1601. 点と線
《ネタバレ》 時刻表を利用した計画殺人の妙自体は、今となってはさほど目新しくはないが、事件の核に女の憎愛を据えるドラマ性は、さすがに文学の巨匠松本清張の原作であると言える。卓越した映像美も手伝い非常にスリリングに展開する映画世界が秀逸。心中に始まり心中に終わる様式美も見事。 8点(2004-05-14 12:10:09) |
1602. 緋牡丹博徒 一宿一飯
「緋牡丹博徒」シリーズ第二弾。前作に続きもう本当に藤純子に尽きる。「親分さんの胸に、血の花が咲くとよ!」って。カッコイイと言われるセリフは数多くあるけど、本当に観客をシビレさすセリフというものはなかなか無い。キッと睨みつけるその眼差しに惚れ惚れする。お竜に惚れ込む四国の組長役で登場する若山富三郎のユニークすぎる存在感、女賭博師の不能になった夫を演じる西村晃も見事。 8点(2004-05-11 00:29:18) |
1603. 世界の中心で、愛をさけぶ
《ネタバレ》 「ロミオ参上」。劇中、不治の病で入院する最愛の彼女を見舞う主人公の少年の台詞である。250万部を越えた大ベストセラーの原作を映画化した今作の最高のファインプレーは、この台詞だと個人的に思う。原作を読んで号泣してしまった者にとっては、映画化によってどれだけこの世界観を表現できるかということが最大の興味であり、期待であり、不安であっただろう。その思惑を制作スタッフは見事に独立した映画として昇華してみせたと思う。その顕著な結果が「ロミオ参上」という原作にはない一つの台詞に表れている。確実な死に向かう恋人に対する少年の心情は、どうしようもなく混乱しているはずである。その思いを覆い隠すように、少年は、病室にたたずむ恋人に対してこの何気ない台詞でおどけ登場してみせる。この物語は、眩い青春時代に愛し合った恋人たちの片方が死んでしまうから泣けるのではない。目の前で「生の時間」を終えようとしている恋人を前に、自分は何をすべきか、何ができるかを思い悩み、限りある時間の中で奔走する少年の姿に涙が溢れるのだと思う。劇中、山崎努が言うように「人が死ぬということはえらいことだ」。でもそれがどうやっても避けられないものであるのならば、いつか僕も、誰かのためにさけびたい。 [映画館(字幕)] 6点(2004-05-11 00:07:54)(良:2票) |
1604. フレディVSジェイソン
ホラー映画は苦手で、「エルム街の悪夢」&「13日の金曜日」両シリーズともまともに観たことがない僕だが、「フレディVSジェイソン」というホラー映画史を代表する二大スターの対決には映画好きの好奇心を掻き立てられないわけにはいかなかった。両シリーズを全く観ていないで今作を評するのもおこがましいが、夢と現実、二人のモンスターによる獲物の獲り合いを軸に展開していくストーリーは両作品のファンを裏切らないクオリティを備えたものだったと思う。それぞれのキャラクターの見せ場もバランスよく繰り広げられホラー性というよりは、エンターテイメント性が高かったのではないかと思う。ホラーが苦手な者にとっては「大いにひねくれたヒーローもの」とも言えるテンションが非常に楽しめる塩梅となった。ホラー映画のお約束とも言えるラストシーンには爽快感すら残る。 7点(2004-05-10 02:09:38)(良:1票) |
1605. バリスティック
完璧なまでのC級アクション映画に唖然としてしまった。自信たっぷりのアクションシーンにとってつけたようなキャラクターととってつけたようなストーリーが羅列する。あまりに内容の無いストーリー性に肝心のアクション映像も淡白に映る。ルーリー・リュー、アントニオ・バンデラスのビジュアルは良いがそれも作品の質に完全に打ち消されている。監督はタイ出身のカオスという人物、名前のままにこの映画自体混沌としている。 1点(2004-05-09 18:52:44) |
1606. 砂の器
最後の演奏が終わった後に主人公和賀英良が得た心情はいったい何だったろうか。自分の宿命に対する恨めしさか、悔しさか、恩人である元巡査を殺してしまった後悔か、それとも自分の想いを音楽によりまっとうした達成感か…。おそらくは、それ以上に様々な想いがラストの演奏中に渦巻いていたのだろう。そして、最終的に彼の脳裏を支配したものは、やはり唯一無二の存在である父親の姿であったに違いない。その想いの性質は陽であり陰である。しかし、丹波哲郎の台詞にあるように「音楽の中でしか父親に会えない」彼にとって、その瞬間はきっと幸福だったのだと思う。最近放映されたテレビドラマは観ていないが、主演アイドルのチープな演技、そして物語の核であるハンセン氏病をとりあげなかったことで、絶対的な失敗は容易に想像できる。 [DVD(字幕)] 7点(2004-05-09 11:36:08) |
1607. 修羅雪姫(1973)
修羅、まさに修羅。雪夜に映える美しき梶芽衣子演じる壮絶なヒロインの存在そのものが、「修羅」その一言に尽きる。この生き様を前にすれば、「キル・ビル」のザ・ブライドのそれすらも可愛く見え、タランティーノが圧倒的な感銘を受けたというのが文字通り痛いほど分かる。物語、運命、宿命、殺陣、台詞、そして血飛沫、すべてにおいて「躊躇」という言葉の存在すら忘れてしまいそうな超絶な映画世界に包み込まれる。 8点(2004-05-07 01:19:19) |
1608. 座頭市物語
満を持して観る事ができた「座頭市」の記念すべき第一作目は、まさに稀代の時代劇ヒーローの真髄に触れる精神に溢れていると思う。心を通じ合った浪人とのラストの死闘は、過酷な運命を背負い歩く座頭市の宿命そのものであろう。後のシリーズ作品等と比べるとややアクションシーンが少ない印象はあるが、三隅研次によるモノクロームの映像美に映える殺陣はやはり圧倒的だ。 8点(2004-05-05 19:23:00) |
1609. ゴジラの逆襲
ゴジラ登場に関するシナリオの軽薄さはこの前作と比べると格差が甚だしいが、前作は日本映画史に残る大傑作だけに仕方の無いことだろう。しかし、アンギラスの登場によりゴジラ対怪獣という形式の礎を築いたことは、この後のシリーズ化を考えると評価に値すると思う。その結果今作も含めて傑作とは呼べないゴジラ映画も多く誕生するわけだが、ゴジラという世界的キャラクターの構築ということを思えば、数ある駄作もそのキャラクターの一片という意味で非常に重要である。今作においては、あくまでゴジラに対抗する人間のドラマに留めているあたりが、ドラマ性に富み見応えがある。 6点(2004-05-02 15:13:38) |
1610. 宮本武蔵(1961)
吉川英治の原作はまだ読んだことがないのだが、井上雄彦「バガボンド」のファンの者としては、まさにその映像化である映画世界として興味深かった。今作は、武蔵(たけぞう)が宮本武蔵へと目覚めるまでのくだりを描いており、武蔵の狂おしいまでの猛々しさが鮮烈に映し出される。個人的には、精神面のディティールで「バガボンド」の方が優れているという感は否めなかったが、中村錦之助演じる武蔵像はワイルドさと弱さを併せ持ち良かった。 7点(2004-05-01 13:06:18) |
1611. 黒蜥蜴(1968)
ああ、なんて凄いんだろう。これでもかと押し迫ってくる世界観に衝撃を通り越して呆然としてしまいそうになる。戯曲のストーリーの映画化だけに役者のエネルギーがことさらに迫る。言うまでもなく、美輪明宏の存在感が物凄い。あのセクシーさ、妖艶さ、男優・女優という枠を超越したその物腰に惑わされずにはいられない。ああ、ほんとうに、凄いとしか言いようがない。是非ともDVD化を望む。 10点(2004-05-01 00:51:52) |
1612. 少年たちは花火を横から見たかった
岩井俊二監督作「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を出演者が自ら回想するドキュメンタリー。それほどこの企画自体に意味はないように思うけど、まあ本編は秀作なのである程度の感慨深さは蘇える。 3点(2004-04-28 19:28:08) |
1613. CASSHERN
《ネタバレ》 これほどまでに悲哀と残酷さに満ちたヒーロー映画がかつてあっただろうか。そのあまりに過酷なヒーローの運命に対し、予想を覆された僕は大いに戸惑ってしまった。しかし、残酷な環境を打開すべく、自らの悲しい運命を打開すべくために立ち上がったヒーローの厳しい宿命としてこれほどふさわしい物語はない。常軌を逸するほどのビジュアルセンスで描かれた鮮烈で秀麗な映画世界は現実とはかけ離れているが、描かれる人間たちの悲しさ、テーマとして語られる人間の憎しみの螺旋の本質は限りなくリアルであった。そう、アニメ版「キャシャーン」と同様に作られていたヘルメット(ソーラーメット)をこの映画の主人公はついに被ることはなかった。それはこの映画のヒーロー:CASSHERN、しいては敵キャラも含めたすべての登場人物がただの人間であること、そしてこれが生身の人間たちの闘いであるということの象徴に他ならない。新進の映像作家が撮り上げたこの処女作を「散々たる」と安易に酷評することは実に容易である。事実、改善すべき箇所は大いにあろうが、僕はこの映画世界に溢れる確固たる厳かさにも似た空気感に圧倒されずにはいられなかった。 [映画館(邦画)] 10点(2004-04-28 19:16:30)(良:1票) |
1614. キル・ビル Vol.2
この映画に対してこの言葉はあまりに似つかわしくないが、エンドクレジットが終わると同時に受けた率直な感想としての言葉は「安堵感」であった。そう、それは鬼才クエンティン・タランティーノのタランティーノらしさに対する安堵感だと思う。いささか暴走気味であった前作を引き継ぎ、「キル・ビル」という一本の作品をまとめ上げる続編としてVol.2は非常に完成されていた。何と言っても、タランティーノ節と言える会話の中の緊張感に圧倒される。長い沈黙を経てタランティーノが打ち出したこの映画世界は、様々な映画に対するオマージュでありパクリだと言われる。しかしそこにあったのはそれらすべてを超越した凄まじいまでのオリジナルだったと思う。 [映画館(字幕)] 8点(2004-04-28 18:51:13)(良:2票) |
1615. ドラゴンボールZ 復活のフュージョン!!悟空とベジータ
《ネタバレ》 あの世が滅茶苦茶になって死んだ敵キャラが復活するというあらすじに少しひかれたのだが、セリフ有りで復活するのはフリーザのみ、しかもあまりにあっさりと今作では脇役の悟飯に片付けられる…。弱くてもいいからナッパとかリクームが総勢復活することを期待したのだが。作品の総括としては、オリジナルとどうしたって繋がらない陳腐なストーリーに加え、どうにもならない低俗コメディーに何も言うことはない。散々…。 1点(2004-04-22 21:58:07) |
1616. 緋牡丹博徒
観終わった直後は単純に、「参った」とか「凄い」という言葉しか出てこない。圧倒的にパワフルな任侠渡世を描いた映画世界に、ただただ没頭させられる。冒頭の仁義から、ラストの襲名挨拶までひたすらに魅力的な藤純子が素晴らしい。今の日本映画にはない作品の良い悪いの以前に存在する映画としてのパワーに溢れている。背景が絵だろうが、主演女優の唄が下手だろうが、すべてがその世界の産物と納得させ、その空気の中で息づく俳優たちの一喜一憂に息を呑む。「映画」という絶大なパワーで観客を包み込む。そういうものがこの時代の日本映画には、ある。 10点(2004-04-22 02:27:15) |
1617. 十三人の刺客(1963)
《ネタバレ》 先ずモノクロームの秀逸な映像美に圧倒される。静と動を極めたその映像世界に古めかしさはまったくなく、新進的な雰囲気すら感じる。往年の名俳優たちの重厚なたたずまいにも目を見張る。他の時代劇に違わず、今作も侍としての崇高な精神を発端に物語りは始まるが、今作の場合、格好良いサムライの姿を期待すると少々面食らう。ラストの泥臭い大殺陣に象徴されるように、この映画は殺し合うということの無情さ、人間の本質的な滑稽さを根本に描いていると思う。タイトルのわりには脇の人物の描き方がもう一つで期待していた群像劇としては弱いが、己の精神と精神の間でせめぎ合う侍たちのドラマは秀逸だ。 [DVD(邦画)] 6点(2004-04-19 12:00:15) |
1618. 野良犬(1949)
この映画が50年以上も前に作られた映画だということに唖然とする。時代背景は当然古めかしいが、語られるテーマはまさに普遍。メッセージ性の強い主題を描きつけながら、少しも説教臭くない刑事ドラマへと昇華させているあたりに、もはや「巨匠」という言葉では片付けられない黒澤明の偉大さを感じる。それと同時に、さすがに瑞々しい三船敏郎の眼差しに惚れ惚れする。 8点(2004-04-18 16:17:18)(良:1票) |
1619. ナイン・ソウルズ
冒頭の不潔感漂う刑務所シーンから、ラストの爽快感まで映画としてのバランスは多岐に富んでいて良かった。9人の囚人たちのそれぞれの人間模様を描いていくという構図は面白かったけど、この尺内で描ききるには少々キャラクターの人数が多かったかもしれない。でもそれぞれが乱雑に交し合うセリフの数々には印象深いものが多く、特に板尾創路の演技かギャグなのか分からないような絶妙な一言一言がイイ感じだった。 6点(2004-04-18 13:00:01) |
1620. 新幹線大爆破(1975)
30年も前にこれほどまでスリリングで迫力のあるパニック大作が日本で作られていたことに驚かざるを得ない。昨今の日本の大作映画といえばことごとく陳腐なものばかり。なぜ30年前に作れて今作れないのだ。今作に限らず、大作映画についていえば、現在よりも数十年前に作られた作品の方がよっぽどパワフルな場合が多い。まさに大手映画会社の大盛期ということだろう。復活はあるのか?どうにも怪しい…。 加えてこの時代の娯楽映画のセンスには頭が下がる。例えば、ラストの射殺シーン、展開は読めつつも緊迫感を高めるあの演出は、最近の日本映画ではなかなか見ることができない。 8点(2004-04-17 14:36:55) |