41. イングリッシュ・ペイシェント
《ネタバレ》 最初に見たときはただダラダラ長いだけと思っていたのですが、数回見てやっと分かりました。何というか、ひたすらことことトロ火で煮込んでいたら、いつの間にか取り返しのつかない芯の部分の熱量になってしまった、みたいなじわっとしたゆったりした雄大なロマンスの描き方が、そこに身を委ねてみると実に心地よいのです。ラストシーンが冒頭にそのままつながっていく構成も、見るたびに味わいを増してきます。●しかしこの作品をそれだけにとどめなかったのは、ジュリエット・ビノシュの絶大な貢献でありましょう。主演の二人に加えてコリン・ファースをはじめとする助演陣がおり、美術や音響や大自然映像やエキストラの助けが存分にあった過去パートに比べ、現代パートは、廃墟となった修道院内がほとんどで、デフォーなどの助演ヘルプはあるものの、ほとんどはビノシュとファインズの2人芝居です。しかもファインズは寝たきりで表情もなしという演技上のハンデありです。その中で、派手な動きも大げさな台詞もなく、それでいてハナという人格をそこにいるだけで表現しています。このハナなら、いきなり患者を廃墟に連れ込んで同居するという突飛なはずの行動も自然に理解できますし、最後のファインズとのあのシーンも必然のものとして受け止められます。そして実は、過去パートの全体すらこのハナに支えられているという気さえしてくるのです。 [映画館(字幕)] 9点(2023-08-29 21:22:45)(良:1票) |
42. GIGANTIC ギガンティック
《ネタバレ》 3人組の若者のロード・ムービー的なあれこれを描いた作品です。台詞なしにグッと食い込んでくる導入部で期待は高まったのですが、その後が、単にいろいろ散りばめましたという感じで、妙に散らかっている。まあ、子供用のようなサッカー・ゲーム対決など、優れた場面もありますけどね。で、ダラダラ引っ張らずに余韻を残すラストは上手く締まっています。というわけで、最初と最後が出来が良いので妙に印象に残ってしまうという、困った作品。 [DVD(字幕)] 5点(2023-08-29 02:38:19) |
43. 奇跡の旅
動物たちの所作はよく工夫して撮っているなあと素直に驚きますが、肝心の内容自体があまりにもひねりがなさすぎて、そのまんまなのです。 [DVD(字幕)] 4点(2023-07-22 23:39:57) |
44. タクシーハンター
《ネタバレ》 タクシー運転手を標的に殺しを繰り広げる主人公!という驚愕の設定に、どんなB級作品なのかと警戒してしまいますが、意外にこれが悪くない。平和な家庭を有する単なるサラリーマンの主人公が、いかにそのバイオレンスな世界に変質していくのか、そのステップもきちんと踏まれていますし、標的をタクシー運転手にするのも無理なく説明されています。また、最初からうまくはいかずに逆襲に遭ったりとか、ときにはいい人である運転手に遭遇したりとか、そのあたりの多面性も確保されています。ただ、ホネはそのようにしっかりしている割に、話としてはあまり広がらずにあっさり終わってしまいました。導入部の妻関連のエピソードが苛烈なだけに、その後の餌食になる各運転手には、あれだけではなくもう少し何か欲しかった気がしますし、最後はあまり意味のないカーチェイスが続いてしまいます。犯人が判明する音声のくだりとか、最後の病室の一連の描写とか、もう少し引っ張ってほしいと思いました。 [DVD(字幕)] 5点(2023-07-10 23:50:48) |
45. メジャーリーグ2
続編の王道ではあるし、安定した内容ではあるのだが、よく考えると、あの実況のおじさんのトークに面白さの大半を依存しているのではないだろうか。各メンバーの描写も、前作で確立したキャラに制作者側が頼ってしまっているようにしか見えない。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-07-04 00:11:05) |
46. 女殺油地獄(1992)
樋口可南子はただ脚本を読まされているだけだし、それと対置されるはずの藤谷美和子にも全然見せ場がない。五社監督は、「鬼龍院」にしても「陽暉楼」にしても「吉原炎上」にしても「肉体の門」にしても、多数の登場人物を遠慮なくぶち込んで、その中で主人公の存在を浮かび上がらせるという手法が得意だったのですが(そして、違うことをやってみたくなるのも分かりますが)、限られた2~3名をじわじわ追っていくというのは、やはりセンスが合っていませんでした。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2023-06-17 01:05:22) |
47. 二十才の微熱
主人公と周辺数人の設定をしたところで、力が尽きてしまったというか、その先に手が回りませんでした。全体の作りがどこまでも平坦で、登場人物が生きていません。随所で長回しにトライしているのは意欲的ではありますが、特段の効果が発生していないので、かえって作る側がその手法に依存しているようになってしまっています。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2023-06-02 00:19:58) |
48. アドレナリンドライブ
《ネタバレ》 偶然ヤクザの事務所から大金を持ち逃げして逃亡する、という出だしだけで見てみたくなる魅力的な初期設定。しかしそこからは、それなりに安定して進行はするものの、いろんなネタを使いこなせなかったというか、もうちょっと上に飛翔しそうなところでそのまま高度維持で行ってしまったという感じです。主人公2人は、ありえない一歩を踏み出すのだから、もう少し前フリとか決断の瞬間とかが必要なんだけど、ただ何となく持ち逃げしてるし、途中で痴話喧嘩っぽくなるのは、逃亡から一段落ついて、今度はこの2人の間の関係の変化を・・・みたいにしたかったんでしょうけど、あまり機能していない。あと、あの6人組は、変にチンピラ演技がしっかりしていて妙にイラッとするので、兄貴分との区別という点でも、コメディ部分をもっと強めてほしいところでした(バーベキューのシーンみたいなのがもっと欲しかった)。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2023-05-28 00:30:53) |
49. 蝶の舌
良い雰囲気の話なのに、内容があちこちに拡散していて、肝心の先生との交流がかなりボケてしまっている。ラストのインパクト一発でそれなりの印象を確保しているというだけ。 [DVD(字幕)] 4点(2023-05-27 01:35:02) |
50. トリコロール/赤の愛
《ネタバレ》 何よりも、主演のイレーヌ・ジャコブを美しく撮ろうとする徹底ぶりに驚き。表情アップから全身ショットから背景の色彩感覚からカメラのアングルまで、すべてがそれに統一されている。一方で、滅茶苦茶な理屈を淡々と強引に語っていく元判事との、研ぎ澄まされて選ばれた言葉のやりとりは、「羊たちの沈黙」すら彷彿とさせる(!)。●マイナスは、周辺人物があまり機能していないこと。電話でしつこく浮気を疑ってくる彼氏は結局「それだけ」だし、法律家志望の若者とその彼女も「それだけ」。私はむしろ、あの若者については、同じ時間軸に並行存在していると見せかけて、実は元判事の若き日の姿がバーチャル展開されている、と思っており、なかなか凝った真似をするなあ、とも思っていたのですが。●最後の全員集合は、完全に蛇足ですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-05-21 19:59:14) |
51. ラン・ローラ・ラン
これは、カメラと編集機器とテクノ音楽で遊んでみただけのプロモーション・フィルムであって、これを映画であるとは言わないでしょう。本来は0点か1点にしたいところだが、走っている人の撮り方が多少面白かったので一応この点数。 [DVD(字幕)] 3点(2023-05-18 23:00:34) |
52. トリコロール/白の愛
《ネタバレ》 ジュリー・デルピーが主演と勝手に思い込んでいたので、途中からさっぱり出番がなくて、あれれ?となってしまいました・・・。ただそれはそれとしても、国外脱出にしても、謎の男とのあれこれにしても、土地取引をめぐるどうこうにしても、かなりの危機が発生するものと思いきや、何となく上手くいってしまうのがいい。フランス作品ならではのしんみりとした可笑しさと、そしてペーソスがあります。そう考えると、トリッキーな「作戦」の方がかえって浮いている気がしますが、最後のジュリーの微笑は聖女の雰囲気すら感じさせ、それで丸め込まれるように着地している不思議。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-05-16 00:44:17) |
53. 橋の上の娘
どう見ても、単調な会話が延々と続いているだけの作品にしか見えなかったのだが…。ヴァネッサ・パラディも、ボソボソ喋っているだけで、期待したほどの可愛らしさが見受けられなかった。 [DVD(字幕)] 4点(2023-05-15 00:57:41) |
54. トリコロール/青の愛
ひたすらチマチマじめじめしている独善的な心理描写が続く、いろいろな意味で何とも辛い作品。ジュリエット・ビノシュだったからそれなりに見ることはできたが、通常レベルの俳優だったら破綻していたのではないかと思う。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-05-12 00:27:35) |
55. ロゼッタ
嫌がらせのように役者のアップ以外見せないカメラ。完全な制作者の自己陶酔だけの世界です。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2023-05-03 00:20:31) |
56. ポネット
《ネタバレ》 カメラはひたすら母を亡くした少女を追い続ける。最後までほとんどそのまんま。しかし、主演のヴィクトワールちゃんの類い希なる存在感によってなぜか品質を維持しているという、何ともラッキーな作品。カメラ負けしていないというだけではなくて、そこそこの長回しにもきちんと耐えていますからね。ただそうだとすると、大人(制作側)がそこまで一人の少女によりかかって作ってしまってどうする、と言いたくもなりますが。ただし、いざ母親を出すときに、変な小細工をせず、他の登場人物と同じようにそのまま自然に出しているというセンスは良い。そして主演の彼女は、後に「ショコラ」でジュリエット・ビノシュと一緒に帰ってきました。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-04-25 23:14:02) |
57. パルプ・フィクション
《ネタバレ》 2分で終わる会話を7分続けてそれを延々と積み重ねて適当に前後させただけという、非常に安易な作品なのだが、ダラダラしたところがかえって妙に印象に残ってしまうという困った作品。ただし、そんなジャンクフードみたいな作品の隅々まで演出を行き渡らせる制作者の執念みたいなものは溢れており、その辺のアンバランスさが面白い。●この作品は、時系列操作の代名詞みたいに言われる事もありますが、考えてみると、大きな操作は2つしかありません(ミスター・ウルフの清掃パートを前半から最後に持っていって、その中からパンプキンとハニー・バニーの強盗パートを最初に持っていっただけ)。しかし、それだけでも魔術のように全体を彩ることができる、ということを示した点には、大きな意義があります(その中で、ヴィンセントのあっけない最期というスパイスも強烈に効いています)。 [映画館(字幕)] 7点(2023-03-25 18:47:42) |
58. エイリアン4
主役はリプリーであってリプリーではなく、そのクローン。それがすべて。つまり続編ではなく、別バージョンコピーとでもいう方が正確です。その点はさておいたとしても、全体として襲われたり反撃したりがごちゃごちゃしてかえってスリルがないし、画質の汚さにも参りました。主役を囲む集団にこれだけ頭数がいながら、何の個性もない(中心の兄ちゃんの口汚さ以外)のにも困りました。あと、ウィノナは浮きまくってると思います。 [ブルーレイ(字幕)] 3点(2023-03-22 23:03:08) |
59. エイリアン3
ひたすらジメジメしていて陰鬱で、覇気のない世界が続く。それはそれで後のフィンチャーの源流っぽいといえなくはないのですが、肝心の各登場人物に個性も魅力もなく、エイリアン自体も大して強そうに見えないので、緊迫感が全然ありませんでした。しかも、設定を刑務所内とかにしたせいで、閉塞感もまる出しです。映画的なものがあったのは、最初の漂着宇宙船の中の描写だけでした。 [ブルーレイ(字幕)] 3点(2023-03-21 02:24:53) |
60. レナードの朝
《ネタバレ》 某有名小説と展開が似すぎていないか?というのが長年気になっていたのですが、改めて見てみると、某有名小説の方が技巧に走りすぎているのに比べ、こちらは正面から人間の中核を表現することに挑んでいるので、こちらの方が感動が上ですね。レナードは、昏睡から醒めることはできても、1人で外に出ることも許されませんでした。本当に難しいのは、目覚めることではなく、目覚めた後にどうするか、ということなのです。そして、すべてが元に戻ったときの虚脱感と、そこからの再出発。隅々まで表現しきったデニーロとウィリアムスの名演に拍手。 [映画館(字幕)] 8点(2023-03-04 14:41:15) |