1. 卒業(1967)
《ネタバレ》 ガッチガッチに凝り固まったシステム、ルール、既存の観念。この作品ができるほんの数年前までハリウッドではベッドシーンはもとより夫婦がベッドに2人でいることすら禁じていた時代があるわけだから、もうこれは卒業以外のなんでもない。これはダメ、こうしなさい、ああしなさい。こうでなきゃいけない、言う通りにしなさい。まるでこの物語に登場してくる人物そのものがこの頃のハリウッドのように、押し付けがましく、「正しさ」に押し込めようとしているように見えてならない。でもこの作品を現代人が観れば「当然、問題なし」と観るだろう。そりゃ、花嫁を教会から連れ出すなんて行為そのものは間違っているし、やるべきではない。でも、彼のように押し付けがましく多くの事を強要される時代に生きていたとしたら?そう問いかけ、その人物に歩み寄って観ることをしなければどんな映画も成立しえない。まぁ、そんなことはどうでもいいや。とにかく、これまで半世紀近くハリウッドが築き上げて来た旧体制を「十字架で殴りつけ、教会の扉に張り付け」そしてそれら全てを投げ出して走って行く。これは旧体制からの卒業であり、新たなスタートの一員の誕生を見せつけられた瞬間なんだと凄く感動した。激動の時代であり、革命、なのだな。凄いや。 [DVD(吹替)] 8点(2012-08-08 07:06:02) |
2. バルタザールどこへ行く
《ネタバレ》 ロバの視点から、次々と現れては消えていく人間たちの愚かさや残酷さを描いています。己の欲望が満たされることばかり考える人間たちは、何も言わないロバを甚振り、いいように扱います。その姿を見ていると、腹立たしくなり、自分自身も同じ人間かと思うと、悔しくなります。ロバの目は、どんなに酷い扱いをされようとも無表情で変わりなく人間たちを見つめます。どことなく人間を哀れむようにも見え、また罪深き人間たちを赦しているかのようにも見えます。どうとも取れるロバの眼差しに、様々な考えがよぎりました。悲しいのだろうか。苦しいのだろうか。あるいは憎いのだろうか。言葉にすることなどできないロバの感情を、ある意味描いている作品。人間は人間でしかないが、あのロバの眼差しを見ると、そこにいるのは宗教的な赦しにも思えてくる。とにかく、凄い作品。 [ビデオ(字幕)] 9点(2008-08-13 18:38:51)(良:1票) |
3. 女は二度生まれる
《ネタバレ》 美しい彼女は誰も愛した事が無いのかもしれません。それは同時に、誰にも愛されたことがないという事なのかもしれません。愛しているフリ、愛されているフリ。全てが虚像の中で、自分を演じる自分を見つめているかのようだった。悲しげな表情も、嬉しそうな表情も、全てが嘘。誰に対してもそんな表情をしているから、いつもの間にかどれが本当の自分で、どれが本当の気持ちなのかわからなかったんじゃないだろうか。それでも、生きるためにはしかたがない。これから彼女はどこへ行くのでしょう?本当の愛を探すのか、本当の自分を探すのか。最後にベンチに一人で寂しく座る彼女の姿はまさに孤独だった。ようやく望んで一人になった彼女。これから彼女は何を目にし、どうなっていくのか、ぼくは悶々と想像していようと思います。あの、若いクソガキのように。 [DVD(邦画)] 9点(2008-06-29 18:47:52)(良:1票) |
4. 乱れる
《ネタバレ》 主人公二人の会話はどの場面でも実に巧に描かれており、演出はそれを十分に引き立てて行われていました。コウジという人物は、一見だらしが無いように見えるが、実際は芯の通った気持ちの良い性格をしている。レイコとの複雑な関係を見ていても、彼は決して淫らな行為に走らないし、紳士的な態度を常に取っている。そこにはレイコに対しての真面目で真っ直ぐな彼の心を感じることが出来た。そんなコウジを観ている人間は好きにならずにはいられない。例えば、彼の面白くて具体的な性格の一面がわかりやすく、脚本上二日目の晩に出てくる。麻雀をして帰ってきたコウジはレイコにピシャリと「ご飯はいらない」と言っておきながら、気付くとガツガツと食べているところは本当に愛くるしい。また、終盤での列車の車中でコウジはここでも「寝ない」といっておきながら、ワンカット挟んだ次のカットではグッスリと眠っているといったように、コウジの性格は憎めないほど可愛らしく、好きになってしまう。また、そういったコウジの性格を18年間傍らで見つめていたレイコにとってはそれが全ての思い出を集約しているように見えたのでしょう。だからこそ、あそこでレイコは下車しようと言ったのでしょう。そんな二人の関係性は演出でも描かれていました。二人が会話する際、ほとんどどちらかが背を向けている形になっている。また、追いかければ逃げる。近付けば離れるという動きの演出も実に素晴らしかった。そしてそんな演出があるからこそ、二つの電話のシーンがより感動的なのではないでしょうか。顔と顔を見合わせていませんが、画面で見る限り、カットバックされており、まるでそこに二人がいて向かい合っているように見えました。コウジの不器用な性格とレイコの頑な優しさが見て取れます。酒の力を借りて、顔をあわせないことをいい事に素直な思いを告げるコウジ、変わらぬ優しさを持ち続けるレイコ。演出の細やかさが画面からヒシヒシと伝わってきます。そしてラストの高峰さんの表情。嵐の前の静けさを通過し、嵐が訪れ、呼吸を乱し、髪を乱して走るレイコ。いつも淡々とした美しさを保っていた彼女が乱れる。凄すごる映画だ! [DVD(邦画)] 10点(2007-11-25 18:44:58)(良:2票) |
5. しとやかな獣
ヒキの画で終始描かれている。人間を描くというより、どこかそこに行き来する人々を客観的に覗き見しているような錯覚に陥る。それは丁度、あの家族が実際にしていたようにこっそりとばれない様にしている感じだった。構図もそういった覗き見している間隔にさせられる画が殆どで、どこか恐ろしくもあった。まるで血の気の通っていない人間のような冷たい構図、演出、演技。外界から切り取られたようにワンシチュエーションで物語りは進む。流石は新藤さん、脚本が素晴らしい。台詞が説明になっておらず、すべてが完璧な表現になっており、聞いているだけでも本当に面白い。家族の会話のようで、そうでない。兄妹の会話のようで、そうでない。親子の会話のようでそうでない。この作品の中だけで許される常識、ふつう、当たり前。だからこそ、不意にヨリの画になった時、あまりにも人間的でリアルな表情をする。あぁ、やっぱり人間なのだ。淡々と狂ったことを言っているが、彼らは紛れもなく人間だ。それが、妙に現実味がなく恐ろしかった。川島雄三監督、天才。 [ビデオ(邦画)] 9点(2007-07-12 17:16:16)(良:2票) |
6. 武士道残酷物語
この作品の構成にはとにかく驚きました。現代から武士の時代、武士の時代から現代へと物語が連なり、その全てに同じテーマが組み込まれ、一つの物語が終わるたびに胸の痛みが深まっていきました。上下関係の厳しい我々が住むこの島国は、昔から平等なんてものはなく、常に下の者は上の者の命令に従い、忠誠を誓わなければならない。この作品を観てつくづく腹が立ち、どうすることも出来ない現実に憤りを感じました。主人公が背負う苦しみが痛いほど伝わってきて、見終わった後叫びたい衝動に駆られました。これほど強いテーマとメッセージを込める事に成功している今井監督を僕は心から尊敬します。 [ビデオ(邦画)] 9点(2007-07-01 22:03:04) |
7. 気狂いピエロ
映画にドラマがなくとも映画が成立することをゴダールは映画を通して訴えてくる。映画がいかに自由で、そしていかに不自由なものか教えてくれる。何が狂っていて、何が正常なのか、もはやどうでもよくなる。それが映画だ。それがゴダールだ。 [映画館(字幕)] 6点(2007-06-23 00:12:31) |
8. 宮本武蔵 二刀流開眼
宮本武蔵、佐々木小次郎。遂に出会ってしまった。二人が揃うと何とも言えないオーラと迫力がある。4部作目は一体どんなストーリーが待っているのか期待が膨らむ。 [DVD(字幕)] 7点(2005-06-06 18:37:21) |
9. 宮本武蔵 般若坂の決斗
獣でしかなかった新明武蔵が、三年の月日をかけ人間となり、宮本武蔵となり刀の道を極める為、そして天下無敵になる為旅に出る。お通を見捨て単身修行。先々での戦いは常に見物。あぁ、三作目が楽しみだ。 [DVD(字幕)] 8点(2005-05-03 19:34:30) |
10. 裸の島(1960)
何もない島で、一つの家族が生きている。毎日毎日繰り返される重労働に弱音を吐く事もなく、誰かに頼ったり頼られたりする事もない。家族は自分に課せられた役割と仕事をもくもくとこなしていた。平凡で何気ない日々を生きていた。しかしそんな中、幼い命がいきを引き取った。母親の心は崩れ、内側の崩壊はあっという間に外側まで広がり、母親は身も心も崩れて行った。苦しく、辛い日々に積み重ねられたストレスなど積もり積もった苛立ちは、息子の死によって耐える事が出来なくなった。その狂う姿はあまりにも切なく、あまりにも痛々しかった。しかし母親の崩れる姿を優しい瞳で見守る父親の姿が横にあった。まるで「泣いてもいいんだ」と言っているようだった。励ます事も、慰める事も、一緒になって悲しむ事もせず、ただ強い気持ちでしっかりと地面の上に立っていた。そして彼等は生き続ける。日々の日課を休む事は死を意味する。悲しみに沈んでいる暇など彼等にはなかった。人間は生き続ける為に立ち止まっては行けない。どんなに苦しくても、どんなに悲しくても絶対に立ち止まってはいけない。と言う事を僕は学び、そして深く心に刻みました。 [DVD(字幕)] 8点(2005-04-09 22:45:50)(良:1票) |
11. 宮本武蔵(1961)
中盤での沢庵坊が青木丹左衛門を馬鹿にするシーンが大好きなボビーです。あのシーンの爽快感は、例えて言うなら自転車で急な坂道を猛スピードで走っている時の不安と興奮の入り混じった感情だと言えます。他にも山ほど見所はありますが、僕は一番あの場面をお勧めします。 [DVD(字幕)] 8点(2005-04-01 17:31:52) |
12. 人間
広大な海の上で4人の男女が遭難した。食料が無くなり、水は山ほどあるのに一滴も飲む事が出来ず、真夏の太陽が肌を焼く。空腹と暑さに苦しみ、生きている心地のしない状況で、2人の人間が豹変した。その変わり行く姿はもう人間とは言えない姿だった。新藤兼人監督は、人間という生き物の最も恐ろしい面を、怖いくらいにリアルに描いた。そんな新藤監督に拍手! 7点(2005-03-10 22:30:01) |
13. 俺たちに明日はない
《ネタバレ》 脳裏に、ラストのポニーとクライドの姿が焼きついて離れない。騙され、殺された2人。やっと身も心も結ばれた筈の2人の行きついた先は“死”だった。あまりに切ない。でも2人にとって、平穏で幸せに暮らせる場所はもう既にこっちの世界には無かったのかもしれない。実際、二人は死んだ。逃げる事も許されず、一瞬にしてこの世を去った。それだけを見ればただの悲劇かもしれない。でも、こう考えるのはどうだろう。2人はこの世で育みきれなかった愛を、あの世でしっかりと育んだと。貧しさから逃れるために仕方なく選んだ道の先。そこには血だらけの二人が横たわり、歪んだ世の中が笑みを浮かべ、明日を迎えていた。 [DVD(字幕)] 9点(2005-01-16 22:51:15) |
14. シャレード(1963)
予備知識まったくゼロの状態で観ました。オードリーが出ているから純愛物なのかと思っていたら、殺しや25万ドルなどが絡んできて、これがサスペンスだと知りました。ですが前半は緊張感の欠片もございませんでした。さらに後半でも緊張感は正直言いましてございませんでした。どちらかと言われればコメディのような雰囲気が強く、緊迫した雰囲気は全編を通してあまり感じられませんでした。唯一ラストでほんの少し感じられただけで、あまりサスペンスらしくなかったように思います。ですが、この作品はこの形が一番面白いのではないかと思います。サスペンスを強調させ過ぎず、その分ラブストーリーに重点を強く置き、華やかさをアピールしていたように思います。サスペンス映画だと思って観てしまうと微妙ですが、オードリーのロマンス作品だと思って観れば何の問題もなく楽しめる作品です。 7点(2004-12-01 18:26:55) |
15. 恐怖の岬
これにはリメイク盤があるんですか?しかもデニーロ?ほぉ~それは見てみたいですね。それにしてもオリジナルなのに平均点が極端に低いですね。6点に満たないとは・・・個人的に面白かったんですがね。前半の緊張感とラスト周辺の緊迫感。半世紀近い昔のサスペンス映画としてはヒッチコックと肩を並べるのでは?なんてガキが知ったかぶって言ってみました。7点。 7点(2004-11-15 22:50:36) |
16. 男と女(1966)
ガキの僕にはまだ到底理解出来そうにもないラストの二人の心境。情熱的な愛、燃え上がる二人の想い、まさに大人の恋愛だった。僕には一生理解出来ないかもしれない。唯一学んだ事がある、それは“恋愛になると男は考え、女は全てを感じる”という事。だから男はいつも馬鹿を見るのだ!あぁ~、男は辛い! 7点(2004-09-10 21:45:40) |
17. ワイルドバンチ
なぜだろう。ストーリーは決して明るいとは言えないのに、観終わった後の気分の良さ、爽快感、明るさ。この映画は銃撃戦、死、売春など、暗く重く、残酷なものばかりが目に付いたのにも関わらず、一体どうして、どこからあの明るさが生まれるのだろう・・・そしてラストシーンで答えは出た。それは彼等の笑顔だったと。どんなに落ち込んだ時も誰かが盛り上げる。これから死が待っていると言うのにも関わらず、晴晴とした笑顔を浮かべる。彼等にはいつも笑顔があった。僕はそんな彼等を見ているとなんともいえない、喜びを憶えた。僕はそんな彼等を観れて良かった。 8点(2004-08-22 20:51:56) |
18. ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生
ゾンビよりも…人間の方が…よっぽど怖い!! 8点(2004-08-20 19:44:16) |
19. 十三人の刺客(1963)
悲しいですね、たった一人の無能な男の為にたくさんの血が流れ、倒れてゆく。幸い、無能な男は最後まで無能で不様で、そして惨めだった。まっ、とりあえず奴の最後は鼻で笑ってやった。 8点(2004-08-18 19:31:47)(良:1票) |
20. 噂の二人
嘘が噂を呼び、噂は人を信じなくさせた。 中盤から来る、嫌な緊張感と不安感が胸が一杯になさせ、彼女達の辛さが痛いほど伝わってきた。終盤では良い方に話しが進んで行ったものの、不安感は消えず、やはり辛かった。前半での明るさと後半での巨大過ぎる暗さのギャップ。心に辛さが大きく残った。でも最後、オードリーが一人歩くシーン。彼女の顔からは強さが溢れていたように見えた。僕はあの強さ漲る顔によって、救われた。「辛くても下を向くな!真っ直ぐ前だけを見て進み続けろ!」熱いメッセージが僕の心に届いた。 8点(2004-08-12 18:05:59)(良:1票) |