501. ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
《ネタバレ》 愛する肉親の死と向き合って、それを乗り越えていくまでを描いた成長譚。 主人公の少年にアスペルガー症候群の兆候があると判明した瞬間、それまでの彼の言動に納得させられた一方で(じゃあ母親が放任主義を取っているのは不自然じゃないか?)との疑念が湧いていたのですが、それを終盤にて吹き飛ばしてくれる脚本が見事でしたね。 「あのビルにいたのが、ママなら良かった」などの痛烈な台詞が盛り込まれていただけに、最後は母子が和解出来た事に、心底から安堵させられました。 ナイーブな少年を主役とした映画という事で、何処か既視感のある作風だなと思っていたのですが「リトル・ダンサー」と同じ監督さんだと知って納得。 エキセントリックな表現が散見される中、作品全体に不思議な上品さが漂っている辺りなんかも共通していましたね。 上述のように「本当は息子を見放していた訳ではなく、ずっと見守っていたのだ」と分かる母親の件は、凄く良かったのですが、その分、途中で離脱する形となった祖父の扱いには不満も残ります。 また、ラストシーンに関しても、主人公がブランコから飛ぶ姿で終わるのかと思いきや、父親に言われた通りに「ジャンプはしない」形で終わった点に関しても、どこか興醒めするものがありましたね。 (子役に実際に飛ばせたりしたら危ないので、作中で父親に「飛ぶ必要は無い」と言わせたのではないか?) なんていう疑念が頭に浮かんで来てしまい、最後の最後で現実に引き戻されてしまった形。 勿論、観客である自分の疑い深さが悪いだけなのですが「飛ばなくていい理由」が「危険だから」というのは、如何にも寂しいのですよね。 それならば父親が飛んでみせる必要は無かったと思うし「飛んだ瞬間、鳥になった気がした」という台詞も不要。 飛ばずにブランコを漕ぐだけで父親と同じ気分を味わうというエンディングは、中途半端に思えてしまいます。 主人公がブランコに乗った時点で終わらせるなり、揺れるブランコの音と着地の音だけで飛んでみせた事を表現するなりしてもらった方が、好みだったかも。 作中で嘘をつく度に回数を数えてみせたり、父親の死を太陽の消失に喩えてみせたりする主人公の姿は、とても良かったですね。 純真で、それゆえに何処か大袈裟で、他者に理解される事を無意識に拒んでみせているかのような、少年らしい魅力が感じられました。 世の中には、主演の少女を観賞して愛でる為の映画も存在しますが、それと同じような楽しみ方も出来る映画かと思う次第です。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-23 12:10:41)(良:1票) |
502. シャークネード<TVM>
《ネタバレ》 「サメ映画」というジャンルは、非常に当たり外れが大きいです。 もしかしたら当たりよりも外れの方が多いのでは……と考えてしまう事も屡々。 それだけに、本作のような掘り出し物に出会えた時は、その喜びも一入ですね。 無数のサメが竜巻によって空に舞い上げられ、それが浸水状態の市街地に降り注いでくる。 そのアイディアだけでも拍手喝采なのですが、本作が面白い要因としては、きちんとパニック映画としての基本を押さえた筋運びになっている事が大きいのだと思います。 「アイディアと勢いさえあれば、面白い映画は撮れる!」という考えも間違いではないでしょうけれど、やはり基本は大事。 まず、この作品においては「誰が死ぬのか分からない」というドキドキ感の煽り方が、とても巧みなのですよね。 冒頭にて、主要人物っぽく登場した船上の二人が、すぐに殺されてしまう辺りは少々やり過ぎ感もありましたが、それが結果的に上手く作用しており、後に登場する人物達の生存予測を、適度に困難にしてくれています。 そして、もう一つ大事なのが「観客が納得するような人物を生き残らせる」という点。 上述の「誰が死ぬのか分からない」展開と相反してしまう、この条件。 生き残りそうな人物でも死ぬからこそ油断ならない面白さに繋がる一方で、やはり観賞後の爽快感を考えると、生き残って欲しいと思わされた人物が死んでしまうのは、納得出来ないものがありますからね。 大抵のサメ映画は、この矛盾を解消する為に四苦八苦している印象がありますが、本作においては、そのバランス感覚が絶妙。 ラストには反則的な「実は生きていた」展開も駆使して、観客の後味を良くしてくれるのだから、嬉しい限りです。 サメが泳いでいる「道路」の上を、車で走って避難するという絵面だけでも面白いし、血生臭いシーンは控えめになっている辺りも好み。 主人公のフィンは「困っている人を放っておけない」という、典型的なタイプではあるのですが、決してテンプレをなぞるだけで終わっていない点も、良かったと思います。 その性格ゆえに 「私達家族よりも、他人の方が大事なの?」 と妻に責められて、家族関係が不和となっている設定など、きちんと個性が確立されているのですよね。 他人よりも家族を優先して守ろうとする事だって、決して間違いではない。 それでも主人公は、孤立したスクールバスを見かければ、避難する足を止めて、子供達を助け出そうとする。 あまりの「良い奴」っぷりに、惚れ惚れさせられます。 中盤から終盤にかけて、やや間延びしてしまった印象があるのは残念でしたが、その代わりのように「チェーンソーを携えてサメの口の中に飛び込む主人公」なんていう、トンデモないクライマックスを用意してくれているのだから、もう大満足。 愛すべき映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-06-22 11:16:24)(良:4票) |
503. ホーボー・ウィズ・ショットガン
《ネタバレ》 ショットガンという武器は好きです。 映画に登場するありとあらゆる武器の中で、どれか一種類を選べと言われたら、数多の非現実的な武器を押し退けて、ショットガンを選んでしまいそうなくらいに好き。 そんな魅惑の武器を引っ提げて、ルトガー・ハウアーが大暴れしてくれるというだけでも満足させられる一品ですね。 主人公が芝刈り機という心の癒しではなく、ショットガンという武器を選んだ気持ちも、実に良く分かる。 やたらと血飛沫が飛び散ったり、敵が本当に胸糞悪い悪党だったり、ラストが尻切れ蜻蛉に思えたりする辺りは、如何にもグラインドハウス的なノリで、少々苦手だったりもしたのですが、そんな不快感も吹き飛ばす程の勢いがありました。 冒頭、穏やかで牧歌的な風景と音楽から始まって、主人公が無法都市へと迷い込み、残虐な私刑現場を目にするという流れの早さ、急転直下っぷりには呆気に取られましたが、どこかそれが突き抜けていて、気持ち良いんですよね。 プラスの感情とマイナスの感情、両方を刺激してくれる作風なのですが、ギリギリで前者の方が上回っているというバランス。 例えば、中盤にて悪役がスクールバスをジャックし、火炎放射器で子供達を焼き殺す場面なんかは、この映画にしては珍しく直接的な殺害シーンを描いていない。 それが中途半端で格好悪いというか(何だよ、結局子供には遠慮するのかよ)という白けた想いに繋がる面も、あるにはあるのですが、やっぱり観客を心底から不快にさせない為には、そうするのが正解だったのだろうと思えます。 何にも考えずに好き勝手に撮ったように見えても、そういった見極めというか、匙加減が、きちんと出来ている印象ですね。 終盤にてヒロインが行う 「浮浪者はホームレスでは無い。ストリートをホームとしているのだから、彼らにはホームを掃除する権利がある」 という演説も、妙に説得力が感じられたりして、印象深い。 穿った見方をすれば、銃による自衛を積極的に肯定している、如何にも米国的な作品だと定義付ける事も、可能だとは思います。 でも、それよりは単なる娯楽作品として観賞し、素直に楽しんだ方が、ずっとお得だと思えるような映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-22 07:35:14) |
504. フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白
《ネタバレ》 あらすじは承知の上で観賞したのですが、冷凍保存されるまでに二十分以上も掛かる構成には驚かされました。 主人公が軍人という事も相まって、どうしても「フィラデルフィア・エクスペリメント」を連想する内容となっているのですが、あちらの品とは異なり、元の世界で一緒だった女性への一途な純愛モノとして仕上げた事に、独自の魅力を感じられましたね。 途中、現代で出会った女性も交えた三角関係に発展する事を匂わせるミスリードもあったりしただけに、主人公が初志貫徹してくれたのが嬉しかったです。 ラストシーンまで辿り着けば、上述の「元いた世界」の尺が長い事にも納得がいくのですが、それでも「序盤と最後だけ別の映画みたい」という印象も拭えなかったりして、そこは少し残念。 その分、過去からやってきた主人公と、現代で出会った少年との交流部分に関しては、凄く良かったと思います。 ツリーハウスに主人公を匿ってくれて、食べ物や飲み物なんかを届けてくれる辺りも、幼少時の「秘密基地」感覚を刺激してくれて楽しかったし、幼くして父と別れた少年との間に、疑似的な親子のような絆が育まれていく様が、とても微笑ましかったのですよね。 好きな女の子に対してどう接するべきかと恋愛相談してくれる辺りも可愛かったし、何と言っても一緒に「飛行機の操縦ごっこ」をしてみせる場面が最高。 それが終盤の「実際に二人で飛行機に乗ってみせる」展開に繋がる流れには、そう来たかぁ……と感心させられました。 ラストシーンにて、愛する女性と再会して抱き合うだけで終わりではなく、駆け寄って来た少年を彼女に紹介してみせる姿も描かれていましたが、どんな風に話してみせたのかが気になるところです。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-22 03:32:28)(良:2票) |
505. ハンター(1980)
《ネタバレ》 始まって十数分、粉塗れになる乱闘シーンで「あれ?」と思い、そこから更に三十分後の爆発シーンで、ようやくコメディ映画なのだと気が付きました。 かと思えば、クライマックスにおける電車上のアクションは中々の迫力であったりして「一粒で二度おいしい」タイプの作りとなっていますね。 これが遺作であるというスティーヴ・マックィーンが、色んな面を見せてくれたという意味においては、非常に嬉しい内容。 ただ、自分としては正直コメディ部分は退屈だったりもして、残念でした。 その分、終盤のアクションパートでは画面に釘付けになる事が出来たのですが(どうせなら両方を楽しんでみたかったな……)と、切なく感じてしまったのですよね。 好きな俳優さんの作品であるだけに、全面的に肯定出来ない事が、もどかしかったです。 ラストに関しては、ほのぼのとしたハッピーエンドで締められており、驚くと同時に癒されるものがありましたね。 西部劇、刑事ドラマ、脱獄物と、シリアスな作風の品に出演している印象が強いマックィーン。 そんな彼が、何とも優しい手付きで赤ちゃんを抱き上げて、父親として笑ってみせている。 その姿が、最高に似合っていて、最高に決まっているのだから、本当に凄い事だと思います。 映画の内容そのものよりも、最後の出演作までマックィーンは格好良くて、魅力的だったという、そちらの方に感動させられた一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-21 12:56:14)(良:1票) |
506. ハミングバード
《ネタバレ》 まさかジェイソン・ステイサム主演の恋愛映画を拝める日が来るとは思っておらず、驚かされましたね。 互いに心の傷を抱えた者同士の、束の間の交流。 二人の心情が、とても丁寧に描かれている作品だと感じました。 そこかしこにアクション映画としての要素が含まれている事に関しては、嬉しくもあったのですが、やや焦点がズレているようにも思えて、少し残念。 主人公が精神的な病を抱えているという設定も、ちょっと感情移入しにくいものがありましたね。 終盤にて「見えるか? ハミングバードだ」と言われても、今一つ共感出来なくて、どうしても距離を置いてしまいます。 一番の難点は、ヒロインがドレス姿に着替えて会いに来てくれたシーンにて、主人公ほどの衝撃と喜びを味わえなかった事でしょうか。 非常にマニアックな発言で申し訳ないのですが、彼女に関しては「眼鏡をかけたシスター」としての普段の姿の方が好みだったもので、着飾った姿には(なんか……普通の美人のお姉ちゃんだなぁ)と、あんまりテンションが上がらなかったりしたのですよね。 ラストも微かな救いはあるけれど、ハッピーエンドとも言い難いものがあり、これも好みではありません。 けれど「人並みに生きられたこの夏を、君と過ごせて良かった」という告白に対しては、胸を打たれるものがあったし、悲劇的であるがゆえの美しさのようなものは感じられましたね。 子供時代に性的虐待を行っていた大人を殺傷したというヒロインの過去には同情出来たのに対し、戦場で仲間を殺された腹いせに無関係な民間人を殺したという主人公の過去には流石に同情出来ない点がマイナスだと思っていたのですが、それに関しても(あぁ、だからヒロインと違って主人公は自殺のような末路を辿るのか……)と、一応は納得。 ビターな味わいの、大人の映画でありました。 [DVD(吹替)] 5点(2016-06-20 23:03:39)(良:1票) |
507. ミリオンダラー・アーム
《ネタバレ》 ストーリーの概要を知った段階で「これは好みの映画のはず!」と予測していたのですが、それが当たっていて嬉しかったですね。 人物間の絆が育まれるまでの過程にて、さほど劇的なイベントは起こらない点。 そして、目標が「プロで活躍してみせる事」ではなく「プロになる事」に設定されている点など、実話ネタゆえの物足りなさのようなものは感じましたが、それ以上に胸をときめかされるものが多かったです。 涙腺を刺激された場面も幾つかあって、特に印象深いのは、父と子の別れの件。 母国インドを離れ、アメリカで野球に挑戦すると息子に告げられた父親が「お前なら、きっとやれる」と、強く抱き締めて送り出してあげる。 当初は息子の野球挑戦に反対していた、頑固者の親父さんとして描かれていただけに、この展開には「えっ、認めてくれるの!?」という意外性も内包されていて、凄く良かったと思います。 それは裏を返せば「何故、急に息子の事を認めて応援してくれたのか、描写が不足している」とも言えるのですが、少なくとも自分は全然気になりませんでした。 それまでは父親の言いなりになって生きてきた、内気な息子であった事が示唆されていただけに、はっきりと目を見て意思表示してくれた姿が、親父さんとしては嬉しかったのだろうな、と推測します。 上述のシーンが凄く良かったもので、そこが本作のクライマックスかなと思っていたら、それを裏切ってくれた辺りも素敵。 ラストのプロテストの場面。 「君達が成功する事は、インドの子供達に夢を与える事に繋がる」という通訳の言葉には、本当に感動させられましたね。 それによって勇気を与えられ、見事にプロ選手になってみせた二人。 そしてエンディングでは、彼らを真似して野球に興じるインドの子供達が描かれるとあっては、もう脱帽。大満足です。 良い映画だったと、確信を持って言える一品でした。 [DVD(吹替)] 8点(2016-06-19 10:05:43)(良:1票) |
508. ファーナス/訣別の朝
《ネタバレ》 クリスチャン・ベールが髭を蓄えた姿に、最初は違和感も覚えたのですが、すぐに慣れる事が出来て、一安心。 これはこれでワイルドな魅力があって良いんじゃないかと思えましたね。 特にお気に入りなのは「弟を思いやって、密かに借金を肩代わりしてみせる場面」と「別れた恋人の妊娠を祝福してみせる場面」の二つ。 主人公の優しさ、人の良さ、利己的になれない善人ゆえのもどかしさなどを丁寧に演じられており、相変わらず素晴らしい役者さんだなと、再認識させられました。 映画の内容はというと、往年のアメリカン・ニューシネマを彷彿とさせる作りとなっており、全体的に陰鬱な雰囲気が漂っているのが特徴。 鹿狩りが印象的に描かれている点などは「ディア・ハンター」へのオマージュではないかとも思わされましたね。 脇を固める俳優陣も非常に豪華であり、彼らの演技合戦を眺めているだけでも楽しかったです。 ただ、冒頭にてウディ・ハレルソン演じる悪役が、北村龍平監督の「ミッドナイト・ミート・トレイン」を観賞中に喧嘩を始めるシーンの意味は、少し分かり難くて困惑しました。 後にキーパーソンとなるキャラクターを、事前に紹介しておく事が目的だったのでしょうか。 上映作品のチョイスに関しても引っ掛かるものがあり、ともすれば映画がつまらないせいで作中人物が退屈して暴れ出したのかと邪推出来たりもするのですが…… まぁ、監督さんがあの映画を好きだから選んだのだろうなと、好意的に解釈したいところです。 基本的なストーリーラインとしては、弟を殺された兄が復讐する形となっているのですが、どうもそれだけでないような印象も受けましたね。 それというのも、主人公の境遇が余りにも悲惨過ぎて、弟の死さえもがその「不幸な要素」の中の一つにしか思えなかったのです。 老後は病に侵される事が約束されているような製鉄所での仕事。 交通事故によって人を死なせてしまった罪悪感。 刑務所で暴力に晒される日々。 愛する女性との別れ。 父親の病死。 これらの事件が次々に起こり、主人公は鬱憤を溜め込んでいた訳なのだから、弟の死はそれを爆発させた引鉄に過ぎなかったのではないかな、と。 勿論「数々の不幸に対しても感情を露わにしなかった主人公が、弟の死に対してだけは本気で怒った」訳なのだから、それだけ弟を愛していたのだと解釈する事も可能だとは思います。 けれど、その場合はラストにて悪役に「お前の弟はタフだった」と言わせた事に、疑問符が残るのです。 本当に弟への愛情だけが動機であったのならば、そんな弟の凄さを認めてもらった事に対し、主人公のリアクションを描いて然るべきだと思うのですが、彼は超然とした態度のまま相手を殺してしまう。 そして、復讐を止めようとした保安官が、主人公の元カノを妊娠させた男であるとなると…… 一連の行いには「保安官への当てつけ」という意図もあったんじゃないかと、そんな風に感じちゃいました。 単なる復讐譚としての映画であれば、ラストシーンの主人公は満足感や達成感を抱いていてもおかしくないのに、その顔に浮かぶのは、どちらかといえば「やってしまった」「これで終わった」という諦観の念。 長く、深く吐息をつく姿には、未来を捨て去った人間だけが得られる、一種の解放感のようなものが漂っていたようにも思えましたね 積み重なった悲劇が更なる悲劇に繋がるという、一種の悲惨美。 そして、全てを台無しにしてしまったからこそ得られる、後ろ向きなカタルシスを描いた映画であるように感じられました。 [DVD(字幕)] 6点(2016-06-19 04:21:51) |
509. 恋と愛の測り方
《ネタバレ》 明るいラブコメ映画は好きだけど、こういう真面目な恋愛映画は苦手だなぁ……と、自分の嗜好を再確認させられましたね。 丁寧に作られているし、主人公の感情の機微を描いたという意味においては質の高い作品なのでしょうが、どうにも好みの内容とは違っていた為、楽しむ事が出来ませんでした。 男女の浮気の違いを描いている点は興味深いのですが、どうも女性贔屓な目線であるように思えてしまった点も、マイナスポイント。 夫は妻を愛しているのに、一時の欲情に流されて同僚の女性と浮気してしまう。 そして妻の方はといえば、夫と同じくらい愛している元浮気相手の男性と心を通わせ合うも、最後の一線は越えていない。 しかも、夫の浮気相手となる女性には殆ど好意的な描写が無かったのに、妻の浮気相手である男性の方は如何にも同情的に描かれているものだから、やりきれません。 「性欲に駆られた夫の浮気は醜い」「それに比べて妻の浮気は悲劇的で美しい」という対比が窺えてしまい、どうしても賛同する事が出来ませんでした。 観賞後に調べてみたら、監督さんは女性であったらしく、何だか妙に納得。 男性贔屓な内容の映画を観て、女性が呆れてしまうのと同じような現象が、今回我が身に起こってしまったみたいです。 そんな風に、今一つ魅力が分からなかった品なのですが、そんな自分でもハッとさせられる場面も盛り込まれており、作り手の力量を感じさせてくれましたね。 特にラストシーン。外出用のハイヒールが投げ出されているのを映し出し、その後の夫婦の衝突を予感させる終わり方には、素直に「上手いなぁ」と感心。 「あの後、どうなったと思う?」「やっぱり旦那に浮気バレたよね」「最後の吐息からするに、奥さんの方から告白しそうな気がする……」 などといった具合に、観賞後にアレコレ話し合う楽しみも与えてくれる映画でありました。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-17 07:06:09) |
510. ティファニーで朝食を
《ネタバレ》 冒頭、ヒロインがティファニーの展示品を眺めながら朝食を取るシーンは凄く良いですね。 さぁ、これからどんな映画が始まるのだろうと大いに期待させられたのですが……終わってみれば、そこが最も印象的な一幕だったというオチでした。 全体的に「オシャレ」な雰囲気が漂っており、主人公達の住んでいる部屋の内装や、街並みを眺めているだけでも結構楽しかったりするのですが、肝心のストーリーが凡庸な恋愛モノといった印象で、観賞中は退屈さを覚えてしまったのも事実。 オードリー・ヘプバーンは流石の可愛らしさだし、清楚なルックスとは正反対の役柄を演じてみせたギャップも、意外と悪くないと思えただけに、話にノリ切れなかった事が残念でした。 当初の予定では、ヒロインを演じるのはマリリン・モンローのはずだったとの事ですが、もしそちらの配役で撮られていたら、どんな形に仕上がっていたのかも気になるところです。 上述のように、色々と物足りない内容ではあるのですが、古き良き映画として、その時代の雰囲気を楽しむ事は出来ましたし 「あの朝食のシーン、素敵だね」 と会話のネタが一つ増えるという意味でも、観る価値はあった映画だと思います。 [DVD(字幕)] 5点(2016-06-16 10:44:27) |
511. シーズンチケット
《ネタバレ》 この映画はハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、それを読ませないバランス感覚が、非常に優れていたと思います。 正直に告白するならば、銀行強盗を企てる直前までの流れにて、少年二人の破滅的な最後も覚悟していただけに、あの心温まる結末には意表を突かれましたし、安堵もさせられましたね。 本来望んでいた通りの形では無かったけれど、彼らなりの「シーズンチケット」を手に入れる事が出来た……というのは、凄く良い終わり方だと思います。 奉仕活動が十二ヶ月という期限付きなのも、上手いなぁと感心。 その一方で、少し気になったのは、作中で一番悲惨な境遇だと思われる主人公の姉、ブリジットの顛末が語られず仕舞いだった事でしょうか。 彼女の行方が不明のままだったので、ラストの爽快感も薄れてしまった印象があるのですよね。 意地悪な言い方をするならば、意外なハッピーエンドに繋げる為に不幸な要素を数多く盛り込み過ぎて、それを回収しそびれたという印象も受けてしまいました。 主人公達が悪事を働いているのを誤魔化すかのように、父親や教師などの「もっと酷い悪役」を登場させてバランスを取ってみせたかのような部分も、あまり好みとは言えません。 チケットを買う為の貯金を、最悪な父親に奪われてしまうのは確かに可哀想なのですが、あんまり同情的に描かれてしまうと(それって、元々は悪い事して貯めた金でもあるんだよね?)と、疑問符も湧いてきました。 でも、やっぱり全体的には「良かった」と思える部分の方が多かったですね。 特に印象的なのは、主人公が父親と一緒にサッカー観戦した思い出を語る場面。 (へぇ、あの親父さんも昔は良い人だったのかな……)などと感じていたところで、実はそれが主人公本人の思い出ではなく、親友から聞かされた思い出話を、さも我が事であるかのように語っていただけなのだと明かされる件なんかは、とても切ない気持ちに襲われました。 チケットを「二人分」手に入れるのではなく「一人分」だけ手に入れて、それを交互に使ってはどうかと親友が提案するも、主人公が首を振って否定するシーンなんかも良い。 二人で観戦しなければ意味が無いんだよ、という友情が伝わってきて、犯罪者であるはずの彼らを、ついつい応援したくなってしまいましたね。 焚火を前にして、一度はチケットを手にするのを諦めた親友が「結構、楽しかったよ」「最低の暮らしの中で見た、一つの夢さ」と語る場面なんかも、忘れ難い味わいがあります。 その後、銀行強盗で捕まり、夢破れた後も奇妙に満足そうにしていた彼の姿が、何だか象徴的。 結局、この映画ではラストにて夢が叶った形なのだけど、夢を叶えたという結果以上に「夢を叶えようと頑張る」過程にこそ、本当に大切なものがあるのかも知れないな、と思わされました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-06-15 07:05:12) |
512. オブザーブ・アンド・レポート
《ネタバレ》 モールを舞台にした映画という事で楽しみにしていたのですが、ちょっと予想していたものとは違いましたね。 まず、コメディ成分が希薄です。 主人公は精神的な病を抱えた人物であり、笑いを誘う場面よりも、重苦しい雰囲気の漂う場面の方が中心。 警官となる為の体力テストを受ける件では、クスッとさせられる一幕もありましたが、印象的だったのは、そこくらい。 露出狂の犯人がシュールで面白いという面も、あるにはあったのですが、最後は主人公に撃たれて血まみれになって終わりという形なので、どうも爽快感に欠けていたような印象を受けました。 途中から「これはタクシードライバーに近しい映画だったのだな」と気が付き、何とか頭を切り変えようとしたのですが、上手くいかず仕舞い。 病人だから仕方ないとも思うのですが、どうしても主人公に感情移入が出来なかったのですよね。 社会から疎外された可哀想な人、という訳でも無く、実際は母親に同僚にヒロインの女の子にと、周りに良い人が沢山いて支えてもらっているのに、当人だけが自分勝手に悩んで暴走しているように思えて仕方なかったのです。 何といっても衝撃的だったのが、ラストにて犯人を撃ってモール内で殺人未遂を犯しているはずなのに、彼が作中でヒーローとして称賛されるエンディングを迎える事。 そりゃあ正当防衛が成り立つのかも知れないけれど、いくら何でもやり過ぎに思えたし、途中から彼の目的が「愛する女性を守ってあげたい」から「自分を振った女性を見返してやりたい」に摩り替っていたようにも感じられて、応援する気持ちにも、祝福する気持ちにもなれませんでした。 「警官」「化粧品売り場の美女」という主人公を悩ませていた二つの要素に対し、精神的な勝利を収めてみせた終わり方となっており、観客にカタルシスを与えようとしている事は感じられましたし、決して嫌いな映画では無いんですけどね。 音楽の使い方も良かったし、主演のセス・ローゲンも難しい役どころを丁寧に演じてくれていたと思います。 個人的好みとしては、仲良くなった友人が強盗犯だと気が付き、説得を試みるも結局は裏切られてしまう件が一番面白かったので、そこをもっと重点的に描いて欲しかったところです。 [DVD(字幕)] 4点(2016-06-15 03:51:18)(良:1票) |
513. 22ジャンプストリート
《ネタバレ》 シリーズ第二弾は、前作以上にメタフィクションな笑いが増えており、それが好みの分かれそうなところですね。 自分としては「ジャンプストリートの復活なんて誰も期待していなかったし、絶対大コケすると思っていた」「23ジャンプストリートマンション建設中」などのワードの数々に、クスッとさせられて、存分に楽しむ事が出来ました。 何といっても一番笑ったのは「もう予算が無い!」の件。 作中の捜査費用を指した言葉なのですが、それが映画の予算とも掛かっているのが分かる作りとなっているのですよね。 カーチェイスにて、主人公二人が「物を壊さないように」と怯えながら車を走らせたり、実際に物が壊れるシーンはカメラに映し出さずに「また壊しちゃった」という台詞だけで済ませたりと、本当に予算が足りないから仕方なくそうしたかのような演出が、もう可笑しくって仕方なかったです。 高校で仲良くなった三人組が、今度は同僚として登場するサプライズも嬉しかったですね。 ジェンコとの間に育まれた友情は偽りではなかったと分かり、じんわり胸に沁みるものがありました。 その一方で、シュミットと恋仲になったはずの前作ヒロインが登場しないのは残念でしたが、今作で新たに登場したヒロインの設定が面白過ぎたのだから、文句は言えません。 出会ったその日にベッドインまで済ませるなんて、初心なシュミットらしくないなぁ……と思っていたら、それが伏線だったのだから、もう脱帽。 「ヒロインが実は上司の娘さんだった」という展開自体は、ありふれたものかも知れませんが、その魅せ方が抜群に巧かったと思いますね。 二度目の観賞時には、シュミットと上司が笑顔でハイタッチするシーンにて、ついつい頬が緩んでしまいました。 互いに壁を感じている主人公達を、分割画面にて表現し、それがクライマックスにて一つの画面に繋がる演出なんかも良かったです。 また、前作を踏まえて(おおっ、今度はシュミットがジェンコを庇って撃たれるのか……)と思っていたら、やっぱりジェンコの方が撃たれてしまい「なんで俺ばっかり!」という叫びに繋がる辺りも面白い。 黒幕だった女の子も、悪役でありながら妙に憎めないキャラクターだったりしたので、次回作で登場するのかどうかも、気になるところです。 前作同様に、主人公コンビは聖人君子という訳ではなく、今作でも子供に対して石を投げて追い返す場面など、多少眉を顰めさせられる部分もありましたが、何とか許容範囲内。 クライマックスの「カッコいいことを言え」「カッコいいこと!」という掛け合いを目にした際には、もう二人の事が大好きになっており、映画が終わってしまうのが寂しく思えましたね。 そんな気持ちの中で始まったエンドロールの「ジャンプストリートシリーズ続編予告集」とも言うべき演出は、素晴らしいの一言。 契約で揉めて一時的に主役交代したり、原作ドラマの重要人物が登場したり、倒したはずの悪役が復活したりと、作り手も好き勝手にアイディアをぶち込んでみせている様子が、観ている側としても、非常に面白かったです。 個人的好みとしては、金髪美女が登場する「フライトアカデミー編」授業内容が気になる「マジック学校編」辺りに興味津々。 観賞後「一番観てみたいのは、どの続編?」と誰かと語り合いたくなるような、楽しい余韻が何時までも続いてくれる映画でした。 [DVD(吹替)] 9点(2016-06-13 22:02:26)(良:2票) |
514. 21ジャンプストリート
《ネタバレ》 ジョニー・デップ主演で、彼の出世作となったドラマを映画化した一品。 作中にて、ドラマ版主人公の未来の姿と思しき役どころで、ジョニー・デップ本人が出演しており、彼のファンには嬉しい驚きを提供してくれていますね。 残念ながら自分はドラマの方は未見なのですが、それでも情報として「元々はジョニー・デップが主演していた作品」という事は承知だった為、登場シーンでは大いにテンションが上がりました。 ただ、理由は何故か分からないのですが、彼の登場以降やたらと血が流れたり、目を背けたくなるような描写が続いたりして、せっかく盛り上がった気持ちに水を差されるような思いもありましたね。 撃ち合いのシーンなのだから、血が出るのは当たり前といえば当たり前なのですが、それまでは全くそんな素振りが無かったもので、少し戸惑いました。 今となっては、あの「急に血生臭い銃撃戦になる」という切り替えも一種のギャグなのかな、と思えてきますが、真相や如何に。 そんな訳で、クライマックスにて「あれ?」と違和感を覚えたりもしたのですが、全体的には楽しめる時間の方が、ずっと長かったですね。 何といっても「もう一度高校生に戻って、やり直したい」という願望を、疑似的に満たしてくれる作りとなっているのが心憎い。 例えば、両親が旅行に出掛けた隙に、家でパーティーを行うシーン。 二人が笑いながらアレコレと準備している様が、本当に楽しそうで、観ているこちらまでテンションが上がって来るのですよね。 「酒はどうする?」「偽のID無いよな……」と、惚けた会話を交わす辺りなんかも、お気に入り。 「子供の振りをしているけど、本当は大人」というズルい立場だからこその喜びを、上手く表現していたように思えます。 その一方で、過去に囚われる事を良しとする作風ではなく、きちんと作中で前向きな答えを出して終わる辺りも、好みのバランスでした。 他にも「スーパーマンII/冒険篇」に登場したゾッド将軍が、作中で妙にリスペクトされているのも可笑しかったし、やたらと扇情的な言動の女教師なんかも、魅惑的なアクセントになっていましたね。 特に後者に関しては、もっと出番を増やして欲しいと思ったくらい。 「俺は麻薬捜査官だ」「お前の盾になっても良い」などの台詞が、伏線として機能している辺りも心地良かったです。 人気の高さゆえに続編も制作されて、三作目では「メン・イン・ブラック」とのコラボも決定したという本シリーズ。 この一作目の終り方も、続編に直接繋がるような形となっており、観賞後もテンションの高さを持続させてくれたのが嬉しかったですね。 楽しい映画でした。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-06-13 06:33:22)(良:1票) |
515. 欲望のバージニア
《ネタバレ》 どうやら史実を基としたお話であるらしく、お酒をガソリン代わりに使って車を動かしたシーンなど、何処か微笑ましさを感じられましたね。 完全にフィクションであった場合、もう少しコミカルさを抑えた陰鬱なストーリーになりそうだっただけに、そういった「隙のある、ちょっぴり緩い感じ」が好ましく思えました。 主演のシャイア・ラブーフに関しては「トランスフォーマー」や「イーグル・アイ」で馴染みの顔なのですが、本作は少々感情移入しにくい役柄だったかと。 元々頼りないキャラクターを演じる事が多い俳優さんなのですが、今回は肝心な場面で兄の名前を出して難を逃れようとしたりして「虎の威を借る狐」感が強かったりしたのですよね。 クライマックスにて、そんな頼りない弟が兄に代わって敵役に銃弾を撃ち込むシーンに関しては、確かにカタルシスもあるのだけど、ちょっとそれまでが情けなさ過ぎて「最後だけ唐突に活躍した」という印象を受けてしまいました。 何せ、その数分前に「敵地に勇ましく乗り込んだかと思ったら、あっさり撃たれて倒れた」という、少々情けないシーンがあった直後の話でしたからね。 もう少し段階を踏んで、主人公が成長していくのをじっくり描いてくれていたら、ラストにも感動出来たかも。 監督さんは「ザ・ロード」と同じ人という事もあり、こちらにもガイ・ピアースが出演しているのには、何だかニヤリとさせられます。 他にもトム・ハーディにゲイリー・オールドマンと、脇を固める俳優陣も非常に豪華で、魅力的。 主人公とヒロインの恋模様なども描かれており、犯罪映画というよりは、若者を主役に据えた青春映画という印象の一品でした。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-08 22:39:19) |
516. 隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS
《ネタバレ》 映画をリメイクするというのは、勇気のいる事だと思います。 それが原作小説や原作漫画の存在しない「オリジナル」の映画であり、しかも名作と呼ばれる品であるならば、尚の事。 本作に関しては、元ネタである1958年版の後に、立て続けに観賞する形を取ったのですが、中盤以降の展開を大胆にアレンジしているのが特徴ですね。 最初、主人公の名前は「武蔵」で松本潤が演じると聞いた時には「えっ、何それ? 全く新しい人物を主役に据えるの?」と思ったものですが、蓋を開けてみれば「太平」の名前を「武蔵」に変えただけ、と言っても差し支えない程度の変更でした。 アイドルに疎い自分でも知っているようなビッグネームが主人公とヒロインを演じている訳ですが、ちゃんとある程度「汚れた」デザインを心掛けており、役者当人の顔立ちの違いはあっても、全体的なイメージはそれほど離れてはいなかった事も好印象。 特に男性側に関しては、美男子であるにも拘わらず髭ぼうぼうで小汚い乞食のような格好で終始通した事には、思わず感心。 「追っ手を欺く為に」とか何とか理由付けして、途中で髭を剃って髪を整えて、小奇麗な身なりに変身するのも可能だったでしょうからね。 その点に関しては、オリジナル版の下層階級と上層階級の対比を守ろうとしたのだろうなと、誠意を感じました。 女性の肌の露出度が下がっているのは、残念といえば残念ですが、まぁコレは元々がサービス過剰というか「ちょっと黒澤監督、助平な観客に媚び過ぎじゃないか?」と思っていたりもしたので、肌を晒さない衣装にした気持ちも分かります。 他にも、色々と小ネタも盛り込まれているし、スタッフはオリジナル版を愛し、リスペクトした上で真面目に作ったのだろうなと思いました。 ただ、どうしてもある程度は比較しながら観てしまうので、気になる点も多かったですね。 まずは、演出が物凄く分かり易くて、大袈裟な点。 六郎太に斬られて死んだと思われた武蔵が、実は生きていたと分かる場面なんかも、勿体付けてさも驚きの展開みたいに描いているのですが、いくらなんでもそれは生きてるって分かるよと、ついつい苦笑してしまったのですよね。 こういう万人向けの演出は好ましいと思っているのですが、本作は流石に分かり易過ぎたのと、その頻度が高過ぎるように感じられて、食傷気味になってしまいました。 また、一本の映画として観た場合には意味不明に感じられる「オリジナル版のパロディ演出」も多くて、好きで盛り込んだのは分かるけど、何もそこまでしなくても……と思ってしまいましたね。 武蔵と新八が籤引きをするシーンなんて、オリジナルと違って目の前で姫様が無防備な寝姿を晒している訳でもないのに、道端で急に始めるものだから、唐突感が否めない。 極め付けは「裏切り御免」の使い方で、いやいや今までそんな喋り方してなかったじゃない、オリジナルにあった台詞を無理やり真似させてるの丸分かりだよ! と、冷めた気持ちになってしまいました。 でも、リメイクならではの長所も幾つかあって、関所をオリジナル版と同じ手法で通過出来てホッとした後に、突然呼び止められてドキッとさせられるサプライズなんかは、素直に驚かされて、嬉しかったですね。 阿部寛演じる六郎太も貫録があって良かったし、兵衛さんが元ネタと思しき悪役の鷹山なんかも、面白いキャラクターだったと思います。 何より興奮したのが、オリジナル版でほぼ唯一の不満点だった「クライマックスでの主役不在」が解消されている事。 ちょっとそこの「姫を助け出す」パートが長過ぎるよ! と思ったりもしたのですが、それでもやっぱり、喜びの方が大きかったです。 民を信じて金を預けた姫様が裏切られる事なく、笑顔で出迎えられた結末も、それに伴う主人公との別れなども、良かったと思います。 その他、友人から「ダースベイダーのそっくりさんが出るよ」と聞かされていたもので、覚悟して観賞していたら「これ、蒲生氏郷じゃん!」とツッコまされたという余談もあったりして、何だかんだで楽しい時間を過ごせた映画でした。 [DVD(邦画)] 5点(2016-06-08 11:32:52) |
517. 隠し砦の三悪人
《ネタバレ》 黒澤明が凄い監督さんだという事は「七人の侍」や「用心棒」で充分に承知済みだったはずなのですが、こういうタイプの映画も撮れるんだなと、再び衝撃を受ける事になりましたね。 冒険活劇であり、全編に亘ってコメディ色が強く、作中で人が次々に死んでいるはずなのに、何処か呆気らかんとしている。 必要以上に緊迫感を与えたりしない為、観ている側としても、リラックスして楽しめる一品だったと思います。 やや冗長に感じる場面も、あるにはありますが、面白く観賞出来た時間の方が、ずっと長かったですね。 そんな本作独自の魅力として、特に目を惹くのは、ヒロインである雪姫の存在。 主人公であり、タイトルにもなっていると思われる六郎太、太平、又七に関しては、他の黒澤映画でも似たようなタイプの人物が見つかりやすいのに対して、彼女は非常に個性的だったと思います。 とにかく目力の凄い美人さんで、独特の甲高い声に関しても、最初は「うへぇ」と思っていたはずなのに、気が付けば「これはこれで……」と、それを個性として受け入れる心境になっていたのだから、不思議なもの。 彼女に命を助けられ、その恩に報いる為とばかりに尽くしてくれる名もなき娘さんの存在も、心を癒されるものがありました。 三船敏郎演じる六郎太に関しては、腕っぷしも強く、頭も良く、男気もあり、清濁併せ呑む度量もあってと、文句の付けどころのない人物なのですが、ちょっと主人公としては愛嬌に欠けるような印象も受けましたね。 その弱点を補うかのように、太平と又七とが愛嬌を振りまいてくれているのですが「結局、誰が主人公なんだ?」という疑念も頭に浮かんできて、観賞している間、集中力が削がれてしまったのが残念。 六郎太は作中に登場するのが遅すぎるし、太平と又七に関してはクライマックスに不在だったりするしで、どうも話の核が散漫に思えてしまいました。 特に後者の不在問題に関しては深刻で「えっ? 何で太平と又七は出て来ないの?」と、本気で戸惑う事になりましたね。 てっきり、敵方に密告しても褒美を貰えないと悟った二人が、それならばとばかりに姫様を救出し、ついでに金も取り戻す展開かと思っていただけに、大いに拍子抜け。 窮地の一行を助け出すオイシイ役は、途中から出てきた兵衛さんの担うところとなる訳ですが、六郎太に「百年の知己」と言われても、具体的にどんな過去があったかなどは語られないし、今一つ盛り上がれません。 結局、太平と又七は肝心な場面で六郎太達を見捨てて逃げ出したっきりな訳であり、いくら愛嬌があっても、主役として感情移入出来る範疇を逸脱しているように感じられました。 自分の好みとしては、もっと六郎太を中心に据えた作りの方が嬉しかったかも。 それでも、そんな臆病者の二人が殺されたり、罪人として囚われる終り方ではなく、目当ての金を僅かでも手に入れて、願いを叶えられたハッピーエンドだった事には、ホッとさせられましたね。 立派になった姫様に諭されて、すっかり仲良しになった二人。 だけど、ずっとそのままという訳ではなく、村まで帰る道中では、また喧嘩をしては、仲直りしたりもするんじゃないかな……と、微笑ましく思えました。 [DVD(邦画)] 7点(2016-06-08 07:50:23)(良:1票) |
518. 探検隊の栄光
《ネタバレ》 あらすじを知って「これは絶対に面白いだろう!」と意気込んで観賞したのですが……何とも判断に困る代物でした。 まず、決して嫌いな作品ではないです。 むしろ好きな映画と言えそう。 コンセプトも良かったと思うし、主演の藤原竜也も熱演してくれていました。 全編に亘って漂う「真面目に馬鹿をやっている」感は、正に望んでいた通りの作風。 それでも語る際に言葉を濁らせてしまうというか、胸を張って好きだと言えないようなもどかしさがありますね。 理由を分析してみたのですが、こういった作品の場合、映画の中における「現実」と、劇中カメラが映し出す「虚構」とに、もっとギャップが必要だったと思うのです。 例えば主人公がワニと格闘するシーンは、現実ではショボいのに、カメラ越しの映像では意外と本物っぽく見える……という視覚的なバランスにして欲しかったなぁ、と。 それはピラニアが食い散らかした人骨も然り、作り物のヤーガも然り、ですね。 本作の場合、現実と虚構に明確な差が窺えない為「人々を楽しませる為に壮大な嘘をついている」という主人公達の恰好良さが、今一つ伝わってこないように感じられました。 中盤に主人公が行う「俺達が作っている番組は無意味なんかじゃない」という演説についても、長年こういった番組に携わっている立場の者ではなく、今回が初参加の人間が言う事なので、今一つ重みを感じられなかったのも難点。 このシーンは普段いい加減な言動の監督さん辺りに言わせて、それに感銘を受けて主人公も本気になる流れでも良かった気がします。 そんな風に不満点も多い品なのですが、眩しいような魅力が備わっているのも確かですね。 序盤、ゴミの不法投棄に怒っているだけのオジサンを「ヤーガの恐ろしさを身振り手振りで伝えてみせる村人」という設定にして、勝手にアテレコしてみせる場面は、本作で一番の笑い所かと。 「やらせ」を完遂しようとするスタッフに対し、大自然が嘲笑うかのように、あるいはご褒美を与えてあげるかのように「本物のヤーガ」がチラリと姿を見せる展開なんかも、ニヤリとさせられました。 終盤に遭遇する反政府ゲリラ達と絆を育む事となり、別れの際には互いに友情が生まれていたというオチも、凄く良かったと思います。 ヤーガが実在したという衝撃よりも、こちらの「現地人と心を通わせ合った事だけは本当だった」という場面の方が、じんわり胸に沁みるものがありました。 主演の藤原竜也に関しては、元々好きな俳優さんだったのですが、こういった映画でも頑張っている姿を見ると、ますます応援したくなりますね。 本人は続編も希望しているとの事なので、楽しみに待ちたいものです。 [DVD(邦画)] 6点(2016-06-07 20:29:25)(良:2票) |
519. 未来は今
《ネタバレ》 例の「丸いアレ」に関しては、最後まで謎のままなのかなと予想していたのですが、中盤にてアッサリと正体が判明。 しかも名前も機能もそのまんま「フラフープ」とは、意表を突かれましたね。 (これって、もしかして実話物だったりするの?)と思っていた矢先に終盤は「突然の時間停止」→「天使との対話」なんてトンデモ展開が飛び出すものだから、もう吃驚。 呆れる気持ち半分、笑ってしまう気持ち半分、といったところですが、こういった悪ふざけ演出は、決して嫌いではないです。 ……でも、出来ればもう少し伏線を張っておいて欲しかったなぁ、と思わされたのも事実。 ここを、もう少し丁寧に描いてくれていたら、もっと楽しめたかも知れません。 コーエン兄弟の作品にしてはブラックユーモアが薄めで、とても観やすい作りとなっているのも特徴ですね。 自分としては嬉しかったのですが、それによって個性を感じられなくなったという、痛し痒しな面もありそう。 善良だった主人公が出世によって心を歪ませてしまい、そこから改心して元に戻った後にヒロインと結ばれるハッピーエンドに関しては、非常に道徳的な作りだったと思います。 上述の「悪ふざけ」な演出と、この「道徳的」なストーリーラインのチグハグな感じを受け入れられるかどうかで、評価が変わってきそうな一本です。 とはいえ、あんまり難しく考えないで、子供向けのファンタジー映画のような感覚で観賞するのが、一番楽しめる方法なのかも知れませんね。 勤続四十八年になる主人公の同僚や、エベレーターボーイなど、脇役達も個性的で、魅力的。 ティム・ロビンスとポール・ニューマンの共演という一点に限っても、観る価値はある一本だと思います [DVD(吹替)] 5点(2016-06-07 06:02:24)(良:1票) |
520. 俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-
《ネタバレ》 主役の二人が十歳と九歳であったなら、微笑ましいファミリームービーだったのだろうなと思います。 それぞれの父と母が再婚する事になり、義兄弟となった幼い二人が喧嘩しながらも絆を育んでいくという形。 新しい母親が自分をどれだけ甘やかしてくれるか確かめたり、二段ベッドを作っても良いかと両親に提案したりするシーンなんて、きっと可愛らしかったでしょうね。 それを四十歳と三十九歳の中年男にやらせているというギャップが本作の面白さなのでしょうが、自分としては少々観ていてキツいものがありました。 どちらかというと、主役の二人よりも二人の両親の方に感情移入させられましたね。 この「真っ当な社会人である両親」と「社会不適合者の息子達」の二つの視線を作中に用意している辺りのバランスは、作り手の巧みさを感じます。 そんな訳で、善良な両親が離婚する事になる終盤の展開はショッキングだったし、そこから二人の息子も奮起して社会復帰を果たしてくれる流れだった事には、心底ホッとさせられましたね。 就職すれば嫌味な上司に敬語を使い、苦しい思いもしなければいけないという部分を、キチッと描いている事には感心。 その一方で「働く喜び」のようなプラス面がオミットされていたのは気になりましたが、それに関してはラストの「二人が会社を辞めて起業家として成功する」オチに繋がるのだから、仕方のないところでしょうか。 クライマックスにて、二人がコンビを組んで演奏してみせる場面にはテンションが上がりましたし、それによって周囲の人々が主人公達を認める事になる流れも、王道の魅力がありましたね。 特に好きなのは、ウィル・フェレル演じる兄と、アダム・スコット演じる実の弟が、互いに不器用なハグを交わすシーン。 今では不仲となってしまっていたけれど、幼少期には仲の良い兄弟であった事が回想シーンで描かれていただけに、笑いの中にも微かな感動を覚えたりもしました。 ただ、最後の最後で意地悪な子供達に復讐する主人公コンビに関しては「なんて大人げない……」と感じてしまい、今一つカタルシスを得る事が出来ず、残念。 それでも、両親も無事に復縁し、主人公達も再び「兄弟」に戻れたハッピーエンドという形だった事は、良かったなぁと思えました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-06 19:13:09)(良:1票) |