761. フルメタル・ジャケット
《ネタバレ》 前半は海兵隊養成所、後半は戦地のベトナムが舞台になるが、前半の出来栄えが見事。 微笑みデブの人格が破壊される過程がとてもリアル。 殺戮者を育てるための海兵隊での洗脳教育。 人間性を捨てなければ、立派な殺戮者にはなれない。 教官の下品で卑猥な罵倒にさらされ、イジメを誘発するような環境の中、穏やかだったデブの顔つきがすっかり変わってしまう。 連帯責任を強いる教官のせいで仲間からも嫌われ、どこにも逃げ場がなければ、銃と話をするようになっても仕方がない。 訓練の目的通りに完全なる殺戮者になりきっていれば結末は違っていただろうが、そこまで自分を捨て切れなかったことが哀れを誘う。 何が起こるかわからない緊迫感に、思わず見入ってしまった。 教官は憎まれ役だが、実は理不尽な人間ではなく職務に忠実なだけで、認めるべきところはちゃんと認めていた。 卒業してから実は優秀な教官だったと教え子たちの思い出話になったかもしれない。 でも、歯車が狂えばこういう惨事も起こりえる。 孔子が弟子の性格によって教え方を変えたように、人に応じた教え方があったはずで、一律の古い軍隊教育が生んだ悲劇。 もっとも、職務自体が人間性の破壊という狂気をはらんだものだから、個人の責任とはいえないけれど。 前半はパーフェクトだったが、後半のベトナム戦地編では明らかに失速。 どこかで見たことのあるような戦場風景で、前半のようなインパクトがなかったのが残念。 後半にも戦争の狂気がハッとする切り口で描かれていたら、不滅の大傑作になったかもしれない。 瀕死の重傷を負った女狙撃手にトドメを刺すくらいでは、狂気漂う前半と均衡がとれず、ドラマとして弱い。 [DVD(字幕)] 7点(2014-10-26 22:49:05) |
762. ブロードウェイと銃弾
《ネタバレ》 登場人物が個性的で、キャラや台詞が生き生きとしている。 プライドが高くて我がままばかり言う落ち目のベテラン大女優。 頭が空っぽで演技もど素人なくせにスターを夢見るマフィアの情婦。 情婦のご機嫌を取るため無理難題を突きつけるマフィアのボス。 スポンサーであるマフィアのボスに何も言えないプロデューサー。 そんな連中に芝居をめちゃくちゃにされていく脚本兼演出家の姿がおかしくて哀れ。 ずっと芝居を見せられてきたギャングの監視役チーチが、思わぬ名案を提案する展開は実に愉快。 そこにプライドを傷つけられてへそを曲げる主人公も、可哀想な被害者という面だけでなく弱点を持った人間として描かれている。 才能もチーチに劣り、出演者と男と女の関係になってしまう。 主人公よりもチーチが完璧な作品を求めていくようになるのが面白い。 どっちがプロの作家なんだかわからなくなる。 自分の作品のためには人も殺すほど鬼になれるなんて、究極のアーティストともいえる。 一方、主人公はアーティストよりも平凡な人間たることを選んだ。 それぞれみんな人間味があって血が通っているので、ドラマが躍動的に映る。 もったいなかったのはラストで、ちょっと安直なハーピーエンド。 三谷幸喜がこの作品を好きだというのもわかる。 『ラジオの時間』は明らかに本作にインスパイアされている。 予定調和気味にまとまった三谷作品より、角があって予測のつかない面白さ。 ウッディ・アレンの作品の中では、クセもなくて一番楽しめる。 [DVD(吹替)] 9点(2014-10-24 22:39:18) |
763. 大丈夫日記
重婚をごまかそうとしてのドタバタコメディ。 エレベーターの中での鉢合わせを乗り切ったのはちょっと笑えた。 が、ストーリーがシンプルなので、90分を同じ調子でやると少しダレてくる。 いかにもドタバタコメディというコント風の演出が肌に合わず。 コメディで笑いのツボがズレていると厳しい。 主演のユンファはマフィア物のシリアスなイメージがあったので、その落差は良かったのだけど、吹替えがコント赤信号のリーダーではその効果も台無し。 やるならシリアスなタッチでコメディを描いたほうが笑えるのに。 [地上波(吹替)] 4点(2014-10-24 22:38:21) |
764. 木を植えた男
実話かと思ったが、そうではないようだ。 原作者のジャン・ジオノは、実在の人物という注文に対して、架空の話を作り上げて原稿を渡した。 真っ赤な嘘をついたこと自体は是非の問われるところだろうが、法螺話を作り上げることのできるのが作家たる所以だろう。 本当にそんな男がそこにいたように印象づけられる。 詩情豊かな映像と染み入るような落ち着いた語り口。 児童文学にふさわしい雰囲気もあり、文科省推薦されても不思議でないようなアニメーション映画。 [インターネット(字幕)] 6点(2014-10-23 20:27:33) |
765. 汚れた顔の天使
《ネタバレ》 悪ガキどものヒーローとなってしまったロッキー。 死刑執行前に親友である神父から頼まれたことは、最もやりたくないことだったに違いない。 面子やプライドは人一倍強い上に、最後にはそれしか持っていないものを捨てるのだから。 臆病者の汚名を背負って死んだ男の真意を知るものは、神父と神だけ。 そこに漢の美学の哀愁が漂う。 ただ、タイトルでオチが完全にネタバレしてしまうのが、なんとももったいない。 せっかくの究極の選択も、天使の行動をするのがわかってしまうので感動が薄らいでしまった。 ロッキーが逮捕されてからローリーの登場がなかったが、少しは触れてほしかった気もする。 [DVD(字幕)] 6点(2014-10-22 21:08:48) |
766. ミクロの決死圏
1966年製作だけに、SFといっても今見直すと装置や特撮が相当しょぼい。 突っ込みどころも満載で、そもそも血流が激しくて作業にならないはず。 でも、ミクロ化して人体の中を巡るというアイデア勝負の映画なので、細かいところは目をつぶってということだろう。 童心で見ればワクワクするような夢のある作品であることは確かで、遊園地のアトラクションのよう。 古典SFとしての評価は高いが、時代的なことを一切考慮に入れずに今の大人が見れば、いろんな甘さや綻びが目に付いてしまう。 [DVD(吹替)] 5点(2014-10-22 21:05:06)(笑:1票) |
767. ソナチネ(1993)
《ネタバレ》 顔色ひとつ変えずにトリガーを引く村川。 どうしようもない虚しさが漂い、人として生きる喜びを捨てたように見える。 いつ何が起こるかわからない緊迫感。 その中にバカンスのようなのどかな時間。 土俵を作っての紙相撲の実演には顔がほころぶ。 南国の空の下での無邪気な笑顔が、その後の虚無感を更に引き立てる。 緊張と緩和、動と静、生と死、そうしたメリハリを巧みに利かせている。 「あんまり死ぬのを怖がってると死にたくなっちゃう」 死を避けようと考えること自体が、死を見つめてしまっているということか。 破滅や死へと吸い寄せられていくかのような主人公に、儚さがつきまとう。 ただ、ラストの車中での自殺はイマイチな気がする。 それにしても、犯罪ものにしては警察の存在感がまったくなかった。 北野監督は省略できるものはできるだけ省略して、立たせたいものに焦点を当てるが、ここでは警察は不要ということなのだろう。 独特の雰囲気を持つヤクザ映画だが、共感しにくい部分もあってハマるまでには至らなかった。 [DVD(邦画)] 6点(2014-10-21 22:51:25)(良:1票) |
768. 夏時間の大人たち HAPPY-GO-LUCKY
《ネタバレ》 小学生の頃を懐かしく思い出させる映画。 子供なりに感じる疑問、悩み、成長など、うまくストーリーに絡んでいる。 担任の学級会での強引な仕切り方や、子供の将来を決め付けるような自信たっぷりの説教がとてもリアル。 この手の教師って学校にたくさんいたような気がする。 大人と子供を完全に分けて考え、大人が上に立って子供をコントロールするものだと信じている。 決して悪い人間ではなく、あながち間違ったことも言ってない。 良かれと思っての指導なのだが、子供の心を理解することはできない。 この担任と両極にあるのがアツオの両親で、アツオと同じ立ち位置にいる。 子供の頃の気持ちがまだ残っていて、子供じみた馬鹿もやってしまう。 でも、大人も子供も同じ人間なんだということを教えてくれる。 だからといって、ああいう教師が不要とは思わない。 社会にでればこの手の人間など山ほどいるし、納得できないこともたくさんある。 そうした経験を社会の縮図としての学校でしておくことは、けっして無駄ではないのだろう。 大上段に物を言う大人がいて、同じ目線でものを言う大人がいて、それが子供にとっては健全な場なのかもしれない。 妹にめちゃくちゃにされた絵が入選してしまったり、本当は巨乳好きなのに貧乳の同級生を好きになったり。 一筋縄ではいかない世の中に戸惑いながらも、子供たちは大人への道を歩んでいく。 これといった大事件が起こるわけでもなく淡々と進んでいくが、ノスタルジーに浸って温かい気持ちになれる。 中島哲也監督の『嫌われ松子』『下妻物語』も好きだが、これもいい。 この監督は時間軸の行き来が巧いし、目線に優しさとユーモアを感じる。 ペチャパイ夏子のヌード掲載雑誌を身内が懸命に買い占めようとしたのに、あの大きな看板。 呆然とする姿が可笑しかった。 [DVD(邦画)] 7点(2014-10-20 21:31:15) |
769. 真昼の決闘
《ネタバレ》 一人でも敵を恐れず立ち向かうスーパー保安官ではなく、必死で仲間を集めるところがとてもリアル。 殺されるのを恐れて加勢しない状況もそう。 協力しようとする者もいるが、形勢が悪いのを知って辞退したり、何だかんだで結局共闘する仲間は無し。 孤立無援の主人公の焦燥感が伝わってくる。 ただ、大騒ぎの割りに悪党一味は4人だけというスケールの小ささ。 しかも、その一人を新妻が背後から撃って片付けるとは、従来の西部劇とは随分様子が違う。 決闘までの時間がそのままリアルタイムに描かれているのも、今では『24』などでお馴染みだけど当時としては斬新。 従来の西部劇にないリアルな面白さはあったが、ヒーローに求められるようなカッコ良さや爽快感はない。 一貫したアンチヒロイズムとリアリズム。 主人公は新妻と一緒に逃げれば良かったのに、背中を見せられない性分から留まってしまった。 教会で住民たちから協力を得られず逃げることを勧められながら、それでも留まる義理などなかったのに。 仕事への信念は立派だが、そもそも守るべき住民の支持を受けていなかったし、新妻のことを考えれば意固地すぎるように思える。 結局、新妻に助けられて人殺しにしてしまったし、プライドを捨てて退くのも勇気だったと思う。 そうなると、アンチヒロイズム、リアリズムが行き過ぎて、ドラマにはならないけれど。 決闘が終わった後、保安官を見捨てた住民との微妙な空気が印象的。 グレース・ケリーが若く美しすぎて、初老のゲイリー・クーパーとでは父娘にしか見えない。 [DVD(字幕)] 6点(2014-10-19 22:46:12)(良:1票) |
770. ファンダンゴ
《ネタバレ》 ロケット花火の戦争ごっこに、学生時代の夏休みの思い出が蘇る。 ところが一転、戦死した若者の墓に愕然とした二人に、花火がベトナムでの戦火に重なってくる。 当時のアメリカの若者が置かれていた状況がはっきりと伝わってくる。 バカ騒ぎの裏に垣間見えるシリアスな現実。 故障した車を列車に引かせようとしたシーンや、スカイダイビングの件は傑作だった。 洗濯物と人で必死に作った文字が「GO ON」になってしまったのは笑えたし、あのファンキーでパンクな飛行機野郎も最高。 5人の個性が際立っていて、中でも寡黙な巨漢が地味におもしろい。 ある意味、主人公よりも人間的に魅力を感じた。 他に、メンバーの一人がずっと酔いつぶれていてほとんど出番がなかったのもユニーク。 友情を感じる爽やかな青春映画に仕上がっているが、ひとつ引っかかったのは息を吐くように嘘をつく主人公の手馴れたやり口。 口八丁で騙しているのが人の良い老人や田舎者というのがちょっと…。 詐欺師の才能があるようで少し引いてしまう。 5人の消息を紹介するようなエピローグはなかったが、主人公が悪徳商法に手を出して検挙される絵がふと浮かんできた。 もしそれを描いていたら、コメディとしてはアリだけど、青春映画としては台無しかな。 当時30歳のケヴィン・コスナーは、貫禄がありすぎてとても学生には見えなかったのが残念。 再鑑賞。 グループ結成を祝ったドン(ペリ)に会いに行くのはちょっと動機が弱い気もするけれど、別れと旅立ちの卒業旅行の切なさが出ててやっぱり良かった。 [DVD(字幕)] 7点(2014-10-18 21:49:51)(良:1票) |
771. チョコレート・ファイター
《ネタバレ》 タイ映画でジャッキーばりの本格アクションが見られるとは。 考えてみればムエタイの本場なのだからおかしくはない。 なんといっても主演の少女が逸材で素晴らしい。 といっても、撮影当時23、4歳というからビックリ。 十分中高生で通用するほど幼く見える。 テコンドーの選手だったらしいが、何年も前からこの映画のために受けていたという訓練にふさわしい仕上がりで、一流アスリートのキレと輝きがある。 シリアスな緊張感ばかりではなく、ちょっとズッコケ気味なシーンも。 少女がブルース・リーの真似を始めたときは、コントのようでどうなることかと心配に。 ハエだらけの肉処理場は、笑えるけれど確実に食欲をなくす。 マフィアの手下がニューハーフだらけというのもタイっぽい。 阿部寛の決めのナレーションは、臭すぎるし取ってつけた感もあって思わず失笑。 全般的に阿部寛がかなり浮いて見える。 エンドロールの前にメイキング映像があったが、これが撮影現場の凄まじさを物語る。 アクションシーンで何度も当たっていたり、落下で打ちどころが悪かったりとケガ人が続出。 やられ役も含めて相当危険だったことがわかる。 それだけ真に迫っており、日本の女優の付け焼刃のようなアクションなどお遊戯に見えてくる。 NHK制作のドキュメンタリー「闘え!ジージャー」で特集されていたが、あどけない笑顔からは想像できない格闘技選手のような修練と、いつも救急車が待機するような危険と隣り合わせの現場が印象に残った。 自ら何度もダメ出しをして、納得がいくまでストイックに完全形を求める姿は、まさにアスリートそのもの。 [DVD(吹替)] 7点(2014-10-18 21:23:55)(良:2票) |
772. 初恋のきた道
《ネタバレ》 ウッチャンが絶賛していた中国映画。 田舎娘の素朴で一途な思いに心打たれる。 愛する人のために一生懸命料理を作ったり、必死で馬車を追いかけて走ったり、失くした髪留めを探し回る姿が健気。 付き合っていたわけでもなく許婚でもないのに、待って待ってようやく結ばれて、深く愛し慈しみ合って添い遂げた二人。 夫の亡骸を思い出の道を辿って家に戻したいという老いた女の切なる思いが泣かせる。 そんな母の願いを叶えようとする息子の情愛に共感せずにはいられない。 駆けつけた教え子たちに運ばれ、愛する息子に見送られる人生は、名や金がなくとも本望だろう。 大恋愛に至る特別な出来事があったわけではなく、始まりはただの一目惚れのような形。 それがあそこまで情熱的に燃え上がるかという疑問もあるが、恋愛ズレしていない田舎の純真娘ということで消化できる。 夫の声を聞くために40年間学校に通い続けた。 何年か経てば冷める夫婦が腐るほどいる中で、奇跡のような関係、まるでおとぎ話だ。 ただ、うまくいったからおとぎ話になったけれど、そうでなかったら執着心の強烈な怖い女になった可能性もあるような…。 ストーリーはシンプルで何ということもないのだが、大自然の風景とともにその情愛が心に染みてくる。 [地上波(字幕)] 8点(2014-10-17 01:08:00) |
773. ユリ子のアロマ
《ネタバレ》 汗を吸った剣道の防具の臭いは独特。 その臭いでウットリするユリ子は十分変態チックな匂いフェチ。 やりたい盛りの年下童貞男が、エロくて風変わりな女に翻弄される。 『月とチェリー』でもそうだったが、こういう役どころに江口のりこはピッタリ。 『戦争と一人の女』では役柄と合ってなくて酷い大根に感じたが、ここでは自然体。 ただ、ストーリーにはいろいろアラが見えて乗り切れない。 同級生のみほ(木嶋のりこ)を簡単に捨てたのもピンとこない。 ユリ子が徹也と最後までいかないというのも、ユリ子のディテールが描かれていないので伝わらない。 ユリ子にアロマを教えてもらう女性客は、いったい何のために登場したのか。 原紗央莉のヌードを見せたかっただけなのか、ストーリーには最後までまったく絡んでこなかった。 こういうストーリーとまったく関係ないAV出身嬢のお色気シーンを、無理やり入れるのはやめてほしい。 女優やアイドルの裸ならともかく、AV女優の裸が見たければAVを見ればいいんだから。 童貞高校生と匂いフェチのアラサー女のラブストーリーというアイデアから作られたのだろうが、ほとんど出オチの感があって、その後にハッとするような展開が一つもない。 物語の広がりや深みがないので途中から退屈してしまう。 [DVD(邦画)] 3点(2014-10-17 01:06:20) |
774. うつせみ
キム・ギドク監督の作品には奇妙な人物や設定が出てくる。 ここでの二人もそう。 留守宅にピッキングで上がりこんで、修理や洗濯をする男。 夫に暴力を振るわれている女との不思議なラブストーリー。 これは夢か現実か。 メタフィーに満ちたこの手の映画はまったく肌に合わない。 ほとんど無言劇というのもダメだった。 [DVD(吹替)] 2点(2014-10-16 01:11:09) |
775. カッコーの巣の上で
《ネタバレ》 反発していたマクマーフィと婦長がわかり合えるストーリーかと思っていたら、結末がロボトミーとはまったくの予想外。 そいつが一人いるだけでグループが良い意味でも悪い意味でも変わってしまうような存在。 マクマーフィがそのタイプで、他の患者たちは人間性を取り戻したかのように生き生きしてきたのだけど。 出る杭は打たれる。 既存の秩序を破壊する異端者は抹殺されるのが習い。 精神病院の非人間的な管理体制の怖さがじんわりとくる。 ラストに大男のチーフが、マクマーフィのやりたかった形で脱走したのが救い。 婦長の淡々とした管理と融通の利かなさが、強圧的に大声を張り上げるようなステレオタイプではなくて、やけにリアルだった。 ジャック・ニコルソンもハマリ役。 [DVD(字幕)] 6点(2014-10-16 01:09:30) |
776. あの夏、いちばん静かな海。
《ネタバレ》 詩情が感じられる映画。 聾唖のカップルがメインなので、会話がほとんどない。 黙って寄り添う二人が微笑ましい。 説明的なものを一切排して、淡々と静かに映像で語りかける。 茂の事故場面や貴子の涙も見せず、行間を読ませるような作り。 その行間を垣間見せるラストの回想シーンと音楽が切ない。 ただ、そこに至るまでが静かで淡々としすぎて少し退屈。 サーフィンが好きならもっと楽しめただろうけど。 障碍者を描きながら、障碍者を意識させない青春映画。 北野映画にはバイオレンスのイメージのほうが強いが、こういう引き出しも持っていることに懐の深さを感じる。 [DVD(邦画)] 5点(2014-10-15 20:09:54) |
777. 子猫をお願い
《ネタバレ》 仲良し5人が高校から社会に出てそれぞれの人生を歩んでいく。 「それぞれの都合」で子猫がたらい回しにされ、あんなに仲良く結束して見えた5人の間にも「それぞれの都合」が入り込んで亀裂が生じる。 そこにはある種のエゴがあるが、それがあるからこそ人は一人で立っていかなければならないのだろう。 その上でぶつかったり折り合いをつけたり、互いを認めあったりして、相手との関係も新たに構築できるのかもしれない。 「それぞれの都合」に振り回されたかに見える子猫が、強かに生きていくことを願う。 仕事や家庭への不満、孤独感、コンプレックス、いつも一緒にいた友達の間に生じる環境や価値観のズレなど、誰にでも思い当たりそうなことが等身大に描かれる。 ただ、それが心を揺らすような物語に昇華できていないような…。 青春時代のスケッチを淡々と見せられているようで、「そういうのあるよね」「わかるわかる」とは思えるが、それ以上に訴えかけてくるものがなかった。 ラストも消化不良。 女性監督が脚本も兼ねて作った映画で、この年代の女の子の微妙な心情を細やかに織り込んでいて、やっぱり女性向けの作品だとは思う。 ペ・ドゥナはさすがの存在感。いい役者だ。 [DVD(字幕)] 4点(2014-10-14 22:51:51) |
778. ラヴソング
《ネタバレ》 よくある恋愛ものかと思ったが、ありきたりではないラブストーリーが面白かった。 婚約者がいるのに香港で出会った女とセフレのような関係になる男は、純愛ものの主人公らしくはない。 そこに、綺麗ごとに収まらない人間臭さが感じられた。 婚約者にとっては、とんでもない不埒な男だろうけど。 婚約者に嫌な面が描かれていれば男への同情もできたのかもしれないが、あれでは男に同情の余地はない。 ただ、それが嫌悪感にはつながらなかったのが救い。 大陸から出てきて香港ドリームを抱いた二人の日々が貧しくも眩しい。 マギー・チャンは綺麗とは思わなかったが、表情が良い。 その演技力に魅せられる。 大晦日に初めてキスした時や、再会して別れ際に自分の気持ちが抑えきれなくなった時など、素晴らしかった。 エリック・ツァンは腹黒いヤクザ役かと思ったが、悪ぶって別れてあげようとする男気にシビレた。 その男気のせいで、逆にレイキウは別れを告げられなくなってしまったが。 シウクワンとレイキウは、惹かれあっていながらもフラフラとスレ違いの繰り返し。 じれったくてフラストレーションが募る。 それが、ラストにニューヨークの街角でバッタリ再会するなんて、どれだけ天文学的確率なんだか。 でも、そこに目をつぶってファンタジーとして楽しむのも悪くはない。 見つめ合う二人の笑顔に拍手。 外国が舞台なのに、昭和の臭いがする映画。 テレサ・テンの歌が効いているせいもあるのだろうか。 [DVD(字幕)] 8点(2014-10-13 22:34:56)(良:2票) |
779. ラストサマー
《ネタバレ》 ストーリーが破綻しているので、怖いというより疲れる。 一体犯人は誰なのか、もったいつけて引っ張ったわりには、おまえ誰だよ状態でキョトンとしてしまう。 人間関係のネタばらしも下手で、頭に入ってこない。 ベンは車にはねられる前にデヴィッドを殺していたのだろうけど、その辺りのことがわかりやすく描けていない。 突っ込みどころも満載で、呆れるくらい穴だらけ。 カニまみれのマックスの死体が、トランクから一瞬で消えたのはマジックか? 4人が車で轢いたのは犯人のベンだったということだが、顔が潰れていたはずなのに痕跡もなくなっている。 ベンが殺されても蘇生する化け物なら話はつながるのだが、一応生身の人間の設定みたいだし。 怖がらせ方もズレている。 デヴィッドの姉メリッサの挙動が浮いて見える。 例えば、車の中のジェーンらを呼び止めるために、すごい勢いで現われて窓をありえないくらい強く叩く。 ただ観客をビックリさせたいための演出で、登場人物の行動としてチグハグ。 血のついた包丁を持って殺人鬼と紛うような演出も、わざとらしすぎて冷める。 ラストも意味不明。 シャワールームで襲い掛かるのが誰だかわからず、まさかの夢オチ? 脚本も演出もお粗末で、見て損した。 [地上波(吹替)] 2点(2014-10-13 22:33:04) |
780. その男、凶暴につき
《ネタバレ》 主人公のキャラがいい。 冒頭からクソガキどものホームレスいじめで不快指数を上げられる。 それを、主人公の刑事がクソガキの家に上がりこんでをボコボコにすることで溜飲を下げてくれる。 妹に手を出した男を苛める様子がどこかお茶目で微笑ましい。 ところが、後半になって暴力は陰惨にエスカレート。 躊躇なく銃口を敵に向ける、殺るか殺られるかの世界。 狂気と狂気がぶつかる武と白竜の対決は見応えがあった。 マワされてシャブ漬けにされた妹を射殺する主人公に凄みを感じる。 破壊願望を持って、死に向かってひた走っているかのよう。 何もかもが壊れてしまうラストに虚しさが余韻となって漂う。 ただ、ヘタレキャラの菊池を岩城の跡を継ぐ悪党にしたのはやりすぎ。 野沢尚の脚本にしては作中意味のわかりにくいシーンがあると思ったが、武が勝手に改変したようだ。 北野作品にしばしば見られる省略表現(例えば、岩城と我妻の会話の内容)のため、野沢作品とはまた違った印象を受ける。 基本的な作り方が全然違うので、ドラマツルギーに従って緻密に積み上げたものを変えられて野沢尚は相当頭に来たのではないか。 粗も見えるが、それでも初監督でこれなら大したもの。 北野カラーがちゃんと出ている。 当初は深作欣司が監督をする予定だったらしく、深作監督の『仁義なき戦い』を彷彿させるバイオレンスでもあったが、それよりも乾いたインパクトを与える。 『仁義なき戦い』は野心や欲望が渦巻いたものだったが、本作は憎悪や怒り、暴力への衝動に徹している。 [DVD(邦画)] 7点(2014-10-13 22:31:53)(良:1票) |