1. ダウンサイズ
《ネタバレ》 人間を縮小するというキテレツな設定ゆえに、配給会社は「おバカ・コメディ」を装って 宣伝してましたが、ぜんぜん違います。 そもそもアリエッティのスペクタクルを期待してはいけない。ビジュアル的な面白さを狙ってる作品ではないという事を、使用上(鑑賞上)の注意として明記したい。ピンポーン! 構造としてはビルドゥングスロマン(教養小説)的に見えるのですよね。時代の流れとともに産業構造、経済状況、人口動態、価値観、ライフスタイル・・・等々、モロモロの変化によって都市部の人間たちは青少年期がぐぐーっと延びて、いつまでも「成熟しない」万年青年が増えたんだろうと。だからイイ年して自分を見失っちゃう“ミッドライフ・クライシス”なんてことに陥る。だから、中年のおじさんが主人公の「成長物語」(教養小説)が成立する。 フツーの男が、なんとなく鬱々として、悩んで、悪あがきして、そんな中で、「自分の強みを生かしながら、今の自分のままで生きていけばいいよね」ってちょこっとブレイクスルーを果たす。・・・まぁ、アメリカ人にはウケないだろうな(笑)。 クリストフ・ヴァルツがフランス人をやってるってのも可笑しくて堪らない。ずっとフランス語なまりの英語しゃべってる。小人になって荒稼ぎしてるC・ヴァルツが「ここ(ミニサイズの社会)は西部開拓時代だよ」って言うのも面白い。従来の世界では、すでに搾取できる「辺境」が無くなってしまったが、小人の世界は新たなる辺境(ニューフロンティア)を出現させたと言う事か。 主人公は、このフランス人と仲良くしつつも、偶然出会ったベトナム人女性を通して、社会の底辺で生きる人々のことも知る。桃源郷のように謳われてたミニの世界でも格差社会は厳然として存在していたのだ。やがて、彼女が身を投じている社会奉仕活動を手伝うようになった主人公は、また、更なる旅と出会いによって自己変革を遂げていく。 うーむ、こうやってプロットを書いていくとホントに生真面目なハナシだねー(笑)。この辛気臭いナイーヴさは万人ウケしないでしょうなぁ。とほほ。 最後のトンネルなんて、すごくイイんですけどね。「未知との遭遇」(1977)のラストに近い感慨が。 [DVD(字幕)] 8点(2018-07-09 19:57:08) |
2. シェイプ・オブ・ウォーター
《ネタバレ》 「パンズ・ラビリンス」のギルレモ・デル・トロ監督らしい、ちょっとダークな「美女と野獣」の物語。 お姫様が王子様に出会って結ばれました、という“王道の”ラブストーリーですが、王子様は別に呪いにかかってる訳でもなく異形の半魚人(?)で、お姫様も若く美しい娘ではない。この辺のアンチ具合が評価の分かれるところか。 囚われの姫を王子が助けるのではなく、逆にヒロインが、さかなクンを助けるのが現代的でよろしいのではないでしょか。^^ 途中までは、「出会ってすぐ当たり前のように恋に落ちる2人」という流れが簡単すぎて腑に落ちなかったのだけど、ラストで彼女の素性が明らかになる。なるほど、イライザ(サリー・ホーキンス)はもともと水の国の人だったと。(首の傷は鰓(エラ)で、喋れなかったのは発声器官がなかったから)そこに同郷人が現れ、本能的に通じるものがあった・・・ってことかな。そして、最後は一緒に故郷に帰る。「帰還の物語」でもあったんですね。 心地よい場所。本当の自分になれる場所。愛する人と一緒に過ごせる場所。そこに還る・・・。 そういう物語は「癒し」の力を持っている気がする。 [DVD(字幕)] 7点(2018-07-02 10:36:37)(良:3票) |
3. ザ・サークル
《ネタバレ》 前半はわりと面白かったですね。この「サークル」なる会社の様子がかなり異様で。ちょっと新興宗教団体っぽいというか、仕事以外の時間も会社のアクティビティやらイベントに参加を強要されるなんて、いくらお給料がよくても就労環境的にはブラックの匂いがします。 最初はそういうのに馴染めなかったヒロインが、覚醒して会社の広告塔みたいに活躍していくところから、だんだんオハナシが緩んでくる。 「私生活、全部公開します!」なんて、今の時代、何てことない気が。他人の生活を覗き見する“見世物”は20年前すでに「トゥルーマンショー」でやってるし。まぁ、そこはこのオハナシの見どころではないとしても、ネットと大衆の狂気、ネットの政治利用や巨大企業と政府の癒着あたりの話ってわりと「ありがちな話」のような気がするのですね。その手のフィクションは沢山ありそう。 で、結局、そこもこのオハナシが掘り下げたかったテーマではなかったらしく(苦笑)、結論は「私たちって今、こんな社会に生きてるのよね~」っていうボンヤリとした不安?いわゆるユビキタス社会の危険性をサラっと描いてみました、ぐらいの話。 ただ、この間のフェイスブックのデータ漏洩なんて、まさにビッグデータの政治利用にITジャイアント(大企業)が絡んでたって話で(協力した訳ではないが)、タイムリーっちゃあタイムリー。 そう、きっと本気で切り込んだらスキャンダラスな問題作になるネタなのかもしれません。でも、きっと大人の事情で出来ないのかも・・・?(笑) [DVD(字幕)] 6点(2018-05-05 17:34:22) |
4. はじまりのうた
《ネタバレ》 「落ちぶれた中年男がミューズ(女神)に出会って再起する」・・・なんてありがちな「オヤジの再生物語」かと思いきや、さにあらず。予告篇から想像してたのは、落ちぶれた音楽プロデューサー(マーク・ラファロ)が、グレタ(キーラ・ナイトレイ)という原石を見つけて彼女と二人三脚で栄光をつかみ取る・・・ってなサクセス・ストーリー。そこに、ちょっと恋愛が絡みーの、みたいな物語かと思ってたが、いい意味で裏切られた。 音楽を愛すること。音楽を作ること。そして音楽を仕事にして稼ぐこと。この3つを見事にこなせるのは才能と運に恵まれた一握りの人間しかいない。この物語の中ではデイヴ(アダム・レヴィーン)がそう。グレタは才能があって素晴らしい音楽を作り上げることができるが、歌の実力はそれほどでもないから、たぶん成功しない・・・というか持続しない。ゲリラ・レコーディングという企画は一発屋で終わるだろう。レーベルとの契約を前に、「次はヨーロッパ篇を」と夢を語るグレタに対し、ダンが複雑な表情を浮かべているのは、そういうことだと思う。 そして、ダンもまた音楽をビジネスとして成功できる人間ではないのだと思う。レーベル設立までは良かったけれど、たぶんその後の成功は相棒のサウル(モス・デフ)に依るところが大きかったんじゃないか。ダンと出会ったばかりのグレタが、彼の経歴をスマホ検索した時に「90年代ヒップホップを牽引」って出てきてビックリした。え、この人が求めてる音楽とぜんぜん違うじゃんって。彼がビジネスとして成功できたのは、きっとそこまで。自分の好きな音楽ではなく、時代が求めている音楽に迎合した時にはヒットを飛ばせた。でも、ここ数年はずっと「本当に自分が心酔できる音楽」を追い求めていたのだろう。そして、それは仕事としては成り立たなかったのだ。 そんな2人が、奇跡的に出会って、お互いに心から楽しめる「音楽」を作り上げた。バーで好きなアーティストについて熱く語り合い、互いの内面をさらけ出すようにプレイリストを聴き合い、街の雑踏の中で即興的にセッションをし、「生」の音を録音する。(これ、映画で言ったらヌーヴェル・ヴァーグだわな)まるでお祭のようなひととき。一瞬で消えていく花火みたいな、はかない輝き・・・。そうして、現実に帰っていくという物語。うーん、切ない。 ダンは言う。「音楽はありふれた風景を光輝く真珠に変えてくれる」と。そして「年をとるとだんだんこの真珠が見えなくなる」と。これは、本当に真実だなーと、ダンよりさらに年を重ねた自分は思う。この作品は、そんな自分にも真珠の輝きを一瞬、見せてくれた。 [DVD(字幕)] 9点(2017-08-04 19:03:25)(良:2票) |
5. 白い帽子の女
《ネタバレ》 (思いっきりネタバレです) オープンカーが田舎道を走っている。バックに流れるのはフレンチ・ポップス調のショパン。この70年代の匂いがプンプンするオープニングに、昭和な自分はガツンとやられた(笑)。 ハンドル片手に走りながら、旦那(ブラピ)は煙草をくわえシガーソケットで火をつけようとするが、点かない。そこでダッシュボードに手を伸ばしてガッと開けると乱暴にひっかき回してライターを探す。この時、妻(アンジー)の方をチラッと見る。黙って見てないで探せよ・・・っていうイラつきオーラ全開。シラッと見返す妻。この短いシークエンスで、この夫婦の不仲が分かる。 ホテルに着いてからも、ずっとヒリヒリムードの2人。妻が外したサングラスをポンとテーブルに置いて、レンズが下向きになってるのが旦那には耐えられないらしく。レンズが傷つくからか?いちいち置きなおす。これ3回くらいやってたな。 こんな“倦怠期ど真ん中”の2人が、南仏のリゾートホテルで過ごすヴァカンス。スランプで酒浸りの作家と、常に不機嫌な妻。けっして面白いオハナシではない。でも、夫婦がいかに愛の炎を消さずに共に生きていけるか?っていうのはけっこう普遍的なテーマ。身につまされます(笑)。 で、隣の部屋に新婚旅行の若夫婦がやってきた事から物語が動き出す。壁に覗き穴を見つけた妻が、つい好奇心にかられ覗き見する。やがて旦那もその穴に気づき、夫婦2人で「秘密」を共有することで不思議な連帯感が生まれ、またトーゼン刺激にもなって(苦笑)夫婦の関係が徐々に修復されていく。 海辺のホテルではいつも波の音が聞こえ、寄せては返す波の運動は永遠に続く日常を思わされる。「海辺にて」というオリジナル・タイトルには、そんな「日常を繰り返す」夫婦の歩み、という意味もあるかもしれない。 旦那がいつも飲みに行くパブレストランの親父が素敵だ。父親のようにブラピの話し相手になり、「愛してやれよ」と助言を与える。この親父さんが亡き妻の写真を愛おしそうに眺める姿に、旦那も胸を衝かれ、妻を愛そうとする。朝の光の中にいる美しい妻の立ち姿をベッドの中から眺めている時のブラピは、少しだけ幸せそうに見えた。そう、この旦那はいつも妻を見ている。一方的に。悲しそうに。 最初は旦那のほうが冷めてしまったのかと思っていたが、心を閉ざしていたのは妻だった。そこには理由があるのだけど、どんな理由があるにせよ、夫婦が2人で一緒にやっていくと決めたのなら、前を向いて助け合って生きていったほうがいい。憎みあい拒絶し続けるのなら一緒にいる意味はない。旦那が言う「クソッタレな生き方はやめよう」って、そういう事だと思う。 最初のほうに書いたサングラスの隠喩は、もしかしたら、傷つきやすい妻を守る意味だったのかもしれない。傷がつかないようにそっと置き直す、あれは旦那の愛だったのかも。 いろんな意味で、隣の若夫婦は気の毒というか、とんだ災難だったねって感じなんだけど、一応、まるっと収まって最後はオープニングと同じオープンカーの2人。またもやショパンのプレリュード4番が切なく響き、寄せては返す波のごとく・・・繰り返し。この曲、メロディーはほとんど同じ音型の繰り返しで、伴奏だけ半音ずつ変わっていく。これが少しずつ変化していった2人のよう。カタストロフのようなクライマックスを奏でるとまた元のテーマに戻って・・・。メランコリックな旋律がこの物語にピッタリ! で、夫婦の姿はオープニングとは明らかに違う。お互いにチラチラっと顔を見合い、アンジーがブラピの腕を優しくなで、妻が夫を見るカットで終わる。 なかなか味わいのあるドラマでした。 [インターネット(字幕)] 7点(2017-08-01 15:45:14)(良:1票) |
6. きみがぼくを見つけた日
《ネタバレ》 (すみません、思いっきりネタバレです。未見の方はお読みにならない方がいいかも) タイムトラベルというSF要素を取り入れたラブストーリー・・・なんだけど、そもそも基点がどこにあるのか分からないので、ヘンリーとクレアが恋に落ちる瞬間が分からん。お互いに“真っ白”な状態で出会う時がないんだもの。幼いクレアが恋心を抱くのは未来からやってきたヘンリーだし、青年のヘンリーが誘惑(?)されるのは未来の自分を知ってるクレアだし。ま、いいや、この辺はあんまり考えるのはよそう。 にしてもだ。幼女の時から目つけられて(違うか)、ちょこちょこやってきては大人の男の魅力を見せつけて、ファーストキスも奪って、おかげで彼女はずっと彼氏も作らずにヘンリー一筋だった訳で(青年のヘンリーと付き合い出したときに友達が「初カレ」って言ってたもんね)。で、晴れて結婚しても相変わらずちょいちょいトラベルしちゃう病気(?)は治まらず、クリスマスも新年も一人ぼっち。おまけに妊娠すれば遺伝子を受け継いだ胎児はお腹の中でタイムトラベルして流産。えげつな~。なんだかんだで2人はすれ違い、心が離れかけた時に彼女を慰めるのは過去からやってきた若い時のヘンリー。「浮気じゃないわよ」って、え、そうなのか?で、彼は亡くなった後もときどき過去から飛んでくる。 これって、どうなんですか。クレアは幼い時からず~っとヘンリーという男一人のためだけに生き、心が揺らいだり喪失感を覚える時にも、それを充足するのはヘンリーただ一人なのだ。それは彼が亡くなった後も変わらない。こんなにも「閉じた」世界で生きる女性が果たして幸せなのかどうかと、最後まで心が晴れなかった。同様にエリック・バナの中途半端に伸びた後ろ髪も最後まで気になって仕方なかった。体操の内村選手の後ろ髪も長くていつも気になっていた。最近は短くなったのでちょっと気分がいい。 [DVD(字幕)] 6点(2017-08-01 10:11:15)(良:1票) |
7. きみがくれた未来
《ネタバレ》 年若いイケメンにさして興味のない自分はザック・エフロンにも萌えないんですけど、こういう正統派アイドルって良いですね。良くも悪くも作品をその人色に染めてしまうオーラがある。スクリーン上で輝くスターの存在は訳も分からずありがたい気持ちにさせられ、思わず手を合わせて拝みたくなりますな。「ご来光」感覚? 物語の前半で私は「普通の人々」(80)を思い出していたのですが、家族の一員を事故で亡くした家族がその悲しみから立ち直れず崩壊していく様を真摯に見つめていたアチラの作品に比べると、こっちはずいぶんと軽い。墓守の隠遁生活を送る主人公を、街の人たちは「頭がおかしくなった」と噂するのだけど、いやいや、ぜんぜん爽やかな好青年ですよ、「壊れた感」は微塵もありません(苦笑)。この辺ですでに、この映画は本来の物語とは別物になっちゃってるんじゃないかと思う。原作と比べて主人公はずいぶん若いみたいで、世捨て人歴がぜんぜん浅くて青春期の回り道程度の蹉跌。それに加えてザック・エフロンですもん。そりゃもう輝かしい未来が待ってない訳がない。だってザック・エフロンだもん。(理屈になってない) 途中の展開が意外で、なかなか技アリな転調ですが、あとはもう思った通りに気持ち良く話は進んでいく。キム・ベイシンガーとレイ・リオッタの無駄遣いもアイドル映画らしい。2人とも自分の子供のためにこんな端役を引き受けたって言うんだから、どんな「お土産目当て仕事」なんだか。 休日に家族で観るのが調度いいって感じの作品ですね。心がぬるめに温まります。 [DVD(字幕)] 6点(2017-08-01 09:52:58)(良:1票) |
8. ぼくの美しい人だから
《ネタバレ》 アルヴィン・サージェントが脚本を書いているということで、観てみました。 年の差&身分差カップルの恋愛。お互いに心に傷を持つ者同士が惹かれあった・・・出会いのきっかけはそうだけど、結局のところ、この2人を強烈に結びつけているのは「体」。どうなんでしょうか、私は汚れきった大人なので、そういうのもアリと思えてしまう。逆に小賢しい理性だとか意識だとかを超えたところで「離れられない」というのが、真実のようにも思え。 脚本、やっぱりイイですね。彼の想いがホンモノかどうか測りかねたノーラ(スーザン・サランドン)の一言。「これからどうしたいの?私は気が向いたときに箱から取り出すオモチャなの?」 うえ~ん。切なすぎ。 初めて出会った夜、酔って車をぶつけてしまったマックス(ジェームズ・スペイダー)。ヘッドライトの片方が壊れてしまうのですが、ず~っとそのまんまにしてる。思うに、このとき彼自身も壊れたのだ。壊れたというのは、社会に対して繕ってきた表向きの自分が一部崩れたということ。そして、そのことが彼自身も心地良かったから直さないでずっとそのままにしておいた。所詮自分とは不釣合いな女、一晩限りの相手、としてすぐに忘れて元のスノッブな環境に帰るのが賢明なのに、そうはしなかった。できなかった。 ところが、最後に去って行った彼女を迎えに行くとき、彼はずっと放っておいたそのヘッドライトを直すのですよ。シーンはほんの数秒で流れてしまって分かりにくいのですが、ここはものすごく重要な絵。だってそこは、彼がノーラを選ぶことを世間に表明する決意を表わしているから。それまでは彼女のことを恥じていたマックス。なんで彼女に惹かれてしまうのだろう、これは本当の自分ではない、と心のどこかで思っていたんでしょう。だから、あのヘッドライトの壊れた車は「今のボクは壊れています」という世間に対する言い訳だった。でも、もう、違う。彼は自分自身を変えたのだ。生きる道を新たにし、ノーラを選んだ今の自分こそが本当の自分。世間に対しても堂々とそう言えるようになった彼だからこそ、あそこでヘッドライトを直したんだと思う。 現実にはこんなこと起こりっこない。一時の情熱でくっついても長続きはしない・・・と思えてしまう。でも、だからこそ、映画の中で夢を見たいワタクシは拍手喝采なのでした。ついでに言えば、自分もノーラと同じワーキングプアの部類だし。現実はしょっぱいです。でも、まぁ、もろもろ小さな幸せがあるので大丈夫ですけどね。映画も小さな幸せのうちの1つ。こういう素敵な作品に巡り合えることが幸せ。 [DVD(字幕)] 8点(2017-07-31 21:13:41) |
9. 恋人はセックス依存症
《ネタバレ》 ずいぶん生真面目な映画だなぁと思ったら監督さんは「キッズ・オールライト」(2010)の脚本を書いた方なんですね。う~む、とっても論理的な人って気がする、この人。 それにしても世の中どんどん複雑になっていくもんだ。セックス依存症ってなんじゃらほい(笑)。まぁ、現実に悩み苦しんでいる患者さんがいるのでしょう。この映画はそんな人々を決して奇異な目ではなく、真摯に見つめていて好感が持てる。 「キッズ・オールライト」もそうだったけど、マイノリティ(と呼ばれる人々)の生きる姿をそれ以上でもそれ以下でもない「普通の」人々として描いているのが良いと思う。 主人公は、セックス依存症と闘っているアダム。大好きなマーク・ラファロが演じているので、おばさん複雑な思い(苦笑)。でも、もう何年もセラピーに通い、ずっと依存を断ち切って禁欲生活を続けているので、セラピーグループの中ではエリート的な存在。それにしても、こんな理知的な男性がねーと不思議に思ってしまう。この人なんか別に性犯罪に走るでもないし、きちんと仕事もしてて一体何が問題なんだろう?と逆に疑問。女遊びが激しいのはビョーキなのか?(笑) で、彼が出会う女性フィービー(グウィネス・パルトロウ)はものすごく健康的。毎日運動して食事制限して、何と言うかもう「節制」の鬼。友人宅のディナーに招待された時も、主人がサーブしてくれてる側から「そんなに食べないから!自分でやるわ!」と言い放ってしまう女性。この辺の描写がなかなか考えさせられる。健康ってなに?病気ってなに? フィービーという女性も「健康であらねば」という脅迫観念にとりつかれてるように私には見える。 要は、誰もが完璧じゃないけど、それでも自分がそうありたいと願う自分に少しでも近づこうと努力する姿は尊いよね、ってそんな話。長い間「欲望」を押さえ込んできていても何かのきっかけで決壊してしまう、依存症の恐ろしさが良く分かるのだけど、こういうのって文化的な背景の影響も大きいような気がします。欲望を断罪するキリスト教的な価値観がベースにあって、それなのに欲望を喚起する情報やサービスが氾濫してるからビョーキになっちゃうんじゃないかな~、なんて。マッチポンプ的というか。 お菓子の袋を開けると途中でやめられなくなって、最後の方は大して美味しいとも思わずに食べきってしまう自分なんか、ホント自制心のない奴なので、ちょっと身につまされました(苦笑)。 [DVD(字幕)] 6点(2017-07-31 19:08:05) |
10. ニュー・ワールド
《ネタバレ》 テレンス・マリックという人は、映画において題材となっている「事象」や「人間ドラマ」を描こうとしているとはどうしても思えない。もちろん、それについて語ってはいるが、また決してそこの語りが疎かにはなっていないし、むしろ丁寧に描かれているのも事実だが、私にはそこが主眼とはどうしても思えない。『地獄の逃避行』と『天国の日々』については、もう記憶がおぼろげなので何とも言えないが、少なくとも『シン・レッド・ライン』は“戦争”を描いた作品とは思えなかった。この世に生けるすべてのものは、同じ魂を源とする表象の現れであるというショーペンハウエル的な世界観が主題であると、私には思えた。そして『ツリー・オブ・ライフ』に至っては、もう、家族の物語だけに収まっていないのは誰の目にも明白。 さて、本作『ニューワールド』では、17世紀初頭のヴァージニア入植を背景に、先住民の王女ポカホンタスとイギリス人男性ジョン・スミス、ジョン・ロルフの3人による純愛物語が題材になっている。この「物語」は確かに心に響くもので、特に恋するポカホンタスの姿は感動的だ。「この恋は過ちなのか?」と自問するも即座に「もう考えるのはやめよう。私は満たされている」ときっぱり自分の心に向き合う。この若々しさと凛々しさ。結局はスミスに捨てられる彼女だが、そんな傷心の彼女を愛する男性が現れ結婚する。やがて、死んだと思っていたスミスが生きていたことが分かり動揺するポカホンタスだったが、再会の後、夫の愛を選ぶ。迷いを捨てて夫の腕をとり真っ直ぐに彼を見つめる彼女の目には一点の曇りもない。なんて素敵な女性だろう。 このドラマだけでも確かに素晴らしいのだが、やはりこの映画は「物語」の枠に収まらないもっと大きなものを感じるし、そこを感じてほしいと言われているように思えてならない。人間も自然もすべてを包含する世界があることの不思議と、そこに生かされていることの奇跡…。上手く表現できないが、時間的にも空間的にも途方もない大きな存在があり、この映画はその世界の断片をすくいとって見せてくれた感がある。一つとして駄ショット(?)がないと思えるほど美しい画(え)と、この言い方が適切か分からないが緻密に計算された編集によるフィルムの“息遣い”、これらを味わうように受けとめることで、自分自身も世界に抱かれる。何よりもラスト・カット。風に揺れる大樹の枝葉をカメラは息をひそめるようにして見上げている。彼女の物語は幕を閉じたが、世界は今もなお、ここに、こうして、在る。そう語りかけられた気がして、涙がこぼれた。 こんな映画にはそうそう出会えないと思う。 [DVD(字幕)] 10点(2017-07-30 14:23:24) |
11. ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン
《ネタバレ》 アカデミー脚本賞にノミネートされたのも頷ける力作コメディ。「力作」と言ったのは、ちょっと力入り過ぎって意味も込めて。 内容は馬鹿馬鹿しくも、女性にとってはなかなか痛いところを突いていて興味深い。主人公の親友が結婚することになり、その「仕切り役」をめぐって女同士が張り合うってオハナシ。この「女のバトル」が辛辣で描写もしつこくて(苦笑)、アニー(クリスティン・ウィグ)の「イタさ」が見ていられない。この辺の「女の嫉妬」の描き方が上手いと思う。仕事も恋愛も失敗してドン底にいるアニーが、金持ちで美人でナイスな人柄のヘレン(ローズ・バーン)みたいな女を前にすると、惨めな思いになってしまうのはすごーく分かる。ヘレンは素敵なスピーチやセレブならではの取り計らいで、アニーの親友リリアンの心をグイグイ掴んでいく。そんなん目の当たりにしたら、「何もない私から親友の座まで奪うわけ?何でも持ってるアンタが?」っとアニーが怒り狂っちゃうのもよーく分かる。まぁ、その怒り方が尋常じゃないんだけど(苦笑)。「親友」ってね、なんか善人の必須アイテムみたいなとこあるじゃないですか。信頼しあえる友がいるってことが自分の人間性の担保になるというか、人としての価値を高めてくれる(気がしてしまう)というか。 私がこの脚本で感心したのは、ヘレンがとことん嫌な女ではないってところ。凡百のコメディならヒールはまるっきりのヒールだけど、このドラマはもっとリアリティがある。こういう女性っているよな~って感じのセレブ・マダムで、気配り上手で親切なのは別に無理して取繕ってる訳じゃなくて、ヘレンみたいな人はプライドが高くて向上心も人一倍あって自分を高めるための努力を惜しまないから、理想的な女性像を体現することを心から楽しんでやってるのだ(たぶん)。だから何も非難すべき点はない。だけど、なんか自分の人生うまくいかないよなって、しょっぱい思いで生きてるド庶民からしたら、どーにも気に食わない女。きっと高校時代はチアリーダーでプロム・クイーンに選ばれてたんだろうね。彼氏は運動部のホープで推薦で名門大学に行ったんだろうね。(妄想爆走中) アニーのような子はきっと、こういうメインストリームにいる人たちを「けっ」って斜めに見てたはず。ヘレンと初めて会った日の帰り道、車のなかで彼女の口吻をマネして溜飲を下げてるアニーを見て、「分かる、分かるぅ~」とシンパシーを覚えた自分でありました。私もマージナルなイケてない組だったもの。「桐島~」で映画撮ってる方の側だったもの・・・嗚呼。 ・・・横道それたので戻します。 そんなダメダメなヒロインですが、まぁ主役ですから、ちゃんと救われますよ。この新しい恋のエピソードはとっても楽しい。コントみたいな面白シーンいっぱい。ただ、彼女自身の「自己実現」ってところは、他の方のレビューにもありましたが、中途半端に放り投げられちゃってて惜しい。あとは、汚物ネタ、エロネタのオンパレードですが、あちらではお約束のようだから生暖かく見逃すしかないですね。海千山千のおばちゃんは、なんとも思いません。 [DVD(字幕)] 8点(2017-07-30 11:21:09)(良:2票) |
12. 彼女はパートタイムトラベラー
《ネタバレ》 人はみな、自分の人生には意味があると思いたい。自分が生きてきたこと、やってきたことを誰かに認めてほしい、そう願うもんなんじゃないだろうか。 「とある任務」を果たすために過去に戻ろうとしている男と、彼が出した「過去への同行者募集」広告に応募してきた女。女は雑誌社のインターン学生で、この広告主を取材するためにやってきたのだが、この変わり者の男と共に行動するうちに、だんだん彼に惹かれていく。 タイムトラベルというSF世界の話でありながら、やってることは野山を駆け回っての基礎訓練だの研究所に忍び込んでの材料集めだのって、“日常生活”の延長線上が延々と続く。 まぁタイムトラベルはマクガフィンで、メインは風変わりなラブストーリーの方なんでしょう。でも、この「男の純情」はなかなか泣かせるし、コイツは単なる妄想狂なのか?ってハラハラさせられて、最後に見事なカタルシスを与えてくれる脚本には感心した。ラストは、ひゃっほー!です。 思うに、これって別に一人で行けばいいじゃんって話を、わざわざパートナーを探すのがミソで、やっぱり彼はね、自分がやってることを誰かに理解してほしいって願いがあったんじゃないかと思う。「自分だけが真実を知っている」なんて、恐ろしく孤独なことですからね。 このナイーヴな世界感がヘタレな自分にはツボでした。 [DVD(字幕)] 8点(2017-07-29 13:11:52) |
13. キス&キル
《ネタバレ》 よく似た「ナイト&デイ」(2010)があんなに楽しかったのに、なんでコレはそうでもなかったんだろうと考えてみたら、描写が生生しいのですね。シニカルな笑いを狙ったのかもしれませんが、そうなるとお伽噺(=極上のフィクション)にはなり得ない。フィクションに酔うことが出来ずに冷めた目で観ていると、なんだか「現実」が透けて見えてくる。アメリカはやっぱり「成功する」ことが全てなんだなぁと。 失恋した娘を連れて家族旅行で海外に来た金持ち父さん。なんとトム・セレックだ。シングルの娘の事をやたらと嘆くのは、「結婚できない」=「成功していない」とでも言うのだろうか。ふざけた話だ。娘のキャサリン・ハイグルも旅先で出会ったイケメンとデートすることになったら、「私生活を細かく聞くわよ」なんて、最初っからスペック確認に余念がない。で、めでたく結婚した2人ですが、旦那のアシュトン・カッチャーは殺し屋たちから命を狙われることになる。もう、みんな巨額の懸賞金に目の色変えて、あの人もこの人も次々と襲いかかってくる。ここもブラックな笑いを狙っているんだろうけど、描かれているのは「大金を手にすること(=成功すること)は何物にも代えがたい幸福である」という価値観です。 だから、この映画では「失敗」する人たちはどーでも良いのです。ミッションに失敗すれば終わり。殺す側に葛藤も苦悩もありません。彼らは悪い奴らなのでしょうか? 私にはそうは思えない。金のために殺す。これは「お仕事」としてこれまで何人も人を殺してきた主人公のイケメン旦那と全く同じです。 やたらと人が死んで、でも誰も悲しまず、最後はハッピーエンド。生き残った者、すなわち勝者=成功者の人々は幸せに暮らしましたとさ、というオハナシ。コメディだから別にいいんですけど。ちなみにこの作品、本国では興行成績が悪く製作費が回収出来なかったらしいので、映画自体は「成功しなかった」。これが1番ブラックなオチですね。 [DVD(字幕)] 5点(2017-07-29 11:29:14)(良:1票) |
14. 小さな恋のメロディ
《ネタバレ》 ダニエル(マーク・レスター)とメロディ(トレイシー・ハイド)の恋心は幼い。「一緒にいたいから結婚する」って殆ど幼稚園児の発想。しかも全く迷いがない。・・・この“まっすぐさ”がとっても清々しい。 「若すぎる」と説得する両親に対しメロディは叫ぶ。「幸福になりたいだけなのに!」と。 そして有名な駆け落ちシーンへとなだれ込んでいく訳ですが、もう理屈もへったくれもないのだ。この物語には「今」しかない。主人公2人の「今」の気持ちオンリーで突っ走る。彼らを押し留めようとする大人たちと手作り爆弾で闘い、トロッコに乗って逃げ去る。いやもうムチャクチャだけど、これこそが映画じゃないかと思う。自分が映画を観る理由もこれしかないって気がする。幸福になりたいだけ。 とても地球上の生物とは思えないエンジェルっぷりが眩しいマーク・レスターも、もちろん良いのだけど、彼の親友役ジャック・ワイルドがとにかく素晴らしい!表情もしぐさも身体の動かし方もいちいちキマッてる。メロディに夢中になって自分から離れていくダニエルを引き留めようとするシーンなんかホント切ない。この時のジャック・ワイルドの茫然とした表情が悲しすぎて、おばさん泣いてしまいました。 全編に流れる音楽もイイ。ミュージック・クリップのような話法が奏効している。「メロディ・フェア」の調べに乗って通りを歩くメロディ。酒場にいるパパに会いに行く、このシークエンスが私は好きだ。昼間からお酒飲んでる父親なんて・・・と不安がよぎるんだけど、人の良さそうなオッサンが出てきてニコニコしながら彼女にお小遣いを渡すのでホッとしてしまう。そうそう、ここに出てくる大人たちは皆、基本的にイイ人。そういうのも好き。 ちょうどこの作品を再見した時に、「資本主義が終ろうとしている」なんて言ってる本を読んでいた。1970年代をピークに長い終焉の時代が続いており、今は旧いシステムが終わらんとする斜陽の時代なのだと。そんなどん詰まりの閉そく感の中に生きる自分にとって、本作はとびきり眩しかった。「とにかく逃げちゃえ、なんとかなるさ」って、ぶっちぎりのハッピーエンドで終わるこの作品には、「未来」に対する圧倒的な信頼と楽観が感じられる。トロッコの行く先には「幸せ」が待っている。 この作品のノスタルジーが格別に染みるのは、今が「信じられる未来」を失ってしまった時代だから、という理由もあるのだと思う。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2017-07-29 00:23:30)(良:1票) |
15. ウソツキは結婚のはじまり
《ネタバレ》 「嘘」はコメディーの強力なアイテムだなぁと改めて思いますね。最初にとんでもないウソをついてしまった主人公が、バレないために嘘に嘘を重ねてドロ沼にハマっていく・・・というのは、まぁ定番。あとは、役者陣のノリで魅せてくれればそれなりに面白い映画になる訳で、こちらの作品もアダム・サンドラーにジェニファー・アニストン、そしてまさかのニコール・キッドマンという布陣で笑かしてくれます。あ、お子たちも上手でした。 内容はホントにくだらないけど、人の良さだけが魅力のジェニアニがハマリ役で、もう、この「定番」な感じがなんとも気持ち良かった。そしてそして、平凡なコメディーに彩りを添えてくれたニコール・キッドマンには拍手パチパチ。鼻持ちならないイヤな女をがっつりと濃いめに演じててアッパレです。彼女はきっと素がこんなじゃないかと思うけど、カモフラージュのつもりで敢えてこの役を引き受けたのと違いますかね。ラストで「ホントはわりとイイ人」になっちゃうのは、脚本書き変えさせたのと違いますかね。(勝手な憶測) アダム・サンドラーはヘンにキャラ作るより普通の役の方が味があります。それこそ人の良さが滲み出て、なかなかにエモーショナルな演技をする。その意味で、この作品は見やすかった。個人的にウケたのはビリー・ジョエルの歌真似シーン。上手い! コメディー好きな人には安心してお薦めできます! [DVD(字幕)] 7点(2017-07-28 19:06:56)(良:1票) |
16. アラフォー女子のベイビー・プラン
《ネタバレ》 恋愛の前に妊娠出産があるという逆転、しかも行為は無いのに生まれてきた子供は紛れもなく自分の遺伝子を継いでいる、という複雑な設定がまずは勝負のこの作品。普通の恋愛映画の要素をぜんぶひっくり返してやれ、ってな気概を感じる訳ですが、よくよく見てみると案外、真面目でオーソドックスな恋愛映画なのかなって気もしました。 そうですね、名作ラブコメ「恋人たちの予感」(89)の赤裸々21世紀バージョンといった感じ。長年付き合ってる親しい異性の友人が、実は運命の人だったことに気づくという、ラブコメ王道の物語でありました。そこに「精子バンク」を利用した妊娠・出産エピソードを絡めて、さらに精子の交換というアホアホな設定で笑かしてくれる。親子そっくりネタの数々もほのぼのと楽しかったですね。 主役のウォーリー(ジェイソン・ベイトマン)がただのイイ奴じゃなくて、神経質でイヤミなところがあって、ちょっと変人って感じなのが良い。そんな彼を一番理解してくれてありのままを受け入れてくれてたのがキャシー(ジェニファー・アニストン)だった訳で、まぁ、ありがちな話だけど結局、人生のパートナーは「親友」がいいんだよねって話。 子供を産んだ彼女が田舎に引っ越してしばらく疎遠になってしまったっていう、途中のエピソードが私は好きです。よくよくよくあるパターンで、「とにかく四六時中連絡取り合って、何がどうあろうともいつも一緒、だって私たちは親友だから」っていうオハナシが私は胡散臭いと思ってしまう。友達との間柄って物理的な距離で測るもんでもないと思うし、むしろお互いの不義理も承認し合えるぐらいの方が、根っこの絆は強いというかタフな関係性を保ってると思う。友達からメールの返信が半日来ないってだけでイライラしてる若い同僚を見てると、他者との距離の取り方の違いをつくづく感じてしまう昭和のオバサンです。 気がつけばラブコメ・ヒロインとしての地位を築いてきた感のあるジェニファー・アニストン。ラブコメの「女王」とまでは言わないけど、「小間使い」くらいでラブコメ宮殿に召し上げられても良いんではないでしょうか(笑)。 [DVD(字幕)] 8点(2017-07-28 18:51:29) |
17. あなたが寝てる間に・・・
《ネタバレ》 あ~、なんだかんだ言ってもこういう軽ぅ~いアメリカ映画が私は好きだ。ジャンクフードってやめられない。なんの栄養にもならないけど美味しいんですもん。 サンドラ・ブロックはちょっと不思議な立ち位置の女優だと思う。美人じゃないし、可愛いというのとも違う、意外にカテゴライズしにくい人。中性的と言えばいいのか、女としてというより人として魅力がある。この作品でもイイ人だけどちょっと冴えない女性という役、地味で目立たない主人公が王子様に惚れられるという少女漫画的なこの映画にはピッタリだ。 ハリウッド映画が口を酸っぱくして言ってることが「Love Conquers All」(愛はすべてに打ち勝つ)なんですが、このLoveには当然「家族愛」も入るんでしょう。この作品でもヒロインが恋をする相手の家族がやたら仲がよくて微笑ましい。ほとんどのエピソードに彼らが登場してくるので、むしろ男女の愛よりそっちの方がメインじゃね?ってくらいの勢い。ヒロインも自分の想いより彼らの気持ちを優先して行動している感じだし。なのでオハナシ自体も孤独な女性が恋によって幸せを掴むというよりは、素敵な家族を得ることでハッピーエンド、みたいに見えた。まぁ相手が今ひとつ華の無いビル・プルマンだからそれくらいのオプションは付けてもらわないとね(笑)。ピーター・ギャラガーはとんだ当て馬でお気の毒だったけど、ま、そんな役回りがお似合い。百貨店の紳士服売り場のマネキンみたいなルックスはいつ見ても笑える。よくあんな冗談みたいな眉毛を顔にのっけてられると思う。 [CS・衛星(吹替)] 7点(2017-07-28 18:25:09)(良:1票) |
18. ある日モテ期がやってきた
《ネタバレ》 良いです、良いです。ダサダサのモテない男とルックスも性格もパーフェクトな美女との格差恋愛。下ネタもドタバタもあるけど、全体的にはなかなか誠実なドラマになっていて好感持てます。 主人公カーク役のジェイ・バルチェルという子が良いですね。若い時の松潤を2~3発殴って数日食事与えないで監禁して弱らせた感じのビミョーなルックスで、物語にリアリティを与えてます。で、いつも一緒にいる悪友たちがまた良くこういう顔ぶれを揃えたなっていう面々で、見ててとっても楽しかった。職場が空港で、荷物がぐるぐる回るところ(何て言うのかな、アレ)に並んで乗っかっておしゃべりしてる絵なんて、ホノボノしてて癒される。中でも大泉洋似の子は面白かったなぁ。ホール&オーツのコピーバンドをやってたのも個人的にツボ。名曲「kiss on my list」の熱唱には感激したし、ちゃんとジョン・オーツもいたし(笑)。 男同士ってこういう会話してそうだなぁと思ったのは、「彼女は10点、お前は5点。付き合えるのは2点差まで」なんてセリフ。バンドをやってると1点加点されるらしい(苦笑)。そういうバカ話の中で、見た目は1番冴えない既婚者の男が「誰かに愛されてたら、そいつは10点満点だ!」って真面目に言うのが私は好きですね。もう、臆面もなくそういう映画なんです。「Love Conques All.」愛は全てに打ち勝つっていう、ハリウッドが100万回言ってる金科玉条。最後に女の子が気持ちを話すその内容も、ホントに臆面もない素直な愛の告白で。いやぁ、アホみたいだけどウルッときました。ディープな昭和世代にはこの直球勝負がたまらん。女の生態丸出しな元カノも、愛すべきバカ・ファミリーの皆さんもブラボーです。 [DVD(字幕)] 7点(2017-07-28 17:58:58)(良:1票) |
19. 運命の女(2002)
《ネタバレ》 とにかく脚本が秀逸だと思う。冒頭、主人公コニー(ダイアン・レイン)の家のショット。風が吹いて子供の自転車が静かに倒れる。「あっ」っと思った。やがて、この風が強風になり彼女が浮気相手と出会う原因になってしまうのだけど、この時すでに家庭の崩壊は始まっていたのだ。 続いてカメラは家の中を写し出す。キッチンで朝食の支度をしているコニー。ダイニングで子供がゲームをしている。「バーン!バーン!」「また人を殺すゲーム?」この会話は伏線。平和な家庭の中に「人殺し」という異質なキーワードが飛びこんでくる。そして夫(リチャード・ギア)が登場、TVのニュースを見ながら、妻に聞く。「君が反対した○○の株、今いくらだと思う?」「知らないわ」「○○ドルだよ(何十倍に跳ね上がっている)。あの時買っておけば良かった」「じゃあ、買えばいいじゃないの」「今からじゃ遅いんだよ」夫と妻の価値観の違いが示される。 開巻数分で、もうここまで語られている事に驚く。一見、平和で幸せに満ちた家庭。でも実は夫と妻はほんの少しだけど、すれ違いを見せていた。 ポールとの出会いとなった強風のシーンも良く出来ている。風でスカートが腿までまくれ上がる、モンローばりの名シーン!コニーという女性の魅力、ええい、はっきり言ってしまいましょう、カラダの魅力がね、もう全開なんです。で、ポールに誘われたとき、もちろん、傷の手当てという口実はあるのだけど、彼女はこの時すでに何かを期待している。通りかかったタクシーをあえて見逃して、男の後について行く。 2度目に男の家に行くシークエンスも上手い。彼女はやっぱり彼に逢いたい。でも、もちろん躊躇がある。街まで出てきたけど、半ば賭けのように電話を入れてみる。「お礼の品を送りたいから住所教えて」「今どこ?家に来なよ。コーヒー入れるよ」この時、彼女の手にはコーヒーの紙コップが…。彼女は決意を固める。紙コップを公衆電話の上に置いて「コーヒーね。いいわ、行くわ」と答える。最初の出会いの時も、彼女の前には帰るべきタクシーが来ていた。そして、この時もコーヒーなら今は欲しくないハズだった。でも。“敢えて”彼女は男のところに行く。 40手前くらいの女性って、焦りと諦念が交じり合った複雑な思いを抱えているような気がする。「このままで自分は終っちゃうのかな」って。客観的に見て幸福な環境の中に居たとしても、人生の中で選びそこねた「もう一人の別の自分」がどこかに居るんじゃないかって、そんな幻想を抱いているような気がする。 この物語は、そんな幻想に実際に身を委ねてしまった女性と、その夫の悲劇を描いているのだけど、そりゃ誰が見ても「不道徳」な、けしからん話なんだけど、でも、そういうのって、人としてアルんじゃないかって思ってしまう。「アリ」じゃないですよ、賛成するという意味ではなく、どうしようもないけど「アル」と。言ってみれば「罪」でしょうかね、そこを深く描いているなぁ~と感心してしまうのです。ちょっと褒め過ぎかもしれないけどドストエフスキーなんかを思い起こしてしまう。 夫エドワードの妻への愛は、本当に素敵なんですよ。でもね、秘密が暴露されて2人が対峙するときに、彼は「僕は家庭のためにすべてを捧げたんだ」みたいなことを言う。で、「君はそれを紙くずのように捨てた」と妻をなじる。この理屈はごもっともなんだけど、なんだろか、ちょっと強迫じみているというか、もしかしたらエドワードは、自分では己の努力は完璧と思っているけれど、コニーにとってどうだったのかって、彼女の気持ちは置き去りになっていなかったかい?って、女の私は思ってしまうのだ。 中盤でコニーがお風呂に入っている時に夫が入ってきて一緒にバスタブに浸かるシーンでも、そんなことが匂わされる。エドワードはうすうす妻の不貞に気づいている。バスタブの中で愛し合おうとすると、妻は「ベッドに行きましょう」と出ようとする。「行かないで」とエドワード。「ここは寒いの」と出て行ってしまうコニー。彼女の心はね、いつの日からかずっと凍えていたのだと思う。 映画の表現として白眉の画(え)も随所に。長くなりすぎたのでもう止めますが、とにかく、個人的には大好きな作品です。 [DVD(字幕)] 9点(2017-07-27 18:13:51) |
20. オール・オブ・ミー/突然半身が女に!
《ネタバレ》 これは上質なコメディ。「半身が女性になってしまう」という実にバカバカしい設定を、スティーブ・マーチンが 見事に演じ切っている!この素晴らしい身体芸があったればこそ、映画のウソを心の底から楽しむことが出来た。 「ああ、こういうのがフィクションの楽しさだよな~」と、久々に満たされた思い。 どうやら原作があるようなので、そっちの面白さかなぁとも思うが、とにかく丁寧で良く作られているオハナシだと思う。 主人公ロジャー(S・マーティン)はジャズ・ギタリストと弁護士の2足の草鞋を履く働き盛りの男。出だしのクレジットタイトルの間にその辺の状況をチャチャっと説明してしまう手際の良さも感心するし、このキャラ設定が「富豪の女の魂が乗り移る」という彼の運命を示唆しているのも上手い。弁護士業に専念すると決めた彼は、今度は「男と女」という2足の草鞋(?)を履くことになってしまうのだ。 インド人の魔術師となかなか連絡がつかない状況とか、女の魂とのやりとりを恋人に聞かれて誤解されちゃうとか、アンジャッシュの「勘違いコント」みたいなシーンが面白い。すごく練られている。ロジャーの中に女の魂が入ってしまうシーンでも、何気に後ろのほうで大道芸人がパントマイムをやっていて、女に体を制御されてしまうロジャーの動きがそれに似てるとか、演出も細かいです。 ロジャーが浮気してると勘違いした恋人が、別れ際に「イッたフリしてただけよ」って捨てゼリフ吐いてその場でオーガズムの演技をしてみせるのは、おや、これは「恋人たちの予感」(1989)のパクリか?って思ったら、こっちの作品の方が早かった。本作の監督はカール・ライナーで、「恋人たち~」はその息子のロブ・ライナーが監督。父の作品からアイディアを拝借したのかしらん??? ともあれ。左半身で男性、右半身で女性を演じるというスティーブ・マーチンの超絶技巧の演技は必見です。 [DVD(字幕)] 8点(2017-07-27 15:43:38) |