1141. カルマ
《ネタバレ》 幽霊が見える女性ヤンと、そのヤンを担当することになる精神科医のジム。 『ヤンが見える幽霊は本物。』⇒『ジムは次第にその事実に気付きはじめる。』 ただ単純に、そんなストーリーを予想しながら鑑賞していたのですが、物語は思わぬ展開を見せます。 ヤンが見ていた霊は、ヤンの精神的トラウマからくる幻。ですが精神科医のジムは本物の幽霊にとり憑かれているという脚本が、単純ながら意表をつきます。 前半から挿入される回想シーン。ヤンの過去を探るための、ヤンの過去かと思いきや、実はジムの回想シーンという意外性。なかなか上手いです。 また、実際は霊ではない『イタズラ』や『幻』。そこに終盤本物の霊を登場させることで、本物の霊の存在がよりリアルに際立ちます。 ホラー演出も、邦画ホラーのようなじめじめ感が出ていて大変良いです。 更には、様々な『音』が効果的に使われていて、更なる恐怖を煽ります。 終盤ではいつの間にかヤンとジムの立場が入れ替わっているのも面白いですね。 そして、ヤンにもジムの見ている霊の存在がわかったことで、私達観客にも霊の存在が本物ということが伝わります。 唯一、締めを安易なメロドラマ風にしてハッピーエンドで終わらせてしまったのがもったいないでしょうか。 後味は良いのですが、思い切ってバッドエンドにしても良かったかもしれません。 [DVD(吹替)] 8点(2016-08-31 15:06:31) |
1142. アメージング・ハイウェイ60
《ネタバレ》 リアルな世界を舞台にしていますが、内容は完全におとぎ話。 ただし、『贋作美術館』『ドラッグ合法の街』『訴訟の町』など、皮肉やユーモアがしっかり効いているのが特徴。 この作品に出てくる人々は、与えられた役割を演じるだけの駒のような存在。 その分、人物描写は限りなく薄い。 主人公ニールも、まるで毒の無い爽やかな好青年に終始しています。 一応ニールの精神的成長という側面もあるのですが、私が見る限りでは風刺を効かすことに重きを置いているように感じられます。 マイケル・J・フォックスやカート・ラッセルといった存在感のある名優が、脇やチョイ役に徹しているのも、作風が関係しているのかもしれません。 この作品には、主人公ニールの体験を通して、世の中の通年や常識を改めて考えさせてくれる面白さがあります。 完全に人物よりストーリーを楽しむ作品なので、ストーリーメインで映画を楽しむ人とは相性が良さそうです。 ですが心にずっと残るような作品でもありません。 絵本の域を出ていないのも事実です。 [DVD(字幕)] 7点(2016-08-26 11:00:55) |
1143. クール・ボーダーズ
《ネタバレ》 プロスケーターを目指す主人公と友人達の物語。 友情あり、笑いあり、恋愛ありで、大変オーソドックスな青春もの。 主人公、お調子者、優等生、プレイボーイと4人のキャラ分けもばっちり。 私のように、必ずしも映画に新しいものを求めない人だったら普通に楽しめるんじゃないでしょーか。 ただ、内容・ストーリーに対して、若干尺が長すぎるため、中だるみしてしまうのが惜しいです。 一つ一つのエピソードがそれなりに面白く、意外と関連付けされているので、すべて使いたくなる気持ちもわからんでもないです。 ならば、一つあたりのエピソードをもう少しテンポアップして、物語にリズムをつけると良かったかもしれません。 個人的には、パーティーの潜入シーンは、まるまるカットでも差し支えありません。 スケボーのプレイシーンはどれも見応えがあります。ラストにしかバトルシーンが無いのが残念なくらいです。 序盤と中盤でもスケボーバトルを取り入れてくれたらもう少し盛り上がったかもしれませんね。 ラスト。少年にボードをプレゼントするシーンが最高にイケてます。 [DVD(字幕)] 6点(2016-08-16 16:17:03) |
1144. 藍色夏恋
《ネタバレ》 とっても雰囲気の良い映画。 でも私は騙されない。この作品は雰囲気でゴリ押ししているだけの作品だ。負けてなるものか。冷静になれ自分。 これは、面白いか?否。だってストーリーがないもん。 いえ、あるっちゃあるが、無きに等しい。 監督は語る。 『模範的な解釈でなくて良いんです。それぞれの青色大門を見てくれれば。』 おいおい。めっちゃ良いように言っていますが、鑑賞者へのまる投げじゃねーか。 それに中盤までの展開がだるいだるい。 『女の子が好きなの』発言からは、多少面白くなりますが、それまでがだるい。 少々くどいサブエピソードから、わけわからんもんまで盛り沢山。 例えば先生。何か重要な役割を担うかと思いきや、ただのピエロ。いや、ソフトストーカー。 ラブレターのくだりに関しては、友人の女の子がもはや何をしたいのかわけわかりません。 ただ、こんな映画にもサプライズ・ポイントはあります。 ふられた女の子が、好きな相手の名前を書くおまじないを、途中から『木村拓哉』に変えたこと。 マジで凄いぞ、キムタク。 [DVD(吹替)] 5点(2016-07-28 04:39:27) |
1145. ロード・キラー
《ネタバレ》 小粒ながら、B級作品に求めるものを満たしている名作。 『スケールが大きすぎないこと』 『登場人物が多すぎないこと』 『わかりやすいこと』 どれもクリアです。 それでいて、適度なスリル、サスペンスも兼ね備えています。 作り手のセンスの良さを感じますね。 誰かと思えばジョン・ダール監督。 個人的には、大衆向けの良質な娯楽作品を作ってくれる有難い監督さんです。 『トラブルメーカーな兄』『優柔不断な弟』『無駄に色気ムンムンな彼女』こーゆーお約束は逆に嬉しい。 この作品、『あるあるネタ』が多く、確かに既視感を感じます。ですが、なんか先が読めそうなのに、意外と予測不能な展開を見せる面白さがあります。この辺のバランス感覚が大変上手い。 『無線』というキー・アイテムも、恐怖演出及び橋休め的演出の小道具として、大変効果的に使われています。 サイケティックだけど、頭が良いラスボス。 この人のお顔が、ちょっぴり出ちゃったのが惜しかったですね。全く顔を出さなければ、最後のオチがより引き立ったと思うんですけどね。 [DVD(字幕)] 8点(2016-07-27 13:05:28)(良:1票) |
1146. ドッグ・ソルジャー(2002)
《ネタバレ》 こーゆー作品では粗を探さないことがもはや一つの礼儀になりつつあります。 すべての粗に目をつぶれば、それなりにスリリング。 そしてサスペンスフル。 グロ描写もオツ。 中でも、森の中で、軍曹のはらわたを押し込もうとうするシーンはこの作品のハイライト。軍曹、ベストアクトです。 後半は終始暗い画面でごまかしているような感じ。 誰が何をしているのか全くわかりません。 女のスタンスも意味不明。支離滅裂。 『ま、まさか、おまえもこの家の住人だったのか。』 『そうよ。力を解放するわ。』 ってドラゴンボールかーい。 そういえばこの作品はクリリンばっかりで、クーパーと軍曹とライアン以外は区別つかないです。 で、結局あの家の住人は生物型軍事兵器のあわれな末路ってことでファイナルアンサー? [DVD(字幕)] 7点(2016-07-24 15:26:44)(笑:1票) (良:1票) |
1147. ドラムライン
《ネタバレ》 とても見るのを楽しみにしていた映画の一つです。 その反動もあってか、期待していたほどではありませんでした。 こーゆー作品に欠かせないのが『成長』。その『成長』を疑似体験できれば最高です。 それは主人公でも良い。脇役でも良い。チーム全体でも良い。 この作品はどうでしょう。個人的には、もう少しドラマチックに成長のプロセス、成功への軌跡を演出してほしかった。 その描写に説得力があればあるほど、ラストで、大きなカタルシスと爽快感を感じることができるというものです。 あとはキャラの魅力ですかね。 まずは主人公の天才ドラマー、デヴォン。 必ずしも品行方正である必要はないんですが、彼は何とも中途半端ですね。 アウトローでいくのか、カリスマでいくのか、どっちかにしてほしいです。 まあリアルと言えばリアル・・・。 次にリー監督。威厳なし。ぶれすぎ。 レイラ。どうでもいい存在感。特にパーティでのラブシーンは不要。 個人的に良かったのはショーンです。ステレオタイプなライバル兼先輩ですけど、彼の嫉妬、羨望、プライドにはいたく共感できます。 まあこの作品が楽しめなかった一番の原因は自分自身です。 そもそもドラムラインのバトルのルールがよくわかりません。 主人公が相手校のドラムをたたいたのが失礼千万だから、殴られて、みんなからはぶられて、追放されたと思っていたのですが・・。 なんと、ラストのバトルで、ライバル校に自分達のドラムをたたかれちゃっているではありませんか。 解せぬ・・。じゃあ、あのときの主人公の行動の、どこにルール違反があったのか、いまだわからず。 ついでに言うと、A&T校と、他の高校のマーチングのレベルの違いがよくわからんのも問題ですね。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2016-07-21 05:08:11) |
1148. カンパニー・マン
《ネタバレ》 途中から筋が読めなくなるほど複雑に。なのに最後のオチは読めてしまう不思議な作品。 つまりは、わかりにくいくせに驚けない、残念な結果に。 『次の展開がわからない。』という点では合格ライン。ミステリーとしての体裁は保っています。 ですが、結局わからない部分が多く残ったのは不満です。 各設問に、あっと驚く解答が用意されているからこそ、知的カタルシスを得られると思うのです。この作品は、その部分が不親切。 デジコープ社の目的。キャラウェイ社の目的。はっきり言ってよくわかりません。 私がかろうじてわかったのは、主人公はモーガン・サリバンでもなければ、ジャック・サースビーでもないということ。 彼の正体は、正体不明のフリーのスパイ、ルークス。 そして、盗んだデータの中に、『リタ・フォスター殺害』みたいなものがあって、そのデータを盗み抹消することが彼の目的だったということ。それくらいでしょうか。 言うなれば、三重スパイの物語。 にしても、企業間の産業スパイの話で、やれ殺人やら、やれ洗脳やら、なかなか物騒。 ラストはビルごとドカンって。あまりに非現実的すぎて、ついていけません。 非現実的な空間で、映画そのものがふわふわ宙に浮いている感じ。 具体性がなく、抽象的すぎます。 鑑賞中、地に足がつかない気持ち悪さが、ずっと『未来世紀ブラジル』を連想させていました。 個人的には『ナシ』な作品です。 [DVD(字幕)] 5点(2016-07-18 14:13:40) |
1149. PLANET OF THE APES/猿の惑星
《ネタバレ》 オリジナルとは切り離して見るつもりだったのですが、いつの間にか比べちゃいますね。 『現地の人が普通にしゃべっている。』『ここは地球ではないのか。』などなど。 それにしても、主人公や猿、現地の人、誰も彼もが一歩引いた演技に見えるのは気のせいでしょうか。 何となく舞台劇っぽく見えてしまいます。 そしてフィールドに広がりを感じなかったのも、やや物足りないです。 現実世界が映画の舞台であれば、映像には映らない世界の広がりや奥行きを、私達は自然と認識できます。 ですが、SFではそうはいきません。目に見える世界以外のことは、意識してはじめて、想像することができます。 SFって、どうしても世界がこじんまりと感じがちです。 そう考えると、舞台がオールフィクションでありながら、あの世界の広がりを感じられる『スター・ウォーズ』シリーズは、確かにSFにおける傑作かもしれません。 ストーリーに関しては、はっきり言って中途半端な印象です。 脱出劇なのか。アクションなのか。 脱出劇にしては緊張感に欠け、アクションにしてはカタルシスに欠けます。 『主人公達の脱出を手伝うアリ。』『セード将軍を裏切る部下ゴリラ。』 その動機に説得力はありません。整合性もありません。 ビジュアルだけが凄く良かったですね。 ストーリー3、ビジュアル9、間をとって6点といったところでしょうか。 正直ラスト、さっぱりわかりませんでした。 あるサイトで、かなり説得力のある意見を目にしましたが、この映画を見ただけでそこまで理解するのは、普通の人には無理でしょう。 『猿の惑星』シリーズとのファーストコンタクトがこの作品であれば、一本の映画としてはまあまあ面白いと思われます。 B級の域は出ないと思いますが。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2016-07-16 14:11:12) |
1150. エイプリルの七面鳥
《ネタバレ》 この作品からは、優しさが感じられます。 それも、押し付けがましい優しさではありません。 演出された優しさではなく、自然体から滲み出るような優しさ。 鑑賞中、まるで小説を読んでいるときのような、人物の心の機微を感じられる良さがあります。 とは言え、映画として、これって面白いのでしょうか。 よくある話をドラマ仕立てにしただけで、映画として見応えのあるものになっているとは思えません。 七面鳥を持って行ったり来たり。もっとコメディタッチであれば笑えるのですけど、変にリアルな作風であるため、こんなに誰もオーブンを貸してくれないものかと、不自然さを先に感じてしまいます。 それに、そんなに家族との再会を大切にしているのであれば、『事前にもっと準備しておけよ。』とも思うのです。 家族が様々なトラブルに見舞われて、来るのが遅くなったのはただの偶然。 実際は、七面鳥を持ってうろうろしていた時に来た可能性だってあります。 段取りの悪さ、見通しの甘さに、若干イライラしたせいで、ストーリーに入り込めません。 『人生をきちんと生きている自分を、家族に、母に見てもらう。そして母ともう一度やり直す。』 素材はすごく良いのに、うまく調理しきれなかった感じです。 まさにこの映画に出てくる料理のようです。 [DVD(字幕)] 5点(2016-07-10 23:16:23) |
1151. 大いなる休暇
《ネタバレ》 まるで御伽噺のようなプロローグとエピローグの構成が良いですね。 ストーリー自体はいたって普通。 前半は自己中心的な人ばかりでイライラすることもあります。 その後、しだいに一つの目標に向かって、みんなの気持ちがまとまっていく様子が微笑ましい。 コメディ演出が私好みです。 『レストランから教会への大移動で村人の人数を倍に見せる作戦』は、べたすぎて面白い。 『なんちゃってクリケット。』『つり(やらせ)』『もう一人の医者(仕込み)』、などなど、自分好みの演出が盛り沢山。 それに加え、クリストファー医師のリアクションが、素直すぎて、おかしさに拍車をかけます。クリケットへの食いつき方が最高。 もしこの作品が、コメディオンリーで『馬鹿騒ぎして終わり』であれば、ここまでの好評価を受けることは無かったでしょう。 コメディテイストのなかで、時折はさまれるシリアスなドラマパートの味わいが、何とも言えず良いんですよね。 『生活保護を受け取る気持ちがわかるか。お金を受け取る代わりに、誇りを失うんだぞ。』は名ゼリフ。 働けるのに、生活保護を受け取って、そのお金でパチンコに行っちゃうような、誇りを失った日本人の恥さらしに聞かせてやりたいです。 ドラッグ、盗聴、亡くなった人の分まで不正受給。必然性の低い違法行為が多いので、高い評価は出せませんが、映画としては面白い。 鑑賞後の満足感は絶品です。 あ、この作品、字幕がかなり端折られてます。この作品に限っては、吹替えのほうが断然オススメです。 [DVD(吹替)] 7点(2016-07-06 13:17:13)(良:1票) |
1152. 僕のスウィング
《ネタバレ》 まるで教科書。いや、夏休みの日記。 エンターテイメントのかけらもない。 こーゆー特殊な教養、感性を要求してくる間口の狭い映画は、本当に苦手。 ってゆーか、『スウィング』って人の名前かよ。騙された。 平均点よ、下がれ。 [DVD(字幕)] 1点(2016-07-04 02:14:41) |
1153. AIKI/アイキ
《ネタバレ》 脊椎損傷により、下半身麻痺になった青年が、合気道を通して人生を再スタートするサクセスストーリー。 人生の途中で、突然下半身麻痺になるのがどういうことか。それを延々と描写する前半。それは、排泄、性機能障害にまで話が及びます。 このディテールへのこだわりにより、この作品は一般的な青春スポーツドラマと一線を画しています。 突然の事故、怪我。それにより変化するのは、肉体的なことだけではありません。人間関係、社会的立場、そのすべてが劇的な変化を遂げます。彼女、友人、家族。その関係性の変化が生生しくリアルです。 主人公芦原の人間関係は一度リセットされます。もはや以前と同じように、周りの人と触れ合うことができません。 その一方で、車椅子になってから知り合った人々とは、自然体で触れ合うことができる芦原。 それは、以前の自分を知らない人たちだから、なのかもしれません。新しく出会う人々が自分を見るその目は、障害者を見る目ではあっても、芦原個人に対する憐憫の眼差しではないのでしょう。 ベッドに置かれたビールを、取ろうとして取れない。排泄をするのに、一回一回ゴム手袋を使わなければならない。それはもう想像を絶する世界です。 そこからの後半。雰囲気が急に変わります。 合気道を通して、人生が再び動き始めます。 この作品での『AIKI』には二つの意味があるのですね。『武道としてのAIKI』と、『人生をもう一度受け入れるという意味のAIKI』。 芦原太一がAIKIを通じてもう一度人生を受け入れるその過程に、素直に感動します。 前半のぐちゃぐちゃだった部屋。ラストの綺麗に片付けられた部屋。まるで芦原の人生に対する心の在り方の変化を表しているようで、ぐっときます。 ただ、個人的に非常に苦手なともさかりえ。彼女の投入により、やたらファンタジックでフィクションの雰囲気が漂ってしまったのが一番のマイナス。彼女の演技、声、表情、そのどれもがわざとらしくて苦手です。この作品には出て欲しくなかった。 また、最後の他流派との異種格闘技戦。エンターテイメントとしては致し方ないのでしょうが、これのせいで随分と安っぽくなってしまったのは残念。 ですがそのおかげで、すがすがしい気持ちで見終わることができたのも、また事実です。 最後に加藤晴彦、あなたは素晴らしい。 [DVD(邦画)] 9点(2016-07-02 15:09:13) |
1154. ハンニバル・ライジング
《ネタバレ》 『妹を食いやがったな。妹との約束だ。おまえらも食ってやるぜ』なるほど。理にかなっています。 ある出来事がトラウマになっている場合、そのトラウマの元凶に自分がなることで、トラウマを克服するというケースがあります。 原作は知りませんが、映画を見た限りでは、レクター博士はそれに近いのではないでしょうか。 ある凶悪犯のルーツを辿るサスペンスドラマとしては十分に面白い。 ですが、ハンニバルシリーズとして見ると、期待値の高さに相応しい傑作、とは言い難いものがありますね。 グレアム、クラリスの両名は、レクター博士の異常性を、相対的に強調するような存在だった気がします。 この作品の『妹』、そして『レディ・ムラサキ』。この両名は、『人間ハンニバル』の輪郭を、私達に見せてくれているような気がします。だとすると、レクター博士の熱心なファンに受けが悪いのもうなずけますね。 更には、『妹の復讐』という動機の部分を明確にしてしまったことで、ますます彼の神秘性は失われてしまいます。 そして、鎧、刀、原爆といった日本的マストアイテムの登場。これは良くなかったかもしれません。生粋の日本人である私達にとって、『チープな作り物』というイメージを意識させてしまいます。 そんななか、レクター博士を演じたギャスパー・ウリエル。彼は良いですね。この作品の掘り出し物的人材じゃないでしょうか。レクター博士の狂気を、予想以上に表現してくれていたと思います。 悪党達を、凶悪な暴力でねじ伏せる、悪の華。その美しさは、この作品でも十分に堪能することができました。 中盤以降のサスペンスアクションな展開には、十分満足しています。 ただ、ちょっと長いですね。 このシリーズはどれも尺が長めなのですが、基本的には必然性のある長さで、鑑賞中にその長さを感じません。 ですが、この作品は、その長さを感じてしまいます。間延びしている部分があるのでしょう。そしてその長さに必然性も感じません。 駆け足気味だとドラマに深みや重みがなくなります。 今作が、その性質からストーリーの深みを大切にするのはわかります。 ですが、あまりにもったいぶって冗長になると、間延びして緊張感がそがれます。 なかなかバランスが難しいですね。 [DVD(字幕)] 7点(2016-07-01 13:35:33)(良:1票) |
1155. DENGEKI/電撃
《ネタバレ》 タイトルからしてB級。 そして、スティーブン・セガール。 これは頭をからっぽにして見る映画ですね。と、思って、本当に頭をからっぽにして見ると、わけがわからなくなります。 なにしろ登場人物が多い。 また、伏線なのか、単発なのか、よくわからないエピソードも多い。 実は黒幕。実は裏切り者。実は味方。っていうパターンも多い。 終わってみれば、勢力図が結構すごいことに。なんせ、最初敵だった人たちと、味方だった人たち、ほとんど入れ替わっています。 と、ゆーわけで、ストーリーを理解したい方は、『セガール』という偏見にとらわれず、ちゃんと見たほうが良いかもです。 ただし。ストーリーへの理解が、面白さにつながるとは限りません。 この作品、ストーリーがわかったとしても、結局はセガール様のストリートファイトが一番、もう圧倒的に面白いわけです。言うなれば、それ以外はすべておまけみたいなもんです。 しかも今回は、敵もアクションできるやつが多いんですね。わりかし良い勝負の連続です。ですがセガール様の強さ、カリスマが損なわれることはありません。とても満足です。殴り合いアクションに関しては、見ていて飽きることはありませんでした。 その一方で、カーアクションやガンアクションは、悪くないのに、イマイチ盛り上がりに欠けます。 ストーリーとアクションがうまいこと混ざってない気がしますね。 それに、駆け引き、違法捜査なんかの知能戦で中盤ぐいぐい押していたのに、結局ラストはいつもどおりの大喧嘩で、逆に爽快感に欠けてしまったかもしれません。 要は、雑なくせに、欲張りさんで、ラフファイトを除くすべての要素が中途半端に仕上がってしまったということでしょうか。 うーん。惜しいなあ。 [DVD(字幕)] 6点(2016-06-29 05:44:04) |
1156. ワイルド・スピードX3/TOKYO DRIFT
《ネタバレ》 テイストは1作目に近いかも。 とにかくストーリー、そして主人公を含めたメインのキャラクター、そのどちらにも魅力がまるでありません。 ですから、どんなに美しいドリフト走行を見せられても、高揚感を感じるには至りません。 やはり、エンタメ作品であっても、ストーリーとキャラクターは大切ですね。 そもそも、ハンが組のアガリをピンはねしたうえに、コトがばれると開き直り。そんでDKに追い掛け回されて、最後はクラッシュして炎上。自業自得じゃないでしょうか。 にもかかわらず、主人公のショーン、DKに殴りかかります。そして『レースで勝負だ。負けたほうが街を出て行く。』って。いやいや。お前に正義の心はないのか。DKのほうが筋が通っているでしょう。これは『主人公』という権力を振りかざした悪質な『職権乱用』ですね。 はっきり言って、こんなに共感できない主人公は、はじめてです。 周りがみんな主人公の味方なのも、???です。 しかしこの作品を見て、『ドリフト』って日本ならではのお家芸なのかなって、思いました。道が狭く、山道が多く、アメリカに比べるとカーブが多そうな日本。ドリフトで円を描く技術とか、立体駐車場上っていく映像とか、美しすぎます。 これでストーリーとキャラクターに魅力があれば、傑作になったのに。 日本の高校に入学したりとか、その辺の発想、舞台設定は非常に面白いです。ただ日本の高校って、こんなんでしたっけ?それに、この舞台設定が果たして効果的に機能しているのでしょうか。 日本という舞台が、本当にただの『舞台』にすぎないとしたら、もったいないですね。 いろいろ文句つけましたが、こんな作品でも、北川景子がヒロインやっていたら高得点つけたかもしんないです。 一番筋が通っていないのは自分ですね。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2016-06-28 08:01:07) |
1157. ニュー・ガイ
《ネタバレ》 ハイテンションすぎるコメディは苦手なジャンル。 特に下ネタでぐいぐい押してくる冒頭は、本当に観るのをやめようかと思ったくらい、嫌悪感しかわきません。 簡単に言えば、いじめられっ子が、別の高校に転校して、人気者になろうとする物語。 ですが個人的には、今いる学校で自分を変えて欲しいと思うのです。『別の学校』という舞台の移動が、すでに『逃げ』に見えちゃうわけです。当然、そこでいくら頑張っても、最初にいた高校での自分に対する評価は変わりません。それで良いのでしょうか。 更に、主人公のデイジーは努力しているものの、ほとんどは『他者の力』と『ラッキー』に救われているだけです。 その成功によってカタルシスを得るのは非常に難しいものがあります。 唯一良かったのは、ブラスバンドの人を助けるシーン。そのシーン以外は、ずっと冷めた目で見てしまいます。 一番がっかりだったのは、友人達を前に、『知り合い?』と聞かれ、『知らない』と言ってしまったこと。 ではなく、その後の対応です。 何だその謝りかたは。そしてメンバー、許しちゃうの?なんてゆるい人間関係。そもそもこの主人公から人徳を取ってしまったら、何が残るのでしょう。 そしてラストも期待はずれ。 音楽でもよい、スピーチでもよい。もっと説得力や、カタルシスを得られるフィナーレが欲しかったです。 中途半端、ここに極まれり、な作品です。 [DVD(字幕)] 4点(2016-06-27 02:22:25) |
1158. レッド・ドラゴン(2002)
《ネタバレ》 『レクター博士が鉄格子の中からプロファイリングをし、推理する。』このスタイルが、やはりこのシリーズ一番のウリなのかもしれません。手負いの獣が危険であるように、鎖でつながれているほうが、レクター博士の狂気が滲み出るような気がします。 ですが、本題は、悲しき殺人鬼ミスターDの物語。 彼の犯した罪に同情の余地はありません。ですが彼の生い立ちは同情を誘うものです。 鑑賞者の心の琴線に触れるバランス感覚が絶妙な脚本。いえ、これは原作があるわけですから、原作が素晴らしいのでしょう。 リーバ・マクレーンという女性とのエピソードを通し、ダラハイドの善良性を前面に押し出す描き方は最早卑怯な感じすらします。 観客はいつの間にかダラハイドに感情移入します。そしてその一方で、いつ彼が暴走するのか、不安な気持ちがいつもつきまといます。 もともと人の心の闇を描くサイコスリラーが好きなので、好きなジャンルをこの完成度で仕上げられると、ため息しか出ません。 ただ一つ注文をつけるならば、犯行動機についてです。『幼き頃の虐待』という抽象的で曖昧な表現にとどめてしまっています。 標的となる家族の選び方の基準も、『自分の会社にビデオ製作を頼んだから』というだけのもの。 そうではなく、なぜあの二家族が標的にされたのか、それこそがこの作品で一番知りたかったことです。肝心の部分を描いてくれていません。ダラハイドの生い立ちと、彼が狂気に走った理由を、もっと明確に結びつけてほしいのです。 ラストは、ダラハイドがサプライズを仕掛けます。 エンターテイメントとしは成功でしょう。映画としては間違いなく盛り上がります。 ですが作品の格はどうでしょうか。 ラストの仕掛けによって、よくある娯楽サスペンスに成り下がってはいませんか。 ダラハイドが愛する女性を殺せずに、自殺して終わる。 美しく悲しくやるせないラストとして相応しいと思ったんですけどね。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2016-06-26 17:46:59)(良:3票) |
1159. アメリカン・アウトロー
《ネタバレ》 血生臭い時代背景とストーリーを、ポップで明るい雰囲気に仕上げたエンタメ作品。 よって多少の不謹慎感はありますが、気軽に見られるポップコーンムービーとなっています。 プロットも極力わかりやすくなっているようですね。 まずは南軍が北軍に敗北します。南軍のレンジャー部隊、故郷に還ります。故郷の村に、政府の息のかかった鉄道会社が立ち退きを迫ります。つっぱねます。仲間が処刑されそうになります。助けます。今度は母親が殺されたりして、報復強盗が始まります。 このようなシリアスな脚本を、ひたすらライトなテイストで味わうことになります。 当然犠牲者もいるわけです。ジェームズ兄弟の母親。ヤンガー兄弟の末の弟。また、話題の中でしか出てきませんが、ドク・ミムズの長男も死んでいます。 ですが『人の死』の扱いが、この作品ではかなり軽いです。悲しみ、怒り、痛みといった感情が、この作品から伝わってくることはありません。もちろん、そこから生まれるはずの、逆襲や復讐によって得られるカタルシスもありません。なんせ、ラストは自分達の家族を殺した相手と馴れ合う始末です。そして笑顔で新天地へ向けて再スタートですから、死んだ者達は浮かばれないですよね。 したがってこの作品は、終始ジェシー・ジェームズというアウトロー・ヒーローを描くことにこだわった作品と言えそうです。 そりゃあ、見ていて楽しいですが、深みはなく、共感することも無く、見応えもありません。 ついでに言うと、部分的に脚本がかなり雑です。 一例を挙げると、仲たがいのシーン。ここはかなり強引ですよ。 その人間性とカリスマで、みんなをひっぱってきたジェシー、突然のご乱心です。 『俺がボスだ。』『お前は死にぞこないだ。』 不自然極まりないです。 ライトなタッチは好きなのですが、しめるところはしめてほしいですね。 『袂を分かつシーン』や、『人の死のシーン』だけは、もう少し脚本や演出を練っても良かったのではないかな。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-24 11:06:45) |
1160. ヴェロニカ・ゲリン
《ネタバレ》 女性ジャーナリストに起こった悲劇、その意味を問いかける作品。・・・なのかな、との予備知識ありでの鑑賞。 予想通り、かなり『強い』作品ではあります。 ですが、この映画では、その『強さの源』が見えてきません。 あるいは、冒頭で、注射器で遊ぶ幼い子供達のシーン。麻薬漬けになっている少年・少女のエピソード。この冒頭のシークエンスから、ヴェロニカのジャーナリストとしての正義感を感じるべきだったのでしょうか。 自分の身や、大切な家族を危険に晒してまで、なぜ麻薬の記事を書くことに固執するのでしょうか。 『子供達の未来を救いたい。』『麻薬の売人は許せない。』理由は何でも良いのです。何でも良いから、ヴェロニカの行動の原点にあるもの、それを映画で見せてほしかった。 でなければ、ただ意地になってムキになっているだけの人に見えてしまうことすらあります。 にしては、『ここで屈したらジャーナリズムの敗北よ。』という信念を掲げておきながら、記事を書くことより訴訟を起こすことを選んだりします。なんだかよくわかりません。 また、周囲の人間の感情の機微も、抑えすぎている感があります。鑑賞者の判断にゆだね過ぎているような気がします。旦那、母親、刑事、上司、誰も彼もが優柔不断に見えてしまいます。 『実話』だからこそ、ただ事実を流すだけではなく、そこに生きる人たちの『思い』を見せてほしいのです。 そこに作成者の価値観や解釈が入っても構いません。心の描写が中途半端なバッドエンドストーリーを見せられても、口の中に苦い味わいが残るだけです。 ラストのナレーションで、ヴェロニカの死に大きな意味があったことは、わかります。 ですがこの作品に関しては、あまりにもラストのナレーションに頼りすぎている気がします。 この作品を見てよくわかりました。私は『実話』が好きなのではないようです。『実話ベース』の『映画』が好きらしいです。 [DVD(字幕)] 6点(2016-06-21 13:22:41)(良:1票) |