1. 緋牡丹博徒 二代目襲名
この4作目までは作品ごとに監督が違うのでそれぞれの演出スタイルの違いを見るのも楽しみの一つなんだけど、この「二代目襲名」は演出スタイルの差が一番激しく表れている作品だと思います。様式美を生み出すセットではなく屋外ロケを多用しているのが一番大きく、そのせいもあって「緋牡丹のお竜」というキャラクターがいっそう現実味を帯びています。お話自体も他作品と異にするところがある。常に旅人であったのに対し今回は地元が舞台だから。いつもよその揉め事におしとやかに首を突っ込むお竜さんが今回は自分自身が揉め事の真ん中にいる。いつも自分の身のためにならんことに仁義を尽くしてまわりから惚れられるお竜さんが今回は親分としてその責務を全うする姿をもって惚れられる。より「お竜」が生々しくなる。それでもどんな演出の元でも「緋牡丹のお竜」というキャラクターに動じることのない確固たるものがあるのは富士純子その人によるところが大きいのかもしれない。口上だけでなくちゃんと「矢野組二代目」としてのお竜さんがいるこの作品はシリーズになくてはならない作品だと思う。 [映画館(邦画)] 6点(2011-12-16 14:19:59) |
2. 鯨神
いったい何を目指したのか。お話は文芸作品で新藤兼人の脚本はそれなりに文芸色を打ち出しているようにも思えるが田中徳三監督は主役そっちのけで勝新の野蛮な立ち振る舞いをカメラに収めようとしているふうで文芸作品というよりもアクション映画のノリ。そこに伊福部昭の音楽と巨大鯨という怪獣映画の組み合わせ。なんともチグハグな作品だ。クライマックスの死闘とその後の主人公の神々しいモノローグシーンの繋がらなさがチグハグの最たる部分。アクションと怪獣と田中徳三の相性はけして悪くはないから新藤兼人に書かせたのが間違いなのだろう。あるいは監督と音楽を変えるか。 [映画館(邦画)] 5点(2011-12-15 16:35:12) |
3. 十兵衛暗殺剣
柳生は確かに将軍の犬だったかもしれないし新陰流は剣術である前に兵法だったのかもしれないが、少なくとも柳生十兵衛三厳は優れた剣士として知られているのだし、テレビや小説によって強固となった「政治よりも剣」という豪放なイメージもあるわけで、それなのにこの展開はどうなのよ。殿の前で勝負をしなかったのはなんらかの理由があるのだと信じて見てた私はいつまでたってもその理由が語られないことにイライラし、もしや逃げてるのではあるまいなと憤り、逃げてたのかよと呆れかえるのであった。そもそも敵方の描き方もいただけない。最強の敵であることは前半ではっきりとした。ならば最強同士で勝負するだけで面白いのになぜに海賊ならぬ湖賊を使って悪どい戦術を使うのか。いや、敵キャラとしてはその悪辣は悪くはないのだが、ならば剣術で十兵衛より勝っているような前半の展開が邪魔。やはり僅差で十兵衛が強いのであって前半の勝負の躊躇いにはしっかりとした理由がなくちゃならん。ま、私の勝手な十兵衛像を理由にけなすのもなんだが。 [映画館(邦画)] 5点(2011-11-21 14:00:21) |
4. 伊豆の踊子(1963)
実は吉永小百合の映画をあまり見ていないのだけど、これは二度見てます。他の吉永小百合は知りませんがこの吉永小百合は薫です。つまり子供です。体はすでに女になろうとしているのに中身が全くの子供。異性を意識してこわばった表情を見せたかと思うと故郷の話に満面の笑みを見せる。五目並べの際の目の輝きはまさに子供。このお話は薫の純真無垢さが際立てば際立つほどに残酷性を帯びてゆくのだが、そういう意味では吉永小百合の薫はなかなかいいじゃないかと思ってます。この純真が汚されてゆく運命にあることを暗示する様々なシーン(書生の夢、酔客の態度、娼婦の病死、ヤクザもんの目利き、、、)が若干表に出すぎのような気もするが、吉永小百合の持つ清純のイメージとの吊りあいを考えればこれぐらいしないと負のイメージが湧かないのかもしれません。 [DVD(邦画)] 6点(2011-11-16 13:36:16) |
5. ゼロの焦点(1961)
この内容で95分は凄いなとは思うんだけどナレーションで手早く説明することで達成できた数字なので手放しで褒めるわけにはいかない。とは言うものの原作ありの邦画サスペンスは大抵ナレーション過多が当たり前で、よほど原作に縛られない自由な環境を与えないかぎりはしょうがないのかなとも思う。列車、音楽、愛情のもつれ、崖で顚末がわかる、と完璧に後の火曜サスペンスあたりに受け継がれた鉄板アイテムを堪能してください。ロケーションも時代を反映していて楽しめます。 [DVD(邦画)] 5点(2011-11-09 15:33:47) |
6. 黒い画集 ある遭難
ストーリーの見せ方がシンプルでわかりやすい。石井輝男脚本というのがここに表れているのかもしれない。しかし演者らの企み顔やら苛立ち顔やらが目立つのも石井輝男脚本の弊害か。杉江監督の演出と相性がよろしくないように思う。わざわざ顔にカメラを向けなくても「企み」や「苛立ち」はセリフまわしだけでじゅうぶん伝わるようになってるのに。まあ、そのぶん異常におどろおどろしい雰囲気が出ているけど。せっかくのロケーションがこのおどろおどろしさに負けているのももったいない。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-11-08 15:38:09) |
7. 緋牡丹博徒 一宿一飯
女任侠もののさきがけともいえる「緋牡丹博徒」を世に送り出した鈴木則文本人が監督した唯一の作品。監督が統一されてないので雰囲気も違って当たり前なのだが、本作に関しては鈴木色ともいえる薄っぺらな娯楽性が突出しており、前後作品からは若干浮いた存在のように感じられる。若山富三郎演じる熊寅親分の三枚目ぶりも度を越してほとんど道化。立ち回りも派手で、復讐の炎の火元となる敵方の憎憎しさも絵に描いたような憎憎しさ。女を手篭めにするという下品なシーンまである。隠すとか見せない演出なんて無い。ザ・見世物!である。ある意味幼稚。でもある意味これが映画。 [映画館(邦画)] 6点(2011-10-28 14:26:12) |
8. 五人の賞金稼ぎ
《ネタバレ》 村人から雇われて砦を作って戦うという点では黒澤明『七人の侍』の亜流と言ってもいいかも。でも戦うのはあくまで雇われた者たちであるという点、敵方が圧政を強いる権力者である点、そのうえその権力者が分かりやすいまでの大悪党であるという点においてやはり想起するのは工藤監督の『十三人の刺客』と『大殺陣』だ。主人公の賞金稼ぎが医者という表の顔をもっているところも同監督が多く監督したテレビ「必殺」シリーズを彷彿させるしメンバーになぜかくノ一がいるなんてのも『忍者秘帖・梟の城』を思い出したりした。面白い要素をとりあえずぶち込んだれ!みたいな映画。その時代に日本には絶対ないだろうガトリング銃まで登場。というかメインの武器だし。戦う理由は破綻しまくっており、ひたすら互いが殺し合うだけの映画であったのだと見終わった後に気付く。痛快なまでの娯楽映画でありながら後味の悪い苦味をしっかりと残すところがまたいかにも工藤監督らしい。 [映画館(邦画)] 6点(2011-10-11 16:44:52) |
9. シャレード(1963)
えらく豪勢なキャストだがそのわりに地味な作品。それなりに凝ったストーリーなのだがいまひとつのめり込めない。サスペンスよりもロマンスコメディに重心が寄ってるので凝ったストーリーは凝っただけの成果を発揮せず豪勢なキャストも豪勢さを発揮できていない。とはいうもののそれが狙いというか、とりあえずオードリー・ヘップバーンを右往左往させて楽しむことを最優先させているので、そこを楽しめればOKな作品。豪華キャストとサスペンスはオマケみたいなもん。騙されても騙されても言い訳一つでチューしちゃうオードリーというのも、サスペンスにあるまじきお約束的キャスティング、ケイリー・グラントあればこそ。ただしリアルタイムでこそそのお約束キャスティングに安心してロマンスコメディを楽しめたわけで、ケイリー・グラントを知らない世代にとってはなんともギクシャクした予定調和と見えるかも。 [DVD(字幕)] 6点(2011-09-21 16:40:43) |
10. 車夫遊侠伝 喧嘩辰
男でも惚れてしまう男をこそ描いてきた加藤泰の映画ではあるが、私は加藤泰の映画の女が好きだ。『昭和おんな博徒』で好みじゃない江波杏子に惚れさせ、『花と龍 青雲篇・愛憎篇・怒濤篇』でも眼中に無かったはずの香山美子に惚れさせた手腕は半端じゃない。そしてこの映画の桜町弘子。惚れいでか!凛として強情で高飛車な面も見せつつもどこまでもどこまでも女。男気溢れる男たちも実に気持ちがいい。そして井川徳道が見せる様式美。内田良平が桜町に命をかけた喧嘩に行くことを告げるシーンだ。『緋牡丹博徒 お竜参上』の雪の積もる橋、『明治侠客伝 三代目襲名』の夕焼け空(あっ、どっちもそこにいる女は藤純子だ)に匹敵する美しい井川徳道の世界がここにある。いいっすよ、ここ。心の奥にあるいろんなもんを引っ張り出してくる。簡潔に言うと感動。感動を誘引する美があるんです。 [映画館(字幕)] 8点(2011-09-16 16:44:47) |
11. 幕末残酷物語
新撰組をかっこよく描いた司馬遼太郎「燃えよ剣」にも初代局長、芹沢鴨と後の主要メンバーとなる試衛館出身者たち(近藤、土方、沖田、等々)の確執は描かれるが、この作品ではそういった局内の確執やそこから派生する粛清がメインに描かれる。所謂、新撰組の内ゲバもの。その非情さは知識として知ってはいても、粛清される側の視点であらためて描かれるとその非情さはさらに際立つなと。むしろ非道。架空の人物を主人公にフィクションを織り交ぜながらそのリアルな非道ぶりを炙り出してゆく。そんな中で純真無垢な存在の藤純子が光る。リアリズムに徹した暗く淡々としたドラマの中で映画の華が一服の清涼剤となる。そしてラストの大袈裟な悲劇の演出に映画の醍醐味を見る。 [DVD(邦画)] 7点(2011-09-15 14:45:22) |
12. 明治侠客伝 三代目襲名
表の稼業を二代目の実の息子に渡すと言った途端にその息子がころりと性根を入替えるところとか、クライマックスへの流れの早急さとか、もうちょっと時間かけてじっくりと見せて欲しいなとも思うんだけど、たった一つの美しい画でやられた。父親の死に目に会いに帰してもらった藤純子が桃を持って鶴田浩二に礼を言う川べりのシーン。オレンジの空と川沿いの松と遠くにくっきりと見える橋。セット独特の幻想的な美しさにやられた。美術、井川徳道の仕事が強烈に際立つ。19歳の藤純子がウブすぎて娼婦っぽくないところがまた歯がゆいというか、まあドラマチックなんだ。あと、鶴田浩二のセリフがいちいちかっこいい。 [DVD(字幕)] 7点(2011-09-14 14:41:41) |
13. みな殺しの霊歌
《ネタバレ》 主人公が殺人犯。しかもレイプして殺す。けっこう描写もきつい。レイプはそれとわかるストレートな描写。時代を考慮すればかなりショッキングな映画だと思う。そのうちに犯人には犯人の事情ってやつがわかってくる。同時に暗い過去を持つもの同士の男女の痛々しいドラマが寄り添う。サスペンス色は強くなく、ストーリー上に展開される連続殺人自体も実はさほど重要ではない。事件そのものよりも人を殺した者の哀しみこそが描かれる。佐藤允と倍賞千恵子の哀しい顔が印象的。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-09-13 13:25:29) |
14. 悪い奴ほどよく眠る
冒頭の結婚式でのひそひそ話が明らかな説明となっており、もちろんそれはシェイクスピア劇のようなお話ゆえの演出なんだろうけども、そこを例えば歌にしちゃうとか、背景に幕が下りちゃうとかといった具合に、演出であることがもっと露骨ならいいんだけども、やっぱり台詞ってのは、どうにもひっかかる。そこだけならまだしもその後もやたらと説明台詞が多いからまいっちゃう。社会派エンターテイメントとしての「わかりやすさ」を獲得するための説明台詞なんだろう。シリアスな内容と説明台詞の相性が悪い。生々しいロケーションと型通りの登場人物の相性も悪い。お話自体はかなり面白い。幽霊を演出する光と闇のマジックは映画そのもののようだった。 [DVD(字幕)] 6点(2011-08-10 15:26:15) |
15. 三匹荒野を行く
《ネタバレ》 小学生のときにテレビで見て大感動した作品。「『名犬ラッシー』を三匹でする」だけのものなんだけど、三匹というのがミソ。犬猫犬の三匹というのもミソ。三匹が互いに助け合う様が実に健気で感動を煽るのだ。物語はほとんど人間を介さないので「シートン動物記」や「野生の王国」が大好きだった当時の私にとってまさにビンゴだったわけです。猫が川に流されたりゴールデン(レトリバー)がヤマアラシの針に刺されたりけっこう細部を記憶していました。去年か一昨年あたりに再見したときはそのあまりに淡々と進行する淡白な演出に呆れてしまったのですが、今ならもっと音楽が大袈裟に感情を揺さぶり観客を驚かせる仕掛けも満載になるに決まっており実際そういう映画にならされているからこそこれを淡白だと思ったわけで、そう考えるとこの淡白な映画に自分の想像力を駆使して大感動していた私の少年時代は幸せだったのだなと実感。 ちなみに我が家にも犬と猫がいるが残念ながら互いに助け合うとは到底思えない。それ以前に二匹とも誰彼かまわずなつくので旅立つこともない。 [DVD(字幕)] 7点(2011-07-21 14:06:20)(良:1票) |
16. 狼と豚と人間
《ネタバレ》 ワルな男とそのワルに惚れた女が見せるオトナの空間。そこに流れるジャズ。しかしそのワルが健さんという違和感。ワルが合わないのかジャズが合わないのか。唐突にミュージカルに転じる私好みの展開もひたすらさぶい。選曲が悪いのか演者が悪いのか。しかし後半の廃屋での拷問あたりから盛り上がってくる。ワルだけど卑怯じゃない、とどんどん健さんらしくもなってきて、反対に深作流ワルが様にもなってきて、最後の立てこもりから撃ち合いまでくるともう監督の本領発揮。この最後の盛り上がりが凄い。そして貧民街の夜の静けさというギャップを活かしたエンディングが素晴らしい。 [映画館(邦画)] 6点(2011-06-28 13:50:57) |
17. ああ爆弾
奇抜である前に面白い。というか奇抜さがこの映画の中で全く破綻することなく溶け込んでいるので奇抜とも言い難い。洗練されている。勢いがある。これぞ娯楽映画。ミュージカルってリズムと役者の動きとカット割りが合ってないといけないんだけど、そんな繊細な仕事を感じさせないバカバカしさもいい。怒涛の展開はそこに音楽がなくともこの映画自体が音楽のよう。つまり時代に関係なくいつまでも楽しめる映画。これぞ娯楽映画。 [DVD(邦画)] 7点(2011-06-24 16:36:32) |
18. マーニー
オープニングに目に飛び込んでくるのがなんとも鮮やかな黄色のバッグ。ヒッチコックらしからぬ奇抜な色使いがこの後に「色」がキーとなることを予告しているかのようだ。『白い恐怖』『めまい』『サイコ』等と同様「トラウマ」を扱った映画なのだが、この作品の「トラウマ」はそこからサスペンスを生み出すというよりは重要な物語の一部としてある。そのせいか妙に説明くさい。そして何よりも余裕をかますショーン・コネリーがよろしくない。巻き込まれてこそ面白いのだ。慌てふためいてこそスリリングになるのだ。コネリーは貫禄がありすぎて安心して見られる。これはいかん。前半はロマンスコメディのノリなのでそれもありかなとも思ったんだけど。 [DVD(字幕)] 6点(2011-06-02 16:20:46) |
19. 何がジェーンに起ったか?
《ネタバレ》 ヒッチコックが恐怖にひきつる女優の顔のアップなどというある種の過剰演出によってインパクトを作ったようにアルドリッチもベティ・デイビスの醜悪な顔のアップによって強烈な印象を残すことに成功している。それどころか醜悪な顔自体が過剰な演出であり、過剰に過剰がプラスされてひたすら「怖さ」「グロテスクさ」ばかりが強調されてゆき、サスペンス以上にホラー色を帯びてゆく。このミスリードが活きて、ラストシーンで自分は「姉を殺したいほど憎んでいた」のではなかったのだと知った後の美しく可愛らしい顔が心に刻まれるのだろう。それにしてもそれまでの顔のインパクトが凄まじすぎる。この後にアルドリッチとベティ・デイビスのコンビで作られた似たような構成と似たような雰囲気の『ふるえて眠れ』と合わせて見ると面白いですよ。 [DVD(字幕)] 7点(2011-04-22 16:18:47) |
20. ショック集団
《ネタバレ》 それぞれの狂人たる理由がその特徴的な狂人ぶりで提示されてゆく。そこには社会派の色も見えぬことはないのだが、色情狂の女たちの登場で社会派色は一気に減少する。てか、女たちをひとまとめにして色情狂にしちゃうそのシンプルすぎる発想が怖い。そんな異常な世界は、ゆえに外の世界の異常性の写し鏡だなんてことはなく、ひたすらに狂気のるつぼとして描かれる。廊下をゆっくりと移動しながら様々な狂人たちを映し出すカメラワークが凄い。ラストシーンではこの廊下を映し出す一連の流れの中に一人の狂人が加わるのだ。美しいヒロインが待つ外の世界が時折映されることで中の世界の閉塞感が増幅されているように思うのだがそのヒロイン、コンスタンス・タワーズの出番の少なさが唯一の不満。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-04-21 17:54:41) |