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《ネタバレ》 ヒースレジャーの怪演が評価されているが、そのほとんどは脚本によるところであって、ビジュアル面やら純粋な演技力で言えば1作目のジャック・ニコルソンには及んでいないような気がする。にもかかわらず本作のジョーカーが見るものに強烈な印象を与えるのは「狂気」の種類がニコルソン版ジョーカーとは全く違うからである、ニコルソンはただ単に自らの欲望に忠実に暴れまわっており、そこにはピカレスク・ロマンとまでは言わないが、ある種の「美学」が感じられ、エンタテイメントとしての爽快感すら存在したのだが、今回のジョーカーは狂気にあまりにも誠実であり、理性的ですらある、そもそもヒース版ジョーカーはデントの一件を見てもわかるように自分(だけ)を「特別」な人間として見ていない、つまりは人間と言うものは全て自分と同じ「狂気」を持っていると考えている、だとすれば彼の行為は全ての人間の(狂気への)開放であり、彼にとっては自己犠牲を伴った奉仕的な行動といえるのかもしれない、そういった考えは理解できないことはない、(もちろん同意はしないが)しかしそれはエンターテイメントではない、だから彼はひたすら不快で怖いのだ、彼を殺さないバッドマンにイライラする観客はまんまとジョーカーの策略に陥っているわけであり、そのことを理解することもまた不快である。同じような狂気を扱っていてもレクター博士には美学があったし、「バトルロワイアル」にはモラルを突き抜けたユーモアがあったが、この作品には何も無い、言うなれば「無償の悪意」を観客に投げかけてくる、金やら愛やら命やらといった具体的な欲求ではなく心の奥底に潜む「純粋な悪」の部分を直接刺激してくるのだ、誰もレクター博士になることはできない、しかしジョーカーにならなる(なってしまう)ことができる、だからこの作品は怖いのだと思う。
【るね】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-08-24 02:53:19)(良:8票)
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