1681. COLD WAR あの歌、2つの心
《ネタバレ》 題名ほど社会派な作品だという訳では全然無くて、むしろどちらかというと高度に心理的・芸術的(文学的)な方の、内容の深いハイレベル恋愛映画である(見応え抜群)。世界が壊れたから愛が歪んだのか、それとも二人は元々壊れていたのか。ラストもややありがちだが、これも究極の愛の姿を垣間見せる素晴らしい(かつ美しい)出来。『2つの心』は名曲だが、サビの歌詞が「オヨヨ~」なのには毎回笑った。 [映画館(字幕)] 8点(2019-11-17 00:12:45) |
1682. カストラート
《ネタバレ》 物語はやや繊細で、複数のコンセプト(兄との関係性、女性との関係性、カストラートの苦悩、等)を含むが、ヘンデルとの関係性以外はどうも掘り下げが甘く、消化不良な感じがある。 他方、メインディッシュというべきカストラート歌唱はその出来自体は素晴らしいが、設定上威力のある名曲をあまり使えないのがもどかしい所(『リナルド』”私を泣かせて下さい”くらい。そもそも、バロック・オペラは現代に至っては決してオペラの主要なレパートリーとは言えず、有名な作品はもう少し後ろの年代に固まっているのだからこれはある意味仕方が無い)。 思うに、歌での盛上げ所があんまり作れない→映画のテンションを長時間保てない→110分のあっさりストーリーという顛末か(名曲だらけの『アマデウス』と比べては可哀そうだが)。 実在のファリネッリに拘らなければ(もう少し時代をずらせば)もっと色々歌えたのではないか(話の内容は架空のカストラートでも描けるような内容だし)。それか作曲家がもっと頑張れば。。 [DVD(字幕)] 7点(2019-11-16 00:02:18) |
1683. ブレードランナー 2049
《ネタバレ》 『ブレードランナー』の続編として純然たるSFというコンセプトはそのままに、極めて上質な映画が完成されている。作品の空気を完璧に引き継ぎ、前作の設定も生かし切りながら(前主人公のハリソン・フォードも巧く使った上で)主役を次世代にバトンタッチし、物語の内容は前作より遥かにグレードアップしている。 (ヒトのように振る舞うヒトでないものの”生き様”を通して、ヒトとは、人間性とは何かを問うたり、「記憶と魂」といったようなSFとしても興味の湧く内容を映画に上手く落し込んでいる印象) 難は前作同様、非常にゆったりしたテンポで人を選ぶだろうという点だが、個人的には深い世界観や(SFな)哲学を語る映画にはこれくらいの尺とテンポが必要なように思うし、史上最高のSF映画の1本として十分なクオリティを備えた作品であると思っている。オススメ。 [DVD(字幕)] 9点(2019-11-16 00:00:38) |
1684. RAW~少女のめざめ~
《ネタバレ》 スタイリッシュな画づくりなど、映画自体のクオリティは平均的なホラー映画のそれをかなり上回る。と言うか、これはそもそもホラーと言うよりは、内気な少女の(ちょっと異形な)成長物語に過ぎない。なのでホラー描写は(誤解を恐れずに言えば)メイン要素という訳ではなく、むしろそのテーマ語りとその他の興味深い描写(イカレた大学生活やゲイのルームメイトとの関係性など)のつくりのハイ・クオリティぶりの方をより評価すべき作品なのだろう。 とは言え、まずまずよく出来た構成だとは思うが、設定面で若干の瑕疵があるように感じられる点と(特に見え見えで取って付けで陳腐なラスト付近)、そうは言っても結局ホラーとしか言い様の無い作品なのにも関わらず(カテゴライズはホラーにしかなり得ないという意味で)、ホラー描写が(誤解を恐れずに言えば)マイルド過ぎる点からしても、話自体のインパクトはまずまずだし十分に良作だと思うが、それ以上ではない、との評価が妥当なように感じる。主演女優はまだ10代だったようだが、演技は素晴らしいがいきなりこんな変態な役で大丈夫なのか?とは思う。 [インターネット(字幕)] 7点(2019-11-15 23:56:36)(良:1票) |
1685. エド・ウッド
《ネタバレ》 本作の面白さは全て、実在のエド・ウッド個人とその珍妙な作品群に依拠している。そのため、まず彼の奇天烈な人生を知った上で、その作品群を鑑賞する「苦行」を成し遂げなければこの作品の真の価値は理解できない。 しかしその前提があった上で観ると、幾多の面白要素(すべて事実)を全体に上手く散りばめてテンポ良くダレずに展開する良質な脚本に驚かされる。(マニア限定だが)必ず笑って泣ける傑作伝記映画と言えるだろう。 また、ランドーは(再現度と実物を上回る凄さの両面で)演技の域を超えている。再現度で言えばクリズウェルやらヴァンパイラやらも相当ヤバい。ウッド本人は本物とは大分違うのだろうが、この物語の成立にはウッドにある種の「詐欺師ぽさ」が不可欠に思うので、デップも適役なのだろうと思う。 [DVD(字幕)] 8点(2019-11-15 23:53:20) |
1686. 青いパパイヤの香り
ストーリーは良く言って繊細(ともすれば希薄に過ぎる感じ)といった所だが、ベトナムの情景・生活の描写は日本人から見ると異国情緒に溢れており、カメラワークも非常に凝っていて映像的に面白いので意外と最後までボーっと観れてしまう。これもあるひとつの国の、あるひとつの時代を切り取った映画と言えるかもしれない。その意味では色々と貴重だし、雰囲気映画としても立派に成立している作品なのは間違いない。 [インターネット(字幕)] 6点(2019-11-15 23:52:00) |
1687. バトル・オブ・ザ・セクシーズ
《ネタバレ》 歴史的にも非常に重要な、一つの偉大な勝利の物語。 比較的抑制された演出・演技の下に進行していくが、それが寧ろこの対決に懸る種々の重圧をより真に迫って表出させることを可能にしている。演出もそうだが、カット割やハンディカムのスポット的な使用等撮影面でも極めて良い工夫があり、映画技術の点で特筆すべき巧みさがある。 展開運びは前半が大人し過ぎなのが気になるが、中盤以降は見事なシリアスさで観入ってしまう。そして様々に複雑な演技を静かに、だが十分に情熱的に演じ切ったエマ・ストーンは全編通じて出色の出来(個人的に好きなのは会長相手に静かに激しくキレるシーン)。 本当に重いものが懸った戦いに果敢に挑み、重圧を跳ね返して「世界を変えた」真にカッコいい女性の物語。観るべし。 [インターネット(字幕)] 8点(2019-11-15 23:50:12) |
1688. スターダスト・メモリー
《ネタバレ》 ウディ・アレン版『8 1/2』。元ネタと同様、女(をとっかえひっかえ)以外にはあまり内容が無いが、軽妙かつ「ダシの効いた」台詞回しの秀逸さは健在なのに加え、全編にコミカル要素が絶妙に塗されており、陽気で気楽な音楽とも相まって非常に心地良い雰囲気が醸されている。ランプリングの翳の有る、一筋縄ではいかなそうな美貌は正に全盛期。他の女優も可愛いし、観て損は無いかも。 [DVD(字幕)] 7点(2019-11-15 23:47:32) |
1689. ジェサベル
《ネタバレ》 かなり慎みの無いアメリカンな悪霊で、思いっ切り出てくる場面が多くてショック描写がイマイチ怖くない。ただシナリオは(所々ややチープで場当たり的ではあるが)B級ホラーとしては相当に工夫して組立てられており、展開運びもまずまず巧くて十分に面白く観れる。ショック描写も同級生が襲撃されるシーンは結構怖かった(これも力業だが)。あくまで暇潰しには、十二分に良質なホラー。 [インターネット(字幕)] 6点(2019-11-15 23:46:18) |
1690. 日日是好日
《ネタバレ》 「茶道とは何か」を垣間見せてくれるような映画と言うべきか。 凡そ「道」と名に付くものにおいて、その本質的な目的は精神修養、つまり稽古・修行を通して人間として成長し、高みに登ることにこそあると言える。茶道においては、茶を美味しく味わうための技術、および客を美しく洗練された所作で持て成すための作法の習得は実は芸道のほんの足掛かりに過ぎず、その先により繊細で深い感性(それはある種「人間性」と言ってもよいものであるが)を養うことこそが、「道」としての茶道を修める主眼に他ならない。 メインシナリオにおいて、薄皮を貼り重ねていくかのように緩やかに成長していく黒木華はそれを見事に体現している。本作の彼女は、添え物度の高い薄目の主展開運びをほぼその演技力一つでモノにしており、演技面でも出色の出来だと思う。そして、稽古には厳しいがユーモアと人間味の有る「本物の」茶道の先生にしか見えない樹木希林は正に驚愕の出来映え。作中24年間全く老けないのも含めて。 [インターネット(邦画)] 8点(2019-11-15 23:43:40)(良:1票) |
1691. ファントム・スレッド
《ネタバレ》 「恋なんて謂わばエゴとエゴのシーソーゲーム」な一つの恋愛模様。男も女も中々に強烈な自己中ぶりだが、しかし争いは「同じレベルの者(=惚れてる同士)」の間でしか発生しない。出演陣の揃って妙に楽しくなさそうな顔が印象的な作品ながら(特にアルマ)、その実、これは壮絶な恋の駆け引き(一部比喩でもなく、傷害沙汰)をホントのトコロは「楽しみ」ながら、2人の愛を確かめ合い深め合ってゆく様が描かれている、極めて普通の(ちょっと異形な)恋愛映画なのだ。中々に深いと思う。 デイ=ルイスの誇り高き芸術家な芝居も素晴らしいが、その彼に対しても決して主導権を明け渡さないレスリー・マンヴィルの揺るぎ無い様が妙に印象的(演技はアルマも素晴らしい)。変りダネではあるが、間違い無く「愛の」傑作な一品。 [インターネット(字幕)] 8点(2019-11-15 23:39:47)(良:1票) |
1692. 聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
《ネタバレ》 監督の前作・前々作とはうって変わって非常に明解なシナリオだが、演技・演出ともに非常に秀逸で一級品のスリラーと言える。特に子役の演技が(複雑な感情・背景を表現する必要がある所で)3人とも実に冴え渡っていて見事の一言(表情のつくり方、目付きなどが絶品の域)。性表現の過激さ・品が一切無い感じは平常運転(キッドマンにアソコまでやらせるとは)。結構オススメできる一作。 [映画館(字幕)] 7点(2019-11-15 23:38:25) |
1693. 39 刑法第三十九条
《ネタバレ》 まず、堤真一の二重人格の演技は率直に凄い(最初の二重人格シーンまでの40分間が正直一番面白い)。その他助演陣も揃って出色の出来(特に岸部一徳と樹木希林)。 ところが、主演の鈴木京香に関して(本人というよりは)キャラの設定にかなり疑問符が付き、どうも感情移入できない(極めて情緒不安定かつ頼りなさげで、鑑定人など全く務まる感じでは無い)。シナリオも相当に良く出来ていると思うが、それでもやはり公開鑑定の流れと事件の真相にはかなりの無理があると感じる。面白いサスペンスだとは思うが、完成度としてはあと一歩な印象。 あと、刑法三十九条についての批判が根底にある作品なのだが、無責任能力者を罰しないのは至極合理的な法制度であり、一面的に捉えての批判には違和感がある。詐病により正義が実行されない可能性があるとしても、それは制度運用上の問題であって、そういうものを十把一絡げに批判している様に見える点で、テーマ面がはっきり言って幼稚だと思う。 [インターネット(邦画)] 5点(2019-11-15 23:35:18) |
1694. ラ・ヨローナ ~泣く女~
《ネタバレ》 A級ホラー映画(カネ掛かってる)で色々と出来は標準以上だが、悪霊襲来ものとしては極めて単純なつくりでシナリオ上の工夫も殆ど無いのと、それなりに怖いとは言ってもホラー描写もほぼほぼが相当な力技かつ単なる驚かし系なので「そこまですりゃそりゃ怖い(否、ビックリする)だろ」という感想しか出て来ない。 ただ、ホラー描写にはそれなりに面白く斬新なものも無くはないのと、悪霊の禍々しい造形はまずまず秀逸で前述どおり(映画館で観れば)それなりに怖いので、単純に「怖いもの見たさ」を満たすために観るホラー映画としては目的は果たせなくもないかと思う。 [映画館(字幕)] 5点(2019-11-15 23:33:18) |
1695. モラン神父
キリスト教的な価値観を多分に含みながらも、十分に理知的で普遍性ある対話を通して、人間関係が変化・深化していく様を丁寧に描いており、かなり見応えが有る。古い映画で、非常にシンプルな(飾り気のない)演出をされているため、もし現代であればもう少し画的な美しさとか音楽とかで文芸的な趣を足せるのではないかと思ったり。十分にオススメできる良作だが。 [DVD(字幕)] 7点(2019-11-15 23:30:47) |
1696. 寝ても覚めても
《ネタバレ》 正に(※但しイケメンに限る)な展開で、非モテの私からすれば虫唾が走る映画。そして、内容的にはかなりオーソドックスな「元カレ戻ってきた系」なのも確かにそう。 ただ、この映画のキモは(登場人物の年齢設定からするとやや意外な程に)非常にピュアな恋愛を静かに美しく描く点にあり、その意味では落ち着いた演出と飾らない地味な色遣いのセンスも良いし、そして、唐田えりかの素朴としか言い様の無い演技と透明感抜群の無垢なルックス、加えて役の年齢よりも大分若いことが非常に効いている(この娘の演技力がそこまで高いとは思わないし、演技の引き出しも無さそうだけど、別に東出昌大も本作では特筆するほど演技が良い訳では無いし⇒ただ助演の若い3人は相当に上手いと思う)。あと、月並ではあるが「愛が恋に勝つ」結末も清々しさは中々(決してカスイケメンが振られたからではありません)。 最終的な評価として、イケメンと美少女の起用を前面に押し出したこの手の邦画の恋愛ものとしては、キャスティングを生かし切っている点でも良い映画製作が出来ていると思うし、重ねて言うが演出も意図と結果の両面で優れている。キネ旬邦画4位も納得な出来の、最高レベルにオススメな恋愛映画。 [インターネット(邦画)] 8点(2019-11-15 23:28:53)(良:1票) |
1697. ピアニスト
《ネタバレ》 少し珍しい、女性の変態性欲者を描いたエロティックな一作。とは言え、この物語の本質の部分は、とある理由から精神面に歪みを生じた一人の女性の悲劇的な顛末を描いた作品という点であり、その歪みが主に性的な方面に現れているというだけで、決して性的倒錯を直接的に描くことが主題の作品ではないと思う。 しかし、上品なフランスマダムそのものなイザベル・ユペールの佇まいと彩り豊かなクラシックが奏でる瀟洒な雰囲気の中に、突如として割り込んでくる倒錯的な性描写の衝撃度は、一瞬ふと「意味が分からない」レベルに極めて高く、本作に特大の「凄み」を与えることに十二分に成功している。また、このような性描写の生々しさを(倫理コード的に)可能な限り引き出しつつも、もう一方の側面である文芸映画としての知的な雰囲気をギリギリ損なわない非常に高度なバランスが保たれている点には、監督の繊細なセンスと流石と言うべき演出の腕前を大いに感じ取れる。 そして同時に、この繊細かつ鮮烈な演出を見事に成立させているイザベル・ユペールの鬼気迫る演技(と前述の素晴らしく品格の有るオーラ)は、私が知る中でも最高の仕事の一つと言ってよい。文芸映画らしい雰囲気を残しながらも比較的分り易い仕上りに加え、奇妙で複雑な一人の人間を描いた非常に劇的なドラマ映画としても十分に興味深く観ることが出来る。決して万人向けでは無いが、人を選んで是非お勧めしたい一品。 [DVD(字幕)] 9点(2019-11-15 23:21:35) |
1698. チワワちゃん
《ネタバレ》 パーリーピーポーの実は孤独な生き様を、そこそこ独創的で面白い映像表現を交えつつポップかつしっとりと描く。門脇麦は(妙にブスで肌も汚いが)その確かな演技力が冴え渡っており、出色の出来と言える。あとまた妙にクズ野郎な成田凌も面白い演技をしている。展開運びには抑揚が無く、やや平坦ではあるが、演技面の出来で腹八分目くらいには満足できる作品。 [インターネット(邦画)] 6点(2019-11-15 23:18:40)(良:1票) |
1699. アイネクライネナハトムジーク
ふとした所で、重なってゆく人生。テーマも「人生において偶然訪れた大切な出会い」という類だが、その繊細なプロットを表現する技法として、恐らく原作小説では叙述トリックに類する緻密な工夫が施されているものと推察する。 しかし、それを映画で再現してみると、展開運びに若干の意外性がもたらされるものの、それよりもとにかく話もキャラも薄くて軽い、という印象(それは逆に「軽やかさ」とか「肩肘張らずに観れる」というストロングポイントだと言えるのかも知れないが)。個人的にはも少し深くて歯応えの有る話の方が好き。ただし、入れ替わり立ち替わり色んな俳優が登場しては次々と軽妙な芝居を披露していくというテンポの良さとバリエーションの多彩さはまずまず面白く、少なくとも2時間が退屈だということは決して無い。 全員が脇役みたいな立ち位置だが、中でもMEGUMIと原田泰造(あと多部ちゃん)は良い脇役芝居で好印象。ほっこりグッドエンドな終い方も含めて、デートムービーにも最適な一品。 [映画館(邦画)] 6点(2019-11-15 23:15:59) |
1700. クロール -凶暴領域-
《ネタバレ》 ハリケーンが来た!と思ったら家の地下に複数のワニ、という若干(いやかなり)ピンと来ない導入部だが、全くダレずに見せ場が続き、かつ後半は着実に派手になっていく展開運びにせよ、珍しくワニを主役にするというチャレンジングながらもモンスター映画として十二分に恐怖を引き出せているショック描写にせよ、この手の動物スリラーとしては完全に大成功。オススメ。 [映画館(字幕)] 7点(2019-11-15 23:11:49) |