1. パッション(2004)
《ネタバレ》 グロテスクさはそのまま群集(無実の人間を殺せといった人々)の醜さが表れているのだと思った。娯楽性もなく、一般の受難劇のような小奇麗さもなく、ひたすら続く拷問は、人間ここまで酷くなれるのだ、と見せつけられているよう。一方で必死にイエスを愛するマリア。その姿を見て一瞬気の毒そうにする兵士。無理しているようにしか見えない十字架上の祈りや、最後の最後で神を恨むような発言(エリ、エリ、ラマ・アザブタニというやつ)をするキリストも含めて、人間臭い人間が描かれていた。ただハリウッド風な嘘臭い演出にはちょっとげんなり。 8点(2004-05-01 18:25:26) |
2. ドッグヴィル
《ネタバレ》 ラース・フォン・トリアー初体験だった。これは、すごい、濃い濃い。ただ、ナレーションが若干饒舌にすぎ、ぐるぐる動き回るカメラには最後まで違和感残った。このドッグヴィルは学校のクラスに似ているんじゃないだろうか。うわべだけ、気に入られようとして、お互い仲のいいように振る舞う。その関係にわずかな傲慢さ(犬の心というか)が入ると、友達は奴隷と使用人の関係にどんどん傾いていく。一人をのけ者にしてそれを排除しようとする。第9章で「雲がきれ、月の明かりが街を照らす……」のナレーションが入った場面があのセットを必然にする。最後の復讐、グレースは自分の中の犬の心が牙をむいた姿を直視する。「人間は力を持っただけの犬か?」そういう風なことが頭に浮かんだ。 余談。トムとグレースは一度は愛し合ったのだろう。しかしグレースがトムの心の中を見透かしたがために、トムの中の犬の心もまた牙をむいたのだと思う。 9点(2004-04-01 19:06:53)(良:1票) |
3. クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!栄光のヤキニクロード
《ネタバレ》 悪くない。前半から中盤にかけてはかなり笑えたが、後半だれたのがいたかった。エンディングロールは良かった。やり方は違えど、クレしん映画の根底にあるものは変わらないなぁと観ながら思った。でももっとギャグに走っても良かったかな。 6点(2004-03-27 21:00:27) |
4. ツバル
《ネタバレ》 どの登場人物も、とても愛らしく、個性的。役者、と言うよりは、本当にキャラクターと言う感じ。全編通して意外なほどコミカルで、なかなか笑えるシーンも多い。映像も、万華鏡を覗いているようにくるくる色調が変わって面白かった。ただ、この作品が一筋縄で行かないのは、盲目のおじいさんの存在。グレゴールに種明かしをされて、笑いながらテープを回したり止めたりして、亡くなってしまう。あそこからエンディングに続く流れ、新しいスタートに向かうときの希望だけではない、何とも言えない不安な気持ちになる。船から上がる黒い煙、夕日にも見える最後のショット。それでも、アントンとエヴァは双眼鏡を二人で覗き、船の心臓部にはおじいさんの象徴インペリアルの機械。3月といういい時期に観られてよかった、若さの讃歌。 9点(2004-03-20 10:12:00) |
5. 天国と地獄
《ネタバレ》 ものすごいテンポの良さ。3時間近い長さをまったく感じさせない。グイグイ引き込まれて、本当に楽しめる。作品にみなぎる緊迫感、映像の持つ温度感も凄まじい。犯人の動機をもう少し細かく描いてほしい気もしたが、面会シーンに圧倒されてしまった。後味が悪い。しかし素晴らしい映画。 9点(2004-03-13 14:36:27) |
6. 担え銃
《ネタバレ》 愛すべき木の変装のシーンもさることながら、別の兵士に届いた手紙を一緒に読んで、笑ったり驚いたりするシーン、何ともいえない切ない気持ちにさせられた。見ていたときは気が付かなかったが、全体的にかなり破天荒な展開なのは、オチがああだからかな、と思った。 8点(2004-03-12 20:42:12) |
7. 犬の生活
《ネタバレ》 何と言っても絶品なのが二人袴。抱腹絶倒必至のおかしさ。犬とのコンビやホットドッグやとのやり取りなど、笑える場面が多い。軽い気持ちで観られる一本。 9点(2004-03-12 20:32:51) |
8. ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ
《ネタバレ》 全体に漂う作為の匂い、作り物感には最後まで馴染めなかったが、その他は悪くなかった。構成も面白かった。ただ、ジャッキーの最後の台詞は、チェロ弾きの端くれとしてチェロを奪われたことの悲惨さのほうが感じられてしまって、あまり救いを感じられなかった。全編を取り巻く感情の描き方は見事。天才の孤独と、愛を求める気持ちが痛々しい。 8点(2004-03-12 20:15:53) |
9. 東京物語
《ネタバレ》 人間の汚さ、ずるさ、優しさを深く描き出した作品。淡々と進むが、ものすごい奥行きを持っていると感じた。そして、あまりに現実的で冷たさを感じるシーンと、優しくてあたたかなシーンの対比が鮮やか。最後の「日が長うなりまして」と笠智衆さんのいうシーン、空間の空き過ぎた部屋の構図が心にしみる。 10点(2004-02-22 10:54:51) |
10. アマデウス
《ネタバレ》 この話がまったくのフィクションということを考慮しても、文句なく素晴らしい作品。モーツァルト、サリエリ、神父の三人の対照がいっそう話を引き立てている。音楽を選ぶセンスも見事。レクイエム作曲のシーンはものすごい迫力。モーツァルト殺しの話を終えたときのサリエリの鼻笑い、そして「凡庸なるもののチャンピオン」という台詞が、哀しい。 10点(2004-02-22 10:45:56) |
11. 一人息子
《ネタバレ》 この映画に華やかな東京はほとんど描かれていない。煙りのあがる焼却場であったり、辺鄙なクラブであったり。東京での生活の厳しさを、母親と一緒に見る人もだんだんと感じ取っていく。後半、母親は息子が妻の着物を売って手に入れたお金を、隣家の子どものけがの治療費にやってしまうのを見る。「在郷への一番のお土産」や、信州へ帰った後の「息子も偉くなって……」という台詞に、母親の息子を誇らしく思う気持ちが現れる一方、最後の表情には本音ものぞく。さっぱりとして、奥の深い映画だった。 8点(2004-02-22 10:35:57) |
12. ミュージック・オブ・ハート
《ネタバレ》 一緒に練習した仲間が死んだり、家庭の事情でやめなければならなくなったり、それから、旦那のことだったり、そういうものをラストの成功で全部放り出してしまっているのは、なかなかリアルだと思う。のだけれど、そこに至るまで、軌道に乗り始めたら希望一色で塗りつぶされてしまっていて、実話なのにご都合主義の匂いがしたのは否めない。メリル・ストリープ演じる先生のキャラクターにそれほど感情移入できなかったからかもしれないが。それと、編集の荒さが少し目立った。ただ、全員ちゃんと楽器を演奏していたのがいい。演奏は当てレコかもしれないが、手と音が合っているから、見ていて気持が良かった。 6点(2004-01-31 06:54:48)(良:1票) |
13. クレイマー、クレイマー
《ネタバレ》 法廷のシーンの殺伐とした感じが印象的だった。そしてエレベーター。閉まって、下がっていってしまえば追い掛けていくことなどできない、そういう非情さが夫婦のすれ違いや法というものにも共通すると思った。この映画、ハッピーエンドなのだろうか。ハッピーと言うにはあまりにも切ないエンドロールの曲。そして、父からも母からも愛されてはいるが、その狭間で引き裂かれそうになる子どもにとっては、どうしようもない悲劇のように思える。所々の長回しやラストの、沈んでいくようなフェードアウトも心に残った。 9点(2004-01-31 06:39:43) |
14. 時の翼にのって ファラウェイ・ソー・クロース!
《ネタバレ》 「ベルリン・天使の詩」の続編。「ベルリン~」同様、モノクロとカラーの入り交じる不思議な映像が魅力だが、壁のなくなったベルリンはより明るく、また全体的に「普通の映画」度が強くなったように思う。それでも、前作にあった詩的な雰囲気が全て失われたわけではない(薄くなったのは確かだが)。まわりの人間や時の流れの速さに圧倒され、図らずも悪と接近してしまうカシエルの葛藤が伝わってくるよう。最後に、ダミエルとマリオンを乗せたサーカスの船が霧のかかった川(独語でFluss)を下っていく。これは前作のダミエルの台詞にあった歴史の「流れ」(同じくFluss)、霧深いけれど、モノクロのこのシーン、天使は優しく見守っている。ちょっと長さを感じたけれど、「ベルリン~」を観た人だったら、観て損はないのでは。 7点(2004-01-13 19:10:27) |
15. クラッシュ(2003)
《ネタバレ》 レース中事故に遭い、全身に大火傷を負ったレーサー太田哲也を追ったドキュメンタリー。凄まじい事故の後の壮絶なリハビリを経て……というと苦労話のようだが、主題はむしろ彼と家族との愛情に置かれる。入院中の彼のために録音した励ましのテープや、献身的な介護の様子は感動的。愛に支えられた強さ、そして最後はほのぼのして、良かった。ゆったりとしたテンポで進んでいくのもいい。 9点(2004-01-12 20:38:42) |
16. 月の光の下に
《ネタバレ》 イランはいわゆるイスラム原理主義の国だから、当然イスラムの色が濃いが、主人公の神学生にもその友達にも、それほど厳格さがないのにちょっと安心したのがまずひとつ。そして何より、考える主人公ハサンの姿が良かった。「誰も救えない」と絶望しても、絶望を理由に逃げていては、本当に何もできなくなる。それを悟ってジュージェのもとに行くハサン。神はどんな人のそばにもいるのだ、と言う優しい視線を感じた。神の存在がまず第一にある、「神の愛は母よりも深い」と言う台詞に象徴されるイスラムの考えが、日本人の価値観と合わないのが少し辛いが、なかなかの佳作。 7点(2004-01-04 06:21:28) |
17. ソナチネ(1993)
《ネタバレ》 これを観て、監督のバイク事故は、少なからず自殺を意識していたのではないか、と思ってしまった。疲れて、淋しくて、それでも弱音を吐く事の出来ない弱い男が、沖縄で幼稚な楽しい時を過ごす。「あんまり死ぬのが怖くなるとな、死にたくなっちゃうんだよ」と言う台詞に監督の気持ちが集約されている。死ぬのが怖いと思える幸福な気持ちのまま死にたい、と。女を残して自殺、なんて男の一方的なエゴであるが、エゴのない愛など薄っぺらなものだろう。心の中の深い部分でぐるぐると渦巻く心理的葛藤を、美しい画で描き出した名作。 9点(2003-12-31 10:35:55) |
18. Dolls ドールズ(2002)
《ネタバレ》 はじめて観た北野映画だった。浄瑠璃の「冥土の飛脚」の筋をよく知らないために、それとのつながりが分からないのは残念だが、それを差し引いても素晴らしい。破滅していく愛を四季に乗せて、すっとさり気なく描いてみせた監督に脱帽。こういう「空気」を持った映画が少なくなる中で、貴重な映画。死の匂いは強烈だが、極めて象徴的だ(しかもさりげない)。それがいっそう悲しい。ラストは、わずかに救いを感じた。 9点(2003-12-31 10:16:29) |
19. 影武者
《ネタバレ》 黒沢映画はそれほど数を見ていないのだが、モノクロ時代のようなムンムン、というか、どろどろした香気は薄くなったように思う。オープニングの長回しはよかったし、映像も文句ないのだが、かつてのちょっと突けばどろどろと粘液が出てくるような、そう言う熱さがなかった。特に中盤。後半は、悪くなかった。長篠のシーンも、あれはあれでいい。ただ、全体的に軽いのは残念。コッポラ、ルーカスの功罪か。それに、池辺晋一郎(音楽)はクロサワと言う感じではない。早坂文雄ならどんな音楽を付けただろうか。7.5点。 7点(2003-12-31 10:01:41) |
20. ベルリン・天使の詩
《ネタバレ》 ヴィム・ヴェンダースの作品はこれが初めてだった。一見脈絡のない人々の営みの中に見えるささやかな幸せ。「幻」ではない「歴史」の中に生きている事の素晴らしさ。ドイツ語、フランス語、英語、ユダヤ人やトルコ人、いっしょくたになったベルリン。そこで小さいけれど、確かに自分のもとにある幸福を手に入れた天使。「どんな天使も知り得ないものを知っている」という台詞が最高。 9点(2003-12-23 11:29:52) |