41. 瞳の奥の秘密
久しぶりに「いい映画を観たなぁ」という余韻を味わいながら劇場を後にすることができた良作です。未解決事件の謎解きというサスペンス形式をとりながら自ら封印してしまった淡くも激烈な想いを解きほぐしてゆく話です。さして興味が湧きそうなストーリーでもなく、アルゼンチンという自然豊かな国柄を感じさせるような景色は皆無で、9割方屋内でのロケですが、本作を稀な作品にしているのは演技とカメラワークです。25年前と現在を演じわけ、かつ両方の場面でそれぞれに魅力的なヒロインと主人公。顔のクロースアップが多用され、言葉では埋められない表情の奥にあるものを読み取ろうと観る側も目を皿にして画面を追いかけることになりますが、熟達した演技でその視線に応えてくれます。タイプライター、写真立てといった小物が表情を的確に補足する役割を果たしていて、映画的演出とご都合主義的演出のはざまでギリギリの均衡を保っています。空撮からスタジアムに降りてゆくシーンや尋問シーンでの長回しも緊張感があり、パブロというおとぼけキャラの存在もあいまって、エンタテイメントとしても上質な出来栄えといえるのではないでしょうか。ただ致命的な難点があります。終盤、妻を失った男が主人公に「もう忘れることだ」と諭す場面です。原語「Nao pensa mais」に対する字幕がそうなっていますが、英語でいうと「Do not think anymore」という意味であり、日本語では「もう考えるな」と訳すべきではないでしょうか。「忘れる」という言葉には「自分にとって痛みを伴う出来事=忘れたいという思いを起こさせる事象」という主観的な判断が加えられているのに対し、「考える」という言葉には、その考えられるべき事象がどのようなものであるか、主観的な判断が加えられる以前の状態を指す言葉といえると思います。本作の核が「考えるつもりはなくても考えてしまう」「なにもしないでおこうと思っていてもしてしまう」ことに突き動かされる者たちの物語であり、忘却がテーマではないはずです。この点について-1で8点献上いたします。 [映画館(字幕)] 8点(2011-04-09 01:10:46)(良:2票) |
42. JUNO/ジュノ
《ネタバレ》 16歳で望まない妊娠し出産するまでを描いた現代風の映画として観ると強烈に不満な出来の映画ですが、少女が愛を見出すまでを描いたコミカルな青春映画として観れば、そこそこの出来だと思います。終了15分前までは前者の映画とみなして耐え忍ぶ鑑賞を続けていましたが、里親となるはずだった夫婦が離婚する場面を目撃し、ジュノの父親に向かって「愛し合う2人が永遠に一緒にいることはできないのか」と問い、「外見や性格ではなく、自分にとっての太陽だと言ってくれる人と一緒になりなさい」と諭す場面でやっとこの作品がのみこめました。軽いノリでセックスをしたため、事の以前に意識するはずだった恋に本気になるのはクールではないと決め込んでいたジュノが、自分に宿った新しい命と9ヶ月間過ごすことで、恋と「誰かと一緒にいること」が一気に結びつく場面です。ジュノは出産し、里親となるはずだった夫婦の離婚した妻に子を渡し、お腹の子の父親とよりを戻しめでたくハッピーエンド。恋をしている自分を認め、その思いを伝えることでひとつ強くなれた姿をサブカル感溢れる音楽に載せて贈る青春映画です。でもなんだかなぁ。それを語るための装置として望まない妊娠と養子縁組をフィーチャーするからには相当の覚悟ありやと思いきや、全編に渡るあっけらかんとした軽さは何なのでしょう。シリアスなシーンになるかと思うとすぐに軽妙な音楽が掛かって場面転換。ここまで徹してライトに描く必要が全く理解できません。昨夜見た韓国のドキュメンタリーで、抗がん剤の痛みに耐えながら末期がんのシングルマザーが2人の幼い子供を必死に育てる姿を観たせいか、ジュノというタランティーノばりにしゃべり続ける皮肉屋女子高生のその場をやり過ごすための空疎な言葉の連なりは当事者感が欠落していて、とても比べられるものではありませんでした。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2011-03-26 22:58:22)(良:1票) |
43. 戦場のピアニスト
銃弾と爆弾が降り注ぐ最前線で演奏を続けた音楽家の話、というストーリーを勝手に想像していたのですが、全然違いました。演奏シーンも少なく音楽への熱情も職業以上のものを読み取ることも困難で、主人公がピアニストである必然が全く読み取れません。「一般市民が戦火の犠牲になる」という観点ではチベット動乱であれ、ナヴィの虐殺であれエイリアンの襲撃であれ、あまたの映画が題材にしてきたものと変わりなく、この作品でしか表現されていないなにかを感じ取ることができませんでした。地が困ったさん顔のエイドリアン・ブロディは腹が減っても怪我をしてもピアノを弾いていても同じ表情なので、いまひとつ演技の上手さが伝わって来ません。 [地上波(字幕)] 5点(2011-03-26 13:59:45) |
44. Vフォー・ヴェンデッタ
《ネタバレ》 ヒーローに救われるべき一般大衆をナタリー・ポートマンひとりに集約したのは、饒舌な「V」の身の上を語るうえで有効に機能している一方、作品世界の広がりを犠牲にしていると思います。近未来、管理社会の英国で生活している一般大衆のサンプルがナタリー・ポートマンひとりでは、彼女だけの特別な事情に目が奪われ、一般大衆の目線が感じらません。カタルシスの掛けどころである終盤、「V」の私怨を晴らすための花火と一般大衆の求める正義の爆破が重なり合い、この2つが同時に炸裂して強烈な映画的快感に身もだえするべきところですが、一般大衆側のたきつけが甘く、「V」の恨み節しか炸裂しないのです。赤と黒の色彩や見応えのあるアクションシーンや物語展開など、アメコミ映画として安心して観られる作品ではありますが、面白くなる要素が散りばめられているだけに欲張って観てしまいました。 [DVD(字幕)] 7点(2011-03-26 13:58:34)(良:1票) |
45. セブン・イヤーズ・イン・チベット
故国に残した息子を幼いダライ・ラマと重ねるブラピのお話です。チベットや仏教に関する注釈もなく、西欧人になじみの薄いエキゾチックなアジアをブラピが紹介する観光映画のようでありました。 [地上波(字幕)] 5点(2011-03-14 21:20:31) |
46. パラダイス・ナウ
《ネタバレ》 意気揚々と自爆テロに向かう兄と寡黙な弟の対比が印象的です。最終的には兄はテロが根本的な解決にならないことに気づき弟を呼び戻そうとするのですが、弟は無意味とわかりながらもテロに向かうことをやめることができません。当番として回ってきた自爆テロ参加の命令に逆らわずただ運命に従順な弟の姿は、彼らを指導する立場の人間=権力を行使する側の不気味さを際立たせます。鑑賞後、実にやるせない気持ちにさせられる作品でした。 [ビデオ(字幕)] 6点(2011-03-14 21:12:50) |
47. スタンドアップ
シャーリーズ・セロンがダメ夫から逃げて、働き始めた実家近くの鉱山でのセクハラ訴訟モノです。私の鉱山の男とは「保守的な反面仲間のために命を賭すことも厭わない義理堅い男たち」というイメージが『わが谷は緑なりき』で培われていたのですが、そんな祖先の墓に泥を塗りまくりの野郎共が女鉱夫にセクハラの限りを尽くします。そんな糞野郎共のなかで尋常ではないほど際立つ美貌のシャーリーズ・セロンが訴訟を起こし奮闘するのですが、『エリン・ブロコビッチ』のように訴訟にまつわるドラマの描きこみが薄く、物足りない鑑賞感でした。シャーリーズ・セロンの演技に+1で6点献上。 [地上波(字幕)] 6点(2011-03-14 21:01:55)(良:1票) |
48. エリン・ブロコビッチ
そこそこ楽しめました。実話ベースの訴訟モノという触れ込みでシリアスな作風かと思いきや、「何をしてもダメだった自分がライフワークを見つけて自己実現するまで」を描いた遅咲き青春コメディといった印象を受けました。巨大企業を相手取った裁判ではいたずら電話がたまに掛かってくる程度のライトな妨害工作で済むはずもなく、ジュリア・ロバーツを主役にした時点でコメディ路線へ軸足を置くことにしたのではないでしょうか。子供の面倒もそこそこに仕事へのめりこんでゆくジュリアと、子育てを押し付けられて家出してしまうハーレー乗りのヒモ男(バイカー)の対比は「イクメン」も楽な仕事ではないなと思わせられます。汚い言葉を平気で連発し、気の強い女性を演じたジュリアが意外にもはまり役だった、というよりジュリアのおっぱいが主役の映画ともいえます。 [地上波(字幕)] 5点(2011-03-13 15:26:28)(良:1票) |
49. 美しい人(2005)
9つの短編全てがワンカットで撮られています。主人公の女性たちの周囲をカメラがゆっくりと追いかけてゆくだけで、詳しい背景説明もありません。どれもありふれた日常の風景であり、今この瞬間、自分のいないどこかでこのような出来事が起こっているのではないかという想像力が膨らむような場面が続きます。わずかに重なり合っている短編の合間から、世界は自分の意志とは無関係に存在していて、ただ今ここにいる人物の視点の数だけドラマが生まれるということを強く感じさせてくれます。当時働いていた岐阜では公開館がなく、伊勢の進富座まで観に行ったことも良い思い出です。 [DVD(字幕)] 9点(2011-03-13 15:06:10) |
50. ドラえもん のび太のパラレル西遊記
新ドラえもんが私のドラえもん像とあまりにもかけ離れていたので、口直しに一番よく観た作品を見返しました。これですよこれ。のび太のわがままに付き合い、ジャイアンとスネ夫の間に立つ面倒見のよさがあり、ドラ焼きが好きで、でもちょっと間が抜けているドラえもん。ドラえもんのいるのび太の部屋から、彼の道具によって非日常への扉が開かれ冒険が始まるこの高揚感。パラレルワールドを西遊記という誰でも知っている枠組みを使って子供にもわかりやすく切り取ってみせた見事な作品です(同じ頃に夏目雅子と堺正章の『西遊記』がテレビシリーズで放映されていて、三蔵法師が本当は男であったことを知り驚きました)。また子供にとっての「お母さん」に対するリスペクトに溢れた作品であるというのも素晴らしい。ドラえもんシリーズは本質的にSFであることがよくわかる作品です。ただ子供向けであるがゆえの宿命か、情報量の密度が低いのが痛し痒しなところです。 [DVD(邦画)] 7点(2011-02-27 13:07:55) |
51. 映画ドラえもん のび太の人魚大海戦
大山のぶ代のドラえもんで育った世代です。初の新ドラえもんシリーズの鑑賞でしたが、声優のみならず、絵柄ものび太の部屋も服装も旧ドラえもんシリーズと全てが異なり、受け付けられませんでした。藤子先生亡き後、オリジナルコミック収録話から映画用に話を発展させた展開には唸らされましたが、映画版ではのび太が「ドラえもーん」と呼んだあとに入るテーマ曲が「あんなこといいな」ではないだけで、もはやドラえもんとは呼べないのです。山田康夫亡き後、栗田寛一が違和感を極力少なくルパンを演じて好意を持って受け入れられたのに対し、ドラえもんキャストの交代に反発はなかったのでしょうか。甲高い声でまくし立てる水色で頼りなさそうなにものかはドラえもんではありません。オリジナルを忠実に再現するという方向性が見られなかったのが残念でなりません。 [地上波(邦画)] 1点(2011-02-27 13:07:15) |
52. ジャンパー
おもしろくありません。主人公に喜怒哀楽がなさすぎでついてゆけません。高校時代に好きだった女の子との再会にせよ、見捨てられた母親と再会にせよ、自分以外にジャンプできる人間と会った時にせよ、非常に淡白な反応しかなく、また、彼が「ヤバい!」と感じるレベルが極めて低いために「それぐらい考えとかんかいアホたれ」と苛立つ場面が多いのです。喜怒哀楽のない人間の不気味さを描く作品ならまだしも、本作はキャスティングと演出に根本的な欠陥があると言わざるを得ません。 [DVD(字幕)] 3点(2011-02-27 13:06:26) |
53. キック・アス
《ネタバレ》 近年のアメコミの映画化作品はほぼ網羅してきましたが、そんな中でもオールタイムベストの作品です。オタク少年が瀕死の重症を負い無敵のヒーローに生まれ変わるのかと思いきや、これは真の主人公を引き立てるための前フリ。強さとカッコ良さの片鱗もない「キックアス」で中だるみ感が最高潮になるタイミングと共に、ヒットガールとビッグダディが登場し一気に物語が加速します。アメコミにおけるヒーローの役割と自問自答は「キックアス」が引き受け、強さとカッコよさはヒットガールが担うことでメリハリがつき、過去のヒーローものへのリスペクトもそこかしこに見られ、映画館の大画面でビッグマックを頬張りながら鑑賞するのに最適な作品です。何よりの魅力はヒットガール。子供が蟻やバッタの足を抜いて遊ぶのと同じように悪人を撃ち、斬り、倒してゆくシーンで受ける爽快感が、他の「成人ヒーロー」とは明らかに異なるのは、超人的な戦闘能力を持つ少女という設定からでしょう。典型的なヒーローは、戦闘能力を持ってしまったがゆえの苦悩を持ち、明確な殺意で敵と対峙するというのがお約束ですが、ヒットガールには戦闘能力はあっても殺意とそれにまつわる苦悩が皆無です。ヒットガールを養成した父親がそれらの苦悩を担い、父の武器(父の戦闘能力も高いですが、苦悩するヒーローとしてバットマンに似せた姿で登場するのが興味深いです)として遺憾なく戦闘能力を発揮する存在になっているのです。ヒットガールにとっての「出動」は、父によって徹底的に仕込まれた身体能力を発揮する運動会のようなものでしょう。続編が製作されるそうですが、父を亡くした後、ヒットガールがいかに苦悩しながら更にアップしたであろう戦闘能力を発揮するのを観るのが楽しみである反面、ただ苦悩する普通のヒーローモノに成り下がってしまうのは避けて欲しいですね。 [映画館(字幕)] 10点(2011-02-27 13:05:33)(良:3票) |
54. シリアの花嫁
《ネタバレ》 舞台設定をのみこむのに多少時間が掛かりますが、一旦理解してしまえばこれが現実であることに強い違和感を覚えると同時に、映画が作られたことにひとつの希望を見たような気持ちにさせられます。また、花嫁一家のキャラクターがよく立っています。反イスラエル闘争の指導者の父、封建的な夫との関係の変化を望む長女、故郷を離れロシア人女医と子供を設けて8年ぶりに帰郷した長男、貿易商として世界を飛び回っている女たらしの次男、そしてテレビで見たことしかないコメディアンと結婚する25歳の次女。それぞれが家族の問題を抱えていますが、花嫁の踏み出す一歩のように足を前へ出すことで解決への糸口が開けてゆきます。人との間に一歩踏み出すことができるなら国との間も同じ、という時代をすぐそこに。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-02-05 22:58:10) |
55. ザ・ロード(2009)
《ネタバレ》 原作既読です。荒廃未来系の作品が大好きで原作に非常に唸らされパンパンの期待で鑑賞しました。活字の合間から立ち上がる灰色の荒廃した世界を見事に映像化したことにまずは拍手を贈ります。小説の映画化はえてして脳内映像に勝ることが少ないなかではよく作りこまれています。ただ決定的に掛けているのはその見せ方。深い谷をつなぐ荒廃した高速道路、同じ角度で傾き連なっている電信柱など、親子ドラマの背景にしておくには余りに惜しいように思います。荒廃した世界にはショットを固定し、幾何学的な文明の遺物を連ねて映すだけで満腹になったと思うのですが何とも残念です。また、越冬するため荒廃した世界を南に歩いて下るという極めて途方のない感覚は映画では欠落しており、ストーリーは原作に忠実ではあるものの、ハプニングを連ねて飽きさせないように腐心した脚本家の苦心が伺えます。ただ、原作と異なる心地よい感動を得て映画館を後にできたのは、ラストでガイ・ピアース一行の女性(妻?)と少年が会うシーンです。女性が少年に笑いかけながら「あなたを見ていた」と告げたとき私は強烈な母性を覚えました。回想部分も含め全編を通して少年と母親との交流を描いた場面は(原作でも)皆無であり、父親に庇護され命を保証されてきたとはいえ、母親という存在がいかに子供にとって不可欠であるかを感じました。父親とは明らかに異なるやわらかな輪郭と全てを肯定するようなまなざしが非常に印象的です。荒廃した世界に生まれ、父、母、通りがかりの老人とカートを盗んだ男性が世界のすべてだった少年にとって、まさに新しい世界が開けたこのエンディングは素晴らしい余韻をもたらしてくれます。 [映画館(字幕)] 6点(2011-02-05 22:33:56)(良:1票) |
56. ジュラシック・パーク
《ネタバレ》 ここ5年間テレビのない生活を送っていましたが、結婚を機にテレビを購入しました。32インチのものですが今までノートパソコンとは比較にならない画面の大きさでヘリで島に向かうシーンから唸ってしまいました。大きさにはしゃいでしまうのは子供の恐竜や乗り物に対する興味と似ているのかもしれません。本作を封切り当時映画館で観たときも恐竜たちの圧倒的なスケール感に感動したのを覚えています。ジェラシック・パークのゲートをくぐってからはまさに自分がそこを訪れているかのような体験をできる設定、T-REXの空気を揺るがす咆哮と厨房でのラプターとの遭遇シーンは今観ても手に汗握りました。 [DVD(字幕)] 8点(2011-01-29 16:18:07) |
57. Mr.&Mrs. スミス
《ネタバレ》 エンターテイメントとして安心観られる良作です。アンジーがSM嬢に扮し仕事を終え、ワイヤーとフックが仕込まれたハンドバッグで高層ビルから一気に降下するシーンは何度観ても唸らされます。降りてくるだけで終わることなく、慌てる様子を見せず続けてタクシーをさらりと呼ぶ演出が実にアンジーにハマっています。これに類した憎い演出が随所にあり、アンジーとブラピの何やってもハマる姿にこちらはただただ唸らされるのみです。アクション重視ですが冒頭から随所に挿入されるカウンセリングシーンが箸休めとして機能しており、バランスの取れた娯楽作になっています。 [DVD(字幕)] 7点(2011-01-29 12:58:07) |
58. ブレードランナー/ファイナル・カット
目を見張るべきは映像の美しさでしょう。30年近く前の作品に対してポストプロダクションでこれだけのクオリティに仕上げられるというのは驚嘆のほかありません。退廃的で雑多な世界観を映像だけで表現しているところに製作陣の尋常ではない意気込みが伝わってきます。ストーリーを追う楽しみというよりこの世界観を堪能しました。ただストーリーはあまりピンときませんでした。私のなかで「レプリカント」という存在がうまく消化できなかったからだと思います。表皮は有機体の皮膚で覆われているものの電気仕掛けで感情の芽生えることのないロボットやアンドロイドではなく、かといって細胞培養によって造りだされ少なくとも命あるものとされるクローンでもない「限りなく人間に近い人造人間」という設定を理解できたのはあれこれネットで調べてからでした。レプリカントが殺される(破壊される)際に流れるのは赤い血であり、金属の骨格は見えず内臓さえ備わっているようにも見えるのはその意図からだったのでしょう。命あるものにすべて終わりが訪れるという台詞も限りなく人間に近い人造人間から、生身の人間に対して放たれた言葉であることを考えると感慨深いものがあります。これらは鑑賞後のリサーチで明らかになったことであり、初見で本作の奥行きに気づけなかったのは私の不徳と致すところです。良く言えば観客の想像力に拠り様々な解釈が可能な奥行きのある作品ということもできますし、悪く言えば製作側の意志不統一により矛盾や難解な部分が生じ、解説を必要とする作品となるような気がします。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2011-01-08 12:06:53) |
59. 裸の銃を持つ男
2011年一発目の映画ということでハズレのない作品を妻とチョイスしたのがこれ。小さい頃淀川さんの日曜洋画劇場で観たことを思い出しながら鑑賞しました。齢を重ねたせいか笑えるシーンが増え(ほとんど下ネタでしたが)全編爆笑の嵐でした。所々に「映画のお決まり」をネタにするところもあり、ドアを蹴破ろうとして足が抜けなくなる場面など、映画ってやっぱりうまくいくようにできているものだなぁと思いました。それにしても実に卑猥なタイトルです! [DVD(字幕)] 7点(2011-01-02 13:00:54) |
60. HANA-BI
『キッズ・リターン』の次に製作された作品とあって期待したのですが、いやぁこれは期待を上回る見事な作品でした。ヤクザ、殺し、銃、そしてバカヤローの連発。北野映画ど真ん中の作品ですが、じつに静謐な印象を持つのは極めて抑制された台詞と、極めて絵画的で年密に計算されたカメラワークによるものでしょう。序盤、車のボンネットに置かれた弁当もあの位置以外考えられず、西と土建屋の関係を弁当が雄弁に語っています。この映像に付け足す説明は何一つ不要であり、それゆえ台詞など必要ないのです。また中盤および終盤、上空から地上を垂直方向に映し次第にカメラが下降してゆき地面に対して徐々に水平方向を映すカメラワークに鳥肌が立ちました。文章にすると大したことないのですが、実に素晴らしい映像体験でした。唯一の難点は映像が全てを語っているがゆえに久石譲の音楽は登場人物の感情の機微をかき消すようで蛇足に聞こえます。2010年観納めの映画として相応しい大変良質な作品でした [DVD(字幕)] 9点(2011-01-02 12:46:00) |