41. フローズン・リバー
《ネタバレ》 人によっては『地味』『起伏がない』だからつまんないの一言で片付けられそうな映画だと思います。けどカナダとアメリカの国境近くの町並みを見ただけで骨身に染み渡る荒涼さが伝わり、その雰囲気だけでもこの映画の魅力を高めていると思います。何と言っても主演のレイ役メリッサ・レオの確かな演技と諸々の感情の軋みがシワに深く刻まれた、あの顔が物語のすべてを語っているようで本当に素晴らしい!相手の先住民の無表情だけど子供を義母に奪われた悲しみを一瞬、垣間見せた絶妙な演技を見せたライラ役のミスティ・アップハムも見事な存在感でした。二人がお互いを少しずつ知り、次第に関係を深めますが、そこの見せ方もあくまで淡々として静かにじんわり伝わってきます。金銭的に困窮してるからやむ得ず不法入国に加担してしまったレイですが、それによって得た大金をすっかり頼りにしてしまう脆さ・・最終的にはライラを強引に説得し最後の不法入国者の運びを続け、トラブルに巻き込まれます。ハッキリ言ってレイのあの行動や発砲行為は目先の金に焦っての軽率行為で片付けられますが・・この金を手に入れたら新しい家を得て、少なくとも今よりはマシな子供達との生活を手に入れれる上、ライラの子供を取り返して彼女もやり直せる、自分とライラの為に切迫した願望の表れが、ある意味頼もしくもあり悲しくも見えます。最後のレイの決断は自分だけでなく、ライラとの今後を考えた最良の決断に思え基本的には悲しい出来事ですが、ポジティヴにすら感じました。ただ1回観ただけではすべてを把握出来るとは思えない深みがあるのでDVDが出たら再び見て新しい発見とか解釈をして味わう映画になると思います。 [映画館(字幕)] 8点(2010-03-28 15:45:31)(良:1票) |
42. ハート・ロッカー
《ネタバレ》 低予算だけど、全然チープさを感じさせない力のある映画とは思いました。大半の人が言うであろう爆弾処理の緊迫感、周りのイラクの人が写るたびに敵か味方か判断も付かずにそちらもハラハラします。そして最大の見所の中盤の狙撃戦は本当に素晴らしい!砂漠地帯での長い静寂のやりとりは、今までの映画の狙撃シーンでもベストに位置してもいい程と思いました。エンターテイメント映画として結構、楽しんで観たのは確かですが・・不満もあります。そもそもこの映画はどのキャラクターの視点で見ればいいのかです。冒頭は主人公のジェームスを仲間のサンボーン達のように俯瞰の視点で見るのかなと思ったら途中から物語がジェームス側の視点になり正直、戸惑いました。そこまでジェームスに対して俯瞰で見てた訳なので大して感情移入出来ない状態で(狙撃のシーンとかでの協力シーンとか、起爆装置を持っていく習性で人間性は描かれてましたけど)、ジェームスの視点で物語を見せられても・・ですから彼の行動の理解もよく分からず『ええっ?お前ってそういう奴だったの?』と思いました。後は一時、アメリカに帰って父親として普通の生活しますが結局、最後はイラクに戻り堂々と爆弾処理に向かうジェームスの姿がありますけど、そこはちゃんと対比として描くべきでは?アメリカで平和に生活しているジェームスがイラクの地獄のような戦場にいる時よりよっぽど『まともじゃない』もしくは『何かしら狂ってる』感を見せないとこの男の本質の悲劇が際立たないと思います。それを描いていればもっと最後の堂々と歩くジェームスにアメリカのイラク侵攻そのものの空虚さと絶望感が感じられたと思うんですけど・・。あとは爆弾で吹き飛ばされて肉片になった人間の惨状とか他の死体を大して見せてないのはちょっと、このテーマを描くのに抜けているのも不満です。色々不満はあるのですが、なかなかの力作であったのは認めます。しかしこれがアカデミー作品賞級かというと首を傾げてしまいます。僕個人としてはあと一歩及ばずです。 [映画館(字幕)] 7点(2010-03-27 15:10:31) |
43. 20世紀少年
《ネタバレ》 まず原作は未読ですので、映画本編のみの感想です。いやぁ前半はとにかくダルくて単調で退屈で頭が痛くなるくらいでした。役者の演技レベルというより演出の問題なのでしょうか、とにかく役者の演技が全般的に『わざとらしい』。前半の見せ方次第では『この後、どうなるんだろう?』とワクワクさせられるはずなのに役者の『わざとらしい』演技と無意味極まりない不快なタレントのカメオ出演とその場、その場でツギハギしたようなペラペラな『伏線ですよ~』的なシーンの垂れ流しのせいか、非常に観るのがキツかったです。あとケンジ始め昔の同窓生が集まって『ともだち』に繋がる記憶を辿りますが、みんな超々都合よいタイミングでバンバン『あっそういえば』『俺さ、さっき思い出したんだけど』と言って記憶が甦る所はちょっと多すぎかなぁと思ったり・・。まぁ後半からオッチョも加わり、クライマックスの事態の切迫感とか出て来て前半が非常につまらなかったお陰で、そこは観れました。それにしてもロボットが原作がどういうのか知りませんけどあんなにチープなものなのですかね?ミサイルランチャーで吹っ飛ぶんじゃない?と思いました。あとは最後の爆発・・AKIRAばりの超爆発の尋常じゃない威力・・これ近場にいた一人残らずバラバラに吹っ飛んでは即死ですよね?主要キャラが生きてるとは思えないけど・・次回予告で立派に生きていたり・・と突っ込むのは野暮ですか?・・ライブシーンは何かコントシーンに見えたり。ケンジがロックンローラとしてギター持ちますけど、それまでのシーンで全然、こいつに『ロック愛』を感じさせるものがまるで伝わらないので唐突で不自然に見えたり、思い出せば次々『何それ?』的なシーンが多くて・・2時間20分長いよなぁどう見ても。まぁ次の展開とかは気にはなりますので取り敢えず4点にしておきます(そうなるとボクは2章・3章とあと5時間近く上記で述べた感じを味わなければいけないのかもしれませんね・・・。) [DVD(邦画)] 4点(2010-03-25 01:33:01) |
44. TEKKEN 鉄拳(2010)
《ネタバレ》 ゲーム版はプレイしてたので設定は知っていました。ですからあのゲームキャラが実写で登場する所は思ったよりは上がりました。色々展開があるので90分は飽きません。風間仁役のジョン・フーは二枚目で筋肉の付け方もバッチリの格闘体で華がありました。他キャラもまぁいいでしょうという感じてす。そして中身、冒頭の暗闇の逃走シーンは画面がゴチャゴチャしてたださえ暗くてキャラの把握が難しいのにゴチャゴチャとカット割ったりして見づらかったです。格闘シーンも画面が不自然にカットが変って逆に格闘シーンの迫力が損なわれていると思いました。アクションシーン盛りだくさんなのに後半からどんどん尻つぼみになってクライマックスの二試合も大した盛り上がりもなく終わるし・・特に父親の一八との決着はひどい!一八が斧持って仁を襲いますけど、最後こそタイトル通り『鉄拳』でケリ着けろよ!しかも最後、ラスボス一八が仁に1回サッと腹切られてあっけなく終わるって・・せめて拳でボコボコにして終われよ!そもそも主役の仁が何であんなに強いか冒頭で書くべき所をまるで描いておらず最初の仁は身軽で小生意気、彼女とイチャつくチンピラにしか見えません。でもいざ格闘場に入ったら行き成り強いという・・(ここは鉄拳ファンならこいつが強いという事は知っているよね?という暗黙の了解部分なのか)あとは最後に一般代表の仁が勝ちますけど、それでその日の内に三島グループ崩壊になったり、クリスティが参加企業の覇権を賭けた代表者なのに対戦相手になるであろう仁とあっという間に仲良くなり、元にいた彼女の放ったらかしぶりと諸々のご都合主義。クレジット後のドンデン返しも見せ方ショボイよ。重箱の隅なのですがメインのキャラ達が主に日本人という設定なのに英語しか話さないので、これはアメリカ映画だから仕方ないよなぁと思ったら主役の仁の母親(風間準)が少しだけ片言の日本語を話してびっくり、あんた片言だけど日本語話せんじゃん!敵の兵隊も片言の日本語『ウゴクナ』って・・あの日米共同制作なんだから日本語話すなら、まともな日本語ぐらい吹替えでもいいから付けろって。まぁこの手の映画にこんな突っ込みは野暮過ぎるでしょうけど、言わずにはいられなかったので。もし他のシーンに弱点があっても、メインの格闘シーンの凄さで私のような小うるさい奴を黙らして貰いたかった・・過去の優れた格闘映画のように。 [映画館(字幕)] 4点(2010-03-22 14:57:36) |
45. 狼の死刑宣告
《ネタバレ》 愛する家族の一人が理不尽に殺され、その父親がギャングどもに復讐を始める・・従来の映画なら復讐の相手をぶっ殺して何とか救われて終わりのような構図が多いように思えますが、この映画はひたすら復讐の連鎖の泥沼に入って取り返しの付かなくなる構図を容赦なく描かれます。ケビン・ベーコン演ずる息子を殺された父親の復讐にまで駆り立てる気持ちは痛いほど伝わります・・しかし後先考えず感情的に加害者のチンピラを殺してしまい、自分の家族にまで危害が及ぶ事態になった原因である父親は愚かに感じられます。劇中で父親が『実際になってみないと分からないぞ』というようなセリフがありますが、あんな事件が起きたら人はケダモノに変る事も有り得ると言っているようでゾッとしました。そして父親は最終的に自らもギャングと対等の姿になり決着を付けますが、ギャングのボスが最期に父親に対し『その姿、俺達と同じだぜ』と見事すぎるセリフを語ったときはズシーンと重く響きました。結局、復讐しても父親は失ったものは多いのに何も得たものはなかった・・個人の復讐の割の合わなさの漂う無力感が素晴らしかった。あとはアクション・シーンが見事!駐車場前後の逃走シーンのカメラワークやクライマックスの激しい銃撃戦の緊迫感は手に汗握り、重い雰囲気の映画なのに片時も目が離せずにいました。ジョン・グットマンの脂っこい拳銃のり売人のエグさも素敵・・。まぁ警察の無能っぷりや、父親が自宅でギャングに撃たれるのが腹に一発だけって・・あと2発くらい撃たなきゃ物語の流れから見ると不自然では?と色々不満も無い訳ではないですが、実に素晴らしくて実に悲しいアクション映画だと思いました。 [DVD(字幕)] 9点(2010-03-21 21:30:37)(良:1票) |
46. シャーロック・ホームズ(2009)
《ネタバレ》 まずロバート・ダウニーJrとジュード・ロウは素晴らしかったとは書いておきます。従来のホームズ&ワトソンとは違う現代的な要素を取り入れたキャラと世界観には全く文句はありません。でも・・目まぐるしく展開が変化する手法は別にいいんですけど、この映画の場合はその手法が物語とキャラをとっ散らかしてる印象にさせてるとしか感じないんですよ。その影響かアクション・シーンの見所が詰まっているのに全体のメリハリが損なわれているので、観てて盛り上がらず退屈に感じるんです。あとは悪役のブラクウッド卿の心霊現象の諸々の謎解きですけど正直、『ショボ・・』買収して看守に演技させてたって何だよ・・トリックでも何でもないですよ。とにかく悪役が大袈裟な雰囲気出しているのにやっている中身はショボイし見せ方もショボイ・・まぁ失笑です。他にやりようがあったんじゃないのかなぁとつくづく思いました。あと一応ヒロイン的な立ち位置のアイリーンの存在の薄さはにもびっくり、観ていて『この人、必要?』と思いました。峰不二子的ポジションに置きたいのか知りませんけどキャラの書き込み不足にも程があるので(別にこのキャラの素性を全部、語れとか言いたい訳ではありません)。ただロバート・ダウニーJr.の軽妙で逞しいホームズが本当に素晴らしいので、彼の出ているシーンはちゃんと魅力的に見えてしまいます。ワトソン君の関係も面白いしなぁ・・だからこそ他の部分の不満が多いのが本当に残念!(あっエンドクレジットも良かった)これほどの素材がありながら映画全体は見掛け倒しの並みの出来になってしまったガイ・リッチーという監督の手腕に疑問を抱かざる得ません。はぁ・・ロバート・ダウニーJr.とジュード・ロウのコンビの良さにおまけの5点です。 [映画館(字幕)] 5点(2010-03-20 20:18:59) |
47. プリンセスと魔法のキス
《ネタバレ》 1920年代のアメリカ社会の黒人が主人公というのは今までのディズニーの流れとしては異色ですね。冒頭からの主人公の家族の描写と夢を語る所、ジャズが流れ活気に満ちた街の人々の描写はディズニーアニメの華麗な動きでいきなり見入ってしまいます。 というかディズニー・アニメの人間キャラの表情とかは私は弱いんですよね・・ちょっと切ない顔とかされるとウルっとするぐらいでまぁ・・冒頭ですでにキました(内容の出来とは関係なくというのが厄介)。王子と主人公のティアナがカエル化する展開はミュージカルシーンとアクション満載で楽しいったらねぇ・・ちゃんと各キャラの物語見せ場を分かりやすく巧みに入れてあるのは流石。特にホタルのレイの叶わぬ恋物語はヤバい・・しかもラストで見せる叶わぬ恋が叶った瞬間は涙腺が緩みまくり・・上手いぜチクショウ。そして王子とティアナの物語の決着も一捻りあってまたしても上手い着地。 いや~めでたしめでたし・・と言いたい所ですが不満もありまして・・今回の騒動の張本人である悪役のドクター・ファシリエがどうして、あそこまで悪事に突き動かすのかの背景が見えにくい事です。ニューオリンズを我が手にしたいのか巨万の富をかすめ取りたいのでしょうが、いまいち欲望の方向が見えないのでファシリエとの決着はいまひとつ盛り上がらずさっささと回収されてしまった印象がありました。あとホタルのレイが死ぬ原因となる『踏み潰される』ですが、『えっそれで死ぬのか?』と思いました。それまで他の動物キャラクターが同等な事をされても平気でいたのに・・それなら、その前の描写でそういう目にあったらヤバイような所は見せないとマズいのでは?と諸々不満もありましたが、終始楽しく観たので満足しました。個人的にお気に入りはティアナの対比として描かれるお金持ちのシャーロットお嬢さんです。何でも欲しがる貪欲なキャラなのに実は友達想いのいいヤツというのは良かったですね。 [映画館(吹替)] 8点(2010-03-14 14:49:00) |
48. 時をかける少女(2010)
《ネタバレ》 正直、観る前は良作を期待していなかったのですが、実際に観たら思った以上の出来となっていて、とても良かったです。基本的な物語は大林版のその後のような感じに取れます(もちろん別の物語ですが)。 弓道シーンとかラストシーン近くの深町とすれ違うシーンとか大林版にオマージュを捧げています。 その上に声はアニメ版の主役の真琴の声の仲里依紗なので 彼女が明るく振舞い笑う所は細田版の真琴の感じにも見えて嬉しくなります。 1970年代の雰囲気を丁寧に再現していて、『あの時代』感は概ね出していると思いました。まぁ母親の芳山和子がタイムリープの薬を作り出してしまうトンデモ展開やタイムリープ・シーンの微妙なショボさ、西暦2600年の世界のチープさとか諸々、引っ掛る所はありましたけど些細なレベルとは思います。仲里依紗が『大人の女性の役は今後も出来るけど、学生の役は今しか演じられない』と語るように彼女の今しか出ない輝きをこの映画は見事にパッケージングしてるので実に魅力的・・相手役の中尾明慶の素朴な映画青年の役は見事にハマっていて、現代風のややアクのある女の子が彼の存在感のお陰で、いい具合に中和され異色カップル感が見ていて微笑ましいものになっていました。終盤では母・和子の想い人、深町との再会は大林版を観た立場ですとグッときますが娘のあかりは悲劇的な現実に向き合います。歴史を変えてはいけないどうしようもない無力感のまま、あかりの記憶を消されるシーンは切なさこの上無し、そういう残酷な現実をキレイ事でお茶を濁さず描いたのは好感持てます。そして『映画』との再会に導かれた『約束』の桜道のラストの切なさと爽やかさが入り混じった余韻は素晴らしい・・かなり健闘していると思います! [映画館(邦画)] 8点(2010-03-13 20:18:48)(良:1票) |
49. エスター
《ネタバレ》 話的にはありがちなサイコスリラーとも言えますが、実に丁寧に細やかに演出されて行くのでジワジワと静かにエスターの異常性が出されています。それにより引き取った夫婦は徐々に人間の暗部を晒してしまい、観てる方はそのやり取りにキリキリしてきます。そして後半は次々と狂気剥き出しにエスターが危害を加えますが、一番に戦慄を覚えたのはエスターが大人の化粧と下着姿で『父親』に迫る所です。あれは子供ではなく完全に『大人』のエスター・・。そこでのエスター役、イザベル・ファーマンの演じ分けは見事しか言いようがありません。そして真実が分かった時にエスターの厚化粧が剥がれ落ち、まさに化けの皮が現す瞬間は恐しいと感じながらも一番のピークとして見入ってしまいました。観終わった後は正直、疲れますが再びあのイヤ~な感じを味わってもいいなと厄介な事に思ってしまう程、優れた映画になっていると思いました。ちなみにDVDの特典で収録されているもう一つのエンディングの方が個人的には好きです・・あの笑顔は反則だよ! [DVD(字幕)] 8点(2010-03-12 01:58:04)(良:1票) |
50. ゴールデンスランバー(2009)
《ネタバレ》 原作は未読です。まず堺雅人の主人公のとぼけた、人のいい役は良かったです。展開も次から次へと起こるので退屈はしませんでした。特に総理暗殺の前後の下りはなかなかで『これは期待できるぞ』と思いました。しかし釈然としないものも残りました。まず通り魔少年の行動と挙動の物語上の不自然さ・・それまではこの映画の現実社会は我々の現実社会と同じリアルさとして描かれていたと感じましたが、彼の登場で『あれ?同じじゃないの?この映画独自の特殊な現実世界?』と感じるほど違和感がありました。一種のコメディとして割り切らないと肯定出来ません。しかも、怪しい男が白昼の込み入った街中で堂々とショットガンを乱射するという異常な出来事がその後の展開で一切、触れてませんし(あっもしかして情報操作?じゃあそれも描けよ)・・その上、逃走中の主人公に数々の人が手を差し伸べて事態を切り抜けますが、その描き方が唐突で雑!柄本明の自称『裏稼業』のじいさんの遣い方は、ちょっとあまりにも都合良過ぎでしょう。そして最大のなんじゃこりゃ?はクライマックスです。主人公がテレビカメラの前で投降しますが、良く考えますと事態解決に関しては『何の意味もなかった』ですね。だってあれによって結局は陰謀が明るみにも出ませんし、別に陰謀側に一矢を報いた(長島敏行の役が死んでも痛くも痒くもないでしょう)訳でもなく主人公は疑いは何も晴れず、そのまま犯人として逃走し、身代わりが死体となって陰謀側は何らダメージは食らってません。花火のシーンの派手さと何かいい雰囲気に一瞬、ごまかされましたけど。やはり陰謀側の描写があまりに少なかったのも問題ですね、ですからサスペンスとしての緊迫感はいまひとつ希薄です。主人公周りの描写含めた『美しい過去、交友関係』と陰謀側の残酷な思惑がくっきり対比出来たら、より深みが増したのでは?と思いました。一つの例ですが長島敏行のイカれたいいキャラや通り魔少年がいるんですから、そこの異常性をクローズアップしてバイオレンスものとして針を振り切れれば、多少の違和感も吹っ飛ばせたと思うのですが・・そういう面での思いっきりもバランスも悪いので彼らのような特殊キャラがこの映画で大して成り立たず、浮いているんです。悪くはないですけど、とにかくあらゆる面での『雑』さがこの映画の足を引っ張っていると思います。もったいない、本当にもったいない。 [映画館(邦画)] 5点(2010-02-13 15:18:34)(良:2票) |
51. インビクタス/負けざる者たち
もう終始、安心して観ていられる信頼のイーストウッド印。 マンデラ大統領の一時期のみに焦点を絞り描くだけでも十分に人柄が伝わってきます。 モーガン・フリーマンは漲る風格でマンデラを演じ見事な存在感で映画を引き締め、 マット・デイモンも負けずにラガーマンを好演・・隙ねぇ・・ ただ一つ思ったのは前半で国の恥とまで罵られたチームがワールドカップまでにグンっと強くなります。 そのあたりがやや唐突に感じ、強くなる過程はもう少しちゃんと描いて欲しかったかなと思いました。 後は演出が『ベタ』ともいえる手法をいくつかのシーンで見られ、最初は首を傾げましたが後で思うと、素直にあの当時の熱量を観客に体感させる、てっとり早い演出だったのかなぁと思いました。 マンデラ大統領退任後の現在の南アフリカはマンデラが映画の中で掲げられた理想とは程遠い事になっているのでややもの哀しさも感じますが、ラストで流れる若者がラクビーをするシーン(撮影クルーが実際の南アフリカの街で見かけて、偶然に撮れたシーン)を見ると、『あれから受け継がれているものは確かにあった』『あの時の団結を思い出して欲しい』と語っているようでした。 [映画館(字幕)] 8点(2010-02-07 15:07:21)(良:3票) |
52. パラノーマル・アクティビティ
こういうフェイク・ドキュメンタリーものはいかに日常的リアル感を出すかに掛っているのですが、どうにも場面、場面で『都合のいい』露骨なカットが入っているので肝となるリアル感は損なわれて入り込めません。そして夜の睡眠シーンの異変前には何をどう思ったか作り手は『ゴゴゴゴ』という兆候の効果音なんて出してしまうので舌打ち・・こういうのは何気ない生活音だけでも恐さを出せるし、突然の異変を見せてビックリさせられるのに事前の不穏の効果音なんて流したら、もう間もなく何かが起こるって分かり恐怖に備える準備も出来て効果が薄まると思うんです。リアル感の不気味さに関しては正直、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の方がありました(でも、あれは仲間内の口論が多くてウザい上、作品としても凡作)。ただ夜中に女が長時間、呆然と立っていたり、粉を撒いた後の足跡とか暗闇の開いたドアの気味悪さ(閉めろよ!)異変の見せ方がゾクッとさせられた所もあるので最後まで飽きはしませんでした。でもトータルで観ると単なる一過性映画で記憶に残る映画では全くありません。また、この亜流が増えるのだろうか・・ [映画館(字幕)] 5点(2010-01-31 20:13:01)(良:1票) |
53. アバター(2009)
《ネタバレ》 もう予告で殆どの物語展開が語られていましたので『まぁそうなるんだろうな』とオチも予測できました。物語の展開自体に新鮮味はありません。だからといって『先の展開が読める』というのを悪いとは思いません。だってそれを補って余りある圧倒的ビジュアルの世界とあのナヴィのキャラター造形の素晴らしさを大スクリーンで十分に堪能出来ただけでもかなり満足で2時間40分という長尺にも関わらず楽しみました。ただ込み入ったアクションシーンでの3Dはもうゴチャゴチャし過ぎ、視覚が混乱して訳が分からなくなる事もたまにありました(私の座ったポジションに問題があるやもしれませんが)もちろん上空のシーンでの3Dはまさに『体感』してる感覚があり良かったです。ただ観終わった後に残る印象はこれだけのボリュームがあるにも関わらずグンっとあっさりしているのは気にはなりました。とにかく今、大スクリーンで体感しないと絶対、損する映画ではある事は間違いないと思います。 (12/26追加)やっぱり気になるから書きます。主人公が人類を裏切ってナヴィ側に付いてかつて味方側だった兵士をぶっ殺している姿がどうも引っかがるんです。だって確かに軍隊側のナヴィ側から見たら悪党ではありますけど映画ではそんなに悪党してないような気がするんですよ。これが『アポカリプト』ばりにナヴィを虐殺したり非道の限りを尽くしていたら『人類側コラァ、お前ら殺されて当然だよ』となりますけど、そこまで克明に描ききれてないので主人公が軍隊を迷いもなくバシバシ殺す説得力がないんです。人類を裏切ってナヴィとして人類と戦って殺す訳ですから何かしらの葛藤ぐらいはあってもいいのではないかと・・そしてエンディングもめでたしめでたしなのでしょうが結局、人類とナヴィの間は何ら解決の糸口の無いまま終わってしまい主人公が人類を捨てナヴィとして目覚めて終わりって・・うーん何か足りないような・・色々後から考えてしまう映画でしたね。 [映画館(字幕)] 7点(2009-12-23 16:58:23) |
54. パブリック・エネミーズ
《ネタバレ》 マイケル・マン監督のジョニー・デップによるジョン・デリジャー映画は間違いないだろうと多大な期待を膨らませて観ました。確かに2時間20分は全く飽きずにスクリーンに集中出来ましたし、ジョニー・デップのデリンジャーは大変に魅力的なキャラとして写されています。そして冒頭も含め何度もある激しい銃撃戦は『ヒート』を彷彿とさせてかっこいい・・これだけでOKとも言いたくなります・・が・・何だろうなぁ、諸々面白い要素があるのにどうしてもあと一歩のれなかったのも確か。それは監督がインタビューで『人物の内面から描きたかった』と語ってはいますが、そこがいまひとつ伝わりきれてないように思えました。マイケル・マン監督の持ち味のドライな演出がそこの部分を描くには邪魔してる感じがしました(でも、そのドライさが好きでもあるのでなかなか複雑)。人間ジョン・デリンジャーがよく分からないままなので、後半の悲壮な逃走劇も気持ちが入り込めず、ただ『起こっている出来事』として観てしまいました。でもなぁラストでデリンジャーが撃たれた後の淡々とした演出とかはかなり好きなんですよね・・ドライとウェットのバランスがいまひとつ取れてなかった為に面白いけど惜しい映画という印象になりました。ジョニー・デップのデリンジャーは相当いいので願わくば、ギャング稼業を始めた時から死までの長編一代記として観たかったです。 [映画館(字幕)] 7点(2009-12-19 19:01:04) |
55. ニセ札
《ネタバレ》 戦後間もない頃に実在したニセ札事件の映画化という題材は非常に面白そう!と期待していたら・・何か全体的にテンポがないというか、盛り上がらないまま終わってしまったという感じです。ある山奥の村の連中が仲間を集いニセ札を作るという過程なんか、聞いただけで何かワクワク、ハラハラする筈なのにどうも平坦なままトロトロとシーンを流しているだけでに感じます。しかもニセ札作りに加担するメンバーの動機もあやふやでメインで語られる動機が『ニセ札作り面白そうじゃないか』って何よ?一応、動機の一つとして村が貧乏で金銭面に苦労しているセリフとか描写は少しあるにせよ、あくまで『触れている』程度なので、他の村人がどこまで苦労しているか丹念に見せておらず、よって当初はニセ札作りに否定的だった主人公の倍賞美津子の先生が後でニセ札作りに加担しなくてはいけない程、突き動かされるものが伝わらず、『何となく』で始めてしまった印象に思え彼らに感情移入なんか出来ません。終盤の裁判シーンでの動機を問われるシーンは何かキレイ事っぽい言葉や国家へのちょっとした皮肉めいたセリフを言ってお茶を濁し、あやふやにしたあげく法廷でニセ札をばらまいて傍聴人がお金に群がる姿を滑稽に見せていますが、あたかも作り手の『してやったり』という意図が見える展開はどう見ても映画全体の結末を『逃げ』として使っただけ過ぎず、何も解決してない始末・・これこそ滑稽でした。あと一つ気になったのは現在の場所を字幕で『○○の家』とか説明していますけど、あるシーンで『紙漉きの○○の家』と字幕が出た後すぐに人物が紙漉きの作業しているから、全く字幕表記の意味も成してないという間抜けっぷり。字幕がないと観客が分からないと思ってるのだろうか・・映像で理解出来るのに邪魔な字幕で解説されるとウザいんですけどね。残念ながら題材の面白さを大して生かしてない、面白くない映画という結論になりました。最後に主題歌が何故、ASKA? [DVD(邦画)] 3点(2009-11-13 20:25:51) |
56. 母なる証明
《ネタバレ》 ポン・ジュノ監督ですから一筋縄所ではなかったですね。 冒頭から陰鬱なイヤ~な雰囲気が充満していて、『ポン・ジュノ映画を観ているな』と実感がすぐ湧きました。 母親が歩くシーン、息子が立っているシーン、さりげないシーン一つ取っても独特の空気感が醸し出されて魅了されます。 息子の無実を晴らすために執念の独自捜査を続ける姿は、凄まじい迫力。 後半になればなるほど、母親の顔はもはやホラーの域に達し恐い・・ 歯止めの効かない暴走装置と化したよう・・。 そして、事件の結末を過ぎた後、あのラストシーンの夕焼けの光で照らされる 狂気ともいえる母親のダンスは救いの無い迷宮に入り込んだやりきれなさが残り、 ズシーンと重くのしかかります・・エンディングクレジットが流れる間、色々頭の中でシーンが巡ってきて混沌とした気持ちになりますが、それすらも心地よさも感じる余韻でした。『疲れたけど・・もう一度、観たい』という結論になります。 もちろんサスペンス映画としても見応えは十分でそちらの方向でも面白く見ました。 どこかの国の映画みたいに的外れな美談でまとめず、容赦なく人間の膿をえぐり出したような、映画に全面的に支持したくなります。 [映画館(字幕)] 9点(2009-11-08 16:44:18) |
57. 飢餓海峡
《ネタバレ》 3時間という長い上映時間は全く飽きずに映画を堪能出来ました。三国連太郎、伴淳三郎、左幸子の重厚な演技は素晴らしく本作の屋台骨を支えています。特に前半のドキュメント的な不穏な描写は息を呑みました。中盤からの左幸子演ずる娼婦・八重が三国演ずる犬飼に出会ったことによって、生きる支えを得て力強く生きていたのに、再び犬飼と再会を果たした時のあまりにも皮肉な結末は胸に詰まります。映画的魅力が数多いのでこれだけで十二分に評価に値する映画だと思います・・・が・・不満もあります。まず再会した八重を犬飼が殺した後、たまたま目撃した若い使用人を殺害し、犬飼は二人の死体を海へ捨て心中という形で偽装しますが、これはお粗末過ぎでしょう・・八重は犬飼の新聞記事を所有したままだし、そもそも二人には何の関連性もない、すぐボロが出るのは目に見えてます(普通なら死体を発見されないように隠すはず)。実際にあっけなく犬飼が疑われて取調べされます。しかも、その犬飼の警察の捜査シーンは丸ごとカットで長々と刑事達が調査結果を報告するだけで捜査のサスペンスも感じられず味気ありません。あとは、ほぼ高倉健演ずる刑事と犬飼の会話のみで物語が進行するので前半と中盤の躍動と比べると、かなり後退した感は否めません。犬飼が事件当時に極貧の中、どこまで切迫していたか、その背景をもう少し時間を割いても良かったのでは?と思いました、そこが足りないので牢屋で犬飼が初めて慟哭するシーンもこちらにはあまり気持ちが伝わって来なかったです。色々不満を述べましたがトータルで見るとやはり、エンディング時には『あー映画を観た!』という満足感は得られてしまうので個人的には好きな部類の映画なんですね。 [映画館(邦画)] 8点(2009-11-01 19:50:38) |
58. ファイナル・デッドサーキット 3D
いやぁ・・3Dの肉片、破片の飛び散りはアトラクションとして見応えありましたねぇ。 うかつに所々に物を置いてはダメ!という教訓も学びました。そういう意味では飽きはなかったです。 でも3D映画としての機能以外に何があるのでしょうか?この映画。 あまりの映画としての空っぽぷりに閉口でした。 各キャラクター描写も超表面的のみで無味無臭。 特に主人公が予知夢を見られるという設定も全く説明が無くただ見えるという理屈で放置。 いくらなんでも空っぽすぎ! あと吹替え版しかやっていませんでしたので、渋々鑑賞。 主人公カップルのあまりの下手な声演技が気持ち悪くてノイズのようでした。 後でクレジットを見たらやはりタレントの起用・・宣伝だけのキャスティングでしょうが、肝心の声の演技がこの映画にとって何もプラスになっていない。 こんな吹替えを聴かされる身にもなって欲しい・・ 唯一、映画として誉める部分といえば上映時間が短い事、それ以外なし! [映画館(吹替)] 3点(2009-10-25 16:27:30)(笑:1票) |
59. 誰も守ってくれない
《ネタバレ》 観る前はどういう風にこのテーマに挑むか、期待を持っていました。 でも冒頭からずっこけました。まず加害者の未成年の家族に対してテレビのマスコミがあそこまで執拗に追うのかなぁ? いくらコメントが欲しいからって・・カメラを撮ったり、妹が乗った車に対して事故を起こしかねない暴力的なカーチェイスをマスコミが現実に起こすかね? その時点で実際の現実と乖離してるように見えて萎えましたよ。 ネット描写に関しては今までの流れとは完璧にそぐわない描写で笑ってしまいました。 特にネット住人に対する誇張されすぎな描写は呆れるな。 膨大なネット住人が全員、あの加害者妹や関係者を狂ったように糾弾する流れにしたりして『ネット住人=悪』という露骨なイメージを一方的に病的に植え付けている作り手はこの映画のネット住人と同じレベルにしか見えない。 他にもおかしな所をあげれば冒頭はあんなにマスコミが追っていたのに潜伏先の住所がネットで割れたのにマスコミが全く来ないというトンチンカンな事になってたりも気になりました。 数々のシーンがこんな感じなのでいくらキャラクターがシリアスなセリフを語った所で全く深みも何も感じず薄っぺら。 各キャラクター描写に関しても理解しがたいおかしな所がいくつもありますが、いちいち指摘していたらキリがないのでやめておきます。 私はこの映画を現実社会の問題を真摯に扱っている仮面を被って、表面的にシリアスぶっているだけとしか思えません。 残念。 [DVD(邦画)] 3点(2009-10-23 01:34:32)(良:5票) |
60. 3時10分、決断のとき
《ネタバレ》 骨太な西部劇のドラマをスクリーンで堪能出来て良かった・・。 ラッセル・クロウの堂々たる悪党ベン・ウェイド役はいつもながら反則級の存在感で圧倒・・たまりません。 対するダン役のクリスチャン・ベイルはそれと比べると存在感がやや希薄なのは否めないです。 でも現在の境遇に苛まれた男の苦悩を見事に演じ、後半に掛けての展開から堂々たる存在感を示してくれて素晴らしかったです。 二人の間の友情とも敵とも呼べない、奇妙な関係性が面白く物語を引き立てる味にもなっています。 後半でベンはダンの真意を聞き、遂に決断し3時10分発の囚人の汽車へ向けて銃撃の雨をかいいくぐった果てに迎えた結末・・遂に誇りを得た男と誇りを守った男同士の連帯感が画面から静かに溢れググッと感動しました。 ラストシーンで護送されるベンが口笛を吹き愛馬が走ってゆくシーンはまた彼が脱走するだろうなぁと匂わして最後にニヤっとさせられ『いい作品観た!』と充実感に満たされました。 それにしても、こういう良作をしばらく公開を見送っていたとは何事か・・怒りを禁じ得ません。 [映画館(字幕)] 8点(2009-10-18 19:37:44) |