81. 007/カジノ・ロワイヤル(2006)
今までのハイテクスパイ兵器を駆使した、ある意味荒唐無稽な007とはきっぱり決別した硬派な作品。ボンドは超人的な能力で敵を追い詰めるのだが、ぎりぎり「もしかしたら世界に一人くらいこんな能力の奴もいるのかもしれない」というリアリティを残している。物語も最後の最後までハラハラドキドキさせるよう念入りに膨らませてあり、脚本段階から相当頭を絞ったと感じさせる。ただ、このようなキャラクターが「ボーン・アイデンティティ」などと若干かぶってしまうのが新鮮味を損なうところかもしれない。ダニエル・クレイグは予告編を見た限りではちょっと華が足りないかと感じたが、本編を観てみるとそれは杞憂だった。彼が全力で走る様は大変力強く美しい。 [DVD(字幕)] 8点(2007-01-09 00:52:20) |
82. ヒストリー・オブ・バイオレンス
かつて殺し屋として生きてきた男が、再び運命のいたずらでその過去と向き合わなければならなくなる、という設定は割とよくあると思うし、本作はバイオレンスなどに監督なりの美学が散りばめられているが、まあそれ以上の何かはなかった。妻や子供達との愛憎もわかるのだが、それならもう少し上映時間を延ばして細やかに描いても良かったと思う。ちょとした短編小説を読んでいるような映画でした。 [DVD(吹替)] 6点(2006-12-31 11:36:23) |
83. ポセイドン(2006)
オリジナルの壮大な人間ドラマは影を潜めて、人物紹介もそこそこにいきなりポセイドン号をひっくり返してしまった。リメイクではあるのだが、まあオリジナルのとおりやっても現在のテンポの速い物語運びに慣れている観客には冗長に感じられると割り切ったのだろうが、かわりに後に何も残らない単なるパニック映画になってしまった。ペーターゼンは「Uボート」が最高峰で、そのあとずっと右肩下がりだと思ってしまうのは僕だけだろうか。 [DVD(吹替)] 6点(2006-12-31 11:28:01) |
84. 華氏911
これは彼なりの主張があってやっていることなのだろうし、彼の政治的立場に近い人々は指示するのだろうが、僕は彼が中立な立場から米国の矛盾や欺瞞を暴いてくれるだろうと期待したので、ここまであからさまなプロバカンダだと距離を置いて観ざるを得ない。 [DVD(吹替)] 5点(2006-12-31 11:23:26) |
85. ワイルド・スピードX3/TOKYO DRIFT
《ネタバレ》 まずルーカス・ブラックがどうも冴えないというか、オーラがない。まあB級作品にはちょうど良いのかもしれないが。今作はどうしてもドリフトをやりたかったようで、そのためには日本に来なければならないので、無理矢理設定を作って日本に引っ張ってきた。日本人から観ると赤面してしまうほどトンチンカンな面もあるが、これはそういうリアリティは考えないで、劇画調のクールな(?)世界観を割り切って楽しむべき。前作、前々作に比べればドライビングシーンのリアリティは格段に増した。基本的にCGに逃げずに、実車を使ったカーアクション、車の動きにリンクしたシフトワークのカットなどは進歩が見られる。この映画を観るであろう多くの車好きは、そういうディティールに嘘があると途端に冷めてしまうのだ。夜の渋谷でのカーチェイスはなかなかだ。ネタをばらされなければ、LAに渋谷を再現したなどというのはわからない。 [DVD(吹替)] 6点(2006-12-29 11:35:25)(良:1票) |
86. マイアミ・バイス
《ネタバレ》 TV版「マイアミバイス」は未見。マイケル・マンは男臭い世界やバイオレンスを描かせたらタランティーノと双璧だと思うが、今作もそれを楽しみたい向きには最高の作品。ハイビジョンカメラを用いた夜景のシーンなど、コラテラルで得た経験も生かされている。メイキングを観るとフィルムカメラも併用しているようだが、南国の暑い空気が画面によく表現されていて、これは成功だと思う。物語は特段新しいものは感じない。やり手のコンビのわりにはソニーが組織の女に簡単に落ちてしまうなど安直な面もあるが、最期彼女を逃がしたりしないで悲運な最期を遂げたりしていれば、もっと渋い作品になっていたかもしれない。まあ米国の観客には何かしら希望を持たせたラストの方が良いのかもしれないけど。 [DVD(吹替)] 7点(2006-12-29 11:24:10) |
87. ブロークン・フラワーズ
だからー、結局何なんだよ!と言いたくなってしまうのだが、ジャームッシュ作品を楽しみたかったら「それを言っちゃおしまいよ」なのだ。それはわかっている。わかってはいるが、僕にはこの作品に限らずジャームッシュ作品を味わうアンテナが貧弱なようだ。わかりやすい起承転結を用意したり、メッセージを主張したり押しつけたりしない。観終わった後に、何かもやもやしたものが残ったりすればそれで良いのかもしれない。 [DVD(字幕)] 6点(2006-12-29 11:16:34) |
88. スーパーマン リターンズ
邪道かもしれないが、僕はスーパーマンにありきたりのスーパーマン的活躍はそれ程期待していなくて、それよりもロイスとスーパーマン、クラーク・ケントとの微妙な三角関係を観たい。その要素は本作でもしっかりあったのだが、クリストファー・リーブ版の初回スーパーマンのような味わいには若干欠けたかもしれない。スーパーマン役のブランドンは外見はスーパーマンにふさわしいものを備えているけど、まだクラーク・ケントとしてはちょっと物足りない。クラーク・ケントはダメ社員を装いながらも強さと哀しさを併せ持ったような雰囲気が必要。続編があるのならその部分の成長に期待したい。 [DVD(吹替)] 7点(2006-12-29 11:07:50) |
89. 二百三高地
日本の近代史を知る素材としては大変貴重だし素晴らしい。3時間余りにわたって様々なエピソードが積み重ねられた重厚な構成になっている。ただし、この時代の水準と今を比べるのは酷だが、紋切り型の人物設定にオーバーアクションな演技、取って付けたような恋物語、貧弱な音響と雑な編集、細部まで神経の行き届かない戦闘シーンなどを我慢する必要がある。本作を観て重なったのが「男達の大和」だ。撮影技術の多少の進歩はあれど、四半世紀何も新しいスタイルや思想を生み出していないということが逆にわかってしまった。 [DVD(邦画)] 5点(2006-12-29 10:59:22) |
90. 武士の一分
《ネタバレ》 原作がそうなのだからといわれればそれまでだが、山田洋次のこの三部作はシチュエーションが皆同じ。この似たような物語をつくった意図は何だったのか、僕にはよくわかりません。今作は愛する妻を手籠めにした上役に対する復讐劇。確かに悲劇なのだが、復讐劇に持って行くためのお膳立てが整いすぎていてどの登場人物もどうも存在感がない。しかも妻の行動も僕には浅はかに見えてしまう。僕は敵役のキャラクターにどれだけ深みを持たせられるかが、このような物語のクオリティを左右すると思うのだが、島田藤弥の悪徳ぶりがいかにも底が浅い。「たそがれ清兵衛」のような敵役の人生を感じさせるような切なさが何もない。また下級武士の暮らしを丁寧に描いたり、城中の官僚的な組織の描写ははそれはそれで興味深いが、もはや三作目になるとそれ程目新しくもない。「たそがれ清兵衛」は名作だったのに、三作目に至ってスケールが小さくなってしまった印象でした。 [映画館(邦画)] 6点(2006-12-23 05:42:14) |
91. 硫黄島からの手紙
日本人には重く、息苦しく、辛い映画。「父親達の星条旗」に続く本作も、イーストウッドらしく淡々としている。画面に繰り広げられるのは阿鼻叫喚の地獄なのに、ドラマチックに盛り上げようとは決してせず、突き放しているようで、実は暖かい目線を忘れない、静かな映画だ。そして美術考証の細かな違和感など吹き飛ばしてしまうような全体を貫くしっかりした物語の骨組みと質の高い映像、演出が見事というほかない。本作の批判に「戦勝国」である米国が、いくら敗者の視点に立とうとしても、それは傲慢であり、偽善に過ぎないというものがある。太平洋戦争に限らず、戦争によって傷ついた人々が再び和解することは長い時間と大きな苦痛を伴うし、許せないという気持ちもわかる。しかしイーストウッドが投げたボールを僕は受け取りたいと思う。硫黄島では、現在、日米双方が参加して合同の慰霊祭を行っている。これは世界の戦場を見渡しても例のないことだそうだ。そして、この二部作。日本人も、米国人も、これは試されているのではないだろうか。国や民族同士が戦うということ、駆り出された人々の傷、そして和解。島で斃れた日米の兵士達は身をもって「考えよ」と諭してくれているような気がする。また、第三国の人々もこの映画を観て、今自分たちが憎しみをたぎらせて争っている相手が、本当に悪魔なのかということを、少しでいいから思いやってみる事が出来ればと思う。 [映画館(字幕)] 10点(2006-12-14 16:09:12)(良:1票) |
92. ユナイテッド93
《ネタバレ》 綿密に取材をし、遺族の了解を取り、制作者の意志、演出を極力排した特異なつくり。これは映画と言うよりセミドキュメンタリーといった方がしっくりくるだろう。驚いたのは管制センター、軍司令センターの出演者の多くが、911当日に実際に現場に勤務していた当事者であり、俳優としては勿論素人であるということだ。1時間以上もカメラをを長回しして、事前に予告せずに911報告書に基づいた情報を彼らにぶつける方法で、事件当日を追体験させるという方法をとったという。これが見事に成功しており、監督のコメンタリーを聞くまで彼らが俳優でないとはまったくわからなかった。それはあまりに真に迫った「演技」であるため、まさか素人が、映画撮影という管理された状況下でこのような表情、動きが出来るとは思わなかったからだ。監督は「ボーン・スプレマシー」もそうだが彼独特のスタイルで、手持ちカメラを振り回すことで観客をスクリーンの向こう側に叩き込もうとする。これは賛否があるようで、映画館の大スクリーンで観ると、生理的に酔ってしまう観客もいるかもしれない。今回DVDで鑑賞したが、特典に93便の乗客役の俳優達が遺族の元を訪ねるというドキュメンタリーが収録されている。これはとてもシンプルな番組だが、ある意味本編よりも重みがあり、心に刻まれる内容だった。劇場で見た人もこのドキュメンタリーも是非観ることをお勧めする。 [DVD(字幕)] 9点(2006-12-07 19:08:08) |
93. M:i:III
おそらく練りに練ったであろう脚本にハリウッドの持てる技術をこれでもかと叩き込んだような豪華絢爛な映像だ。映画館でハラハラドキドキクラクラしたいのならもってこいの映画。トム・クルーズはやはりイーサン・ハントというよりどこまでいってもトム・クルーズなのだが、もう一人の主役といえるフィリップ・シーモア・ホフマンが完全に乗っ取ったとも思える怪演。この人無表情なのに内に屈折した邪悪なキャラクターを醸し出すのがじつにうまい。彼がいなければ7点止まりだが、1点プラスさせていただきます。 [DVD(吹替)] 8点(2006-12-07 05:21:17) |
94. 父親たちの星条旗
《ネタバレ》 硫黄島の激戦はすさまじい描写なのだが、観終わった後の感想は「静かな映画」だなというものだった。戦争は、平和であればきっと幸せに送るはずだったであろう彼らの人生を、強制的に終わらせ、または全く違う運命の渦に放り投げてしまった。それを分けたのは、ちょっとした偶然や行き違いでしかない。そんな運命に翻弄された彼らは、英雄として称えられ祭り上げられ、やがて忘れられて、それぞれ静かに人生を終える。「戦争のヒサンサ」とか「ムナシサ」なんて手垢の付いた表現ではどうしても収まらない、もっと俯瞰しているようで、それでいて実は彼らの人生に寄り添って見つめるクリントの人間的な暖かさを感じる作品だった。ただ、この映画は「硫黄島からの手紙」とあわせて評価したい作品。かつて激しく憎しみあい、殺しあった敵をあえてその視点に立って映画化するという試み。クリントが日本人をどう描くのか期待している。 [映画館(字幕)] 9点(2006-11-10 20:55:37)(良:1票) |
95. 間宮兄弟
この兄弟を見てすぐ連想したのが、今人気があるらしい双子のコメディアン(名前失念)だ。間宮兄弟は歳は離れているが、精神的には双子のようにお互いを補完して寄り添うように生きている。こんな兄弟、おそらく世界中に沢山いるに違いない。そしてモノやそれにまつわる薀蓄に非常にこだわり、一方女性関係はうぶで奥手。憎めないし、いい奴なのかもしれないが、どうもイライラしてしまうのだ。あの兄弟愛も、何か他人のパンツを見せられているような、妙な生々しさと不快感がある。勿論間宮兄弟が愛すべき人物であることに異論は無いし、彼らには幸せになって欲しいのだが。 [DVD(邦画)] 6点(2006-11-10 20:40:31) |
96. ワールド・トレード・センター
《ネタバレ》 9.11から5年。巷で囁かれているとおり、この事件はあまりに謎が多すぎる。社会派のストーン監督なら、このあたりを鋭く突いてくるのかと思いきや、そのような疑惑や政治的メッセージは極力排除して、港湾警官ふたりの生還のドラマに絞ったつくりであった。はて、なぜストーンはこの映画を今撮ろうと思ったのだろうか。もしかすると米国人が観れば違った感想を抱くのかもしれないが、日本人の僕から見ると(もちろん日本人も多く犠牲になっているのだが)、「あなた達は勇敢で善良な市民であることは間違いないのだが、それだけでこの事件を語ってしまって良いのだろうか」と思ってしまうのである。 [映画館(字幕)] 6点(2006-11-10 20:33:43) |
97. インサイド・マン
《ネタバレ》 こういう映画はどれだけ現実の犯罪としてリアリティを持たせることができるかが勝負となる。「こんなこと実際不可能だろう」とか「どこそこをああすればすぐばれちゃうだろう」などと突っ込みを入れられたら最期なのである。この映画の最大の穴は、最後に残った犯人が倉庫の壁を細工して一週間こもっていたというもの。材料は?寸法はどうやってわかった?トイレはどうしてた?など、あまりに無理があって、ここで興醒めしてしまうのだ。 [DVD(吹替)] 6点(2006-11-10 20:25:08) |
98. かもめ食堂
《ネタバレ》 どの登場人物も影が薄く、実在感が無い。サチエにしても、日本かぶれの青年にしても、夫に逃げられた婦人にしても、背後にある人生を想像させるディティールが足りないし、演出も余りに淡白。誰も彼もがふわりふわりと、サチエの店に集まってきて、ちょっとだけ人生が変わっていく。だが、それだけの触媒になるに足るものがサチエにもかもめ食堂にもあると感じられない。おそらく監督はできるだけ「押し付けがましさ」を排除して、済んだ空気のような映画にしたかったのだろうが、僕にはあまりに語らな過ぎ、遠慮しすぎのように思えた。 [DVD(邦画)] 5点(2006-11-10 20:16:22)(良:2票) |
99. ホテル・ルワンダ
この映画はどんなホラー映画よりも恐ろしい。本当に恐ろしい存在とは、モンスターでも悪霊でもなく、人間そのものだということが良くわかる映画です。しかし家族を愛し、平和を願うセサバギナ達の存在もまた人間の一面です。この映画はルワンダで起こった悲劇に対して、国際社会がいかに無力で無関心であったか、先進国はじめ世界各国が己の国益のみに汲々として、ルワンダの人々の叫びに鈍感であったかということを告発しています。と同時に、危機に瀕した時、家族を守る男としての生き方を描いた優れた人間ドラマでもあります。戦争に限らず、危機的な状況に置かれたら、自分は家族や隣人を守ることができるのかと自らに問いかけながら観ました。 この映画は映像云々をあまり言う映画ではないとは思いますが、照明が平板で、編集がもっさりしていたのがちょっと残念でした。 [DVD(吹替)] 7点(2006-09-10 15:49:49) |
100. エミリー・ローズ
この映画の怖さを決定付けているのは、一にも二にも、悪魔に摂り付かれたジェニファー・カーペンターの超絶演技。ハリウッド女優の層の厚さを感じさせます。ここまで自分を捨てられる女優が日本にいるだろうか。いないでしょう。 [DVD(吹替)] 7点(2006-07-29 19:10:47) |