1. ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
《ネタバレ》 病院で余命を告げられた男二人が、死ぬまでに一度海を見ておこうと、車を盗み、金を盗み、警察やギャングの追跡をかわしつつ、突き進むロードムービーです。非常にシンプルな筋書きですが、コミカルな味付けが絶妙です。物語の推進力を失わずに、小技が小気味よく決まっていく感じです。ニヤけぎみの警官のオッサンやギャング2人に代表される、異色のキャラづくりも魅力です。トウモロコシをなぎ倒しながらのカーチェースは、死ぬまでに一度は経験したいと思ってしまいました。ギャングのラスボス登場のシーンだけ英語になるのですが、ドイツ人に通じるものなんでしょうかね。映画本編は文句の付け所がありませんが、主役二人が葉巻を吸っているジャケットの写真は今ひとつですね。もうすこし凛々しい表情の方が良かったと思います。 [DVD(字幕)] 8点(2025-03-29 14:27:09)《新規》 |
2. es[エス](2001)
《ネタバレ》 1971年にアメリカはスタンフォード大学心理学部で行われた監獄実験を素材として、エンターテインメントへの昇華を狙った作品です。実験の内容は、新聞広告で集めた被験者を看守役と囚人役に分けて、2週間の期限で、模擬刑務所でそれぞれの役割を演じさせ、心理や行動にどのような変化が発生するかを監視カメラで観察するというものです。主人公の新聞記者は、ネタ欲しさに、この実験の被験者に応募し、囚人役として実験に参加するのですが、こいつが非常に曲者です。ネタ欲しさからなのか、真性のバカなのか、看守に対して挑発的な態度を取り、看守チームvs囚人チームという意識を煽ってしまいます。これによって、ただでさえあやしい実験の学術的な意味合いが、更に薄まったように感じられ、教授が貴重な実験データなどと言っているのが、まぬけに聞こえてしまいます。2日目には完全に看守と囚人が敵対するようになり、そこからは、あれよあれよと、狂った方向に進んでしまうのですが、被験者達は随時監視されているにもかかわらず、人前で感情的になることへの羞恥がほとんどないので、あまり現実味を感じることができませんでした(文化的な背景の違いによるものかどうかは興味があるところですが)。被験者の心理変化をもっとじっくりと見せて欲しかったですね。教授や助手による学術的な解説なども付け加えて、被験者の心理変化や行動に説得力を持たせれば、もう少しリアルに感じたかも知れませんね。 [DVD(字幕)] 6点(2025-03-29 14:24:05)《新規》 |
3. 彼岸花
《ネタバレ》 映画ファンとか、そういうんじゃないので、小津作品をちゃんと通して見るのは初めてです。夜中の1:00からの鑑賞だったので、途中で眠る可能性が高いと思っていたのですが、そんなことはまったくなく、とても楽しい2時間を過ごすことができました。ありふれた日常の中に、人の営みの不思議さ、おかしさを見出す眼力。それを素材にして、エンターテインメントとして成立させ得る、緻密な構成力と手腕。さすがです。全篇を通して、軽妙で、押し付けがましくないユーモアにあふれていて、さわやかな気分になりました。 [DVD(字幕)] 9点(2025-03-29 14:20:51)《新規》 |
4. ロフト.(2008)
《ネタバレ》 マンションの最上階にあるおしゃれ空間(ロフト)を、マンションをデザインした建築家と知人達(既婚男性5人)で共同所有し、各々が好きな時に浮気部屋として活用しておりました。ある日のこと、ベッドの上に女性の変死体が発見されました。一応ここで念を押しておきますが、犯人はお塩先生ではありませんよ?部屋の鍵を持っているのは5人だけなので、お互い疑心暗鬼にならざるを得ません。その一方で、浮気がばれると家庭崩壊するというリスクを共有していることから、そのまま警察には通報せずに、色々と画策・事後工作することになります。画策・工作の合間に、事件に至るまでの回想がはさまり、5人の人となりや、みな綺麗な奥さんがいることなどがわかってきます。これらの奥さん達が、それぞれ魅力的なのにもかかわらず、短い出番で、夫を萎えさせるオーラを十分に発しているところが、いい演出だなと思いました。浮気相手との完全対比によって、浮気相手の魅力ムンムンが引き立つとともに、妻達の陰謀論が出てくるなど、後の展開にも効いてくるように思います。浮気現場である、ロフト、バー、ホテル、パーティー会場など、生活臭が一切しない洒落た空間のシーンが大部分ですが、警察の取調室まで、おしゃれ空間風になっていて、そこまで徹底するなら、大いに許すという感じです。オープニングクレジットから舞台となるロフトの鋭角的なデザインがフィーチャーされるなど、現代風建築空間へのこだわりが感じられ、それがそのまま映像美として具現されています。終盤には誰もが驚くサプライズ展開がありますが、だまされた感はあるものの、あまりインパクトを感じませんでした。建築家に感情移入できれば、感じ方も随分変わってきそうですが。浮気もまた人それぞれというところを丁寧に描いていて、会話の駆け引きなどが面白いので、最後まで飽きることなく見ることができました。安易なドタバタに走ることなく、じっくり静かな展開としたことに好感が持てました。 [DVD(字幕)] 7点(2025-03-29 14:17:34)《新規》 |
5. 素晴らしき哉、人生!(1946)
《ネタバレ》 冒頭、銀河系同士が主人公の命運について会話するシーンがとても斬新です。この掴みでコメディとして安心して作品を楽しむことができました。タイトルからしてストレートですが、中身も名前負けしていません。もうわかったって言ってるのにゴリゴリ来るところもありますが、「かけがえのない人生」について、ここまで分かり易く力強く示されると、なかなかすがすがしいものです。主人公が存在する現実世界と、主人公が存在しない"if"の世界、パラレルワールドとで、目に見える違いが幾つもあったことは、主人公の「素晴らしき人生」を証明するものです。凡人がいなくなったところで、世界は何も変わらないであろうこと、若干、心に染みます。コメディーとして楽しい仕掛けも盛りだくさんですが、パーティー会場の床が開いて階下のプールが出てくるシーンが好きです。見てて心が躍りました。廃墟での祝宴もなかなか素敵です。蓄音機でレコードをかけつつ、そこからベルトで動力を取って、鶏肉を回転させて暖炉で丸焼きにするなんて、とても楽しげですよね。この演出のために、奥さんは、蓄音機のモーターをパワーのあるものに交換するなどの魔改造を行っているはずです。技術部所属でしょうかね。 [DVD(字幕)] 7点(2025-03-29 14:12:17)《新規》 |
6. アンダルシアの犬
《ネタバレ》 まだ私が高校生の頃、なにか軽めの読み物の何気ない引用で、人の眼球を剃刀で切る映画があること、撮影には葡萄を使ったらしいことを読みました(wikipediaで調べてみると、実際に使ったのは葡萄ではなくて、子牛の目らしいです)。非常に心がざわついたのを思い出します。そのとき読んだ言葉によって想起されたのは、皮をむいた透明感のあるみずみずしい葡萄が、剃刀を包み込むときに示すであろう弾性挙動、細胞がはじけ、こぼれる果汁、これに、人の目の映像を、それぞれ透明度50%で重ね合わせたような、透明感とみずみずしさのイメージでした。今はインターネットという便利なものがあるので、昔の記憶を頼りに、調べたところ、1928年のシュルレアリスム作品であることが判明し、今回、鑑賞するに至りました。冒頭から、男が剃刀を研ぐシーンから始まり、女の目蓋が男の指で見開かれ、満月を一筋の雲が横切る映像の後に、眼球を一筋の剃刀が横切る例のシーンとなるのですが、想像していたのとはずいぶんと違っていて、不透明な球体の開いた裂け目から、透明なゲル状のものがじわりと出てくるものでした。葡萄で言えば皮をむいてない状態、どちらかというとゆで卵の質感と弾性。映像はすぐさま「8年後」の文字画面に切り替わり、別の意味ありげなシーンが次々と切り替わりながら続いていきます。15分見終えると、結局、何の脈絡もない映像だったことに気付かされます。何の必然性もないことが、逆に凄みを増していますよね。剃刀のシーンはさすがに笑えないものの、その他のシーンはコミカルな味付けで、思わず笑ってしまうものが多いです。一番笑ってしまったシーンは、どういう訳だか、主人公と思われる男が、重いコンダラよろしく、腐乱した馬の死体(?)が乗っかったピアノを紐で引っ張る状況になり、二本の紐を肩に掛けて引っ張り続けると、その紐には、実は、二人の男がぶら下がっていて、そいつらが仰向けに床を引き摺られながらついてくる場面です。おまえはダレですか?と小一時間ばかり問い詰めたい気持ちになりました。まあ、何とも言えない可笑しさが、この作品の妙味ですね。 [DVD(字幕)] 7点(2025-02-10 18:32:35) |
7. ブラックホーク・ダウン
《ネタバレ》 1993年、ソマリア、モガディシュの戦闘を描いたノンフィクションの映像化です。米軍の精鋭特殊部隊が、ソマリア反PKO勢力の主要人物2名を、30分程度で素早くスマートに拉致しようとしたものの、民兵の反撃にあって泥仕合に発展し、特殊部隊兵18名が殺害されるとともに、ソマリア人の民兵、民間人350~1,000名を殺害するに至った戦闘です。米国側視点の映像ですが、創り手の思想の押し付けは極力排され、市街地戦の現場で実際に何が起きたのか、その緊迫感と惨状を再現することに心血が注がれています。緊張の糸が途切れることなく、見ていて非常に疲れる作品です。DVD鑑賞の場合、途中でトイレ休憩を挟んだりしますが、トイレから戻ってきても鈍い疲労感があり、もう戦場には戻りたくない、という感じで、再び、映画の中の凄惨な世界に戻るのには、ちょっとばかり気合いを必要としました。映像、演技などに緊迫感を壊すようなスキは見られず、作品に没入することができました。序盤わかりやすい死亡フラグ立てがありますが、そういうのも入れないと、キャラの描き分けが弱くなり、知らない人が淡々と死んでいくだけになってしまいますからね。 [DVD(字幕)] 9点(2025-02-10 18:25:18) |
8. 告白(2010)
《ネタバレ》 中学校を舞台にしたミステリィ作品です。女性教師の告白(というか、むしろ告発ですが)からはじまり、序盤で、教師の娘を殺害した生徒が確定します。残り時間どうしたものかと要らぬ心配がよぎりますが、別の登場人物の告白が続き、事件の全く違った見方が示されていきます。新たな真実が見えたときの、なるほど感がなかなかに心地よい作品です。学校という社会から隔絶された世界を舞台にしているので、閉塞感で息が詰まりますが、最後には、どっかーんとそれをぶち壊して、風穴を開けてくれるような、ある種の爽快感があります。久しぶりに自分の中学時代(四半世紀前)を思い出しましたが、その頃と比べて最も変化したのは、ケータイ(通信端末)とインターネットの普及ですかね。本作品ではこれらのツールを使用した新手のいじめなど、生徒の生活に与える負の側面が描かれています。ツール自体が悪いのではなく、使う人間のモラルの問題ですが、能動的な情報収集ツール故に結果的に偏ってしまうこと、依存症になりやすいことなどもあり、未熟なうちは使用を制限した方がよさそうですね。 [映画館(字幕)] 8点(2025-02-10 18:21:51) |
9. 父、帰る
《ネタバレ》 なんとも、とらえどころがない印象を受けました。父親は、旅を通して12年間のブランクを埋めるべく、子供に決して媚びることなく、威厳を持って大人の生き方を教えていこうとするものの、すでに、子供には、父性愛を感じ取る感受性がなくなっていた悲劇、とでも捉えればいいのでしょうか?ロシアの社会状況はわかりませんが、なぜ今(2003年当時)そのテーマなのかというのが、いまひとつピンとこないんですよね。旅に出てから以降は、父親と二人の息子以外に主要な人物は登場せず、父親の存在感は、なかなかいい雰囲気なのですが、子役が演じるところの弱虫な弟が、すねている姿を延々と見せ続けられるのは、かなりキツいなぁ、という感じです。アクションや笑いが皆無なのは、そういう作品だとしても、泣ける話でもなく、すれ違いはあれど、葛藤があるわけではなく、ときどき、青い空や、草いきれや、光る水面に、はっとさせられ、ノスタルジーをくすぐられるところはあるものの、どっぷりと浸かるところまではいかない。現実は映画のように面白くないのも事実ですが、この作品に現実味があるかというと、そうでもない。兄はともかく、弟の方は見た目や行動が、小3~小4程度で、彼が12歳以上だとしたら、あまり現実味を感じない。あえて12年ぶりという設定にしたことも、不可解に思われます。というように、何かすっきりとしない印象を持ちましたが、映像はよくまとまっていて、そこそこ、いい映画に仕上がっていると思います。 [DVD(字幕)] 5点(2025-02-10 18:16:51) |
10. ルックバック
《ネタバレ》 原作既読。4コマ漫画が得意で、学級新聞の4コマを担当して、クラスで人気を集めている女の子が主人公。わけあって同じクラスの不登校で引きこもりの女の子が、主人公同様に学級新聞の4コマ漫画作品を投稿するようになります。この引きこもりの女の子が、4コマ漫画の意味を完全にはき違えていて、大したつながりのない超写実的な風景画をただ4枚並べただけ、などという作品を投稿したりするわけなんですが・・・どういうわけだか、その作品を見た主人公や周りのクラスメートが、「それ4コマの意味ないやん!」などのツッコミを一切入れずに、むしろ絵の上手さが評価されているかのようなテイで物語が進んでいきます。これは自身が漫画描きである原作者が仕込んだ茶目っ気満載のギャグだと思うのですが、物語世界の外側にいる私たちの反応としても、この部分にツッコミを入れている人が案外少ないような気がしました。藤本タツキの他の作品をそこまで多く読んでるわけではないのですが、冗談とシリアスのブレンドのさせ方に、ブラックで、サイコパス的な感覚がある人のような気がしています。前述のツッコミどころも、良くも悪くも作品内の現実世界に虚構的なテイストを与えていて、後に虚構と現実が対比された際に、良く言えば、複雑で不思議な心地がするし、悪く言えば、現実世界への没入が薄くなる分、迫力が削がれている気がするのですよね。本作は、アニメ化にあたって、アニメ作家による作品解釈が入り、原作にはないシーンを追加したり、丁寧にイメージを膨らませていて、アニメならではの表現を楽しめます。特に主人公のギャグセンスのキレッキレ具合(絵の乱暴さも含む)が強調され、引きこもりの子の作品の頓珍漢っぷりが相対的に薄れ、原作が持つ独特な毒が少し抜けて、多くの普通の人が見て、より普通の感想を持てる作品になっているという印象です。映像化により多くの人に見られることを考えると、1つの正解かなと思います。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-02-06 17:29:45) |
11. 魔界転生(1981)
《ネタバレ》 幼少期の終わり頃、ジュリーファンの母に連れられて、リアルタイムで二番街にあった「柏シネマ」で、母姉と一緒に3人で鑑賞しました。娯楽映画を家族で見たのはこの一度きりだったと思います。細川ガラシャの妖艶な姿態。女を犯しては殺す狂人坊主。真田広之が沢田研二にけしかけられ、いたいけな少女を押し倒すも失敗。若山富三郎のご乱心。そしてラストの城の炎上と生首。すべてがトラウマ級に心に焼き付いてます。さて、40年ぶりに(家族一緒ではなく一人でw)再鑑賞しましたが、やはり面白い。幼少のころ見た美女が後から見たら大したことはなかった、などということはママあるものですが、ガラシャ役の佳那晃子。妖しく美しくゾクゾクします。天草四郎役の沢田研二が蘇った後、次々と死者を蘇らせて、仲魔を増やしていく過程も、丁寧で分かりやすく、それでいてテンポも良くて、怪しい世界観にぐいぐい引き込まれます。魔界衆の最期も、それぞれ特徴的で、不要なキャラがいないのですよね。そして、最終局面。業火に包まれ今まさに崩れつつある建物の中の対決。CGでは生み出すことができない緊迫感。斬られた首を片手に持ち、高らかな笑いとともに業火の中に消えていく天草沢田研二時貞。勧善懲悪では終わらない、何とも言えない後味が残ります。柳生千葉真一三厳がかっこよすぎんよっ。 [インターネット(字幕)] 10点(2024-12-26 18:09:36) |
12. 空気人形
《ネタバレ》 業田義家の原作漫画は未読です。都市生活者達の孤独な営みを、鮮やかに、やさしい光で映し出したところに、心動かされました。何かを押しつけがましく主張せずに、静かに感じさせる作品は好きです。常に心が満たされることのない生活も、現代に生きる代償として受け入れて、つきあっていくしかないよね、という気持ちになりました。 [DVD(字幕)] 9点(2024-12-26 17:43:37) |
13. 北北西に進路を取れ
《ネタバレ》 主人公の男が、人違いで謎の組織から命を狙われる羽目になりながらも、保身のために立ち回り、謎に迫っていくというサスペンスです。豪華で壮大な展開と、細かくちりばめられたユーモアが絶妙です。主役のケーリー・グラントは、ユーモアの効かせ方を非常に心得ています。ヒロインのエヴァ・マリー・セイントのしおらしさもポイントです。楽しいシーンも盛りだくさんですが、やはり、複葉機に追い立てられるシーンですかね。画面の端の方で、農薬を撒いたりしながら、背景として馴染んでおいて、タメにタメて、ドッカーンという感じですね。笑ってしまいました。娯楽映画として、非常に良くできていて、余計なことを考えずに楽しむことができました。 [DVD(字幕)] 8点(2024-12-26 17:41:00) |
14. マーズ・アタック!
《ネタバレ》 UFOで地球にやってきた火星人に対して、平和的な交渉を試みようとする米国大統領(地球代表)。それを見透かした火星人と、地球人が繰りなすドタバタコメディ(死者多数)です。冒頭の馬が走ってくる映像は神秘的で、非常に期待させるものがあります。が、中身はただの悪ふざけでした。緊張感ゼロなのがいいですね。お茶噴きました。 [DVD(字幕)] 6点(2024-12-26 17:35:46) |
15. デビルマン
《ネタバレ》 評価の低い作品と聞いていたので、駄目さ加減を楽しんでやろうという邪心を抱きつつ見てしまったこと、あえて否定はしません。原作の漫画も読んだことですし、準備は万端です。さて、結果ですが・・・確かに駄作以外のなにものでもないのですが、いざ、ダメっぷりを楽しもうというスタンスに立った際に、その期待は見事に裏切られるという中途半端ぶり。原作の印象的なシーンを寄せ集めて、オリジナル設定も加えながら、ムリムリ繋いでいくようなつくりで、流れが悪くて全く没入できませんが、大筋では原作をなぞっており、残念なことにストーリーに大きな破綻がないようです。チープな学園ドラマ、ホームドラマが続き、確かに見ていて痛いレベルですが、残念なことにテレビで放映されている同類のものを大きく下回るわけでもないようです。伝説的駄作の王座を狙うのであれば、もっとハジケ切る必要がありますが、そういう「愛すべき駄作」からは最も遠い位置にある作品です。CG、SFXは悪くはなかったですよ。飛鳥了の親父のなれの果てなどは、おぞましくて良かったですし、デビルマンもなかなかカッコイイです。ただ、戦闘シーンの動きが速すぎて、小物感が漂ってしまっているのが残念。CGの荒さをごまかそうとしたのでしょうかね。CG、SFX担当スタッフの熱意は感じられましたが、実写スタッフの熱意のなさとのギャップが激しく、てんでんバラバラ、全体のコントロールが全くできていないという印象を持ちました。CGと手描きを融合させた表現などは面白かったので、役者の演技とかをCGと手描きを駆使して、修正してしまっても良かったのではないでしょうか?でも、一番悪かったのは企画と構想と脚本と演出と製作総指揮と監督ではないかと思います。 [DVD(字幕)] 2点(2024-12-26 17:24:26) |
16. 動くな、死ね、甦れ!
《ネタバレ》 前情報がない状態で見たのですが、白黒映画で、かつ、フィルムの痛みが激しいことから、1930~40 年代の作品と思いこんで見ていました。後で調べたところ、1989年と比較的新しい作品でした。作者(1935年生まれ)の幼少時の風景や空気を再現するために、その時代に入り込んで撮影したかのように仕立てる。トリッキーとも取れますが、それを凌駕する、映像の凄みを感じました。主人公の少年が住むのは、炭坑と収容所の村。地面はぬかるんで、泥の上に人が集まり暮らしていて、舗装された道はなく、自動車もなく、辛うじて他の町に通じる鉄道があるだけです。住人は、汚れた長屋に、寄り集まって暮らしており、人は多く、叫び声や喧噪はあれど、活気がまるでない。この「不毛」感は、凄いです。主人公も通っている学校は意外と立派でした。公権力の出先として力を入れた結果でしょうか。村の外れでは、抑留された日本兵が強制労働をさせられていて、よさこい節や、炭坑節が聞こえてきます。おそらく作者の望郷には欠かせないものなのでしょう。よどんだ世界の中で、どこか優雅で達観した響きを感じました。そんな中、主人公の少年は、鬱屈感からか、学校のトイレの汚物槽にイースト菌を入れて溢れさせたり、列車を脱線させたりの問題を起こします。その都度、一緒の長屋に住む少女に助けられます。この少女は、非常に賢く、したたかに生活に順応していて、なかなかの人物だなあと感心してしまいました。この作品の中では、唯一の光と言える存在です。時代の停滞した陰鬱な空気を再現して、フィルムに封じ込めたことは評価できるのですが、娯楽としてみると、正直、それほど面白くはないです。娯楽性の高いロシア映画も見てみたくなりました。 [映画館(字幕)] 6点(2024-12-04 20:16:00) |
17. エクソシスト ディレクターズカット版
《ネタバレ》 悪魔に取り憑かれた少女がスライムを吐いたり、逆さ蜘蛛歩きをするシーンは、あまりにも有名です。私もそのイメージしかなかったので、古典としてきちんと見ておくべきだなと思った次第です。イラクの遺跡発掘現場から始まり、実直で生真面目なシーンが続きます。話の展開は、遺跡から甦った悪魔が少女に憑依し、その悪魔を祓うべく、悪魔とキリスト教神父が、壮絶な精神戦を交わすというものです。ホラー作品としては、静かで、暗く、厳かで、格調高く、演出過多に陥っていないところがいいのですが、今の感覚で見ると、もう少しエンターテインメントとして、色気があったほうが楽しめるかな、とも思いました。ただ、サブリミナル的に入ってくる映像は、作品の厳かさを損なっていると感じました。ディレクターズカット版で追加されたようですが、余計でしたね。 [DVD(字幕)] 7点(2024-12-04 20:12:44) |
18. それでもボクはやってない
《ネタバレ》 痴漢冤罪の現状に基づくフィクション作品。日本の刑事裁判システムの歪みが痛いくらいに示され、2時間半という長さを全く感じないくらい、引っ張り込まれました。非常に興味深いけれど、見ていてあまり楽しくない映画です。でも、かなり衝撃的です。作品の真実性については、素人には判断しづらいですが、ネットなどで調べた範囲では、真実性に対する反論はあまりなさそうですね。脚色・演出はあれど、議論のきっかけになれば成功でしょう。さて、冤罪の最良かつ唯一の回避方法が、現場から離れる(逃げる)しかないという現実。それは結局、実際の痴漢が普通に取る行動なわけで、ということは、実際の痴漢は逃げるので逮捕される確率が低く、痴漢をしていないと自信を持って、その場に残った人は、反論は一切聞き入れられずに、逮捕・拘留されるため、有罪になる確率が高いという、結果的に、犯罪抑制型ではなく、犯罪推奨型・犯罪放置型のシステムが出来上がっています。警察、検察、裁判所のスクラムで、そうなっているようですが、わざとやっているというよりは、社会を良くすることに対して、ほぼ無関心で、目先の点数稼ぎが最大の関心事であるところが原因だと思われます。もはや痴漢被害者ですら、彼らにとっては、点数稼ぎの道具の一部と推測されます。まったくもって、わかりやすいのが、彼らの唯一の取り柄と推定されます。その唯一の利点を活用して、社会利益に還元すべく、彼らの最大関心事である点数稼ぎのベクトルと、社会が良くなるベクトル、この2つのベクトルの向きを、逆向きから同じ向きに変えてあげれば、社会が劇的に変わるのではないでしょうかっ?! [DVD(字幕)] 8点(2024-12-04 20:11:03)(良:1票) |
19. 勝手にしやがれ
《ネタバレ》 主人公の自動車泥棒が、追ってきた警官を銃殺し、指名手配されながらも、ほれた女を口説いて、というような話。序盤、主人公が車に乗って悪態ついてるところは、時代と国を隔てても、なんら変わらないものだと面白く見ていたのですが、銃を撃つシーンのカット割が非常に悪くて、誰が誰を撃ったのかもわからないくらい。雑な感じ。その後は、若干ねちっこい男と女のやりとりの雰囲気を楽しめるか楽しめないかという感じ。フランスで起こったヌーヴェルヴァーグの記念碑的作品と言われていますので、発表当時は、斬新だったのだと思いますが、半世紀経った今見ると、驚きがないですね。パリの街の雰囲気は悪くなかったです。 [DVD(字幕)] 5点(2024-12-04 20:06:56) |
20. 二十四の瞳(1954)
《ネタバレ》 小豆島の豊かな自然と、そこに住む人々の生活風景が、時間をかけて選び抜かれたであろう美しい構図で、フィルム状態が非常に悪い中にも、精細に写し撮られていて、思わずため息がこぼれます。しかし、長い作品です。二時間半という時間が非常に長く感じられました。前半、子供たちに、子供らしさを演じさせてしまっていて、本来子供が持っている自然な生き生きとした勢いが感じられず、これが延々と続くので、参ってしまうのです。後半、教え子達も戦争の波に巻き込まれていくのですが、淡々と巻き込まれていく様子が、淡々と描写されていく感じです。個々の悲劇に対する感情移入よりも、元教師から見た若干俯瞰的で、間接的な描写で、冷静に戦争の無情さを表現しているのは、よいと思います。後でキャストを確認したときに、天本英世や清川虹子、浦辺粂子など、後の妖怪級が何気なく出演していたことに気づき、それが一番の驚きでした。まったく気づかなかったので。 [DVD(字幕)] 5点(2024-12-04 20:04:55) |