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《ネタバレ》 戦前の東宝を代表する名匠・山本嘉次郎監督によるセミ・ドキュメンタリー・タッチの傑作。筋立て自体は東北地方の貧しい農家の少女いね(高峰秀子)が懸命に馬を育て上げ、遂に最後で軍馬に買い上げられる迄が淡々と綴られているだけの至ってシンプルなもの。が、山本監督による渾身のオリジナル脚本は愛弟子・黒澤明の協力を得て徹底的な調査の下に書かれただけあって、東北の四季を詩情豊かに掬い取って実に秀抜。これほど活き活きとした東北ズーズー弁が全編を貫く映画は恐らく本作が本邦初であろう。いかにもワザとらしいドラマティック的な展開が極力排除されているのも「綴方教室」を受け継ぐセミ・ドキュメンタリー・タッチの真骨頂。三村明を始めとする4人のカメラマンによる柔らかいロー・キィ・トーンのモノクロ撮影も美しく味わい深い。「かまくら」「なまはげ」「曲がり家」「かんじき」「雪降ろし」といった地方色溢れる要素が丹念に盛り込まれており、当時の平凡な日本人の暮らしぶりも窺い知ることができてとても興味深かった。場面的には何と言っても子馬出産を一家で見守るシーンが素晴らしい。実際の出産場面に出演者たちを立ち会わせただけに全員の表情が真に迫っている。汽車で旅立つ弟を見送るためにいねが裸馬の背に乗って追いかけ、窓越しに併走する場面のダイナミックさにも唸らされる。これだけの作品を(東宝のゴリ押しで)エノケン喜劇映画をも掛け持ちさせられながら完成させた山本嘉次郎のパワーに舌を巻きつつ文句ナシの10点を進呈! <追記>山本嘉次郎監督について補足。何より凄いのは商業作品では職人に徹することで娯楽作品を制作会社の注文通りにウェルメイドに仕立て上げる一方、芸術性に富む意欲作にも果敢に取り組むその姿勢。つまり、興行的にペイさせるだけの実績を挙げた上で、初めて自身の「撮りたい」モノへとチャレンジするというコト。愛弟子クロサワも1960年代までは確実に師匠のスタンスを踏襲していた。だから、私が個人的に高く評価する演出家は「娯楽性と芸術性を兼ね備えた」人物に偏る。そういうワケなので、悪いが私的にはゴダ●ルやタル○フスキーといった「おのれの撮りたい欲望に忠実」過ぎるゲージュツ派の監督はあまり高い評価は致しかねる。
【へちょちょ】さん [CS・衛星(字幕)] 10点(2005-07-08 19:59:23)(良:2票)
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