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《ネタバレ》 とても重厚で、細部までよく作りこまれた傑作だと思います。私はこの作品のマックスと特にヴィンセントのキャラクター、描きこみの深さが好きです。
私は初見ですぐにファンになりましたが、この作品を気に入るかは主人公のマックスにどこまで感情移入できるかがカギだと思いました。この映画の主人公は「夢がある」と言いながら何年もタクシーををだらだらと運転し続ける続けるマックスと、絵に描いたような冷酷無比で完璧な現実主義者の殺し屋、ヴィンセントの二人です。 ただ実質的な主人公はマックスでしょう。私は私自身や周りにマックスのような人間は沢山知っていますが、ヴィンセントのような人間はほぼ知りません(笑) 何となく毎日を生き、自らの矛盾に気づきながらも、気づかないフリをして生き続けるマックスは典型的な「普通の人間」ではないでしょうか。そんなマックスにどこか自分を重ねながら鑑賞した方は少なくないと思います。 これに対してヴィンセントはそんなマックスと彼の人生をけなし、自分の仕事道具の一つとして使おうとします。 ヴィンセントは「怪物」です。「普通の人間」が沢山生きる街、ロサンゼルスは「普通の人間」と無縁のヴィンセントにとっては忌み嫌う場所であり、劇中でも「来るたびにすぐ出ていきたくなる」と言っています。 またヴィンセントは「地下鉄で男が死んでいても発見に何時間もかかる街だ」とロサンゼルスが嫌いな理由を挙げていますがこれはまたヴィンセントの特異性を表しています。「普通の人間」でも人が死んで何時間も発見されないような街は嫌いでしょう。ただこの場合多くの人は人同士の繋がりの希薄さなどの理由を挙げると思います。 ヴィンセントは違います。彼は最初からビジネス以外で人同士の繋がりなどに重きを置くありえませんし、彼にとっては邪魔なものでしかありません。 彼がここで嫌うのは「普通の人間」の鈍感さ、もしくは低能さではないでしょうか。彼にとっては他人の死は大した問題ではないでしょうが「普通の人間」にとってはおおごとです。おおごとなのに気づきもしない「普通の人間」の集まり、ロサンゼルスは、ヴィンセントにとってきわめて大きな矛盾の塊で、ヴィンセントはそれを許せないのではないでしょうか。 終盤、そんなヴィンセントにマックスは敢然と立ち向かいます。私にはマックスVSヴィンセントの勧善懲悪ものにも見え、痛快なドラマになったようにも見えました。このまま勧善懲悪もので終わってしまえば8点にはなりませんでした。地下鉄でマックスと対決し、死期が近づくヴィンセントはマックスに言います。「地下鉄で男が死ぬ。誰も気づかない」事切れたヴィンセントはただ眠っているようにも見えます。 「怪物」のヴィンセントは忌み嫌ったロサンゼルスの一部になってしまいました。 【パンツァー・フォー】さん [DVD(字幕)] 8点(2015-05-24 00:22:20)
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