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完成度と言う点においては黒澤作品でも屈指だと思います。エピソードがてんこ盛りでテーマが散乱してしまいそうな感じがしますが、構成のバランスがいいので気になりません。むしろ、それぞれのエピソードが一貫したヒューマニズムによってつなぎ止められ、お互いに共鳴し合っているところがとてもいいです。映画の中で語られる人と人とのふれあいそのままに、それぞれのエピソードが意識の中で絡み合っていく雰囲気が素晴らしい。原作も秀作ですが、本作はその原作に映画的な「躍動感」をうまく加えています。保本が狂女に襲われるシーンはもちろん、六助の臨終シーンという、人の死からさえも「躍動感」を受け取ることが出来るのは不思議。特筆すべきは、おとよが保本を看病するシーン。台詞もなく、テーマ曲と映像だけで詩的にあくまでも静かに表現しながらも、おとよの激しく揺れる心情が見事に盛り込まれています。まさに静の中に動を描いた黒澤映画の中でも選りすぐりの名シーンと言えるのではないでしょうか。三船の存在感も相変わらずで、ここまでくると凄まじいくらいです。結果的に本作は三船が出演した最後の黒澤作品となってしまいますが、黒澤監督が『赤ひげ』以前と以後に分けて評価されることが多いのは周知の事実。黒澤・三船の集大成とも言えるのが本作で、これ以後、黒澤監督は英雄を描き切れなかったという気がします。
【スロウボート】さん 9点(2004-02-05 22:12:27)(良:1票)
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