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ドラえもんさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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41.  父、帰る
12年前失踪したまま音信不通だった男が、ある日突然妻の元へ帰ってくる。戸惑いを隠せない二人の息子。次男は父親を写真でしか見たことがなく、ここで初めて父親という存在を認識することとなる。本作は父親と二人の息子との数日間の出来事を描いたものだが、誰もが疑問に感じる本来語られるべき“父親の事情”には一切触れられないまま ドラマが進行していく。この父親、いきなり食事にワインを飲ませたり、釣りを目的にした旅に出るのも、男としての息子の成長ぶりを確かめたかったのだろう。自らのことは語らず寡黙で野性的な、いかにも男っぽい父親ぶりで、躾としての振る舞いや言動は親としては極めて当然のことでありながら、息子たちには不満や不信感が募るばかりだ。それには、男親がないまま育ってきた子供たちの心情が微妙に作用しているのだが、長男は大人の世界が少しは解りかけている年頃ということもあって、父親を理解しようとするが、母親に溺愛されて育ってきた次男には、理解を超えた単なる威圧的な男にしか見えてこないのだ。このあたりの細やかなエピソードの積み重ねは絶妙で終盤それがボディーブローのように効いてくる。長い間留守にしていた空白を埋めるかの様に息子たちに接する父親だが、父親と母親との愛し方の違いが分からない次男は、やがて反撥を抱くようになり、ドラマはクライマックスへとなだれ込んでいく。結局、子供の成長を見守ってこれなかった男の苦悩と焦燥感は理解できるにしても、何かが欠落していると言わざるを得ない。いかにも古いタイプの父親像と、新しい世代との間に横たわる溝。この国での失われた12年というのは、あまりにも大きく重いという事なのだろう。映画は様々な謎を残したまま悲劇的な結末を迎えるが、この理不尽ながら絶対的な存在である親の重みというものを、息子たちは嫌というほど感じとることとなる。  実に皮肉で見事な幕切れだが、それにしてもなんと後を引く作品だろうか。
9点(2004-10-26 18:37:02)(良:3票)
42.  真珠の耳飾りの少女
17世紀のオランダのさり気ない日常を描きつづけた画家フェルメール。寡作家でその大半が室内画であり、また謎の多い人物だったことから、タイトルにもある少女をモデルにした絵が出来るまでを、人間ドラマとして大胆な仮説をもとに綴ったのが本作。作品を魅力的にしているのが、メイドとして雇われた美少女グリートを演じるS・ヨハンソン。  腫れぼったい唇の困惑顔で、いつもどこか不機嫌そうなその表情が男心をくすぐる。C・ファース演じるフェルメールも、彼女をあくまでも絵画の良き理解者という表向きの体裁を繕ってはいるが、彼女の魅力の虜になってしまっているのも事実。この危険な香りを放つ両者の拮抗した演技には魅了されてしまう。二人に果たして男女の関係があったかは、 映画ではついぞ描かれる事はなかったが、耳にピアスの穴を開けるシーンに暗喩としての匂いを嗅ぎとれる。グリートの苦悶の表情のその艶めかしさだけで十分であろう。真実は誰にも分からない事であり、後は個人個人が想いを巡らしてロマンを感じとればいいのである。そしてもう一つの魅力は、フェルメールたちが間違いなく生きていたこの時代を、なんの違和感をも感じさせることなく再現してみせた衣裳と美術そして撮影技術の進歩。湿り気のある空気や柔らかな光と渋めのトーンで統一された色彩処理など、その徹底ぶりには只ならぬものを感じさせ、この作品の雰囲気を余すことなく伝えることに成功している。
9点(2004-09-16 15:38:55)(良:2票)
43.  MIND GAME マインド・ゲーム(2004)
人間の精神世界を実験的な手法でアニメ化した、まったく新しいタイプの作品で、その独創性と斬新さだけで言えば宮崎アニメをも凌駕していると断言してもいいほど、今年最も興奮し魅了させられた一本。舞台はしっとりとした下町情緒溢れる大阪。この静かなオープニングは極めて写実的な画調であり、出演者には声のみならず、彼らのナマの顔をアニメの登場人物たちに被せて、そのキャラを際立たせるという演出テクニックがユニークであり、また生活臭を感じさせる関西弁と相俟って実に効果的だ。が、焼き鳥屋での大騒動で、主人公の西が“一度”あの世へ行ってからは、物語が大きく動くと同時に画調も変化する。丸みを帯びた写実的なきめ細やかさから、鋭角的で奔放な線画に変貌するや、夢とも現実ともつかない異空間へと舞台が移っていく。アニメとはいえ、アイデア満載で何故かリアルで手に汗握る湾岸線でのカーチェイスから海へダイブ。気がつけばクジラのお腹の中へ。ここでの様々な出来事は現実には有り得ない、実に破天荒な設定だが、アニメだからこその説得力をも感じるし、これこそがまさにアニメとしての醍醐味というものだろう。そしてこの作品のハイライトは、何と言ってもクジラからの脱出劇。まさに怒涛のクライマックスであり、 地獄から天国へと這い上がるといったイメージで描かれるこのシークエンスは延々と続けられ、生への渇望というものを否応無く感じさせられる。その画像の力強さと躍動感、エネルギーの凄まじさには圧倒されてしまうが、言葉でうまく表現できないのが口惜しい。“イメージの洪水”とは、まさにこういう映像をこそ言うのだろう。いずれにせよ本作はアニメーションの真髄というものを嫌というほど感じさせられた傑作である。
[映画館(字幕)] 9点(2004-09-14 00:38:22)(良:1票)
44.  下妻物語
ロリータ桃子と暴走族イチゴという、まったく相容れない個性のぶつかり合いから生じる、女の子の友情物語。男の友情を描いた作品は数多いが、女のそれはと言うと、すぐには思い出せない。そもそも“女に友情などあり得ない”などといった風説がマコトしやかに流されていた事にも由来するのだけれど、本作がそれをものの見事に覆し実証してみせてくれたのである。それは凝りに凝ったストレートな面白さと表現すればいいのだろうか。現実離れした劇画チックな画面構成と独特の色彩処理で、我々を寓意にみちた世界へと誘う。その摩訶不思議な感覚の心地よさ。そのカラッとした明るさは青春の輝きそのものであり、CM界でその名を馳せた中島哲也の、場面場面の画作りへのこだわりと冴えが大きくモノを言った作品である。そして、ひと癖もふた癖もある登場人物の中でも、とりわけヒロインたちが揃って魅力たっぷりで、しかも嫌味が無いというのも近頃では珍しく、そういう意味においても深田恭子と土屋アンナは絶妙のキャスティングであり瞠目に値するほどだが、その二人も自分の役廻りをよく心得え、体当たりの演技で期待に応えていたと思う。
9点(2004-09-09 18:41:36)
45.  殺人の追憶
ジャンルを問わず、描写の生々しさというのが韓国映画の最大の特徴とも言え、ひとつ間違うと悪趣味な印象を受けかねないものだが、本作にはその事がむしろ有機的な働きをしたように感じる。日常の何処にでもある田園風景から始まるこの作品は、実際に起こった未解決の猟奇的事件を基に、刑事たちの地道な捜査で容疑者を追い詰めていくという、サイコ・サスペンス的な要素を孕みながらも、純粋な刑事物語としての面白さを魅力たっぷりに描いた本年屈指の力作である。それはまるで初期の黒澤作品のような汗と脂でギラついた感触であり、ある種の懐かしささえ感じさせるほどの雰囲気を醸し出している。映画では、捜査方法や捜査の行き詰まりで感情が縺れ合う刑事たちの遣り場のない姿に焦点があてられているが、なんと言ってもソン・ガンホ演ずる、如何にもといった感じの泥臭い刑事ぶりは本作の白眉であり、捜査に対する苦悩や焦燥感を生身の人間として肌で感じさせる演技は見事と言う他はない。もがき苦しみながら、やっとの思いで追いつめた容疑者の逮捕を断念せざるを得ない彼らの虚無感・脱力感は、我々観客も味わう事となるが、見込み捜査のツケが廻ってきたことと、ハイテクの立ち遅れという当時の韓国の混沌とした社会情勢というものを痛切に感じさせるシチュエーションである。年月を経て、一筋の光明を見いだしたソン・ガンホの自信に溢れた顔は、まさに韓国の今を象徴しているかのようだ。
9点(2004-08-27 01:30:54)(良:2票)
46.  誰も知らない(2004)
努めて過剰な演出を避け、ひたすら冷徹な眼差しで対象を凝視し、刻々と変わる日常を淡々と綴ることで、現代の病巣をえぐり出していく。是枝監督が培ってきた“必要以上にドラマを作らない”という精神が静かなしかし力強い感動を呼び起こす秀作。ベルイマン作品流に言うと「ある家庭の風景」とでも表現できようか、一見何処にでもいるような母親と4人の子供たちの物語。「母子家庭」という言葉そのものも久しいが、母と子が肩を寄せ合って懸命に生きていく感動のドラマかと思いきや、ここでは母親がなんと家庭を放棄してしまうのである。失踪同然の母親から見離された子供たちの生きざまが物語の中核をなすのだが、彼らは母親を決して恨むこともなく怒りを顕わにもせず、むしろ自分たちの宿命だとさえ悟っているかのようである。ある程度の年齢にもなれば、子供は親の考え方を肌で感じるもの。それは性癖でさえも。引越しをしてきて子供を連れてお隣さんにきちんと挨拶するという、表面的にはいかにも躾の行き届いた面がある一方で、自らの幸せだけを願うという身勝手さをも併せ持つ母親。しかし、通り一遍の自堕落な女としては描かず、極めて普通の人間として描いているのがこの作品の恐いところ。男にはだらしないものの、子供には出来得る限りの愛情を注ごうとするこの母親を演ずるYOUの自然な演技は、彼女の奔放なキャラそのままで素晴らしい。学校に憧れを抱き、友達とゲームなどで遊ぶという、ごく当たり前の好奇心旺盛な子供たちの姿は、画面の中で生き生きとして輝いている。しかし貯金が底をつき彼らの生活もしだいに荒れ果てていく。ライフラインを絶たれるという悲惨な生活も、やがて生きる知恵を覚え、弟や妹の面倒を見る柳楽優弥クンの懸命ぶりが後半に描かれていくが、なけなしの小銭で母親に電話するエピソードがとりわけ胸を打つ。ここに登場する大人たちは身勝手ではあるが、決して悪人ではなく、生きていくのに精一杯な普通の人間たちである。それだけに、大人社会のその不可解さに翻弄される子供たちの姿がより痛ましい。そしてそんな子供たちがいることを、誰も知らない。いや、知ろうとも思わない。現代とはそういう時代なのだろうか。
9点(2004-08-19 01:20:31)(良:2票)
47.  デイ・アフター・トゥモロー
SF映画としての映像表現において、常に観客の眼を意識した画作りという点が共通項としてあるのだが、スピルバーグがどちらかと言えば、その切り口に独自性を感じさせるのに対し、エメリッヒはあくまでも正攻法にこだわり続けるという、いわゆる正統派に属する数少ない映像作家ではないだろうか。それは古臭いという意味などでは決して無く、むしろ斬新な表現方法は今回も健在であり、いかにもCGっぽい作品の多い中、しっかりと地に足のついた超リアルな世界を創造してみせる。それは南極の氷棚に亀裂が走るオープニングから始まり、前半の都会上空に竜巻が発生する瞬間の奇妙な現実感や、それら天変地異をニュース映像として報道するといった、一種ドキュメンタリーとして描かれるその迫真性。かつて「ディープ・インパクト」での津波のシーンに驚嘆したものだったが、それを遥かに凌ぐCG技術の進歩と映像テクニックには、もはや脱帽せざるを得ない。つまるところ映像のひとつひとつに説得力があるという事だが、終盤、凍りついたニューヨークのビル群をバックに、やはり凍りついた米国の象徴である自由の女神を様々な角度から捉えた画面構成には、エメリッヒの映像センスをも感じさせて秀逸。我々SF映画好きにとって、彼はまさに“痒いところに手が届く”映像作家であって、本作は現段階での最先端のテクノロジーによって完璧性を追求し、その視覚化に見事成功したと言っていいだろう。又、彼は「ID4」や「GODZILLA」などでも御馴染みの、“迫り来る何かに逃げ惑う群集”といったモブシーンの巧い監督さんでもあり、円谷英二に感覚的には最も近い人のような気がしてならない。遥々息子を救出に向かうシチュエーションや、一瞬にして凍死するという寒気に襲われるシークエンスなどに、スリルとサスペンスが足らないのがやや不満だが、ドラマや人間描写などがほとんど意味を持たないのは致し方が無いところ。それほど映像の持つ力には適わないという証明でもあるのだから。
9点(2004-07-08 15:21:43)(良:2票)
48.  息子のまなざし
本作は、年々増えつづける少年犯罪と更生といった極めて今日的な問題を扱うことで、人間とは果たしてどこまで寛容になれるのかといったテーマを我々に問いかけてくる。ここでは法律の問題には殆んど触れられておらず、職業訓練所の指導者と更生しようとする少年といった、あくまでも被害者側と加害者側との直接的な関わり合いを描いてゆく。本作の一人称のスタイルを強烈に印象づけているのが、主人公の肩越しから片時も離れようとしないカメラ。背後霊のように全編に貫かれているその視線は、まさしく亡くなった(殺された)息子のまなざしであり、何も事情を知らない少年をひたすら凝視していく。お互いに実に残酷な設定ではあるが、あくまでも更生の指導者という立場をわきまえ、苦悶しながらも理性で感情を抑え、自らを宥めて少年と接していくうちに、ひた向きな少年の姿に心が揺れ動くという難しい役どころを、O・グルメは淡々としかし的確に演じきる。そして、効果音を含めた音楽などを一切使わずに、これほどまでの緊張感・切迫感を生み出すという、その演出力の凄さ!映画はシートで巻かれた材木にロープを架けた瞬間、唐突に終わる。(その時画面は既に二人を撮らえている。主人公の肩越しから離れて・・・。)その少し前、車のトランクにロープが無造作に積まれる場面がある。さり気ないだけに余計想像力を掻き立てられる描写だが、我々自らの人間性を試されているような、実に意味深いシーンだと言える。このように、まったくと言っていいほど作為的な部分がなく日常を淡々と描いてゆき、リアルであるという以上に極めて現実的である本作には、演出の原点を見る思いがする。本作が傑出した作品であることに何ら異論は無い。
9点(2004-05-03 16:09:19)(良:3票)
49.  昭和歌謡大全集
本作は或る通り魔殺人に端を発し、その復讐を果たす為、おばさんグループと若者グループとが死闘を繰り広げ、その挙句の果てにアッと驚く結末が用意されているといった、まさに過激で奇想天外な現代の寓話だと言える。とは言うものの、その日常生活は極めて現実的に描写され、再三出てくる食事のシーンなどでは、おばさん対若者といった図式が明確に示されていて面白い。ここに登場する若者たちは、マニアックでオタクっぽく何処にでもいそうなガキとして描かれる一方、おばさんと言っても、樋口可南子を始め彼女たちの何と生き生きとして魅力的なことか。オンナを棄てた女にはとても見えないところがご愛嬌で、キャスティングの巧妙なところ。そして、この両陣営に協力するのが中年オヤジというのが共通項としてあって、この作品のキモでもある。中でも若者に荷担する原田芳雄演じる金物屋のオヤジが傑作。この男、女どもにはさぞや苦々しい思いで生きてきたのであろうか、若者たちにその武器使用の理由を聞くや、嬉々として武器を売りつけるという闇の武器商人といった趣で、中年男性の象徴として強烈な存在感を示している。(核爆弾を“原爆”と言わせるところなど、いかにもタイトルの「昭和」という時代を意識したセリフだ。)さて個々の殺戮シーンには、そのテクニックを強調されはしても思い入れというものは無く、あくまでも直截的であり即物的に描かれていく。特に“♪チャンチキおけさ”のシーンは秀逸で、昭和の流行歌が効果的に使われた一例でもあり、決して刺身の妻などではないのである。それにしても、お互いに絶命するまで限りなく続くこの復讐劇と昭和という時代とに、果たしてどれだけ深い意味合いがあるのだろうか。本作は村上龍が終始描いてきた現代社会の不条理さを映像化し、現実と非現実とが渾然一体となって醸し出され、閉塞感漂う世の中の鬱積したものの吐け口をひとつ間違えると、歯止めが利かないままとんでもない方向へ進んでしまうという事を、見事に提示した実に面白い作品となったわけだが、彼らの悪夢は昭和から平成になって、さらに深刻でより過激になっている事を再認識する必要がある。所詮、寓話などと笑ってはいられない、「今」とはまさにそういう時代なのだ。
9点(2003-11-26 15:38:48)(良:2票)
50.  一票のラブレター
舞台はキシュ島。長く続く白い砂浜と大部分が砂漠で占められた小さな小さな島。物語は、おそらく何の変化も無い毎日を湾岸警備に従事する青年兵士の前に、ある日1艘の船に乗って一人の娘がやって来るところから始まる。彼女はいわゆる選挙管理委員として投票箱片手に、数少ない島民になんとか投票させようと、選挙の重要性を説いて回る役目を担っていた。限られた時間の為、運転手として兵士が娘と島中を奔走するハメになる。この理想に燃える娘と現実的な兵士との珍妙な遣り取りがなんとも微笑ましく、(砂漠の真中に何故かある信号機に従うような愚直な兵士だが、彼女の直向きさにやがて好意を寄せ始める。しかし彼女はそんな空気が読めないというもどかしさ!)宗教と古い因習の根強い島の人々とのギャップともども、心を伝えるというコミュニケーションの難しさと、民主主義への矛盾や疑問というものを痛切に考えさせられる。声が大きく多弁さが圧する現代において、時が止まったかのような風景の中、この囁くような作品は貴重だ。終盤、帰路に間に合わなかった彼女にドラマチックな味付けが施されるという憎い演出もあり、また彼女の去った後の兵士の寂寞感漂う後姿に、言い知れぬ余韻を残しつつ終わるという、幕切れも実に鮮やかなものである。
9点(2003-07-24 00:50:14)(良:1票)
51.  ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔
仲間たちの目指す旅の目的は同じなのに、計らずも三組に分かれた事により、エピソードのバリエーションが増幅され、前作以上の面白さを引き出すことに成功している。個々のシチュエーションが明確に色分けされていて、ボリュームたっぷりで濃密な映像が繰り出されていくが、CG表現を含めて、些かの手抜きも無ければ破綻も無く、ある一定のリズムで展開されていく物語には、澱みというものすら無い。だからこそ長編でありながら途中でダレることもなく、最後まで飽きさせないで観れるということなのだろう。ただ、血沸き肉踊る最大の山場である戦闘シーンは、あらゆる映像表現が可能というCGの“軽さ”が裏目に出たのか、思ったほどの盛り上がりと迫力に欠けるという恨みが残る。同時に、“二つの塔”そのものの意味合いが、視覚的な部分も含めて、あまり巧く生かされていないという事も感じた。それでも、卓抜した創造力で誕生したニューキャラクター「ゴラム」の演技はまさしく“驚異”であり、これから先も続く旅の“脅威”ともなりうる存在として、本シリーズのみならず映画史においても、特異な存在として君臨し続けることだろう。
9点(2003-05-23 23:25:09)(良:1票)
52.  キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
タイトルバックにはあまり凝らないと言うか、拘らないのがスピルバーグ作品の流儀なのだが(それは本編に自信があるからこその裏返しともとれる)、今回ばかりはレトロっぽいアニメを今風にアレンジして、これから展開される作品世界に我々を誘ってくれるには、実に効果的なオープニングだ。陽光眩しいのんびりとした60年代の雰囲気の中、全編にわたり軽妙洒脱な語り口で魅せるこのスピルバーグの新作は、まさしく原初に立ち返ったような印象を受ける。SFXをふんだんに駆使したSFでもなければ、ド派手なアクションもない。あるのは贅肉をそぎ落とした、彼本来の姿そのもの。軽いフットワークで撮った作品のように見られがちだが、恐竜や宇宙人などが出ない分、いわゆる誤魔化しが利かないため、演出力そのものが作品の出来を左右してしまう。それだけに今までの作品中でも、彼自身かなり力を込めて撮った様子が窺い知れるというもの。そしていかにも彼らしい壮快な作品に仕上がっている。とくにデカプリオの七変化の伊達男ぶりと、不変のスーツ姿のハンクスの対比が面白く、頭脳明晰で常に奇策に転じて逃れるレオに対して、極めてオーソドックスな捜査で追い詰めていくハンクスという構図が、ふたりのキャラを殊更際立たせている。痛快作ではあるものの、実話からくる重みを感じさせるラストも巧い。
[映画館(字幕)] 9点(2003-04-25 01:07:54)(良:1票)
53.  まぼろし
長いブランクがあっての久々のS・ランプリング作品。彼女の「愛の嵐」での鮮烈なイメージが残っているだけに、正直観たくはなかった作品でもあった。確かに老いは隠しようもないが、しかしそれでもなお妖しい美しさと魅力を感じさせる彼女の圧倒的な存在感。そのぎりぎりに均衡が保たれた彼女の姿を見せることこそがが本作の狙いであり、映画の中で演じる中年女性が実生活での彼女とオーバーラップして、実に興味深い。子供はいないが、それだけに深い愛情で結ばれている中年夫婦。その愛する夫が突然目の前から消えてしまったことから、妻としての戸惑いと夫に対する不信感を、ランプリングは巧みで老練な演技力で見せきる。そしてなお夫を想いつづける彼女の姿には胸が熱くなる。上手に歳を重ねてきたと言おうか、老いと若々しさとが共存しているという不思議な魅力を放ち、見事なカムバックを果たした本作は、彼女の新たな代表作となったと同時に、真の大人の映画として近年の収穫だと言える。
9点(2003-01-31 16:06:51)
54.  ロード・トゥ・パーディション
本作が意外と評価が低いのは、ギャングが出てくるいわゆる“マフィアもの”ということで、「ゴッドファーザー」的な重厚な作品世界を期待したからかも知れない。むしろJ・ミリアスの「デリンジャー」や、或いはその肌ざわりとしては、デ・パルマの「アンタッチャブル」に近いものがある。個人的に言えば、このストイックでスタイリッシュな映像感覚には終始シビれっぱなしで、全てのシーンが脳裏に焼きついて離れない。それほど、演出・音楽そして出演者のアンサンブルとその演技力、どれをとっても一級品で、やはり本年屈指の作品であることに疑いの余地はない。ストーリーはいたってシンプルで、このテの作品に有りがちな饒舌さがないだけにテンポも良く、些かもダレるところのないストレートなサスペンス・アクションだと言える。それゆえに細やかなこだわりの演出が際立つというもので、場面場面でピタリと決まるその絵作りの巧さ。とりわけ豪雨の中での音の無い殺戮シーンなどは、身震いするほどの美しさだ。父と子の描き込みが足らないという意見もあるようだが、テーマはあくまでも復讐を誓った男の行動力の美学。描きこみ過ぎることでテーマがぼやけたり、押し付けがましくなるというものだ。特筆ものという意味では、J・ロウ演じる偏執狂的で冷徹な殺し屋。T・ハンクスとレストランでさり気なく会話を交わすシーンでの、彼の上目遣いの悪戯っぽい表情は、「007/ロシアより愛をこめて」のオリエント急行内でのボンドと食事をしていた時の、殺し屋グラントを彷彿とさせる。まさにその不気味さという点で双璧ではないだろうか。
9点(2002-12-12 15:43:01)(良:1票)
55.  ディナーラッシュ
なにかと薀蓄をたれる口煩い常連客。男のことしか頭に無いような、しかしプライドだけは高い女性カップル。通りすがりにふらっと寄った風を装うサラリーマン。店の買収目的に客としてやって来た二人の殺し屋。オーナーから店を乗っ取りたい、野心家の息子。雑学の知識を武器に客を相手に賭け事に興じるバーテンダー。仕事の合間に逢瀬を重ねる、博打好きでトラブルメーカーのコック。そして喧騒の厨房・・・等々。人気レストランを舞台に、その表と裏側を対比させながら様々な人間模様が、実に過不足なく魅力たっぷりに描かれていく。そして今宵のディナーの真の目的が・・・。ラストになってすべての仕掛けが解るという、構成の巧さに舌を巻いてしまう。豪華で独創的な料理が次々と登場するシーンもあるが、これはれっきとしたサスペンス映画である。お洒落で味のある、実に面白い作品に出逢えた。
9点(2002-11-23 18:01:37)
56.  プレッジ
作品は一見、犯人探しをしているようでいて、実は一人の男の執念を克明に追った点が狙い。そして、この引退したベテラン刑事の長年の感による、思い込みあるいは妄想ともとれる執拗な捜査に対して、まったく予想外の結末が用意してある。果たして“あの人物”が犯人だったのだろうか?なんとも虚しい結末だが、ひとつの事件が人知の及ばないところで展開し、まったく予断を許さないものだと言う事を、S・ペンは言いたげだ。それにしてもこのことごとく予想をはぐらかせる演出力は、彼の監督としての力量を十分証明しているし、一種の強迫観念のように個人的な意地で犯人探しをする主人公を演じるJ・ニコルソンの主演男優賞級の好演もあり、本作はまったく無駄のない、サスペンス映画としては申し分のない出来となっている。
9点(2002-10-14 15:28:06)
57.  es[エス](2001)
二週間の期限付きで高額の報酬で雇われた男たちの模擬実験による獄中体験。実話だとか。彼らは囚人側と看守側とに分けられるが、やがてこの監獄ゴッコで徐々に人間の本性が露わになっていく。そのプロセスが実に巧みで、まさに罪人と権力者との構図が明確となってからというもの、その人間性を否定するかのようにエスカレートする屈辱的な暴力描写に、我々観客は否応でも緊迫感・恐怖感を強いられることとなる。なぜ彼らはそこまで暴徒化したのだろうか。金に目が眩んだという弱みを持ったこの男たちが、なんとも哀しい。いつの時代にも通じる権力者としての快感と狂気を鋭く描いて、近年稀に見る上質のサスペンス映画だと言える。
9点(2002-09-07 23:22:00)
58.  スチュアート・リトル2
画面にダイナミズムを吹き込んだことから、その映画的興奮と語り口の旨みは前作をさらに上回る。「S.W.」も「S.L..2」も趣の違う作品であるものの、SFXが凄いという点では共通している。しかし大掛かりでないだけに、誤魔化しがきかない本作のほうが、高等テクニックの冴えというものを感じる。実写との違和感など微塵も感じさせない、実に地味で細かな作業の積み重ねで出来上がった作品。本当に凄いとはこういう事を言うのだろう。
9点(2002-08-18 17:51:03)(良:1票)
59.  バーバー
近年、これほど陰影に富んだ見事な白黒映像を見た事がない。(例えば、カットされ床にゆっくりと散っていく髪の毛を、逆光に捉えたショットの美しさはどうだ!)その深みのある映像ひとつひとつに心を奪われてしまう。時代背景からして、まるでN・ロックウェルのイラスト的世界をそのまま映像化したような、名手R・ディーキンズのカメラの果たした役割は絶大で、これだけでも充分観る価値のある作品だと言える。さらに、ホイールキャップがくるくると転がるように、皮肉な運命に弄ばれる主人公をB・B・ソーントンが好演。決して感情を顕わにせず、運命にも逆らわず、そしていつも煙草を咥え、ひたすら髪を切り続けるという平凡な男のイメージを見事に体現し得たことが、この作品の成功を導いたのだと思う。
9点(2002-08-10 17:31:09)
60.  スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃
昔々、「帝国の逆襲」が公開された時、“見世物映画としては一つの頂点に達した作品”と評されたことがあった。CGやデジタル合成というテクノロジーの格段の進歩で、あらゆる映像表現が可能となった現在、この作品もまさに一つの頂点に立ったと言えるだろう。様々な宇宙船やクリーチャーたちのデザインの素晴らしさや、その有無を言わさぬ凄まじいスペクタクル映像の完成度の高さには、脱帽せざるを得ない。こういう作品に“空疎な大作”と揶揄した表現をよく耳にするが、ここまで徹底的に見せてくれれば、金と時間とアイデアをたっぷりかけただけの事はあったと思う。
9点(2002-07-20 22:58:30)
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