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光りやまねこさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 418
性別 男性
自己紹介 1959年生まれの48歳。
神戸市近郊に在住の、映画をこよなく愛する
市井の人であります。
ま、コツコツとレビューしようと思ってます。

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1.  オリヴァ・ツイスト(1948)
オリヴァ・ツイストの運命を予見させる、ただならぬオープニングシーンからしてゾクゾクさせてくれる。本作ではセット美術とカメラワークが特に素晴らしく、いかがわしいロンドンの下町の雰囲気が存分に味わえる作りになっている。しかも子供向け映画にもかかわらず、全く手を抜くことなく丁寧に描き込まれていることにも感心します。孤児たちを食い物にするスリ集団の頭や孤児院の役人達。そんな大人世界にも悪人だけではなく、心優しき善人もいる。各登場人物の色分けがはっきりしているので、子供目にも分かりやすい。(とくにアレック・ギネスが演じるフェイギンなんて見た目どうりの悪党ぶり) また幸、不幸はまさに紙一重ではあるが、最後まであきらめず頑張れば幸せを掴むことが出来るという、子供たちへのメッセージ性。溜飲が大きく下がるスリリングな結末は、これぞっ少年少女向け感動物語。やはり原作者が文豪ディケンズだけあり作品そのものに深みがある。そしてリーン監督の大人の視線から観ても飽きさせない演出にただただ脱帽。本作は再三リメイクされたりで、いかに観客の心を掴み愛される物語であるかわかると思います。家族向け映画のお手本であり名作です。
[DVD(字幕)] 10点(2007-05-18 21:33:47)
2.  吸血鬼(1931) 《ネタバレ》 
主人公の青年が旅先で吸血鬼を退治するという物語だが、現実と非現実が交錯するためとりとめのない夢を見ているかのような錯覚に陥る。そのため理屈でもってストーリーを追うと、釈然とせぬまま話は進み幕が閉じてしまう。むしろ、この映画はイマジネーション豊かな主人公がある夜に体験した夢の一部始終、と受け取り鑑賞すると不思議な魅力に満ち満ちている。冒頭の死神のようなシーンからして不気味だがシュールな雰囲気を漂わしており、途中、死霊たちであろうか音楽に合わせて楽しそうに躍る様子が影絵みたいに映し出され、作り手のセンスの良さを充分に感じ取ることが出来る。また主人公の青年が死体となり棺で運び出されるシーンがあるわけだが、その時の窓を通して映る外界の何と郷愁を誘い神秘的なことか。つまりこの感覚、理屈ではなく感覚に働きかけるよう作られているわけです。モノクロ映像が放つ魅力を知り尽くした光と影の巧みな共演。(本作ではある意味、影そのものが主役とも言える) 薄気味悪いオブジェに、音楽はもちろん効果音でさえも味わい深い。深夜に鑑賞すると雰囲気満点で、監督カール・ドライヤーが描く幻想的な空間を心ゆくまで堪能できる。
[ビデオ(字幕)] 10点(2006-09-24 11:42:18)(良:1票)
3.  羅生門(1950) 《ネタバレ》 
死人に口なし。人間というものは自分に有利で都合のよい供述をする。死人も死人でこれまた同じで、しかも恥を嫌う侍なのでなおさらだ。(巫女を通してだが) ラストに赤ん坊を登場させるわけだが、これは芥川龍之介の原作にはない。賛否両論分かれるところだが、救いを持たせるラストともいえ溜飲が下がったのは事実。この辺り、やはり黒澤監督らしい締めくくり方だ。登場人物はわずかに8人。(赤ん坊除く) 京マチ子の妖艶な演技を初め、各人各様の存在感のある演技が作品そのものを引き締めている。生々しい斬り合いのシーンは当時としては斬新であったろうし、霊媒師の異様なシーンもこの不可解な心理劇に独特の味付けをしている。また宮川一夫のカメラワークと映像も見応え充分で、セット美術も申し分ない。鬼が宿るという羅生門の不気味な雰囲気描写、神秘的な森や木の葉を映し出すシーンなど印象的なカットは数多い。人間の心の奥底に潜む業という、洋の東西を超えた普遍的かつ永遠的ともいえるテーマ性。芥川龍之介の世界観とまた一味違った独自のものを構築しており、監督黒澤明を筆頭に三船敏郎、京マチ子、そして宮川一夫の名を世界に知らしめた傑作。
[ビデオ(字幕)] 10点(2005-08-30 23:34:53)(良:1票)
4.  第三の男 《ネタバレ》 
アントン・カラスのチター演奏が余りにも有名な監督キャロル・リードの傑作。多くの方がおっしゃる通りモノクロ映像の光と影が抜群の効果を収めており、ハリーが窓明かりに照らされるまでの一連のシークエンス、並木道の哀愁溢れるエンディングシーンなどなど数々の名場面が鮮烈な残像を残します。飛び交う言葉が英語だけではなく、ロシア語など複数の言語が第二次大戦直後、敗戦国オーストリアの不安定な雰囲気を醸し出している。帽子をかぶった子供がもうひとつのサスペンスの伏線になるとか、愛猫を第三の男の正体を明かす橋渡しにするなど子供や小動物の使い方が憎いほど上手い。さらに後半、ホリィが殺人の容疑者として追われる身になるという二重のサスペンスを並行させる辺り、なかなか捻りを効かせた味わい深いプロット。そして、もうひとつの見どころが三人三様の人間模様。すばしこく世渡り上手なハリー(オーソン・ウェルズ)。そんな彼と対照的な、どんくさいが正義心の強いホリィ(ジョセフ・コットン)。20年ぶりに再開するものの、お互い人生観も方向性も天と地ほど変わってしまっている。圧制支配下のもとで生み出されたルネッサンス文化とスイスの鳩時計を引き合いに出し、悪人特有の理屈を並べるハリー。そして、そんな二人にはさまれるアンナを演じたアリダ・ヴァリが本作では文句なしに素晴らしい。情感の込められた最高の演技は、この作品にしっとりとした厚みを加えていた。カメラワークに映像、音楽、脚本、雰囲気描写、俳優陣の演技…どれを取り上げても素晴らしく、映画の教科書(お手本)と言われるだけのことはあると思います。
[ビデオ(字幕)] 10点(2005-04-15 15:41:17)(良:3票)
5.  野火(1959)
《かなりネタバレ》戦争が引き起こす狂気はこのような形でも表れる。太平洋戦争末期、ビルマやニューギニアなどの南方戦線に於いて、日本兵が飢えに耐えかね人肉を食って生きながらえたというのは有名な話です。規律や統制も、目的も何もない日本の敗残兵達は敵弾に撃たれまいとただ逃げ惑うだけ。しかも口にする物が何もなく、心身共に極限まで追い詰められ次第に精神を侵されてゆく。となると、当然のごとく人肉を食うか食わぬかの選択に迫られる。この極限状態に於ける人肉食い。生き残るため死人の肉を食うことが許されるのか否かは、人により分かれるところであろう。しかし現地人や同胞の日本兵を殺しその肉を食らう。(おそらく死肉は暑さで腐敗がひどく食えず、新鮮な肉を求めた結果がこれであろう) 疑心暗鬼も手伝い文字通り食うか食われるかの世界であり、もう完全に狂ってしまっているとしか思えない。そんな日本兵達だって、元をただせば我々と同じごく普通の人間だったはず。原作は実際に兵隊としてフィリピン戦線を体験した大岡昇平で、監督市川崑による演出。全編オープンロケが放つ印象的なシーンの数々に絶望的な雰囲気描写。そして、ジワジワと身の毛もよだつラストに向けての展開の仕方もさすがだ。反戦という帰着するもは同じものの、情感豊かに描いた同監督による戦争映画の名作「ビルマの竪琴」(56)と対照的な作風と結末。監督市川崑の偉才振りが窺える、戦争の狂気をえぐり出した傑作です。
10点(2005-02-19 11:05:10)
6.  靴みがき
敗戦直後のローマ。戦争の後遺症はここにも暗い影を落とす。両親や家屋を戦争で失った孤児たちは、大人相手に靴みがきなどをして必死で生き抜いてゆかねばならない。戦後の日本の都会でも同じような光景が見られたのは、記録番組などを通じて知るところ。しかしながら、こんな子供たちでも馬を買うという夢を持って生きているし、またどんな逆境でも夢や希望というものがなければ人間は生きていられない。そんな健気な子供たちを、敗戦直後の荒みきった大人達が盗品の横流しや窃盗団の手先として都合のいいように利用する。社会のルールや仕組みが分からない子供たちは、弁解の余地もなく刑務所(拘留場か?)に放り込まれてしまう。彼らはただただ大人の言われた通り仕事の手伝いをしたまでのことなのに…。そんな混乱期の母国イタリアの現状を、監督デ・シーカは力強くリアルに描いてゆく。おそらく現行の法律に照らし合わせると主人公の子供たち二人(パスクアーレとジュゼッペ)は無罪であろうし、当然ながら釈放して学校教育を受けさせるのが道理であろう。そんな荒んだ大人達だけではなく、刑務所内の先生と呼ばれる大人達からも理不尽な体罰を受ける。刑務所内の劣悪な生活環境に加え、このような非人間的な仕打ちを受けたところで更正など出来ようはずはなく、ますます大人や社会に対し反感を抱くだけであろう。暗く悲しいラストは強烈なメッセージを放っており、子供たちを取り巻く大人社会への糾弾とも受け取れる。名匠デ・シーカの作品としては「自転車泥棒」と双璧を成す傑作です。
10点(2005-02-02 21:55:52)(良:1票)
7.  月光の夏
太平洋戦争末期、特攻隊の悲劇を取り上げた作品は数多くあるが、本作は実話に基づいて作られているだけにより一層切実なものとして胸に迫ってくる。さらに派手な戦闘シーンや凝った特撮など一切使わずに、戦争の悲惨さと平和の願いを描き切ることに見事成功している。また監督神山征二郎の誠実な人柄が作品によく出ており、しかも渡辺美佐子や仲代達矢を筆頭に、各実力派俳優たちの情感が込められた演技も手伝い作品そのものの完成度もかなり高い。物語は、およそ戦争とは無縁に映る平和な余りにも平和な現代の日本と対比して、爆死することを義務付けられた特攻隊員の姿と戦争の不条理が次第に浮き彫りにさけてゆく。奇跡的に生き残った特攻隊員の語るに語れない地獄のような苦しみ、若き命を捨て駒同様に扱う冷血非道な参謀や軍指令部などなど。《ネタバレ》やはり本作では、ラストに尽きるでしょう。引っぱるだけ引っぱって余りにも衝撃的なシークエンスが、このラストに用意されていたのである。悲哀に満ちたベートーベン作曲「月光」のメロディーが類稀なる効果を収めており、特攻隊員の悲劇と戦争の不条理性を見る者へ強烈に訴えている。その瞬間、彼らは何を思い何を願ったのであろうか。このラストシーンは涙なしではいられなかった、というよりもうボロボロになってしまった。少々くどいようだが、この大どんでん返しとも言えるラストを迎えるまでじっと我慢して見て欲しい。この戦慄すべくエンディングシーンで評価は大きく跳ね上がり、作り手はなぜ坦々とストーリーを進めてきたのか分かるはずです。今の若い世代に、いろんな意味でぜひ見て欲しい名作です。
10点(2005-01-07 22:44:49)
8.  女中ッ子
本作では言うまでもなく、主人公初を見事演じた左幸子に尽きます。元体育の先生だけあって初々しくはつらつとした演技はまさに適役以上のもので、きかん坊の子供を受けとめる辺り母性をも感じさせてくれた。そんなエネルギッシュな左幸子に呼応するかのように勝美役の子役・伊庭輝夫がこれまた活きが良く、相手役としてピッタリ。名匠田坂具隆の誠実で味わい深い演出が冴えに冴えており、戦後の高度成長期に差しかかる古き良き時代を存分に味わえる。田舎から出て来た世間知らずの初が都会の文化や習慣に驚く様子と対比して、都会っ子の勝美が冬の田舎の生活に興味を示すという後半の構図も素晴らしく、またアクセント代わりに流れる時計群のハーモニーも不思議な郷愁を誘ってくれた。そんな中、印象的なシーンとエピソードがぎっしりと詰まっているわけですが、個人的に大好きなのがふたつあります。初が時計群の音とともに眼を覚まし、窓を開け朝もやかかる田園都市世田谷を一望する。そして大きく伸びをする。すがすがしいシーンだ。夢にまで見た都会での生活が始まったのだ。それともうひとつは、犬嫌いだった母親の許しが出て勝美と初が歓喜するエピソード。初がチビを抱き上げていう台詞、「チビ、良かったなー、今日からおまえも日陰者でなくって。ぼっちゃん、チビといっしょに走ろ。」この時の初の笑顔が最高にイイ。さらにチビを先頭に原っぱを走るシーンなんかも感涙を大きく誘ってくれた。私も子供の頃、親の反対を押し切り子猫を飼ったことがあり、この時の二人の心境が良くわかるのである。その他にも走行中の列車から飛び降りるシーンなんかは初らしさを象徴しているし、ちょっぴりコワくてユーモラスな“なまはげ”の秀抜な雰囲気描写など挙げているともうキリがありません。そんな古き良き日本を封じ込めた名作中の本作に、文句なしの10点満点。
10点(2004-12-30 22:47:43)
9.  王将(1948)
将棋だけに限らず芸術や音楽、一家の大黒柱がそんな芸ごとに仕事そっちのけでうつつをぬかすとその家族は悲惨である。ましてや子供が二人もいようものなら…。それはさて置いて、この映画は人情ドラマとして文句の付けようがないほど良く出来ています。まず演技力確かな役者陣が良い。ちょっとユーモラスな坂田三吉を演じた阪東妻三郎はもちろんのこと、生活感溢れる女房小春を演じた水戸光子、そして迫真の演技を披露した娘玉江役の三條美紀などなど。監督伊藤大輔のメリハリを効かした味わい深い演出が冴えに冴えており、思わず唸ってしまうシーンも枚挙にいとまがない。また手作り感に満ちたセット美術も素晴らしく、とくに通天閣を望む人情味溢れた長屋の風景もノスタルジック充分。やはり本作での圧巻は二五銀のくだりでしょう。ピーンと張り詰めた雰囲気から不吉な風が吹く。自陣は破られる寸前で負け将棋の様相を呈している三吉だが、ここで一発敵陣に思いもよらぬハッタリの一手をかます。泡を食った関根八段は逆転劇を許してしまう。勝利でいい気になっている三吉だったが、娘玉江に腹の底を見透かされなじられる。勝てば良いというものではなく、名人位をねらうに相応しい堂々たる将棋を指して欲しいと。三吉は激怒し玉江を追いかける。それに追いすがる女房小春。鏡に映った自分の顔を見て我にかえる三吉。そこにはくも助将棋の顔があった。玉江の言うとおりだった。三吉は名人位をねらうに相応しい将棋指しになることを誓う。この一連のシーンはただただ圧巻で、父を心の底から思う娘玉江の姿に涙なしではいられなかった。その他にも記憶に残るエピソードばかりで、ついレビューが長くなってしまいます。そしてラスト、三吉が病床の小春にお題目を唱える中、彼女がお守り代わりにしていた王将の駒(この駒にはこの物語のすべてが詰まっている)をアップでとらえるエンディングシーンなんかもヤラれてしまい、またもや目頭が熱くなった。まさに人情ドラマの名作、文句なしの10点満点。
10点(2004-12-06 11:09:06)(良:4票)
10.  原爆の子
広島、長崎の原爆投下をテーマとした映画は数多くあるが、進駐軍が睨みを利かす戦後間もない状況下、真っ先に取り上げた姿勢だけでも充分評価に値する。しかもこの映画は原爆投下から7年しか経っていないこともあり、つめ痕が残る被爆地広島の貴重な記録フィルムという側面も持っている。監督と脚本は新藤兼人。監督初作品である前作は小手ならし的な自伝的小品だったが、今作が巨匠新藤兼人の世に問う本格的なデビュー作と言っても良いのではないだろうか。その後も広島の原爆や核の恐怖を取り上げた新藤作品は多いが、それは監督自身が広島出身であると共に人間として許されざる行為であることに他ならない。この映画は原爆投下当事、広島の幼稚園で教師をしていた女性(乙羽信子)が7年後、かつての教え子たちに会いにゆく姿をセミ・ドキュメンタリータッチで描いている。作り手たちの情熱や意気込みが充分過ぎるほど感じられるし、なにより役者陣個々の確かな演技力に支えられており作品そのものの完成度は極めて高い。とりわけ戦争と原爆により我が子と家屋を失い、しかも視力までも奪われてしまった岩吉爺やを演じた滝沢修には文句の付けようがない。その痛々しい姿から放たれる演技は原爆の悲劇性を完璧なまでに具現しており、ただただ悲痛であり見る者は涙なしではいられないほどである。「なんぼでも生きるんじゃ。こないな姿顔を世間の人に見てもらうんじゃ。」など胸に突き刺さる台詞もいくつかあり、それらは原爆でなすすべなく虫けらのように死んでいった二十万人もの市民の声を代弁している。「8月6日は永遠に忘れてはならない」と訴えているこの傑作に、何らためらうことなく10点満点を付けさせて頂きます。
10点(2004-11-29 10:48:54)(良:3票)
11.  二十四の瞳(1954)
タイトルロールに流れる「仰げば尊し」を筆頭に、「故郷」「七つの子」「浜辺の歌」などなど数多くの唱歌が作品全体を包み込み、これが抜群の効果を収める。音楽担当は監督木下恵介の実弟に当たる木下忠司。この人、兄恵介と毎回息がピッタリだが今作ではそれを極めている。場面、場面に流れる馴染みの唱歌を彩りのあるメロディーで微妙にアレンジしており、この作品にかける意気込みが充分過ぎるほど伝わってくる。また、小豆島の美しい風景と島民の生活模様が楠田浩之のカメラに余すところなく収まっており、これもまた監督と息がピッタリ。忍び寄る軍国主義に召集令状、貧苦に喘ぐ島民の生活、敗戦という新たな時代への出発…切々と暦をめくるように綴っており木下調の演出が冴えに冴え渡る。戦時の戦意高揚作「陸軍」の製作がよほど悔しかったのか、今作では平和へのメッセージがビシビシと伝わってくる。そして言うまでもなく、主人公の大石先生を演じた高峰秀子が文句なしに素晴らしい。純朴な子供たちに向ける優しい眼差しに、情感のこもった台詞回し。洋服の似合う新人の先生から人生の辛酸を体験し尽くした初老の先生までごく自然体で演じており、女性教師として一人の母親としての弱さと強さ、哀しさと美しさを見事表現しきっている。情感に訴える見事な反戦映画としてはクレマン作「禁じられた遊び」と双璧をなしており、日本映画史上、燦然と輝く名画。文句なしに10点満点。
10点(2004-11-01 17:57:37)(良:2票)
12.  日本の悲劇(1953)
冒頭、激動する戦後の出来事をニュース風のカットで矢継ぎ早に映し出す。本作では監督木下恵介の持ち味ともいえる叙情性は一切廃止され、非情なリアリズムタッチで展開されてゆく。望月優子演じる戦争未亡人である主人公の母親は、二人の子供達を育て上げるためなりふりかまわず必死で働く。しかしある日、料理屋の仲居の仕事に付きものともいえる男性客へのサービス現場を、二人の幼い子供達に目撃されてしまう。子供心としては耐え難い程のショックを受け、その事が大人になっても尾を引いてしまう。やがて冷たく無機質な性格に育っていく二人だが、老後を頼るうっとうしい母親をあっさりと捨て去ってしまい、思いも寄らぬ悲劇が待ち受けることになる。親の心子知らずというか母親にしてみると、子供達の為に死にもの狂いで生活費を稼いできたのに…。そんな悲劇的な母親役を望月優子はハマり過ぎともいえる演技を披露しており、それは鳥肌が立つほどである。また、このような悲劇的な出来事は将来珍しくなくなるということを、監督木下恵介は予見して訴えているかのようでもある。ところでこの映画では、母親に対する三人三様の若者の姿が描かれている。主人公の二人の子供達に対し対照的な性格で母親思いの流しの歌手(佐田啓二)、気性が荒く傲慢だが情に厚い若い板前(高橋貞二)…本作ではこの二人の存在がせめてもの救いとなっている。木下作品としては寓話とも受け取れる異色作だが、邦画史上確かな位置付けにある傑作です。
10点(2004-10-29 21:32:22)(良:1票)
13.  ジョニーは戦場へ行った
戦争がもたらす悲劇を描く題材は数多くあるが、このような切り口があることにまず驚かされる。さすが名脚本家でもあるダルトン・トランボならではの発想です。本作は主人公ジョー(ティモシー・ボトムズ)に親しみを感じ感情移入しやすい作風になっているため、気がつけば苦しみを分け合ってしまい受け手もツラい。しかも第一次大戦中、英国兵の実話を基にしているだけになおさらだ。懐かしい家族の思い出と楽しかった恋人との一時が走馬灯のように脳裡を駆け巡る。このことが残酷な現実をより一層浮き彫りにしている。メリー・クリスマスの指文字やSOSを発信するシーンも鳥肌ものですが、個人的にはジョーが太陽の暖かさを感じ取り生を実感するシーンがいつまでも脳裡に焼き付く。見る者の大半が涙なしではいられないか、様々なことを考えさせられて当然ともいえる作品ではないだろうか。このような実例は今なお世界のあちらこちらの戦場で起こっており、軍部が世間に知れ渡るのをおそれ闇に葬っているだけかもしれません。また、この映画では今日的なテーマのひとつである、人間の尊厳死や安楽死についても問題提起している。「KILL ME KILL ME」このように一抹の希望を見出せない患者を前にして、あなたならどのような選択肢を取りますかと。名脚本家ダルトン・トランボの執念ともいえる本作には、何ら迷うことなく10点満点を差し上げたく思います。
10点(2004-09-22 10:31:10)(良:2票)
14.  僕の村は戦場だった
タルコフスキー監督による長編映画第一作。さっそくこの作品でも、物質文明とは対極にある自然界を構成する水、火、木、土などが重要な要素を占めており、これらの格調高い演出はさすがであり感心しきり。ただ、本筋に於いて必要なのかと思われるシーンがところどころ見られる。しかしそんなシーンでさえ後々まで記憶に残り、説得力を持たせるところがタルコフスキー作品の奥深さとも言えよう。この映画では、主人公イワンを演じた少年の存在がすべてであろう。少年イワンが海辺を楽しそうに走るシーンは哀し過ぎるほど美しく、いつまでも脳裡に焼き付く。ドイツ軍に対し憎悪の塊となった少年イワン。夢の合間に現われる幸せだった日々と、過酷な斥候となった現実との対比が戦争の悲劇性を浮き彫りにする。また、表面的には憎きドイツ軍という設定だが、子供というものは国家にしてみると光り輝く希望そのものであると、監督タルコフスキーは敵味方の壁を超え戦争指導者に訴えかけているようにも見受けられる。すると本作は、人間としての良心や罪の意識に問いかける痛烈な戦争批判映画とも言える。様々な解釈が出来る傑作です。
10点(2004-08-19 10:30:31)(良:3票)
15.  惑星ソラリス
人間の潜在意識を実体化させる謎の生命体ソラリス。SF的題材としては極めてベーシックなファーストコンタクトを描いている。しかしこの題材で、これほどまで深遠な哲学的作品に押し上げたSF映画はかつてあったであろうか。今は亡き愛する者への思い、駆られて止まない望郷の念 …静かな詩的映像で切々と描かれており、タルコフスキー監督の格調高い世界観が堪能出来る。ところでこの作品ほど、自然界に存在する“水”について考えさせられたことはない。(いうまでもなく“水”は、タルコフスキー作品に於いて重要なモチーフなんだが) 人体の7割は水で出来ており、人間は水によって生かされているとも言える。この“水”の詩的で神秘的な演出は群を抜いており、観る者にイマジネーションを働かせ思索的にさせてくれる。また、ラストシーンはハンマーで頭を叩かれたように衝撃的だ。ひょっとしてこれは、失われた幻影を追い続ける悲しい男の物語りで、それはタルコフスキー自身を投影しているのかもしれない。「2001年宇宙の旅」と双璧をなすSF映画の孤高の傑作といわれるだけのことはあると思います。
10点(2004-08-12 11:19:49)(良:1票)
16.  霧の中の風景
主人公の姉弟は、まだ見ぬ父を探し求めドイツに向け旅に出る。まるで幸福の“青い鳥”を見つけに旅に出る幼い子供たちのようだ。押し寄せる資本主義に飲み込まれる若者達、旅芸人一座の時代の終焉、大人のモラルの崩壊などなど…寒々とした映像も手伝い、まるでギリシャという国そのものが暗黒の時代に差しかかっているかのような印象をも受ける。主人公の姉弟も私生児だ。ラスト近く、海底から一本指の欠けた巨大な手の彫像が現われるシーンがある。現実と非現実が入り混ざり、不思議だが怖い。これは何らかのメッセージがあるのだろうか。それともアンゲロプロスのシュールな心象風景なのか。どちらにしても鮮烈な印象を放ち、脳裡に焼き付くシーンだ。《ネタバレ》ラストでは、暗闇の中、一発の銃声が響きわたる。そして絵本のようなシーンで幕が下りる。やはりこの映画、現代の寓話なのかもしれない。(かなり辛口だが) ギリシャといえばギリシャ神話やオリンピアに代表されるよう、数々の芸術や文化を生み出した歴史のある国。遠い他国ということもあり、当時の政治的、経済的背景が今ひとつ分かりかね作り手の意図するものが掴みづらい。しかしこのアンゲロプロスの独特な映像とリズムを通じ、繰り返し観たくなる傑作であることは間違いない。
10点(2004-07-24 11:02:54)
17.  世界大戦争
タイトルから分かるように第三次世界大戦という大作だが救いようのないテーマを、平均的な市民である運転手一家の視線を通じて描いています。監督は松林宗恵で、特撮はもちろん円谷英二。人間ドラマと特撮との役割分担をはっきりさせた割りには違和感のない仕上がりになっており、核ミサイルを制御する軍人達のスリリングなシーンを取り入れたりで、最後まで緊張感を持続して見れる。やはり最大の見どころは、特技監督円谷英二の集大成ともいえる精巧なミニチュアセットと特撮。今現在の視点で見るならば、時代を感じさせなくはないが(もちろん当時としては衝撃的だった)、それよりもいかに描写すべきかという発想そのものに舌を巻く。(これだけはセンスの問題であろう) 富士山の背後で閃光と共に立ち昇る巨大なキノコ雲、溶岩状の地上に僅かな原形を残す国会議事堂などなど、そら恐ろしい光景が画面に映し出される。それこそ核戦争が勃発しようものなら人類はこの様に崩壊するのだ、ということを見事描写しており、いつまでも脳裡に焼き付く。特撮という素晴らしい技術は、確かなテーマと強烈なメッセージに裏打ちされてこそ最大限に活かされるということをも、この作品では教えてくれた。「ゴジラ(54)」と双璧をなす特撮映画の傑作として、この作品を高く評価したく思います。
10点(2004-06-17 11:11:39)
18.  ゆきゆきて、神軍
ここはひとつ冷静に。奥崎謙三氏の人生哲学と行動については肯定も否定もしません。あの凄惨極まりないニューギニア戦で想像を絶する地獄を体験し、奇跡的に生き残った数少ない日本兵の一人であるわけですから。我々戦争体験のない平和な時代に生まれ育った人間には、とうてい理解出来ようはずがない。それではドキュメンタリー作品としてはどうか?…というと本作は紛うことなき傑作です。奥崎氏の激烈な人物描写も手伝い、“衝撃的”とか“ショッキング”という言葉はまさにこの作品の為にあるようなもの。終戦後23日もたってから、ニューギニアで2人の兵卒が銃殺刑に処せられるわけですが、その真相が次第に明らかにされていきます。テーマがテーマだけに、まさに固唾を飲み込むという言葉がふさわしくグイグイと引き込まれてゆく。凄惨を極めたニューギニア戦で、戦死者の肉を喰って生きながらえた日本兵が少なからずいたということは、東京裁判や帰還兵の証言でも有名な話です。《ネタバレ》しかしこの作品では、さらに一歩も二歩も突っ込んでおり、極限状態で行われた戦慄すべく真相が明らかにされようとする。当時この処刑に係った元下士官達の証言により、上層部の命令下、同胞の日本兵をも殺しその新鮮な肉を分け合ったというそら恐ろしい事実が…。もちろんまだまだグレーゾーンのままなわけですが。まぁとにかく欧米で起きた歴史的猟奇事件でさえ、かすんでしまうほどショッキングなドキュメンタリー作品でした。
10点(2004-05-30 21:57:26)
19.  ひめゆりの塔(1953)
“ひめゆり部隊”とは大平洋戦争末期、勤労奉仕と称し最前線に駆り出された沖縄師範学校女子部と第一高等女学校の生徒達のことで、負傷兵の手当てや死体運びなどに従事させられた看護部隊のこと。そのほとんどが10代半ばから19歳であり、犠牲者は教師を含み194名に上り、生き残った者はほんのわずかだったという。そんな彼女達の、最後の悲劇となる壕跡の上に建てられた慰霊碑が「ひめゆりの塔」である。大平洋戦争に於いて、夢多き学徒達が悲惨な結果をたどるという歴史的事実を取り上げた戦争映画の名作としては、関川秀雄作「きけわだつみの声」と双璧を成すものであろう。このような人間としての良心により生み出された作品に対しては、心から敬意を表さずにはいられない。原作と脚本は水木洋子で、監督は名匠今井正。当時の日本を代表する俳優陣が出演しており、津島恵子を初めノーギャラでもいいから出させて欲しいと、監督今井正のもとに直訴したというのは有名なエピソード。今井正の力強い描写はもちろんのこと、彼女達の体当たり演技がリアリティを高め強烈なメッセージを放つ。米軍戦闘機による機銃掃射に空爆。抵抗の術を持たない彼女達はただ逃げ惑うだけであり、銃弾に射抜かれたり爆撃で五体バラバラになる様は凄絶過ぎる。鬼畜米英に殺されるより、手榴弾で自決する場面は目を覆いたくなるほど悲痛である。しかし生き残った女性の証言によると、実際はこの映画の比ではなく想像を絶する地獄絵図であったという。この悲し過ぎる歴史的事実を決して忘れてはならない、と訴えかけている本作を世に出した今井正の功績は余りにも大きい。
10点(2004-03-30 11:02:32)(良:2票)
20.  切腹
重いがおもしろいという傑作時代劇です。薄気味悪い鎧かぶとが表われる冒頭から、ただならぬ雰囲気を漂わせてくれた。しかも、喰うに困ったみすぼらしい浪人者が、切腹をしたいので庭先を借してくれという着想自体がおかし過ぎて引き込まれる。みなさんがおっしゃるとおり、橋本忍の先が読めそうで読めない筋書きが抜群におもしろく秀逸。(原作は滝口康彦) 監督小林正樹の力量のある演出はもちろんのこと、武満徹の不気味だが渋みのある音楽がこの作品を独特のものに仕上げている。《ネタバレ》この映画では仲代達矢(津雲半四郎)と三國連太郎(御家老)との会話のやりとりが見どころなんですが、個人的には、石浜朗演じる千々岩求女が哀れなてん末をたどる一連のシーンが強烈でしたね。うぐいすの鳴き声が聞こえる中、「ああ、夢のようだ」から一転して奈落の底へ。無念、残念、何という哀れ。介錯人の言う「ぐいっとひけい」「ぞんぶんにひきまわされい」などブラックユーモア調の台詞廻しに加え、津雲半四郎がニッと笑みを浮かべ「明日は我が身ということもある…」の皮肉たっぷりの世迷い言が何とも妙味。また、当時の武士社会の非情さと面目を絶対視する滑稽さ、そしてお家取り潰しとなった浪人の惨めさをもきっちりと浮き彫りにするあたりは、さすが小林正樹監督らしいと思います。
10点(2004-03-22 14:59:08)(良:1票)
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