1. 宮廷画家ゴヤは見た
《ネタバレ》 フォアマン監督は、米国への亡命前、祖国チェコの共産党政権時の体験とスペイン異端審問が重なり、映画化を決意したと語っている。映画化の50年前の話である。15世紀頃から始まった異端諮問は、18世紀には減少していたが、教会の権威維持のためロレンソ神父の提案で強化されることになる。もっともらしい理屈で罪も無い人々が投獄される。20世紀に入り、ソ連などの共産党政権が行った反対する勢力への徹底した迫害も、基本的には同じと監督は感じていたのだろう。権力者は、体制の維持のため、ありもしない罪を作り上げていくのだと。しかも、異端諮問の責任者である神父自身は、自分が拷問にあえば簡単に言うことを変え、更に、国家の体制が変われば考え方をもかえてしまうのだ。開放の名の下に進行してきた、希望のナポレオン軍も、結局は同じ圧制を強いる独裁者の軍隊だった。共産党政権の祖国と同じではないか。200年の時を刻んで、何を人類は学んだのかという監督の静かな怒りが聞こえてくる。 [DVD(字幕)] 9点(2012-05-18 23:39:24)(良:1票) |
2. 地獄の黙示録 特別完全版
《ネタバレ》 原作というよりベースにしたと言うほうがいい「闇の奥」では、アフリカにおける帝国主義という西欧文明の欺瞞と廃退ぶりが描かれているが、映画では、半世紀以上後のアジアにおいて大国アメリカが正義の名の下に行った戦争の欺瞞と兵士の常軌を逸した精神を描いている。為政者が、自由を守る民主主義を守るといって、正義や大義を叫んでも、軍隊にとっては破壊と殺戮の手段でしかない。殺さなければ殺されるだけである。前半は戦争の狂気が圧倒的な迫力で描かれる。村を破壊しジャングルを焼き尽くす。遠くから見る者には美しく感じるほどの描き方だ。そして後半は人間の心の奥にある闇を浮き彫りにする。アメリカ兵の人間性の崩壊、フランス人入植者の屈折した言動、そして極めつけは、カーツ大佐が築いた驚愕の王国での蛮行だ。それらは、西欧的文明の常識では到底受け入れられない行為であり、観る者は、狂気の沙汰だと眉をひそめてしまうだろう。だが、反面、心のどこかで納得している自分もいることにふと気づくのだ。 [DVD(字幕)] 10点(2012-04-23 22:19:15) |
3. ザ・ローリング・ストーンズ/シャイン・ア・ライト
《ネタバレ》 あ、それからもうひとつだけ。どんな傑作でも、完璧という作品はそうあるものではないので、気になる点は必ずある。この映画でも二つほど気になる事があった。まず、キースのお腹。やはり出ている。もう歳だから仕方がない。でも、出ている。気になってずっとお腹ばかり見ていた。映画を観る前に、ある人の批評で指摘されていたことではあったが、現実を目の当たりにすると、やはり気になる。自分も出ているので、キースを批判する訳にもいかないのが、複雑な心境だ。そして、もうひとつがミックの顔のしわだ。アップで口を大きく開けると、ものすごい数のしわが画面にはっきりと映る。ティラノサウルスが口をあけたような感じだ。これも、もう歳だから仕方がないが、やはり気になる。それなら、目をつむって、音楽だけ聴いていればいいのではないか、と言う人がいるかもしれない。たしかにそのとおりだ。それなら、気にならない。しかし、想像してみたまえ。わざわざ映画館に出かけて、席に座り、目をつむっている間抜けな自分の姿を。 [映画館(字幕)] 10点(2012-04-22 22:53:45) |
4. おくりびと
《ネタバレ》 父が亡くなった時、私は一人実家で仏壇の掃除をしていて、若くして亡くなった父の弟の位牌の前に置いてある石を見つけた。その事を妻に話したら、この映画を観ることを勧められた。私の実家はこの作品の舞台と同じ山形だが、このような納棺の儀式はなく、また、石文の習慣も聞いたことが無かった。ただ、仏壇の石の意味が解ったような気がして、心が和んでいった。そして、行方不明だった主人公の父が発見され、その手のなかから石が出てきたときは、思わず、父や父の弟、そして祖父母の事が思い出され、涙が止まらなかった。どのような事情があるにせよ、子を思わない親はいない。すてられた子にとって、どんな親の言い訳も納得できるものではないが、それでも、後悔の日々を生きていく親の心情は、私には十分伝わってきた。死を扱っているが、どう生きるかを考えさせてくれた作品だ。 [DVD(邦画)] 9点(2012-04-12 22:39:07)(良:1票) |
5. 愛を読むひと
《ネタバレ》 やられた、という感じですね。「めぐり合う・・」でも確かに時代の変化と主人公達の変化をうまく絡ませて味わい深く表現していたんだけど、これは秀逸です。ケイトの演技はさすがですが、マイケルの役の二人もこの主人公の心情を旨く表現していたんじゃないかな。若いときの一途な愛と真実を知ったときの苦悩、そしてそれらの過去を体験として冷静に受け止める年齢になった時の複雑な心境と自らの家族関係を踏まえた生き方なんか、主人公の気持ちがスーと入ってくる感じでした。出所を控えて再会した時のすれ違いには、予想できた事とは言え、グッとくるもがあった。女は過去が未来へと繫がって欲しい希望を見出そうとしたけど、男にとっては過去は思い出でしかないという現実を確認することになっていまった。再会して、又何かが起こるのではという双方の気持ちに、結局は決定的な亀裂を生じるという悲劇が目の前に突きつけられたのだ。教会で賛美歌に聞き入るハンナのエピソードをもう少し掘り下げたらさらに良かったんだが、それでも、まいったなあ。 [DVD(字幕)] 10点(2010-01-10 00:06:59)(良:1票) |
6. グラン・トリノ
《ネタバレ》 鑑賞前にある批評を読んだ。「老い先短い頑固ジジイが、家族や周囲と溶け込めづにいるが、近所のマイノリティとの心の触れ合いが進んでいく。しかし、テーマは重い。甘い感動など期待しないように」。確かに甘い感動はなかったが、何とさわやかな余韻が待っていた。悲劇的は主人公の死にかかわらずこの甘い感動は何なんだ。いや、さわやかな甘い感動、じゃなくて、甘い生活と、柑橘類・・。話を本論にもどそう。主人公の隣人や黄色人種に対する言動には人種差別が垣間見える。しかし、床屋や工事現場監督との会話を聞くと決して白人至上主義の堅物ではないことに気づく。彼の人に対する感覚は、自分と他人の2種類。他人は、気に入らないと家族でも付き合わない。気に入ったら人種や性別がどうあれ付き合う。しかし、感じたままに言いたいことは言う。偏見などない。自分の気持ちにあくまでも正直なのだ。病魔に蝕まれた体はもう長くはない。危機的な状況と友人を救うためには自分は何をすべきか。正に西部劇のヒーローそのものだ。自分を貫き、友人を助け、名を残す。カッコいい。自分で主役を演じるわけだ。音楽もいい。 [映画館(字幕)] 10点(2009-05-09 22:23:07)(良:2票) |
7. 壬生義士伝
中井貴一と佐藤浩市が中心の展開で進んでいき、けっこうシリアスな緊張感で引き締まったものになりかけた途端、まず、新撰組の3人が出てきてからは2時間ドラマ時代劇スペシャルみたいになり、気を取り直して集中しようと思ったのもつかの間、三宅裕司がホームドラマにまたまた方向転換してしまった。描きたかったことは、おそらく描ききった感じはするが、脇役の重要性を軽く考えたんじゃないかな。おしい。それと、泣く場面はいいが、それを引き出す前後のシーンに工夫が足りないもんだから、泣くタイミングがつかみにくい。料理で言うと同じ味の料理を延々と食べている感覚だ。口直しや違う味を所々入れないとね。 [ビデオ(邦画)] 7点(2008-12-04 00:00:29) |
8. インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国
このシリーズは、食べ物に例えると、お子様ランチ風幕の内弁当だな。見た目は派手でも辛さやスパイスはほどほどで、大人から子供まで楽しく味わえるからだ。皆が満足したのもうなずける。それが、今度の弁当はえらく不評ではないか。賞味期限切れと思われる、古臭い素材や糸を引く材料で、熱心なリピーターから容赦のないバッシング。と言う訳で、期待せずに私も注文してみた。前の幕の内弁当とはえらく違っている。何と加齢臭まで、いや、この臭いは味わい深いぞ。古臭いと思ったのは熟成の素材だからだし、糸を引いているのはカマンベールに納豆だ。スコッチはかなりの年代ものになっている。この年になればこっちのほうが美味しい。オーナーもシェフもだてに歳をとっていない。特にケイト・ブランシェットの味付けは最高だ。 [DVD(字幕)] 9点(2008-12-01 23:29:07)(良:1票) |
9. ヴィレッジ(2004)
《ネタバレ》 この監督の作品は2度楽しめる。1回目は最後のオチを中心に楽しみ、2回目はストーリーやテーマを中心にじっくり味わう方法がお勧めだ。オチに結びつく布石の楽しみ方も同様だ。1回目は意味深な場面がどんな繋がりを持っているのか推理し、2回目は答え合わせのように謎解きを楽しむ。それはそうと、シャマランの作品と聞けば、未だに先入観を持って見る人が多いのは不幸な事だ。最初の作品が衝撃的な結末がメインとして受け止められたために、その後もエンディングが注目されてしまったが、一つのテーマを丁寧に描く手法をもっと評価すべきだろう。オチはあくまでも調味料でしかない。料理の味は左右されるが、それが全てではない。さて、今回のテーマは19世紀の農村に住む盲目の少女が現代の森林警備隊に薬をもらい恋人を助けるという話だ。オチは勿論タイムスリップかな。 [地上波(吹替)] 8点(2008-06-01 00:15:43) |
10. ALWAYS 続・三丁目の夕日
続編が前作を上回るのはめったにない。たぶん観客が勝手にイメージを持って見るからに違いない。監督の感覚と一致する人は稀と言うことなのだろう。とかく想像した展開と違うという事は、期待はずれに繋がるものだ。話を本題に戻そう。オープニングは意表をつくもので、想像した展開と違っていた。期待を上回って素晴らしい。その点、ヒロミや淳之介との話や芥川賞の展開は想像したとおりで、若干期待はずれだ。つまり、その、とにかく前作を上回ることは難しい。 [DVD(邦画)] 8点(2008-05-25 22:21:37) |
11. 椿三十郎(2007)
時代劇特有の緊張感がありながら、笑える部分もあり、織田の演技も両方兼ね備えていた。コミカルな部分が多いと、緊張感が無くなってしまうものだが、室戸役の豊悦がそこをカバーしていた点が大きい。角川作品にしてはなかなかの出来。エンターテイメントに徹する姿勢は評価できる。演出も良いのだが、なんと言っても脚本だろう。菊島、小国、黒澤とかいう3人組らしいが、邦画にも期待できる人材がいるようだ。こいつらの次回作が楽しみである。 [DVD(邦画)] 8点(2008-05-25 14:43:44) |
12. ブラック・ダリア
《ネタバレ》 最初は、代役の監督だし、「LAコンフィデンシャル」パート2を作ればいいんだろう、ぐらいの気持ちで撮り出したんだ。ところが、有名な俳優はいないわ、某女優を美女にしなければならないわで、いいかげん嫌気が出てきた所で、題材が猟奇殺人事件だと気がついたんだ。もう半分くらい撮り終えてるし、前半はそのまま使おう。でも、そうと解ったからにはヒッチコックしかないし、不気味な雰囲気も工夫したよ。転落シーンなんか満足だったな。全体的に見て、複雑でまとまっていない?だからDVDに人物相関図を入れたんだよ。って、監督が言っているような作品だ。 [DVD(字幕)] 8点(2008-05-05 13:12:13) |
13. ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム
米国でベスト1のロックの名曲は「ライク・ア・ローリングストーン」らしい。ストーンズもツアーで歌っていた。そう考えると、この名曲の誕生と評価を追ったドキュメンタリーという側面がある。また、当然、一人の歌手を通じた米国のポピュラー音楽史という見方もできる。彼の音楽や生き方自体が文化として評価されていることからすると自然にそうなる。ただ、スコセッシの意図はもう少しディランの心の内面に向いていたようだ。ディランの考えと世間の評価やファンの思いが違う方向へ進んでいく様子が描かれる。市民運動のリーダーになろうとしたのでもなく、世界に平和のメッセージを届けようとしたのでもない。ディランは自分の考えで自分の人生を切り開いていったのだ。戦いの日々。挫折と栄光。そして孤独。何よりスコセッシのこの言葉が全てを語っている。「彼が選んできたのは、自分自身であること、そしてもう少し成長した後では、自分自身からより多くをひきだせるかどうか、挑戦し続けることだった。」 [CS・衛星(字幕)] 10点(2008-05-03 15:08:24) |
14. アマデウス ディレクターズカット
世界三大悪女と言われている妻のコンスタンツェであるが、確かに、浪費家で家事をせずモーツアルトの父親にもたてつく様子が描かれている。もっとも、いまどき珍しくもないので、このくらいでは、いささか拍子抜けの感じもする。最近発見されたコンスタンツェの写真ですが、面長でエリザベス・ベリッジとは違っています。よく見る肖像画は若い頃のものなのですが、老女の頃の写真と似ていなくも無い。さて、映画は完璧です。音楽との関係も完璧。エイブラハムの演技も完璧ということで、少々長いがこっちを見るべきでしょうね。劇場公開版は後半を短縮しすぎです。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2008-02-17 21:40:35) |
15. チャーリーとチョコレート工場
むかし、むかし、某お菓子メーカー創業時のお話。今では看板キャラクターのモデルとなったのはこんな変わった社長だった。少し痩せてたけど、おかっぱ頭はそっくり。そう、何を隠そう不二家とペコちゃんのお話です。 [地上波(吹替)] 7点(2008-01-19 00:03:33) |
16. オーシャンズ12
盛り上がりに欠ける展開は、前作を踏襲しつつも、洒落と粋を追求している姿勢は、舞台がヨーロッパなもんで、道具や場所に頼り過ぎている印象。ふんわりした雰囲気の中で、唯一、うなってしまったのは、何と言っても、ジュリア・ロバーツのそっくりさん。CG無しならすごい。本物みたいだ。 [DVD(字幕)] 7点(2007-12-27 23:30:21)(笑:1票) |
17. フラガール
「遠い空の向こうに」と「リトル・ダンサー」だと言う批判もわかる。確かに、何か見たことあるなあと思ったら、っていう気持ちになるなら、そういう作品が出るだろうな。でもねえ、そういう観点で批判するなら何か忘れてませんか?そうです。「ブラス」ですねえ。炭鉱に音楽だし、だいたい題名でわからない?かぶっているでしょう「ブラガール」。 [地上波(邦画)] 7点(2007-10-07 23:57:44) |
18. グッバイ、レーニン!
《ネタバレ》 嘘も使いようによっては、薬になるばかりでなく、人を幸福にする。愛する肉親の精神的な安定と安らかな死への旅立ちのためなら、歴史さえも変えることは苦にしない。何と言うメルヘンだろう。何と言う愛だろう。ついでに理想の世界を描いてみよう。わかる、俺もそうするだろう。想定外のハプニングにも臨機応変に対処する心意気が泣かせる。どんな事があっても、ごめん、実は・・・なんて死んでも言わない。父親が協力した場面は、さすがに笑ったが。嘘でも言い続ければほんとになる。夢もあきらめなければ実現する。全てが母親への愛なのだ。 [DVD(字幕)] 8点(2007-09-07 23:41:34) |
19. プラダを着た悪魔
これは異文化コミュニケーションですね。自分が興味ない物を軽蔑する傾向にあるのは皆同じ。文学志向の才女が、ファッション界のあこがれの職場に就職するところは無理があったんですが、そこに染まらず、軽蔑していた文化を認める過程は共感をもてました。そう、食わず嫌いは良くないです。偏見だけでは何も解決しない。文化として残っている、と言うか繁栄しているものの奥は深い。無造作に着ているセーターの青の色にも、ファッション界の歴史と文化の価値を語るミランダは魅力的だ。彼女が、仕事と家庭の種類の違う難題に苦悩する演技はなかなか味があって良かった。最近稀に見る名演技ですね。面接先への推薦の言葉は、異文化の価値を認めた大人の対応だ。文学の世界がどんなもんか知らないが、彼女の価値を認めないなら許さないよ。そういうもんだろうな、見直したよ、メリル。 [DVD(吹替)] 8点(2007-07-09 00:22:51)(良:1票) |
20. デジャヴ(2006)
《ネタバレ》 先入観から心理サスペンス的な作品を期待していた分、やや肩透かしでしたが、それでも、所々に張り巡らされた伏線は、ストーリーの進展とともに、納得と心地よい衝撃になっていき、謎解きに似た緊張感を感じた。特に、過去と現在の繋がりをカーチェイスの場面でダブらせる設定は見事で、死体で登場したクレアが助かる過程も無理なく受け入れられる。まあ、唯一納得できないのは、最後に車とともに爆発したダグが、何食わぬ顔で現れたことだ。しかも、クレアと初めて会ったようによそよそしい態度だし。 [映画館(字幕)] 7点(2007-03-27 22:44:36) |