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実在した“殺し屋”を描いた映画であることは聞いていたが、想像よりもずっと重く、冷ややかな映画だった。
組織の殺し屋として生きた男を主人公にしたハードボイルド映画を想像していたけれど、映し出されたものは、呪われた「運命」と、己が密かに育んできた「狂気」に翻弄された一人の男の悲し過ぎる「慚愧」そのものだった。タイトルから受ける印象を遥かに凌駕する“冷たい”映画世界に打ちのめされた。 主人公が辿った人生とその末路は、組織に利用されいいように使われた故に見えるが、実際はそうではない。 組織の歯車に組み込まれたことは、ただのきっかけに過ぎない。 元来、この男が培ってきた内に秘めた「狂気」そのものが、すべての顛末を引き起こしたと言える。 そして、それを誰よりも理解しているのは、他の誰でもなくこの男自身であり、悲しい。 己の運命を呪い、己の狂気を呪い、それでも彼が生き続けられたのは、紛れもなく愛する家族があったから。 もし愛する人と出会うことなどなく、家族など端から存在しなければ、この男はもっと分かりやすく冷淡な“殺人者”として短い人生を全う出来たのかもしれない。 ただ運命はそれを許さず、“愛する者の悲しみ”という彼にとっての「最悪」を与えることによって、この男の“業”を際立たせた。 その「最悪」を何とか避けようともがき苦しむ終盤の主人公の姿は、あまりに悲愴感に溢れている。 それでも、この映画で描きつけられる「業苦」は、主人公にとって必要なものだったと思える。 何を置いても主演のマイケル・シャノンが素晴らしい。 殆ど出演作は観たことはなかったが、昨年の「マン・オブ・スティール」でのゾッド将軍役は記憶に新しいところ。 あまりに印象的な風貌は一度見たら忘れられないが、今作では、その風貌と体躯を存分に生かして、一目で異質感溢れる主人公を見事に演じ切っている。 そんな主人公の最愛の妻を演じるのはウィノナ・ライダー。 このところ時に驚くくらいの小さな役での出演が続いていたが、一時のスキャンダルに塗れた低迷期を抜け、女優としての円熟味を見せてくれていることは、中学生時代に自室にポスターを貼っていた長年のファンとしては嬉しい限りだ。 副題を含めた微妙なタイトルが、何となくB級感を醸し出しているが、良質な掘り出し物だと思う。 【鉄腕麗人】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2014-10-13 15:29:08)(良:1票)
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