教えようとするシーンで涙がこみあげてきた。ああ、ひとりっ子や、友だちのいない子どもって、ようやく仲良くなれる相手を見つけたときに、こんな風に自分の知っていることを教えてあげようとするんだよな。もっともっと自分を分かってもらおうとするんだよな…。そんな、多感で孤独な少年期の”こころ”を描かせたら、スピルバーグの「天才」に優る者はいない。そしてこの作品は、そんな彼の最も彼らしい良さが発揮されたものだと思います。そう、彼の映画は、見かけの派手派手しさや娯楽性の裏に、いつもそういった純粋なイノセンスが息づいている。それはとても傷つきやすく、しかし、キラキラと輝いていて、あやうさと美しさがひとつになっている…。トリュフォ-監督がスピルバーグのことをあれほど”評価”していたことも、きっと彼の内にもう一人の自分を、「アントワーヌ・ドワネル」を見たからでしょう(この『E・T』が世界中で大ヒットしたからといって、それだけで批判するなんて向きはナンセンスだ。それだけこの映画が「幸福」だったのだと、祝福してあげようじゃないか。もうひとつの、同じ《主題》を変奏した『A・I』が、どこまでも「不幸」だったのに対して。しかしぼくは、どちらも大好きです)。今さらながら、満点献上。 10点(2003-06-30 13:46:25)(良:4票) |
511. ブラック・レイン
最初に見た時、何ちゅう粗っぽい映画なんや…と呆れたものだったけど、大阪の街を無国籍な近未来都市風に撮ってみせたリドリー・スコットの映像センスだけは認めざるをえない。日本人スターご両人では、皆さんの絶賛する優作兄ぃより以上に、健さんの実直なキャラの方が圧倒的に素晴らしいとぼくは思っとります。特にアンディ・ガルシアとレイ・チャールズを歌うシーンは名場面! ん~、意外とこの映画をキライじゃないのかも。 6点(2003-06-30 13:35:18) |
512. 8 Mile
監督がご贔屓カーティス・ハンセンなんで、「何でアイドル(?)歌手が主演する映画なんぞを彼が…」と半信半疑で見たところ…ハイ、すっかりハマッってしまいました。エミネムとその友人たちの閉塞感、街そのもののどんづまり感が実になまなましく表現されていて、しかもさわやかな余韻を残してフィニッシュさせるなんざ、お見事の一語。風俗的には「現在」なんだけど、映画的にはむしろ50・60年代風の「古風さ」を感じさせるのが良くも悪くも普遍的な青春映画たり得たポイントなんでしょうね。それにしても、キム・ベイシンガー、よくこんなアバズレおっ母さん役を引き受けたもんだ。拍手! 8点(2003-06-30 13:23:11) |
513. ムーラン・ルージュ(2001)
正直バズ・ラーマン監督の安っぽいキッチュ趣味はには、かなりの軽蔑感を持っていたんだけど(『ロミオとジュリエット』なんか、あの安さにゃ殺意すら抱いたね)、ここまで徹底されてしまうと、これはもう一つの”美学”として認めなくちゃ仕方ない。『椿姫』をモチーフに、喧噪と感傷に満ち満ちた金ピカ映像の洪水の中に、崇高な瞬間がいくつも現われる。ニコール・キッドマンも最高だし、おのれの不明を恥じましたです。許せ、ラーマン! 9点(2003-06-30 13:05:12) |
514. フロム・ヘル
昨今のCGまみれな劇画調伝奇ロマン(クソくだらない『ヴィドック』とかね)かと思いきや、19世紀ロンドンの、いかにももっともらしい雰囲気を実に良く漂わせた秀作じゃんすか! 特にヘザー・グラハムたち娼婦の描写が見事で、こういう題材じゃない、ディケンズの小説の映画化なんかをヒューズ兄弟監督には期待したいとも思った。あのエレファントマンの唐突な登場のさせ方も、ほんと才気を感じさせるし。良いっすよ、ダンナこれ!! 8点(2003-06-30 12:54:56) |
515. 愛の世紀
前半の美しいモノクロで撮られた恋愛(について)の考察は、メランコリックで本当にうっとりするくらい素晴らしい。一転してデジタル映像で撮られた後半の、色彩の洪水の中で演じられるノーテンキなアメリカ(映画)批判にゃ大笑い。ますます「映画」そのものから自由になっていくゴダールに、ただ羨望と憧憬あるのみです。 9点(2003-06-30 11:59:58) |
516. 逢いたくてヴェニス
ヒロインがとにかく魅力的! ちょっと歌手の岡本真夜ににているヒラメ顔なんだけど、子連れで浮気旅行のダンナを探して復讐(!?)の旅に出る、その珍道中ぶりが、実にファニーでチャーミングに描かれているのがいい。ただ、あの子どもが、何だか大人たちの身勝手さの犠牲になってるのに、映画はそのことにまるで無頓着ってのが…。でも、拾い物的オススメ作品です。 7点(2003-06-30 11:48:54) |
517. 魔王
原作の壮大かつ深遠な寓話性を、分かりやすいおとぎ話風に仕立て直したところに賛否が分かれそうだけど、ジョン・マルコヴィッチの神憑かり的演技だけでも見る価値あり。それにしても、フォルカ-・シュレンドルフ監督って、こんな、ただ要領良く作品をまとめるだけの凡庸なただの職人に成り果てたのね。あの『ブリキの太鼓』の鬼才ぶりはどこへ…。 6点(2003-06-28 18:06:50) |
518. マイ・フレンド・フォーエバー
少年ふたりが、自分たちで病気の特効薬を見つけようと、そのへんの雑草で実験を重ねるシーンで、笑って泣いた。こんな馬鹿げた、でも本人たちは切実だったりするほろ苦いエピソードって、誰にでも一つはある者だものね…。アメリカ映画って、こういう少年時代の友情物語を描かせたら本当にうまいよなあ。できれば、10代のうちに見たかったです…。 6点(2003-06-28 17:56:38) |
519. マーズ・アタック!
思えば、この映画がコケたために、以後のティム・バートンは「当たる映画」ばかりを撮らざるを得なくなったんだよなあ。『スリーピー・ホロウ』も『猿の惑星』も、一見バートンらしいけど、まるで彼のニセモノが撮ったみたいな代物だったし…。とにかく、あのエゲツない火星人の悪ノリぶりと、悪趣味ぶりこそ「マイナーな天才児」の真骨頂。ただし、巨額の予算を与えてここまで彼にしたい放題させちまったプロデューサーは、やっぱりバカ(笑)だね。実は小生もこの映画、大好き(特に、あの脳みそパチュンの火星人が死ぬシーンの気色良さ!)だったりする一方で、やはりバートンにはせめて『バットマン・リターンズ』くらいのテイストでまとめてほしかった。 5点(2003-06-28 17:39:36) |
520. 鏡
水・火・風・土(大地)の四元素とは、タルコフスキー作品を構成する原イメージ。それだけで、自身の記憶を再構築してみせた、さながら「タルコフスキー大全」といった趣の映画っすね。文字通り、全編息を飲むくらい美しく、夢幻的で、隠喩に富んでいる。けれど、正直言ってイメージに惑溺しすぎている感もある。溺れるにしてはタルコフスキーの執着するイメージって、例えばパラジャーノフとかみたいに破天荒さがない、ただ端正なだけ弱いんだよね。『ノスタルジア』のときみたいに、あくまで主題を補完するときにこそ魅力的なんだと、ぼくは思うんだけど…。 8点(2003-06-28 17:00:34) |