81. 恋愛小説家
《ネタバレ》 ありふれた日常生活の中にこそ、ドラマがあり、笑いがあり、ハラハラのサスペンスがあるということを再認識させてくれる素晴らしい作品です。序盤の食堂でのシークエンスひとつとっても、普通に起こりえそうなことにも関わらず、目が離せない面白さ。終始不思議な魅力で惹きつけられます。 特筆すべきはやはりメルヴィン・ユドール(ジャック・ニコルソン)という人物。彼の行動理論は実に単純明快です。『キャロルに食事を運んでほしい→キャロルの欠席理由のスペンサーの病気が良くなればいい→スペンサーの病気を治療する医師を派遣する→またキャロルに食事を運んでもらえるようになる。』彼は基本的に自分のことしか考えていません。ただ、自分のために、他の人に親切にしているだけなんです。これほど身勝手で、それでいて清々しい慈善活動があるでしょうか。 バーデル(犬)やサイモン(グレッグ・キニア)についてもそうです。彼は仕方なく頼まれるんです。そして情が移り、バーデルとサイモンに対して優しくなっていくんです。 他者を警戒するのは当たり前です。でも、知り合ってみれば、お互いの悪い面だけでなくそれ以上に良い面が見えてくるよってことをさりげなく語りかけてくれる優しい物語でした。 地味なのに地味さを感じさせない、退屈そうなのに全然退屈にならない、娯楽作品としてもすごく楽しい映画です。 黒人の前でだけ弱気になるメルヴィン、イケメン男性との情事を楽しもうとするキャロル、おとがめなしの強盗の若者たちなど、そこまで見せてくれなくていいよっていうシーンがあったため満点はつけられませんが、エンターテイメント性あふれる完成されたドラマだと思います。 [DVD(字幕)] 9点(2014-04-27 18:33:20)(良:2票) |
82. 戦火の勇気
《ネタバレ》 ミステリーとしてもドラマとしても惹きこまれるストーリーでした。ストーリーや演出重視で映画を楽しむ方には、この作品はオススメできる傑作の1本だと思われます。 イラリオ(マット・デイモン)にしろモンフリーズ(ルー・ダイアモンド・フィリップス)にしろ、何かを知っている、もしくは隠しているという雰囲気をかもし出すのが素晴らしく上手いんです。人が誰しも持っている「真実を知りたい」「人の秘密を覗き見たい」という一種の探究心がくすぐられるのです。 ミステリーとしての完成度もさることながら、デンゼル・ワシントン演じるナット・サーリング大佐が、心の葛藤や苦しみを見せるドラマパートも、これまた素晴らしい出来です。特に家族とのからみはマジで泣けちゃいます。個人的には、奥さんに電話して、家族の様子を聞きながら涙を流すナットの姿が最高に泣けます。 そしてなんと言っても、少しずつ真実に近付くにつれて浮かび上がるウォールデン大尉という人物、そしてM16の銃声の謎。もちろんあらかた予想はついちゃうわけですが、その答え合わせとも言うべきラストの回想シーンは、わかっていても胸がつまります。 難解になりそうなストーリーを極めてわかりやすいものにまとめてくれているのもグッジョブです。これは本当に良い映画ですよー。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2014-04-20 00:20:18)(良:1票) |
83. アウトブレイク
《ネタバレ》 すばらしく面白い作品でした。8点~10点の間で迷ったのですが、他の方も言及されているように、軍の陰謀が明らかになる後半、言われて見れば普通のB級サスペンスアクションものになってしまった感がありますね。よって残念ながら満点とは良い難いのですが、とにかく感染が複数の経路から広がっていく様子の緊迫感が尋常ではなかったので、10点に近い9点かと思われます。 こちらのレビューを見るまでは気付きませんでしたが、なるほど、感染症一本に絞ったほうが映画の完成度、面白さは格段に増したかもしれません。それは裏を返せば、映画のテーマを表現するための本作品のクオリティが非常に高いということでしょう。ですがあえて別れた妻との復縁ドラマや、軍の重要機密(=細菌兵器)という複数の要素を盛り込もうとするアメリカ映画のサービス精神は嫌いではありません。むしろ真面目に作りすぎず、娯楽作品としての立ち位置をぶれさせない姿勢は潔いかもしれません。それでもソルト少佐(キューバ・グッディングJr)の「できました」は笑っちゃいましたが。ワクチンの出来上がりがマックより早いです(笑) スピード感、緊張感、どれもこれも一級品のオススメ作品です。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2014-03-27 03:35:53) |
84. ジュマンジ
《ネタバレ》 こういうタイプの映画は理屈抜きで本当に楽しくて大好きです。 映画だからこそ創り出すことが出来る世界を見せてくれるわけですから、本当に夢のある作品だと思います。 ゲーム好き、ファンタジー好きな自分にとっては、双六で出た目の内容がすべて真実になってしまうなんて、最高にわくわくします。更には、事情を知らない町を巻き込んでいって、次第にスケールが大きくなっていくのがまた良いんじゃないでしょうか。スケールを大きくしすぎるとしらけちゃうこともあるのですが、この映画はその辺の匙加減も絶妙です。娯楽作品として文句なし。はじめてナイト・ミュージアムを見たときの感動をまた味わうことが出来ました。(なんか、自分の中で同系列の映画にカテゴライズされています) 夢あり、笑いあり、ドラマあり、娯楽作品としてもっと評価されても良い作品だと思います。やっぱ映画はこうでなくっちゃね。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2014-03-20 01:46:42) |
85. 代理人
《ネタバレ》 久しぶりに胸を打たれる映画でした。 麻薬中毒者で、自分の子供をゴミ捨て場に放置してクスリを打ちに行く母親カイラ(ハル・ベリー)。一方、その子供の治療にあたり、それからその子供をわが子として育てる母親マーガレット(ジェシカ・ラング)。 これだけ見れば、当然マーガレットと、その一家を応援したくなるのですが、この作品の見所は何と言っても母親カイラの立ち直り。警察に捕まったことがきっかけで、必死に人生を頑張ってやり直そうとするカイラに自然と心が寄り添ってしまうのです。ただ、マーガレットのルウィン一家も、白人の一家でありながら黒人の捨て子に無償の愛を注ぎ、本当に幸せそうな家庭を築いていくのです。 そしてついに、カイラのカウンセラーによって、死んだと思っていたわが子が生きていたことをカイラは知ってしまいます。ここから物語は加速していきます。親権を取り戻そうとするカイラ。最愛の息子を失いたくないマーガレットとルウィン一家。両者は裁判で親権をめぐり争うことになっちゃうんです。 普通は、裁判ものっていうのは、どちらかを応援したくなるものですが、この映画に関してはどちらかに肩入れすることはないかもしれません。なぜなら、二人から、偽りのない息子への愛情を感じてしまうからです。 そして感動のラスト。最後に二人が抱き合ったシーンは久しぶりに目頭が熱くなりました。何より、黒人の子供(イザヤ)の演技が凄すぎます。とても良い映画に出会いました。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-21 00:53:15) |
86. 告発
《ネタバレ》 法廷ものとしてこれより面白い映画はたくさんありそうですけど、アルカトラズ刑務所の負の遺産を映像化し人々の記憶に残すという意味では、この映画を超えるものはないかもしれません。 スタンフィルのナレーションで、ヘンリーヤングとスタンフィルがたどってきた道のりを比較していくとき、使われる映像はヘンリーのものだけです。確かに、スタンフィルの人生は言わば一般的なものであり、言葉だけでも私達は認識できるでしょう。ですがヘンリーの人生は無理です。ヘンリーのたどった人生は言葉だけではとても伝わらない。これこそ映像化し、見ている人に疑似体験してもらう必要があったのかもしれません。そしてその試みはおそらく成功なのではないでしょうか。 スタンフィルの存在もかなり重要です。彼は言わば私達側の人間です。はじめは、ヘンリーと言葉を交わすことすらできません。「君を弁護するためには、君にも協力してもらわなくちゃいけない。」と言っている時点で、ヘンリーとは意識の次元が違いすぎます。ですが、ヘンリーと少しずつ言葉を交わし、ヘンリーの人生の片鱗を共有したとき、スタンフィルは社会とヘンリーを結びつける重要なポジションになった気がするのです。 この映画で僕が一番鳥肌が立ったのは、スタンフィルがアルカトラズ刑務所と、所長・副所長を告発したシーンです。今まで決して表舞台にさらされるはずのなかったアルカトラズの究極の闇の部分が、白日の下に晒されるきっかけとなったシーンです。そしてやはりラストの、ヘンリーの告白でしょうか。確かにあそこに戻るくらいなら死んだほうがマシなんでしょうね。こんなにストレートで説得力のある言葉はありません。 この映画で、唯一共感にブレーキをかける要因になるものがあるとすれば、「何故脱獄したのか。」です。2時間という枠でそこまで明らかにするのは難しかったのかもしれませんが。やはり気になります。ヘンリーを完全なる被害者側の人物と位置づけられるかどうかの重要なファクターになると思うんですが、結局最後までわかりませんでしたね。 [DVD(字幕)] 9点(2013-12-19 03:37:41) |
87. 39 刑法第三十九条
《ネタバレ》 とても重く、息苦しく、理不尽極まりない内容でした。真面目に作られている分臨場感があるし、へたな脚色がない分リアリティが感じられます。映像に、ストーリーに、この作品の世界に引っ張り込まれちゃいます。 工藤啓輔と同じ立場であれば、自分ならどうするだろうと考えずにはいられません。 問題提起もさることながら、映画としてのエンターテイメント性が失われていないことも凄い気がします。鬱になりそうな雰囲気を、ミステリーとサスペンスが程よく中和しているかのような作品です。 少年工藤が妹を発見するシーン、犯人が切断した妹の手を持っているシーンは、衝撃よりも嫌悪感のほうが大きい。(ホラー映画なら平気なのに。不思議なもんです。)それでもこのシーンがあるからこそ、問題提起への強い思いが感じ取られるのです。 確かに日本の法律は、ごく一部かもしれませんが、被害者よりも加害者を守るための法律ってのがある気がします。加害者の人権もあるかもしれません。ですが、被害者は生命という最も大切な人権を奪われたわけですからね・・・。いえ、ここで論じることではありませんね。 確かにもしかすると見る人を選ぶ映画かもしれませんが、それでも多くの人にお薦めしたい映画です。 柴田が誰で、工藤が誰なのかはっきりしたとき、爽快感とは程遠いやるせなさを感じました。 [DVD(邦画)] 9点(2013-12-17 02:39:13)(良:1票) |
88. インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア
《ネタバレ》 人間ドラマとホラーを絶妙なバランスでミックスさせた傑作です。この映画特有の雰囲気を作り上げちゃっているところに、この映画の個性が感じられます。 トム・クルーズのレスタトは、ヴァンパイアという運命を受け入れ貪欲なまでに欲望に忠実であるところに美しさと魅力を感じます。そしてブラッド・ピットのルイスは、人としての魂の輝きが失われないままヴァンパイアとなってしまったその切なく、苦悩する姿にひきつけられます。そして、このレスタトとルイスの相反する個性が、お互いの存在をよりくっきりと鮮明に浮かび上がらせるわけです。相乗効果というやつですね。 更に、この二人だけでも充分すぎるほどの存在感なのに、そこへ登場するのがキルスティン・ダンストのクローディア。てっきりルイスのおまけのような、マスコット的なキャラクターかと思いきや、立派な第三勢力として強く輝きます。 彼女ははっきり言ってレスタト側です。だからこそ、レスタト同様、ルイスに強くひかれたのでしょう。レスタトもクローディアも、人間としての心の最も美しい部分を残したままヴァンパイアとなってしまったルイスのその魂の輝きに、メロメロになっちゃっています。この危ういバランスの三角関係が何とも背筋が寒くなるような緊張感を生んでいる前半が、個人的にはこの映画のハイライトでした。 難を言うならば、前半の完成度が高すぎたために、レスタトが退場になってからの後半がどうしても蛇足気味に感じられてしまうのが残念といえば残念。 もちろん、後半は後半で楽しめるんです。映画としてのエンターテイメント性は十分です。でも前半ほどの魅力が感じられないというか、半減しちゃっている気がするんです。それくらい、レスタト、ルイス、クローディアの3人のドラマが良かったってことなんですけどね。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2013-12-09 00:50:50) |
89. CURE キュア
《ネタバレ》 最終的に高部刑事が伝道師になったってことだったんですねー。いろんな人のレビューと解説読みあさってようやく理解できました。とゆーことは、終盤のクリーニング店でのワンシーンはすでに伝道師になりつつあることへの前触れだったのでしょうか。高部が健忘症みたいになっているワンシーン。何の意味があるのか不明瞭だったのですが、何となく意味がわかりました。 とにもかくにも、ホラー、サスペンス、終盤のミステリー、どれひとつとっても肌寒い余韻を残す作品ですね。にも関わらず、個人的にはそんなに後味悪くない、むしろ人に薦めたくなるのが不思議です。は?もしかして暗示にかかってしまっているのでは?私はこの映画の伝道師になろうとしている・・・。 [DVD(邦画)] 9点(2013-12-05 01:15:45)(良:2票) |
90. パーフェクト・ワールド
《ネタバレ》 完璧な悪人ではなく、完璧な善人でもなく、完璧な父親(がわり)でもなく、完璧な親子関係でもない、まさに中途半端なブッチと、そして父親のいないフィリップの擬似親子の関係に、ただもう素直に感動しました。 ブッチの善悪の価値基準というのはもう本当にあいまいで、だからクズのような殺人鬼と一緒に脱獄したことも、ブッチにとってはそんなに重要なことではなかったのでしょう。ブッチ本人のモラルというのも割りと適当で、犯罪を犯すことに対する罪悪感というのはあまり持ち合わせていないようです。 ただブッチにとっての『絶対悪』が、子供に危害を加える大人であり、そういった場面に出くわすと、画面全体からただならぬ緊張感が漂いはじめます。 最初のブッチの琴線に触れたのが相棒であり、彼は射殺されます。 そして次に琴線に触れそうになったのが道中親切に車に乗せてくれた家族です。車を汚した子供に母親が豹変したときのブッチから漂い始める緊張感。それを感じ取るフィリップ。ここは父親が肝要な対応を見せることで結局は何事も起こりません。 そしてブッチが撃たれる発端となった、黒人の子供が叩かれる一連のエピソード。 普段何事に対してもグレーな、どちらでも良いような対応を見せるブッチが、ただひとつだけ許せないものを感じさせてくれたとき、同調してはいけないのに、同調しブッチの幸せを願う自分がいました。 オープニングとラストシーンのつながりは最高です。 [DVD(字幕)] 9点(2013-10-31 14:43:40)(良:2票) |
91. ボーン・イエスタデイ(1993)
《ネタバレ》 「教育もの」としてとても面白い作品ですね! ホワイトハウスも知らない人が、こんな短期間にここまで知識が豊富になり、思考力まで養われるなんてことは現実には起こりえないんでしょうが、夢があって良いんじゃないでしょうか。何より、政治や憲法、法律関係のお勉強しましょうってな地味なテーマをここまで面白いエンターテイメント作品に仕上げたことに拍手を送りたいです。 しかも、何か裏技みたいな勉強方法を使うのかと思いきや、大事なところでは「辞書をひけ」って超王道。そんで超地味。しかも辞書を引くシーンやたら多い。なんて素晴らしい作品でしょうか。娯楽作品として大事なポイントを押さえながら、でも勉強において大事なポイントもはずさずに押さえてあるなんて、原作者の教育に対する愛情すら感じます。 迷わず10点つけたいところではあったのですが、個人的にどーしてもハリーがちょっとだけかわいそうに見えてしまいまして。彼のビリーに対する愛情って、確かにゆがんでいる部分もありましたけど、なんか一途で憎めなかったんですよね。たたいちゃうのは絶対だめだけど・・・。 ちなみに、ラストにハリーが、「なんでそんなことさせるんだ。」と尋ねたときの、ビリーの返事。「本当にわからないの?だからさせるのよ。すれば私が気づいたことにあなたも気づくから。そうすればあなたもきっと幸せになれるわ」ってやつ。このセリフ、・・・すごくないですか?まさに教育の本質を見事に一言で表してしまった素晴らしい言葉です。 [DVD(字幕)] 9点(2013-07-11 04:46:24) |
92. 忘れられない人
《ネタバレ》 これは忘れられんですねー。 昔、「ストーカー」と「純愛」の違いは何か、と友人達と話したことがあります。何日も話し合った結果、「イケメンであれば純愛。ぶさいくだったらストーカー」という最終的な結論に、私達は非常に満足していたのですが、この作品を見る限りでは全然違いますね。 本作でのアダム(クリスチャン・スレーター)は、一度でもキャロライン(マリサ・トメイ)から拒否されれば、おそらくはすべてのストーカー行為をやめたんではないですかね。そういう人物であるという説得力は十分に彼の人柄から伝わってくるわけです。 アダムとキャロラインの愛情表現って、なんか良いですよね。相手への思いやりにあふれているというか。 ついアダムに主眼を置きがちになりますが、個人的にはキャロラインのキャラクターもかなり魅力的なんです。どこにでもいる惚れっぽい子供じみた女性かと思いきや、すごく母性あふれる優しさを秘めているんですよね。アダムの怪我の手当てにせよ、泣くアダムを優しく抱きかかえる仕草にせよ、アダムをさりげなく気遣う言葉の選び方にせよ、女性の善良性というものが本当によく感じられます。 なんにせよ、まったく飾りもなければサプライズもない、こんなストレートな恋愛映画がこんなにも胸に響くのは正直嬉しいです。 本当は10点満点なんですけど、超個人的な好みで、これだけは絶対許せない演出があったものでして。自分にリボンをつけて、「もうひとつのプレゼントはあたし」っていうの、あれだけはもう本当に本当にだめなんです。100年の恋も音を立てて砕け散ります。 [DVD(字幕)] 9点(2013-07-04 08:31:51)(良:1票) |
93. 日の名残り
《ネタバレ》 過ぎ去ってしまった日々はなんて美しく尊いものなのでしょうか。普通は何十年も後にしか分からない感慨を、たった2時間のドラマの中で体験できたことに感謝です。 本作において、スティーブンスの執事としてのルールは、はっきりしています。そのルールの中でも核になるのが、「使用人同士の恋愛をしてはならない。」「執事は主人とそのお客様に対して、個人的な意見を言ってはならない。」の二つでしょう。その二つのルールを徹底しているだけなのに、そこに崇高な志を持った執事の姿を見ることができるのです。 ただ、スティーブンスはやはり生身の人間でもあります。彼が感情のある人物であるということを素晴らしいくらいに第三者の視点のみで描いているところにこの映画の魅力がありそうです。 個人的には、映画が原作を越えられることはまれだと思っています。なぜなら活字で表現できる心理描写というものを映像で描いていくことには限界があると思われるからです。ですが、この映画は心理描写を登場人物たちの台詞や表情、仕草を通してかなり的確に表現できているのではないでしょうか。まるで小説を読んでいるかのような味わい。それがこの作品にはあります。 スティーブンスは2回ほど、プライベートと公務において同時に選択を迫られるシーンがあります。一度目は大事な会議の最中に、父親が亡くなるシーン。二度目はダーリントン卿とナチとの密会の最中に、ケイトンが結婚の報告をするシーン。 まさにスティーブンスがプロとしての資質、執事としての在り方を問われる本作でのハイライト。そしてスティーブンスの選択、行動、振る舞いに、僕はただただ深い満足感を覚え、充足感に満たされるのでした。 [DVD(字幕)] 9点(2013-06-30 15:32:31)(良:2票) |
94. アシュラ(1993)
《ネタバレ》 B級感丸出しのセンスのかけらもないタイトルに完全にだまされました。 これは素晴らしい掘り出しものじゃないですか。 前半だけ見ると、ただのライトなラブコメにすぎないのに、だんなが殴打された辺りからとんとん拍子に残酷悲劇物語へと見事なスライド。しかもその悲劇っぷりの容赦のないこと。前半のゆるいライトコメディーとの対比が完璧なまでに決まっていて、前半の幸せで明るい雰囲気が、後半の陰惨な物語により深い影を落とすことに成功しています。 全編通して若干粗い造りではありますが、そんなことが気にならないくらい物語にひきこまれちゃいましたね。特に復讐シーンが一番つっこみどころが多く、でも一番カタルシスを感じさせてくれる徹底ぶり。 ラストも完璧。文句なしの傑作です。 シヴァーニの美しさも◎でしょう。おススメです。 [DVD(字幕)] 9点(2013-06-30 05:17:25) |
95. 傷だらけのランナー
《ネタバレ》 カキーン。ヒット。心にヒットしましたよ。 スポーツものは好きなので、どうしても点数が甘くなりがちになっちゃうけど、いいや。感動したし、面白かったし。誰かに観てほしいと思ったし。 リッキー・シュローダー演じる弟ビリーも、ブラッド・ピット演じる兄ジョーも、ばっちり役にはまりまくりで、素晴らしい兄弟愛を見せてくれました。何が良いかって、二人とも完璧ではないところが良いです。 弟ビリーはただの問題児では終わらなかった。兄や母に見守られ、励まされ、支えられる存在から、いつの間にか兄や母を励まし、支え、気遣う存在に。 兄のジョーも、品行方正の優等生お兄ちゃんでずっといくのかと思いきや、終盤に来てまさかのドロップアウト寸前。えぇ?もしかしてそこで道ふみはずしちゃうの?っていうくらいハラハラ。ハラハラ。 あぁ、でも人としての倫理感や正義感は、なくしていなかった。(少年に薬を売り渡す不良に、お兄ちゃんキレる。そう、そこはキレとこう!) そうか。ジョーが弟に優しかったのは、少なからず優越感がそこにあったからなんですね。弟をかばったのも、陸上部への入部をすすめたのも、弟をほめちぎったのも、不良を追い払ったのも、陸上シューズを買ってあげたのも、朝練に誘ったのも、すべては優越感からくるもの。 ところが、弟に負けるはずがない、という過信がもろくも崩れ去る瞬間が。それからのジョーの行動は、まさに等身大の「ザ・お兄ちゃん」って感じで良かったですね。こっそり朝練に行こうとするのなんか、わかりやすすぎ。 最後まで観ると、兄弟愛、家族愛が本当に強かったのは、弟のほうだったのかな・・・とさえ思えてしまう、素晴らしい出来。 素晴らしいスーパーど直球青春映画。最高です。 [DVD(字幕)] 9点(2013-05-06 03:51:36) |
96. アイアン・ジャイアント
《ネタバレ》 まず何と言っても映像が美しい映画。特に、少年が一人懐中電灯を持って森の中をあるいているときの映像の美しさは必見。懐中電灯が本物に見えてきます。 ストーリーについてはまさに王道で、だからこそこの映画の実力がはっきりと画面に出ていたと思います。 序盤~中盤にかけてはどちらかというとコメディタッチな演出が多く、幾度となく笑わせてもらいました。(マンズリーが車に乗った瞬間の『何じゃこりゃー』は最高でした。)また少年とディーンとアイアンジャイアントとの触れ合いが多く、まさに心温まるひとときでした。 で、「あぁ、なんか中だるみしてきたな~」と思ってきた辺りから話が急展開。いやいや、マンズリーさん。ただの愉快なだけの人かと思いきや、なかなかのワルじゃないですか。 物語はとんとん拍子にサスペンス色を見せ始めます。そこからラストまでは目が離せなかったです。正直泣きはしなかったですけど、これは素直に感動しちゃいます。子供の頃だったら泣いていたかもしれません。 結局、アイアンジャイアントを、人類を滅ぼすただの兵器にしてしまうのか、それとも人類の良きパートナー、良き友人としていくのか、それは人間次第だということなんですね。昔からあちらこちらで語られる不変のテーマではありますが、それをこうして映画として感動と共に多くの人に届けられるということは大事なことだと思いました。 最後になりましたが、見かけはローテク、中身はハイテクのアイアンジャイアントの造形美に、「ギャップって大事だな」とも思いました。 [DVD(吹替)] 9点(2013-05-01 17:29:20)(良:2票) |
97. 訴訟
《ネタバレ》 ジーン・ハックマンは言わずもがな、娘の女弁護士さんの「何かに気付いた時」の間の取り方と表情の作り方の演技がすばらしく、またそのシーンで挿入される音楽が完璧にマッチしていて、作品全体にただならぬ緊張感をもたらしていました。この空気感最高です。 裁判で扱っているテーマも非常に興味深いものでした。マイケル・サンデルの「ハーバード白熱教室」で、車の企業が実際に欠陥車の回収費用と、欠陥車による事故死の賠償金の合計費用を天秤にかける具体例が紹介されていたので、この映画で全く同じ内容が出てきて驚きです。正直活字で読むだけよりも、この映画の1シーンで説明されたときのほうが衝撃が大きかった。 親子のドラマとして、法廷ドラマとして、非常に面白い作品であると同時に、観る人を選ばない万人向けの作品だと思いました。 ラスト、3千万ドルでもなく、5千万ドルでもなく、1億ドルなら良いんかい!というところだけ納得いきませんでした。 [DVD(字幕)] 9点(2013-04-26 17:12:18) |
98. ミンボーの女
《ネタバレ》 芸が細かい!恐喝の手段って、こんなにいろいろあるんですね。 ゴキブリはよくある手ですが、バッグにゴルフですか・・・ 伊東四朗なんか、最初全然ヤクザに見えない。 はじめはまず油断させる。そしてスナック(キャバクラ?)での「飴と鞭」。あれは怖いです。 ですが一番怖いのは、打算や計算をまったくしない鉄砲玉のような下っ端。 実際井上まひる弁護士(宮元信子)を刺したのは、おそらく状況を全然理解できていない下っ端ですからね。 話も理屈も通じず、まったく行動が予測できない相手が一番怖いです。 父が昔スナックを経営していた時に、ヤクザ関係のお客が一番多かったそうですが、この映画に出てくるような計算高い人ってあんまりいなかったみたいです。 ほとんどは何も考えていない人達。 後先考えない、計算もしない。 そんなこちらの理解の範疇超えてくる人達が一番怖いです。 映画はめちゃめちゃ面白かったです。 オススメです。 [DVD(字幕)] 9点(2012-07-04 16:01:18)(良:1票) |
99. デコレーション・デイ 30年目の勲章<TVM>
《ネタバレ》 ビリーの真実。テリーの真実。ジーの真実。 アルバートに限らず、人は与えられた情報の中で創りあげた仮想・仮定の話を、真実だと錯覚してしまうことがあるかもしれません。 頭が良い人ほど。人生経験が豊かな人ほど。 ビリーとテリーの真実は、少しずつアルバートを既成観念から解放していきます。 人の心に耳を傾けるようになったアルバートは、ジーの真実を知ることができます。ですが、ジーにはもう一つ、心の中に秘めた思いがありました。それこそが勲章を授与しない本当の理由だったのですね。 結局、その人の本当の思いや、行動の理由は、その人にしかわからないものです。 だからこそ人はいつでも謙虚になり、友人たちの言葉に耳を傾ける姿勢をもつことが大切なのでしょう。 映画の中で明かされる三人の秘密は、人には簡単に言えないものですから、決して幸せな内容とは言えません。 ですが心に秘めた思いを打ち明け、友人や大切な人と共有できたとき、そこには新しい絆が生まれ、またひとつの幸せの形ができることを、この映画はそれとなく教えてくれている気がします。 [DVD(字幕)] 9点(2012-06-14 09:45:14) |
100. 推手
《ネタバレ》 中国語と英語の両方が話せるアレックスとジェレミー。 中国語しか話せないアレックスの父、朱。 英語しか話せないアレックスの妻、マーサ。 昼間一緒にいるのは朱とマーサの二人だけ・・・・。 言葉の壁って思っていたより大きいんですね。 マーサは良い人です。もちろん朱も良い人です。 ですが言葉が通じないことと、文化がまるで違うことが、二人に、とりわけマーサにとっては大きな負担になってしまったんですね。 二人の間に立たされつづけるアレックスも、知らないうちにストレスをためこんでしまって。アレックスは本当に家族思いの良い夫、良い父、良い息子なのに。切ないです。 んー。アレックスの決断はやはり仕方がないのかもしれません。 思い切った勇気ある決断だったと思います。 暗くなっちゃいそうなストーリーですが、モラル、倫理感、思いやりのある人達ばかりなので、とても爽やかな仕上がりになっている良い映画です。 笑えるシーン、感動するシーン、泣けるシーン、すべてあります。 特にアレックスが、留置所の父を迎えに行ったときのシーン。 個人的に一番の見所です。きっと泣いちゃいますよ! [DVD(字幕)] 9点(2012-06-10 10:03:07) |