1001. 眠れぬ夜のために
安部公房の未完の小説で、不眠症の男が山手線に乗って思索をめぐらす「名もなき夜のために」ってのがありましたが、それをモジって本作の邦題にしたのなら(たぶん違うでしょうけど)、随分遠いところからネタを拾ってきたもんです。こちらは、不眠症の男が深夜のドライブ中に事件に巻き込まれるサスペンス。 まあ正直、そういう巻き込まれ形のサスペンスとして見ると、もう一つキレが無くって、そんなには楽しめないんですけれど、ちょっとした意外なロケの光景(飛行場の下がトンネルになってて自動車が走る上を旅客機が移動してたり。立体迷路みたいな地下駐車場でカーチェイスを演じたり)が登場して、目を楽しませてくれます。 あるいは、場面がいきなり飛ぶ意外性。突然、飛行機スタントの奇妙なCMが挿入されたり、スワ大事件かと思いきや実はロケ撮影のシーンだったり。 そういう小ネタの面白さ、ですね。 ただ、この主人公の「不眠症」という設定、本作が、あの悲惨な撮影中の事故を起こした『トワイライトゾーン/超次元の体験』の少し後の作品であることを思うと、もしかしてジョン・ランディスも当時、不眠症に苦しんでいたんだろうか、なんて事も思ったりして。せめて映画の中だけでも、イキのいいところを見せて欲しいもんです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-09-16 07:02:05) |
1002. レッドタートル ある島の物語
「セリフ無し」ってのが、挑戦的なようでもあり、映画の宣伝用のギミックのようでもあり、では実際のところどうなのかというと、やっぱりこれは、セリフ無しでならではの世界、ですね。セリフが無いことによる距離感が、このファンタジー世界をむしろ支えていて、また何事も断定することなく「解釈のブレ」も許容している。セリフが無いからこそ受け止めやすく、これ、もしもセリフ入りだと逆にちょっとキツかったりして。 登場人物の顔は極端に簡略化されて(目はただの点で、白目もない)表情が奪われており、その分、全身の動きが精密なアニメーションによって描きこまれています。 物語は、ツルの恩返しならぬカメの恩返し、みたいなところがありますが、別に「恩返し」という訳でもないし、上述のように映画の中では何も断定していない分、色々な受け止め方ができると思います。私は、手塚治虫の「火の鳥」の世界観に似たものを、ここに感じました。 あのカニたちは、男が島に流れ着くずっとまえからそこにいて、この先も未来永劫、ここに住み続けるんですよね、きっと。 [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2019-09-15 10:09:37)(良:2票) |
1003. BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント
少女と巨人の交流のオハナシですが、正直、ストーリーらしいものは殆ど無くって、多少、間延びした感はあります。しかし、CGで描かれる巨人たちの活き活きとした感じ、そしてCGの世界と主人公の少女との融合が、観てて楽しいんですね。 特に、CGの中で茶目っ気たっぷりに動き回ってみせる少女と、これまた見事に動き回って見せる「カメラ」、その特殊効果による描写は、ここまで描けるんだという驚きにあふれていますが、それでもどこか少し胡散臭くって、トリックめいていたりもして。それが、あのかつてのダイナメーション技術みたいな「魅力的な不自然さ」とでも言いたくなるようなものを感じさせたりもします。 個々のシーンが持つワクワク感。いいですね~。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2019-09-08 17:50:05) |
1004. エイリアン:コヴェナント
《ネタバレ》 これはもしかしてアレですかね、“エイリアン VS ブレードランナー”の前日譚ですかね。そんな映画がいつかできるとして。アンドロイドは電気ウナギの夢を見るか? 見ないでしょ。 未知の惑星を防護マスクも何も無しで闊歩して、そんないい加減なことでいいのか、と思ってたら案の定、謎の花粉が飛んできて大変な花粉症に悩まされることに。まあ、一作目とは趣向を変えよう、ってのは大いに結構なんですけれども、あの「宇宙服のマスク越しに襲われる」っていう衝撃に比べると、ヌルいというか何というか。一作目って、奇妙な事象の連続で我々をグイグイ引っ張って、謎の連続で前半をアッという間に見せる(後半はパニックでアッという間に見せる)、実にスリリングな作品でしたが、タイトルのうしろに「コヴェナント」をつけただけで、こうもモッサリするものかと。 一作目とは路線を変えよう、趣向を変えよう、ってのは勿論結構ですが、終盤に「実はエイリアンが一匹、船内に」という、とってつけたような原点回帰。しかし一作目の神秘性を削ぎ落された本作では、ずいぶん見劣りがしてしまいます。 という訳で、「エイリアンもよく見ると赤ちゃんの頃はカワイイねえ」という、まあ、そんな作品でした。 本作はニーベルンクの指輪における序夜、らしいので、いつか「神々の黄昏」が描かれるのでしょうか? [DVD(字幕)] 5点(2019-09-08 17:17:51) |
1005. 日本暴力団 組長
もはやタイトルを見ても、ヤクザ映画であること以外は何もわかりませんけれども。関東進出を狙う関西の巨大組織と、関東連合会とが対立する中、横浜を舞台に、しがない弱小組織たちが代理戦争を繰り広げるオハナシ。 刑期を終え出所した主人公・鶴田浩二、彼が所属する浜中組は、件の関西大手組織・淡野組と手を組んでいたが、代理戦争が激化する中で組長が襲われ、組長は淡野組と手を切るように主人公に遺言を残す。この辺りのゴタゴタの中、準主役かと思われた菅原文太が早々に死んじゃうんですが、その代わり、淡野組が次のパートナーに選んだ狂犬のごときゴロツキ軍団、あるいは関東連合会が送り込んだヒットマンが、物語に絡んできて、なかなか巧みなストーリー構成となっています。代理戦争を演じざるを得ない、吹けば飛ぶような存在の彼ら。特にヒットマンとその妻のエピソードが、印象的です。もちろんゴロツキの首領・若山富三郎も存在感を見せつけてくれますけれども。 まだ60年代の作品で、鶴田浩二の品の良さ、ってのは確かにあるんですが、そういう任侠テイストの一方で、後の実録路線を彷彿とさせるドキュメンタリタッチの部分もあって。だから、一種の「滅びの美学」ではあるのですが、キレイな「滅び」じゃなくって、もはや「破滅」の美学ですね。そういう、痛みを伴って心にしみてくるような泥臭さが、ここにはすでに兆しています。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2019-09-01 21:04:45) |
1006. 48時間PART2/帰って来たふたり
冒頭、風車みたいなのが音を立てて回ってて、マカロニウェスタンの雰囲気。敵役として登場するバイク野郎3人組も、西部劇における馬をバイクに置き換えたかのように疾走し、エディ・マーフィーの乗る護送車を襲撃する。 一方、中盤以降は、猥雑な夜の都会の雰囲気に切り替わって、まあ確かに『48時間』が帰ってきたなあ、と思わせるものがあります。1時間半少々にまとめたテンポの良さ。ニック・ノルティの車のボロさも健在(むしろ悪化?)。 ただ、2作目であるが故の新鮮味の無さを、ストーリーに凝ることで補おうとしたのかどうなのか、ちょっとオハナシを複雑にし過ぎた感じがいたします。複雑といって悪ければ、「作り過ぎ」とでもいいますか。最初はいかにも悪そうで強そうで魅力的だったバイク野郎どもが、物語が進むにつれてだんだん魅力的じゃなくなってしまって。 でもあの、ビルから転落するのを上からカメラで捉えたシーンは、凄いですねえ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-09-01 15:28:23) |
1007. 風の無法者
リー・ヴァン・クリーフを筆頭とした悪党3人組。とある若造から、まんまと彼の輸送していた大金をせしめるのですが、どういうわけかその若造と意気投合した挙句、次回の輸送を警護することに。味方だと思わせて次も楽勝で強奪するぜ、ってなところなのですが、そこにホンモノの盗賊団がやってきて・・・というオハナシ。 どこかユーモラスな3人組に、コミカルな音楽が被さって、基本的に明るい内容なのですが、一方で、盗賊団とのガンファイトはなかなかの見もの。 で、ここでふと、疑問になるのが、この主人公は、スゴ腕なのかどうなのか。なにせ演じているのがリー・ヴァン・クリーフなので、もうイメージとして、このヒトはスゴ腕に違いない、と見てる側は思っちゃう。これでスゴ腕じゃなかったら、単なるヘンな顔をオッサンだもんね。しかし作中ではあまりスゴ腕を見せてくれる機会がなかなかない。実は今回の役どころは単なるケチなチンピラなのか? いやスゴ腕なんです。なにせリー・ヴァン・クリーフ。という訳で、俳優のもつイメージって、重要ですね。むしろ我々の方から、俳優を通じて、映画に対しある種のイメージを投影してしまいますね。 という訳で、「実は主人公よりも若造の方がずっと腕が立つんじゃなかろうか」という気がなんとなくしつつも、主人公の活躍を堪能し、最後も明るく大団円。。。と思いきや、ちょっと意外な展開が待っており、ここは好みが分かれるところかも知れませんが、やっぱりこれぞリー・ヴァン・クリーフだなあ、と。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-09-01 14:26:13) |
1008. 容疑者 室井慎次
『交渉人 真下正義』が「動」なら、本作『容疑者 室井慎次』は「静」。スピンオフ2作品を対照的に製作したということなのかも知れませんが、どうしてもコチラの方が印象が薄くなります。 冒頭の空撮でちょっとワクワクして、さあこれから何が起きるんだろう、と期待してしまうのですが、やや動きの乏しい物語。 事件は会議室で起きてるんじゃない現場で起きてるんだあっ、という観点からすると、どっちかというと会議室側の人間をタイトルに持ってきたこれら2作品。本作はギバちゃんにフォーカスされている、その一方で、彼をサポートする役割の人間として哀川翔が登場し、2人が並んでるのを見ると、「おっこれは一世風靡セピアじゃないの」とは思うんですけれども。だったらもうちょっと哀川翔には暴れ回って欲しかったなあ、と。 本作ではむしろ、初代なっちゃんこと、田中麗奈が、重要な役割を果たしてます。もう、彼女が本作の主人公と言っちゃってもいいんじゃないですかね。オジサンたちに代わって、彼女が走り回ってみせ、映画に動きを与えます。もうちょっとカッチョ良く走ってくれると、なお良かったんですが。 八嶋智人演じる弁護士のイヤらしさ以外になかなか盛り上がるポイントが無いのが、ちょっと寂しいんですけれども、都会を舞台にした作品ながら「風」や「雨」を積極的に取り入れているのは、印象的でした。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2019-08-29 20:30:40) |
1009. ハンティング・ナンバー1
「人間狩り」の標的にされた主人公が、追っ手たちと戦って返り討ちにする、というバトルランナー方式の作品。ただし製作費は2桁か3桁くらい低そうな激安作品ですが。 追っ手はバトルランナーみたいなおバカキャラではなく、普通のオジサン、オバサンが数名。武器もライフルとか、釘を打ち付けたバットとか、まあフツーです。チェーンソーだの火炎放射器だのは出てきませんのでご安心を。そして何より、主人公が無敵のシュワなどではなくって、アル中かつヤク中でヘロヘロ状態のオッサン。この頼りなさが見どころ。ヘロヘロになりながら砂漠を逃げ回り、メキシコ国境を目指す。 本作、数々のファンタ系映画祭で絶賛された、というのが売りらしく、公式サイトを見ると確かに何やら映画祭のロゴらしきものがたくさん並んでます。が、これがスゴイことなのかどうか、正直、ワカリマセン、ハイ。とりあえず、世の中、こんなにイロイロと映画祭があるんだなあ、と、そちらの方に驚いてしまいます。 まあ、激安作品ではありますが、サバイバルにポイントを絞ったところと、激安なのにヤケを起こしてハメ外したりすることなく、手堅くまとめたところは、好感が持てます。もっとも、手堅すぎるのが難点かもしれませんが(こんなに追っ手が少ないと、逃げおおせて当然、という気もしてきます)。見せ場はサバイバルそのものよりも、ヘロヘロな主人公の不安定な危うさの方にあったりするもんで、ちょっとアングラ的だけど、ちょっと地味。 それにしても昨今では、こんな激安作品でもCGが使われるのが当たり前になってて、無理に特殊メイクとかするよりも安上がりなんですかねえ。いかにも「後から上描きしました」といった感じのこういう激安CGは、ガッカリしてしまうのですが。 [DVD(字幕)] 6点(2019-08-25 16:19:41) |
1010. 亡国のイージス
物語の基本骨格は『ザ・ロック』的な単純なオハナシなんですが(というか、この映画、ブラッカイマーに見つかったら、ちょっとヤバいんじゃないの?)、その単純なオハナシの中に、「いや、実は背景にはいろいろあるんだよ」と言いたげな、よくわからない断片の描写があちこちにあって、何ともモヤモヤしてます。 まさか、これって、原作を読めってことですかね? [CS・衛星(邦画)] 5点(2019-08-17 11:40:28) |
1011. アウト・オブ・サイト
筋金入りの銀行強盗、ってよりは、やってることを見てるとチンケな詐欺師であるジョージ・クルーニーが、他の囚人の脱獄にただ乗りして、またまたチンケな犯行を実行するオハナシ。いかにも、面白くなさそうですよね。 しかもジョージ・クルーニー、脱獄の際にジェニロペ捜査官と知り合って、以降何かとイチャイチャするもんだから、もう勝手にしてくれ、ってなところですが。 しかし本作、見せ方がシャレてるもんで、不本意ながら楽しめてしまう、という趣向。時間軸を行き来してみせるのも、あまりやり過ぎるとイライラの元だけど、本作では適度な味付けになってて、テンポの良さに一役買ってます。時には「あ、このシーンに繋がるのか」という意外性も提供したり。 あまりにシャレてるもんだから逆に、こんなので喜んでると製作者の思うツボだなあ、とか思っちゃうのですが。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-08-17 10:56:59) |
1012. マングラー
時々、ホラー映画なんかのあらすじを読んで、どうしてこんなネタで映画を一本作れるんだろう、と不思議に思うこと(だから要らぬ関心を持ってしまうこと)がありますけれども、本作もそういった種類の作品ですね。何しろ、洗濯したシーツをプレスする機械が、人間を襲うんだってさ。こんなネタで映画を一本撮ってしまおうという、勇気と厚かましさ。「地獄のデビルトラック」のスティーブン・キングが原作で、「悪魔の沼」のトビー・フーパーが監督。と聞けば、もはや付ける薬もないというか。 こういう作品を見てると、世の中ちょっとスティーブン・キングに甘すぎないかい?という疑問が湧いてくると同時に、世の中ちょっとトビー・フーパーに厳しすぎないかい?という疑問については引っ込めざるを得なくなる訳ですが、それはともかく。 プレス機が襲ってくる、というよりはコレ、劣悪な環境がもたらす労働災害なのであって、中には「これこそプロレタリアート映画だ!」というヒトもいるかもしれません。人々を威圧するような巨大プレス機と、日々、危険と隣り合わせの作業に従事させられている従業員たち。ただ、このプレス機、もっと非人間的に容赦なくガッチャンガッチャンやってくれると、「蟹工船」にでも何にでもなったかも知れませんが、実際に映画に登場するのは、いかにも時代がかったレトロっぽいプレス機。人間の尊厳自体を圧殺するような迫力は無くって、むしろ、どこか懐かしさを伴った不気味さ、なんですね。やっぱりあくまでこれはホラーです。 で、こんなネタで映画になるのかと言えば、洗濯工場のロバート・イングランド社長がやたら不気味だったり、なぜかドサクサに紛れて冷蔵庫まで人間を襲ったり、と、よくわからんながらもしっかりホラーやってて、10分もあれば充分かと思われたネタが、気がついたらそれなりに膨らんでて。 で、いよいよ、「プレス機が人間を襲う」という看板に偽りなしのクライマックスへと突入。 とにかく、製造業の経営者の皆さんは、本作を観て、自社工場の安全性についてもう一度確認されたし。 [DVD(字幕)] 7点(2019-08-16 21:16:26) |
1013. 交渉人 真下正義
「踊る大捜査線」の本シリーズ2作に続く、スピンオフですが、前作2作では舞台としてお台場が想定されていたのに対し、こちらは東京都心部そのものが舞台。犯人に操られた試験車両が、地下鉄の路線を暴走する(この試験車両の風貌を見てると、なんでラピートがこんなところを走ってるの?とか思っちゃうのですが)。その謎の犯人に立ち向かうは、交渉人サンタマリア。 という訳で、パニック映画の要素を取り込んでいて、よくこんな撮影をやったもんだ、と感心させられます。地下鉄の構内・線路のさまざまな光景が登場し、エキストラもタップリ動員して、圧巻です。 主人公のサンタマリアは犯人との交渉役なもんで、基本的にはコントロール室で犯人とボソボソしゃべるだけですが、代わりに寺島進が街に出て暴走し、笑いとスリルを提供してくれます。 ヒッチコックを模倣したような後半の展開の先には、楽しくもバカバカしい顛末があり、しかしここでようやく主人公も、事件が起きている「現場」へと向かうことになる。少し苦味のある、大団円。 前2作よりも、楽しめました。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2019-08-15 18:38:09) |
1014. ブレイクアウト(2011)
妻、娘と大邸宅で暮らすニコラス・ケイジのもとに強盗団が押し入り、ダイヤを出せ、金を出せと彼を脅す。とっとと出せばいいものを、なんやかんやと言い逃れするもんで、オハナシはズルズルと延びて、気がついたら本作はワン・シチュエーションもののサスペンス映画になってました、という趣向。犯人グループ側も難ありのメンバーを抱えている上に、この家族も家族3人それぞれ、叩けば何かと埃が出るもんだから、事件は迷走。犯人たちも困るけれど、ニコラスケイジ一家も困っちゃう。両者痛み分け。 まあ、この困難さえ乗り越えられたら、家族3人、また仲良くやっていけそうだよね、という大変に前向きなオハナシのような気もしてきますが。 という訳で、そもそもこんな面倒な家に強盗に入るヤツが悪い、というのが結論ではありますが、事件の迷走ぶりが、面倒くさいんだけど楽しめて、コンパクトにまとまっているのも魅力的です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-08-15 18:03:53) |
1015. ブレイクアウト(1975)
冴えないオッサンの見本みたいなロバート・デュバルが刑務所に入れられたもんで、その脱獄を我らがブロンソンが請け負う、というオハナシ。特に難攻不落の刑務所という訳でもなく、田舎のノンビリとした雰囲気です。一応、デュバルが刑務所に放り込まれた経緯にはウラがあって、それなりに危険なミッションなのですが、あくまでノンビリ。 で、最初に立てた作戦はというと、ランディ・クエイドが女装して刑務所に入り込み、ロバート・デュバルと接触しよう、なんていう、ほぼあり得ない作戦。そりゃ無理でしょ。とは言えこの頃のランディはまだちょっと、デニス・クエイドの面影(?)もありますが、それでも無理です無理。やる気あるのかよ。 で、あえなく失敗した後、ようやく本気の作戦になるのですが、これもまあ、ノンビリしてます。ノンビリはしてるけれど、ヘリを使った大胆な作戦。ブロンソンの操縦がヘタクソなもんで、大胆さもひとしお。それにしても、自動車、ヘリ、飛行機が並んで走るシーンが妙にカッチョいい。 この映画を見てよくわかるのは、田舎の刑務所をノンビリ脱獄するには、缶ビールが必須! ってことですな。一緒に呑みたくなること請け合い。 [DVD(字幕)] 8点(2019-08-15 17:14:50) |
1016. アルキメデスの大戦
《ネタバレ》 映画冒頭に大和の最期を描き、そこから時代を遡って大和建造に関わる物語を描く、という構成。本来はこの作品の物語の「外」にある大和轟沈のエピソードを、冒頭で我々に見せるのは、ひとつにはスペクタクルシーンの提供、ハッキリ言うとサービスなんでしょうけれど、この構成が成功したと言えるかどうか。そりゃま、確かに我々もその迫力を、ハッキリ言うと楽しむ訳ですが。 ただ、将来訪れる日本の敗北と、この大和の最期とは、物語の上で重ねられている訳だから、それを見せるシーンとしては、あまりに駆け足で、バランスが悪いような気もします。その最大の特徴である「巨大さ」が充分描かれる前に、どこか模型のような機械的な動きで横転し、爆発する大和。 ヤマトつながりで言うと、10年近く前の大失敗(?)を少し思い出してしまうのですが・・・。 と、それはさておき、時代が遡って本編の物語が始まると、もう菅田将暉の独壇場。エキセントリックな言動とオーバーアクション気味の演技で、物語をグイグイ引っ張ります。物事を何でも「美しい!」とか「美しくない!」とか評している姿は、仮面ライダーWのフィリップ役でしきりに「興味深い!」とか言ってたのを彷彿とさせたり。 脇を固めるベテラン勢は控えめの演技で、橋爪功は多少オーバーでコミカルに敵役を演じてますが、舘ひろしの山本五十六も一歩引いた感じ(それでも人柄を表すために、しばしば彼が披露したという逆立ちエピソードなどは盛り込まれてますが)。あくまで熱い菅田将暉と、おそらく同じくらいの熱さを内に秘めた柄本佑を中心に据えて、若い役者さんに存分に表現してもらう、この点は間違いなく本作の魅力となってます。 熱い言動の一方で、図面にじっと見入る菅田将暉の視線。彼の視線、彼の横顔が我々を惹きつけますが、一方、映画の終盤で、敵役である田中泯が、君と自分は同種の人間だ、などといって横顔を見せると、確かにそこには同種の横顔、同種の視線がある。 静かな、しかし圧倒的な説得力を持つクライマックスだと思います。たとえ冒頭シーンが無かったとしても。 [映画館(邦画)] 7点(2019-08-15 07:24:10) |
1017. ファンハウス/惨劇の館
冒頭にいきなり殺人鬼登場か、という場面がありますけれど、もちろんこれは単なるカマシ(少年のイタズラ)で、これが何かの伏線になっているのかというと、全くなっていないというのがもう実に開き直った感じで。この少年、何かやらかしてくれるんじゃないか、と期待してしまうのですが、そりゃ期待する方が悪い、トビー・フーパー作品ですから。 という訳で、やっぱりというか何というか、脈絡のあまり感じられない内容です。そう、ここはまさに期待通り。 前半はカップル2組が訪れた見世物小屋のオドロオドロしさが描かれて、興味のない人にとってはどうでもいいシーンが延々と続くことになるのですが、興味のある人にとってはそれなりに不気味さが堪能できる、いかにも乱歩ワールドな感じです。 で、無意味にウロチョロしていたフランケン君が、後半、物語の主役に躍り出てくる。ついに起こる惨劇。って言ってもコレ、実際は、不幸にして起こってしまった実に不幸な事件、なもんで、コワがっていいのやら同情してよいのやら。 お化け屋敷で襲われる、惨劇が発生する。ってのがすでに何だか、すべてがもともと作り物っぽくウソくさく見えちゃう、という副作用を抱えているのですが、作品のチープさとはよくマッチしてます。何より、クライマックスのこのしつこさ、ってのは、『悪魔のいけにえ』の面目躍如、といった感じもいたします。 特殊メイクの怪人物より、奇妙な仕掛け人形たちの方が、いい味出してますね。 [DVD(字幕)] 6点(2019-08-13 11:22:50) |
1018. 沈黙の戦艦
露骨に『ダイ・ハード』の二番煎じなんですが、早くも出涸らしの印象。この上もなく薄味です。 高層ビルならぬ戦艦ミズーリが武装集団に乗っ取られて大勢が人質に取られ、主人公が孤軍奮闘、敵に立ち向かう。爆発からは飛び降りて逃げる、なんてところまでしっかり『ダイ・ハード』を踏襲している訳ですが。でも『ダイ・ハード』が開始早々から登場人物たちの人間関係を緊迫感を持って描き、上々の滑り出しだったのに比べると(タカギ社長にまで見せ場を準備する周到さ)、本作の冒頭のヌルさはちょっとヒドいんでは。ダラダラとしたヌルい展開から唐突に事件が発生する、という意外性を狙ったのかも知れないけれど、主人公を含め登場人物の一人として我々の関心を引くことがないまま事件に突入し、艦長なんてもう、存在感ゼロ以下と言っていいくらい。 中盤は戦艦の中の攻防戦、だけど、通常我々がその中を知ることができない戦艦を舞台にした以上は、その舞台設定の面白さをもっと出して欲しいところですが(『ダイ・ハード』ではエレベーターシャフト、ダクト、工事中の階、いろいろありましたね)、本作には印象的な場面なんかロクすっぽ出てこなくって、適当なセットで撮影したようなシーンばかり。 セガールの格闘技系アクションがもうひとつの見どころで、これはまあ、まだ痩せてる当時のセガールだし、それなりにしっかり動いてますけれど、相手が武装集団ですから、素手で戦うシチュエーションにも限界が。後半はあまりセガールが活躍し切れていないような。 同僚たちが大勢、人質になっているのを後目に、さっき知り合ったばかりのプレイメイトの身だけを必死に守ろうとするセガール。同僚の何人かが敵に殺害されたのに、最後はうれしそうにプレイメイトとチューするセガール。こういうケーハクさだけは、『ダイ・ハード』には無かった本作の良いところかな、という気もいたします。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2019-08-10 14:54:14) |
1019. 多羅尾伴内
多羅尾伴内こと藤村大造が終盤に、謎解きと言ってよいのかどうなのか、事件の真相について何やら総括めいた事(被害者がどうの、加害者がどうの、というヤツ)をのたまうのを聴くと、「大して面白い事件でもないように思ったけど、なるほど、そういう捉え方もあるのか」と、ちょっと感心してしまいました。確かに、誰が真の黒幕なのか、二転三転、なかなかよく練られたミステリであったことに気づかされます。でも逆に言うと、せっかくの練られたオハナシなのに、イマイチその面白さが観てて伝わらないんです。 まあ、アキラがギター爪弾きながら「昔の名前で出ています」を熱唱するなど、中盤はストーリーと関係ない歌謡ショー状態。もともとそんなにミステリとしての完成度を追求した作品でもないんでしょう、アキラの変装、アクション、猟奇性といったものが盛り込まれてさえいれば、それで良し、といったところ。 それにしては全体的に大人しい印象に、収まってしまってますが。 [DVD(邦画)] 6点(2019-08-10 14:17:16) |
1020. THE GREY 凍える太陽
冒頭、主人公がボソボソと湿っぽい独白が続いて、一体コレはどういうオハナシなんだよ、ちっともラチがあかんわい、と思おうかとした矢先、唐突に主人公の乗った飛行機が事故を起こし、雪山でのサバイバルに突入。埒が明かないどころか、むしろ性急過ぎる印象。もうちょっと前フリがあってもよろしいかと。 で、外は猛吹雪。よくこんな撮影したな、と思わせるものはありますが、よほど撮影が大変だったのかどうなのか(?)、意外に見栄えがしないのが残念。この後、物語は襲ってくる狼との戦いとなるのですが、この辺りの描写も画面をゴチャゴチャさせて、いかにもゴマカしました、という風に見えてしまうのがますます残念です。そういうゴマカシっぽい描写はその後もあちこちに見られ、さらには、主人公の人となりがあまり描かれていない分、物語にも厚みが生まれず、どうにも淡泊な感じがしてしまいます。 ただ、その路線を最後まで貫いたおかげ、といってよいのかどうかわかりませんが、終盤が近づくにつれて独特の詩情のようなものが生まれてきて、「この物語、最後はどうなってしまうんだろう」というのとは違った着地点にもってきたのは、何だかウマイことやったな、と。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-08-04 21:51:48) |