61. 崖の上のポニョ
『人魚姫』に『クトゥルフ神話』を足して『ワルキューレ』を掛け『いやいやえん』で割るという、老境に入った宮崎駿御大の狂気っぷりがスパークを起こした作品。日常性と神話性の交錯を童話的に表現したアンバランス感は明らかに確信犯であり、大人の常識的観点からあれこれ細かい点を詮索するのは野暮というものだろう。ディティールが崩壊していようがストーリーが破綻していようがタレント声優が棒読みだろうが、全国のお子様方をタケモトピアノのCMばりに理屈抜きで夢中にさせてしまった時点でパヤオの大勝利なのである。ポニョの家族関係にクトルーちゃん(『栞と紙魚子』)へのオマージュを匂わせるあたりにニヤリ。本当に諸星先生の事が大好きなんですね。 [地上波(邦画)] 7点(2013-01-01 16:56:09)(良:1票) |
62. アメリカン・サイコ
《ネタバレ》 快楽殺人を夢想するヤッピーの姿を通して、バブル的な物質主義を皮肉った映画。ラストが妄想オチという事で世間の評判は芳しくないようだが、個人的には無駄に筋肉質なクリスチャン・ベールが全裸にチェーンソーで女を追いかける姿に爆笑できただけでお腹いっぱい。他にも名刺のクオリティ勝負に敗れて打ち震えるベールや、ヒューイ・ルイスのアルバム解説をしながら斧で頭を叩き割るベール、3Pしている自分の姿を鏡に写してポーズを決めるベールなどなど素敵なシーンが満載。しれっと出てくる刑事役のウィレム・デフォーも良い味を出している。サスペンスというよりコメディとして観た方が楽しめる一本。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-12-30 17:06:34) |
63. プレステージ(2006)
《ネタバレ》 ヒュー・ジャックマン(ウルヴァリンの中の人)とクリスチャン・ベール(バットマンの中の人)、ライバル関係にある2人のマジシャンが過去の遺恨から角逐をエスカレートさせていく姿を描いた映画。相手のステージに上がってまでの妨害行為をお互いにやり合う所とか、双方の手記を通して過去と現在を交互に描いていく所とか、途中まですごく良く出来てると思いながら観てたのに、タネの探り合いの果てにガチの複製装置が出てくる所で全部が台無しに。あんなのでクローン人間が出来てしまうとか明らかに飛躍しすぎだろ。キテレツ大百科じゃねえんだから。それで結局、「タネが無いマジックなんて無粋だよね」的な結論?俺のワクワクを返せ!一方の双子のトリックとか悪くなかったのにすべてが後の祭り。まあ、原作に沿った内容らしいので仕方ない部分もあるのだろうが、あくまでマジック対マジックで最後まで勝負して欲しかった。でもノーラン映画のこういうお利口さんに見えて馬鹿っぽい所とか実は嫌いじゃなかったりする。ノーランかわいいよノーラン。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2012-12-29 02:59:59) |
64. 告白(2010)
《ネタバレ》 この監督の映画は背景がやたらとゴチャゴチャしてたり、わざとらしい演技が多かったりしてかなり苦手だったのだが、本作はいつもの調子を抑えてかなりシリアスなトーンになっていて、こういうテンションの映画も撮れる人なんだと感心した。ただし、内容の方はパク・チャヌクの復讐三部作あたりの良さげな部分だけサンプリングして上手くまとめました、という感じ。松たか子の演じるキャラクターなんてほとんどクムジャさんそのまんまだったりする。でも分かり易くてタイトにまとまってるので、ラストの展開とかも含めて非常に完成度は高いと思う。人物の描き方が表層的(記号的)とか必要以上に露悪的とかいった批判も、そもそもこの映画自体がガキをガキ扱いし続ける社会に対するネガキャンCMなのだと考えれば大して気にならない。敢えてひとつケチをつければ、終盤に出てくる爆破の(イメージ)シーンが無駄に長くて仰々しい点。あそこはもっと淡々としていた方がより突き放した感じになって良かったと思う。あんなクソガキに自己憐憫めいたカタルシスなど与えてやる必要はまったく無い。何が「復讐なんかしたって被害者は浮かばれない」だ?復讐と銘打つからには本作のラストの様にすべからく加害者をフルボッコにして終わるべきなのだ。今後はおちゃらけ映画は止めてずっとこの路線でやって欲しい。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2012-12-27 18:33:23) |
65. 特別な一日
《ネタバレ》 ヒトラーのイタリア訪問の式典の日、子育てに追われ生活に疲れたファシスト党の主婦と、ゲイである事を理由に局を追われたラジオアナウンサーとの交流を描いた話。閑散とした団地で式典の実況が流れる中、静かに繰り広げられる2人の応酬は、不思議と緩やかなのに張り詰めている。個人的にファシズムvs自由恋愛(不倫)みたいな構図は大嫌いなのだが、単に下世話なメロドラマとして終わらせない語り口にはかなり好感が持てた。それどころか扇情的なBGMや戦闘・演説シーンなど一切無しで、反戦・反ファシズムを描き切った見事な映画。脱帽です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-12-27 16:47:37) |
66. 摩天楼を夢みて
《ネタバレ》 ある不動産投資会社の営業所の一日の出来事を描いた作品。アル・パチーノ、ジャック・レモン、エド・ハリス、ケヴィン・スペイシーといった豪華出演陣の割には地味な内容である。しかし、テレアポ用の優良顧客リストの争奪戦があったり、顧客の解約を阻止する為に同僚と一芝居うったり、勧奨してはいけないブラック顧客がいたり等々、営業マンあるあるが満載の映画なので個人的にはすごく楽しめた。金融関係の営業職に就いた事がある人なら、誰もが頷きながら観てしまうと思う。ただし、あえてひとつ不満点を述べると、ラストが若干尻すぼみに感じてしまった点。途中まですごく面白かったのに、最後は結構唐突にネタばらししてそのまま終わってしまうので拍子抜けした。もうちょっと引っ張ってくれれば良いバランスになったと思うのだが。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-12-25 00:51:05) |
67. 銀河ヒッチハイク・ガイド(2005)
かなりぶっ飛んだ内容の変態スペース・オペラ。モンティ・パイソンぽいギャグが多いので調べてみたら、原作者がモンティ・パイソンと関わりのある人みたいで納得。とにかくシュールかつ馬鹿馬鹿しい話が、無駄に高度なクオリティで展開される。中でもマルコヴィッチ先生の登場シーンは白眉。神々しいまでのシュールさで、宇宙の真理に触れた気分になれる。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-12-19 19:03:54) |
68. [リミット]
賛否分かれるでしょうが、「アイデア一発勝負」といった感じで自分は好きです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-12-15 19:05:34) |
69. 乱暴と待機
全く期待せずに観たら予想外に面白かったので、良い拾い物をしたという感じ。端的に言えば、うだつのあがらない2組のカップルが繰り広げる長編コントの様な映画である。浅野忠信と美波と山田孝之がボケまくり、小池栄子がそこにひたすらつっこむという構成。小池栄子が美波の顔に妊娠した腹を突き付けて脅すシーンや、浅野忠信が天井裏から「破水してるぞ」「救急車を呼べ」と畳み掛けるシーンには腹を抱えて笑ってしまった。ただし、これといったテーマが読み取れなかったので、そこまでの高得点をあげられないのが残念。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-12-15 18:50:44) |
70. グレイスランド
《ネタバレ》 不慮の事故で妻を亡くした若い男と、エルビス・プレスリーを名乗る胡散臭いおっさんが、プレスリーの自宅であるグレイスランドを目指して一緒に旅をする事になるというロードムービー。途中までカイテル演じるニセ(?)エルビスの余りのデタラメさにヘラヘラ笑いながら油断して観ていたが、終盤に2人して死んだ妻の墓前へとやって来るシーンで不覚にも号泣してしまった。「いつまでも悲劇の世界に閉じこもるな」、絶望に打ちひしがれているすべての人に観て欲しい映画です。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2012-12-15 01:14:10) |
71. アバウト・シュミット
《ネタバレ》 ラスト数十秒のジャック・ニコルソンの泣き笑いの表情にすべてを語らせる映画。そこまで観てやっと、今までの約2時間がそのシーンに至るための壮大な前フリだった事に気付く。内容は一応コメディなのだが、引退したサラリーマンの悲哀がこれでもかと無様に描かれるので、微妙に暗かったり痛々しかったりして笑えない場面の方が多い。しかし、少々退屈に感じたとしても、最後まで投げ出さずに観るべきである。晩年に差し掛かっても何者にもなれず、何事も成し遂げられなかった平凡な男に訪れる、ほんのささやかな救いを。「自分の人生に意味などあるのか?」、一度でもそんな自問をした事がある人なら、人生観を変えてくれる1本にもなり得るはず。ただし、終盤に出てくるキャシー・ベイツの裸体には人生観を狂わされるくらいのインパクトがあるので要注意。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-12-15 00:46:06) |
72. カリフォルニア(1993)
《ネタバレ》 凶悪殺人についての本を書こうとしているルポライターの男(Xファイルの人)とその恋人の写真家が計画した取材旅行に、欲望の赴くままに生きている粗暴な男(ブラピ)と彼に盲目的に付き従う恋人が同行する事になるという、4人の道中を描いたロードムービー。理不尽な暴力シーンばかりで何が言いたいのか分からないという意見が多いが、結構露骨なくらいにポリティカルなメッセージ性を帯びた映画だと思う。要は自分達を先鋭的だと考えているリベラル派のインテリカップルが、信奉している「暴力とセックス」の権化の様な男と一緒に旅をする事になり、その道中で酷い目に遭わされるというブラックコメディなのだろう。まず序盤でXファイルの人がバーで友人達と議論する場面があり、そこでのXファイルの人の弁(凶悪犯罪の中に勝手な意味や理由を見出して理解を示す態度)は、そのまま死刑廃止論者の人権派弁護士の主張の様にも聞こえる。ところがこの旅の顛末により、Xファイルの人は始めはブラピの粗暴さに心酔するものの、やがて本物の犯罪や暴力を目の当たりにし、最後にはその信条を無意識の内に覆し、ブラピの「人権」を無視して彼を「死刑」にしてしまう。また、Xファイルの人の恋人も終盤に「性の開放」を謳った写真をコケにされた上にレイプ(未遂か?)され、「性の開放」がどういうものかを身をもって味わってしまう。この意地の悪いラストには余りに皮肉が効いていて思わず笑ってしまった。獣の様な男をノリノリで演じているブラピも良いが、やはり皆さんもおっしゃるように従順な恋人役のジュリエット・ルイスの演技が妙にリアルで素晴らしい(ポロリもあるよ!)。天真爛漫だがちょっとバカで、男に振り回されながらも依存してしまう。現実にも居るんじゃないですかね、こーゆー人。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-12-08 21:48:41)(良:1票) |
73. ピアノ・レッスン
《ネタバレ》 映像と音楽は荘厳な雰囲気だが、要はウェルメイドな皮を被ったスイーツ映画ですな。口がきけない主人公にとってピアノはコミュニケーションツールであり、それを理解し受け入れた男との関係を通じて癒される話なのは分かる。しかし、そこまで切実にピアノの重要性が描かれているとも思えないので、そこに固執する主人公の身勝手な振る舞いには終始イライラさせられる。前夫を事故で失った事や望まない縁談を押し付けられた事には同情するが、じゃあ精神を病んでおれば何をしても許されるという事なのだろうか?どうもそんな手前勝手な甘えたメンヘラ思考がこの映画全体を覆っている様に思えてならない。まだ百歩譲って不倫までは許せるとしても、自分の子供を不倫のダシに使う所とか最悪。自分だけで貫徹できないのなら最初から不倫なんかするなと言いたい。人を(しかも自分の娘を)巻き込むな。しかも失敗してるし。嫌がる娘に無理矢理メッセンジャーをさせる→怒った娘が夫に不倫をバラす→激昂した夫が主人公の指を切断、までの流れはコントかと思った。そして何より終盤の船上での自殺未遂(疑惑?)のシーン。だから他人様を危険に巻き込むんじゃねえよバカ。死ぬなら独りでこっそりと死ね。そこからラストへの展開は予想通りだったが、スタッフロールまで舌打ちが止まらなかった。本来なら映像と音楽1点ずつで合計2点と言いたい所だが、「あんなところ生きて通れねぇ」の空耳とハーヴェイ・カイテルの全裸に免じてプラス1点で合計3点献上。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2012-12-08 12:08:41) |
74. ジョゼと虎と魚たち(2003)
《ネタバレ》 恋愛ものは途中で眠くなることが多いのだが、これは最後まで飽きずに観られた。妻夫木君はいつも通りといった感じだが、池脇さん演じるジョゼのキャラクターには引き込まれる。ただし、身も蓋もない言い方をすれば、イケメンリア充の男が身障者の女をヤリ捨てるだけの話。最後まで誰にも感情移入はできなかった。綺麗事で終わらない部分は評価するべきなのだろうが、かと言って手放しで称賛する気にもなれない。昔、女癖の悪い友人がやたらとこの映画を絶賛してたのを覚えているが、これを甘酸っぱい青春ラブストーリーとして脳天気に受け取れる人達は、たぶん自由恋愛とやらを簡単に謳歌できるタイプなんでしょうねぇ。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-12-08 12:05:42)(良:1票) |
75. ローズ・イン・タイドランド
《ネタバレ》 『ブラザーズ・グリム』と同時期に制作されたそうだが、あちらとは対照的に、それにしてもこのギリアム、ノリノリである。皆さんも指摘されている主演ジョデル・フェルランドの圧倒的な存在感、それに負けじと呼応するジェフ・ブリッジスをはじめとする脇役陣の異様な熱演、そして画面の隅々まで行き届いたディティール、この狂った世界観を余すことなく表現してやるという気合いを感じる。世評では奇を衒った様な世界観や役者達の怪演に好き嫌いが分かれているみたいだが、単純にストーリーだけを抜き出してみると結構救いようのない話なので、観ている内になんだかしんみりしてきてしまった。「狂気にでも逃げ込まなければ、この世は悲しくてやり切れないじゃないか!」、鬼才ギリアムのそんな孤独な叫びが聞こえてくる気がする。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-12-08 12:02:32) |